【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極の集電体としてAl箔が普及している。典型的には、Al箔の表面に、正極合材スラリーが塗布され、乾燥されることにより、正極が製造される。正極合材スラリーは、溶媒中に正極合材が分散した粒子分散液である。正極合材スラリーは、正極活物質、導電材、結着材および溶媒等が混合されることにより調製され得る。正極合材は、正極活物質、導電材、および結着材を含む。
【0005】
集電体として、発泡Alのような多孔質Al基材も提案されている(特許文献1)。ただし集電体としての多孔質Al基材の普及は進んでいない。電池のエネルギー密度を高めることが困難なためである。すなわち多孔質Al基材への含浸性を確保するためには、正極合材スラリーの粘度が、ある程度低い必要がある。そのため正極合材スラリーの固形分比率(NV)が必然的に低くなる。本明細書において「正極合材スラリーのNV」とは、正極合材スラリーにおいて溶媒以外の成分である正極活物質、導電材、および結着材(すなわち正極合材)が占める質量比率(質量%)を示す。正極合材スラリーのNVが低い場合、多孔質Al基材に正極合材を密に充填することが困難となると考えられる。
【0006】
本開示の目的は、多孔質Al基材に正極合材が密に充填されつつ、短絡率を抑制し得る正極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、本開示の範囲が限定されるべきではない。
【0008】
本開示のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、以下の(A)〜(F)を含む。
(A)第1正極活物質、第1導電材、第1結着材、および第1溶媒を混合することにより、第1造粒体を調製する(第1造粒体調製工程)。
(B)第2正極活物質、第2導電材、第2結着材、および第2溶媒を混合することにより、第2造粒体を調製する(第2造粒体調製工程)。
(C)第1造粒体を多孔質アルミニウム基材に充填する(充填工程)。
(D)第1造粒体が充填された多孔質アルミニウム基材を圧延する(第1圧延工程)。
(E)第1圧延工程を経た多孔質アルミニウム基材上に第2造粒体を配置する(配置工程)。
(F)配置工程を経た多孔質アルミニウム基材を圧延する(第2圧延工程)。
第1造粒体および第2造粒体は、それぞれ85質量%以上100質量%未満の固形分比率(NV)を有する。第1造粒体は、多孔質アルミニウム基材の平均開気孔径よりも小さいメジアン径を有するように調製される。
【0009】
正極合材スラリーのNVが高くなる(すなわち溶媒が少なくなる)と、正極合材スラリーの粘度が高くなり、含浸性が低下する。多孔質Al基材の内部まで正極合材スラリーが浸透しないため、正極合材の充填量が少なくなり、充填量のばらつきも大きくなると考えられる。
【0010】
このような従来知見に対して、本開示の製造方法では、第1造粒体調製工程において加えられる溶媒が大幅に少ない。これにより、第1造粒体調製工において第1正極活物質、第1導電材、第1結着材、および第1溶媒を混合した混合物は、スラリーとはならず、粒の集合体(すなわち、第1造粒体)になると考えられる。なお、第2造粒体調製工程においても同様のことが言える。さらに第1造粒体は、多孔質Al基材の平均開気孔径よりも小さいメジアン径を有するように調製される。そのため、第1造粒体は多孔質Al基材の内部まで入り込むことができる。その結果、正極合材スラリーが使用される場合に比して、正極合材の充填量が増加すると考えられる。
【0011】
第1造粒体のNVが85質量%未満であると、混合時に第1造粒体の粒成長が進行しやすいため、小さいメジアン径を実現することが困難である。その結果、第1造粒体のメジアン径が、多孔質Al基材の平均開気孔径よりも大きくなり、充填量が減少する可能性がある。さらにNVが低くなると、混合物がスラリー化するため、第1造粒体が調製できない可能性もある。NVが100質量%である(すなわち溶媒が全く存在しない)場合、粒子の凝集が促進されず、第1造粒体を調製することが困難である。
【0012】
充填工程により第1造粒体が充填され、第1圧延工程を経た多孔質Al基材には、正極合材が密に充填されていると考えられる。なお、本明細書において「多孔質Al基材に正極合材が密に充填された」とは、正極単位面積当りにおける正極合材の充填量が19(mg/cm
