(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2019145847
(43)【公開日】20190829
(54)【発明の名称】磁化回転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/10 20060101AFI20190802BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 21/8239 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20190802BHJP
   H01L 43/02 20060101ALI20190802BHJP
【FI】
   !H01L43/10
   !H01L29/82 Z
   !H01L27/105 447
   !H01L43/08 P
   !H01L43/08 Z
   !H01L43/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】2019105324
(22)【出願日】20190605
(62)【分割の表示】2019508986の分割
【原出願日】20181010
(31)【優先権主張番号】2018027130
(32)【優先日】20180219
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋二丁目5番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
【住所又は居所】東京都中央区日本橋二丁目5番1号 TDK株式会社内
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA11
4M119AA20
4M119BB01
4M119BB03
4M119BB20
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4M119CC05
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4M119GG01
5F092AA12
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5F092BD15
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5F092BE23
5F092BE27
(57)【要約】
【課題】温度依存性の少ない磁化回転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供する。
【解決手段】この磁化回転素子は、第1方向に延在する配線と、前記配線の一面に積層された第1強磁性層と、を備え、前記配線は、前記第1強磁性層側から第1配線と第2配線とを有し、前記第1配線及び前記第2配線はいずれも金属であり前記第2配線は、クロメル、コンスタンタン、ニクロム、白金ロジウム、マンガニン、アルメルからなる群から選択される1つ以上の合金を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延在する配線と、
前記配線の一面に積層された第1強磁性層と、を備え、
前記配線は、前記第1強磁性層側から第1配線と第2配線とを有し、
前記第1配線及び前記第2配線はいずれも金属であり、
前記第2配線は、クロメル、コンスタンタン、ニクロム、白金ロジウム、マンガニン、アルメルからなる群から選択される1つ以上の合金を含む、磁化回転素子。
【請求項2】
第1方向に延在する配線と、
前記配線の一面に積層された第1強磁性層と、を備え、
前記配線は、前記第1強磁性層側から第1配線と第2配線とを有し、
前記第1配線及び前記第2配線はいずれも金属であり、
前記第1配線は、ビスマス、タリウム、トリウム、ルビジウム、モリブデン、ロジウム、スズからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含み、
前記第2配線は、イリジウム、白金、パラジウムからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含む、磁化回転素子。
【請求項3】
前記第1配線は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属を含む、請求項1または2のいずれかに記載の磁化回転素子。
【請求項4】
前記第1配線の厚みが、前記第1配線を構成する元素のスピン拡散長以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁化回転素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁化回転素子と、
前記第1強磁性層と対向する第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に位置する非磁性層と、を備える、磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気抵抗効果素子を複数備えた磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化回転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が磁気抵抗効果素子として知られている。一般に、TMR素子は、GMR素子と比較して素子抵抗が高く、磁気抵抗(MR)比が大きい。そのため、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として、TMR素子に注目が集まっている。
【0003】
