前記ベースライン算出部は、前記吸光度スペクトルでの前記放射性物質の吸収によるピークがある波長以外の波長である算出用波長における、前記吸光度スペクトルの吸光度に基づき、前記傾きaを算出する、請求項2に記載の分光分析装置。
前記ベースライン算出部は、前記算出用波長における前記吸光度スペクトルの吸光度の一次微分値を算出して、前記一次微分値に基づき、前記傾きaを算出する、請求項3に記載の分光分析装置。
前記ベースライン算出部は、複数の前記算出用波長について前記一次微分値を算出し、複数の前記一次微分値の平均値から、前記傾きaを算出する、請求項4に記載の分光分析装置。
前記固形物分析部は、前記定数bに基づき、第1粒径の前記固形物の量を算出し、前記傾きaに基づき、前記第1粒径より粒径が小さい第2粒径の前記固形物の量を算出する、請求項6に記載の分光分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、吸光度スペクトルは、溶液に含まれる測定対象(放射性物質)以外の固形成分により、ベースラインに変形が生じる場合がある。このようにベースラインに変形が生じた場合、放射性物質の分析精度が低下するおそれがある。また、例えば溶液処理のプロセス監視などのために、このような溶液中の固形成分についても分析を行う事が求められている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、溶液中の放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、溶液中の固形成分を適切に分析可能な分光分析装置及び分光分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る分光分析装置は、放射性物質、及び前記放射性物質以外の固形物が含まれる溶液に光を照射する光源部と、前記溶液を透過した光を検出する検出部と、演算部と、を備え、前記演算部は、前記検出部が検出した光から、前記溶液の吸光度スペクトルを算出する吸光度スペクトル算出部と、前記吸光度スペクトルからベースラインを算出するベースライン算出部と、前記吸光度スペクトルから前記ベースラインを差し引いた修正スペクトルに基づき、前記放射性物質の濃度を算出する放射性物質分析部と、前記ベースラインに基づき、前記固形物の量を算出する固形物分析部と、を備える。
【0007】
この分光分析装置によると、吸光度スペクトルからベースラインを差し引いた修正スペクトルに基づき、放射性物質の濃度を算出するため、スペクトルから固形物の影響を除去可能となり、放射性物質の濃度の算出精度の低下を抑制できる。また、分光分析装置は、ベースラインに基づき固形物の量を算出することで、溶液中の固形成分を、適切に分析することができる。
【0008】
前記ベースラインを、Y=a・X+bとした場合に、前記ベースライン算出部は、前記吸光度スペクトルから、前記ベースラインの傾きa及び定数bを算出することで、前記ベースラインを算出することが好ましい。ここで、Xは前記吸光度スペクトルにおける前記光の波長であり、Yは、前記吸光度スペクトルにおける吸光度である。分光分析装置は、ベースラインを直線として扱うことで、ベースラインを高精度に算出することが可能となり、放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0009】
前記ベースライン算出部は、前記吸光度スペクトルでの前記放射性物質の吸収によるピークがある波長以外の波長である算出用波長における、前記吸光度スペクトルの吸光度に基づき、前記傾きaを算出することが好ましい。分光分析装置は、算出用波長における吸光度に基づき傾きaを算出するため、ベースラインを高精度に算出することが可能となり、放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0010】
前記ベースライン算出部は、前記算出用波長における前記吸光度スペクトルの吸光度の一次微分値を算出して、前記一次微分値に基づき、前記傾きaを算出することが好ましい。分光分析装置は、算出用波長における吸光度の一次微分値から傾きaを算出するため、ベースラインを高精度に算出することが可能となり、放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0011】
前記ベースライン算出部は、複数の前記算出用波長について前記一次微分値を算出し、複数の前記一次微分値の平均値から、前記傾きaを算出することが好ましい。分光分析装置は、複数の一次微分値の平均値から傾きaを算出するため、ベースラインを高精度に算出することが可能となり、放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0012】
前記固形物分析部は、前記ベースラインに基づき、粒径ごとの前記固形物の量を算出することが好ましい。分光分析装置は、溶液に含まれる固形物の量を、固形物の粒径毎に算出するため、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0013】
前記固形物分析部は、前記定数bに基づき、第1粒径の前記固形物の量を算出し、前記傾きaに基づき、前記第1粒径より粒径が小さい第2粒径の前記固形物の量を算出することが好ましい。分光分析装置は、溶液に含まれる固形物の量を、固形物の粒径毎に算出するため、固形物の分析を適切に行うことができる。
【0014】
