(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2013027658
(43)【国際公開日】20130228
【発行日】20150427
(54)【発明の名称】軟骨・骨破壊抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20150331BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20150331BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20150331BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150331BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20150331BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20150331BHJP
【FI】
   !A61K39/395 NZNA
   !A61K39/395 D
   !A61K39/395 L
   !A61K43/00
   !A61K37/48
   !A61K37/02
   !A61P19/00
   !A61P19/02
   !A61P29/00 101
   !A61P35/04
   !C07K16/28
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】36
【出願番号】2013529990
(21)【国際出願番号】JP2012070872
(22)【国際出願日】20120810
(31)【優先権主張番号】2011180899
(32)【優先日】20110822
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載アドレス:http://arthritis−research.com/content/14/3/R106 電気通信回線発表日:平成24年5月2日 公開タイトル:Efficacy of an immunotoxin to folate receptor beta in the intra−articular treatm ent of antigen−induced arth ritis
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
【住所又は居所】鹿児島県鹿児島市郡元一丁目21番24号
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(72)【発明者】
【氏名】松山 隆美
【住所又は居所】鹿児島県鹿児島市郡元一丁目21番24号 国立大学法人鹿児島大学内
(72)【発明者】
【氏名】永井 拓
【住所又は居所】鹿児島県鹿児島市郡元一丁目21番24号 国立大学法人鹿児島大学内
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA12
4C084DA01
4C084DA32
4C084DC01
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA96
4C084ZB15
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本発明の課題は、関節リウマチ、変形性関節症や悪性腫瘍の骨転移などにみられる軟骨又は骨の破壊を抑制しうる軟骨・骨破壊抑制剤を提供することである。
本発明は、葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する軟骨又は骨の破壊抑制剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【請求項2】
葉酸リセプターβに対する抗体が一重鎖又は二重鎖である請求項1記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【請求項3】
生物学的もしくは化学的活性物質がトキシン、酵素、サイトカイン、アイソトープ及び化学療法剤から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【請求項4】
葉酸リセプターβ発現マクロファージが軟骨又は骨の破壊をおこす疾患を治療するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【請求項5】
関節リウマチ、変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨又は骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体又はその複合体を用いた軟骨・骨破壊抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(osteoarthritis(OA))は、加齢や機械的ストレスが原因となって、関節軟骨表面の崩壊と、これに伴う関節辺縁の新たな軟骨の増殖、関節の変形、適合性の破綻をきたし、更に関節滑膜の炎症へと進行する疾患である。一方、代表的な関節炎である関節リウマチ(rheumatoid arthritis(RA))では、免疫異常や感染症が原因となって、滑膜に炎症性細胞が浸潤し、更に、血管新生に伴って滑膜繊維芽細胞の増殖が亢進して、炎症性滑膜肉芽組織が形成され、骨や軟骨の破壊が進み、関節に不可逆的な障害がもたらされる。このため、関節リウマチ(RA)が炎症性疾患とよばれる自己免疫疾患であるのに対し、変形性関節症(OA)は非炎症性疾患とよばれている。したがって、関節リウマチの治療に用いられる治療薬は、変形性関節症では治療効果がないと一般的に考えられている。
