(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】2021067767
(43)【公開日】20210430
(54)【発明の名称】吸音構造およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20210402BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20210402BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20210402BHJP
【FI】
   !G10K11/172
   !B60C5/00 F
   !G10K11/16 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】2019191783
(22)【出願日】20191021
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
【住所又は居所】愛知県長久手市横道41番地の1
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
【住所又は居所】愛知県刈谷市一里山町金山100番地
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】中野 幸人
【住所又は居所】愛知県長久手市横道41番地の1 株式会社豊田中央研究所内
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
【住所又は居所】愛知県長久手市横道41番地の1 株式会社豊田中央研究所内
(72)【発明者】
【氏名】富田 直
【住所又は居所】愛知県長久手市横道41番地の1 株式会社豊田中央研究所内
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
【住所又は居所】愛知県刈谷市一里山町金山100番地 トヨタ車体株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
【住所又は居所】愛知県刈谷市一里山町金山100番地 トヨタ車体株式会社内
【テーマコード(参考)】
3D131
5D061
【Fターム(参考)】
3D131BA02
3D131BB02
3D131BC43
3D131BC44
3D131BC55
3D131CB03
5D061AA04
5D061AA06
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】空洞を形成する部材の形状変化に対応した上で、広い周波数域で吸音効果を発揮する。
【解決手段】空洞を形成する空洞形成部材に取り付けられる吸音構造は、空洞内において、空洞よりも小さい空間である副室を形成する副室形成部と、副室形成部の縁から空洞形成部材に沿って延伸するフランジ部と、を備え、副室形成部は、副室と空洞とが連通した開口を有し、ヤング率が1MPa〜1GPaの材料で形成され、副室と開口とによって発生するヘルムホルツ共鳴によって、空洞内の振動を低減する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞を形成する空洞形成部材に取り付けられる吸音構造であって、
前記空洞内において、前記空洞よりも小さい空間である副室を形成する副室形成部と、
前記副室形成部の縁から前記空洞形成部材に沿って延伸するフランジ部と、
を備え、
前記副室形成部は、
前記副室と前記空洞とが連通した開口を有し、
ヤング率が1MPa〜1GPaの材料で形成され、
前記副室と前記開口とによって発生するヘルムホルツ共鳴によって、前記空洞内の振動を低減する、吸音構造。
【請求項2】
請求項1に記載の吸音構造であって、
前記フランジ部は、ヤング率が1MPa〜1GPaの材料で形成されている、吸音構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の吸音構造であって、
複数の前記副室形成部を備え、
前記フランジ部は、各前記副室形成部の縁から前記空洞形成部材に沿ってそれぞれ延伸しており、
前記フランジ部のうち、一の前記副室形成部と、他の前記副室形成部との間に位置する部分のうちの少なくとも一部分には、残余の部分よりも薄肉な薄肉部が形成されている、吸音構造。
【請求項4】
請求項3に記載の吸音構造であって、
