(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2019145233
(43)【公開日】20190829
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04537 20160101AFI20190802BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20190802BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20190802BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20190802BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20190802BHJP
   B60L 50/40 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 50/50 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 53/00 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 55/00 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 58/00 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20190802BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20190802BHJP
【FI】
   !H01M8/04537
   !H01M8/04858
   !H01M8/043
   !H01M8/04 Z
   !H01M8/00 A
   !H01M8/00 Z
   !B60L11/18 G
   !B60L3/00 S
   !B60L7/14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】2018025879
(22)【出願日】20180216
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【住所又は居所】東京都港区南青山二丁目1番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】高本 真伍
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】二ツ寺 暁郎
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】松井 旭紘
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】尾島 邦明
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】中川 拓人
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】白坂 卓也
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】東谷 幸祐
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
【テーマコード(参考)】
5H125
5H127
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC07
5H125AC12
5H125BC06
5H125BC14
5H125BD02
5H125CB03
5H127AB04
5H127AB29
5H127AC01
5H127AC04
5H127AC05
5H127AC15
5H127BA02
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DA07
5H127DB99
5H127DC90
5H127DC96
(57)【要約】
【課題】電動機の電力の回生時に、最小限の電力消費で蓄電部への過充電状態を抑制する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム10は、FC12と、TRC26と、酸化剤ガス供給装置20と、バッテリ16と、TRC26の回生時の電力を酸化剤ガス供給装置20で消費させる電力消費制御を実施可能なECU24と、を備える。ECU24は、バッテリ16の充電制限値Climに対し充電マージン72を設定する構成であり、且つ電力消費制御の開始後の充電マージン72は、電力消費制御の実施前の充電マージン72よりも小さく設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
電力の供給により回転駆動する一方で、回転に伴い電力を回生する電動機と、
前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池、前記電動機及び前記酸化剤ガス供給装置に電気的に接続され、電力を充放電可能な蓄電部と、
前記電動機、前記酸化剤ガス供給装置及び前記蓄電部の電力配分を制御し、且つ前記電動機の回生時の電力を前記酸化剤ガス供給装置で消費させる電力消費制御を実施可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、前記蓄電部の充電制限値に対し充電マージンを設定する構成であり、且つ前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンは、前記電力消費制御の実施前の前記充電マージンよりも小さく設定する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記電力消費制御中にシステムの回生時の電力が変化する状態変化時に、前記充電マージンを前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンよりも大きくする