2)以上であることを示す。
【0013】
しかしながら、充填工程により第1造粒体が充填され、第1圧延工程を経た多孔質Al基材を正極として電池を製造した場合、多孔質Al基材の表面で発生したバリが多孔質Al基材に充填された造粒体およびセパレータを貫通し、結果として短絡を発生させる可能性がある。
【0014】
本開示の製造方法では、第2造粒体調製工程で調製された第2造粒体が配置工程において第1圧延工程を経た多孔質Al基材上に配置される。配置工程を経た多孔質Al基材は、その後第2圧延工程により圧延される。これにより、多孔質Al基材表面に存在していたバリは、第2造粒体により被覆されると考えられる。
【0015】
図3は、正極製造装置で製造された正極を示す模式図である。
図3に示されるように、正極100は第1層100aおよび第2層100bを含む。第1層100aは、多孔質Al基材に第1造粒体が充填されたものである。第2層100bは、第2圧延工程により圧延された第2造粒体により形成される層である。すなわち、多孔質Al基材は、第2圧延工程により圧延された第2造粒体により形成される層である第2層100bにより被覆されている。これにより、多孔質Al基材表面に存在していたバリが物理的に抑え込まれるものと考えられる。すなわち、多孔質Al基材に正極合材が密に充填されつつ、短絡率を抑制し得る正極が得られるものと期待される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし以下の説明は本開示の範囲を限定するものではない。
【0018】
<リチウムイオン二次電池用正極の製造方法>
図1は、本開示の実施形態に係る正極の製造方法の概略を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、「(A)第1造粒体調製工程」、「(B)第2造粒体調製工程」、「(C)充填工程」、「(D)第1圧延工程」、「(E)配置工程」、および「(F)第2圧延工程」を含む。以下、本実施形態の製造方法が順を追って説明される。
【0019】
《(A)第1造粒体調製工程》
本実施形態の製造方法は、第1正極活物質、第1導電材、第1結着材、および第1溶媒を混合することにより、第1造粒体を調製する第1造粒体調製工程を含む。
【0020】
第1造粒体は、たとえば、攪拌造粒により調製される。本工程においては、一般的な攪拌造粒装置が使用され得る。たとえば、攪拌造粒装置の攪拌槽に、第1正極活物質、第1導電材、第1結着材、および第1溶媒が所定の質量比で投入され、攪拌、混合されることにより、第1造粒体が調製される。
【0021】
好ましくは、第1正極活物質と第1導電材とが予め混合される。第1導電材が第1正極活物質に付着することにより、電子伝導性が向上することが期待される。その後、第1正極活物質と第1導電材との混合物に対して、第1結着材および第1溶媒が混合されることにより、第1造粒体が調製され得る。
【0022】
本実施形態の第1造粒体は、85質量%以上100質量%未満のNVを有するように調製される。第1造粒体のNVが85質量%未満であると、第1造粒体の粒成長が進行しやすいため、小さいメジアン径を実現することが困難である。その結果、第1造粒体のメジアン径が、多孔質Al基材の平均開気孔径よりも大きくなり、充填量が減少する可能性がある。さらにNVが低くなると、混合物がスラリー化するため、第1造粒体が調製できない可能性もある。NVが100質量%である場合、粒子の凝集が促進されず、第1造粒体を調製することが困難である。第1造粒体は、好ましくは85質量%以上95質量%以下のNVを有するように調製される。
【0023】
さらに第1造粒体は、後述の多孔質Al基材の平均開気孔径よりも小さいメジアン径を有するように調製される。これにより第1造粒体が多孔質Al基材の内部まで入り込むことができ、充填量が増加すると考えられる。本明細書の「メジアン径」は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において微粒側から累積50%の粒径を示す。以下、メジアン径は「D50」とも記される。第1造粒体のD50は、NV、攪拌羽根の回転数、解砕羽根の回転数、攪拌時間等により調整され得る。攪拌羽根の回転数は、たとえば、3000〜6000rpm(典型的には4000〜5000rpm)であってもよい。攪拌時間は、たとえば、20〜60秒であってもよい。
