(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2019145560
(43)【公開日】20190829
(54)【発明の名称】磁性材料および磁性素子
(51)【国際特許分類】
   H01F 10/10 20060101AFI20190802BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20190802BHJP
【FI】
   !H01F10/10
   !H01L29/82 Z
   !H01L43/08 Z
   !H01L27/105 447
   !H01L43/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】2018025897
(22)【出願日】20180216
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目5番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 勇希
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目5番1号 日本電信電話株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】ヨシハル クロッケンバーガー
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目5番1号 日本電信電話株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目5番1号 日本電信電話株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】谷保 芳孝
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目5番1号 日本電信電話株式会社内
【テーマコード(参考)】
4M119
5E049
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA01
4M119AA06
4M119AA10
4M119BB01
4M119BB13
4M119CC05
4M119DD03
4M119JJ05
5E049AB10
5E049AC03
5E049BA30
5E049DB04
5E049GC01
5E049HC03
5F092AA04
5F092AA08
5F092AC12
5F092AC22
5F092BB34
5F092BE13
5F092BE15
5F092BE21
5F092BE24
5F092BE25
5F092CA01
5F092CA02
(57)【要約】
【課題】キュリー温度がより高い磁性材料が実現できるようにする。
【解決手段】この磁性材料は、Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)からなり、強磁性またはフェリ磁性を有するダブルペロブスカイト構造の絶縁体から構成されている。絶縁体は、x=y=0としたSr3OsO6であればよい。Sr3OsO6は、ストロンチウム原子101、オスミウム原子102、酸素原子103が、格子点に配置された立方晶系の結晶構造とされている
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)からなり、強磁性またはフェリ磁性を有するダブルペロブスカイト構造の絶縁体から構成され、
Srの原子組成百分率が25〜35at%とされている
ことを特徴とする磁性材料。
【請求項2】
請求項1記載の磁性材料において、
前記絶縁体は、Sr3OsO6から構成されていることを特徴とする磁性材料。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁性材料において、
前記絶縁体は、立方晶系の結晶構造とされていることを特徴とする磁性材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の強磁性材料からなる磁性層と、
前記磁性層を挟んで形成された第1電極および第2電極と
を備えることを特徴とする磁性素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性またはフェリ磁性を有する磁性材料およびこの磁性材料を用いた磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性またはフェリ磁性を有する絶縁体である磁性材料(以降では強磁性絶縁体と称する)は、強磁性金属に比べ比抵抗が大きいという特徴を持ち、永久磁石、磁心材料、アイソレーターやサーキュレーターなど幅広い応用先がある。上述した強磁性絶縁体の代表的な特性(物性値)としては、キュリー温度(TC)、初透磁率、相対損失係数、飽和磁束密度、保磁力などがあげられる。特にTCは、強磁性(またはフェリ磁性)の性質を失い常磁性となる温度であり、TCが高いほど熱安定性が高く、高温まで安定な動作特性が得られる。
【0003】
また、ペロブスカイト構造またはダブルペロブスカイト構造を有する強磁性絶縁体は、代表的な酸化物エレクトロニクス材料であるSrTiO3(ペロブスカイト構造)との整合性が高いため、酸化物を利用したスピンエレクトロニクス応用[磁気抵抗メモリ(MRAM)やスピンMOSFETなど]へ向けて有望である(非特許文献1)。
【0004】
表1に既存の代表的な強磁性絶縁体のTC、飽和磁化、結晶形を示す(非特許文献2)。従来の最高のTCは、スピネル型構造を有するLiFe58における943Kである。また、ダブルペロブスカイト構造を有する強磁性絶縁体としては、Sr2CrOsO6におけるTC=725Kが最高値である。
【0005】
【表1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Sugahara, and M. Tanaka, "A spin metal-oxide-semiconductor field-effect transistor using half-metallic-ferromagnet contacts for the source and drain", Applied Physics Letters, vol. 84, no. 13, pp. 2307-2309, 2004.
