(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2021004374
(43)【公開日】20210114
(54)【発明の名称】繊維状セルロースの製造方法、繊維状セルロース分散液及びシート
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/00 20060101AFI20201211BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20201211BHJP
【FI】
   !C08B5/00
   !D21H11/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】2020168309
(22)【出願日】20201005
(62)【分割の表示】2020047354の分割
【原出願日】20190522
(31)【優先権主張番号】2018248486
(32)【優先日】20181228
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
【住所又は居所】東京都中央区銀座4丁目7番5号
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【住所又は居所】東京都中央区銀座四丁目7番5号 王子ホールディングス株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】趙 孟晨
【住所又は居所】東京都中央区銀座四丁目7番5号 王子ホールディングス株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】轟 雄右
【住所又は居所】東京都中央区銀座四丁目7番5号 王子ホールディングス株式会社内
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA27
4C090BB64
4C090BB85
4C090BB96
4C090BD08
4C090BD14
4C090BD19
4C090BD31
4C090CA38
4C090DA03
4C090DA10
4C090DA28
4C090DA29
4C090DA31
4L055AA02
4L055AC06
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF46
4L055AG06
4L055AG35
4L055EA03
4L055EA11
4L055EA16
4L055EA25
4L055EA29
4L055EA32
4L055FA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロース分散液において、透明性を高め得る微細繊維状セルロースを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る工程と、亜リン酸化セルロース原料に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基を有する繊維状セルロースを得る工程と、を含む繊維状セルロースの製造方法であって、亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とする、繊維状セルロースの製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る工程と、
前記亜リン酸化セルロース原料に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを得る工程と、を含む繊維状セルロースの製造方法であって、
前記亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、前記尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とする、繊維状セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、前記亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に含まれるリン原子の物質量P(mmol)と、前記尿素及び/又は尿素誘導体に含まれる窒素原子の物質量N(mmol)との比(N/P)を7.0以上50以下とする請求項1に記載の繊維状セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に含まれる、リン原子の物質量P(mmol)と金属イオンの物質量Q(mmol)との比(Q/P)は1.0以下である請求項1又は2に記載の繊維状セルロースの製造方法。
【請求項4】
繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、分散媒とを含む繊維状セルロース分散液であって、
前記繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、前記繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値が0.51以上であり、
前記繊維状セルロース分散液中に含まれる前記繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の全光線透過率が93%以上である繊維状セルロース分散液。
【請求項5】
繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、分散媒とを含む繊維状セルロース分散液であって、
前記繊維状セルロース分散液中に含まれる前記繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の全光線透過率が93%以上である繊維状セルロース分散液。
【請求項6】
前記繊維状セルロース分散液中に含まれる前記繊維状セルロースの含有量を0.4質量%とした際のB型粘度が5000mPa・s以上である請求項4又は5に記載の繊維状セルロース分散液。
【請求項7】
繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含むシートであって、
前記繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、前記繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値が0.51以上であり、
シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズが20%以下であるシート。
【請求項8】
繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含むシートであって、
シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズが20%以下であるシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロースの製造方法、繊維状セルロース分散液及びシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体、増粘剤の開発が進められている。
【0003】
微細繊維状セルロースは、従来のセルロース繊維を機械処理することで製造可能であるが、セルロース繊維同士は水素結合により、強く結合している。したがって、単純に機械処理を行うのみでは、微細繊維状セルロースを得るまでに膨大なエネルギーが必要となる。より小さな機械処理エネルギーで微細繊維状セルロースを製造するためには、機械処理と合わせて、化学処理や生物処理といった前処理を行うことが有効であることが知られている。特に、化学処理により、セルロース表面のヒドロキシ基に親水性の官能基(例えば、カルボキシ基、カチオン基、リン酸基など)を導入すると、イオン同士の電気的な反発が生じ、かつイオンが水和することで、特に水系溶媒への分散性が著しく向上する。このため、化学処理を施さない場合に比べて微細化のエネルギー効率が高くなる。
【0004】
例えば、特許文献1には、リンオキソ酸或いはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により、セルロースを含む繊維原料を処理する工程と、解繊処理する工程を有する微細繊維状セルロースの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物または/およびその塩を尿素または/およびその誘導体の共存下で作用させ、繊維原料にリン酸基を導入する工程と、微細化処理する工程とを含むリン酸エステル化微細セルロース繊維の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、セルロース繊維に、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)、並びに尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加し、加熱及び洗浄した後に、解繊するセルロース微細繊維の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−127141号公報