従来、関節リウマチ(RA)の治療を目的として様々な医薬組成物が開発されてきた。そのうちの1つとして抗Fas抗体が挙げられる(特許文献1)。しかしながら、抗Fas抗体は、関節リウマチ(RA)の患者から採取した滑膜細胞に対してはアポトーシス誘導効果があるものの、変形性関節症(OA)の患者から採取した滑膜細胞に対してはアポトーシス誘導効果がないことが報告されている(非特許文献1)。
現在、関節リウマチや変形性関節症の関節局所投与として副腎皮質ホルモンやヒアルロン酸製剤が使用されているが、その効果は一過性であり、これらは炎症には効果があるものの軟骨・骨破壊抑制効果については一定の見解が得られていない(非特許文献2及び3)。また、各種の生物製剤(抗TNFα抗体等)の全身投与において、RAの炎症や軟骨、骨破壊抑制効果が示されているが、全身投与にても治療に抵抗する関節炎がある(非特許文献4)。これらの生物製剤の全身投与に抵抗性のRA関節炎に、更に生物製剤の関節局所投与を行った際の軟骨、骨破壊抑制効果については一定の見解が得られていない(非特許文献5)。これまでの本発明者らの研究から、抗葉酸リセプターβ(FR−β)イムノトキシンはFR−β発現マクロファージが病態の中心である疾患の炎症を抑制することは容易に推定されるが、副腎皮質ホルモンやヒアルロン酸の投与に見られるように、あるいは非特許文献6にも述べられているように、炎症抑制が必ずしも軟骨、骨破壊を抑制するとは限らない。実際、RAの軟骨・骨破壊はマクロファージから分化する破骨細胞、マクロファージが産生するIL−1やTNF−α等のサイトカイン、マクロファージや線維芽細胞が産生するメタロプロテアーゼ等が複雑に絡み合った結果と考えられている(非特許文献7〜9)。
特許文献2には、葉酸リセプターβに対するIgG型抗体とトキシン(シュードモナス・エクソトキシン(Pseudomonas exotoxin))とが結合してなるイムノトキシンが関節リウマチ患者の滑膜細胞に対して細胞死(アポトーシス)を誘導することが記載されているが、軟骨・骨破壊抑制効果については確認しておらず、変形性関節症(OA)については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−59582号公報
【特許文献2】国際公開第2005/103250号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】NAKAJIMA et al.,APOPTOSIS AND FUNCTIONAL FAS ANTIGEN IN RHEUMATOID ARTHRITIS SYNOVICYTES,ARTHRITIS & RHEUMATISM,38(4),1995,p485−p491.
【非特許文献2】Habib GS,Saliba W,Nashashibi M.Local effects of intra−articular corticosteroids.Clin Rheumatol.2010 Apr;29(4):347−56.
【非特許文献3】Saito S,Kotake S.Is there evidence in support of the use of intra−articular hyaluronate in treating rheumatoid arthritis of the knee? A meta−analysis of the published literature.Mod Rheumatol.2009;19(5):493−501.
【非特許文献4】Romas E,Gillespie MT.Inflammation−induced bone loss:can it be prevented? Rheum Dis Clin North Am.2006 Nov;32(4):759−73.
【非特許文献5】Fisher BA,Keat A.Should we be using intraarticular tumor necrosis factor blockade in inflammatory monoarthritis? J Rheumatol.2006 Oct;33(10):1934−5.
【非特許文献6】van den Berg WB.Uncoupling of inflammatory and destructive mechanisms in arthritis.Semin Arthritis Rheum.2001 Apr;30(5 Suppl 2):7−16
【非特許文献7】Udagawa N,Kotake S,Kamatani N,Takahashi N,Suda T.The molecular mechanism of osteoclastogenesis in rheumatoid arthritis.Arthritis Res.2002;4(5):281−9.
【非特許文献8】Catrina AI,Lampa J,Ernestam S,af Klint E,Bratt J,Klareskog L,Ulfgren AK.Anti−tumour necrosis factor(TNF)−alpha therapy(etanercept)down−regulates serum matrix metalloproteinase(MMP)−3 and MMP−1 in rheumatoid arthritis.Rheumatology(Oxford).2002 May;41(5):484−9.
