(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2019145299
(43)【公開日】20190829
(54)【発明の名称】全固体型二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20190802BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20190802BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190802BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190802BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20190802BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190802BHJP
   H01M 4/54 20060101ALI20190802BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20190802BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190802BHJP
【FI】
   !H01M10/0562
   !H01M10/0525
   !H01M4/505
   !H01M4/525
   !H01M4/587
   !H01M4/62 Z
   !H01M4/54
   !H01M4/38 Z
   !H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】2018027566
(22)【出願日】20180220
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所】大韓民国京畿道水原市霊通区三星路129
【住所又は居所原語表記】129,Samsung−ro,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清太郎
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区菅沢町2−7 株式会社サムスン日本研究所内
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区菅沢町2−7 株式会社サムスン日本研究所内
(72)【発明者】
【氏名】矢代 将斉
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区菅沢町2−7 株式会社サムスン日本研究所内
(72)【発明者】
【氏名】白土 友透
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区菅沢町2−7 株式会社サムスン日本研究所内
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ03
5H029BJ12
5H029BJ24
5H029CJ08
5H029CJ15
5H029CJ16
5H029CJ22
5H029DJ06
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ18
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA15
5H050FA02
5H050GA10
5H050GA18
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】初回充放電において消費されるリチウムの少なくとも一部を補うことが可能であり、電池容量の大きな全固体型二次電池を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極活物質と、イオン伝導性および電子伝導性を有する犠牲正極材料と、を含む正極活物質層とリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む負極活物質層と、備え、充電時に前記負極活物質層において前記負極活物質を介して金属リチウムが析出可能である、全固体型二次電池が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、イオン伝導性および電子伝導性を有する犠牲正極材料と、を含む正極活物質層と、
リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む負極活物質層と、
を備え、
充電時に前記負極活物質層において前記負極活物質を介して金属リチウムが析出可能である、全固体型二次電池。
【請求項2】
前記犠牲正極材料の酸化還元電位が、前記正極活物質の充放電電位よりも低い、請求項1に記載の全固体型二次電池。
【請求項3】
前記犠牲正極材料は、硫化物系固体電解質材料を含む、請求項1または2に記載の全固体型二次電池。
【請求項4】
前記硫化物系固体電解質材料は、LiS−Pを含有する硫化物を含む、請求項3に記載の全固体型二次電池。
【請求項5】
前記硫化物系固体電解質材料は、下記式(1):
xLiX−(1−x)(yLiS−(1−y)P) (1)
式中、
0≦x≦0.5、
0.6≦y≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である、
で表される硫化物を含む、請求項3または4に記載の全固体型二次電池。
【請求項6】
0.1≦x≦0.5、かつ、0.6≦y≦0.9である、請求項5に記載の全固体型二次電池。
【請求項7】
x=0、かつ、0.4≦y≦0.9である、請求項5に記載の全固体型二次電池。
【請求項8】
前記犠牲正極材料は、前記硫化物系固体電解質材料と導電剤との混合物を含む、請求項3〜7のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項9】
前記導電剤が炭素材料である、請求項8に記載の全固体型二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質は、構成元素として、Ni、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上と、Liとを含み、かつ層状岩塩型構造を有するリチウム塩を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質層はリチウムを含まない、請求項1〜10のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質層におけるリチウム元素の単位面積当たりの含有量が、質量換算で、前記正極活物質層中の前記正極活物質のリチウム元素の単位面積当たりの含有量に対し、0%超5%以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項13】
前記正極活物質層の充電容量aと前記負極活物質層の充電容量bとの比は、以下の式(2):
0.002<b/a<0.5 (2)
の関係を満足する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項14】
前記負極活物質は、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項15】
前記負極活物質は、無定形炭素を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質として固体電解質を使用した全固体型二次電池が注目されている。全固体型二次電池は、電解液を用いないため、非水電解質リチウムイオン二次電池(lithium−ion rechargeable battery)と比較して安全性が高い。また、全固体型二次電池は、軽量化、小型化が可能であるとともに、その構成によっては電池寿命を長くすることも可能である。