【特許文献2】国際公開第2014/185505号
【特許文献4】国際公開第2018/159473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、リンオキソ酸基を有する微細繊維状セルロースが知られている。ここで、本発明者らが、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースを含む分散液を調製したところ、得られる分散液の透明性が低い場合があり、改善の余地があることが分かった。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロース分散液において、透明性を高め得る微細繊維状セルロースを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、微細繊維状セルロースの製造工程において、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る際に、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を所定値以下とすることにより、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースを含有する分散液の透明性を高め得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る工程と、
亜リン酸化セルロース原料に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを得る工程と、を含む繊維状セルロースの製造方法であって、
亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とする、繊維状セルロースの製造方法。
[2] 亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に含まれるリン原子の物質量P(mmol)と、尿素及び/又は尿素誘導体に含まれる窒素原子の物質量N(mmol)との比(N/P)を、7.0以上50以下とする[1]に記載の繊維状セルロースの製造方法。
[3] 亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に含まれる、リン原子の物質量P(mmol)と金属イオンの物質量Q(mmol)との比(Q/P)は1.0以下である[1]又は[2]に記載の繊維状セルロースの製造方法。
[4] 繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、分散媒とを含む繊維状セルロース分散液であって、
繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値が0.51以上であり、
繊維状セルロース分散液中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の全光線透過率が93%以上である繊維状セルロース分散液。
[5] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、分散媒とを含む繊維状セルロース分散液であって、
繊維状セルロース分散液中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の全光線透過率が93%以上である繊維状セルロース分散液。
[6] 繊維状セルロース分散液中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.4質量%とした際のB型粘度が5000mPa・s以上である[4]又は[5]に記載の繊維状セルロース分散液。
[7] 繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含むシートであって、
繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値が0.51以上であり、
シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズが20%以下であるシート。
[8] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含むシートであって、
シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズが20%以下であるシート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロース分散液において、透明性を高め得る微細繊維状セルロースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【図2】図2は、製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液の光線透過率測定スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(繊維状セルロース)
本発明は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有し、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法に関する。また、本発明は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有し、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液、もしくはシートに関する。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0015】
繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下である。繊維状セルロースの繊維幅は100nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。これにより、溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができる。
【0016】
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0017】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0018】
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0019】
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0020】
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0021】
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0022】
繊維状セルロースはリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(以下、単にリンオキソ酸基ともいう)を有する。繊維状セルロースにおけるリンオキソ酸基の導入量(リンオキソ酸基量)は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維状セルロースにおけるリンオキソ酸基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、リンオキソ酸基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。さらに、リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができる。
【0023】
繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0024】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0025】
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5〜30秒に10〜50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0026】