【非特許文献2】P. D. BABA, et al., "Fabrication and Properties of Microwave Lithium Ferrites", IEEE Transactions on Magnetics, vol. MAG-8, no. 1, pp. 83-94, 1972.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の強磁性絶縁体では、スピントロニクスデバイスとして、高い熱安定性を備えるために要求されている値より、キュリー温度が低いという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、キュリー温度がより高い磁性材料が実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁性材料は、Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)からなり、強磁性またはフェリ磁性を有するダブルペロブスカイト構造の絶縁体から構成され、Srの原子組成百分率が25〜35at%とされている。
【0010】
上記磁性材料において、絶縁体は、Sr3OsO6から構成されている。
【0011】
上記磁性材料において、絶縁体は、立方晶系の結晶構造とされている。
【0012】
本発明に係る磁性素子は、上述した強磁性材料からなる磁性層と、磁性層を挟んで形成された第1電極および第2電極とを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、Sr3-xxOs1-yy6からなる絶縁体を用いるようにしたので、キュリー温度がより高い磁性材料が実現できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における磁性材料として用いるSr3OsO6の結晶構造を示す斜視図である。
【図2】図2は、SrTiO3(001)からなる成長基板201の上にSr3OsO6からなる磁性材料層202を作成した状態を示す断面図である。
【図3】図3は、磁性材料層202の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡像を示す写真である。
【図4】図4は、成長基板201と磁性材料層202との界面における透過型電子顕微鏡像を示す写真である。
【図5】図5は、2000Oeの磁場中における磁性材料層202の磁化の温度依存性を示す特性図である。
【図6】図6は、磁性材料層202の比抵抗(ρ)の温度依存性を示す特性図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態における磁性素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態おける磁性材料について説明する。この磁性材料は、Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)からなり、強磁性またはフェリ磁性を有するダブルペロブスカイト構造の絶縁体から構成されている。また、この磁性材料は、Srの原子組成百分率が25〜35at%とされている。ここで、上述した絶縁体は、x=y=0としたSr3OsO6であればよい。
【0016】
また、実施の形態における磁性体を構成するSr3OsO6は、図1に示すように、ストロンチウム原子101、オスミウム原子102、酸素原子103が、格子点の配置された立方晶系の結晶構造とされている。最も簡単な組成であるSr3OsO6から構成した磁性材料は、3構成元素(Sr,Os,O)のみから作製可能なため、表1に記載した従来の4元素から構成されるダブルペロブスカイト構造の強磁性絶縁体に比べ、組成を制御しやすいという利点も持つ。Sr3OsO6から構成した実施の形態における磁性材料は、キュリー温度TC=1060Kである。なお、立方晶系に限らず、斜方晶形(直方晶系)、正方晶系であってもよい。
【0017】
以下、実験の結果を用いてより詳細に説明する。
【0018】
まず、実験では、Sr3OsO6による磁性材料を作製した。図2に示すように、成長のためのSrTiO3(001)からなる成長基板201の上に、よく知られた分子線エピタキシー法によりSr3OsO6を成長し、磁性材料層202を形成した。なお、成長基板は、MgO(001)、(La0.3Sr0.7)(Al0.65Ta0.35)O3(001)などの材料を用いてもよい。
【0019】
分子線エピタキシーによる磁性材料層202の形成では、超高真空とした処理槽内で、基板温度650℃の条件で、アルカリ土類金属Sr、5d遷移金属Osの原子線を所定の組成比となるように10-6Torr程度の活性酸素雰囲気下で供給することによりSr3OsO6を成長した。磁性材料層202は、層厚300nmに形成した。
【0020】
作製した磁性材料層202について、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF−STEM)により観察した結果(顕微鏡像)について、図3を用いて説明する。図3の(a)は、磁性材料層202に、[100]方向から電子線を入射して取得した像である。また、図3の(b)は、磁性材料層202に、[110]方向から電子線を入射して取得した像である。
【0021】
図3に示すように、磁性材料層202は、SrとOs原子が高秩序に配列しており、立方晶のダブルペロブスカイト型構造を有する単結晶であることがわかる。酸素原子の配列は、環状明視野走査透過顕微鏡(ABF−STEM)像によって確かめられた。また、作製した磁性材料層202が、立方晶のダブルペロブスカイト構造を有していることは、分子線エピタキシー装置内における真空一貫での反射高速電子線回折(RHEED)測定、分子線エピタキシー装置外の大気中でのX線回折(XRD)θ−2θ測定からも確かめられた。
