上記第2元素が2価元素と4価元素とを含み、上記2価元素の原子数と上記4価元素の原子数とが実質的に等量で存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電膜。
上記AlN結晶に添加されていると共に、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、1価元素であり、かつ、上記第1元素とは異なる元素からなる第3元素をさらに含有し、上記第2元素が5価元素であり、該5価元素の原子数と上記1価元素の原子数とが実質的に等量で存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電膜。
上記AlN結晶に添加されていると共に、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、4価元素であり、かつ、上記第1元素とは異なる元素からなる第4元素をさらに含有し、上記第2元素が2価元素であり、該2価元素の原子数と上記4価元素の原子数とが実質的に等量で存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電膜。
上記AlN結晶に添加されていると共に、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、2価元素であり、かつ、上記第1元素とは異なる元素からなる第5元素をさらに含有し、上記第2元素が4価元素であり、該4価元素の原子数と上記2価元素の原子数とが実質的に等量で存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電膜。
上記下地材料が、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価元素が添加されたGaN、Inよりも4配位でのイオン半径の大きな3価元素が添加されたInN、InN、又はTiからなる、請求項10又は11に記載の圧電膜積層体。
上記下地材料が、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたZnO、又はSc、Y、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたGaNからなる、請求項10〜12のいずれか1項に記載の圧電膜積層体。
上記下地材料は、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価以外の元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたGaN、又はInよりも4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたInNからなる、請求項10又は11に記載の圧電膜積層体。
上記圧電膜のScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超える、請求項10〜17のいずれか1項に記載の圧電膜積層体。
上記下地材料が、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価元素が添加されたGaN、4配位でのイオン半径の大きな3価元素が添加されたInN、InN、又はTiからなる、請求項19又は20に記載の圧電膜積層体の製造方法。
上記下地材料が、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたZnO、又はSc、Y、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたGaNからなる、請求項19〜21のいずれか1項に記載の圧電膜積層体の製造方法。
上記下地材料は、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価以外の元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたGaN、又は4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたInNからなる、請求項19又は20に記載の圧電膜積層体の製造方法。
上記圧電膜のScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超える、請求項24〜26のいずれか1項に記載の圧電膜積層体の製造方法。
六方晶と立方晶との積層型の結晶構造を有するScAlNからなり、上記立方晶のScAlNに3価元素以外の元素からなる導電性付与元素が添加された、圧電膜(111)。
上記導電性付与元素が、1族、2族、12族、及び遷移金属元素(ただし、Sc、Y、ランタノイド、及びアクチノイドを除く)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項30又は31に記載の圧電膜。
上記ScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超える、請求項30〜32のいずれか1項に記載の圧電膜。
上記導電性付与元素が、1族、2族、12族、及び遷移金属元素(ただし、Sc、Y、ランタノイド、及びアクチノイドを除く)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項34に記載の圧電膜の製造方法。
上記ScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超える、請求項34又は35に記載の圧電膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スカンジウムが添加された窒化アルミニウム膜では、スカンジウムの添加量を増やすほど圧電性能が高まる傾向にある。しかしながら、スカンジウムの添加量を増やし過ぎると、圧電性能が急激に低下する。
【0006】
これは、スカンジウム添加量を所定の値を超えて高めると、窒化アルミニウム膜内にその厚み方向と直交方向に大きな圧縮応力が発生するためであると考えられる。そして、圧縮応力によって窒化アルミニウム膜内に立方晶が生成し、この立方晶の窒化アルミニウムが増えることにより圧電性能が低下すると考えられる。圧電特性の高い窒化アルミニウムは、六方晶のウルツァイト構造型である。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、優れた圧電性能を示す圧電膜、その製造方法、圧電膜積層体、その製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、AlN結晶と、
該AlN結晶に添加されていると共に、4配位でのイオン半径がAlよりも大きな第1元素と、
上記AlN結晶に添加されている共に、4配位でのイオン半径がAlよりも小さな第2元素と、を含有し、