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、
前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンとして前記酸化剤ガス供給装置の定常動作に対応した電力幅に設定する一方で、
前記状態変化時の前記充電マージンとして、前記電力消費制御の非実施時において前記酸化剤ガス供給装置の駆動状態が変化する過渡動作時の応答性能に対応した電力幅に変化させる
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
当該燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載される
ことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、電動機及びバッテリを有する構成において、バッテリの充電状態を制御する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、特許文献1に開示されているように、燃料電池とモータ(電動機)の間にバッテリ(蓄電部)を並列接続し、燃料電池の発電電力及びモータの回生電力をバッテリに充電する一方、発電電力の不足分をバッテリから供給している。また、燃料電池とバッテリの間には、エアポンプ等の補機が並列接続されている。補機には、燃料電池から電力が供給される他に、発電電力の不足分がバッテリから供給される。
【0003】
この種の燃料電池システムは、補機の電力の過渡変動に対応するため、バッテリの充放電制限範囲の制限値手前にそれぞれマージン(充電マージン、放電マージン)を設定している。例えば、バッテリは、充電マージンによりエアポンプの消費電力の過渡変動(定常時の推定電力に対する実電力のあばれ)を吸収し、エアポンプから回生電力が供給されても過充電状態から保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−152280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、この種の燃料電池システムは、モータの回生電力を回生する際に、バッテリが充電しきれない余分な電力を消費するために電力消費制御を行っている。電力消費制御では、例えば、エアポンプの回転速度を増加させることで、電力消費量を増加させる。
【0006】
ところで、電力消費制御時に、上述のようにバッテリに充電マージンが設定されていると、充放電制限範囲の制限値まで余裕があるにもかかわらず、回生時の電力がエアポンプに回されて電力消費されることになる。つまり、電力消費制御として必要とされる電力を超えて電力消費動作を行い、燃費悪化・騒音・エアポンプの過熱という不都合が生じる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、制御の状態変化に応じてマージンを変更することにより、電動機の電力の回生時に、必要最小限の電力消費でバッテリを過充電状態から保護する燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、電力の供給により回転駆動する一方で、回転に伴い電力を回生する電動機と、前記燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池、前記電動機及び前記酸化剤ガス供給装置に電気的に接続され、電力を充放電可能な蓄電部と、前記電動機、前記酸化剤ガス供給装置及び前記蓄電部の電力配分を制御し、且つ前記電動機の回生時の電力を前記酸化剤ガス供給装置で消費させる電力消費制御を実施可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記蓄電部の充電制限値に対し充電マージンを設定する構成であり、且つ前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンは、前記電力消費制御の実施前の前記充電マージンよりも小さく設定することを特徴とする。
【0009】
上記によれば、燃料電池システムは、電力消費制御の開始後の充電マージンが電力消費制御の実施前の充電マージンよりも小さいという簡単な構成によって、電動機の回生時にバッテリを過充電状態から保護することができる。また、酸化剤ガス供給装置は、電力消費制御時に消費する電力を減らすことになり、酸化剤ガス供給装置の過熱を抑制することが可能となる。すなわち、燃料電池システムは、システム全体の電気エネルギを有効に活用することができ、安定的な駆動を実現することができる。
【0010】
また、前記制御部は、前記電力消費制御中にシステムの回生時の電力が変化する状態変化時に、前記充電マージンを前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンよりも大きくすることが好ましい。
【0011】
燃料電池システムは、システムの回生時の電力が変化する状態変化時に、充電マージンを電力消費制御の開始後の充電マージンよりも大きくすることで、エアポンプの回転数を減少するための消費電力の過渡変動を吸収する。
【0012】
さらに、前記制御部は、前記電力消費制御の開始後の前記充電マージンとして前記酸化剤ガス供給装置の定常動作に対応した電力幅に設定する一方で、前記状態変化時の前記充電マージンとして、前記電力消費制御の非実施時において前記酸化剤ガス供給装置の駆動状態が変化する過渡動作時の応答性能に対応した電力幅に変化させる構成であるとよい。
【0013】
燃料電池システムは、酸化剤ガス供給装置の定常動作に対応した電力幅に設定することで、充電マージンを充分に小さくしつつ、酸化剤ガス供給装置の定常動作時の電力変化を許容することができる。さらに、状態変化時には、充電マージンを、酸化剤ガス供給装置の駆動状態が変化する過渡動作時の応答性能に対応した電力幅に変化させることで、蓄電部への過充電状態の保護と酸化剤ガス供給装置の過熱抑制を最適な状態で両立させることができる。