【0003】
このような全固体二次電池のエネルギー(energy)密度をさらに高めるために、負極活物質として金属リチウム(lithium)を活用することが提案されている。例えば、金属リチウムの容量密度(単位質量当りの容量)は、負極活物質として一般的に使用されている黒鉛の容量密度の10倍程度であると言われている。したがって、負極活物質として金属リチウムを使用することで、全固体二次電池を薄型化しつつ、出力を高めることができる。
【0004】
リチウムを負極活物質として使用する方法としては、リチウムまたはリチウム合金を負極活物質層として使用する方法、負極集電体上に負極活物質層を形成しない方法が挙げられる。後者の場合、負極集電体上に固体電解質層が形成され、充電によって集電体と固体電解質との界面に析出するリチウムを活物質として用いる。負極集電体は、リチウムと合金および化合物のいずれも形成しない金属で構成される。
【0005】
ここで、負極側に析出した金属リチウムは、全固体二次電池の充放電を繰り返すと、固体電解質の隙間を縫うように枝状に成長する。このため、枝状に成長したリチウムは、デンドライト(dendrite)とも称されている。成長したデンドライトは、二次電池の短絡の原因になりうる。また、容量低下の原因にもなりうる。
【0006】
さらに、負極集電体上に負極活物質層を形成しない場合、副反応によりリチウムが消費されてしまい、容量の低下が生じうる。一般にリチウムイオン二次電池において、初回の充放電におけるクーロン効率(coulombic efficiency)は、2サイクル目以降のクーロン効率よりも低い値となる。これは、初回の充電反応において、リチウムイオン(lithium ion)が消費されるためである。リチウムイオンの消費の原因としては、(1)電気化学反応の結果正極活物質が本質的に電気化学的に不活性になる場合や、(2)固体電解質相(SEI:Solid Electrolyte Interphase)の形成等により負極ではない部分においてリチウムイオンが消費される場合が挙げられる。特に負極がリチウム(lithium)を含有しない場合、新たなリチウムが供給されない。この場合、初回充電反応後に系内に残存したリチウムのみで充放電を行なわなければならず、結果、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低下する。
【0007】
上述したリチウムイオンの消費の原因うち、(1)による不可逆容量の解消は、正極活物質自体が不活化しているため、困難である。一方で、(2)の場合においては、消費されたリチウムを補充することにより、容量を回復させることが可能である。特許文献1には、高い比容量を達成させるために、補助リチウムを添加した高電圧リチウム二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/061191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、金属リチウムを活物質として使用する際にデンドライドの析出を抑制し、かつ十分な特性を有する全固体型二次電池は、いまだ実現・提案されていない。
【0010】
また、負極において金属リチウム層を形成しない場合において、副反応によるリチウムの消費は、全固体型二次電池の容量低下に繋がる。特許文献1に開示される高電圧リチウム二次電池は、電解液を使用する非水電解質二次電池である。したがって、特許文献1に記載される技術を、単純に全固体型二次電池に適用して比容量の向上を図ることは困難である。
【0011】
そこで、本発明は、リチウムを負極活物質とした全固体二次電池の特性を向上することが可能な、全固体型二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極活物質と、イオン伝導性および電子伝導性を有する犠牲正極材料と、を含む正極活物質層と、
リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む負極活物質層と、
を備え、
充電時に上記負極活物質層において上記負極活物質を介して金属リチウムが析出可能である、全固体型二次電池が提供される。
【0013】
本観点によれば、全固体型二次電池の特性を向上させることができる。
【0014】
犠牲正極材料の酸化還元電位は、正極活物質の充放電電位よりも低くてもよい。
【0015】
この観点によれば、犠牲正極材料がより確実に初回充電時においてリチウムイオンを放出する。
【0016】
犠牲正極材料は、硫化物系固体電解質材料を含んでもよい。
【0017】
硫化物系固体電解質は、豊富にリチウムを含有するとともに、リチウムイオンの導電性を有しており、犠牲正極材料に適している。
【0018】
上記硫化物系固体電解質材料は、LiS−Pを含有する硫化物を含んでもよい。
【0019】
これにより、犠牲正極材料のイオン伝導性をより一層向上させるとともに、正極活物質の充放電電位と犠牲正極材料の酸化還元電位との差を十分に大きくすることができる。
【0020】
上記硫化物系固体電解質材料は、下記式(1):
xLiX−(1−x)(yLiS−(1−y)P) (1)
式中、
0≦x≦0.5、
0.6≦y≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である、
で表される硫化物を含んでもよい。
【0021】
この硫化物系固体電解質材料は、イオン伝導性に優れるとともに、酸化還元電位が2V(vs Li/Li)前後であるため、好適に犠牲正極材料として利用可能である。
【0022】
また、0.1≦x≦0.5、かつ、0.6≦y≦0.9であってもよい。
また、x=0、かつ、0.4≦y≦0.9であってもよい。
【0023】
これらの硫化物系固体電解質材料は、好適に犠牲正極材料として利用可能である。
【0024】
上記犠牲正極材料は、上記硫化物系固体電解質材料と導電剤との混合物を含んでもよい。
【0025】
硫化物系固体電解質は、豊富にリチウムを含有するとともに、リチウムイオンの導電性を有している。一方で、導電剤は、電子伝導性を有する。したがって、これらを混合した混合物は、犠牲正極材料として機能する。
【0026】
上記導電剤は、炭素材料であってもよい。
【0027】
炭素材料は、優れた導電性を有するとともに、硫化物系固体電解質と容易に混合することができ、犠牲正極材料に好適に電子伝導性を付与することができる。
【0028】
上記正極活物質は、構成元素として、Ni、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上と、Liとを含み、かつ層状岩塩型構造を有するリチウム塩を含んでもよい。
【0029】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、比較的高い充放電電圧を得ることが可能となる。また、全固体型二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0030】
上記負極活物質層はリチウムを含まなくてもよい。
【0031】
これにより、犠牲正極材料によるリチウムイオンの補充効果を有効に得ることができる。
【0032】
上記負極活物質層におけるリチウム元素の単位面積当たりの含有量が、質量換算で、正極活物質層中の正極活物質のリチウム元素の単位面積当たりの含有量に対し、0%超5%以下であってもよい。
【0033】
これにより、犠牲正極材料によるリチウムイオンの補充効果を有効に得ることができる。
【0034】
上記正極活物質層の充電容量aと上記負極活物質層の充電容量bとの比は、以下の式(2):
0.002<b/a<0.5 (2)
の関係を満足してもよい。
【0035】
このような負極活物質層は、負極活物質の量が比較的少ないことから、リチウムイオンと負極活物質によって生じる副反応が、一般的な負極活物質層における副反応と比べて少ない。したがって、副反応により消費・失活するリチウムイオンの量を低減させることができ、犠牲正極材料の量が比較的少ない場合であっても、リチウムイオンを全固体型二次電池に十分に供給することができる。