前記放射性物質は、ウラン及びプルトニウムの少なくとも一方であることが好ましい。分光分析装置は、ウラン及びプルトニウムの濃度の算出精度の低下を抑制することができる。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る分光分析方法は、放射性物質、及び前記放射性物質以外の固形物が含まれる溶液に光を照射する照射ステップと、前記溶液を透過した光を検出する検出ステップと、演算ステップと、を含み、前記演算ステップは、前記検出ステップで検出した光から、前記溶液の吸光度スペクトルを算出する吸光度スペクトル算出ステップと、前記吸光度スペクトルからベースラインを算出するベースライン算出ステップと、前記吸光度スペクトルから前記ベースラインを差し引いた修正スペクトルに基づき、前記放射性物質の濃度を算出する放射性物質分析ステップと、前記ベースラインに基づき、前記固形物の量を算出する固形物分析ステップと、を含む。この分光分析方法によると、放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物の分析を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶液中の放射性物質の分析精度の低下を抑制しつつ、溶液中の固形成分を適切に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施形態に係る分光分析装置の模式図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る測定プローブの一例を示す部分拡大図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る演算部の模式的なブロック図である。
【図4】図4は、吸光度スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】図5は、修正スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】図6は、固形物による散乱を説明するための一例のグラフである。
【図7】図7は、固形物による散乱を説明するための一例のグラフである。
【図8】図8は、ベースラインの一例を示すグラフである。
【図9】図9は、本実施形態に係る放射性物質の濃度と固形物の量との算出フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0019】
図1は、本実施形態に係る分光分析装置の模式図である。図1に示すように、本実施の形態に係る分光分析装置1は、溶液Xを分析する装置である。溶液Xは、放射性物質X1、及び、放射性物質X1以外の成分の固形物(SS;Suspended Solid)X2が含まれる流体である。本実施形態においては、溶液Xは、例えば放射性物質X1を含む燃料が硝酸などの溶媒に溶解されて生成される。溶液Xは、含有される成分が既知の流体であることが好ましく、言い換えれば、放射性物質X1及び固形物X2として、どのような元素が含まれているかが既知であることが好ましい。本実施形態では、放射性物質X1は、ウラン及びプルトニウムである。また、固形物X2は、放射性物質ではない物質であり、後述の測定光L1による吸光度のピークを有さない物質であることが好ましい。
【0020】
溶液Xは、例えば核燃料の再処理工場などの原子力施設内において、配管10を流れている。溶液Xは、配管10に設けられるフィルタである処理部Fによって、所定の処理(本実施形態では固形物の除去)が行われた後の溶液である。分光分析装置1は、溶液Xに含まれる放射性物質X1の濃度(元素濃度)と、溶液Xに含まれる固形物X2の量と、を算出する。これにより、分光分析装置1は、放射性物質X1の管理と、処理部Fによる処理、ここでは固形物の除去とが、適切に行われるかの確認などを行うことができる。なお、処理部Fは、配管10に設けられることに限られず、配管10以外の位置に設けられていてもよい。また、処理部Fは必須の構成でなく、処理部Fが設けられていなくてもよい。また、分光分析装置1は、配管10を流れる溶液Xをオンラインで分析することに限られず、例えば容器に貯留された溶液Xを分析してもよい。
【0021】
分光分析装置1は、光源部12と、測定プローブ13と、検出部14と、演算部15と、を備える。分光分析装置1は、溶液Xが流れる配管10内に光源部12からの測定光L1を照射し、溶液Xを透過した測定光L1である透過光L2を、検出部14により検出する。そして、分光分析装置1は、演算部15により、検出部14が検出した透過光L2に基づき溶液Xの吸光度スペクトルを算出して、溶液Xに含まれる放射性物質X1の濃度と、溶液Xに含まれる固形物X2の量と、を算出する。本実施形態における原子力施設は、壁部18により、空間線量率が高い高線量区画AR1と、高線量区画AR1よりも空間線量率が低い低線量区画AR2とに区分けされる。高線量区画AR1には、配管10が設けられるとともに、分光分析装置1の測定プローブ13が設けられる。分光分析装置1の光源部12、検出部14、及び演算部15は、低線量区画AR2に設けられる。測定プローブ13と光源部12とは、高線量区画AR1から低線量区画AR2にわたって設けられる光ファイバケーブル16で接続されている。測定プローブ13と検出部14とは、高線量区画AR1から低線量区画AR2にわたって設けられる光ファイバケーブル17で接続されている。
【0022】