上記第1元素の原子数とAlの原子数との総量100at%に対する上記第1元素の原子数の占める割合が43at%を超える、圧電膜(1)にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、下地層(2)と、
該下地層の表面に形成されたScAlNからなる圧電膜(11)と、を有し、
上記ScAlNの結晶のc軸と平行方向から上記下地層の結晶構造を観察したときに、上記下地層は、6回対称の結晶格子を有する共に、該6回対称の結晶格子におけるa軸長が上記ScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる、圧電膜積層体(5)にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、下地層(2)と、
該下地層の表面に形成されたScAlNからなる圧電膜(11)と、を有し、
上記ScAlNの結晶のc軸と平行方向から上記下地層の結晶構造を観察したときに、上記下地層は、3回対称の結晶格子を有すると共に、上記下地層の表面と平行な格子面における最も近接する原子間の距離が上記ScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる、圧電膜積層体(5)にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、下地層(2)と、該下地層の表面に形成されたScAlNからなる圧電膜(11)とを有する圧電膜積層体(5)の製造方法において、
上記下地層の厚み方向から該下地層の結晶構造を観察したときに、6回対称の結晶格子を有し、該6回対称の結晶格子におけるa軸長が上記ScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる下地層を準備する下地層準備工程と、
上記下地層上にScAlNよりなる圧電膜をエピタキシャル成長させる、成膜工程と、を有する、圧電膜積層体の製造方法にある。
【0012】
本発明の第5の態様は、下地層(2)と、該下地層の表面に形成されたScAlNからなる圧電膜(11)とを有する圧電膜積層体(5)の製造方法において、
上記下地層の厚み方向から該下地層の結晶構造を観察したときに、3回対称の結晶格子を有し、上記下地層の表面と平行な格子面における最も近接する原子間の距離が上記ScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる下地層を準備する下地層準備工程と、
上記下地層上にScAlNよりなる圧電膜をエピタキシャル成長させる、成膜工程と、を有する、圧電膜積層体の製造方法にある。
【0013】
本発明の第6の態様は、六方晶と立方晶との積層型の結晶構造を有するScAlNからなり、上記立方晶のScAlNに3価元素以外の元素からなる導電性付与元素が添加された、圧電膜(111)にある。
【0014】
本発明の第7の態様は、基板(3)上にScAlNからなる圧電膜(111)を成膜することにより、圧電膜を製造する方法であって、
上記圧電膜の成膜初期に3価以外の元素からなる導電性付与元素を添加しながら上記圧電膜をエピタキシャル成長させる成膜初期工程と、
該成膜初期工程後に、上記導電性付与元素を実質的に添加することなく、上記圧電膜を成長させる成膜後期工程と、を有する、圧電膜の製造方法にある。
【発明の効果】
【0015】
上記第1の態様の圧電膜、上記第2及び第3の態様の圧電膜積層体、上記第6の態様の圧電膜は、圧電定数d
33などの圧電性能に優れる。したがって、これらの圧電膜、圧電積層体は、圧電デバイスの小型化、省電力化に寄与しうる。
【0016】
上記第4及び第5の態様の圧電膜積層体の製造方法は、下地層準備工程と成膜工程とを有する。下地層準備工程では、下地層を準備する。第4の態様では、下地層は、その厚み方向から結晶構造を観察したときに6回対称の結晶格子を有し、そのa軸長がScAlNのa軸長よりも長い。第5の態様では、下地層は、その厚み方向から結晶構造を観察したときに、3回対称の結晶格子を有し、下地層の表面と平行な格子面における最も近接する原子間の距離がScAlNのa軸長よりも長い。そして、第4及び第5の態様における成膜工程においては、このような構造を有する下地層上に圧電膜をエピタキシャル成長させる。
【0017】
成膜工程においては、ScAlNの成長中に生じる通常の圧縮応力だけでなく、圧縮応力とは反対向きの引張応力が発生する。圧電膜は下地層の結晶格子と格子整合をとりながら成長するからである。つまり、ScAlNのa軸長よりも長いa軸長や上述の原子間距離を有する下地層と格子整合をとりながらエピタキシャル成長が起こることにより、ScAlNのa軸方向(つまり、圧電膜の厚み方向と直交方向)に引張応力が発生する。
【0018】
したがって、成膜工程では相互に逆向きのベクトルを有する圧縮応力と引張応力とが相互に弱め合う。その結果、六方晶のウルツァイト構造のScAlNが生成しやすくなる。その結果、圧電膜中の六方晶のScAlNの含有割合が増大し、圧電性能に優れた圧電積層体を得ることが可能になる。
【0019】
上記第7の態様の圧電膜の製造方法は、成膜初期工程と成膜後期工程とを有する。成膜初期工程においては、圧電膜の成膜初期に3価以外の元素からなる導電性付与元素を添加しながら上記圧電膜をエピタキシャル成長させる。圧電膜の成長初期においては、圧電性能の低い立方晶のScAlNが生成されやすい。成膜初期工程において、上記のように導電性付与元素を添加すると、圧電性能の低い立方晶などの領域に導電性を付与することができる。
【0020】
成膜後期工程においては、導電性付与元素を実質的に添加することなく、圧電膜を成長させる。これにより、導電性付与元素が添加されたScAlN上に、導電性付与元素を実質的に含有しないScAlNが成長する。これにより、導電性を有するScAlNと、導電性を実質的に有さないScAlNとが積層された圧電膜を得ることができる。圧電膜における導電性を有する領域は、例えば電極として利用することが可能になる。
【0021】
一方、成膜後期工程において、十分な厚みで成膜を行うことにより、圧電性能に優れた六方晶のウルツァイト構造のScAlNが生成する。導電性を有するScAlNは、電極として役割を果たすことができるため、圧電膜の圧電性能低下の原因となりにくい。したがって、圧電性能に優れた圧電膜を得ることが可能になる。
【0022】
以上のごとく、上記態様によれば、優れた圧電性能を示す圧電膜、その製造方法、圧電膜積層体、その製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施形態1]
圧電膜に係る実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。圧電膜1は、例えばスパッタリングにより、図1に例示されるように、基板3の表面に形成される。