【0036】
上記負極活物質は、無定形炭素、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を含んでもよい。
上記負極活物質は、無定形炭素を含んでもよい。
【0037】
これにより、犠牲正極材料によるリチウムイオンの補充効果を有効に得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように本発明によれば、リチウムを負極活物質とした全固体二次電池の特性を向上することが可能な全固体型二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0041】
<1.全固体型二次電池の構成>
まず、図1に基づいて、本実施形態に係る全固体型二次電池1の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。全固体型二次電池1は、電解質として固体電解質を用いた二次電池である。また、全固体型二次電池1は、リチウムイオンが正極層10、負極層30間を移動する所謂全固体型リチウムイオン二次電池である。
【0042】
図1に示すように、全固体型二次電池1は、正極層10と、固体電解質層20と、負極層30とを備える。
【0043】
(1−1.正極層)
正極層10は、正極集電体11及び正極活物質層12を含む。正極集電体11としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。正極集電体11は省略されても良い。
【0044】
正極活物質層12は、正極集電体11と固体電解質層20との間に、これらに接するように配置されている。正極活物質層12は、正極活物質と、イオン伝導性を有する犠牲正極材料と、を含む。また、正極活物質層12は、電子伝導性を補うために導電剤、イオン伝導性を補うために固体電解質をさらに含んでもよい。
【0045】
(i)正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質を用いることができる。
【0046】
例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、または酸化バナジウム等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0047】
また、正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩、特に、Ni、Co、MnおよびAlからなる群から選択される1種以上と、Liとを含み、かつ層状岩塩型構造を有するリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで、「層状」とは、薄いシート状の形状を表す。また、「岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0048】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0049】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、比較的高い充放電電圧を得ることが可能となる。また、全固体型二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0050】
また、正極活物質の充放電電位は、好ましくは0.1V(vs Li/Li)以上、より好ましくは0.25V以上4.5V以下である。これにより、全固体型二次電池の放電電圧の向上および高容量化が可能となる。
【0051】
正極活物質は、被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体型二次電池の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO−ZrO等が挙げられる。
【0052】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体型二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体型二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0053】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体型二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極活物質層12における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体型二次電池の正極層に適用可能な範囲であれば良い。
【0054】
(ii)犠牲正極材料
犠牲正極材料は、初回充電時においてリチウムイオンを放出することにより、初回充放電時において消費されたリチウムイオンを補填する。
【0055】
より具体的に説明すると、犠牲正極材料は、初回充電時において、正極活物質の充放電電位よりも低い電位において酸化還元反応に利用され、リチウムイオンを放出する。放出されたリチウムイオンは、負極において吸蔵されるとともに、一部が固体電解質相(SEI:Solid Electrolyte Interphase)の形成等の副反応に利用される。
【0056】
次いで、より高い電位において、正極活物質が酸化還元反応し、リチウムイオンを放出する。この放出されたリチウムイオンについても、負極において吸蔵されるとともに、一部が固体電解質相の形成等の副反応に利用される。しかしながら、犠牲正極材料由来のリチウムイオンが副反応に利用されていることにより、正極活物質由来のリチウムイオンの副反応における消費は抑制されている。また、充電後に負極に吸蔵されたリチウムイオンとしては、正極活物質由来および犠牲正極材料由来のリチウムイオンが存在する。
【0057】
この結果、充電後に負極に吸蔵され、放電に利用可能なリチウムイオンの量が、犠牲正極材料不使用時と比較して、増加する。これにより、リチウムイオンの消費による全固体型二次電池1の容量の低下を防止でき、全固体型二次電池1の容量を向上させることができる。
【0058】
なお、一旦リチウムイオンを放出した犠牲正極材料は、正極活物質の充放電電位よりも低い電位において酸化還元反応を行う材料であることから、2サイクル目以降の充放電時においては、酸化還元反応を行わず、本来必要とされる正極活物質の充放電反応を阻害しない。
【0059】
また、本実施形態において、犠牲正極材料はイオン伝導性および電子伝導性を有している。初回充電時において、犠牲正極材料は、イオン伝導性および電子伝導性を有することにより、上記のようにリチウムイオンを放出することが可能となる。これに対し、犠牲正極材料が、イオン伝導性または電子伝導性を有さない場合、初回充電時におけるリチウムイオンの放出が困難である。
【0060】
上述したような犠牲正極材料としては、イオン伝導性および電子伝導性を有し、かつ正極活物質の充放電電位よりも低い電位において酸化還元反応が可能であれば特に限定されない。犠牲正極材料としては、例えば、硫化物系固体電解質材料と導電剤との混合物を含むことができる。硫化物系固体電解質は、豊富にリチウムを含有するとともに、リチウムイオンの導電性を有している。一方で、導電剤は、電子伝導性を有する。したがって、これらを混合した混合物は、上述した犠牲正極材料として機能する。
【0061】