前記複数の副室形成部のうち、少なくとも一部の前記副室形成部は、他の前記副室形成部とは前記開口の大きさが異なる、吸音構造。
【請求項5】
タイヤであって、
前記タイヤの空洞内において、前記タイヤに取り付けられた請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の吸音構造を備える、タイヤ。
【請求項6】
請求項5に記載のタイヤであって、
前記タイヤの前記空洞内において、前記吸音構造は、前記タイヤの接地面とは逆側の面に配置されている、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造およびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに発生する騒音・振動を低減する手段が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、車両のタイヤゴムの内側に吸音材としてスポンジが配置さえた技術が開示されている。特許文献2には、車両のタイヤゴムにおける設置面とは逆側の面に、ヘルムホルツ共鳴器として配置さえた副室についての構造が開示されている。この副室は、タイヤの回転軸を中心とする周方向に沿って等間隔に形成されている。特許文献3には、車両のタイヤのホイールに副室が形成された技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−1285号公報
【特許文献2】特開2018−75839号公報
【特許文献3】特開2015−160564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用のタイヤでは、走行時にタイヤ特有の空洞共鳴音(200〜300Hz)が発生し、空洞共鳴音が車外および車内の騒音悪化の一要因となっている。特に、車両のEV化が進むとエンジン騒音がなくなるため、エンジン以外の騒音源の対策が重要になる。
【0005】
特許文献1に記載されたウレタンなどの多孔質吸音材では、1000Hz以下の領域に対しての吸音効果が小さく、空洞共鳴音に対する効果が小さい。特許文献2に記載された技術では、走行中のタイヤの変形について一切考慮されていない。また、タイヤの周方向に沿って単独の副室が90°ごとに形成されているだけでは、十分な吸音効果を得ることができない。特許文献3に記載された技術では、走行時に発生する遠心力によって副室が動いてしまう対策を構造的に組み込まなければならない。この構造によりばね下重量が増加してしまう。また、回転軸を中心としての径方向内側に副室が形成されるため、副室を形成するスペースが限られる。また、ホイールが金属製であるため、副室形成後の吸音構造(例えば開口面積)の調整が難しい。
【0006】
そのため、吸音構造が取り付けられる部材の形状変化や遠心力などの力に対応した上で、広い周波数域で振動を低減したいという課題があった。また、このような課題は、内部に空洞を形成する車両のタイヤの分野にかかわらず、吸音が望まれる空洞を形成する部材全般に共通する課題であった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、空洞を形成する部材の形状変化に対応した上で、広い周波数域で振動を低減する吸音構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、空洞を形成する空洞形成部材に取り付けられる吸音構造が提供される。この吸音構造は、前記空洞内において、前記空洞よりも小さい空間である副室を形成する副室形成部と、前記副室形成部の縁から前記空洞形成部材に沿って延伸するフランジ部と、を備え、前記副室形成部は、前記副室と前記空洞とが連通した開口を有し、ヤング率が1MPa〜1GPaの材料で形成され、前記副室と前記開口とによって発生するヘルムホルツ共鳴によって、前記空洞内の振動を低減する。
【0010】
この構成によれば、副室形成部の縁から空洞形成部材に沿って延伸するフランジ部が、空洞形成部材に固定されることによって、吸音構造が空洞形成部材に固定される。副室形成部のヤング率が1MPa〜1GPaと、比較的柔らかい材料で形成されているため、吸音構造は、空洞形成部材の変形に応じて変形可能である。さらに、副室形成部の材料自体の減衰性によって、高い周波数域での振動を低減する。また、本構成では、ヘルムホルツ共鳴によって低周波数域での振動を低減する。すなわち、本構成は、空洞形成部材の形状変化に対応した上で、広い周波数域で振動を低減できる。