【0025】
圧電膜1は、例えば、AlN結晶と第1元素と第2元素とを含有する。圧電膜1は、圧電薄膜などとも呼ばれる。第1元素及び第2元素は、AlN結晶に添加されており、AlN結晶に固溶している。第1元素及び第2元素は、Alサイトの一部に添加されていると考えられる。
【0026】
<AlN結晶>
AlN結晶の結晶構造には、六方晶系のウルツァイト構造と、立方晶系の閃亜鉛鉱構造とが知られている。六方晶のAlN結晶がエネルギー的に安定であり、圧電定数d
33等の圧電性能も高い。AlN結晶において、Alは3価かつ4配位で存在している。
【0027】
<第1元素>
第1元素は、4配位でのイオン半径がAlよりも大きな元素である。3価で4配位のAlのイオン半径は0.39Åであるから、4配位でのイオン半径が0.39Åを超える元素が第1元素の候補となる。このような第1元素がAlN結晶に添加されることにより、圧電膜の圧電性能が向上すると考えられる。
【0028】
第1元素は希土類元素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合には、圧電定数d
33等の圧電性能の向上効果がより高まる。圧電性能の向上効果をさらに高めるという観点から、第1元素はScであることがより好ましい。
【0029】
<第2元素>
第2元素は、4配位でのイオン半径がAlよりも小さな元素である。3価で4配位のAlのイオン半径は0.39Åであるから、4配位でのイオン半径が0.39Å未満の元素が第2元素の候補となる。第2元素の添加により、第1元素が多く添加されたAlN結晶の圧電性能が向上する。この理由について、図2〜図6に例示される従来の圧電膜を参照しながら以下の通り考察する。
【0030】
まず、ScがAlN結晶に添加された従来の圧電膜について説明する。図2に例示されるように、AlN結晶に添加するSc量を増やすと、圧電定数d
33が向上するが、Scの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの原子数が43at%を超えるSc高濃度領域までSc量を増やすと圧電定数d
33が低下し、低下幅も大きい。理想的には図2の破線に示すように、Sc量に依存して圧電定数d
33が向上することが望まれている。
【0031】
一方、図3(a)、図4(a)に、シリコンなどからなる基板上に成膜された圧電膜の断面の電子顕微鏡写真を示す。圧電膜は、Scが添加されたAlN結晶からなる。図3(a)に例示されるように、Scの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの原子数が48.1at%の場合では、圧電膜中に圧電性能の高い六方晶だけでなく、圧電性能のない又は圧電性能が非常に低い立方晶が生成している。また、図4(a)に例示されるように、さらにScの添加量を増やしてSc原子数が49.8at%になると、立方晶が増えている。つまり、Sc高濃度領域での圧電性能の低下は、立方晶のScAlNの生成により起こり、立方晶のScAlNが増えるほど、圧電性能が低下すると考えられる。ScAlNは、Scが添加されたAlNを意味する。Scは、AlNのAlサイトの一部に添加されていると考えられる。
【0032】
図3(b)、図4(b)に例示されるように、圧電膜の厚み方向の断面において、立方晶から六方晶に切り替わる点はほぼライン上に並んでいるように見える。切り替わる点は、図3(b)、図4(b)において、ジグザグ状の実線にて示す相境界線(つまり立方晶と六方晶とのヘテロ界面)の基板側の頂点である。これらは図5に例示される破線上に並んでいるように見える。なお、図5は、Scの原子数が48.1at%である圧電膜についてのものであるが、Scの原子数が49.8at%の圧電膜についても同様であると考えられる。そこで、Sc高濃度領域では膜応力に膜厚方向分布が存在し、図5において破線で表される相境界線の基板側の頂点を結ぶ線上で閾値をまたぐのではないかと考え、以下の通り実測した。
【0033】
具体的には、Scが添加されたAlNよりなる従来の圧電膜の膜応力プロファイル結果を図6に示す。この圧電膜は、ScAlNよりなり、シリコン基板上に成長させることにより作成したものである。図6より知られるように、基板と圧電膜との界面から離れるにつれて圧電膜内の圧縮応力が低下しているが、界面付近では、圧縮応力が大きい。Sc添加量が高いSc高濃度領域では、圧縮応力がより大きくなると考えられる。なお、図6において、実測点○と実測点×は複数の方向の1次元の反りを測定して求めた結果である。
【0034】
このように、立方晶のScAlNは、基板から成長するScAlNの結晶に生じる圧縮応力に起因して生成すると考えられる。つまり、Alよりも4配位でのイオン半径が大きなScのような第1元素を多量に添加することにより、ScAlN内に発生する圧縮応力が大きくなり、その結果、立方晶が多く生成すると考えられる。
【0035】
圧電膜が、AlN結晶内において3価かつ4配位で存在するAlよりもイオン半径の小さな第2元素を第1元素と共に含有すると、成膜中における圧縮応力を緩和させるか、あるいは打ち消す引張応力を生じさせることができる。したがって、成膜中に立方晶が生成しにくくなる。特に、上述のように、第1元素の原子数とAlの原子数との総量100at%に対する第1元素の原子数の占める割合が43at%を超える第1元素高濃度領域では、圧縮応力が大きくなるため、この圧縮応力を緩和させる第2元素の添加効果が増大する。
【0036】
したがって、第2元素の添加効果を十分に得るという観点から、第1元素の原子数とAlの原子数との総量100at%に対する第1元素の原子数の占める割合が43at%を超えることが好ましい。
【0037】
第2元素は3価元素であることが好ましい。この場合には、第2元素の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、第2元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。また、この場合には、少なくとも1種類の第2元素の添加により、効果が発現するため添加量の調整が容易になる。具体的には第2元素はBであることがより好ましい。
【0038】
また、第2元素として1価元素と5価元素との両方を含むことができる。この場合には、1価元素の原子数と5価元素の原子数とが実質的に等量となるように存在していることが好ましい。これにより、1価元素と5価元素の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、1価元素と5価元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。「実質的に等量」は、圧電膜の電気絶縁性が保てる割合であれば必ずしも完全に等量である必要はないが、1価元素の原子数と5価元素の原子数とが等量で存在していることがより好ましい。後述の2価元素と4価元素の場合等についても同様である。