【非特許文献9】Schiff MH.Role of interleukin 1 and interleukin 1 receptor antagonist in the mediation of rheumatoid arthritis.Ann Rheum Dis.2000 Nov;59 Suppl 1:i103−8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、関節リウマチ、変形性関節症や悪性腫瘍の骨転移などにみられる軟骨又は骨の破壊を抑制しうる軟骨・骨破壊抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する軟骨又は骨の破壊抑制剤。
(2)葉酸リセプターβに対する抗体が一重鎖又は二重鎖である前記(1)に記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
(3)生物学的もしくは化学的活性物質がトキシン、酵素、サイトカイン、アイソトープ及び化学療法剤から選ばれる少なくとも一つである前記(1)又は(2)に記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
(4)葉酸リセプターβ発現マクロファージが軟骨又は骨の破壊をおこす疾患を治療するための前記(1)〜(3)のいずれかに記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
(5)関節リウマチ、変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨又は骨の破壊を抑制するための前記(1)〜(3)のいずれかに記載の軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、関節リウマチ、変形性関節症や悪性腫瘍の骨転移などにみられる軟骨又は骨の破壊を抑制しうる軟骨・骨破壊抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1はマウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体4A67のFR−β発現細胞への結合性を示す。
図2はマウス抗ラットFR−β抗体4A67のVL遺伝子及び推定アミノ酸配列を示す。
図3はマウス抗ラットFR−β抗体4A67のVH遺伝子及び推定アミノ酸配列を示す。
図4はマウス抗ラットFR−βイムノトキシンのFR−β発現B300−19細胞に対する細胞増殖抑制効果(アポトーシス誘導能)を示す。
図5はメチル化ウシ血清アルブミン誘発ラット関節炎へのイムノトキシン投与における関節腫脹の抑制効果を示す。
図6はメチル化ウシ血清アルブミン誘発ラット関節炎へのイムノトキシン投与における病理学的解析結果を示す。
図7は関節リウマチ骨破壊部位におけるFR−β発現細胞を示す。
図8は変形性関節症滑膜のFR−β発現細胞を示す。
図9は肝臓がん骨転移部位におけるFR−β発現細胞を示す。
図10は抗FR−βイムノトキシンの毒素に対するラット血清中の抗体の検出の方法の概略及び結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の軟骨・骨破壊抑制剤の有効成分としては、葉酸リセプターβ(FR−β)に対する抗体(抗FR−β抗体)を用いてもよいが、抗FR−β抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を用いることが好ましい。
前記生物学的もしくは化学的活性物質としては、例えばトキシン、酵素、サイトカイン、アイソトープ、化学療法剤、好ましくはトキシンが挙げられる。
本発明の好ましい態様では、抗体のH鎖、L鎖の抗原結合部位とトキシンのDNAを遺伝子操作にて結合させ、大腸菌内で蛋白を産生させることにより、一重鎖リコンビナントイムノトキシン、二重鎖リコンビナントイムノトキシンを作成することができる。リコンビナントイムノトキシンは分子量が小さいため細胞内に入りやすく、しかも化学的に抗体とトキシンの結合物を作成するのに比べて、大量な精製が可能であるという利点を有する。
キメラ抗体はヒトにおいて、マウス抗体部分に対する抗体の産生が少なく、臨床投与に有用であることが知られている。更に、マウスFab部分のCDR1、2、3でヒト免疫グロブリンのCDR1、2、3をおきかえたヒト化抗体はマウス抗体部分に対する抗体の産生が少なく、臨床投与に有用であることが報告されている。
更に、ヒト免疫グロブリンFabファージディスプレイライブラリーから得られた完全ヒト型抗体は、投与抗体部分に対する抗体の産生が少なく、臨床投与に有用であることが知られている。
本明細書において使用する「抗体」の語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、人体に適合化させた抗体、一重鎖抗体、及び、Fabフラグメントや、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメント等のこれらの抗体のフラグメントや、親抗体の抗原結合能を維持しているその他のフラグメントを意味する。