【0011】
(2)上記形態の吸音構造において、前記フランジ部は、ヤング率が1MPa〜1GPaの材料で形成されていてもよい。
この構成によれば、副室形成部に加えて、空洞形成部材に固定されるフランジ部のヤング率も1MPa〜1GPaである。そのため、本構成は、空洞形成部材の変形にさらに対応した上で、フランジ部でも振動を低減できる。
【0012】
(3)上記形態の吸音構造において、複数の前記副室形成部を備え、前記フランジ部は、各前記副室形成部の縁から前記空洞形成部材に沿ってそれぞれ延伸しており、前記フランジ部のうち、一の前記副室形成部と、他の前記副室形成部との間に位置する部分のうちの少なくとも一部分には、残余の部分よりも薄肉な薄肉部が形成されていてもよい。
この構成によれば、一の副室形成部と、他の副室形成部とを接続しているフランジ部の一部に薄肉部が形成されている。空洞形成部材が変形すると、当該変形に伴って、吸音構造の内、最初に薄肉部付近が変形する。そのため、本構成では、ヘルムホルツ共鳴に関係する副室および開口の形状をなるべく維持した状態で、空洞形成部材の変形に対応できる。
【0013】
(4)上記形態の吸音構造において、前記複数の副室形成部のうち、少なくとも一部の前記副室形成部は、他の前記副室形成部とは前記開口の大きさが異なっていてもよい。
この構成によれば、少なくとも一部の開口の大きさが異なることによって、複数の副室のそれぞれは、異なる周波数で共鳴するヘルムホルツ共鳴器として機能する。そのため、この構成では、より広い周波数域で振動を低減できる。
【0014】
(5)本発明の他の一形態によれば、タイヤが提供される。このタイヤは、前記タイヤの空洞内において、前記タイヤに取り付けられた上記形態の吸音構造を備える。
この構成によれば、タイヤを空洞形成部材として、タイヤの空洞内に吸音構造が配置される。そのため、吸音構造は、ヘルムホルツ共鳴器として機能する副室形成部および開口によって、タイヤ固有のタイヤ空洞共鳴による振動を低減できる。吸音構造は、さらに、副室形成部を形成する柔らかい材料によって高周波数域の振動も低減できる。
【0015】
(6)上記形態のタイヤにおいて、前記タイヤの前記空洞内において、前記吸音構造は、前記タイヤの接地面とは逆側の面に配置されていてもよい。
この構成によれば、タイヤを装着した車両が走行すると、回転するタイヤの遠心力によって、吸音構造は、タイヤの回転軸を中心とする径方向外側に向かう力を受ける。この力により、吸音構造は、タイヤの逆側の面に押さえつけられるため、タイヤに対して強固に固定される。これにより、吸音構造を空洞形成部材に取り付けるために必要な部材(例えば、接着剤や両面テープ)を少なくできる。また、本構成では、吸音構造を空洞形成部材に取り付けるだけでよいため、例えばホイールに対する追加加工などが不要となり、低コストで振動を低減できる。また、吸音構造が接地面の逆側の面に取り付けられることにより、タイヤトレッド部の振動も低減でき、空洞共鳴に加えて、タイヤトレッド部の振動に起因する空気伝播や固体伝播のロードノイズも低減できる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、吸音構造、制振構造、吸音材、遮音材、これらを用いた構造体、これらの製造方法、吸音方法、制振方法、および遮音方法の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態としてのタイヤの概略斜視図である。
【図2】図1におけるYZ平面に平行なA−A断面の概略図である。
【図3】図2におけるX1部の拡大図である。
【図4】図1におけるXY平面に平行なB−B断面の概略図である。
【図5】ヘルムホルツ共鳴器の効果の説明図である。
【図6】吸音構造体のタイヤ空洞共鳴の効果の説明図である。
【図7】実施例および比較例3,4の減衰性を評価するためのサンプルの説明図である。
【図8】実施例および比較例3,4の減衰性を評価するためのサンプルの説明図である。
【図9】実施例および比較例3,4の減衰性を評価するためのサンプルの説明図である。
【図10】実施例のサンプルおよび比較例3,4のサンプルの振動振幅の低減効果の説明図である。
【図11】第2実施形態のタイヤの概略断面図である。
