【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、屈折率nには温度依存性がある。そのため、分光干渉方式で測定されるシリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntは、測定時のシリコンウェーハの温度に依存して異なった値となる。そのため、屈折率nの設定値として一定の値を用いて、シリコンウェーハの厚み測定値tを算出すると、当該厚み測定値tも、測定時のシリコンウェーハの温度に依存して異なった値となる。
【0005】
このように、シリコンウェーハの温度に依存した屈折率の違いに起因して、厚み測定値がばらつくことを防ぐためには、測定環境の温度を一定に維持して、測定対象物としてのシリコンウェーハの温度を極力一定に維持することが一案である。しかしながら、本発明者らは、厚み測定の精度と厚み測定完了までに要する時間の観点から、このような工夫が有効ではない状況があることを見出した。
【0006】
それは、分光干渉方式による厚み測定をシリコンウェーハの面内の複数点で順次行う場合である。ある温度に保持されたシリコンウェーハが、それとは異なる温度の測定環境に置かれると、シリコンウェーハの温度は面内のそれぞれの位置で経時的に複雑に変化するため、シリコンウェーハの面内温度分布は不均一となる。この面内温度分布が均一になって、しかも各位置での温度が安定するまでには、かなりの時間を要する。
【0007】
面内の温度ばらつきが残っている段階で厚み測定を始めると、ある時刻で測定されたある測定点での厚み測定値と、別の時刻で測定された別の測定点での厚み測定値との間には、屈折率の差異に起因した測定値のばらつきが存在することになる。すなわち、複数の測定点間での厚み測定値の相対的な精度が十分に得られない。他方で、シリコンウェーハの温度が安定してから厚み測定を始めると、測定完了までに長時間を要し、シリコンウェーハの生産性を向上させることができない。このような課題は、シリコンウェーハに限らず、屈折率に温度依存性があり、かつ、分光干渉方式で厚み測定が可能な半導体ウェーハ全般に当てはまる。
【0008】
本発明者らは、シリコンウェーハの温度がシリコンウェーハの厚み測定値に与える影響を検証した。以下に、本発明者らによる実験例を示す。両面研磨されたシリコンウェーハ(狙い厚み:775μm、直径:300mm、ドーパント:ボロン、抵抗率:p−)の面内中心点の厚みを、分光干渉方式の厚み測定装置を用いて以下の条件で経時的に測定した。その際、シリコンウェーハに熱風を吹き付けることによって、温度を意図的に変動させた。なお、シリコンウェーハの温度は、表面に貼り付けた熱電対によって測定した。なお、屈折率の設定値は3.86223とした。
【0009】
図2に、上記実験によるシリコンウェーハの温度及び厚み測定値の変動を示す。図2から明らかなように、シリコンウェーハの温度の変動に同期して、厚み測定値も変動している。図3は、図2のグラフに基づいて作成した、シリコンウェーハの温度と厚み測定値との関係を示すグラフである。図3からは、シリコンウェーハの温度と厚み測定値には強い正の相関があることが分かる。横軸x:ウェーハ温度、縦軸y:ウェーハ厚み測定値として、y=0.0695+757.53となり、この実験例では、シリコンウェーハの温度1℃の変動あたり、厚み測定値は0.0695μm(69.5nm)だけ変動することが分かった。シリコンウェーハの熱膨張による厚みの増加分は、温度1℃あたり10nm程度であることから、この厚み測定値の変動は、実際の厚みの変動のみを反映するものではなく、温度変動に起因した測定誤差であると考えられる。すなわち、この厚み測定値の変動は、屈折率の温度依存性に起因するものであると考えられる。
【0010】
この実験結果を踏まえると、分光干渉方式による厚み測定をシリコンウェーハの面内の複数点で順次行って、シリコンウェーハの面内の複数の測定点で厚み測定値を得るためには、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制する必要がある。そして、この課題はシリコンウェーハに限られず、屈折率の温度依存性が問題となる半導体ウェーハおいても当てはまる。本発明者らはこの温度依存の問題を、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で求める際の新規な課題として認識した。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で短時間に測定する際に、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することが可能な半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を進めた。従来公知の分光干渉方式を用いる場合に半導体ウェーハの温度が半導体ウェーハの厚み測定値に影響を及ぼす理由は、屈折率が温度依存性を示すにも関わらず、屈折率を一定値として計算するためである。そこで、半導体ウェーハの所定位置における温度依存性を示す屈折率を求め、その屈折率を用いて当該所定位置における厚みに相当する光路長から厚み測定値を求めることを本発明者らは着想した。こうすることで面内の温度ばらつきに起因する複数の測定点間での厚み測定値の相対的な変動を抑制することができることを本発明者らは見出した。
【0013】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)(A)半導体ウェーハの表面の所定位置における屈折率を求める屈折率取得工程と、
(B)前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置における厚みに相当する光路長を測定する光路長測定工程と、
(C)前記半導体ウェーハの厚みの前記厚みに相当する光路長を、前記屈折率取得工程において求めた前記屈折率で除することによって、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚み測定値を得る厚み測定工程と、
を含み、
前記(B)光路長測定工程は、
(i)所定の帯域幅を有する赤外光を前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置に照射する第1工程と、
(ii)前記赤外光が前記半導体ウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、前記赤外光が前記半導体ウェーハを透過して該半導体ウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する第2工程と、
(iii)前記第2工程で検出した前記干渉光の分光スペクトルを得る第3工程と、
(iv)前記分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を求める第4工程と、
を含み、
前記(A)屈折率取得工程、前記(B)光路長測定工程、及び前記(C)厚み測定工程を前記半導体ウェーハの面内の複数点で行うことを特徴とする半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0014】
(2)前記(A)屈折率取得工程は、前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置における反射率を、反射率測定器を用いて測定する反射率測定工程と、前記反射率に基づき前記所定位置における前記屈折率を算出する屈折率算出工程と、を含む、上記(1)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0015】
(3)前記(A)屈折率取得工程において、前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置における前記屈折率を、屈折率測定器を用いて測定する、上記(1)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0016】
(4)半導体ウェーハを載置する台座と、
前記半導体ウェーハの表面の所定位置における屈折率を求める屈折率取得工程を行う屈折率取得ユニットと、
所定の帯域幅を有する赤外光を前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置に照射する第1工程を行う光学ユニットと、
前記赤外光が前記半導体ウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、前記赤外光が前記半導体ウェーハを透過して該半導体ウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する第2工程を行う検出ユニットと、
(a)前記検出ユニットで検出した前記干渉光の分光スペクトルを得る第3工程と、
(b)前記分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を求める第4工程と、を行う第1演算部と、
前記所定位置における前記屈折率及び前記厚みに相当する光路長を記憶するメモリと、
前記メモリに記憶された前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を、前記半導体ウェーハの前記屈折率で除することによって、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚み測定値を得る厚み測定工程を行う第2演算部と、
前記所定位置を、前記半導体ウェーハの面内の複数点に設定可能な、前記光学ユニットと前記半導体ウェーハとの相対位置の可動機構と、
を有し、
前記屈折率取得工程、前記第1工程から前記第4工程、及び前記厚み測定工程を前記半導体ウェーハの面内の複数点で行ことを特徴とする半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0017】
(5)前記屈折率取得ユニットは、前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置における反射率を測定する反射率測定器と、前記反射率に基づき前記所定位置における前記屈折率を算出する第3演算部と、を有する、上記(4)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0018】
(6)前記屈折率取得ユニットは、前記半導体ウェーハの表面の前記所定位置における前記屈折率を測定する屈折率測定器を有する、上記(4)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。