近年、スピン軌道相互作用により生成された純スピン流を利用した磁化反転に注目が集まっている(例えば、非特許文献1)。SOTは、スピン軌道相互作用によって生じた純スピン流又は異種材料の界面におけるラシュバ効果により誘起される。磁気抵抗効果素子内にSOTを誘起するための電流は、磁気抵抗効果素子の積層方向と交差する方向に流す。すなわち、磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流す必要がなく、磁気抵抗効果素子の長寿命化が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.Fukami, T.Anekawa, C.Zhang and H.Ohno, Nature Nano Tec (2016). DOI:10.1038/NNANO.2016.29.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気抵抗効果を利用した素子は様々な用途で使用されており、広い温度域での動作保証が求められている。SOTを利用したスピン軌道トルク型磁化回転素子において、強磁性体の磁気異方性エネルギーの大きさや配線の抵抗率等は温度により特性が変化する。そのため、使用温度域が変化しても、安定的に動作するスピン軌道トルク型磁化回転素子が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、温度依存性の少ないスピン軌道トルク型磁化回転素子、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、スピン軌道トルク配線を第1配線と第2配線の積層構造とし、第1配線と第2配線に流れる電流の分配割合を温度域ごとで変化させることで、スピン軌道トルク型磁化回転素子の温度依存性を低減できることを見出した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)第1の態様にかかる磁化回転素子は、第1方向に延在する配線と、前記配線の一面に積層された第1強磁性層と、を備え、前記配線は、前記第1強磁性層側から第1配線と第2配線とを有し、前記第1配線及び前記第2配線はいずれも金属であり、前記第2配線は、クロメル、コンスタンタン、ニクロム、白金ロジウム、マンガニン、アルメルからなる群から選択される1つ以上の合金を含む。
【0009】
(2)第2の態様にかかる磁化回転素子は、第1方向に延在する配線と、前記配線の一面に積層された第1強磁性層と、を備え、前記配線は、前記第1強磁性層側から第1配線と第2配線とを有し、前記第1配線及び前記第2配線はいずれも金属であり、前記第1配線は、ビスマス、タリウム、トリウム、ルビジウム、モリブデン、ロジウム、スズからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含み、前記第2配線は、イリジウム、白金、パラジウムからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含む。
【0010】
(3)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記第1配線は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属を含んでもよい。
【0011】
(4)上記態様にかかる磁化回転素子において、前記第1配線の厚みが、前記第1配線を構成する元素のスピン拡散長以下であってもよい。
【0012】
(5)第3の態様にかかる磁気抵抗効果素子は、上記態様にかかる磁化回転素子と、前記第1強磁性層と対向する第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に位置する非磁性層と、を備える。
【0013】
(6)第4の態様にかかる磁気メモリは、上記態様にかかる磁気抵抗効果素子を複数備える。
【発明の効果】
【0014】
上記態様にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子によれば、温度依存性を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の断面模式図である。
【図2A】第1実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図2B】第1実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図2C】第1実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図3】第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の断面模式図である。
【図4A】第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図4B】第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図4C】第2実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子の第1配線及び第2配線の抵抗率の温度依存性の一例を模式的に示した図である。
【図5】第3実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
【図6】第4実施形態に係る磁気メモリを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
「第1実施形態」
(スピン軌道トルク型磁化回転素子)
図1は、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子を模式的に示した断面図である。図1に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、第1強磁性層10とスピン軌道トルク配線20とを備える。
【0018】
以下、スピン軌道トルク配線20が延びる第1方向をx方向、スピン軌道トルク配線20が存在する面内で第1方向と直交する方向をy方向、x方向及びy方向のいずれにも直交する方向をz方向と規定して説明する。図1においてz方向は、第1強磁性層10の積層方向及びスピン軌道トルク配線20の厚み方向と一致する。
【0019】
<第1強磁性層>
第1強磁性層10はその磁化M10の向きが変化することで機能する。図1に示す第1強磁性層10の磁化容易軸はz方向であり、第1強磁性層10は磁化M10がz方向に配向した垂直磁化膜である。第1強磁性層10は磁化M10がxy平面の面内方向に配向した面内磁化膜であってもよい。
【0020】
第1強磁性層10には、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feを例示できる。