【0039】
また、第2元素として2価元素と4価元素との両方を含むことができる。この場合には、2価元素の原子数と4価元素の原子数とが実質的に等量となるように存在していることが好ましい。これにより、2価元素と4価元素の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、2価元素と4価元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。
【0040】
第2元素として2価元素と4価元素とを含む場合には、2価元素としては、Beが例示される。4価元素としては、C及びSiの少なくとも一方が例示される。
【0041】
また、第2元素としては、圧電膜の絶縁性が保たれる配合割合となるように、2価元素、4価元素、及び5価元素からなる群より選択される2種以上の任意の組み合わせを採用することも可能である。第2元素と、後述の第3元素〜第5元素との組み合わせについても同様である。
【0042】
<第3元素>
圧電膜は、第2元素と共にさらに第3元素を含有することができる。第3元素は、第2元素が5価元素の場合に添加される元素である。第3元素は、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、1価元素である。第3元素は、第1元素とは異なる元素である。第3元素は、AlN結晶のAlサイトの一部に添加されると考えられる。
【0043】
この場合には、5価元素の第2元素の原子数と1価元素の第4元素の原子数とが実質的に等量で存在していることが好ましい。これにより、5価元素(つまり、第2元素)と1価元素(つまり、第3元素)の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、5価元素と1価元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。また、イオン半径がAl以上の第3元素が添加されていても、イオン半径がAlよりも小さな第2元素によって圧縮応力が緩和されるため、圧電性能の向上は可能になる。
【0044】
このような第2元素と第3元素との組み合わせは、例えば以下の通りである。第2元素としては、V、Cr、Mn、P、及びAsからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。第3元素としては、Li、Na、及びKからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0045】
<第4元素>
圧電膜は、第2元素と共にさらに第4元素を含有することができる。第4元素は、第2元素が2価元素の場合に添加される元素である。第4元素は、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、4価元素である。第4元素は、第1元素とは異なる元素である。第4元素は、AlN結晶のAlサイトの一部に添加されると考えられる。
【0046】
この場合には、2価元素の第2元素の原子数と4価元素の第4元素の原子数とが実質的に等量で存在していることが好ましい。これにより、2価元素(つまり、第2元素)と4価元素(つまり、第4元素)の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、2価元素と4価元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。また、イオン半径がAl以上の第4元素が添加されていても、イオン半径がAlよりも小さな第2元素によって圧縮応力が緩和されるため、圧電性能の向上は可能になる。
【0047】
このような第2元素と第4元素との組み合わせは、例えば以下の通りである。第2元素としては、Beが例示される。第5元素としては、Co、Cr、Ge、Ti、Zr、及びMoからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0048】
<第5元素>
圧電膜は、第2元素と共にさらに第5元素を含有することができる。第5元素は、第2元素が4価元素の場合に添加される元素である。第5元素は、4配位でのイオン半径がAl以上で、かつ、2価元素である。第5元素は、第1元素とは異なる元素である。第5元素は、AlN結晶のAlサイトの一部に添加されると考えられる。
【0049】
この場合には、4価元素の第2元素の原子数と2価元素の第5元素の原子数とが実質的に等量で存在していることが好ましい。これにより、4価元素(つまり、第2元素)と2価元素(つまり、第5元素)の添加によっても圧電膜の絶縁性が維持される。換言すれば、4価元素と2価元素の添加により、圧電膜に導電性が付与されることを防止できる。また、イオン半径がAl以上の第5元素が添加されていても、イオン半径がAlよりも小さな第2元素によって圧縮応力が緩和されるため、圧電性能の向上は可能になる。
【0050】
このような第2元素と第5元素との組み合わせは、例えば以下の通りである。第2元素としては、C及びSiの少なくとも一方が例示される。第5元素としては、Mg、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0051】
次に、上記圧電膜の製造方法について説明する。圧電膜の製造方法は、特に限定されるわけではないが、例えばスパッタリングにより行うことが好ましい。圧電膜1は、図1に例示されるように基板3上に形成することができる。
【0052】
基板3は、圧電膜の用途に応じて適宜選択される。基板としては、例えば、シリコン(Si)、サファイア、炭化珪素、ガラス、有機系材料等が例示される。シリコンが用いられることが多い。
【0053】
圧電膜は、例えばスパッタリングにより製造される。スパッタリングは、1つの合金ターゲットを用いた1元スパッタリングでも2つ以上の金属ターゲットを用いた多元スパッタリングであってもよい。1元スパッタリングでは、アルミニウムと、第1元素と、第2元素と、必要に応じて添加されるその他の元素(例えば第3〜第5元素)とを含有する合金ターゲットを用いる。多元スパッタリングでは、アルミニウム、第1元素、第2元素、及び必要に応じて添加されるその他の元素(例えば第3〜第5元素)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するターゲットを複数用いる。
【0054】