繊維状セルロースにおける第1解離酸量(mmol/g)をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量(mmol/g)をA2とした場合、A1/A2の値は0.51以上であることが好ましく、0.64以上であることがより好ましく、0.80以上であることがさらに好ましい。また、A1/A2の値の上限値は1.0であることが好ましい。ここで、繊維状セルロースにおける第1解離酸量(A1)は、上述した滴定曲線において、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。すなわち、第1解離酸量(A1)は第1段階で電離し、中和される酸の物質量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。また、繊維状セルロースにおける総解離酸量(A2)は滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。すなわち、総解離酸量(A2)は全段階で電離し、中和される全ての酸の物質量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。このため、A1/A2の値が1に近いほど弱酸量(リンオキソ酸基における弱酸性基量など)が少なく、繊維状セルロースが亜リン酸基によって置換されていることを意味する。なお、繊維状セルロースがリン酸基を有する場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合もA1/A2の値が1に近づくことが想定されるが、リン酸基の縮合によって、繊維状セルロースの凝集が生じるため、繊維状セルロースを分散させることで得られる分散液の透明性が低下し、分散液の粘度も低くなる。後述するように、本発明で得られる繊維状セルロース分散液は高透明であるため、A1/A2の値が上記範囲内にあれば繊維状セルロースが亜リン酸基によって置換されていることを表している。
【0027】
なお、A1/A2の値は、リン酸基が縮合した場合、亜リン酸基が存在する場合、どちらの場合でも1に近づく。A1/A2が1に近づく要因が、リン酸基の縮合か、亜リン酸基の存在か、どちらに因るものか判断する方法としては、例えば、酸加水分解などのリン酸の縮合構造を切断する処理を行ってから上記の滴定操作を行う方法、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上記の滴定操作を行う方法などが挙げられる。
【0028】
リンオキソ酸基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。なお、リンオキソ酸基はリンオキソ酸基に由来する置換基であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。また、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)が含まれていてもよい。
【0029】
【化1】
【0030】
式(1)中、a、b及びnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR、ORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。Rはセルロース分子鎖に由来する基であってもよい。中でも、αn又はα’のいずれかはRであることが好ましく、Rは水素原子であることが特に好ましい。また、nは1であることが好ましい。すなわち、リンオキソ酸基は、亜リン酸基であることが好ましい。なお、亜リン酸基は亜リン酸基に由来する置換基であってもよい。
【0031】
本発明の実施形態の一つにおいては、繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基(以下、単に亜リン酸基ともいう)を有する。すなわち、式(1)中、αn及びα’のうちa個がO-であり、αn又はα’のいずれかはRである。中でもRは水素原子であることが好ましい。
【0032】
なお、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基の一部は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基であってもよい。なお、リン酸基はリンオキソ酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)であってもよい。
【0033】
式(1)のRで表される飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0034】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0035】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0036】
繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に各種の滴定法を組み合わせる方法が挙げられる。
【0037】
なお、繊維状セルロースはリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に加えて、他のアニオン性基を有していてもよい。このようなアニオン性基としては、例えば、パルプが元来含むカルボキシ基等を挙げることができる。
【0038】
繊維状セルロースは、後述する繊維状セルロースの製造工程において添加される尿素及び/又は尿素誘導体に由来したカルバミド基を有していてもよい。この場合、繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量(カルバミド基量)は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり1.50mmol/g以下であることが好ましく、1.00mmol/g以下であることがより好ましく、0.30mmol/g以下であることがさらに好ましく、0.20mmol/g以下であることが特に好ましい。なお、維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量(カルバミド基量)は、0.00mmol/gであってもよい。カルバミド基とリンオキソ酸基は、セルロースの水酸基に反応して導入する基であるため、カルバミド基の導入量が多くなればなるほど、リンオキソ酸基の導入量は減少する。このため、カルバミド基の導入量を上記範囲内とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を高め、適切な範囲とすることができる。なお、カルバミド基自体には、電気伝導性がないため、カルバミド基の導入により電化反発効果(繊維状セルロースの微細効果)は得られない。このため、カルバミド基の導入量を上記範囲内とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を高めることで、繊維状セルロースの溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができ、透明性の高い微細繊維状セルロース含有分散液が得られやすくなる。
【0039】
カルバミド基の導入量は繊維状セルロースに共有結合した窒素量を測定することで決定する。具体的には、繊維状セルロースを含む測定対象物からイオン性窒素(アンモニウムイオン)を遊離及び除去させた後に、微量窒素分析法により窒素量を測定する。イオン性窒素(アンモニウムイオン)の遊離は、実質的にセルロースに共有結合した窒素が除かれない条件で行う。例えば、リンオキソ酸基導入工程の後に、アルカリ処理によってアンモニウムイオンを遊離させ、洗浄除去してから解繊処理をしても良いし、解繊処理工程の後に強酸性イオン交換樹脂によってアンモニウムイオンを吸着させてもよい。微量窒素分析法による窒素量の測定機としては、例えば、三菱化学アナリック社製の微量全窒素分析装置TN−110を用いることができる。測定前に低温(例えば、真空乾燥器にて、40℃24時間)で絶乾状態になるまで繊維状セルロースを乾燥させる。繊維状セルロースの単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出される。
【0040】
繊維状セルロースは、後述する製造工程を経て得られるものであるため、繊維状セルロースを分散媒に分散させて分散液とした際に、透明性の高い分散液が得られる。また、このような分散媒を用いて、例えばシートといった成形体を成形した場合、透明性の高いシートが得られる。このように、繊維状セルロースは、分散液用繊維状セルロースであることが好ましく、成形体形成用繊維状セルロースであってもよい。
【0041】
(繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、繊維状セルロースの製造方法に関する。繊維状セルロースの製造方法は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る工程と、亜リン酸化セルロース原料に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを得る工程と、を含む。そして、亜リン酸化セルロース原料を得る工程では、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とする。なお、以下では、亜リン酸化セルロース原料を得る工程を、リンオキソ酸基導入工程ともいう。また、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基を有する繊維状セルロースを得る工程を、解繊処理工程ともいう。
【0042】