【図12】第2実施形態のタイヤの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのタイヤ100の概略斜視図である。第1実施形態のタイヤ100は、車両に装着されて車両の走行時に、回転軸OLを中心として回転する。図1には、タイヤ100のみが示され、ホイールは図示されていない。なお、本実施形態では、回転軸OLに平行な軸であるZ軸と、Z軸にそれぞれ直交するX軸およびY軸で構成される、図1に示される直交座標系を定義している。この直交座標系は、図2〜4,11,12に記載される直交座標系と対応している。
【0019】
図2は、図1におけるYZ平面に平行なA−A断面の概略図である。図2に示されるように、タイヤ100は、空洞HLを形成する空洞形成部材10と、空洞形成部材10における接地面12と逆側の第1の面(逆側の面)FC1に取り付けられた吸音構造体(吸音構造)20とを備えている。空洞形成部材10の材質は、ゴムである。
【0020】
吸音構造体20は、複数の副室形成部21〜23と、フランジ部28,29とを備えている。複数の副室形成部21〜23のそれぞれは、空洞HLよりも小さい空間である副室CH21〜CH23を形成する。図2に示されるように、YZ平面における副室CH21〜CH23の断面形状は、略台形である。本実施形態の副室CH21〜CH23のそれぞれは、同じ体積を有するように形成されている。本実施形態では、副室形成部21〜23およびフランジ部28,29の材質は、パルプモウルドである。パルプモウルドのヤング率は、およそ300MPa(1MPa以上1GPa以下)であり、空洞形成部材10のヤング率よりも小さい。そのため、空洞形成部材10の形状変化に追従して、吸音構造体20の形状も変化する。
【0021】
複数の副室形成部21〜23のそれぞれには、開口AP21〜AP23が形成されている。開口AP21〜AP23は、副室形成部21〜23を厚さ方向に貫通する円の断面を有する。本実施形態では、開口AP21〜AP23のそれぞれの面積は、異なっている。具体的には、開口AP21〜AP23の内、開口AP22の面積が最も小さく、開口AP23の面積が最も大きい。
【0022】
フランジ部28,29は、副室形成部21〜23の縁から空洞形成部材10に沿って延伸し、空洞形成部材10の第1の面FC1に接着剤によって接着されている。フランジ部28は、2つの副室形成部(例えば、副室形成部21,22または副室形成部21,23)間に位置している。フランジ部29は、吸音構造体20における端面側(Z軸正方向側および負方向側)に配置されている。
【0023】
図3は、図2におけるX1部の拡大図である。図3に示されるように、フランジ部28には、残余の部分よりも薄肉である薄肉部281が形成されている。薄肉部281は、残余の部分よりも薄いため、フランジ部28の残余の部分と比較して、空洞形成部材10の形状変化に追従して変形しやすい。本実施形態では、薄肉部281の厚さが1mmであり、フランジ部28の残余の部分、フランジ部29、および副室形成部21〜23の厚さが2mmである。なお、他の実施形態では、副室形成部21〜23およびフランジ部28,29の厚さは、異なる数値であってもよい。図2および図3に示されるように、2つの副室形成部間に位置していないフランジ部29には、薄肉部281が形成されていない。
【0024】
図4は、図1におけるXY平面に平行なB−B断面の概略図である。図4に示されるように、回転軸OLを中心とする周方向に沿う第1の面FC1には、複数の副室形成部21が一列に全周に渡って形成されている。XY平面における副室CH21の断面形状は、略台形である。図4に示される副室CH21の断面形状は、図2,3に示されるYZ平面の断面よりも上辺および下辺が小さい略台形である。図2に示されるように、本実施形態では、副室形成部21〜23は、回転軸OLの軸方向(Z軸方向)に沿って並んで形成され、かつ、図4に示される副室形成部21のように、複数の副室形成部22のそれぞれ及び複数の副室形成部23のそれぞれは、回転軸OLの周方向に沿って並んで配置されている。
【0025】
副室形成部21〜23によって副室CH21〜CH23および開口AP21〜AP23が形成されると、ヘルムホルツ共鳴により、下記式(1)で決定される固有振動数fで副室CH21〜CH23が共鳴する。この共鳴が発生すると、空洞HLの共鳴時音圧が低減される。
【数1】
c:音速
S:開口の断面積
V:副室の体積
L:開口の長さ(図3)
a:開口の半径
h:開口端補正係数(0.6〜0.8)
【0026】