【0024】
第1造粒体は、好ましくは多孔質Al基材の平均開気孔径の1/2(2分の1)未満、より好ましくは多孔質Al基材の平均開気孔径の1/3(3分の1)未満、最も好ましくは多孔質Al基材の平均開気孔径の1/4(4分の1)未満のD50を有するように調製される。多孔質Al基材の平均開気孔径が、たとえば600μmのとき、第1造粒体は、たとえば97μm以上121μm以下のD50を有するように調製されてもよい。
【0025】
(第1正極活物質)
第1造粒体は、たとえば80〜98.5質量%の第1正極活物質を含むように調製されてもよい。第1正極活物質は特に限定されるべきではない。第1正極活物質は、たとえば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiNi
xCo
yMn
zO
2(式中、x、y、zは、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たす)、LiFePO
4等であってもよい。1種の第1正極活物質が単独で使用されてもよいし、2種以上の第1正極活物質が組み合わされて使用されてもよい。第1正極活物質は、たとえば1〜30μmのD50を有してもよい。
【0026】
(第1導電材)
第1造粒体は、たとえば1〜15質量%の第1導電材を含むように調製されてもよい。第1導電材は特に限定されるべきではない。第1導電材は、たとえば、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、黒鉛等であってもよい。1種の第1導電材が単独で使用されてもよいし、2種以上の第1導電材が組み合わされて使用されてもよい。
【0027】
(第1結着材)
第1造粒体は、たとえば0.5〜5質量%の第1結着材を含むように調製されてもよい。結着材は特に限定されるべきではない。第1結着材は、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等であってもよい。1種の第1結着材が単独で使用されてもよいし、2種以上の第1結着材が組み合わされて使用されてもよい。
【0028】
(第1溶媒)
第1溶媒は、第1結着材の分散性または溶解性が考慮され、適切なものが選択されるべきである。たとえば、第1結着材がPVdFである場合、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶媒が第1溶媒として使用され得る。たとえば、第1結着材がPAA、CMC等である場合、水(純水)が第1溶媒として使用され得る。
【0029】
《(B)第2造粒体調製工程》
本実施形態の製造方法は、第2正極活物質と第2導電材と第2結着材と第2溶媒とを混合することにより、第2造粒体を調製する第2造粒体調製工程を含む。第2造粒体は、第1造粒体調製工程と同様の工程により製造し得る。第2正極活物質としては、第1正極活物質で例示された活物質を用い得る。第2導電材としては、第1導電材で例示された導電材を用い得る。第2結着材としては、第1結着材で例示された結着材を用い得る。第2溶媒としては、第1溶媒で例示された溶媒を用い得る。第1造粒体調製工程の詳細は、前述のとおりである。ここでは同じ説明が繰り返されない。第2造粒体は、85質量%以上100質量%未満のNVを有するように調製される。第2造粒体は、好ましくは第1造粒体が有するNV以上のNVを有し、かつ、90質量%以上95質量%以下のNVを有するように調製される。第2造粒体のNVをこのような値とすることにより、後述する第2圧延工程において溶媒(第1溶媒および/または第2溶媒)が第2造粒体から滲み出すことが抑制されるものと期待される。溶媒の滲み出しが発生した場合、搬送路、ロール等の清掃が必要になる場合もある。すなわち、生産性が低減する場合もある。そのため、溶媒の滲み出しは抑制されることが望ましい。
【0030】
《(C)充填工程》
本実施形態の製造方法は、第1造粒体を多孔質Al基材に充填する充填工程を含む。
【0031】
(多孔質アルミニウム基材)