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合する。ここで、尿素が有するカルボニル基とアミノ基は亜リン酸基を有する化合物の亜リン酸基と水素結合を形成し、水素イオンの電離を抑制する。一方、尿素は熱等によって分解するため、分解されると炭酸ガスやアンモニアガスとして反応系外に放出される。本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下に抑えることで、尿素と亜リン酸基の水素結合を保持することができ、これにより、亜リン酸基から水素イオンの電離を抑制することができる。なお、亜リン酸のpKaはリン酸のpKaと比較して小さいことからも、亜リン酸基の水素イオンは電離しやすく、これにより、系の酸性度が上がり、繊維状セルロースの劣化や尿素の分解等が促進されやすいものと考えられる。しかし、本発明においては、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とすることにより、亜リン酸基を有する繊維状セルロースにおいても水素イオンの電離を抑制でき、その結果、繊維状セルロースの劣化等を抑制することが可能となる。
【0043】
<セルロース原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料(セルロース原料)から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施形態のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0044】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0045】
<リンオキソ酸基導入工程(亜リン酸基導入工程)>
リンオキソ酸基導入工程(亜リン酸基導入工程)は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸化セルロース原料を得る工程である。リンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩が反応することで、亜リン酸基を含むリンオキソ酸基を導入することができる。この工程により、亜リン酸化セルロース原料が得られることとなる。なお、本明細書においては、亜リン酸及び/又はその塩を含む化合物を化合物Aと呼ぶことがあり、尿素及び/又は尿素誘導体を化合物Bと呼ぶことがある。
【0046】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0047】
本実施形態で使用する化合物Aは、少なくとも亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩を含む。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸基を有する化合物の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく用いられる。中でも、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩は、亜リン酸基を有する化合物であることが好ましく、亜リン酸であることが好ましい。
なお、化合物Aは、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に加えて、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩、脱水縮合リン酸及び/又はその塩、無水リン酸(五酸化二リン)等を含んでもよい。この場合、リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。
【0048】
亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に含まれる、リン原子の物質量P(mmol)と、金属イオンの物質量Q(mmol)との比(Q/P)は1.0以下であることが好ましく、1.0未満であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。なお、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩が金属イオンを含む場合、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩には、亜リン酸基を有する化合物の塩が含まれる。一方、Q/Pの値が0である場合、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩は、亜リン酸基を有する化合物であり、亜リン酸であることが好ましい。なお、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩が亜リン酸基を有する化合物の塩であり、亜リン酸基を有する化合物の塩が金属イオンを有する場合であっても、Q/Pの値を上記範囲内とすることにより、尿素とリンオキソ酸の間に形成される水素結合力を適切な強さとすることができ、その結果、セルロースを膨潤させる働きをする尿素に誘導される形で、リンオキソ酸がセルロースに浸潤しやすくなる。これにより、微細繊維状セルロースの透明性をより高めることができる。
【0049】
なお、Q/Pの値は、その値が判明している試薬を用いることによって調整できる。例えば、亜リン酸であればQ/Pの値は0、亜リン酸水素1ナトリウムであればQ/Pの値は1であり、この2つを1:1で混合すれば、Q/Pの値は0.5となる。Q/Pの値が不明である場合、適当な元素分析法によって、その組成を明らかにした後に計算すればよい。
【0050】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0051】
本実施形態で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及び/又は尿素誘導体である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、および1−エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0052】
化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液のpHは、7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液のpHを上記範囲内とすることにより、リンオキソ酸基導入工程におけるリンオキソ酸基の導入速度を高めることができ、結果として、カルバミド基の導入量を抑制することができる。これにより、微細繊維状セルロースの透明性をより高めることができる。なお、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液のpHは化合物Aの水中のモル濃度(化合物Aの物質量(モル)を、水の質量で割った値)が2.5〜3.0mmol/gの状態で測定される値である。
【0053】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
また、化合物Aに含まれるリン原子の物質量(mmol)をPとし、化合物Bに含まれる尿素及び/又は尿素誘導体が含む窒素原子の物質量(mmol)をNとした場合、N/Pの値は、7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、9.0以上であることがさらに好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。また、N/Pの値は、50以下であることが好ましい。N/Pの値を上記範囲内とすることにより、亜リン酸化セルロース原料を得る工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下にコントロールしやすくなる。
【0055】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0056】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応、並びに尿素の熱分解を抑えながら、亜リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、加熱時間や熱源の選択によっても変わり得るが、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、250℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一に亜リン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0058】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0059】
加熱処理の時間は、繊維原料から実質的に水分が除かれてから10秒以上であることが好ましく、50秒以上であることがより好ましく、100秒以上であることがさらに好ましく、150秒以上であることが一層好ましく、200秒以上であることが特に好ましい。また、加熱処理の時間は、1200秒以下であることが好ましく、1000秒以下であることがより好ましく、800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、亜リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。さらに、本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を適切な範囲にコントロールすることが容易となる。