本明細書において用いる「モノクローナル抗体」の語は、単一の抗体集団を構成する抗体群を意味する。この語は、その抗体の種や起源に関して限定されないし、抗体の製造方法によっても限定されることを意図するものでもない。この語は、完全なイムノグロブリンの他、FabフラグメントやF(ab’)フラグメント、Fvフラグメント、及び抗体の抗原結合能を維持するその他のフラグメントを包含するものである。哺乳類、鳥類のモノクローナル抗体も、本発明において使用できる。
本明細書において使用する一重鎖抗体の語は、結合性のある抗体の結合領域(H鎖及びL鎖の双方)を決定し、結合性が維持されるような結合部位を付与することによって調製される抗体をいうものとする。これにより、本質的に抗原に結合するための必要な可変領域部位のみを有する、徹底的に簡略化された抗体が形成される。本明細書において使用する「二重鎖抗体」の語は、結合性のある抗体の結合領域(H鎖及びL鎖の双方)を決定し、H鎖あるいはL鎖とL鎖あるいはH鎖をS−S結合することによって調製される抗体をいうものとする。これにより、本質的に抗原に結合するための必要な可変領域部位のみを有する、徹底的に簡略化された抗体が形成される。
本発明にいうイムノトキシン(IT)とは、細胞に結合するリガンドが、トキシンあるいはそのサブユニットに結合されたキメラ分子をいうものとする。イムノトキシンのトキシン部分は、植物や細菌等の各種起源に由来するが、ヒト起源のトキシンや合成トキシン(薬剤)も同様に用いることができる。
好ましくは、トキシン部分は、1型や2型のリボソーム不活性化タンパク質(RIP)のような植物毒素由来である。2型のリボソーム不活性化タンパク質は、例えば、リシンを含んでいる。1型のRIPは、特に、この発明によってイムノトキシンを構築するのに都合がよい。
前記トキシンとしては、例えばシュードモナス・エクソトキシン(Pseudomonas exotoxin)、リシンA鎖(ricin A chain)、脱糖鎖リシンA鎖(deglycosylated ricin A chain)、リボソーム不活化蛋白(ribosome inactivating protein)、アルファーサルシン(alpha−sarcin)、ゲロニン(gelonin)、ブリオディン(bryodin)、モモルデイン(momordin)、サポリン(saporin)、ボウガニン(bouganin)、アスペルギリン(aspergillin)、リストリクトシン(restrictocin)、リボヌクレアーゼ(ribonuclease)、エピポドフィロトキシン(epipodophyllotoxin)、ジフテリア・トキシン(diphtheria toxin)が挙げられる。
ITのリガント部分は、通常、選択された標的細胞に結合するモノクローナル抗体をいう。本明細書の実施例で使用するITのトキシン部分は、細菌由来のトキシンであるシュードモナス・エクソトキシン(Pseudomonas exotoxin;PE)である。具体的にはADPリボシル化活性及び細胞膜を介してトランスロケーションする能力を具備する。更に具体的にはPEはアミノ酸配列279と280が切断されることにより活性型となり、天然の毒素の受容体結合ドメインIaを欠いたPEをコードするDNAを含有する発現プラスミドを大腸菌に遺伝子導入することにより作成できる。
本発明にいうPE結合リコンビナントイムノトキシンは細胞表面に結合するIaドメインが欠損し、アミノ酸配列280から始まり、C末端部位に細胞障害能を増加させるため、KDEL、REDLKが付加されている。具体的にはトキシンが細胞に対して結合活性のないことは、非特異的な毒性を顕著に低下させる。更に具体的には遺伝子改変されたPEは、改変されていないPEに比較して、インビトロ(in vitro)でヒト又は動物細胞に対してより低い毒性を示し、かつ、インビボ(in vivo)で投与した場合に肝臓に対してより低い毒性を具備する。
更に、本発明でいう一重鎖リコンビナントイムノトキシンとは抗体のH鎖、L鎖の抗原結合部位とトキシンのDNAを遺伝子操作にて結合させ、大腸菌内で蛋白を産生させることにより作成される蛋白をいう。具体的には通常、一重鎖リコンビナントイムノトキシンはH鎖とL鎖の間にアミノ酸15程度を翻訳する介在配列を含むものをいう。(Reiter et al.Recombinant Fv immunotoxins and Fv fragments as novel agents for cancertherapy and diagnosis.Trends Biotechnol.1998 Dec;16(12):513−20)
本発明でいう二重鎖リコンビナントイムノトキシンとは、H鎖あるいはL鎖抗原結合部位DNAとトキシンDNAを遺伝子操作にて結合させ、大腸菌内で蛋白を作成し、別にL鎖あるいはH鎖抗原結合部位DNAから蛋白を作成し、これらの蛋白をS−S結合にて結合させたものをいう。(Brinkmann et al.A recombinant immunotoxin containing a disulfide−stabilized Fv fragment.Proc Natl Acad Sci U SA.1993;90(16):7538−42)
本発明でいうキメラ化抗体とは、マウス免疫グロブリンの抗原結合部位(Fab部分)DNAとヒト由来の免疫グロブリンFc部分DNAを遺伝子操作にて結合させ、大腸菌に産生させたものをいう。(Smith et al.Rituximab(monoclonal anti−CD20 antibody):mechanisms of action and resistance.Oncogene.2003;22(47):7359−68)