多孔質Al基材はシート状でよい。多孔質Al基材は、たとえば、0.1〜1mm(典型的には0.2〜0.5mm)の厚さを有してもよい。多孔質Al基材は、たとえば、Al溶湯を発泡させ、その後凝固させることにより製造され得る。あるいは多孔質Al基材は、発泡樹脂にAlメッキを施し、その後発泡樹脂を熱処理により除去することによっても製造され得る。多孔質Al基材は、純アルミニウムによって構成されていてもよいし、アルミニウム合金によって構成されていてもよい。
【0032】
多孔質Al基材は、三次元網目構造を有し得る。多孔質Al基材が集電体として使用されることにより、Al箔が集電体である場合に比して、正極の厚さ方向の電子伝導性が向上することが期待される。
【0033】
多孔質Al基材は、複数の開気孔を含む。多孔質Al基材の平均開気孔径(「呼び孔径」と称される場合もある)は、次のようにして測定される。すなわち、多孔質Al基材の表面が電子顕微鏡(SEM)等によって観察される。無作為に20個の開気孔が抽出される。各開気孔のフェレー径が測定される。20個のフェレー径の算術平均が、平均開気孔径とされる。多孔質Al基材は、たとえば、150〜1000μmの平均開気孔径を有してもよい。電子伝導性および強度等の観点から、多孔質Al基材は、好ましくは300μm以上900μm以下の平均開気孔径を有し、より好ましくは450μm以上750μm以下の平均開気孔径を有し、最も好ましくは550μm以上650μm以下の平均開気孔径を有する。
【0034】
エネルギー密度の観点から、多孔質Al基材は高い空隙率を有することが望ましい。
空隙率は、下記式:
空隙率(%)=(1−多孔質Alの見かけ比重)÷Alの真比重×100%
により算出される。多孔質Al基材の見かけ比重は、多孔質Al基材の質量が多孔質Al基材の見かけ体積(=面積×厚さ)で除されることにより算出される。多孔質Al基材は、好ましくは75%以上の空隙率を有し、より好ましくは80%以上の空隙率を有し、最も好ましくは85%以上の空隙率を有する。機械的強度の観点から、多孔質Al基材は、たとえば、90%以下の空隙率を有してもよい。
【0035】
多孔質Al基材は、集電リードとの接続部を有していてもよい。たとえば、多孔質Al基材において接続部となるべき部分を予め圧延により潰しておくことが考えられる。これにより当該部分には、第1造粒体が侵入できないため、集電リードを溶接することができる。
【0036】
(製造装置)
図2は、正極製造装置の構成の一例を示す概略断面図である。正極製造装置1000は、第1充填槽10、第1充填ロール20、第1圧延ロール30、第2充填槽40、配置ロール50、および第2圧延ロール60を備える。第1充填槽10および第2充填槽40には、入口および出口が設けられている。第1充填槽10内には、第1充填ロール20が複数配置されている。第1充填槽10の出口には、第1圧延ロール30が配置されている。さらにその後には、第2充填槽40が配置されている。第2充填槽40内には、配置ロール50が複数配置されている。第2充填槽40の出口には、第2圧延ロール60が配置されている。各ロールに描かれた曲線矢印は、各ロールの回転方向を示している。
【0037】
第1充填槽10には、第1造粒体1が充填されている。多孔質Al基材2は、入口から第1充填槽10に供給される。第1充填ロール20が回転することにより、第1造粒体1が流動し、第1造粒体1が多孔質Al基材2内に入り込む。すなわち、第1造粒体1が多孔質Al基材2に充填される。
【0038】
《(D)第1圧延工程》
本実施形態の製造方法は、第1造粒体1が充填された多孔質Al基材2を圧延する第1圧延工程を含む。第1圧延ロール30による圧延により、多孔質Al基材2内に第1造粒体1が固定される。圧延は1回だけ実施されてもよいし、2回以上に分けて実施されてもよい。たとえば、第1造粒体1の充填直後に第1圧延が実施されることにより、第1造粒体1が多孔質Al基材2内に仮固定される。
【0039】
図2では、第1充填槽10の出口に第1圧延ロール30が配置されている。第1造粒体1が充填された多孔質Al基材2は、第1充填槽10から出た直後に第1圧延されることが望ましい。これにより第1造粒体1の脱落が抑制される。第1圧延工程における圧縮率は、50%以上である。圧縮率は、下記式:
圧縮率(%)=(圧縮前の厚さ−圧縮後の厚さ)÷圧縮前の厚さ×100%