【0060】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くの亜リン酸基を導入することができる。
【0061】
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を90%以下とする。リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率は、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましく、70%以下であることが特に好ましい。なお、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率の下限値は特に限定されるものではないが、10%以上であることが好ましい。ここで、尿素分解率とは、リンオキソ酸導入工程(特に加熱)における、水の蒸発以外の質量減少(すなわち、尿素の分解量)を、セルロース原料に添加した尿素の質量で除し、質量分率で表した値である。尿素は熱等によって分解され、炭酸ガスやアンモニアガスとして反応系外に放出されるため、尿素分解率は以下の方法で算出される。
まず試験に使用するセルロース原料(パルプ)の絶乾質量を測定する。次にセルロース原料(パルプ)に所定量の薬液を添加して、質量を測定する(m0)。薬液組成とパルプの初期含水率から水の添加量(系の水分量)(mw)および、尿素の添加量(mu)を算出する。その後、含浸したセルロース原料(パルプ)を、上述したような加熱処理条件で加熱処理して、質量を測定する(m1)。測定及び算出した質量を用い、下記(式1)より尿素分解率[%]を算出する。
尿素分解率[%]=(m0−mw−m1)/mu×100・・・(式1)
0 :加熱前の薬液含浸パルプ質量
w :水の添加量(系の水分量)
1 :加熱後のパルプ質量
u :尿素の添加量
【0062】
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を上記条件となるようにコントロールすることで、製造される繊維状セルロースを分散させた分散液の透明性を高めることができる。また、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を上記条件となるようにコントロールすることで、繊維状セルロースを含むシートであって、透明性の高いシートを形成することができる。さらに、本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、製造される繊維状セルロースの分散性を高めることができ、これにより、得られる分散液の粘度を高めることもできる。なお、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を所定条件とするためには、例えば、リンオキソ酸基導入工程における亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩の添加量と尿素及び/又は尿素誘導体の添加量を適切にコントロールしたり、上記リンオキソ酸基導入工程の加熱処理時間や加熱処理温度をコントロールすることなどが挙げられる。また、リンオキソ酸基導入工程で用いる薬液のpHを所定範囲内となるように調整することでも尿素及び/又は尿素誘導体の分解率が変動するが、例えば、pHを中性に近づけるなどの調整は、分解率が下がりにくくなると同時にリンオキソ酸の導入速度が遅くなるため、結果的に分解率が下がらない場合もある。
【0063】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリンオキソ酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりリンオキソ酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0064】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リンオキソ酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、リンオキソ酸基導入繊維に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、リンオキソ酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0065】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0066】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリンオキソ酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、リンオキソ酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、リンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったリンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0068】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リンオキソ酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、リンオキソ酸基導入繊維に対して酸処理を行ってもよい。例えば、リンオキソ酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0069】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中にリンオキソ酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0070】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
<解繊処理工程>
解繊処理工程は、亜リン酸化セルロース原料(亜リン酸基導入繊維)に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基を有する繊維状セルロースを得る工程である。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0072】
解繊処理工程においては、たとえば亜リン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0073】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、亜リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0074】
(繊維状セルロース分散液)
本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、分散媒とを含む繊維状セルロース分散液に関するものでもある。ここで、繊維状セルロース分散液中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の全光線透過率は93%以上である。
【0075】
本発明の繊維状セルロース分散液の第1の態様では、繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値は0.51以上である。なお、第1解離酸量(A1)と総解離酸量(A2)は、上述した測定方法で測定される値であり、A1/A2の値は、0.64以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。また、A1/A2の値の上限値は1.0であることが好ましい。
【0076】
また、本発明の繊維状セルロース分散液の第2の態様では、繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。第2の態様においても、繊維状セルロースにおけるA1/A2の値は上述した数値範囲を満たすことが好ましい。
【0077】
本発明の繊維状セルロース分散液は、上述した解繊処理工程で得られるスラリーであってもよい。また、解繊処理工程で得られるスラリーを濃縮したり、乾燥したりすることでゲル状や固形状の繊維状セルロース含有物とした後に、繊維状セルロース含有物を溶媒に再分散させることで繊維状セルロース分散液としてもよい。
【0078】
繊維状セルロース分散液に含まれる分散媒の種類は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0079】
繊維状セルロース分散液における固形分濃度は、繊維状セルロース分散液の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロース分散液における固形分濃度は、繊維状セルロース分散液の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