光源部12は、測定光L1を照射する光源、及び光源からの測定光L1を所望の波長に分光する分光器を備える。光源部12の光源としては、可視光領域の分析には白熱電球が用いられ、可視光領域から近赤外領域の分析にはタングステンランプが用いられ、紫外領域の分析には重水素放電管などが用いられる。本実施の形態に係る分光分析装置1においては、溶液X中の分析対象元素の種類に応じて、各種光源を切替えて用いられる。これらの中でも、ウラン及びプルトニウムなどの放射性元素を高精度で分析できる観点から、光源部12としては、タングステンランプなどの近赤外領域を検出可能なものが好ましい。具体的には、光源部12は、200nm以上1100nm以下の波長に分光して測定光L1を照射することが好ましく、200nm以上900nm以下の波長に分光して測定光L1を照射することがより好ましい。なお、本実施形態においては、後述のベースラインBを安定にするために、測定光L1の波長範囲、言い換えれば分光された測定光L1の最小波長と最大波長との差分を、広く設定しておくことが好ましい。
【0023】
光源部12には、光ファイバケーブル16を介して測定プローブ13が接続される。光源部12は、光ファイバケーブル16を介して、溶液X中に含まれる分析対象物の成分に応じた波長の測定光L1を、測定プローブ13に向けて送光する。
【0024】
測定プローブ13は、光ファイバケーブル17を介して検出部14に接続されている。光ファイバケーブル17は、一端が検出部14に接続され、他端が測定プローブ13内のフランジ10aを貫通し、配管10側の内部に配置される。測定プローブ13は、光源部12から送光された測定光L1を受光し、受光した測定光L1を流路部13b内に侵入した溶液Xに向けて照射する。また、測定プローブ13は、光ファイバケーブル17を介して流路部13b内の溶液Xを透過した透過光L2を、検出部14に向けて送光する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る測定プローブの一例を示す部分拡大図である。図2に示すように、測定プローブ13は、中空形状をなしており、測定プローブ13のフランジ10aに固定された基端13cから離れた先端部13aに、光ファイバケーブル16の先端部16a及び光ファイバケーブル17の先端部17aが固定されている。この光ファイバケーブル16の先端部16a及び光ファイバケーブル17の先端部17aは、光ファイバケーブル16から出射する測定光L1と、光ファイバケーブル17によって受光する透過光L2とが逆方向になるように配置されている。なお、本実施形態に係る測定プローブ13は、以降で説明する構造に限定されるものでもなく、バイパスを通じて溶液Xをサンプリングするサンプリングラインと、サンプリングラインに接続される流通型セルと、照射用の光の入射口と、計測用の透過光の出射口と、を備えたものであってよい。この場合、流通型セル内では、サンプリングラインから供給された溶液Xが流れる。照射用の光の入射口と、計測用の透過光の出射口とを結ぶ直線(入射口から出射口へ進行する光の光路)は、流通型セル内での溶液Xの流れと交差、より好ましくは直交している。
【0026】
測定プローブ13の先端には、収容空間131aを有する直方体状の収容部131が設けられている。収容部131は、測定プローブ13側の一面に測定光L1及び透過光L2を透過する光透過部131bが設けられている。収容部131の収容空間131a内には、収容部131内に収納された一対の反射鏡132a,132bが設けられている。反射鏡132aは、光ファイバケーブル16から照射される測定光L1を反射鏡132aに向けて90度反射するように、光ファイバケーブル16が延在する方向に対して所定の角度をとって配置される。反射鏡132bは、反射鏡132aによって反射された測定光L1を光ファイバケーブル17に向けて90度反射するように、反射鏡132aに対して所定の角度をとって配置される。
【0027】
また、収容部131の収容空間131a内には、光ファイバケーブル16の先端部16aと反射鏡132aとの間に凸レンズ133aが配置され、光ファイバケーブル17の先端部17aと反射鏡132bとの間に凸レンズ133bが配置される。凸レンズ133aは、光ファイバケーブル16から反射鏡132aへ向けて照射された測定光L1のビーム径の拡大を抑える。また、凸レンズ133bは、反射鏡132bから光ファイバケーブル17に向けて反射された透過光L2のビーム径の拡大を抑える。このように、凸レンズ133a,133bを設けて測定光L1及び透過光L2のビーム径の拡大を抑えることにより、光ファイバケーブル16から照射された測定光L1を透過光L2として、光ファイバケーブル17の先端部17aに集光させることが可能となる。
【0028】
測定プローブ13の流路部13bは、先端部13aの一方の側面13dから他方の側面13eに向けて一部が切り欠かれて設けられている。測定プローブ13の流路部13bは、反射鏡132bと光ファイバケーブル17との間の光路に設けられている。このように流路部13bを設けることにより、反射鏡132bによって反射された測定光L1が流路部13bを通過する際に、流路部13b内に侵入した溶液Xによって測定光L1の一部が吸光されて透過光L2となる。
【0029】
このように、本実施形態においては、光ファイバケーブル16、光ファイバケーブル17及び反射鏡132a,132bによって光ファイバケーブル16及び光ファイバケーブル17を介して光源部12から照射された測定光L1を検出部14に向けて反射する光路が形成されている。そして、この光路の一部に含まれる測定プローブ13の先端部13aの側面には、測定プローブ13の側面の一部が測定プローブ13の内側に向けて切り欠かれた流路部13bが形成されている。このように測定プローブ13が設けられることにより、配管10内の溶液Xが測定プローブ13の流路部13bに侵入し、侵入した溶液Xに対して光源部12からの測定光L1が照射されると共に、溶液Xを透過した透過光L2が検出部14に向けて搬送される。これにより、溶液Xに含まれる被測定物の分光分析が可能となる。ただし、以上説明した測定プローブ13の形状は一例であり、測定プローブ13は、透過光L2を検出部14に送光可能な形状であれば任意の形状であってよい。