により算出される。第1圧延工程における圧縮率を50%以上とすることにより、多孔質Al基材2の表面におけるバリの発生が抑制されると期待される。第1圧延工程における圧縮率は、60%以下であることが望ましい。第1圧延工程における圧縮率が60%を超えると、溶媒が滲み出すことがある。
【0040】
《(E)配置工程》
本実施形態の製造方法は、第1圧延工程を経た多孔質Al基材2上に第2造粒体3を配置する配置工程を含む。
【0041】
第2充填槽40には、第2造粒体3が充填されている。第1圧延工程を経た多孔質Al基材2は、入口から第2充填槽40に供給される。配置ロール50が回転することにより、第2造粒体3が流動し、第2造粒体3が第1圧延工程を経た多孔質Al基材2上に配置される。
【0042】
《(F)第2圧延工程》
本実施形態の製造方法は、第2造粒体3が配置された多孔質Al基材2を圧延する第2圧延工程を含む。多孔質Al基材2には、第1造粒体1が充填されている。図3に示されるように、第2圧延ロール60によって圧延された第2造粒体3により形成される層である第2層100bが、第1造粒体1が充填された多孔質Al基材2(すなわち、第1層100a)を被覆する。これにより、多孔質Al基材2表面に存在しているバリが第2層100bにより物理的に抑え込まれるものと考えられる。
【0043】
図2では、第2充填槽40の出口に第2圧延ロール60が配置されている。第2造粒体3が配置された多孔質Al基材2は、第2充填槽40から出た直後に第2圧延されることが望ましい。これにより第2造粒体3の脱落が抑制される。第2圧延工程における圧縮率は、55%以上である。圧縮率は、下記式:
圧縮率(%)=(圧縮前の厚さ−圧縮後の厚さ)÷圧縮前の厚さ×100%
により算出される。第2圧延工程における圧縮率を55%以上とすることで、多孔質Al基材2表面に存在しているバリが第2層100b(図3)により物理的に抑え込まれるものと期待される。第2圧延工程における圧縮率は、70%以下であることが望ましい。第2圧延工程における圧縮率が70%を超えると、溶媒が滲み出すことがある。
【0044】
図3には、第2圧延工程を経た正極100が示されている。正極100は、第1層100aおよび第2層100bを含む。第1層100aは、多孔質Al基材2を含む。多孔質Al基材2には、第1造粒体1が充填されている。第2層100bは、第2造粒体3が圧延されることにより形成された層である。第1層100aにおける正極合材層の密度(正極合材密度)は、第2層100bにおける正極合材密度よりも高いと考えられる。第1層100aは、第1圧延工程および第2圧延工程において圧延されるのに対して、第2層100bは第1圧延工程を経ないためである。
【0045】
《(G)乾燥工程》
本実施形態の製造方法は、正極100を乾燥する乾燥工程を更に含んでもよい。乾燥は、たとえば、熱風式乾燥炉、赤外線式乾燥炉等により行い得る。熱風式の場合、熱風温度は、たとえば、100〜160℃程度でよい。本実施形態では、第1造粒体1および第2造粒体3のNVが非常に高いため、乾燥の時間を短縮できる。これにより乾燥コストの低減が期待される。さらに本実施形態では、自然乾燥で足りる場合、あるいは乾燥が実質的に不要な場合もあり得る。
【0046】
《(H)第3圧延工程》
本実施形態の製造方法は、乾燥後の正極100をさらに圧延する第3圧延工程を含んでもよい。第3圧延工程では、正極100が最終的な厚さに調整される。正極100は、最終的に、たとえば50〜150μmの厚さを有するように圧延されてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は本開示の範囲を限定するものではない。
【0048】
<実施例1>
1.《(A)第1造粒体調製の調製(第1造粒体調製工程)》
以下の材料が準備された。
第1正極活物質:ニッケルマンガンコバルト酸リチウム
第1導電材:アセチレンブラック(AB)
第1結着材溶液:PVdFのNMP溶液
第1溶媒:NMP
多孔質Al基材:発泡Al(平均開気孔径600μm、厚さ0.3mm、空隙率85%)
【0049】