犠牲正極材料に含まれ得る硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS−P、LiS−P−LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Cl)、LiS−P−LiO、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiBr、LiS−SiS−LiCl、LiS−SiS−B−LiI、LiS−SiS−P−LiI、LiS−B、LiS−P−Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS−GeS、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等のリチウム含有硫化物を挙げることができる。なお、これらの化合物は単独でまたは2種以上組わせて用いられることができる。これらの硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。
【0062】
これらの硫化物系固体電解質材料は、使用される正極活物質の充放電電位よりも低い電位において酸化還元反応が可能であれば、初回充電時の電圧を制御することにより、犠牲正極材料として使用することができる。また、上述した硫化物系固体電解質材料は、イオン伝導性にも優れている。
【0063】
また、上述した中でも犠牲正極材料は、硫化物系固体電解質材料として、LiS−Pを含有する硫化物を含むことが好ましい。これにより、犠牲正極材料のイオン伝導性をより一層向上させるとともに、正極活物質の充放電電位と犠牲正極材料の酸化還元電位との差を十分に大きくすることができる。
【0064】
具体的には、上記硫化物系固体電解質材料としては、下記式(1):
xLiX−(1−x)(yLiS−(1−y)P) (1)
式中、
0≦x≦0.5、
0.6≦y≦0.9、および
XはCl、BrおよびIからなる群から選択される少なくとも1種である、
で表される硫化物が挙げられる。この硫化物系固体電解質材料は、イオン伝導性に優れるとともに、酸化還元電位が2V(vs Li/Li)前後であるため、上述した正極活物質としての層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩にとともに、好適に組み合わせて用いることができる。
【0065】
上述した式(1)で表される硫化物系固体電解質材料のうち、特に、以下のいずれかの条件を満足する化合物が好ましい。
・0.1≦x≦0.5、かつ、0.6≦y≦0.9である。より好ましくは、0.1≦x≦0.4、かつ、0.7≦y≦0.8である。
・x=0、かつ、0.4≦y≦0.9である。より好ましくは、x=0、かつ、0.6≦y≦0.9である。
【0066】
このような硫化物系固体電解質材料の具体例としては、0.75LiS−0.25P、0.80LiS−0.20P、0.35LiX−0.65(0.75LiS−0.25P)、0.35LiX−0.65(0.80LiS−0.20P)等が挙げられる。
【0067】
また、犠牲正極材料に含まれ得る導電剤としては、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料は、優れた導電性を有するとともに、硫化物系固体電解質と容易に混合することができ、犠牲正極材料に好適に電子伝導性を付与することができる。
【0068】
このような炭素材料としては、例えば、活性炭、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維等が挙げられる。上述した中でも、炭素材料として、活性炭が好ましい。活性炭は、比較的大きな比表面積を有することから、硫化物系固体電解質表面に十分に接触することができ、犠牲正極材料に十分に電子伝導性を付与することができる。
【0069】
炭素材料の比表面積は、特に限定されないが、好ましくは600m/g以上、より好ましくは800m/g以上6000m/g以下、さらに好ましくは1000m/g以上4000m/g以下である。これにより、正極層10における電子伝導性をさらに高めることができる。このような大きな比表面積は、活性炭を採用することにより容易に達成される。
【0070】
また、犠牲正極材料における硫化物系固体電解質と導電剤との配合比は、特に限定されない。例えば、犠牲正極材料は、質量比にて、硫化物系固体電解質:導電剤が、例えば99:1〜50:50、好ましくは95:5〜70:30の配合比で配合されることができる。これにより、補填するリチウムイオンを十分な量とし、さらに犠牲正極材料のイオン伝導性および電子伝導性を十分に高くすることができる。
【0071】
また、硫化物系固体電解質材料と導電剤との混合は、例えばボールミル等により行うことができる。このように硫化物系固体電解質材料と導電剤とを予め十分に接触させて犠牲正極材料を得ることにより、犠牲正極材料が十分にイオン伝導性および電子伝導性を有するものとなり、初回充電時におけるリチウムイオンの放出割合が向上する。
【0072】
また、犠牲正極材料の酸化還元電位は、正極活物質の充放電電位よりも低いものであればよいが、正極活物質の充放電電位と比較して好ましくは0.1V以上5V以下、より好ましくは0.25V以上4.5V以下低い。これにより、初回充電時において、犠牲正極材料がより確実にリチウムイオンを放出する。また、2サイクル目以降の充放電時において、犠牲正極材料が充放電反応に関与しないものとなる。
【0073】
また、正極活物質層12中における犠牲正極材料の含有量は、特に限定されず、例えば、初回充放電時において副反応に使用され得るリチウムイオンの量に対応する量とすることができる。当該量については、例えば、犠牲正極材料を有さないこと以外は同一の構成の全固体型二次電池を作成して初回充放電で消費されるリチウムイオンの量を測定することにより得ることができる。
【0074】
また、犠牲正極材料は、例えば、正極活物質の容量の1%以上30%以下、好ましくは5%以上15%以下の容量となるように正極層10中に含まれることができる。これにより、消費されるリチウムイオンの補充を確実に行うことができる。また、犠牲正極材料は、2サイクル目以降の充放電において利用されない材料であるが、上記のような量で正極活物質層12内に含まれることにより、犠牲正極材料の量を比較的少なくすることができる。
【0075】
(iii)その他の成分
また、正極活物質層12には、上述した正極活物質および犠牲正極材料に加えて、例えば、導電剤、結着材や、固体電解質が適宜配合されていてもよい。
【0076】
正極活物質層12に配合可能な導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極活物質層12に配合可能な結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。
【0077】
なお、正極活物質層12に含まれる固体電解質は、正極活物質層12全体のイオン伝導性の向上を目的として、犠牲正極材料中の硫化物系固体電解質とは別途に添加され得る。このような固体電解質は、導電剤と密には接していないため、電子導電性を有さず、犠牲正極材料としては作用しない。また、正極活物質層12に含まれる固体電解質は、犠牲正極材料中に存在する硫化物系固体電解質と同種であってもよく、同種でなくてもよい。さらに、正極活物質層12に含まれる固体電解質は、固体電解質層20に含まれる固体電解質と同種のものであっても、同種でなくてもよい。
【0078】
(1−2.固体電解質層)
固体電解質層20は、正極層10および負極層30の間に形成され、固体電解質を含む。
【0079】
固体電解質は、例えば硫化物系固体電解質材料で構成される。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、上述した犠牲正極材料において挙げられたリチウム含有硫化物が挙げられる。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0080】
また、固体電解質では、上記の硫化物固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLiS−Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0081】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS−Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50〜90:10の範囲で選択されてもよい。