【0022】
図4に、成長基板201と磁性材料層202との界面における透過型電子顕微鏡像を示す。磁性材料層202が、成長基板201からエピタキシャルに単結晶成長していることが分かる。磁性材料層202と成長基板201の結晶方位関係は、Sr3OsO6[001]//SrTiO3[001]ならびにSr3OsO6[100]//SrTiO3[100]である。
【0023】
図5に2000Oeの磁場中における磁性材料層202の磁化の温度依存性を示す。1000Kにおいても5emu/cc以上の磁化が残っており、1000K以上のTCを有している。また、磁性材料層202の1.9Kにおける70000Oe磁場中での飽和磁化は49emu/ccであり、表1に示した代表的な強磁性絶縁体(またはフェリ磁性絶縁体)と比較して小さな値を持つ。磁性材料層202の1.9Kにおける保磁力は100Oeであった。また、磁性材料層202の自発磁化は、700Kにおいて消失した。なお、磁性材料層202の各元素の組成は、原子組成百分率のずれが±5%以内であれば1000K以上の高いTCが得られる。
【0024】
図6に磁性材料層202の比抵抗(ρ)の温度依存性を示す。室温付近の300Kにおいて、比抵抗は75Ωcmであり、比抵抗は温度低下と共に指数関数的に上昇する典型的な絶縁体の電気特性を有している。この結果よりわかるように、磁性材料層202は、室温において10Ωcm以上の高い比抵抗を持つ絶縁体である。なお、比抵抗と温度(T)はIn(ρ)∝T-1/4の関係を持っていることから、電気伝導は、バリアブルレンジホッピング(Variable-Range-Hopping)により起こっている。
【0025】
ところで、上述では、Sr3OsO6を例にして説明したが、Srの一部をアルカリ原子またはアルカリ土類原子(A)で置換したSr3-XXOsO6においても、−0.5<X<0.5の範囲であれば、1000K以上の高いTCが得られる。また、Osの一部を遷移金属原子(B)で置換したSr3-XXOs1-YY6においても、−0.5<Y<0.5の範囲であれば、1000K以上の高いTCが得られる。このように、磁性材料は、Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)からなるダブルペロブスカイト構造の絶縁体から構成されていれば、上述同様に、1000K以上の高いTCが得られるものと考えられる。
【0026】
なお、Sr3OsO6の特性は、成長方法に依存しない。例えば、スパッタリングやパルスレーザーアブレーションを用いて磁性材料の層を形成しても同様の結果が得られる。
【0027】
このような1000K以上のTCを持つ強磁性絶縁体の報告例はなく、今回初めて合成されたものである。本発明により、熱安定性の良い強磁性絶縁体を用いたデバイス応用が可能になる。
【0028】
次に、本発明の実施の形態における磁性素子について図7を参照して説明する。この磁性素子は、上述した強磁性材料からなる磁性層301と、磁性層301を挟んで形成された第1電極302および第2電極303とを備える。この磁性素子は、例えば、トンネル磁気抵抗(TMR)素子である。第1電極302は、例えば、Nb:SrTiO3のような導電性の酸化物基板である。また、第2電極303は、例えば、FeやCoのような強磁性金属から構成すればよい。第2電極303は、スパッタ法、電子ビーム蒸着法などの成膜法により作製すればよい。第2電極303は、厚さ20−30nm程度に形成すればよい。作製した磁性素子に5mVの電圧を印加した際のトンネル磁気抵抗比は、室温(300K)において500%以上であり、磁性材料層202を用いた磁性素子は、非常に大きなトンネル磁気抵抗比を示す。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、Sr3-xxOs1-yy6(−0.5≦x≦0.5,−0.5≦y≦0.5,A:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子、B:遷移金属原子,アルカリ金属原子,またはアルカリ土類金属原子)から磁性材料を構成したので、キュリー温度がより高い磁性材料が実現できる。
【0030】
極めて高いTC(すべての酸化物および絶縁体において最高値)を持つ本発明の磁性材料は、熱安定性が良く、高温での動作にも耐えうる。また、この磁性材料を用いることで、熱安定性が良く、高温での動作にも耐えうる磁性素子が作製できる。
【0031】
また、Sr3OsO6から構成した磁性材料は、飽和磁化が49emu/ccと小さいため、磁性材料からの漏洩磁場は小さく、この磁性材料を用いた磁性素子を高集積化した際の素子間の磁気的干渉が低減される。また、小さな飽和磁化は、低消費電力でのスピン注入磁化反転を可能にする。
【0032】
また、本発明の磁性材料は、例えば、酸化物基板の上に単結晶エピタキシャル成長させることが容易であり、酸化物を用いた他の電子素子と非常に整合性の高い材料である。また、例えば、Sr3OsO6からなる磁性材料による磁性層を用いたTMR素子は、室温において500%以上の大きな磁気抵抗比が得られ、上述した各特徴とあわせて、スピンエレクトロニクス素子として非常に有望である。
【0033】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0034】
101…ストロンチウム原子、102…オスミウム原子、103…酸素原子、201…成長基板、202…磁性材料層、301…磁性層、302…第1電極、303…第2電極。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】