攪拌造粒装置の攪拌槽に、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、およびABが投入された。ニッケルマンガンコバルト酸リチウムおよびABが乾式で混合された。これにより粉体混合物が得られた。次いで、攪拌槽に、PVdFのNMP溶液およびNMPが投入された。ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、AB、PVdFおよびNMPが混合された。これにより第1造粒体1が調製された。第1造粒体1の固形分の配合は、「ニッケルマンガンコバルト酸リチウム:AB:PVdF=91:8:1(質量比)」とされた。第1造粒体1のNVは85質量%とされた。
【0050】
2.《(B)第2造粒体の調製(第2造粒体調製工程)》
第1造粒体1の調製方法と同様の調製方法により、第2造粒体3が調製された。第1造粒体1の調製方法の詳細は、前述のとおりである。ここでは同じ説明が繰り返されない。第2造粒体3のNVは、第1造粒体1と同様に85質量%とされた。
【0051】
3.《(C)充填工程および(D)第1圧延工程》
図2に示される正極製造装置1000が準備された。正極製造装置1000に、第1造粒体1および多孔質Al基材2が供給された。充填ロール20により、第1造粒体1が多孔質Al基材2に充填された。さらに第1造粒体1が充填された多孔質Al基材2が第1圧延ロール30により圧延された。第1圧延時における圧縮率は、50%とされた。
【0052】
4.《(E)配置工程、(F)第2圧延工程、(G)乾燥工程、および(H)第3圧延工程》
第2充填槽40に、第2造粒体3および第1圧延を経た多孔質Al基材2が供給された。配置ロール50より、第2造粒体3が第1圧延工程を経た多孔質Al基材2上に配置された。さらに第2造粒体3が配置された多孔質Al基材2が、第2圧延ロール60により圧延された。第2圧延時における圧縮率は、55%とされた。第2圧延ロール60により圧延された多孔質Al基材2は、図示しない乾燥器内で乾燥され、更に図示しない第3圧延ロールにより120μmまで圧延された。以上より正極100が準備された。正極100が所定の寸法に裁断された。以上より正極板が製造された。
【0053】
5.負極の準備
以下の材料が準備された。
負極活物質:グラファイト
結着材:CMCおよびスチレンブタジエンゴム(SBR)
溶媒:イオン交換水
負極集電体:Cu箔(厚さ8μm)
【0054】
プラネタリミキサにより、グラファイト、CMC、SBR、およびイオン交換水が混合された。これにより負極合材層スラリーが調製された。負極合材層スラリーの固形分組成は、質量比で「グラファイト:CMC:SBR=98.5:0.75:0.75」とされた。負極合材層スラリーのNVは55%とされた。該スラリーがCu箔の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥されることにより、負極合材層が形成された。
【0055】
ロール圧延機により、負極合材層およびCu箔が圧縮された。以上より負極が準備された。負極が所定の寸法に裁断された。以上より負極板が製造された。
【0056】
6.電池の製造
セパレータとしてポリエチレン多孔質膜(厚さ16μm)が準備された。セパレータを挟んで、正極板と負極板とが対向するように、正極板と負極板とが積層された。これにより電極群が構成された。電極群に外部端子が溶接された。外装体としてアルミラミネート製の袋が準備された。外装体に電極群が挿入された。外装体に電解液が注入された。電解液は以下の成分を含む。外装体が密閉された。これにより電池が製造された。
【0057】
溶媒:[EC:DMC:EMC=3:4:3(体積比)]
支持電解質:LiPF
6(1mоl/l)
なお、ECはエチレンカーボネートであり、DMCはジメチルカーボネートであり、EMCはエチルメチルカーボネートであり、LiPF
6はヘキサフルオロ燐酸リチウムである。
【0058】
<実施例2〜実施例9>
下記表1に示されるように、第1造粒体1のNVおよび第2造粒体3のNVが変更されたことを除いては、実施例1と同様に正極100および電池が製造された。
【0059】
<比較例1〜比較例6>
下記表1に示されるように、第1造粒体1のNVおよび第1圧延時における圧縮率が変更されたこと、ならびに、第2造粒体調製工程(B)、配置工程(E)、および第2圧延工程(F)が省略されたことを除いては、実施例1と同様に正極100および電池が製造された。比較例1〜比較例6に係る正極100は、図3に示されるような2層100bは有さず、第1層100aからなる構成を有する。