【0082】
また、固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、固体電解質の粒子径は、特に限定されず、従来の全固体型二次電池の固体電解質に適用可能な範囲であれば良い。
【0083】
また、固体電解質層20は、バインダを更に含んでいても良い。固体電解質層20に含まれるバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。固体電解質層20内のバインダは、正極活物質層12および負極活物質層32内のバインダと同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0084】
(1−3.負極層)
図1に示すように、負極層30は、負極集電体31と、負極集電体31および固体電解質層20の間に配置される負極活物質層32とを備える。負極集電体31を構成する材料としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)が挙げられる。負極集電体31は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金で構成されていても良い。負極集電体31は、例えば板状または箔状とされる。
【0085】
なお、負極活物質層32中の負極活物質として、リチウムと合金又は化合物を形成する化合物を用い、かつ、負極活物質の容量が正極活物質層12中の正極活物質の容量よりも小さい場合、負極集電体31は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。このような材料としては、例えば銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、およびゲルマニウム(Ge)が挙げられる。
【0086】
負極活物質層32は、負極集電体31と固体電解質層20との間に、これらに接するように配置されている。負極活物質層32は、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む。そして、負極活物質層32は、このような負極活物質を含むことにより、以下のように負極活物質層32上に金属リチウムを析出させることができるように構成されている。
【0087】
まず、充電時の初期においては、負極活物質層32内のリチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質がリチウムイオンと合金又は化合物を形成することにより、負極活物質層32内にリチウムが吸蔵される。その後、負極活物質層32の容量を超えた後は、負極活物質層32の一方または両方の表面上に金属リチウムが析出する。この金属リチウムによって金属層が形成される。金属リチウムは、合金又は化合物を形成可能な負極活物質を介して拡散しつつ形成されたものであるため、樹状(デンドライト状)ではなく、負極活物質層32の面に沿って均一に形成されたものとなる。放電時には、負極活物質層32および金属層中の金属リチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、結果的にリチウムを負極活物質として使用することができるので、エネルギー密度が向上する。
【0088】
さらに、金属層が負極活物質層32と負極集電体31との間に形成する場合、負極活物質層32は、金属層を被覆する。これにより、負極活物質層32は、金属層の保護層として機能する。これにより、全固体型二次電池の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体型二次電池の特性が向上する。
【0089】
さらに、金属リチウムが析出可能に構成された負極活物質層32を有する全固体型二次電池1においては、正極活物質層12中に存在する正極活物質におけるリチウム量に容量が依存する。上述したように、本実施形態においては、正極活物質層12中に正極犠牲材料が含まれており、初回充電時において副反応等により消費されるリチウムイオンを補充することができる。したがって、全固体型二次電池1の設計時において設定した充放電容量がより容易に実現され、全固体型二次電池1の所望の特性がより確実に発揮される。
【0090】
また、このような負極活物質層32は、負極活物質の量が比較的少ないことから、リチウムイオンと負極活物質によって生じる副反応が、一般的な負極活物質層における場合と比べて少ない。したがって、副反応により消費・失活するリチウムイオンの量を低減させることができ、犠牲正極材料の量が比較的少ない場合であっても、リチウムイオンを全固体型二次電池1に十分に供給することができる。
【0091】
負極活物質層32において金属リチウムの析出を可能とする方法としては、例えば正極活物質層12の充電容量を負極活物質層32の充電容量より大きくする方法が挙げられる。具体的には、正極活物質層12(正極層10)の充電容量a(mAh)と負極活物質層32の充電容量b(mAh)との比(容量比)は、以下の式(2):
0.002<b/a<0.5 (2)
の関係を満足することが好ましい。
【0092】
式(2)で表される容量比が0.002以下の場合、負極活物質層32の構成によっては、全固体二次電池1の特性が低下する場合がある。この理由としては、負極活物質層32がリチウムイオンからの金属リチウムの析出を十分に媒介できず、金属層の形成が適切に行われなくなることが考えられる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層32が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下する。また、金属層が負極活物質層32と負極集電体31との間に生じる場合、負極活物質層32が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。上記容量比は、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上である。
【0093】
また上記容量比が0.5以上であると、充電時において負極活物質層32がリチウムの大部分を貯蔵してしまい、負極活物質層32の構成によっては金属層が十分に形成されない場合がある。上記容量比は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.04以下である。
【0094】
上述する機能を実現するための負極活物質としては、例えば、無定形炭素、金、白金、パラジウム(Pd)、ケイ素(Si)、銀、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫、アンチモン、および亜鉛等が挙げられる。ここで、無定形炭素としては、例えば、カーボンブラック(Carbon black)(アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック((acetylene black, furnace black, ketjen black)等)、グラフェン(graphene)等が挙げられる。
【0095】
負極活物質の形状は特に限定されず、粒状であってもよいし、例えば負極活物質が均一な層、例えばめっき層を構成してもよい。前者の場合、リチウムイオンは、粒状の負極活物質同士の隙間を通り、負極活物質層32と負極集電体31との間にリチウムの金属層を形成可能である。一方で、後者の場合、負極活物質層32と固体電解質層20との間に金属層が析出する。
【0096】
上述した中でも、負極活物質層32は、無定形炭素として、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が100m/g以下である低比表面積無定形炭素と、窒素ガス吸着法により測定される比表面積が300m/g以上である高比表面積無定形炭素との混合物を含むことが好ましい。
【0097】