本発明の繊維状セルロース分散液は、亜リン酸基を有する繊維状セルロースを分散させた分散液であるにも関わらず、透明性が高い分散液である。従来、亜リン酸基を有する繊維状セルロースを分散させた分散液においては、分散液の透明性が低下したり、分散液の粘度が低下したりする場合があった。しかし、本発明においては、繊維状セルロースの製造工程において、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を所定値以下となるようにコントロールすることによって、亜リン酸基を有する繊維状セルロースを分散させた分散液の透明性を高めることに成功した。さらに、本発明においては、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を所定値以下とすることで、亜リン酸基を有する繊維状セルロースを分散させた分散液の粘度を高めることもできる。
【0081】
具体的には、繊維状セルロース分散液の全光線透過率は、93%以上であればよく、95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましく、97%以上であることがさらに好ましい。なお、上記全光線透過率は、繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、JIS K 7361に準拠して測定した値である。全光線透過率の測定にはヘーズメータを用い、光路長1cmの液体用ガラスセルに分散液を充填する。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。なお、繊維状セルロース分散液の全光線透過率が上記範囲内であることは、繊維状セルロースが有するリンオキソ酸が過度に縮合していないことも意味している。
【0082】
また、繊維状セルロース分散液のヘーズは、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが一層好ましく、5%以下であることが特に好ましい。繊維状セルロース分散液のヘーズは、0%であってもよい。なお、上記ヘーズ値は、繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、JIS K 7136に準拠して測定した値である。ヘーズの測定にはヘーズメータを用い、光路長1cmの液体用ガラスセルに分散液を充填する。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0083】
繊維状セルロース分散液の波長600nmの透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。なお、上記透過率は、繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、紫外可視分光光度計を用いて波長600nmの光線を照射することで測定した値である。波長600nmの透過率の測定をする際には、光路長1cmの液体用ガラスセルに分散液を充填する。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0084】
繊維状セルロース分散液中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.4質量%とした際のB型粘度は、5000mPa・s以上であることが好ましく、8000mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、繊維状セルロース分散液の粘度の上限値は特に限定されるものではないが、100000mPa・sであることが好ましい。なお、上記粘度は、繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるように希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌し、スラリーを十分に均一し、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後にB型粘度計を用いて測定した値である。測定条件は、23℃の条件とし、3rpmで3分間回転させた際の粘度を測定する。なお、測定装置としては、BLOOKFIELD社製のアナログ粘度計T−LVTを用いることができる。
【0085】
<任意成分>
繊維状セルロース分散液は、さらに任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、防腐剤等を挙げることができる。また、繊維状セルロース分散液は、任意成分として、親水性高分子、親水性低分子、有機イオン等を含有していてもよい。
【0086】
親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましく、含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
【0087】
親水性低分子は、親水性の含酸素有機化合物であることが好ましく、多価アルコールであることがさらに好ましい。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0088】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0089】
(成形体)
本発明は、上述した繊維状セルロース分散液から形成される成形体に関するものであってもよい。本明細書において成形体とは、所望の形状となるように成形された固形状体である。成形体としては、例えば、シート、ビーズ、フィラメント等を挙げることができる。中でも、成形体は、シート、ビーズ又はフィラメントであることが好ましい。成形体がビーズ状である場合、ビーズの粒子径は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。また、成形体がフィラメント状である場合、フィラメントの幅は0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、フィラメントの長さは1mm以上10000mm以下であることが好ましい。
【0090】
(シート)
中でも、本発明は上述した繊維状セルロース分散液から形成されるシートに関するものであることが好ましい。すなわち、本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含むシートである。ここで、シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズが20%以下である。なお、シートの坪量を50g/m2とした際のヘーズは、10%以下であることも好ましく、5%以下であることも好ましい。シートのヘーズは、たとえばJIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
【0091】
本発明のシートの第1の態様では、繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値は0.51以上である。なお、第1解離酸量(A1)と総解離酸量(A2)は、上述した測定方法で測定される値であり、A1/A2の値は、0.64以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。また、A1/A2の値の上限値は1.0であることが好ましい。なお、シート状の繊維状セルロースからA1/A2を算出する場合、イオン交換水にシート状の繊維状セルロースを十分な時間浸漬した後に、ディスパーザーなどによる再分散処理を行って、繊維状セルロースのスラリーを得た後に測定及び算出を行う。
【0092】
また、本発明のシートの第2の態様では、繊維状セルロースは、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。第2の態様においても、繊維状セルロースにおけるA1/A2の値は上述した数値範囲を満たすことが好ましい。
【0093】
なお、シートのヘーズを測定する際には、坪量が50g/m2のシートにおいて各測定を行う。しかし、得られるシートの坪量が50g/m2ではない場合も想定される。このような場合は、シートを水に再分散させ、坪量が50g/m2のシートを作製する工程を測定前に設けることができる。また、例えば坪量が45g/m2のシートと坪量が55g/m2のシートのそれぞれで、ヘーズ等の値が分かっている場合は、それらの値から外挿して推定値を得ることもできる。
【0094】
本発明のシートの厚みは、特に限定されないが、たとえば5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえば触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
【0095】
シートの坪量は、特に限定されないが、たとえば10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、特に限定されないが、たとえば200g/m2以下であることが好ましく、180g/m2以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、たとえばJIS P 8124に準拠し、算出することができる。