【0030】
図1に示す検出部14は、測定プローブ13から光ファイバケーブル17を介して送光された溶液Xの透過光L2を受光する受光素子であり、受光した透過光L2の強度を検出する。
【0031】
図1に示す演算部15は、検出部14が検出した透過光L2の強度に基づき、溶液Xの吸光度スペクトルを算出し、吸光度スペクトルに基づき、溶液Xに含まれる放射性物質X1と固形物X2とを分析する。図3は、本実施形態に係る演算部の模式的なブロック図である。演算部15は、本実施形態ではコンピュータであり、分光分析装置1を制御する。図3に示すように、演算部15は、入力部20と、出力部22と、記憶部24と、制御部26とを備える。入力部20は、作業者の操作を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボードやタッチパネルなどである。出力部22は、情報を出力する装置であり、例えば制御部26の制御内容などを表示する表示装置を含む。記憶部24は、制御部26の演算内容やプログラムの情報などを記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。
【0032】
制御部26は、演算装置、すなわちCPU(Central Processing Unit)である。制御部26は、光源制御部30と、吸光度スペクトル算出部32と、ベースライン算出部34と、放射性物質分析部36と、固形物分析部38と、出力制御部40とを含む。光源制御部30と、吸光度スペクトル算出部32と、ベースライン算出部34と、放射性物質分析部36と、固形物分析部38と、出力制御部40とは、制御部26が記憶部24に記憶されたソフトウェア(プログラム)を読み出すことで実現され、後述する処理を実行する。
【0033】
光源制御部30は、光源部12を制御して、光源部12に測定光L1を照射させる。
【0034】
吸光度スペクトル算出部32は、検出部14による透過光L2の検出結果を取得し、その検出結果に基づき、溶液Xの吸光度スペクトルを算出する。具体的には、吸光度スペクトル算出部32は、検出部14を制御して、検出部14に透過光L2を受光させる。吸光度スペクトル算出部32は、検出部14の検出結果、すなわち受光した透過光L2の強度の情報を取得する。吸光度スペクトル算出部32は、波長毎の透過光L2毎の強度を取得する。吸光度スペクトル算出部32は、透過光L2の強度と測定光L1の強度との比率から、溶液Xによる測定光L1の吸光度を算出する。吸光度スペクトル算出部32は、透過光L2の波長毎に、溶液Xの吸光度を算出して、波長毎に吸光度をプロットしたデータを、吸光度スペクトルとして算出する。
【0035】
図4は、吸光度スペクトルの一例を示すグラフである。図4の横軸は、波長を指し、縦軸は溶液Xの吸光度を指すため、図4に示す吸光度スペクトルAは、波長毎の溶液Xの吸光度を示す。吸光度スペクトル算出部32が算出する溶液Xの吸光度スペクトルAは、図4に例示するように、少なくとも1つの波長において、放射性物質X1に起因するピークを有する波形となる。ここで、放射性物質X1による吸光度がピークとなる波長は、既知である。分光分析においては、このピークの波長における吸光度の値から、放射性物質X1の濃度を算出することが可能である。しかし、溶液Xには、放射性物質X1以外にも、固形物X2が含まれている。この場合、吸光度スペクトルAは、固形物X2の影響により、ベースラインBが変形して、例えば図4に示すような右肩下がりの波形となる。言い換えれば、吸光度スペクトルAは、波長が高くなるに従って吸光度が低くなるベースラインBに、放射性物質X1に起因するピーク波形を含む吸光度スペクトルを重ね合わせた波形となる。吸光度スペクトルAがこのような波形となるため、吸光度スペクトルAのピークに基づき放射性物質X1の吸光度を算出した場合、吸光度スペクトルAのピークにおける吸光度が、放射性物質X1に起因する吸光度からずれてしまい、放射性物質X1の濃度の算出精度が低下してしまう。それに対し、本実施形態に係る演算部15は、ベースラインBを高精度に算出して、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いた修正スペクトルCを算出する。そして、修正スペクトルCから放射性物質X1の濃度を算出することで、放射性物質X1の濃度の算出精度の低下を抑制することができる。以下、具体的に説明する。なお、図4に示した吸光度スペクトルAの波形は、一例である。
【0036】
ベースライン算出部34は、吸光度スペクトル算出部32が算出した吸光度スペクトルAから、ベースラインBを算出する。ベースライン算出部34は、吸光度(縦軸)が波長(横軸)毎に一次的に変化する直線として、ベースラインBを算出する。具体的には、ベースライン算出部34は、ベースラインBを以下式(1)の直線として算出する。
【0038】
式(1)において、Xは、吸光度スペクトルAにおける波長(横軸)であり、Yは吸光度(縦軸)であり、共に変数となる。また、傾きaは、ベースラインBの傾きであり、値が一定(定数)となる。また、定数bは、ベースラインBの切片であり、値が一定(定数)となる。ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAから、傾きaと定数bとを算出することで、ベースラインBを算出する。
【0039】
ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAでの算出用波長Wにおける吸光度に基づき、傾きaを算出する。算出用波長Wは、吸光度スペクトルAにおける、放射性物質X1の吸収に起因するピークがある波長以外の波長である。具体的には、ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAの算出用波長Wにおける吸光度の値を一次微分し、一次微分した値に基づき、傾きaを算出する。さらに言えば、ベースライン算出部34は、複数の算出用波長Wを設定して、それぞれの算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値を算出することが好ましい。ベースライン算出部34は、それぞれの算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値の平均値を算出して、その平均値を、傾きaとして設定する。ただし、ベースライン算出部34は、それぞれの算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値の平均値を算出することに限られず、1つの算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値を、傾きaとして設定してもよい。
【0040】
放射性物質X1の吸光度のピークがある波長は、既知であるため、算出用波長Wは、放射性物質X1のピークが無い波長も既知となり、予め設定可能である。従って、本実施形態においては、算出用波長Wの値は、放射性物質X1のピークが無い波長として予め設定されており、例えば記憶部24に記憶されている。ベースライン算出部34は、予め設定された算出用波長Wの値を取得して、その算出用波長Wにおける一次微分値から、傾きaを算出する。算出用波長Wとしては、例えば、600nm、700nm、及び900nmが挙げられる。ベースライン算出部34は、波長が600nm、700nm、900nmにおける吸光度スペクトルAの吸光度の一次微分値を、それぞれ算出して、それらの一次微分値の平均値を、傾きaとして設定する。ただし、算出用波長Wは、600nm、700nm、及び900nmに限られず、放射性物質X1のピークが無い波長であればよい。
【0041】
ただし、ベースライン算出部34は、予め設定された算出用波長Wの値を使用することに限られず、例えば吸光度スペクトルAから算出用波長Wの値を算出してもよい。この場合、ベースライン算出部34は、例えば、吸光度スペクトルAの各波長における吸光度の値を二次微分して、その二次微分値に基づき、算出用波長Wを算出する。具体的には、ベースライン算出部34は、二次微分値がゼロとなる波長を、算出用波長Wとして算出してもよい。
【0042】
また、ベースライン算出部34は、算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値に基づき傾きaを算出しているが、傾きaの算出方法はこれに限られず、吸光度スペクトルAに基づき傾きaを算出するものであればよい。例えば、ベースライン算出部34は、算出用波長Wにおける吸光度スペクトルAの近似直線を算出して、その近似直線の傾きを、ベースラインBの傾きaとしてもよい。
【0043】
ベースライン算出部34は、以上のようにして算出した傾きaと、吸光度スペクトルAとに基づき、定数bを算出する。例えば、ベースライン算出部34は、傾きaの値と、1つの算出用波長Wにおける吸光度の値とから、定数bを算出する。この場合、ベースライン算出部34は、傾きが傾きaとなり、かつ、1つの算出用波長Wにおける吸光度スペクトルA上の点を通る直線が、ベースラインBとなるように、定数bを算出する。言い換えれば、ベースライン算出部34は、1つの算出用波長WにおけるベースラインBの吸光度が、その算出用波長Wにおける吸光度スペクトルAにおける吸光度と同じ値になるように、ベースラインBの定数bを算出する。
【0044】
ベースライン算出部34は、このように傾きa及び定数bを算出することで、ベースラインBを高精度に算出する。なお、本実施形態では、傾きaがマイナスの値となるため、ベースラインBは、波長が大きくなるに従って吸光度が低くなる直線となる。
【0045】
図5は、修正スペクトルの一例を示すグラフである。図3に示す放射性物質分析部36は、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いたスペクトルを、修正スペクトルCとして算出する。図5に例示するように、修正スペクトルCは、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いたスペクトルとなるため、固形物X2などの影響が除去されて、放射性物質X1に起因する吸光度を反映した吸光度スペクトルとなる。すなわち、修正スペクトルCは、放射性物質X1の吸収によるピークが無い波長(算出用波長W)における吸光度が概ねゼロとなり、放射性物質X1の吸収によるピークがある波長における吸光度が、放射性物質X1の吸収を反映した値となる。従って、放射性物質分析部36は、この修正スペクトルCに基づき放射性物質の濃度を算出することで、放射性物質X1の濃度を高精度に算出することができる。例えば、放射性物質分析部36は、放射性物質X1の濃度と吸光度のピーク値との関係を記憶部24から取得し、修正スペクトルCにおける吸光度のピーク値をこの関係に入力することで、放射性物質X1の濃度を算出する。
【0046】