負極活物質層32は、これらの負極活物質をいずれか1種だけ含んでいても良いし、2種以上の負極活物質を含んでいても良い。例えば、負極活物質層32は、負極活物質として無定形炭素だけを含んでいても良いし、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を含んでいても良い。また、負極活物質層22は、無定形炭素と、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、アンチモン、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上との混合物を含んでいても良い。無定形炭素と金等の金属との混合物の混合比(質量比)は、1:1〜1:3程度であることが好ましい。負極活物質をこれらの物質で構成することで、全固体型二次電池1の特性が更に向上する。
【0098】
ここで、負極活物質として無定形炭素とともに金、白金、パラジウム、アンチモン、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、これらの負極活物質の粒径は4μm以下であることが好ましい。この場合、全固体型二次電池1の特性が更に向上する。ここで、負極活物質の粒径は、例えば電子顕微鏡画像(例えば走査型電子顕微鏡画像)において各負極活物質について円相当径を算出し、これを算術平均することにより得ることができる。または、負極活物質の粒径は、レーザー回折粒度分布計により得られる、体積基準によるメジアン径(いわゆるD50)であってもよい。このようなメジアン径は、上記の電子顕微鏡画像から算出される算術平均粒径とほぼ一致する。粒径の下限値は特に制限されないが、例えば、0.01μm以上である。
【0099】
また、負極活物質として、リチウムと合金を形成可能な物質、例えば、金、白金、パラジウム、アンチモン、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、負極活物質層32は、これらの金属層であってもよい。例えば、金属層は、めっき層であることができる。
【0100】
ここで、正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に正極活物質層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極活物質層12の充電容量とすれば良い。負極活物質層32の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極活物質層32の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に負極活物質層32中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極活物質層32の容量とすれば良い。ここで、正極および負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極活物質層12および負極活物質層32の充電容量が直接測定される。この充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電容量密度が算出される。
【0101】
さらに、負極活物質層32は、必要に応じてバインダを含んでもよい。このようなバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等が挙げられる。バインダは、これらの1種で構成されていても、2種以上で構成されていても良い。このようにバインダを負極活物質層32に含めることにより、特に負極活物質が粒状の場合に負極活物質の離脱を防止することができる。負極活物質層22にバインダを含める場合、バインダの含有率は、負極活物質層22の総質量に対して例えば0.3〜20質量%、好ましくは1.0〜15質量%、より好ましくは3.0〜15質量%である。
【0102】
また、負極活物質層32には、従来の全固体型二次電池で使用される添加剤、例えばフィラー、分散剤、イオン導電剤等が適宜配合されていてもよい。
【0103】
負極活物質層32の厚さは、負極活物質が粒状の場合には、特に制限されないが、例えば1.0〜20μm、好ましくは1.0〜10μmである。これにより、負極活物質層32の上述した効果を十分に得つつ負極活物質層32の抵抗値を十分に低減でき、全固体型二次電池1の特性を十分に改善できる。
一方で、負極活物質層32の厚さは、負極活物質が均一な層を形成する場合には、例えば、1.0〜100nmである。この場合の負極活物質層32の厚さの上限値は、好ましくは95nm、より好ましくは90nm、さらに好ましくは50nmである。
【0104】
また、本実施形態においては、上述した犠牲正極材料によるリチウムイオンの補充効果を有効に得るために、負極活物質層32は、リチウムを含有しない材料により構成されることが好ましい。より具体的には、負極層30中の負極活物質層32は、リチウムを含まなくてもよい。または、負極層30中の負極活物質層32において、リチウム元素の単位面積当たりの含有量が、質量換算で、正極活物質層中の正極活物質のリチウム元素の単位面積当たりの含有量に対し、好ましくは0%超5%以下、より好ましくは0%超2%以下である。
【0105】
以上、本実施形態に係る全固体型二次電池1について説明した。本実施形態によれば、充電の初期には、負極活物質層内にリチウムが吸蔵される。負極活物質層の充電容量を超えた後は、負極活物質層の少なくとも一方の面に金属リチウムが金属層として析出する。放電時には、負極活物質層および金属層中のリチウムがイオン化し、正極層側に移動する。したがって、リチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極活物質層は、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池の特性が向上する。
【0106】
さらに、初回充電時において、正極活物質層12中の犠牲正極材料よりリチウムイオンが放出されることにより、副反応等により消費されるリチウムイオンに対応するリチウムイオンを補充することが可能となる。したがって、全固体型二次電池1の電池容量が大きくなる。
【0107】
<2.全固体型二次電池の充電方法>
次に、上述した全固体型二次電池1を例に、本実施形態に係る全固体型二次電池の充電方法について説明する。
【0108】
まず、初回充電時において、犠牲正極材料の酸還元電位付近、例えば1.0〜3.0V(vs Li/Li)の電圧で充電を行う。これにより、犠牲正極材料から優先的にリチウムイオンが正極層10より放出される。次いで、正極活物質の充放電電位、例えば4V(vs Li/Li)前後の電圧で充電を行う。これにより、犠牲正極材料由来のリチウムイオンに加えて正極活物質由来のリチウムイオンが正極層10から放出され、一部は副反応等により消費されるとともに、残りのリチウムイオンは、負極層30において吸蔵される。
【0109】
その後の放電および2サイクル目以降の充放電は、正極活物質の充放電電位に合わせて電圧を設定し、行うことができる。この際において、犠牲正極材料は、酸化還元電位が充放電電位から離れていることにより、充放電反応には関与しない。
【0110】
<3.リチウムイオン二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体型二次電池1の製造方法について説明する。本実施形態に係る全固体型二次電池1は、例えば、正極層10、負極層30、および固体電解質層20またはそれらの構成材料をそれぞれ製造した後、上記の各層を積層することにより製造することができる。
【0111】
[固体電解質層の作製]
固体電解質層20は、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質により作製することができる。