例えば、第1元素と、第2元素とが添加されたAlターゲットを用いたスパッタリングにより、圧電膜を製造することができる。また、第1元素からなる第1元素ターゲットと、第2元素からなる第2元素ターゲットと、Alターゲットとを用いたスパッタリングにより、圧電膜を製造することもできる。第1元素が添加されたAlターゲットと、第2元素からなる第2元素ターゲットを用いたスパッタリングにより、圧電膜を製造することもできる。第1元素と第2元素とからなる合金ターゲットと、Alターゲットとを用いたスパッタリングにより、圧電膜を製造することもできる。第2元素が添加されたAlターゲットと、第1元素からなる第1元素ターゲットを用いたスパッタリングにより、圧電膜を製造することもできる。第3〜第5元素については、これらを含むターゲットを別途用いてもよいし、第1元素、第2元素、Alを含むターゲット中に第3〜第5元素から選ばれる少なくとも1種を添加してもよい。
【0055】
スパッタリングは、例えば窒素ガスを含む雰囲気下で行うことができる。また、スパッタリングは、少なくとも窒素イオンを含むイオンビームをターゲットに照射して行うこともできる。
【0056】
具体的には、少なくとも窒素ガスを含む雰囲気下で、ターゲットから、アルミニウム、第1元素、第2元素、及び必要に応じて添加されるその他の元素を基板上にスパッタリングすることにより、圧電膜を製造することができる。また、合金ターゲットと基板とを対向するように配置し、合金ターゲットの対向面に対して斜めから窒素イオンを含むイオンビームを照射し、合金ターゲットから、アルミニウム、第1元素、第2元素、及び必要に応じて添加されるその他の元素を基板上にスパッタリングすることにより、圧電膜を製造することもできる。これらのスパッタリングは、1元スパッタリングで行うことも、多元スパッタリングで行うことも可能である。
【0057】
以下に、本形態の代表例として、ScとBとが添加されたAlN結晶からなる圧電膜の製造方法について説明する。Sc、Bは、AlN結晶におけるAlサイトの一部に添加されると考えられる。なお、Scの代わりに他の第1元素を用いる場合や、Bの代わりに他の第2元素を用いる場合についても、以下の製造方法と同様のスパッタリングにより圧電膜を製造することができる。
【0058】
<1元スパッタリング>
シリコン基板と、ScAl合金にBが添加された合金ターゲットとを準備する。スパッタリングにより、シリコン基板上に合金ターゲット中の成分元素と窒素元素とを堆積させて圧電膜を製造する。基本的には圧電膜中のB濃度に等しいB濃度の合金ターゲットを用いるが、合金ターゲット中のB濃度と圧電膜中のB濃度にかい離が生じる場合には、圧電膜中のB濃度が所望の濃度となるように合金ターゲット中のB濃度を調整することができる。Sc濃度についても同様である。圧電膜中のSc含有率(at%)、B含有率(at%)は、市販の波長分散型蛍光X線分析装置により分析して算出することができる。
【0059】
1元スパッタリングは、一般的な方法に準じて行われる。1元スパッタリングでは、ターゲットと基板とを平行に向い合せるレイアウト(つまり、平行平板型)を採用できる。この場合には、スパッタリングにおける合金ターゲットの利用効率が高くなり、成膜速度が向上する。
【0060】
<2元スパッタリング>
シリコン基板と、ScAl合金ターゲットと、Bターゲットとを用いる点を除いて、1元スパッタリングと同様の操作を行うことができる。2元スパッタリングでは、ScAlとBとを基板上に同時にスパッタリングする。この方法では、ScAl合金ターゲットとBターゲットに印加する電力費を調整することにより、B濃度の調整を容易に行うことができる。なお、ターゲットを変更することにより、他の多元スパッタリングを行うことも可能である。
【0061】
本形態の圧電膜は、AlN結晶と、AlN結晶に添加された第1元素と第2元素とを含有する。第1元素の原子数とAlの原子数との総量100at%に対する第1元素の原子数の占める割合が43at%を超える。第1元素は、4配位でのイオン半径がAlよりも大きな元素である。第2元素は、4配位でのイオン半径がAlよりも小さな元素である。このような構成の圧電膜は圧電定数d
33等の圧電性能に優れる。その理由は次の様に考えられる。
【0062】
第1元素の原子数とAlの原子数との総量100at%に対する第1元素の原子数の占める割合が43at%を超える第1元素高濃度領域では、上述のように、圧縮応力の増大により、成膜時に、圧電膜の基板側に圧電性能がない又は低い立方晶のAlN結晶が生成する。これは、第1元素の4配位でのイオン半径がAlよりも大きいためであると考えられる。このようなAlN結晶に4配位でのイオン半径がAlよりも小さな第2元素を添加すると、成膜中の圧縮応力が緩和されるか、あるいは打ち消されると考えられる。その結果、圧電性能において不利な立方晶の少ない、あるいは立方晶のない圧電膜が生成していると考えられる。したがって、圧電膜は、優れた圧電性能を発揮すると考えられる。
【0063】
[実施形態2]
本例は、所定の下地層上にScAlNからなる圧電膜を成膜する形態について説明する。具体的には、下地層準備工程と成膜工程とを行うことにより、図7に例示されるように、下地層2上に圧電膜11を成膜して圧電膜積層体5を製造する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0064】
下地層準備工程では、下地層2を準備する。下地層2は、その厚み方向から下地層2の結晶構造を観察したときに、6回対称の結晶格子を有するか、あるいは3回対称の結晶格子を有する。6回対称の結晶格子を有する場合には、そのa軸長がScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる下地層2を準備する。一方、3回対称の結晶格子を有する場合には、下地層の表面と平行な格子面における最も近接する原子間の距離がScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる下地層を準備する。
【0065】
成膜工程では、下地層2の表面からScAlNよりなる圧電膜11をエピタキシャル成長させる。これにより、圧電膜11を製造することができる。図7に例示されるように、下地層2が存在すれば基板がなくてもよく、この下地層2上に圧電膜11を形成することができる。また、図8に例示されるように基板3上に形成された下地層2上に圧電膜11を形成してもよい。
【0066】
<下地層準備工程>
下地層2上に成膜されるScAlN(つまり、スカンジウムアルミニウム窒化物)には、六方晶と立方晶とが存在するが、六方晶が圧電性能の観点から有利である。六方晶のScAlNは、下地層2からc軸成長することにより生成される。つまり、六方晶のScAlNのc軸と下地層の厚み方向とは平行となる。下地層2の厚み方向から下地層2の結晶構造を観察したとき、その結晶構造は、6回対称の結晶格子を有することが好ましい。この場合には、ScAlNが下地層2からエピタキシャル成長する際に、下地層の6回対称の結晶格子と整合をとりながら結晶成長が起こるため、六方晶のScAlNが成膜されやすい。
【0067】
6回対称の結晶格子を有する下地層2としては、c軸配向した六方晶結晶格子を有する下地層を用いることができる。