【0096】
シートの密度は、特に限定されないが、たとえば0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、1.0g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度は、特に限定されないが、たとえば5.0g/cm3以下であることが好ましく、3.0g/cm3以下であることがより好ましい。ここで、シートの密度は、50mm角のシートを23℃、相対湿度50%条件下で24時間調湿した後、シートの厚みおよび質量を測定することにより算出することができる。
【0097】
シート中における繊維状セルロースの含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。一方で、シート中における繊維状セルロースの含有量の上限値は、特に限定されず、シートの全質量に対して100質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0098】
シートは、繊維状セルロース分散液に含まれ得る任意成分を含んでいてもよい。また、シートには、水や有機溶媒が含まれていてもよい。
【0099】
(シートの製造方法)
微細繊維状セルロース含有シートの製造方法は、後述するように、繊維状セルロース分散液を基材上に塗工する塗工工程、または当該スラリーを抄紙する抄紙工程を含むことが好ましい。
【0100】
<塗工工程>
塗工工程では、たとえば繊維状セルロース分散液(以下、単にスラリーともいう)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0101】
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、繊維状セルロース分散液(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
【0102】
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、特に限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。スラリーを基材に塗工する塗工機としては、特に限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが特に好ましい。
【0103】
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0104】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは10g/m2以上200g/m2以下となるように、より好ましくは20g/m2以上180g/m2以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
【0105】
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、特に限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
【0106】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、特に限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
【0107】
加熱乾燥法における加熱温度は、特に限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
【0108】
<抄紙工程>
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、特に限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
【0109】
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、特に限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、特に限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0110】
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえば繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0111】
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
【0112】
(用途)
本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースは、増粘剤や粒子分散安定剤として使用することができる。また、本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースを溶媒に混合することで、繊維状セルロース分散液としたり、該スラリーから微細繊維状セルロースが均一に分散したシートを形成することもできる。また、本発明の繊維状セルロースは、樹脂成分を含む有機溶媒との混合に好ましく用いることもできる。本発明の微細繊維状セルロースと、樹脂成分を含む有機溶媒を混合することで、微細繊維状セルロースが均一に分散した樹脂複合体を形成することができる。同様に微細繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。
【0113】
また、本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースは、例えば、補強剤や添加剤として、セメント、塗料、インク、潤滑剤などに使用することができる。また、繊維状セルロースを基材上に塗工することで得られる成形体は、補強材、内装材、外装材、包装用資材、電子材料、光学材料、音響材料、プロセス材料、輸送機器の部材、電子機器の部材、電気化学素子の部材等の用途にも適している。
【実施例】
【0114】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0115】
<製造例1>
〔微細繊維状セルロース分散液Aの製造〕
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
【0116】
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプ1を得た。
【0117】
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプ1に対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、100g(絶乾質量)のリンオキソ酸化パルプ1に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0118】
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプ1に対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプ1を10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリー1を得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリー1を脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプ1を得た。次いで、中和処理後のリンオキソ酸化パルプ1に対して、上記洗浄処理を行った。
【0119】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプ1に対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。
【0120】
また、得られたリンオキソ酸化パルプ1を供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0121】
得られたリンオキソ酸化パルプ1にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Aを得た。
【0122】
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmの微細繊維状セルロースが観察された。
【0123】
なお、以降全ての製造例において得られたリンオキソ酸化パルプについて、同様にFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行ったところ、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0124】
また、以降全ての製造例において得られた微細繊維状セルロース分散液について、X線回折により、セルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmの微細繊維状セルロースが観察された。