【0014】
またさらに、当該燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載される構成とすることができる。
【0015】
燃料電池車両に搭載された燃料電池システムは、燃料電池車両の駆動時の電力使用を効率化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料電池システムは、制御の状態変化に応じてマージンを変更することにより、電動機の電力の回生時に、バッテリを過充電状態から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】エアポンプのAP推定電力とAP実電力の関係を示すグラフである。
【図3】通常走行時の電力の配分を例示する説明図である。
【図4】回生時の電力の配分を例示する説明図である。
【図5】マージンの設定を説明する説明図である。
【図6】ECUの電力管理における機能部を示すブロック図である。
【図7】燃料電池システムのマージンを設定する際の処理を示すフローチャートである。
【図8】回生時の電力の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム10は、図1に示すように、燃料電池12(以下、FC12ともいう)を用いて電力供給を行うシステムである。例えば、FC12の発電に伴う電力を負荷14やバッテリ16(蓄電部)に電力を供給し、また負荷14の回生電力をバッテリ16に供給するように構成されている。この燃料電池システム10は、燃料電池車両18(以下、単に車両18という)に搭載される。
【0020】
燃料電池システム10のFC12は、スタック構造に構成され、その内部において水素と酸素を反応させて、反応時の電力を外部に出力する。このため、燃料電池システム10は、FC12に水素ガスを供給する図示しない水素ガス供給装置と、FC12に酸化剤ガスであるエアを供給する酸化剤ガス供給装置20と、を備える。酸化剤ガス供給装置20は、図示しない酸化剤ガス供給路と、酸化剤ガス供給路の途中位置に配置されたエアポンプ22と、を含み、車両18の外部からエアを取り込んでFC12に供給する。
【0021】
また、燃料電池システム10は、車両18の電力管理(エネルギマネージメント)を行うECU24(制御部:Erectronic Control Unit)を備える。ECU24は、図示しないプロセッサ、メモリ及び入出力インターフェースを有するコンピュータにより構成される。ECU24は、1つのECUで構成されてもよく、固有の機能を有するECUを複数組み合わせて構成されてもよい。
【0022】
燃料電池システム10は、FC12と、負荷14であるトラクションモータ26(電動機:以下、TRC26という)と、を電気的に接続している。FC12とTRC26の間には、FC12から順に、FCコンタクタ28、昇圧コンバータ30(FCVCU30という)及びインバータ32(MOTPDU32という)が直列に接続されている。
【0023】
また、TRC26には、BATコンタクタ34及び昇降圧コンバータ36(BATVCU36ともいう)を介してバッテリ16が接続されている。FCVCU30とBATVCU36の各々は、2次側の接点38でTRC26に対し並列に接続されている。さらにBATVCU36の1次側には、負荷14である複数の補機40が並列に接続される。補機40としては、例えば上記のエアポンプ22、エアコンディショナ42(A/C42という)、ヒータ44及び降圧コンバータ46(DC/DC46という)等があげられる。
【0024】
FCコンタクタ28は、ECU24に接続され、ECU24の制御下にFC12とFCVCU30の1次側との接続及び遮断を切り替える。
【0025】
FCVCU30は、チョッパ回路を備える電圧調整装置(Voltage Control Unit)である。FCVCU30は、ECU24に接続され、ECU24の制御下に1次側の電圧を昇圧して2次側に印加する。
【0026】
MOTPDU32は3相ブリッジ型に構成され、接点38(FCVCU30及びBATVCU36)側の直流電圧を交流電圧に変換し、ECU24から出力される目標回転数の制御信号に応じてTRC26の駆動を制御する。また、MOTPDU32は、TRC26の回生時に順変換のコンバータとして機能し、TRC26で発生する交流電圧を直流電圧に変換する。
【0027】
TRC26は、MOTPDU32の3相交流電力により回転駆動して、この回転力を図示しないトランスミッション等を介して車輪に伝達することにより、車両18を推進させる。また車両18の減速時等において、TRC26は、回生電力をバッテリ16や補機40に出力する発電機となる。TRC26には、エンコーダ48が設けられ、エンコーダ48はTRC26の回転数を検出し、回転数信号をECU24に出力する。
【0028】
バッテリ16は、電力を充放電可能に構成され、力行時に負荷14の実消費電力に対するFC12の発電量の不足分を放電し、回生時に実消費電力に対するFC12や負荷14の発電量の超過分を充電する。バッテリ16の充電状態(SOC:state of charge)は、ECU24により監視される。バッテリ16には、温度センサ50が設けられ、この温度センサ50は、バッテリ16の温度状態を検出してECU24に出力する。
【0029】
BATコンタクタ34は、ECU24に接続され、ECU24の制御下にバッテリ16とBATVCU36の1次側との接続及び遮断を切り替える。
【0030】
BATVCU36は、FCVCU30と同様に、チョッパ回路を備える電圧調整装置に構成されている。BATVCU36は、ECU24に接続され、ECU24の制御下に、力行時には1次側の電圧を昇圧して2次側に印加し、回生時には2次側の電圧を降圧して1次側に印加する。
【0031】
補機40のうちエアポンプ22は、エアポンプPDU52(A/PPDU52という)を介してBATVCU36の1次側に接続されている。A/PPDU52は3相ブリッジ型のインバータを備え、1次側の直流電圧を交流電圧に変換し、ECU24から出力される目標回転数の制御信号に応じてエアポンプ22の駆動制御を行う。また、ポンプ回転数センサ54は、エアポンプ22の回転数を検出し、回転数信号をECU24に出力する。