【0021】
また第1強磁性層10には、CoFeSi等のホイスラー合金を用いてもよい。ホイスラー合金は、XYZまたはXYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoFeGe、 CoFeGa、CoMnSi、CoMn1−aFeAlSi1−b, 、CoFeGe1−cGa等が挙げられる。ホイスラー合金は、高いスピン分極率を有する。
【0022】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線20は、x方向に延在する。スピン軌道トルク配線20は第1配線21と第2配線22とを備える。
【0023】
スピン軌道トルク配線20は、電流が流れるとスピンホール効果によってスピン流を生成する。スピンホール効果とは、配線に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果によりスピン流が生み出されるメカニズムについて説明する。
【0024】
図1に示すように、スピン軌道トルク配線20のx方向の両端に電位差を与えるとx方向に沿って電流Iが流れる。電流Iが流れると、y方向に配向した第1スピンS1と−y方向に配向した第2スピンS2はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
【0025】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう第1スピンS1の電子数と下方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0026】
ここで、第1スピンS1の電子の流れをJ、第2スピンS2の電子の流れをJ、スピン流をJと表すと、J=J−Jで定義される。図1においては、純スピン流としてJが図中のz方向に流れる。ここで、Jは分極率が100%の電子の流れである。スピン軌道トルク配線20の上面に第1強磁性層10を接触させると、純スピン流は第1強磁性層10に拡散して流れ込む。すなわち、第1強磁性層10にスピンが注入される。
【0027】
スピン軌道トルク配線20は、第1配線21と第2配線22とを少なくとも備える。スピン軌道トルク配線20は、3層以上の配線が積層されていてもよい。
【0028】
第1配線21は、スピン軌道トルク配線20内で最も第1強磁性層10側の配線であり、第2配線22は、第1配線21よりも第1強磁性層10から離れた位置にある側の配線である。
【0029】
第1実施形態にかかる第1配線21及び第2配線22は、いずれも金属からなる。ここで「金属」とは、単体金属に限られず、合金でもよい。また「金属からなる」とは、第1配線21及び第2配線22が温度変化に対して金属的挙動を示せば、不純物等の他の物質を含むことを許容する。金属的挙動とは、温度が高くなるに従い抵抗値が増加する挙動を意味する。
【0030】
第1配線21は、少なくとも−40℃から100℃の温度域における抵抗率の温度依存性が第2配線22より大きい。ここで「抵抗率の温度依存性」とは、−40℃における配線の抵抗値と100℃における配線の抵抗値との差に対応する。すなわち、第1配線21の−40℃における抵抗値と100℃における抵抗値との差は、第2配線22の−40℃における抵抗値と100℃における抵抗値との差より大きい。
【0031】
図2A〜図2Cは、第1配線21及び第2配線22の抵抗率の温度依存性を模式的に示した図である。第1配線21の抵抗値R21と第2配線22の抵抗値R22とは、上記の温度依存性の関係性を満たせば、図2A〜図2C(c)のいずれの関係でもよい。図2Aは、第1配線21の抵抗値R21と第2配線22の抵抗値R22とがいずれかの温度を交点として逆転する場合の図である。図2Bは、−40℃から100℃の温度域内で第1配線21の抵抗値R21が第2配線22の抵抗値R22より大きい場合の図である。図2Cは、−40℃から100℃の温度域内で第1配線21の抵抗値R21が第2配線22の抵抗値R22より小さい場合の図である。
【0032】
第1配線21の主構成は、非磁性の重金属であることが好ましい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。これらの非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。
【0033】
電子は、一般にそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動く。これに対し、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きく、スピンホール効果が強く作用する。そのため、電子の動く方向は、電子のスピンの向きに依存する。従って、これらの非磁性の重金属中ではスピン流Jが発生しやすい。
【0034】
第2配線22は、クロメル、コンスタンタン、ニクロム、白金ロジウム、マンガニン、アルメルからなる群から選択される1つ以上の合金を含むことが好ましい。これらの合金は、温度依存性が小さく、温度変化に伴う抵抗値変化が少ない。
【0035】
また第1配線21と第2配線22の組み合わせとしてそれぞれの配線が以下の元素を含むことが好ましい。第1配線21は、タングステン、ビスマス、ルビジウム、タンタル、モリブデン、ロジウム、スズからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含むことが好ましく、第2配線は、イリジウム、白金、パラジウムからなる群から選択されるいずれか一つ以上の元素を含むことが好ましい。
【0036】
第2配線22もスピンホール効果を生じるため、非磁性の重金属を含むことが好ましい。第1配線21及び第2配線22がいずれも重金属含み、かつ、上記の組み合わせを満たすことで、第1配線21と第2配線22とが所定の温度依存性の関係を満たしつつ、大きなスピン軌道相互作用を生み出すことができる。
【0037】
第1配線21の厚みは、第1配線21を構成する元素のスピン拡散長以下であることが好ましい。第1配線21の厚みが十分薄いことで、第2配線22で生じたスピンが第1強磁性層10まで到達できる。
【0038】
第1配線21の厚みは、第2配線22の厚みの0.25倍以上2.0以下であることが好ましく、第2配線22の厚みの0.5倍以上1.0倍以下であることがより好ましい。