【0068】
6回対称の結晶格子を有する場合には、下地層2は、その結晶格子におけるa軸長がScAlNのa軸長よりも長い下地材料からなる。下地層2の結晶構造は、下地層2上に成膜される六方晶のScAlNのc軸と平行方向から観察したときにおけるものである。
【0069】
なお、六方晶のScAlNのc軸は、通常、ScAlNの成長方向、下地層の厚み方向、圧電膜の厚み方向等と平行である。六方晶のScAlNのa軸は、通常、ScAlNのc軸、下地層の厚み方向、圧電膜の厚み方向等と直交する。
【0070】
<成膜工程>
上記のように、下地層2として、その結晶格子のa軸長が下地層2上に成長する六方晶のScAlNのa軸長よりも長いものを用いると、下地層2からエピタキシャル成長するScAlNには、そのa軸方向に圧縮応力と共に引張応力が作用する。圧縮応力と引張応力とは逆向きであるため、引張応力によって成膜時にScAlNに作用する圧縮応力を緩和したり、打ち消すことが可能になる。その結果、立方晶のScAlNの生成が抑制され、圧電性能に優れた六方晶のウルツァイト構造のScAlNの含有割合の高い圧電膜を生成することができる。
【0071】
(六方晶結晶格子を有する下地材料)
六方晶結晶格子を有する下地材料は、c軸配向させて用いられる。つまり、下地層2を構成する結晶格子のc軸と下地層2の厚み方向とが平行になる。下地材料の候補としては、ScAlNと同じ六方晶のウルツァイト構造のZnO、GaN等が考えられる。しかし、ScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が50at%以下の範囲におけるScAlNのa軸長は0.35nm以下となり、ZnOのa軸長(具体的に0.325nm)、GaNのa軸長(具体的には、0.318nm)よりも大きくなることがある。つまり、ZnOやGaNからなる下地層を用いても、成膜中にScAlNに引張応力を十分に生じさせることができないおそれがある。
【0072】
一方、シミュレーションの第一原理計算により、ZnOにCa等の添加元素を添加することにより、a軸長が伸長することを確認している。GaNについても、Sc、La等の添加により、a軸長が伸長することを確認している。a軸長を伸長させるためには、イオン半径の大きな元素を添加すればよい。したがって、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価の元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価の元素が添加されたGaN等を下地材料として用いることができる。
【0073】
下地材料は、Ca、Sr、及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたZnO、又はSc、Y、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が添加されたGaNからなることが好ましい。この場合には、六方晶結晶格子を有する下地層2のa軸長を十分に伸長させることができる。したがって、下地層からScAlNがエピタキシャル成長する際にScAlNに引張応力が十分に生じ、圧縮応力を十分に緩和したり、打ち消すことができる。よって、立方晶のScAlNの生成がより抑制される。
【0074】
また、六方晶のInNのa軸長は、0.354nmであるから添加元素を添加せずとも下地材料として用いることができる。4配位でのイオン半径がInよりも大きな3価元素が添加されたInNを用いてもよい。
【0075】
下地材料としては、Znよりも4配位でのイオン半径の大きな2価以外の元素が添加されたZnO、Gaよりも4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたGaN、又はInよりも4配位でのイオン半径の大きな3価以外の元素が添加されたInNからなるものを用いることができる。この場合には、下地層が導電性を示すことができる。つまり、ZnOにおけるZnは2価で存在しているため、2価以外の元素を添加することにより導電性が付与される。また、GaNにおけるGa、InNにおけるInはそれぞれ3価で存在しているため、GaN、InNに3価以外の元素をそれぞれ添加することにより導電性が付与される。したがって、成膜後に、下地層を例えば電極等として用いることが可能になる。つまり、圧電膜積層体5における圧電膜11を圧電材料として利用し、下地層2を圧電膜11と電気的に導通する電極として利用することができる。
【0076】
また、下地材料としては六方晶金属のTiを用いることができる。Tiのa軸長は0.359nmである。この場合には、ScAlNのエピタキシャル成長の際に下地層2から引張応力を生じさせることができると共に、下地層2が導電性を示すことができる。したがって、成膜後の下地層2を電極として用いることが可能になる。
【0077】
(立方晶結晶格子を有する下地材料)
下地層2としては、その厚み方向から結晶構造を観察したときに結晶構造が3回対称の結晶格子を有する下地層を用いることも可能である。下地材料が3回対称の結晶格子を有する場合には、下地層2の表面と平行な格子面における最も近接する原子間の距離がScAlNのa軸長よりも長いものを用いる。このような下地層2としては、例えば(111)配向の立方晶結晶格子を有する下地層を用いることができる。下地層が(111)配向の立方晶結晶格子を有する場合における上述の原子間の距離のことを、以下適宜「a軸相当長」という。
【0078】
立方晶結晶格子の下地材料は、(111)配向させて用いられる。つまり、下地層を構成する結晶格子の<111>軸と下地層の厚み方向とが平行になる。このような下地層では<111>軸方向から観察した時に、(111)面内では原子が正三角形を最小格子とした配列を形成することになる。この場合における上述の近接原子間距離(つまり、a軸相当長)は、体心立方格子の場合には格子定数×√2、面心立方格子の場合には格子定数÷√2から算出される。
【0079】
(111)配向の立方晶の下地材料としては、例えばダイアモンド構造材料、閃亜鉛鉱構造材料、Ta、又はCrが挙げられる。ダイアモンド構造材料としては、Si、Ge等が挙げられる。また、閃亜鉛鉱構造材料としては、GaAs、GaP等が挙げられる。ダイアモンド構造のSiの格子定数は0.543nm、ダイアモンド構造のGeの格子定数は0.565nm、閃亜鉛鉱構造のGaAsの格子定数は0.565nmであり、閃亜鉛鉱構造のGaPの格子定数は0.545nmであり、Taの格子定数は0.287nmであり、Crの格子定数は0.288nmである。ダイアモンド構造のSiのa軸相当長は0.384nmであり、ダイアモンド構造のGeのa軸相当長は0.400nmであり、閃亜鉛鉱構造のGaAsのa軸相当長は0.400nmであり、閃亜鉛鉱構造のGaPのa軸相当長は0.385nmであり、Taのa軸相当長は0.406nmであり、Crのa軸相当長は0.407nmである。