【0032】
ECU24は、メモリに記憶されたプログラムを実行することにより、燃料電池システム10全体の動作を制御する。この際、ECU24は、バッテリ16の充放電が後述する充放電制限範囲60(図3参照)を超えないように、BATVCU36の制御を行う。さらに本実施形態に係る燃料電池システム10は、バッテリ16の充放電制限範囲60に対しマージン70を設定して、充放電制限範囲60を確実に超えないようにしている。
【0033】
以下、燃料電池システム10の充放電制限範囲60及びマージン70の意義について具体的に説明する。燃料電池システム10は、基本的に、FC12の出力により車両18(TRC26、エアポンプ22を含む補機40等)の電力を供給する。しかしながら、図2に示すように、供給電力や消費電力の過渡変動時にはFC12の電力が過不足となる(図2は、FC12の出力が低下した場合、エアポンプ22の電力変化を示している)。バッテリ16は、ECU24の制御下に、この過不足分の電力を充放電する。
【0034】
ECU24は、電力管理の制御において、車両18全体で消費する電力である消費要求電力を演算し、この消費要求電力に応じてFC12の発電量(目標電力)を演算する。また、目標電力に応じたエアの流量と圧力比(エアポンプ22の吸入側圧力と吐出側圧力の比)を実現するために、エアポンプ22に必要な電力も演算する。この電力を「AP推定電力」という。AP推定電力は、例えば、ECU24において流量及び圧力比を入力とする電力算出マップから求められる。
【0035】
AP推定電力は、図2中の2点鎖線で示すように、FC12が安定的な発電量で発電を行う安定発電時には、エアポンプ22で実際に消費されるAP実電力(図2中の太線参照)と概ね一致する。AP実電力とは、エアポンプ22において微小時間に振幅する電力(交流)の実行値である(図2中のAP定常誤差を参照)。
【0036】
そして、FC12の発電量が低下する発電低下時には、エアポンプ22の回転速度が先に低下するため、エアポンプ22から回生電力が得られる。つまり、エアポンプ22は、AP推定電力よりもAP実電力のほうが小さくなる過渡動作を起こして、この際の回生電力をバッテリ16に充電することができる。逆に、FC12の発電量が上昇する場合は、エアポンプ22の回転速度が先に上昇するため、エアポンプ22のAP推定電力よりもAP実電力の方が大きくなる(図2では不図示)。本明細書では、上記のようなエアポンプ22の過渡動作におけるAP実電力とAP推定電力との差(=AP実電力−AP推定電力)を「ΔAP」という。
【0037】
そして、ΔAPがマイナスに大きくなる過渡変動では、エアポンプ22の回生電力に加えて、FC12の超過した電力がバッテリ16に充電される。一方、ΔAPがプラスに大きくなる過渡変動では、エアポンプ22の電力消費の上昇とFC12の発電量の不足とで、バッテリ16の放電が行われる。
【0038】
またバッテリ16は、図3に示すように、その仕様(バッテリ端電力)に基づき、過充電となることを禁止する充電制限値Clim、及び過放電となることを禁止する放電制限値Dlimを有している。燃料電池システム10は、充電制限値Climと放電制限値Dlimを超える範囲でのバッテリ16の使用を禁止しており、充電制限値Climと放電制限値Dlimの間である充放電制限範囲60においてバッテリ16を使用する。
【0039】
なお、充放電制限範囲60は、バッテリ16のSOCが大きいほど放電可能な電力幅が大きくなり、SOCが小さいほど充電できる電力幅が大きくなる。図3中は、バッテリ16のSOCが50%の電力配分例を示しており、充放電制限範囲60の中間点が充放電ゼロとなっている。さらに、充放電制限範囲60は、バッテリ16の温度が常温(例えば、0℃以上)であれば全体の電力幅が大きくなり、バッテリ16の温度が低温(例えば、0℃より小さい)であれば全体の電力幅が小さくなるように設定される。
【0040】
そして、本実施形態に係る燃料電池システム10では、バッテリ16の充放電制限範囲60に対しマージン70を設定し、バッテリ16の電力が充放電制限範囲60に達することを防止する。このマージン70としては、充電制限値Climの手前に設定される充電マージン72と、放電制限値Dlimの手前に設定される放電マージン74と、を含む。
【0041】
充電マージン72は、例えば、車両18の加減速度が小さい通常走行時において、エアポンプ22の回生(マイナス)側の過渡変動であるΔAPが超えない回生電力幅RWに設定され、エアポンプ22から回生される電力を吸収する(図2も参照)。以下、通常走行時の充電マージン72を通常充電マージン72aともいう。一方、放電マージン74は、通常走行時において、エアポンプ22の駆動(プラス)側の過渡変動であるΔAPが超えない駆動電力幅DWに設定され、エアポンプ22の急な電力消費を許容する。以下、通常走行時の放電マージン74を通常放電マージン74aともいう。
【0042】
換言すれば、マージン70(充電マージン72、放電マージン74)の電力は、エアポンプ22の過渡変動分に割り当てられ、エアポンプ22の回生時及び駆動時のAP実電力のあばれ(オーバーシュート等)を吸収して、バッテリ16の過充電及び過放電を防止する。一方、充電マージン72と放電マージン74以外の範囲(以下、EM制御範囲62という)の電力は、TRC26、エアポンプ22以外の補機40の消費電力の過渡変動分に割り当てられる。
【0043】
燃料電池システム10のECU24は、上記の充電マージン72、放電マージン74及びEM制御範囲62を管理して、バッテリ16の充放電を制御する。すなわち車両18の通常走行時には、エアポンプ22のAP推定電力及び車両18の消費要求電力を演算し、このAP推定電力と消費要求電力に基づく電力を、FC12単体の出力電力(発電量)と、バッテリ16の放電電力とで賄う。
【0044】
具体的には、FC12の出力電力80に対し、車両18の消費電力90(TRC26の消費電力(TRC消費電力91)、エアポンプ22以外の補機40の消費電力(補機等消費電力92)、エアポンプ22のAP実電力93の合計)を等しくする。