以上のように、演算部15は、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いた修正スペクトルCに基づき、放射性物質X1の濃度を算出する。ここで、溶液Xを分析する際には、放射性物質X1の分析に加え、例えば溶液Xの処理が適切に出来ているかを判断するために、固形物X2についても分析することが求められる場合がある。それに対し、発明者は、ベースラインBに基づき固形物X2の分析が可能であることを想起して、本実施形態に係る演算部15が、放射性物質X1と共に、固形物X2についても分析可能になるように設定した。以下、具体的に説明する。
【0047】
図3に示す固形物分析部38は、ベースライン算出部34が算出したベースラインBに基づき、溶液Xに含まれる固形物X2の量を算出する。発明者は、ベースラインBに相当する吸光が、固形物X2による測定光L1の散乱によるものであることを想起した。すなわち、ベースラインBにおける吸光度は、実際には吸光されたものではなく、固形物X2に散乱されることで検出部14に到達しなかった測定光L1の強度を反映していると言える。測定光L1の散乱量、すなわちベースラインBにおける吸光度は、溶液Xに含まれる固形物X2の量が多いほど、大きくなる。そのため、固形物分析部38は、吸光度を示すベースラインBに基づき、溶液Xに含まれる固形物X2の量を算出することが可能となる。なお、溶液Xに含まれる固形物X2の量は、溶液Xに含まれる固形物X2の濃度と言い換えることもできる。
【0048】
さらに詳しくは、固形物分析部38は、ベースラインBに基づき、粒径ごとの固形物X2の量(濃度)を算出する。図6及び図7は、固形物による散乱を説明するための一例のグラフである。図6は、粒径パラメータα毎の、固形物X2による散乱量の一例を示すグラフである。粒径パラメータαは、固形物X2の粒径と測定光L1(入射光)の波長との関係を示すパラメータである。測定光L1の波長に対する固形物X2の粒径が大きくなるほど、粒径パラメータαの値が大きくなる。例えば、粒径パラメータαは、以下の式(2)で表される。式(2)において、πは円周率であり、xは固形物X2の粒径であり、λは測定光L1の波長である。
【0050】
図6に示すように、粒径パラメータαが、値α1以下となる領域、及び、値α1より大きく値α2以下となる領域においては、固形物X2による光の散乱量は、粒径パラメータαが大きくなるほど大きくなる。また、粒径パラメータαが値α2より大きくなる領域においては、光の散乱量が粒径パラメータαの大きさにあまり依存せず、言い換えれば、光の散乱量は、粒径パラメータαによらず一定の値となる。このような粒径パラメータα毎の光の散乱量の傾向の違いは、粒径パラメータα毎に散乱パターンが異なることに起因する。例えば、粒径パラメータαが値α2より大きい固形物X2は、幾何散乱を生じさせ、粒径パラメータαが値α1より大きく値α2以下となる固形物X2は、ミー散乱を生じさせ、粒径パラメータαが値α1以下となる固形物X2は、レイリー散乱を生じさせる。例えば、値α1は、2であり、値α2は、10であるが、値α1、α2は、それらの値に限られない。
【0051】
ここで、粒径パラメータαは、式(2)に示したように、測定光L1の波長に依存した値であり、測定光L1の波長が大きいほど小さくなる。従って、図6は、横軸において左側に向かう程、測定光L1の波長が大きくなるグラフであると解釈することができる。従って、図6に示すように、粒径パラメータαが値α2より大きく幾何散乱を起こす固形物X2は、測定光L1の波長によらず散乱量が一定となると判断できる。一方、粒径パラメータαが値α1より大きく値α2以下となりミー散乱を起こす固形物X2は、測定光L1の波長が大きくなるほど散乱量が直線的に小さくなると判断できる。また、粒径パラメータαが値α1以下となるレイリー散乱を起こす固形物X2も、測定光L1の波長が大きくなるほど散乱量が直線的に小さくなると判断できる。すなわち、ミー散乱及びレイリー散乱を生じる粒径においては、固形物X2による光の散乱量は、測定光L1の波長が大きくなるほど直線的に小さくなる。また、幾何散乱を生じる粒径においては、固形物X2による光の散乱量は、測定光L1の波長によらず値が一定となる。なお、図6は対数スケールとなっており、レイリー散乱による散乱量は、ミー散乱による散乱量や、幾何散乱による散乱量に比べて、無視可能な程度に小さいと判断できる。
【0052】
図7は、粒径毎の吸光度の例を示すグラフである。図8は、ベースラインの一例を示すグラフである。上述のように、光の散乱量とベースラインBにおける吸光度とは対応しているため、固形物分析部38は、測定光L1の波長に対する光の散乱量の、粒径毎の変化傾向を、粒径毎の測定光L1の波長に対する吸光度の、粒径毎の変化傾向として適用することができる。具体的には、固形物分析部38は、図7の(A)に示すように、第1粒径(粒径パラメータαが値α1より大きい幾何散乱領域に相当)となる固形物X2に起因する吸光度が、波長によらず一定の値になると判断する。また、固形物分析部38は、図7の(B)に示すように、第1粒径より粒径が小さい第2粒径(粒径パラメータαが値α1より大きく値α2以下となるミー散乱領域に相当)となる固形物X2に起因する吸光度が、波長が大きくなるに従って直線的に減少すると判断する。また、固形物分析部38は、図7の(C)に示すように、第2粒径より粒径が小さい第3粒径(粒径パラメータαが値α1以下となるレイリー散乱領域に相当)となる固形物X2に起因する吸光度が、波長が大きくなるに従って直線的に減少すると判断する。
【0053】