図5は、ヘルムホルツ共鳴器の効果の説明図である。図5には、本実施形態の吸音構造体20が第1の面FC1に固定された場合に、周波数(Hz)に応じて変化する吸音率を表す吸音曲線C1が実線で示されている。また、図5には、比較例1として、副室形成部が形成されていない不織布吸音材が第1の面FC1に固定された場合の吸音曲線C2が破線で示されている。なお、図5に示される吸音率は、エネルギー(J)ベースで換算された値である。
【0027】
図5の吸音曲線C1,C2が共に示すように、高周波数域になるほど、パルプモウルドおよび不織布の繊維による吸音効果が発現し、吸音率が高くなる。その上で、パルプモウルドで形成された吸音構造体20の方の吸音率が高い。一方、低周波数域(約1000Hz)では、本実施形態の吸音構造体20は、ヘルムホルツ共鳴器としての吸音効果を発現し、吸音率が高くなっている。
【0028】
図6は、吸音構造体20のタイヤ空洞共鳴の効果の説明図である。図6には、低周波数域で周波数に応じて変化する音圧(Acoustic Pressure (dB))変化が示されている。図6では、吸音構造体20を備えるタイヤ100の音圧曲線C11が実線で示され、吸音構造体20を備えない比較例2のタイヤの音圧曲線C12が破線で示されている。図6に示されるように、本実施形態のタイヤ100の音圧曲線C11のピークは、比較例2の音圧曲線C12のピークよりも小さい。本実施形態では、音圧曲線C11のピークと、音圧曲線C12のピークとの差ΔPは、約4dBである。
【0029】
吸音構造体20は、パルプモウルドで構成されているため、ヘルムホルツ共鳴器としての吸音効果に加えて、材質に起因する振動の減衰性も有している。図7ないし図9は、実施例および比較例3,4の減衰性を評価するためのサンプルの説明図である。図7には、実施例としてのサンプルSAの概略斜視図が示されている。サンプルSAは、平板状の鋼材STの一方の面FC1に、吸音構造体20の一部である4つの副室形成部21およびフランジ部28,29が接着された部材である。図7に示される直交座標系は、回転軸OLを中心として円周上の第1の面FC1に接着されていた吸音構造体20を外した場合の座標系である。
【0030】
図8には、比較例3としてのサンプルSAxの概略斜視図が示されている。サンプルSAxは、実施例のサンプルSAに含まれる鋼材STのみで構成されている。図9には、比較例4としてのサンプルSAyの概略斜視図が示されている。サンプルSAyは、鋼材STの第2の面FC2に、パルプモウルドで形成された平板状の吸音板材PMが接着されている。比較例4の吸音板材PMには、副室が形成されていない。吸音板材PMにおける第2の面FC2に平行な面の面積は、実施例のサンプルSAにおける両端のフランジ部29の端面間を結んだ面の面積と同じである。また、吸音板材PMの厚さは、副室形成部21〜23およびフランジ部29の厚さと同じである。
【0031】
図10は、実施例のサンプルSAおよび比較例3,4のサンプルSAx、SAyの振動振幅の低減効果の説明図である。図10には、各サンプルの周波数に応じて変化する振幅(dB)の変化が示されている。図10では、サンプルSAの振幅曲線C21が実線で示され、サンプルSAxの振幅曲線C22が破線で示され、サンプルSAyの振幅曲線C23が一点鎖線で示されている。図10に示されるように、各共振周波数のピークの振幅では、実施例のサンプルSAが最も小さい。すなわち、実施例および比較例3,4の3つのサンプルSA,SAx,SAyでは、低周波数域において、実施例の振動振幅の低減効果が最も大きい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の吸音構造体20は、空洞形成部材10に取り付けられる。吸音構造体20は、空洞HLよりも小さい副室CH21〜CH23を形成する副室形成部21〜23と、フランジ部28,29とを備えている。副室形成部21〜23は、開口AP21〜AP23を有する。副室形成部21〜23の材質は、ヤング率が300MPa(1MPa以上1GPa以下)の比較的柔らかい材料で形成されている。そのため、副室形成部21〜23は、空洞形成部材10の変形に応じて変形可能である。さらに、図5に示されるように、副室形成部21〜23を構成する材料自体の減衰性によって、高周波数域での振動が低減する。また、副室CH21〜CH23と開口AP21〜AP23とによって発生するヘルムホルツ共鳴により、図10に示されるように、低周波数域での振動が低減する。すなわち、本実施形態の吸音構造体20は、空洞形成部材10の形状変化に対応した上で、広い周波数域で振動を低減できる。