【0045】
これにより、バッテリ16の電力は、車両18の状態が変化した際の過渡変動分をアシスト量として充放電する。例えば、EM制御範囲62のうち放電側の範囲の電力は、TRC消費電力91及び補機等消費電力92(つまり、エアポンプ22以外の要素)の駆動(プラス)側の過渡変動94aに応じたアシスト量として使用される。一方、EM制御範囲62のうち充電側の範囲の電力は、TRC消費電力91及び補機等消費電力92(つまり、エアポンプ22以外)の回生(マイナス)側の過渡変動94bに応じた充電許容量として使用される。そしてECU24は、車両18の走行中に、バッテリ16のアシスト量、充電許容量がEM制御範囲62内に収まるように、各機器の電力を制御する。
【0046】
また、車両18の通常走行時は、エアポンプ22の過渡変動であるΔAPを、バッテリ16のマージン70によって許容する。充電マージン72は、回生時過渡変動95a(マイナスのΔAP)を吸収することで、バッテリ16の充電量が充電制限値Climを超えることを防止する。逆に放電マージン74は、駆動時過渡変動95b(プラスのΔAP)を吸収することで、バッテリ16の放電量が放電制限値Dlimを超えることを防止する。
【0047】
そして、燃料電池システム10は、図4に示すように、車両18の走行中の減速時等において、TRC26が回生する電力(TRC回生電力84)をバッテリ16に充電する。つまり車両18の減速時には、FC12単体の出力電力80に、TRC回生電力84が加わって、バッテリ16又は補機40に電力を供給する。従ってバッテリ16に多くの電力が回されることになる。そのため、燃料電池システム10は、TRC26の回生時に、必要に応じて、エアポンプ22を含む補機40等に電力を誘導して、余分な電力を消費する電力消費制御(廃電制御)を実施する。
【0048】
この電力消費制御では、優先的にエアポンプ22の回転数を上昇させてエアポンプ22において電力を消費する。また電力消費制御において、酸化剤ガス供給装置20は、エアポンプ22により供給量が増加したエアをFC12に流動させずに、酸化剤ガス流路を介して排出する。
【0049】
ECU24は、電力消費制御の実施を判断し、燃料電池システム10の全体の回生電力82(出力電力80やTRC回生電力84)を、バッテリ16や補機40に適宜配分する。特に、ECU24は、電力消費制御の実施前における通常走行時に設定していた充電マージン72を、電力消費制御の開始後に小さくする。以下、この充電マージン72の設定制御について説明する。
【0050】
上述したように、バッテリ16の充電マージン72は、エアポンプ22の回生(マイナス)側の過渡変動であるΔAPを吸収するために設定される。ここで、図3中の通常充電マージン72aが電力消費制御でも継続的に設定されている場合を考慮する。電力消費制御は、TRC26の回生時に、バッテリ16への充電を抑えて燃料電池システム10全体の余分な電力を消費する処理である。そのため、TRC26の回生時に、通常充電マージン72aがそのまま設定されていると、バッテリ16に充電される電力が通常充電マージン72aの分だけ減って、電力消費制御に回される(エアポンプ22で消費される)ことになる。
【0051】
一方、エアポンプ22は、電力消費制御において回転速度の増加によって電力を消費するので、エアポンプ22からバッテリ16に電力を回生することがない。つまり、電力消費制御時に通常充電マージン72aを設定していても、この通常充電マージン72aは使用されないばかりか、TRC26からバッテリ16に回生される電力(未消費電力)を減らすことになる。
【0052】
以上のことから、本実施形態に係る燃料電池システム10は、図4及び図5に示すように、電力消費制御時に、通常充電マージン72aよりも小さな充電マージン72(以下、廃電充電マージン72bという)に持ち替える構成としている。これにより、TRC26の回生時に、バッテリ16に向かう電力を増やして、より多くの充電を行うことを可能とする。
【0053】
具体的には、通常充電マージン72aがエアポンプ22から回生電力を吸収可能な回生電力幅RWであるのに対し、廃電充電マージン72bは、エアポンプ22の定常動作における微小時間振幅を吸収する定常電力幅SWで構成される。定常電力幅SWは、回生電力幅RWに比べて充分(微小時間に振幅する交流分を吸収する程度)に小さな電力量である。
【0054】
ECU24は、電力消費制御の開始時に、通常充電マージン72aから上記の廃電充電マージン72bに設定し直すことで、回生時の電力をバッテリ16に多量に受け取り可能とする。なお、ECU24は、電力消費制御時に、廃電充電マージン72b(定常電力幅SW)をなくして、バッテリ16の充電制限値Climまで充電モータ回生可能としてもよい。
【0055】
さらに、燃料電池システム10は、電力消費制御中に、燃料電池システム10の廃電要求(TRC回生電力84を含むシステムの回生電力82)が変化する状態変化において、変化時のオーバーシュートを吸収するように構成している。例えば、回生電力82が減少する電力消費制御の状態変化としては、車両18のユーザにより減速中に弱くアクセル操作がなされて減速が弱まった場合、加減速度が一定に保たれつつ車両18が登り勾配を走行する場合等があげられる。
【0056】
詳細には、廃電充電マージン72bは、電力消費制御の開始後や安定期における安定期マージン72bxと、電力消費制御の状態変化時の状態変化マージン72byと、を有する。安定期マージン72bxの電力幅は、上述の定常電力幅SWである。状態変化マージン72byは、例えば、回生信号値(アクセル開度)に基づき算出され、定常電力幅SWよりも大きな電力幅である。また状態変化マージン72byは、状態変化の開始時から時間経過に伴い電力幅を漸増させ、その後に漸減させる変動電力幅FWとなっている。漸増から漸減への折り返し時間は、状態変化の量(例えば、TRC回生電力84の変化量)等により適宜算出するとよく、また漸増期間のほうが漸減期間よりも短いとよい。
【0057】