第1粒径は、幾何散乱を起こす粒径(粒径パラメータαが値α1より大きい領域に相当)であり、例えば3.5μm以上、又は、例えば2.86μm以上である。また、第2粒径は、ミー散乱を起こす粒径(粒径パラメータαが値α1より大きく値α2以下となる領域に相当)であり、例えば0.13μm以上3.5μm以下、又は、例えば0.13μm以上2.86μm以下である。また、第3粒径は、レイリー散乱を起こす粒径(粒径パラメータαが値α1以下となる領域に相当)であり、例えば0.13μm以下である。なお、ここでの第1粒径、第2粒径及び第3粒径は、例えば上記の数値範囲内において数値幅を持たない一定の値であるが、固形物分析部38は、第1粒径、第2粒径及び第3粒径を、例えば若干の数値幅を持たせた粒径範囲として判断してもよい。溶液Xは、例えば処理部Fで処理するなど、基本的には成分が管理されているため、固形物の粒径も広く分布せず一定の値に収束していると判断できる。
【0054】
固形物分析部38は、第1粒径の固形物X2による波長毎の吸光度と、第2粒径の固形物X2による波長毎の吸光度と、第3粒径の固形物X2による波長毎の吸光度との総和が、ベースラインBとして観測されていると判断する。吸光度と固形物X2の量(濃度)とは関連付いているため、固形物分析部38は、ベースラインBに基づき、言い換えれば傾きa及び定数bに基づき、固形物X2の量を粒径毎に算出することができる。具体的には、図8に示すように、固形物分析部38は、ベースラインBの領域B1における吸光度が、第1粒径の固形物X2に起因する吸光度であると判断して、ベースラインBの領域B1における吸光度に基づき、第1粒径の固形物X2の量(濃度)を算出する。領域B1は、吸光度が波形毎に一定の定数bとなる領域(Y=bとなる領域)である。すなわち、第1粒径の固形物X2に起因する吸光度は波長によらず一定となるため、固形物分析部38は、第1粒径の固形物X2に起因する吸光度が定数bであると判断して、定数bに基づき、第1粒径の固形物X2の量(濃度)を算出する。
【0055】
また、図8に示すように、固形物分析部38は、ベースラインBの領域B2における吸光度が、第2粒径の固形物X2に起因する吸光度であると判断して、ベースラインBの領域B2における吸光度に基づき、第2粒径の固形物X2の量(濃度)を算出する。領域B2は、吸光度が、傾きaをもって波形毎に変化する領域(Y=a・Xとなる領域)である。すなわち、第2粒径の固形物X2に起因する吸光度は、波長が大きくなるに従って直線的に減少するため、固形物分析部38は、第2粒径の固形物X2に起因する吸光度が傾きaをもって変化していると判断して、傾きaに基づき、第2粒径の固形物X2の量(濃度)を算出する。なお、第3粒径の固形物X2はレイリー散乱の領域であるため、第3粒径の固形物X2に起因する吸光度は、第1粒径及び第2粒径の固形物X2に起因する吸光度と比較して、無視可能な程度に小さい。従って、固形物分析部38は、第3粒径の固形物X2の濃度を算出することなく、第1粒径及び第2粒径の固形物X2の濃度を算出してよい。ただし、固形物分析部38は、第3粒径の固形物X2の濃度も併せて算出してよい。この場合、例えば、第2粒径の固形物X2に起因する吸光度と第3粒径の固形物X2に起因する吸光度との和が、領域B2に相当すると判断してよい。そして、傾きaに基づき、第2粒径の固形物X2と第3粒径の固形物X2との量(濃度)の和を算出し、その和のうちの所定割合を第2粒径の固形物X2の量とし、他を第3粒径の固形物X2の量としてよい。
【0056】
固形物分析部38は、以上のようにして、ベースラインBに基づき、溶液Xに含まれる固形物X2の量を、固形物X2の粒径毎に算出する。図3に示す出力制御部40は、放射性物質分析部36による放射性物質X1の分析結果、ここでは溶液Xに含まれる放射性物質X1の濃度と、固形物分析部38による固形物X2の分析結果、ここでは粒径毎の粒径毎の固形物X2の量と、を、例えば出力部22に出力する。例えば、出力制御部40は、固形物X2の量が予め設定した閾値を超えた場合に、その旨を出力部22に出力させる。これにより、作業者は、例えば処理部Fでの処理に異常があるなど、溶液Xの処理に異常がある旨を認識することができる。
【0057】
分光分析装置1の構成は以上のようになっている。次に、分光分析装置1による放射性物質X1の濃度と固形物X2の量との算出フローを、フローチャートに基づき説明する。図9は、本実施形態に係る放射性物質の濃度と固形物の量との算出フローを説明するフローチャートである。図9に示すように、分光分析装置1は、光源制御部30により光源部12を制御して、光源部12から溶液Xに測定光L1を照射し(ステップS10)、検出部14により溶液Xからの透過光L2を検出する(ステップS12)。分光分析装置1は、吸光度スペクトル算出部32により、透過光L2の検出結果を波長毎に取得して、吸光度スペクトルAを算出する(ステップS14)。そして、分光分析装置1は、ベースライン算出部34により、吸光度スペクトルAに基づきベースラインBを算出する(ステップS16)。分光分析装置1は、放射性物質分析部36により、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いた修正スペクトルCに基づき、溶液Xに含まれる放射性物質X1の濃度を算出する(ステップS18)。また、分光分析装置1は、固形物分析部38により、ベースラインBに基づき、溶液Xに含まれる固形物X2の量を算出する(ステップS20)。固形物分析部38は、ベースラインBに基づき、粒径毎の固形物X2の量を算出する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る分光分析装置1は、光源部12と、検出部14と、演算部15とを備える。光源部12は、放射性物質X1と、放射性物質X1以外の固形物X2が含まれる溶液Xに、測定光L1を照射する。検出部14は、溶液Xを透過した光、すなわち透過光L2を検出する。演算部15は、吸光度スペクトル算出部32と、ベースライン算出部34と、放射性物質分析部36と、固形物分析部38と、を備える。吸光度スペクトル算出部32は、検出部14が検出した透過光L2から、溶液Xの吸光度スペクトルAを算出する。ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAから、ベースラインBを算出する。放射性物質分析部36は、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いた修正スペクトルCに基づき、放射性物質X1の濃度を算出する。固形物分析部38は、ベースラインBに基づき、固形物X2の量を算出する。