【0125】
<製造例2〜6>
湿式微粒化装置での処理回数を表1に記載のとおり、それぞれ2〜6回としたこと以外は製造例1と同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0126】
<製造例7〜9、14>
熱風乾燥機での加熱時間を表1に記載のとおり、それぞれ300秒、400秒、1350秒、3600秒とした以外は製造例2と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0127】
<製造例10〜13>
湿式微粒化装置での処理回数を表1に記載のとおり、それぞれ6、10、20、30回としたこと以外は製造例9と同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0128】
<製造例15>
リンオキソ酸化反応時の尿素の添加量を23質量部に変更した以外は製造例7と同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0129】
<製造例16>
薬液含浸パルプの加熱温度(リンオキソ酸化反応時の反応温度)を180℃に変更した以外は製造例7と同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0130】
<製造例2A>
原料パルプ100質量部(絶乾質量)に対する混合比率を亜リン酸水素1ナトリウム42質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように変更し、加熱時間を2250秒とした以外は製造例2と同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、亜リン酸水素1ナトリウムを用いた場合は、リンオキソ酸基がセルロースに導入される反応速度が遅く、加熱時間を長く設定した。
【0131】
<製造例2B>
加熱時間を4500秒とした以外は製造例2Aと同様にして、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。なお、加熱時間を延ばしてもリンオキソ酸基の導入量や、微細セルロース分散液の物性値は大きく変動しなかったが、カルバミド基が若干量増加していた。
【0132】
<実施例1〜8、実施例A及びB、並びに比較例1〜8>
製造例1〜16、製造例2A及び2Bで得られた微細繊維状セルロース分散液を、表1に記載のとおり、それぞれ実施例1〜8、実施例A及びB、並びに比較例1〜8として、後述する評価方法に従って、尿素分解率を算出し、さらに粘度、全光線透過率、ヘーズ、600nm透過率を測定した。
【0133】
<実施例9>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液を、固形分濃度が0.5質量%となるようイオン交換水を添加して濃度調整を行った。次いで、この微細繊維状セルロース分散液100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO−18)の0.5質量%水溶液を20質量部添加し、塗工液を得た。
【0134】
次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の仕上がり坪量が50g/m2になるように塗工液を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートをはく離し、微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られた微細繊維状セルロース含有シートのヘーズを後述する評価方法に従って測定した。
【0135】
<実施例10、比較例9及び10>
製造例1で得られた微細繊維状セルロース分散液の代わりに、製造例6、9、13で得られた微細繊維状セルロース分散液を用いた以外は実施例9と同様に微細繊維状セルロース含有シートを得た。得られた微細繊維状セルロース含有シートのヘーズを後述する評価方法に従って測定した。
【0136】
<評価方法>
〔第1解離酸量と総解離酸量の測定(リンオキソ酸基)〕
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を第1解離酸量(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
【0137】
微細繊維状セルロースのカルバミド基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を、真空乾燥機にて、40℃24時間乾燥し、絶乾状態とした後に、三菱化学アナリック社製の微量全窒素分析装置TN−110を用いて測定した。なお、イオン性窒素は、リンオキソ酸化パルプの中和処理、洗浄処理の過程で除かれていた。微細繊維状セルロース単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた微細繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出した。
【0138】
<尿素分解率の算出>
尿素分解率とは、リンオキソ酸導入工程における、水の蒸発以外の質量減少(すなわち、尿素の分解量)を、セルロース原料に添加した尿素の質量で除し、質量分率で表した値である。この値は以下の方法で測定した。
まず試験に使用するセルロース原料(パルプ)の絶乾質量を測定した。次にセルロース原料(パルプ)に所定量の薬液を添加して、質量を測定した(m0)。薬液組成とパルプの初期含水率から水の添加量(系の水分量)(mw)および、尿素の添加量(mu)を算出した。その後、含浸したセルロース原料(パルプ)を、上述したような加熱処理条件で加熱処理して、質量を測定した(m1)。測定及び算出した質量を用い、下記(式1)より尿素分解率[%]を算出した。
尿素分解率[%]=(m0−mw−m1)/mu×100・・・(式1)
0 :加熱前の薬液含浸パルプ質量
w :水の添加量(系の水分量)
1 :加熱後のパルプ質量
u :尿素の添加量
【0139】
<微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定>
微細繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0140】
<微細繊維状セルロース分散液の全光線透過率の測定>
微細繊維状セルロース分散液の全光線透過率の測定は機械処理工程(解繊処理工程)後の微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0141】
<微細繊維状セルロース分散液のヘーズの測定>
微細繊維状セルロース分散液のヘーズの測定は機械処理工程(解繊処理工程)後の微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いてJIS K 7136に準拠して測定した。測定には、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いた。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
【0142】
<微細繊維状セルロース分散液の波長600nm透過率の測定>
微細繊維状セルロース分散液の波長600nm透過率の測定は機械処理工程(解繊処理工程)後の微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、紫外可視分光光度計(株式会社Optima製 SP3000−nano)を用いて測定した。測定には、光路長1cmの液体用ガラスセルを用いた。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。なお、図2は製造例6で得られた微細繊維状セルロース分散液の光線透過率の測定スペクトル(光の波長λに対する光透過率Tの関係)である。代表波長における透過率を以下の表にまとめた。
【0143】
【表1】
【0144】
<シートのヘーズ>
シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定した。
【0145】
【表2】
【0146】
【表3】
【0147】
実施例で得られた繊維状セルロース分散液は透明性に優れていた。具体的には、実施例で得られた繊維状セルロース分散液の全光線透過率は高く、ヘーズ値は低かった。さらに、波長600nmにおける透過率が高かった。また、実施例で得られた繊維状セルロース分散液は高粘度であった。なお、比較例3〜5では、高圧ホモジナイザーの処理回数を多くしているが、得られる繊維状セルロース分散液の透明性は低く、粘度も低い傾向が見られた。つまり、微細化に供試する前の繊維状セルロースの性状が、最終的に得られる繊維状セルロース分散液の透明性や粘度に大きく関わっており、適切な条件でリンオキソ酸基導入工程を行わなかった場合は、単純に、解繊処理の回数を増やしても透明性や粘度が改善しない傾向にあることがわかった。
【0148】
実施例の繊維状セルロース分散液から繊維状セルロース含有シートを形成した場合、シートのヘーズが低く、透明性の高いシートが得られた。
【図1】
【図2】