回生電力82が変化する状態変化時には、エアポンプ22の回転速度も変化することで、その過渡変動に伴いオーバーシュートが生じる。しかしながらECU24は、算出した状態変化マージン72byを適用することで、エアポンプ22の一時的な過渡変動を状態変化マージン72byにより吸収して、電力がバッテリ16の充電制限値Climを超えることを抑制することができる。
【0058】
また、ECU24は、通常走行時から電力消費制御に移行した際に、充電マージン72に合わせて放電マージン74も持ち替える構成であるとよい。具体的には、電力消費制御時の放電マージン74(以下、廃電放電マージン74bという)の電力幅は、通常放電マージン74aの駆動電力幅DWよりも大きく設定される。例えば、ECU24は、電力消費制御の安定期において、EM制御範囲62の電力幅が変わらないように、廃電充電マージン72bのマイナスの変化幅に合わせて、廃電放電マージン74b(安定期マージン74bx)のプラスの変化幅を設定する。
【0059】
これによりバッテリ16は、エアポンプ22に対する応答性(廃電応答性)が上がり、エアポンプ22の駆動側の過渡変動時(駆動時過渡変動95b)等に放電を直ちに行うことができる。なお、TRC26の回生時には、ユーザがブレーキ操作を行う、車両18が降り勾配を走行する等して、回生電力82が増加する状態変化の場合もある。この状態変化時に、廃電放電マージン74bは、廃電充電マージン72bの状態変化マージン72byに合わせて、電力幅が漸減し、さらに折り返し時間の経過後に漸増する状態変化マージン74byを設定する。従って、エアポンプ22の回転速度が上昇する過渡変動時にも、バッテリ16の廃電充電マージン72b(状態変化マージン72by)及び廃電放電マージン74b(状態変化マージン74by)により、エアポンプ22のあばれ分を吸収することができる。
【0060】
上記の処理を実現するため図6に示すように、ECU24の内部には、AP推定電力算出部100、消費要求電力算出部102、FC発電量算出部103、充放電制限範囲算出部104、マージン算出部106、判定部108、マージン設定部110、AP制限値算出部112及びAP駆動部114が構築される。
【0061】
AP推定電力算出部100は、エアポンプ22の流量及びエアポンプ22の圧力比に基づき、エアポンプ22のAP推定電力を算出する。消費要求電力算出部102は、燃料電池システム10に要求される消費要求電力を算出する。FC発電量算出部103は、算出された消費要求電力に基づきFC12の発電量である目標電力を算出する。充放電制限範囲算出部104は、バッテリ16のSOC及び温度に基づき、バッテリ端電力を制限する充電制限値Clim及び放電制限値Dlimを算出する。
【0062】
また、マージン算出部106は、充放電制限範囲算出部104が算出した充電制限値Clim及び放電制限値Dlimを用いて、エアポンプ22のマージン70(充電マージン72及び放電マージン74)を算出する。マージン70の算出では、例えば、メモリに予め記憶されている図示しない対応マップから充電制限値Clim及び放電制限値Dlimに対応するマージンを抽出する。そして、まず基本的な通常走行時の通常充電マージン72a及び通常放電マージン74aを設定する。
【0063】
さらに、後述する判定部108により電力消費制御の実施が判定された場合、マージン算出部106は、廃電充電マージン72b及び廃電放電マージン74bを算出し直す。上述したように、廃電充電マージン72bには、定常電力幅SWの安定期マージン72bxの他に、電力消費制御中の状態変化に対応する状態変化マージン72byがある。このため、マージン算出部106は、ECU24に入力される回生信号値(図示しないアクセル開度センサのアクセル開度)とECU24内のタイマとを監視し、安定期マージン72bx又は状態変化マージン72byの算出を行う。またこの際、マージン算出部106は、充電マージン72に連動するように放電マージン74も算出する。
【0064】
判定部108は、車両18から送信される回生信号値やバッテリ16のSOC等に基づき、TRC26の回生時に電力消費制御を行うか否かを判定する。例えば、判定部108は、車両18のユーザにより減速操作されて回生信号値が所定値以下となり、且つバッテリ16のSOCが多い場合に、バッテリ16の電力消費制御の実施を判定する。
【0065】
マージン設定部110は、判定部108の判定結果に応じて、現在適用すべきマージン70を設定する。つまり、電力消費制御を実施しない場合には、基本的なマージン70である通常充電マージン72a及び通常放電マージン74aを設定する。その一方で、電力消費制御を実施する場合には、廃電充電マージン72b(安定期マージン72bx、状態変化マージン72by)と、廃電放電マージン74b(安定期マージン74bx、状態変化マージン74by)とを設定する。
【0066】
AP制限値算出部112は、マージン設定部110が設定したマージン70、及びAP推定電力算出部100のAP推定電力に基づき、エアポンプ22におけるAP電力制限120(図8参照)を算出する。AP電力制限120は、エアポンプ22が駆動する際にAP実電力を制限するために使用され、電力上限値122と電力下限値124とが含まれる。
【0067】
AP駆動部114は、FC12の発電制御部(不図示)にて算出されるエアポンプ22の回転速度指令に基づき、AP電力制限120(電力上限値122と電力下限値124の間)に収まるようにAP実電力を算出する。そして、算出結果に応じた制御信号をA/PPDU52に出力して、エアポンプ22を回転駆動させる。
【0068】
本実施形態に係る燃料電池システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その作用効果について説明する。
【0069】
燃料電池システム10のECU24は、車両18の動作時に、電力管理の制御処理を行う。すなわち、AP推定電力算出部100、消費要求電力算出部102、充放電制限範囲算出部104により、AP推定電力、消費要求電力、バッテリ16の充電制限値Clim及び放電制限値Dlimをそれぞれ算出する。また、ECU24のFC発電量算出部103は、算出された消費要求電力に基づきFC12の発電量を算出する。そして、ECU24は、バッテリ16のマージン70の設定において、図7に示す処理フローを実施する。