【0033】
また、本実施形態のフランジ部28,29の材質は、ヤング率が300MPa(1MPa以上1GPa以下)である。副室形成部21〜23に加えて、空洞形成部材10に固定されるフランジ部28,29も比較的柔らかい材料で形成される。そのため、吸音構造体20は、空洞形成部材10の変形にさらに対応した上で、フランジ部28,29でも振動を低減できる。
【0034】
また、本実施形態の吸音構造体20は、複数の副室形成部21〜23を備えている。副室形成部間を接続するフランジ部28の少なくとも一部には、他の部分よりも薄肉な薄肉部281が形成されている。そのため、空洞形成部材10が変形すると、この変形に伴って、吸音構造体20の内、最初に薄肉部281付近が変形する。これにより、上記式(1)に示されるように、ヘルムホルツ共鳴に関係する副室形成部21〜23および開口AP21〜AP23の形状をなるべく維持した状態で、空洞形成部材10の変形に対応できる。
【0035】
また、本実施形態の副室形成部21〜23のそれぞれは、大きさが異なる各開口AP21〜AP23を有している。ヘルムホルツ共鳴に関係する開口AP21〜AP23の大きさ(上記式(1))が異なることにより、各副室形成部21〜23は、異なる共振周波数のヘルツホルム共鳴器として機能する。そのため、吸音構造体20は、より広い周波数域で振動を低減できる。
【0036】
また、本実施形態のタイヤ100は、空洞HL内に取り付けられた吸音構造体20を備える。そのため、吸音構造体20は、副室CH21〜CH23および開口AP21〜AP23によって、タイヤ固有のタイヤ空洞共鳴によって発生する車両走行時のロードノイズを低減できる。吸音構造体20は、さらに、副室形成部21〜23を形成する柔らかい材料によって、高周波数域の振動も低減できる。
【0037】
また、本実施形態の吸音構造体20は、タイヤ100の空洞HL内において、タイヤ100の接地面12とは逆側の第1の面FC1に配置されている。タイヤ100を装着した車両が走行すると、回転軸OLを中心に回転するタイヤ100の遠心力によって、吸音構造体20は、回転軸OLを中心とする径方向外側に向かう力を受ける。この力により、吸音構造体20は、第1の面FC1に押さえつけられるため、タイヤ100に対して強固に固定される。例えば、車両が時速60km/hで走行している場合の16インチタイヤの回転角速度ωは、52.1rad/sである。この場合に、1つの副室形成部21の質量mが20グラム(g)、副室形成部21が形成される径方向に沿う半径距離rが150mmに設定されると、下記式(2)で表される副室形成部21に作用する遠心力Fは、約8.1N(0.8kgf)になる。
F=mrω2・・・(2)
なお、車両の時速が160km/hの場合の遠心力Fは、約57.9N(5.9kgf)となる。このように、遠心力Fは、副室形成部21〜23を第1の面FC1に固定するには十分な圧着力である。これにより、吸音構造20を第1の面FC1に取り付けるために必要な接着剤や両面テープの料を少なくできる。また、本実施形態では、吸音構造体20を空洞形成部材10に取り付けるだけでよいため、例えばタイヤ100のホイール等に対する追加加工が不要となり、低コストで振動を低減できる。また、副室CH21〜CH23が接地面12の逆側の第1の面FC1に取り付けられることにより、タイヤトレッド部の振動も低減でき、空洞共鳴に加えて、タイヤトレッド部の振動に起因する空気伝播や固体伝播のロードノイズも低減できる。
【0038】
<第2実施形態>
図11および図12は、第2実施形態のタイヤ100aの概略断面図である。図11には、第2実施形態のタイヤ100aを図1におけるYZ平面に平行なA−A断面の概略図が示されている。図12には、第2実施形態のタイヤ100aを図1におけるXY平面に平行なB−B断面の概略図が示されている。第2実施形態のタイヤ100aは、第1実施形態と同じ空洞形成部材10と、第1実施形態と異なる吸音構造体20aとを備えている。そのため、第2実施形態では、第1実施形態と異なる構成および形状について説明し、第1実施形態と同じ構成および形状についての説明を省略する。
【0039】