【0080】
このような(111)配向の立方晶からなる下地層を用いても、エピタキシャル成膜時にScAlNに引張応力を生じさせて、圧縮応力を緩和したり、圧縮応力を打ち消すことができる。下地材料として、Ta、Crを用いる場合には、成膜後の下地層を電極として利用することが可能になる。
【0081】
圧電膜のScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超えることが好ましい。この場合には、下地層による圧縮応力の緩和効果が顕著になる。つまり、43at%を超える高濃度のScAlNからなる圧電膜は、成膜中に膜内にかかる圧縮応力が大きくなる傾向にあるが、上述のように特定の下地層を用いることにより、このような大きな圧縮応力を緩和させたり、打ち消したりすることができる。
【0082】
下地層準備工程及び成膜工程は、例えばスパッタリングにより行うことができる。Caが添加されたZnOからなる下地層と、この下地層上に形成されたScAlNからなる圧電膜とを有する圧電膜積層体をスパッタリングにより製造する例を説明する。
【0083】
まず、Znターゲットを用いて、Arを含む酸素雰囲気中でプラズマ放電を行い、反応性スパッタによりZnOを例えば基板3上に成膜する。このとき、Caターゲト材と共にZnターゲットを用いて、同時スパッタリング(つまり、2元スパッタリング)を行ってもよいし、Caが所望濃度で添加されたZnターゲットを用いた1元スパッタリングを行ってもよい。量産には1元スパッタリングが適している。1元スパッタリング、2元スパッタリングについては、実施形態1と同様に行うことができる。ZnOは、ScAlNと同様にウルツァイト構造であり、成膜条件を調整することでc軸配向しやすい材料である。基板の材質や基板の面方位を選ぶ必要はない。
【0084】
このようにして基板3上に下地層2が形成される。下地層2は、Caが添加されたZnOからなり、c軸配向している。次に、下地層2上にScAlNを成膜する。ZnO及びScAlNは、いずれも六方晶構造であるため、ScAlNがエピタキシャル成長しやすい。しかし、下地層2の表面が大気に曝されて表面に水、CO
2などの汚染物質が付着すると、エピタキシャル成長が妨げられるおそれがある。したがって、下地層2と圧電膜11の成膜間は真空搬送が行われることが好ましい。汚染物質の付着を避けるという観点から、例えばCaドープZnターゲット及びScAlターゲト材の双方を備える真空室内で順次スパッタリングを行う方法を採用することができる。好ましくは、複数の真空室を備える装置において各真空室内でCaドープZnターゲットを用いた平行平板型のスパッタリングと、ScAlターゲト材を用いた平行平板型のスパッタリングを順次行う方法がよい。この方法は特に量産性に適している。
【0085】
なお、上記のスパッタリングによる製造例では、Caが添加されたZnOからなる下地層の場合について記述したが、スパッタリングが可能な他の下地層と圧電膜とを備える圧電膜積層体の製造についても同様である。下地層が窒化物の場合には、大気暴露により表面が酸化すると、エピタキシャル成長の妨げとなるため、真空搬送の必要性が増大する。一般的には、エピタキシャル成長は、単結晶の下地層上にほぼ単結晶の膜を成長させることを指す場合が多いが、本明細書においては、下地層が例えば柱状晶構造のような多結晶である場合も含む。このような下地層上でのエピタキシャル成長とは、例えば個々の柱状晶の上にそれぞれほぼ原子配列を一致させながら成長する状態を指す。
【0086】
下地層準備工程及び成膜工程後には、図7、図8に例示されるように下地層2と圧電膜11とを有する圧電膜積層体5が得られる。下地層2は、上述のように、特定の結晶構造を有し、圧電膜11は下地層2の表面に形成される。圧電膜積層体5は下地層2と圧電膜11との当接面4とを有し、圧電膜11が当接面4において下地層2に当接している。
【0087】
このような構成を有する圧電膜積層体5は、上述のように、成膜中に圧電膜11にかかる圧縮応力が緩和又は打ち消されている。したがって、下地層2上に形成されるScAlNの下地層2側に形成されやすい立方晶のScAlNの存在量が少なくなっていると考えられる。したがって、圧電膜積層体5は、圧電膜11中に圧電性能に優れた六方晶のScAlNを多く含有していると考えられる。このような下地層2と圧電膜11との構成を備える圧電膜積層体5は、圧電定数d
33等の圧電性能に優れると考えられる。圧電膜11中の立方晶のScAlNの存在量は少ないほど圧電性能が高まると考えられる。圧電膜11中の立方晶のScAlNの存在量は0がもっともよい。
【0088】
図9(a)に例示されるように、圧電膜積層体5の下地層2は、少なくとも部分的に除去することができる。除去は例えばエッチングにより行うことができる。下地層2の除去の要否は、圧電膜積層体5の用途などに応じて決定することができる。
【0089】
例えば、図9(a)に例示されるように、エッチングなどにより、圧電膜積層体5から下地層2を部分的に除去することができる。下地層2が導電性を有さない絶縁材料などからなる場合においては下地層2を部分的に除去し、図9(b)に例示されるように、除去領域に金属など導電性材料を充填することにより、圧電膜11と当接する電極25を形成することができる。
【0090】
実施形態1における第2元素の添加する構成と、実施形態2における特定の下地層を設ける構成とは組み合わせることができる。具体的には、実施形態2の下地層上にScAlNからなる圧電膜を成膜する際に第2元素を添加することができる。この場合には、成膜中の圧縮応力がより緩和されたり、圧縮応力を打ち消し易くなり、より立方晶のScAlNの生成を抑制できると考えられる。
【0091】
[実施形態3]
本形態では、六方晶と立方晶との積層型の結晶構造を有する圧電膜の実施形態について説明する。圧電膜は、立方晶のScAlN結晶と、この立方晶のScAlN結晶に積層された六方晶のScAlN結晶とを有する。両者の界面は必ずしも面一である必要はなく、相互に入り組んでいてもよい。このような積層型の結晶構造の具体例としては、上述の図3(a)、図4(a)に例示される構成が挙げられる。
【0092】
立方晶のScAlNには、3価以外の元素からなる導電性付与元素が添加されている。導電性付与元素は、立方晶のScAlNの少なくとも一部に添加されていればよいが、可能な限り、立方晶のScAlNの全体にわたって導電性付与元素が添加されていることが好ましい。これにより、圧電性能のない又は低い立方晶のScAlNに導電性が付与され、立方晶のScAlNを例えば電極として利用することができる。
【0093】
導電性付与元素は、ScAlNのAlサイトの一部に添加されると考えられる。ScAlNにおいてAlは3価イオンとして存在しているため、3価以外の元素からなる導電性付与元素の添加により、立方晶のScAlNに導電性が付与される。