第1配線21と第2配線22との厚みが上記関係を満たせば、第1配線21と第2配線22の抵抗率の差が大きくならない。またスピン軌道トルク配線20に流す電流を小さくすることができ、スピン軌道トルク型磁化回転素子の設置面積やトランジスタの大きさを小さくすることができる。
【0039】
またスピン軌道トルク配線20は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピンの散乱因子となる。スピンが散乱するとスピン軌道相互作用が増強され、電流に対するスピン流の生成効率が高くなる。
【0040】
一方で、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる場合がある。そのため、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線を構成する元素の総モル比よりも十分小さい方が好ましい。添加される磁性金属のモル比は、全体の3%以下であることが好ましい。
【0041】
スピン軌道トルク配線20は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。この物質にはスピン軌道相互作用により内部磁場が生じる。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成できる。
【0042】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe、Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3、TlBiSe、BiTe、Bi1−xSb、(Bi1−xSbTeなどが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0043】
(スピン軌道トルク型磁化回転素子の機能)
低温における第1強磁性層10の磁気異方性エネルギーは、高温における第1強磁性層10の磁気異方性エネルギーより大きい。つまり第1強磁性層10の磁化M10は低温において回転しにくく、第1強磁性層10の磁化M10は高温において回転しやすい。第1強磁性層10の磁化M10を回転させるためには、低温の場合の方が高温の場合より多くのスピンをスピン軌道トルク配線20から注入する必要がある。
【0044】
図2A〜図2Cに示すように、低温(例えば−40℃)における第1配線21及び第2配線22の抵抗値R21、R22は、基準温度(例えば室温)における第1配線21及び第2配線22の抵抗値R21、R22より低い。そのため、一定の電圧源に接続している場合、低温においてスピン軌道トルク配線20に流れる電流量は、基準温度の場合より多くなる。スピン軌道トルク配線20に流れる電流Iの電流密度が高まると、多くのスピンが第1強磁性層10に注入される。
【0045】
また第1配線21は、少なくとも−40℃から100℃の温度域における抵抗率の温度依存性が第2配線22より大きい。スピン軌道トルク配線20に流れる電流Iは、模式的に第1配線21と第2配線22とに分流しているとみなせる。第1配線21に分流する電流量は低温ほど増加する。
【0046】
第1配線21は、第2配線22より第1強磁性層10側に位置する。第1強磁性層10に近い側の第1配線21に分流する電流量が増えると、より多くのスピンが効率的に第1強磁性層10に注入される。
【0047】
これに対し、高温(例えば100℃)における第1配線21及び第2配線22の抵抗値R21、R22は、基準温度(例えば室温)における第1配線21及び第2配線22の抵抗値R21、R22より高い。そのため、一定の電圧源に接続している場合、高温においてスピン軌道トルク配線20に流れる電流量は、基準温度の場合より少なくなる。スピン軌道トルク配線20に流れる電流量が少なくなり、第1強磁性層10に注入されるスピン量は少なくなる。第1強磁性層10の磁化安定性は高温で低下するため、注入されるスピン量が減少しても、第1強磁性層10の磁化M10は回転する。
【0048】
また第2配線22の抵抗値R22は温度変化の影響を受けにくい。高温において第2配線22に分流する電流量が増加するに従い、第1配線21に分流する電流量は相対的に減少する。第1強磁性層10に近い側の第1配線21に分流する電流量が減ることで、第1強磁性層10に注入されるスピン量が減少する。
【0049】
スピン軌道トルク配線20は、第1配線21に分流する電流量と第2配線22に分流する電流量との比が、温度に応じて自動的に変化する。一定の電圧をスピン軌道トルク配線20に印加した場合でも、第1強磁性層10の磁化M10の安定性に応じて、第1強磁性層10に注入されるスピン量が変わる。
【0050】
上述のように、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、温度に応じて第1強磁性層10に注入されるスピン量が変化する。第1強磁性層10の磁化M10の安定性が高い低温において注入されるスピン量は増加し、第1強磁性層10の磁化M10の安定性が低い高温において注入されるスピン量は低下する。スピン軌道トルク配線20を一定の電圧を印加する電圧源に接続した場合でも、第1強磁性層10の磁化M10の安定性に合わせて自動的に動作が保障される。つまり、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、広い温度域での使用が可能である。
【0051】
本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、使用温度を測定する温度計や印加する電圧を制御する制御部等が不要である。つまり、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100は、小型化が可能である。
【0052】
「第2実施形態」
図3は、第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101の断面模式図である。図3に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子101は、第1強磁性層10とスピン軌道トルク配線25とを備える。スピン軌道トルク配線25は、第1配線26と第2配線27とを備える。図3に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子101は第2配線27を構成する材料が半導体である点が、図1に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子100と異なる。図1に示すスピン軌道トルク型磁化回転素子100と同様の構成については説明を省く。