【0070】
この場合、ECU24のマージン算出部106は、まず充電制限値Clim及び放電制限値Dlimに対応する基本のマージン70を算出する(ステップS1)。すなわち、燃料電池システム10は、車両18の通常走行時を基準としており、エアポンプ22の回生時や駆動時の過渡変動におけるΔAPを吸収可能な通常充電マージン72a及び通常放電マージン74aをそれぞれ算出する。
【0071】
次に、ECU24の判定部108は、ECU24に送信される回生信号値やバッテリ16のSOC等に基づき、電力消費制御を行うか否かを判定する(ステップS2)。例えば、回生信号値が大きい場合には、TRC26の回生電力が大きくなるため、電力消費制御を実施する。燃料電池システム10は、電力消費制御の実施において、エアポンプ22を最も優先的に駆動して、エアポンプ22で多くの電力を消費する。
【0072】
ECU24のマージン算出部106は、判定部108により電力消費制御の実施が判定されると(ステップS2:YES)、電力消費制御時の廃電充電マージン72b(及び廃電放電マージン74b)を算出する(ステップS3)。上述したように、廃電充電マージン72bは、安定期マージン72bxと状態変化マージン72byとがあり、燃料電池システム10は、回生信号値の変化に応じてマージン70の電力幅を変化させる。従って、電力消費制御では、マージン算出部106により廃電充電マージン72b及び廃電放電マージン74bを処理フローの実施毎に算出し直すことで、時間軸上で電力幅が適切に変化するマージン70が得られる。
【0073】
ステップS3の後、ECU24のマージン設定部110は、通常充電マージン72a及び通常放電マージン74aから、算出された廃電充電マージン72b及び廃電放電マージン74bへの持ち替えを行う(ステップS4)。そして、持ち替えた廃電充電マージン72b及び廃電放電マージン74bをAP制限値算出部112に出力する。
【0074】
AP制限値算出部112は、マージン設定部110により設定されたマージン70と、予め算出されたAP推定電力に基づき、エアポンプ22のAP電力制限120(電力上限値122及び電力下限値124)を算出する(ステップS5)。すなわち、廃電充電マージン72bが設定された場合は、廃電充電マージン72bに対応して電力上限値122及び電力下限値124を徐々に上昇させるAP電力制限120を算出する。これにより、AP駆動部114は、算出されたAP電力制限120の範囲内でエアポンプ22の回転速度を制御する(上昇させる)。
【0075】
また、ステップS2において判定部108により電力消費制御の非実施が判定されると(ステップS2:NO)、マージン設定部110は、マージン70を持ち替えずに、算出されている通常充電マージン72a及び通常放電マージン74aを設定する(ステップS6)。そして、通常充電マージン72aが設定された場合、ステップS5において、AP制限値算出部112は、通常充電マージン72aに対応したAP電力制限120を算出する。これによりAP駆動部114は、算出されたAP電力制限120の範囲内でエアポンプ22の回転速度を制御する(FC12の発電量に合わせて概ね一定とする)。
【0076】
このように本実施形態に係るECU24は、通常走行時に設定しているバッテリ16のマージン70を、電力消費制御の実施時に持ち替える処理を行う。次に、本発明の理解をより深めるため、図8のタイムチャートを参照して、燃料電池システム10の電力消費制御における電力の振る舞いについて、一例を説明する。なお、このタイムチャートは、FC12が所定の発電量で継続的に発電し、またバッテリ16のSOCが概ね50%であることを前提としている。
【0077】
車両18は、ユーザのアクセル操作に基づき、図8の時点t1まで通常走行を実施している(アクセル開度が任意量で一定に保たれている)。そのため、TRC26は、アクセル開度に応じた電力を消費して回転駆動を行っており、この際の回生信号値はゼロとなっている。すなわち、燃料電池システム10は、システムから電力を出力した状態であり(図8中において燃料電池システム10全体の電力がゼロ境界より上の駆動側にあり)、また補機40等も駆動により電力を消費している。
【0078】
この時点t1までの期間において、ECU24は、上述した処理フローにより、通常走行時のマージン70を設定する。つまり、充電制限値Climに対し通常充電マージン72aを設定すると共に、放電制限値Dlimに対し通常放電マージン74aを設定することで、バッテリ16は、エアポンプ22の過渡変動であるΔAPを吸収する。またECU24(AP制限値算出部112)は、通常充電マージン72aとAP推定電力からAP電力制限120を算出し、エアポンプ22の駆動制御を行う。これによりエアポンプ22は、AP推定電力に概ね近似したAP実電力で駆動する。
【0079】
そして、時点t1でユーザの操作下にアクセル開度がなくなると、車両18は減速を開始する。この際、TRC26は、発電機として駆動してTRC回生電力84を生じ、このTRC回生電力84を燃料電池システム10に供給する。つまり、TRC26は、電力消費(駆動)から電力供給源(回生)に移行し、システム全体も電力を出力する状態から電力を受け取る状態に移行する(燃料電池システム全体の電力がゼロ境界より下の回生側になる)。
【0080】
ECU24は、この回生時に、電力消費制御の実施を判定すると廃電充電マージン72b(安定期マージン72bx)を算出し、通常充電マージン72aから廃電充電マージン72bにマージン70を設定し直す。同様に通常放電マージン74aも廃電放電マージン74bに設定し直す。これにより、TRC26の回生時の回生電力82は、バッテリ16及びエアポンプ22に向かい、しかも廃電充電マージン72bによって、通常走行時よりも多くの電力がバッテリ16に供給される。
【0081】