【0059】
本実施形態に係る分光分析装置1は、吸光度スペクトルAからベースラインBを差し引いた修正スペクトルCに基づき、放射性物質X1の濃度を算出するため、スペクトルから固形物X2の影響を除去可能となり、放射性物質X1の濃度の算出精度の低下を抑制できる。また、分光分析装置1は、ベースラインBに基づき固形物X2の量を算出することで、溶液X中の固形物X2を、適切に分析することができる。さらに言えば、溶液Xは、放射性物質X1が含まれており、例えば高線量区画AR1と低線量区画AR2とに区分けされているように、成分の分析を行うための設備構成が複雑となる。従って、溶液Xに含まれる固形物X2を容易にかつ適切に分析することが困難となる。それに対し、本実施形態に係る分光分析装置1は、ベースラインBに基づき固形物X2の量を算出するため、放射性物質X1の分析に用いる設備だけで、放射性物質X1の分析に加え、固形物X2の分析も容易に行うことができる。
【0060】
また、ベースラインBを、Y=a・X+bとした場合に、ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAから、ベースラインBの傾きa及び定数bを算出することで、ベースラインBを算出する。分光分析装置1は、ベースラインBを直線として扱うことで、ベースラインBを高精度に算出することが可能となり、放射性物質X1の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物X2の分析を適切に行うことができる。
【0061】
また、ベースライン算出部34は、吸光度スペクトルAでの放射性物質X1の吸収によるピークがある波長以外の算出用波長Wにおける、吸光度スペクトルAの吸光度に基づき、傾きaを算出する。分光分析装置1は、算出用波長Wにおける吸光度に基づき傾きaを算出するため、ベースラインBを高精度に算出することが可能となり、放射性物質X1の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物X2の分析を適切に行うことができる。
【0062】
また、ベースライン算出部34は、算出用波長Wにおける吸光度スペクトルの吸光度の一次微分値を算出して、一次微分値に基づき傾きaを算出する。分光分析装置1は、算出用波長Wにおける吸光度の一次微分値から傾きaを算出するため、ベースラインBを高精度に算出することが可能となり、放射性物質X1の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物X2の分析を適切に行うことができる。また、一次微分値を用いることで、吸光度スペクトルのデータをそのまま利用することが可能となるため、ベースラインBの算出を容易に行うことができる。
【0063】
また、ベースライン算出部34は、複数の算出用波長Wについて一次微分値を算出し、複数の一次微分値の平均値から、傾きaを算出する。分光分析装置1は、複数の一次微分値の平均値から傾きaを算出するため、ベースラインBを高精度に算出することが可能となり、放射性物質X1の分析精度の低下を抑制しつつ、固形物X2の分析を適切に行うことができる。
【0064】
また、固形物分析部38は、ベースラインBに基づき、粒径ごとの固形物の量を算出する。分光分析装置1は、溶液Xに含まれる固形物X2の量を、固形物X2の粒径毎に算出するため、例えば、粒径が大きい固形物X2の量が多い場合に溶液Xの処理が不良であると判断することなどが可能となり、固形物X2の分析を適切に行うことができる。
【0065】
また、固形物分析部38は、定数bに基づき、第1粒径の固形物X2の量を算出し、傾きaに基づき、第1粒径より粒径が小さい第2粒径の固形物X2の量を算出する。分光分析装置1は、溶液Xに含まれる固形物X2の量を、固形物X2の粒径毎に算出するため、例えば、固形物X2の分析を適切に行うことができる。
【0066】
また、放射性物質X1は、ウラン及びプルトニウムの少なくとも一方である。分光分析装置1は、ウラン及びプルトニウムの濃度の算出精度の低下を抑制することができる。
【0067】
なお、ベースラインBは、固形物X2による測定光L1の散乱に加え、例えば測定プローブ13の窓の汚れなど、分光分析装置1の装置の状態によっても生じる。この場合、例えば配管10に溶液Xを流さない状態で測定した吸光度スペクトル(ベースライン)が分光分析装置1の装置の状態を示すものとなるため、溶液Xを流した際の吸光度スペクトルAから、溶液Xを流さない際の吸光度スペクトルを差し引くことで、窓の汚れなど、分光分析装置1の装置の状態の影響を除去することができる。
【0068】
また、本実施形態における固形物X2の粒径について、粒径の測定方法は任意であるが、例えば、レーザ回折・散乱法によって求められた粒度分布に基づき求められた粒径である。粒度分布として、体積分布を用いてもよいし個数分布を用いてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。