【0053】
第1配線26は金属であり、第2配線27は半導体である。ここで「金属である」とは温度に対して金属的挙動を示すことを意味し、「半導体である」とは温度に対して半導体的挙動を示すことを意味する。半導体的挙動とは、温度が高くなるに従い抵抗値が減少する挙動を意味する。第1配線26と第2配線27は、温度変化に対する抵抗値の挙動が異なるため、抵抗値の温度依存性は問わない。
【0054】
図4A〜図4Cは、第1配線26及び第2配線27の抵抗率の温度依存性を模式的に示した図である。第1配線26の抵抗値R26と第2配線27の抵抗値R27とは、図4A〜図4Cのいずれの関係でもよい。図4Aは、第1配線26の抵抗値R26と第2配線27の抵抗値R27とがいずれかの温度を交点として逆転する場合の図である。図4Bは、−40℃から100℃の温度域内で第1配線26の抵抗値R26が第2配線27の抵抗値R27より大きい場合の図である。図4Cは、−40℃から100℃の温度域内で第1配線26の抵抗値R26が第2配線27の抵抗値R27より小さい場合の図である。半導体である第2配線27は、金属である第1配線26より通常抵抗値が高いため、図4Cの関係となることが多い。
【0055】
図4A〜図4Cに示すように、低温(例えば−40℃)から高温(例えば100℃)に向かうに従い第1配線26の抵抗値は増加する。一方で、低温(例えば−40℃)から高温(例えば100℃)に向かうに従い第2配線27の抵抗値は減少する。そのため、第1配線26に分流する電流量は低温ほど増加し、第2配線27に分流する電流量は高温ほど増加する。
【0056】
スピン軌道トルク配線25は、第1配線26に分流する電流量と第2配線27に分流する電流量との比が、温度に応じて自動的に変化する。一定の電圧をスピン軌道トルク配線25に印加した場合でも、第1強磁性層10の磁化M10の安定性に応じて、第1強磁性層10に注入されるスピン量が変わる。
【0057】
上述のように、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101は、温度に応じて第1強磁性層10に注入されるスピン量が変化する。第1強磁性層10の磁化M10の安定性が高い低温において注入されるスピン量は増加し、第1強磁性層10の磁化M10の安定性が低い高温において注入されるスピン量は低下する。スピン軌道トルク配線25を一定の電圧を印加する電圧源に接続した場合でも、第1強磁性層10の磁化M10の安定性に合わせて自動的に動作が保障される。つまり、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101は、広い温度域での使用が可能である。
【0058】
本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101は、使用温度を測定する温度計や印加する電圧を制御する制御部等が不要である。つまり、本実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101は、小型化が可能である。
【0059】
第1実施形態及び第2実施形態にかかるスピン流磁化回転素子は後述するように磁気抵抗効果素子に適用することができる。しかしながら、用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、上記のスピン流磁化回転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができるし、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印可する磁場をSOTに置き換えてもよい。
スピン流磁化回転素子は、磁化が反転する場合に、特にスピン流磁化反転素子と呼ぶことができる。
【0060】
「変形例」
尚、本実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化回転素子は、上記のものに限られるものではない。
第1配線21、26は金属であり、第2配線22、27がトポロジカル絶縁体であってもよい。
第1配線21、26は半導体であり、第2配線22、27がトポロジカル絶縁体であってもよい。
【0061】
「第3実施形態」
<スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子>
図5は、第3実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200の断面模式図である。図5に示すスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100と、非磁性層110と、第2強磁性層120とを備える。図5では、スピン軌道トルク型磁化回転素子として、第1実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子100を用いたが、第2実施形態にかかるスピン軌道トルク型磁化回転素子101を用いてもよい。第1実施形態のスピン軌道トルク型磁化回転素子100と同等の構成については、説明を省く。
【0062】
第1強磁性層10と非磁性層110と第2強磁性層120とが積層された積層体(機能部130)は、通常の磁気抵抗効果素子と同様に機能する。機能部130は、第2強磁性層120の磁化M120が一方向(例えば−z方向)に固定され、第1強磁性層10の磁化M10の向きが相対的に変化することで機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層120の保磁力を第1強磁性層10の保磁力よりも大きくする。交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性層120の磁化M120を反強磁性層との交換結合によって固定する。
【0063】