本発明でいうヒト化抗体とはマウスFab部分のCDR1、2、3でヒト免疫グロブリンのCDR1、2、3をおきかえたもの(Kipriyanov.Generation and production of engineered antibodies.Mol Biotechnol.2004;26(1):39−60)と、ヒト免疫グロブリンFabファージディスプレイライブラリーから得られた完全ヒト型抗体をいう。(Feng Y et al.A folate receptor beta−specific human monoclonal antibody recognizes activated macrophage of rheumatoid patients and mediates antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity.Arthritis Res Ther.2011;13(2):R59)
本発明でいうリポソームとは薬剤の輸送システムとして、脂質膜で薬剤を包むものをいう。具体的には,薬剤の特異的な細胞輸送のために、リポソーム内に薬剤に加えて細胞に特異的に結合する抗体が含まれるものをいう。(Gabizon et al.Targeting folate receptor with folate linked to extremities of poly(ethylene glycol)−grafted liposomes:in vitro studies.Bioconjug Chem.1999;10(2):289−98)
本発明でいう生物学的、化学的に活性のある酵素とは凝固系に作用するウロキナーゼ、プラスミン、プラスミノーゲン、スタフィロキナーゼ、トロンビンや蛋白分解酵素であるメタロプロテアーゼ、コラゲナーゼ、ゲラチナーゼ、ストロメライシンが挙げられる。
本発明でいうサイトカインとは抗腫瘍作用のあるインターフェロン、TGF−β、TNF−αや血管新生抑制作用のあるエンドスタチンや抗炎症作用のあるIL−1リセプターンタゴニスト、IL−4、IL−10、IL−19、IL−20、IL−22、IL−24、IL−26、IL−28、IL−29が挙げられる。
本発明でいうアイソトープとはガリウム67、ガリウム68、インジウム111、インジウム113、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、テクネシウム99、イットリウム90、ルビジウム97、ルビジウム103が挙げられる。
本発明でいう化学療法剤とは細胞障害能のある分子をいう。具体的には代謝拮抗剤であるシトシンアラビノシド、フルオロウラシル、メソトレキサート、アミノプテリン、アンスラサイクリン、マイトマイシン、デメコルシン、エトポシド、ミスラマイシン、アルキル化剤であるクロラムブシル、メルファラン、エンドキサン、DNA合成阻害剤であるダウノルビシン、ドキソルビシン、アドリアマイシン、チューブリン重合阻害剤であるコルヒチン、タキサン、ビンブラスチン、ビンクリスチンのようなビンカアルカロイドが挙げられる。
本発明にいう葉酸リセプターβ(FR−β)は、活性化マクロファージや急性骨髄性白血病に発現する表面抗原であり、葉酸の細胞内輸送に関与する分子をいう。
本発明に用いる抗体は、好ましくはFR−βモノクローナル抗体である。IgM型、IgG型等のいずれでもよい。本発明に用いるFR−βモノクローナル抗体には、例えば、マウスをFR−β発現B300−19細胞で免疫した後、そのマウスの脾細胞と、マウスミエローマ細胞とを融合させて得られたクローン細胞から産生されたものが含まれる。
本明細書の実施例で用いたマウス抗ラットFRβ抗体4A67のL鎖の遺伝子(VL遺伝子)及び推定アミノ酸配列を図2及び配列番号9に、H鎖の遺伝子(VH遺伝子)及び推定アミノ酸配列を図3及び配列番号10に示す。
また、WO2005/103250(特許文献2)に記載のFR−βモノクローナル抗体産生クローン94b(clone 94b)又はクローン36(clone 36)細胞由来の抗体も本発明に用いることができるが、本発明においては、クローン94b(clone 94b)細胞由来の抗体を用いたリコンビナントFR−β抗体イムノトキシンが好ましい。
クローン36(clone 36)細胞のH鎖の遺伝子の塩基配列は、WO2005/103250(特許文献2)の配列表の配列番号1に記載されており、クローン94b(clone 94b)細胞のH鎖の遺伝子の塩基配列は、WO2005/103250(特許文献2)を配列表の配列番号3に記載されている。
WO2005/103250(特許文献2)に記載のFR−βモノクローナル抗体は、FR−βモノクローナル抗体産生クローン94b(clone 94b)又はクローン36(clone 36)細胞のH鎖とL鎖の遺伝子、及びその遺伝子によりコードされる蛋白質である。
なお、その遺伝子又は蛋白質と実質的に同等の生物学的活性を有するバリアントも本発明に用いることができる。このFR−βモノクローナル抗体産生クローン細胞のH鎖の遺伝子、及びL鎖の遺伝子をキメラ化することにより得られた、ヒト化したFR−βモノクローナル抗体も本発明に用いることができる。
本発明の有効成分にはFR−βモノクローナル抗体産生クローン細胞のH鎖の遺伝子と、L鎖の遺伝子とを用いたリコンビナントFR−β抗体イムノトキシンも含まれる。