また、ECU24は、電力消費制御時に、アクセル開度(回生信号値)に応じたAP電力目標値を算出し、エアポンプ22の回転速度を上昇させる事で、AP推定電力をAP電力目標値に向けて制御する。この際、エアポンプ22の回転速度は、直ちに上昇しないことから、AP推定電力は、時点t1〜t2の間で徐々に上昇するような勾配で算出される。さらに、ECU24は、廃電充電マージン72b及びAP推定電力に基づきAP電力制限120(電力上限値122、電力下限値124)を算出し、AP電力制限120の範囲に収まるようにエアポンプ22の回転速度を上昇させて、電力消費制御時の電力を消費する。なお、電力消費制御の開始時の時点t1〜t2の期間において、エアポンプ22のAP実電力は、過渡変動によってAP推定電力よりも大きくなる。そのため、バッテリ16から放電される電力は、システム全体に受容される電力に比して、緩やかに減少していく。
【0082】
ここで、電力消費制御中の時点t3において、ユーザのアクセル操作によりアクセル開度が若干上昇し(回生信号値が低下し)、TRC26の回生電力が低下したとする。ECU24は、この状態変化の回生信号値を受信すると、回生信号値に基づく状態変化マージン72by、74byを算出及び設定する(図5も参照)。これにより時点t3〜t4の間、廃電充電マージン72bの電力幅が徐々に大きくなると共に、廃電放電マージン74bの電力幅が徐々に小さくなる。そのためエアポンプ22のAP電力制限120も緩やかに変化する。
【0083】
そして、エアポンプ22は、回生信号値が低下する状態変化により、回転速度(電力消費量)を低下させる。しかしながら、エアポンプ22のAP電力制限120を緩やかに低下させることで、過渡変動によるオーバーシュート(AP実電力がAP推定電力を下回ること)を抑制する。またバッテリ16は、この状態変化時に、廃電充電マージン72bが大きくなっていることで、仮にオーバーシュートが多少生じても、瞬間的に大きな電力が充電される過充電状態を抑制する。
【0084】
そしてECU24は、時点t4を経過すると、オーバーシュートが収束してくるため時点t5まで時間をかけて状態変化マージン72byを徐々に安定期マージン72bxに復帰させる。これにより、AP電力制限120の低下度合も緩やかに推移する。時点t5以降は、再び安定期マージン72bx、74bxが適用される。
【0085】
その後、時点t6において、ユーザのアクセル操作によりアクセル開度が大きく上昇すると、TRC26は、電力を回生していた状態から回転駆動を行って電力を消費する状態となる。これに伴い燃料電池システム10全体の電力も、電力を受け取る状態から出力する状態に変化する。
【0086】
ECU24は、電力消費制御から通常走行に移行する際に、バッテリ16のマージン70を安定期マージン72bx、74bxから状態変化マージン72by、74byに移行し、さらに通常充電マージン72a(及び通常放電マージン74a)に復帰させる。これによりエアポンプ22のAP電力制限120も徐々に変化するように算出され、AP実電力が電力下限値124を下回る、すなわちエアポンプ22の突入電力がバッテリ16に供給されることが抑制される。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池システム10は、以下の効果を奏する。
【0088】
燃料電池システム10は、電力消費制御の開始後の廃電充電マージン72bが電力消費制御の実施前の通常充電マージン72aよりも小さいという簡単な構成によって、TRC26の回生時に必要最小限の電力消費でバッテリを過充電状態から保護することができる。また、酸化剤ガス供給装置20(エアポンプ22)は、電力消費制御時に消費する電力を減らすことになり、酸化剤ガス供給装置20の過熱を抑制することが可能となる。すなわち、燃料電池システム10は、システム全体の電気エネルギを有効に活用することができ、安定的な駆動を実現することができる。
【0089】
また、燃料電池システム10は、システムの回生時の電力が変化する状態変化時に、廃電充電マージン72b(状態変化マージン72by)を電力消費制御の開始後の廃電充電マージン72b(安定期マージン72bx)よりも大きくする。これによりバッテリ16に対して瞬間的に大きな電力が充電される過充電状態を抑制することができる。
【0090】
さらに、燃料電池システム10は、電力消費制御時に、酸化剤ガス供給装置20(エアポンプ22)の定常動作に対応した定常電力幅SWに設定する。これにより、廃電充電マージン72b(安定期マージン72bx)を充分に小さくしつつ、酸化剤ガス供給装置20の定常動作時の電力変化を許容することができる。さらに、状態変化時には、廃電充電マージン72bを、酸化剤ガス供給装置20の駆動状態が変化する過渡動作時の応答性能に対応した電力幅に変化させる。これにより、バッテリ16への過充電状態の保護と酸化剤ガス供給装置20の過熱抑制を最適な状態で両立させることができる。
【0091】
そして、燃料電池システム10は、燃料電池車両18に搭載されることで、燃料電池車両18の駆動時の電力使用を効率化することができる。
【0092】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、燃料電池システム10では、TRC26の回生時に、バッテリ16に充電できない電力をエアポンプ22に優先的に供給して、電力を消費させる構成としたが、エアポンプ22とは異なる負荷14に電力を供給して電力を消費させる構成としてもよい。この場合でも、通常走行時に設定していた通常充電マージン72aを、電力消費制御時に廃電充電マージン72bに持ち替えることで、バッテリ16の過充電状態を保護することができる。
【符号の説明】
【0093】
10…燃料電池システム 12…燃料電池(FC)
16…バッテリ 18…燃料電池車両(車両)
20…酸化剤ガス供給装置 22…エアポンプ
24…ECU 26…トラクションモータ(TRC)
70…マージン 72…充電マージン
72a…通常充電マージン 72b…廃電充電マージン
72bx…安定期マージン 72by…状態変化マージン
74…放電マージン
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】