また機能部130において、非磁性層110が絶縁体からなる場合は、機能部130はトンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子と同様の構成であり、非磁性層110が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子と同様の構成である。
【0064】
機能部130の積層構成は、公知の磁気抵抗効果素子の積層構成を採用できる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性層120の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。第2強磁性層120は固定層や参照層、第1強磁性層10は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0065】
第2強磁性層120の材料には、公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。これらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。また第2強磁性層120にCoFeSiなどのホイスラー合金を用いてもよい。
【0066】
第2強磁性層120の第1強磁性層10に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性層120と接する材料としてIrMn、PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第2強磁性層120の漏れ磁場を第1強磁性層10に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0067】
非磁性層110には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層110が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al、SiO、MgO、及び、MgAl等を用いることができる。また、これらの他にも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAlはコヒーレントトンネルが実現できる材料である。非磁性層110が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。さらに、非磁性層110が半導体からなる場合、その材料としてはSi、Ge、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)Seなどを用いることができる。
【0068】
機能部130は、その他の層を有していてもよい。例えば、第2強磁性層120の非磁性層110と反対側の面にキャップ層を有していてもよい。
【0069】
第3実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200は、第1強磁性層10の磁化M10と第2強磁性層120の磁化M120の相対角の違いにより生じる機能部130の抵抗値変化を用いてデータの記録、読出しを行うことができる。また第3実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100を備えるため、広い温度域での使用が可能である。また第3実施形態に係るスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200は、スピン軌道トルク型磁化回転素子100を備えるため、小型化が可能である。
【0070】
「第4実施形態」
<磁気メモリ>
図6は、複数のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200(図5参照)を備える磁気メモリ300の平面図である。図5は、図6におけるA−A面に沿ってスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200を切断した断面図に対応する。図6に示す磁気メモリ300は、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200が3×3のマトリックス配置をしている。
図6は、磁気メモリの一例であり、スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200の数及び配置は任意である。
【0071】
スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200には、それぞれ1本のワードラインWL1〜WL3と、1本のビットラインBL1〜BL3、1本のリードラインRL1〜RL3が接続されている。
【0072】
電流を印加するワードラインWL1〜WL3及びビットラインBL1〜BL3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200のスピン軌道トルク配線20に電流を流し、書き込み動作を行う。また電流を印加するリードラインRL1〜RL3及びビットラインBL1〜BL3を選択することで、任意のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200の積層方向に電流を流し、読み込み動作を行う。電流を印加するワードラインWL1〜WL3、ビットラインBL1〜BL3、及びリードラインRL1〜RL3はトランジスタ等により選択できる。すなわち、これらの複数のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子200から任意の素子のデータを読み出すことで磁気メモリとしての活用ができる。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 第1強磁性層
20、25 スピン軌道トルク配線
21、26 第1配線
22、27 第2配線
100、101 スピン軌道トルク型磁化回転素子
110 非磁性層
120 第2強磁性層
130 機能部
200 スピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子
300 磁気メモリ
10、M120 磁化
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】