【0094】
六方晶のScAlNにも導電性付与元素が部分的に添加されていてもよい。圧電性能の向上という観点からは、導電性付与元素が添加された六方晶のScAlNは少ない方がよい。
【0095】
導電性付与元素は、単独で添加しても、2種以上の導電性付与元素を組み合わせて添加してもよい。ただし、2種以上の導電性付与元素を添加する場合には、互いの導電性を打ち消す組み合わせを除く。具体的には、1価の導電性付与元素と5価の導電性付与元素とが同じ原子数で添加されているものを除く。さらに、2価の導電性付与元素と4価の導電性付与元素とが同じ原子数で添加されているものを除く。
【0096】
導電性付与元素としては、1族、2族、12族、遷移金属元素(ただし、Sc、Y、ランタノイド、及びアクチノイドを除く)等が例示される。これらは、1種類を用いても、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
本形態の圧電膜は、六方晶と立方晶との積層型の結晶構造を有する。六方晶のScAlN結晶は、圧電定数d
33等の圧電性能に優れている。一方、立方晶のScAlNは、圧電性能がない又は低いが、上記のように、導電性付与元素の添加により導電性を示すことができる。したがって、立方晶のScAlNを例えば電極として利用することが可能になる。つまり、立方晶のScAlNを六方晶のScAlNに電気的に導通する電極として利用することができる。
【0098】
ScAlNにおけるScの原子数とAlの原子数との総量100at%に対するScの占める割合が43at%を超えることが好ましい。この場合には、圧電性能のない又は低い立方晶のScAlNが生成しやすい。したがって、導電性付与元素の添加による立方晶のScAlNの導電化によるメリットが大きくなる。
【0099】
次に、本形態の圧電膜の製造方法について説明する。図10に例示されるように、基板3上にScAlNからなる圧電膜111を成膜することにより、圧電膜111を製造することができる。具体的には、以下の成膜初期工程及び成膜後期工程を行うにより、圧電膜111を製造することができる。
【0100】
成膜初期工程においては、圧電膜111の成膜初期に導電性付与元素を添加しながらScAlNからなる圧電膜111をエピタキシャル成長させる。成膜後期工程においては、導電性付与元素を実質的に添加することなく、ScAlNからなる圧電膜をエピタキシャル成長させる。
【0101】
圧電初期工程及び圧電後期工程においては、例えばスパッタリングにより圧電膜111の成膜を行うことができる。スパッタリングは、例えば実施形態1と同様にして行うことができる。
【0102】
圧電初期工程と圧電後期工程との切り替えのタイミングは、適宜調整することができる。例えば、Sc含有量の高いScAlNの成膜では、基板側に立方晶のScAlNが多く生成する傾向があるため、圧電初期工程から圧電後期工程への切り替えのタイミングを遅らせることが好ましい。一方、Sc含有量が低いScAlNの成膜では、立方晶のScAlNの生成量が少なくなる傾向があるため、切り替えのタイミングを早くすることができる。したがって、例えばScAlNにおけるSc量に基づいて切り替えのタイミングを調整することができる。
【0103】
成膜初期工程と成膜後期工程との間に、導電性付与元素の添加量を徐々に少なくする成膜中期工程を設けてもよい。この場合には、結晶構造の連続性が保たれやすくなり、ScAlNの結晶性が良好になる。例えばスパッタリングにおいては、導電性付与元素を含むターゲットにかける電力を徐々に低下させることにより、成膜中期工程を行うことができる。
【0104】
圧電膜111は、基板3上に形成することができる。基板3の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばシリコン、導電性金属、サファイア、SiC、ガラス又は有機系材料等が例示される。
【0105】
以下に、本形態の製造方法の具体例を示す。この例では、導電性付与元素がTiであり、二元スパッタリングにより成膜を行う場合について説明する。
【0106】
まず、ScAl合金ターゲットとTiターゲットとの同時スパッタリングが可能なレイアウト(つまり、二元スパッタリング)とする。このようなレイアウトの下で、実施形態1と同様に窒素ガスを含む雰囲気下でスパッタリングを行う。
【0107】
成膜の初期となる成膜初期工程では同時スパッタリングを行うことにより、Tiを添加しながらScAlNをエピタキシャル成長させる。これにより、Tiがに添加されたScAlNが基板上に生成する。ScAlN中のTiの濃度は二つのターゲットに印加する電力比で制御できる。Tiの濃度はScAlNの結晶構造が壊れない程度に調整することが好ましい。具体的には、Scの原子数とAlの原子数と例えばTiのような導電性付与元素との総量100at%に対する導電性付与元素の含有量を例えば十数at%以下にすることができる。
【0108】
次いで、成膜から一定時間経過後にTiターゲットへの電力をオフにすることにより、Tiが添加されていないScAlNを生成させる。また、Tiターゲットへの印加電力をオフにする際、漸次的に電力を低下させながらオフにすることができる。これにより、結晶構造の連続性を保つことができ、ScAlNの結晶性を良好にすることができる。
【0109】
また、1元スパッタリングにより、Tiが添加されたScAlN結晶を成膜することも可能である。具体的には、まず、TiをドープしたScAl合金ターゲットを用いてスパッタリングを行う。次いで、TiがドープされていないScAl合金ターゲットを用いてスパッタリングを行う。これにより、Tiが添加されたScAlN上に、Tiが添加されていないScAlNを成膜することができる。この場合、各スパッタリングにおいて平行平板型のレイアウトを取ることが可能になり、量産に好適になる。
【0110】
ただし、各スパッタリング間における基板の搬送時には表面の大気暴露を防ぐことが好ましい。具体的には、2つの真空室を備えた装置において、真空室間を真空条件下で搬送する方法などが考えられる。
【0111】
このように、本形態の圧電膜111においては、基板3側から順次、立方晶のScAlN及び六方晶のScAlNが形成されている。そして、圧電性能では不利である立方晶のScAlNに導電性付与元素が添加されることにより、少なくとも部分的に立方晶のScAlNが導電化している。したがって、圧電膜111においては、導電化したScAlNと圧電性能の高い六方晶のScAlNとの電気的導通が可能になる。
【0112】
以上の通り、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0113】
圧電膜、圧電膜積層体は、例えば、角加速度センサ、光スキャナ、超音波トランスデューサ、マイクロフォン、周波数フィルタ、圧力センサ、エネルギーハーベスタ、インクジェットプリンタヘッド等に利用することができる。