クローン36(clone 36)細胞のH鎖の遺伝子の塩基配列は、WO2005/103250(特許文献2)の配列表の配列番号1に記載されており、クローン94b(clone 94b)細胞のH鎖の遺伝子の塩基配列は、WO2005/103250(特許文献2)を配列表の配列番号3に記載されている。
前記の塩基配列の一部、例えば、20個以下、好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下の塩基が欠失、置換若しくは付加された遺伝子、前記の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の相同性を有する遺伝子、前記の塩基配列の遺伝子とは、ストリンジェントな条件下でハイブリッドを形成する遺伝子も、FR−βモノクローナル抗体産生クローン細胞のH鎖又はL鎖と実質的に同等の生物学的活性を有する蛋白質をコードする限り、本発明に用いることができる。
遺伝子組み換え技術によれば、基本となるDNAの特定の部位に、当該DNAの基本的な特性を変化させることなく、あるいはその特性を改善するように、人為的に変異を起こすことができる。
また前記の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列の一部、例えば、20個以下、好ましくは10個以下、更に好ましくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された蛋白質、前記の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上の相同性を有する蛋白質も、FR−βモノクローナル抗体産生クローン細胞のH鎖又はL鎖と実質的に同等の生物学的活性を有する限り、本発明に用いることができる。
本明細書において「実質的に同等」とは、蛋白質の活性、例えばFR−β抗原に対して特異的に結合するなどの生理学的な活性、生物学的な活性が実質的に同一であることを意味する。その用語の意味の中には実質的に同質の活性を有する場合を含んでもよく、その実質的に同質の活性とは、例えばFR−β抗原に対して特異的に結合するなど、それらの活性の性質が同質であることを意味し、例えば生理的に、薬理的に、あるいは生物学的に同質であることを意味する。なお活性の量的な程度も同一であることが好ましいが、定量的な要素については異なっていてもよい。
本明細書において「ストリンジェント」なハイブリダイゼーションの条件については当業者が適宜選択をすることができるが、具体的には、一例として、以下の操作によってハイブリダイゼーションを行うことができる。試験すべきDNA又はRNA分子を転写した膜と標識したプローブを、適当なハイブリダイゼーションバッファー中でハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションバッファーの組成は、例えば、5×SSC、0.1重量%N−ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬及び50%ホルムアミドからなる。核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬としては、一例として、0.1Mマレイン酸と0.15M塩化ナトリウムからなる緩衝液(pH7.5)に市販の核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬を10%になるように溶解したものを使用することができる。20×SSCは、3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸溶液であり、SSCは、より好ましくは、3〜6×SSC、更に好ましくは4〜5×SSCの濃度で使用する。
ハイブリダイゼーションの温度は、40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜65℃の範囲であり、数時間から一晩のインキュベーションを行った後、洗浄バッファーで洗浄する。洗浄の温度は、好ましくは室温、より好ましくはハイブリダイゼーション時の温度である。洗浄バッファーの組成は6×SSC+0.1重量%SDS溶液、より好ましくは4×SSC+0.1重量%SDS溶液、更に好ましくは2×SSC+0.1重量%SDS溶液、更に好ましくは1×SSC+0.1重量%SDS溶液、最も好ましくは0.1×SSC+0.1重量%SDS溶液である。このような洗浄バッファーで膜を洗浄し、プローブがハイブリダイズしたDNA分子又はRNA分子をプローブに用いた標識を利用して識別することができる。
以下、本発明の好ましい実施態様の一例を示す。
[FR−β発現細胞の作成]
以下の方法にてFR−β発現B300−19細胞を作成する。先ず、pEF−BOSベクターにFR−β遺伝子を組み込む。ベクターはpEF−BOSベクターに限らず、哺乳類の発現ベクターのいずれでもよい。次に、FR−β遺伝子をリポフェクタミン法にてマウスB300−19細胞に遺伝子導入する。導入法はエレクトロポレーション法でもよい。また、細胞株はマウスBalb/C由来の細胞株であればいずれでもよい。