【0060】
<比較例7〜比較例15>
下記表1に示されるように、第1造粒体1のNV、第1圧延時における圧縮率、および第2造粒体3のNVが変更されたことを除いては、実施例1と同様に正極100および電池が製造された。
【0061】
<評価>
(正極単位面積当りにおける正極合材の充填量)
打ち抜きポンチにより、多孔質Al基材2から20個の円板試料(直径2cm)が打ち抜かれた。精密天秤により、20個の円板試料の質量が測定された。20個の算術平均値が算出された。以下、この算術平均値はブランク値と称される。
【0062】
同様に正極100から、20個の円板試料が打ち抜かれた。精密天秤により円板試料の質量が測定された。円板試料の質量からブランク値が差し引かれることにより、正極合材の充填量が算出された。充填量の算術平均値が算出された。結果は下記表1に示されている。下記表1の「充填量試験」の欄に示される「A」および「B」は、以下の内容を示している。結果が「A」であれば、多孔質Al基材2に正極合材が密に充填されていると考えられる。
【0063】
A:正極単位面積当りにおける正極合材の充填量(算術平均値)が、19(mg/cm
2)以上である。
B:正極単位面積当りにおける正極合材の充填量(算術平均値)が、19(mg/cm
2)未満である。
【0064】
(短絡率の調査)
実施例および比較例に係る電池が、それぞれ100個用意された。電池が2枚の板材の間に挟み込まれた。板材により、500kgfの力で電池が押圧された。その後、4.1V〜3.0V間で1Cの充放電が5サイクル行われた。各電池の総数に対する「短絡が発生した電池の数」の割合(百分率)が調査された。結果は下記表1の「短絡率」の欄に示されている。値が低いほど、短絡の発生が抑制されていることを示す。
【0065】
(滲み出し調査)
実施例および比較例に係る電池において、溶媒の染み出しが発生しているかを調査した。結果は下記表1の「滲み出し調査」の欄に示されている。下記表1における「○」およびは、それぞれ以下の内容を示す。
「○」は、電池中に溶媒が滲み出さなかったことを示す。
「×」は、僅かであっても電池中に溶媒が滲み出したことを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
<結果>
上記表1に示されるように、実施例では、比較例に比して短絡率が抑制されていた。また、全ての実施例において、正極単位面積当りにおける正極合材の充填量(算術平均値)は、19(mg/cm
2)以上であった。すなわち、多孔質Al基材2に正極合材が密に充填されつつ、短絡率を抑制し得る正極100が提供されることが示された。
【0068】
第2造粒体調製工程(B)、配置工程(E)、および第2圧延工程(F)が省略された比較例1〜比較例6は、短絡率が特に高かった。多孔質Al基材2の表面で発生したバリが該多孔質Al基材2に充填された第1造粒体1およびセパレータを貫通し、短絡を発生させたものと考えられる。
【0069】
第1圧延工程(C)における圧縮率が20%である比較例7〜比較例15は、実施例に比して短絡率が高かった。第1圧延工程(C)における圧縮率が50%未満であったため、多孔質Al基材2におけるバリの発生が抑制されなかった可能性がある、加えて、第1圧延工程(C)における圧縮率が不足していたため、第1層100a(図3)の表面が粗かった可能性がある。そのため、配置工程(E)において第2層100b(図3)が第1層100a(図3)の表面に安定して配置されなかった可能性がある。
【0070】
実施例の結果から、第2造粒体3が第1造粒体1が有するNV以上のNVを有し、かつ、90質量%以上95質量%以下のNVを有するように調製された場合、溶媒の滲み出しが抑制される傾向を示すことが確認された。第1造粒体1は2回圧延される。そのため、第1造粒体1から溶媒が滲み出す可能性がある。第2造粒体3のNVを上記のように調製することにより、1造粒体1から滲み出した溶媒が第2造粒体3により吸収されたものと考えられる。
【0071】
上記の実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記の説明ではなくて、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。