第2実施形態の吸音構造体20aは、第1実施形態の吸音構造体20の配列が回転軸OLの周方向と軸方向とで入れ替わった構造体である。図11に示されるYZ平面に平行な断面では、5つの副室形成部21と、各副室形成部21間を接続する4つのフランジ部28と、両端のフランジ部29とが形成されている。図12に示されるように、XY平面に平行な断面では、図12において時計回りに、副室形成部22,23,21,22,23のように、副室形成部21〜23が順番に形成されている。そのため、図11に示される断面と異なるタイヤ100a内では、例えば、副室形成部22が5つ並んで配置されている断面や副室形成部23が5つ並んで配置されている断面が存在する。このような第2実施形態の吸音構造体20aおよびタイヤ100aは、第1実施形態と同じように、空洞形成部材10の形状変化に対応した上で、広い周波数域での吸音効果を発揮できる。
【0040】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0041】
上記第1実施形態および第2実施形態では、吸音構造体20,20aおよびタイヤ100,100aの一例について説明したが、吸音構造体20,20aおよびタイヤ100,100aの構成および形状等については、種々変形可能である。吸音構造体20,20aが取り付けられる空洞形成部材10は、タイヤ100,100a以外の部材であってもよい。
【0042】
吸音構造体20,20aは、必ずしも複数の副室形成部21〜23を備えておらず、1つだけの副室形成部を備えていてもよい。また、1つの副室形成部が、2つ以上の副室を形成してもよい。空洞形成部材10に対する複数の副室形成部21〜23の取り付け方は、種々変形可能であり、吸音構造体20,20aは、必ずしも2つの副室形成部間を接続するフランジ部28を備える必要はなく、フランジ部29のみを備えていてもよい。フランジ部28には、必ずしも薄肉部281が形成されてなくてもよく、一部(例えば、副室形成部21間のみのフランジ)に薄肉部281が形成されていてもよいし、いずれにも薄肉部281が形成されていなくてもよい。一方で、薄肉部281は、副室形成部21〜23の一部に形成されてもよいし、フランジ部29に形成されてもよい。副室形成部21〜23は、必ずしもタイヤ100,100aの接地面12の逆側の第1の面FC1に形成されていなくてもよい。例えば、タイヤ100,100aの回転軸OLに直交するXY平面に略平行な面に形成されていてもよい。
【0043】
吸音構造体20,20aは、複数の副室形成部として、1種類の副室形成部21を備えていてもよい。複数の副室形成部21〜23の形状および寸法関係については、種々変形可能である。各複数の副室形成部21〜23が形成する副室CH21〜CH23の体積が異なっていてもよい。また、副室形成部21〜23に形成される開口AP21〜AP23の断面の形状は、円に限られず、矩形であってもよいし、多角形であってもよい。この場合に、上記式(1)の開口AP21〜AP23の断面積Sは、適宜変形されたパラメータとして上記式(1)で取り扱われてもよい。また、開口AP21〜AP23の長さL(図3)は、副室形成部21〜23外から延伸した筒状の部材が形成されることによって長くなるように調整されてもよい。逆に、副室形成部21〜23の肉厚を薄くすることにより、長さLが短くなってもよい。
【0044】
副室形成部21〜23は、パルプモウルド以外のヤング率が1MPa以上1GPa以下の材料で形成されてもよい。例えば、副室形成部21〜23は、ゴム、テフロン(登録商標)、樹脂、ナイロンなどで形成されてもよく、各副室形成部21〜23の材質が異なっていてもよい。フランジ部28,29は、副室形成部21〜23と同じ材質で形成される必要はなく、ヤング率が1MPa未満または1GPaを超える材質によって形成されていてもよい。例えば、フランジ部28,29は、金属で構成され、ボルト締結によって副室形成部21〜23を空洞形成部材10に固定されてもよい。
【0045】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0046】
10…空洞形成部材
12…接地面
20,20a…吸音構造体(吸音構造)
21〜23…副室形成部
28,29…フランジ部
100,100a…タイヤ
281…薄肉部
AP21〜AP23…開口
C1,C2…吸音曲線
C11,C12…音圧曲線
C21〜C23…振幅曲線
CH21〜CH23…副室
FC1…第1の面(逆側の面)
FC2…第2の面
HL…空洞
OL…回転軸
PM…吸音板材
SA…実施例のサンプル
SAx,SAy…比較例のサンプル
ST…鋼材
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】