【0112】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0113】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃であり、より好ましくは800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間であり、より好ましくは1時間〜12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec〜10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec〜1000℃/sec程度である。
【0114】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0115】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。
【0116】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質を、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層20を作製することができる。なお、固体電解質層20は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層20は、固体電解質と、溶媒、バインダを混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層20を作製してもよい。
【0117】
[正極層の作製]
正極層10は、例えば次の方法で作製することができる。まず、犠牲正極材料および正極活物質を準備する。犠牲正極材料は、例えば硫化物系固体電解質と導電剤、例えば炭素材料とを混合し、ボールミルによって処理することにより得ることができる。また、正極活物質は、公知の方法により製造することができる。
【0118】
次いで、正極活物質、上記で作製した固体電解質と、犠牲正極材料と、各種添加材とを混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリー(slurry)またはペースト(paste)を形成する。続いて、得られたスラリーまたはペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、正極層10を得ることができる。または、正極層10は、固体電解質、正極活物質、犠牲正極材料および各種添加材の混合体を加圧し、圧延することで作製されてもよい。
【0119】
[負極層の作製]
負極層30は、正極層10と同様の方法で作製することができる。具体的には、まず、負極活物質等の負極活物質層32を構成する材料を混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリーまたはペーストを形成する。さらに、得られたスラリーまたはペーストを負極集電体31に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、負極層30を得ることができる。
あるいは、負極層30を、負極集電体31上にスッパッタリング等により負極活物質を付与し、負極活物質層32を形成することにより得てもよい。さらには、負極集電体31上に負極活物質層32を構成するための金属箔を配置することにより負極層30を得てもよい。
【0120】
[全固体型二次電池の製造]
さらに、上記の方法で作製した固体電解質層20、正極層10、および負極層30を積層することで、本実施形態に係る全固体型二次電池1を製造することができる。具体的には、固体電解質層20を挟持するように正極層10と負極層30とで積層し、加圧することにより、本実施形態に係る全固体型二次電池1を製造することができる。
【実施例】
【0121】
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係る全固体型二次電池について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係る全固体型二次電池が下記の例に限定されるものではない。
【0122】
1.全固体型二次電池の製造
(実施例1)
(i)正極活物質の製造
まず、正極活物質として、高ニッケル含有NCM(商品名「NCM 811」、BASF社製)を用意した。次いで、このNCM:1000gに対し、LiZrO(LZO)が0.5mol%となるようにLiOCH、Zr(OPr)を溶解させたイソプロピルアルコール(IPA:iso−propylalchol)溶液320gを作成した。これらのNCMと溶液を用い、転動流動層被覆装置により、NCMに対し、LZO前駆体を被覆した。得られた被覆活物質を大気雰囲気下350℃で1時間焼成することで、LZOが被覆された正極活物質を合成した。なお、同正極活物質の充放電電位は、4.25V−2.5V(vs.Li/Li)である。
【0123】
(ii)固体電解質の製造
LiCl、LiSおよびPをLiPSClの組成比となるように乳鉢混合し、アルゴン雰囲気下において遊星ボールミル装置を用いて固相反応させることにより固体電解質前駆体を準備した。この固体電解質前駆体を500℃で熱処理することによってargyrodite型固体電解質を得た。
【0124】
(iii)犠牲正極材料の製造
LiSおよびPを80:20のモル比となるように乳鉢混合し、アルゴン雰囲気下において遊星ボールミル装置を用いて固相反応させることにより80LiS−20P固体電解質を合成した。次いで、80LiS−20P固体電解質と炭素材料(活性炭)とを90:10の重量比でボールミル混合することにより犠牲正極材料を得た。なお、犠牲正極材料中の酸化還元電位は、3.0V−1.0V(vs.Li/Li)である。
【0125】
(iv)試験用セルの製造
次いで、負極層としてSnめっきを有するNi金属箔を用意した。Snめっきは、負極活物質として作用する一方で、リチウムを含まない負極活物質層である。また、Snめっきの厚さは50nmである。
【0126】
また、上記犠牲正極材料と上記正極活物質とargyrodite型固体電解質とを混合し、正極合剤を得た。負極層としてのNi金属箔と、固体電解質層としての上記argyrodite型固体電解質と、正極合剤とをこの順序でφ13mmのテフロン筒中で積層し、4t/cmの圧力で一軸方向から加圧してペレットを作製し、実施例1に係る試験用セル(cell)を作製した。
【0127】
得られた試験用セルにおいて、正極活物質層の充電容量aは、1.8であり、負極活物質層(Snめっき)の充電容量bは、0.013であり、b/aは、0.007であった。このように、負極活物質層を構成するSnめっきは、Liを貯蔵する負極活物質そのものとして利用されるものではなく、Li金属の析出源として作用することを意図して設けられている。
【0128】
(実施例2)
正極活物質として、NCMに代えて、NCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る試験用セルを作成した。
【0129】
得られた試験用セルにおいて、正極活物質層の充電容量aは、1.8であり、負極活物質層(Snめっき)の充電容量bは、0.013であり、b/aは、0.007であった。このように、負極活物質層を構成するSnめっきは、Liを貯蔵する負極活物質そのものとして利用されるものではなく、Li金属の析出源として作用することを意図して設けられている。
【0130】
(実施例3)
(i)正極層の作製
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Mn0.05(NCM)を準備した。また、固体電解質として、Argyrodite型結晶であるLiPSClを準備した。また、バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(デュポン社製テフロン(登録商標)バインダ)を準備した。また、導電助剤としてカーボンナノファイバー(CNF)を準備した。さらに、犠牲正極材料としては、実施例1において作成したものを用意した。
【0131】
ついで、これらの材料を、正極活物質:犠牲正極材料:固体電解質:導電助剤:バインダ=85:4:15:3:1.5の質量比で混合し、混合物をシート状に引き伸ばし、正極シートを作製した。さらにこの正極シートを18μm厚のアルミ箔の正極集電体に圧着することにより、正極層を作製した。正極層の初期充電容量(1サイクル目の充電容量)は4.1V充電に対して約17mAhであった。正極質量は約110mgであった。(活物質の質量当たり、約190mAh/g。)
【0132】
(ii)負極層の作製
負極集電体として厚さ10μmのNi箔を準備した。また負極活物質として、ケイ素(粒径100nm)の粉末を準備した。
【0133】
ついで、4gの負極活物質を容器に入れ、そこへバインダ(クレハ社製#9300)5質量%を含むNMP溶液を4g加えた。ついで、この混合溶液にNMPを少しずつ加えながら混合溶液を撹拌することで、スラリーを作製した。NMPは、スラリーの粘度がブレードコーターによる製膜に適した状態になるまで添加した。このスラリーをNi箔上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で80℃で約20分間乾燥させた。これにより得られた積層体を100℃で約12時間真空乾燥した。以上の工程により、負極層を作製した。負極層の初期充電容量は約7mAhであった。したがって、数式(1)中のb/aは約0.35であった。
【0134】
(iii)固体電解質層の作製
上記LiPSCl固体電解質に、当該固体電解質の質量に対して1質量%のゴム系バインダを加えた。この混合物にキシレンとジエチルベンゼンを加えながら撹拌することで、スラリーを作製した。このスラリーを不織布の上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中で40℃で乾燥させた。これにより得られた積層体を40℃で12時間真空乾燥した。以上の工程により固体電解質層を作製した。
【0135】
(iv)全固体型二次電池の作製
正極層、固体電解質層、および負極層をこの順で重ねて、真空中でラミネートフィルムに封じることにより全固体型二次電池(試験用セル)を作製した。ここで、正極集電体と負極集電体のそれぞれ一部が、電池の真空を破らないようにラミネートフィルムから外に突出させた。これらの突出部を正極層および負極層の端子とした。さらに、この全固体二次電池を490MPaで30分間静水圧処理した。
【0136】
(比較例1)
正極活物質層(正極合剤)の構成材料として犠牲正極材料を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る試験用セルを作成した。
【0137】
(比較例2)
正極活物質層(正極合剤)の構成材料として犠牲正極材料を用いなかった以外は、実施例2と同様にして、比較例2に係る試験用セルを作成した。
【0138】
(比較例3)
正極活物質層(正極合剤)の構成材料として犠牲正極材料を用いなかった以外は、実施例3と同様にして、比較例3に係る試験用セルを作成した。
【0139】
(比較例4)
正極活物質層(正極合剤)の構成材料として犠牲正極材料を用いず、負極層としてLi金属箔を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る試験用セルを作成した。
【0140】
2.評価
まず、実施例1、比較例1および4に係る試験用セルを用い、初回放電容量について評価を行った。この際にカットオフ電位は、4.2V−3.0V(vs.Li/Li)とし、0.5Cの電流を印加した。得られた初回放電容量を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
犠牲正極材料を有する実施例1に係る試験用セルは、犠牲正極材料を有さない比較例1に係る試験用セルと比較して、初回放電容量が大きかった。これは、比較例1においては初回充電に正極活物質中からリチウムイオンが脱離する際、一部のリチウムイオンが負極側へ到達せずにほかの反応に消費される、もしくは負極上でその後電気化学反応に関与しない孤立物質となるため、初回放電時にはその分のリチウムが正極活物質に戻らずに容量が低下してしまうため容量が低くなってしまうためであると考えられた。一方、犠牲正極を含んだ正極である実施例1においては、上記の理由で失われるリチウムイオンが、初回充電時に犠牲正極材料から補填されるため放電容量の低下が発生しなくなるためと考えられた。そのため比較例1と比較すると実施例の放電容量は向上し、負極層にLiが豊富に存在する比較例4とほぼ同等の値を示した。ただし、比較例4に係る試験用セルは、Li金属箔を負極層として使用することから、短絡の原因となるデンドライドが生じやすく、長期にわたり電池特性を良好に維持することができず、実用上問題を有している。
【0143】
次に、実施例2および比較例2に係る試験用セルを用い、初回放電容量および容量のサイクル維持率について評価を行った。この際にカットオフ電位は、4.25V−2.0V(vs.Li/Li)とし、0.5Cの電流を印加した。また、サイクル維持率は、初回放電容量に対する、120サイクル目の放電容量の割合を評価した。得られた初回放電容量およびサイクル維持率を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
表2に示すように、犠牲正極材料を有する実施例2に係る試験用セルは、犠牲正極材料を有さない比較例2に係る試験用セルと比較して、初回放電容量が大きかった。これは、実施例2においては、初回充電でリチウムイオンが失われても犠牲正極材料からリチウムを十分に補填することが可能であるため、放電容量が高くなったことが考えられた。
【0146】
また、表2に示すように、犠牲正極材料を有する実施例2に係る試験用セルは、犠牲正極材料を有さない比較例2に係る試験用セルと比較して、サイクル維持率も大きかった。これは、犠牲正極材料を有さない比較例2に係る試験用セルにおいては劣化によるリチウムの消費を補填することはできない一方で、実施例2に係る試験用セルは、犠牲正極材料によりリチウムの消費を補填でき、この結果サイクル維持率を高く維持することができたことが考えられた。
【0147】
なお、実施例1に係る試験用セルと実施例2に係る試験用セルとの間での初回放電容量の違いは、正極活物質の種類の違いおよびカットオフ電位の違いに起因すると考えられる。
【0148】
次に、実施例3および比較例3に係る試験用セルについて、充電を行った後、0.33C、1Cにおける放電カーブを比較し、表3に示す結果を得た。なお、充放電におけるカットオフ電位は、4.2V−2.0V(vs.Li/Li)とした。初回放電容量、平均放電電圧およびエネルギー密度は、0.33Cにおける放電カーブより算出した。
【0149】
【表3】
【0150】
表3に示すように、犠牲正極材料を正極活物質層に含む実施例3においては、犠牲正極材料を含まない比較例3と比較して、0.33Cにおける放電容量が202mAh/gから212mAh/gに向上した。また、エネルギー密度についても、実施例3に係る試験用セルは、比較例3に係る試験用セルと比較して、755(Wh/kg)から795(Wh/kg)に改善された。さらに、定電流0.33Cにおける放電容量に対する定電流1Cにおける放電容量のレート維持率についても、実施例3に係る試験用セルは、比較例3に係る試験用セルと比較して、87%から92%に向上した。
【0151】
以上により、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む負極活物質層を採用することにより、全固体型二次電池の特性を向上させることが可能であった。また、このような負極層の構成を採用した上で犠牲正極材料を使用することにより、全固体型二次電池の特性をより一層向上させることできた。
【0152】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0153】
1 全固体型二次電池
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 固体電解質層
30 負極層
31 負極集電体
32 負極活物質層
【図1】