この細胞を免疫することにより、細胞融合法にてFR−β抗原に高親和性で低分子量のIgM型又はIgG型のFR−βモノクローナル抗体を作成する。抗体とトキシン(毒素分子)とは、各種周知の化学的方法のいずれか、例えばSPDP、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の、異なる2価の結合性基を有するクロスリンカーの使用等によって、互いに化学的に結合される。各種イムノトキシンの製造は、当該分野において周知であり、例えば、Monoclonal Antibody−Toxin Conjugates:Aiming the Magic Bullet,Thorpe et al.Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine,Academic Press,pp.168−190(1982)及びWaldman,Science,252:11657(1991)に記載されている。これらの二つの文献は、引用により本明細書の一部とされる。
[FR−β抗体イムノトキシンの作成]
この抗体とトキシン、好ましくはシュードモナス・エクソトキシン(Pseudomonas exotoxin;PE)をHaasanらの方法に準じ(Haasan et al.Anti−tumor activity of K1−LysPE38QQR,an immunotoxin targeting mesothelin,a cell−surface antigen overexpressed in ovarian cancer and malignant mesothelioma.J Immunother.2000 J;23(4):473−9)、サクシニミヂルトランス−4−マレイミヂルメチルシクロヘキサン1−カルボキシレート(Succinimidyltrans−4−(maleimidylmethyl)cyclohexane 1−carboxylate)(SMCC)にて結合させ、イムノトキシンを作成する。
抗体は、一重鎖抗体−トキシン融合タンパク質の作製工程と同様にして組換え手法によりトキシンに融合されることもできる。リガンドをコードする遺伝子とトキシンとを周知のクローニング法を用いてcDNA中にクローニングし、これらは小さいペプチドリンカーによって直接あるいは離れた状態で結合される。例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Lboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1989)が参照される。
[抗FR−βイムノトキシンの作用効果]
抗FR−βイムノトキシンは関節リウマチと同様マクロファージによって軟骨、骨破壊がおこると考えられている変形性関節症の軟骨破壊、脳腫瘍、悪性黒色腫、膵臓癌、乳癌、前立腺癌、骨髄腫、大腸癌、腎癌,胃癌、子宮癌、甲状腺癌の骨転移の際の骨破壊の抑制にも有効である。
[FR−β抗体イムノトキシンの投与量、投与方法]
関節リウマチ、変形性関節症等における軟骨、骨破壊、悪性腫瘍の骨転移の際の骨破壊を抑制するのに有効である濃度で投与される。この目的を達成するために、イムノトキシンは、当該技術分野で知られている許容される種々の賦形剤を用いて処方される。典型的には、イムノトキシンは、注射によって、静脈内又は関節腔内投与される。本発明組成物は、医薬的に許容される非経口賦形剤と混合して、液剤、懸濁剤又は乳剤などの単位投与注射用形態で処方される。かかる賦形剤は、本質的に、無毒性であり、非治療的である。かかる賦形剤の例は、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液、及びハンクス溶液である。固定油及びオレイン酸エチルなどの非水性賦形剤を用いてもよい。好ましい賦形剤は、生理食塩水中5%のデキストロースである。賦形剤は、バッファー及び保存剤を含む、等張性及び化学的安定性を増強する物質などの少量の添加剤を含有してよい。
投与量及び投与形態は、個体に左右されるであろう。一般に、該組成物は、イムノトキシンが、最も好ましくは0.1〜2μg/kgの用量で投与されるように投与される。好ましくは、ボーラス投薬として投与される。連続輸液を用いてもよい。特定の場合によると、必要とされるイムノトキシンの「治療有効量」は、かかる処置を必要とする患者を治療するのに又は少なくとも該当疾患及びその合併症を一部休止させのに充分な量であるとして決定されるべきである。かかる使用のために有効な量は、疾患の重篤度及び患者の全身健康状態に左右されるであろう。単投与又は多重投与は、患者によって必要とされ耐えられる投与量及び投与回数に依存して要求される。
投与形態は、変形性関節症、関節リウマチにおいては、好ましくは関節局所投与であり、悪性腫瘍の骨転移においては全身投与又は局所投与である。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2011−180899の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【実施例】
【0010】
(実施例1)マウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体の作製
[抗原であるFR−β発現細胞の調製]
Lewisラット肝臓からトリゾール(Trizol)(GibcoBRL)、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にて添付説明書に従って全RNAを抽出後、SuperScript plasmid System(Invitrogen)にて添付説明書に従ってcDNAを合成した。Lewisラット肝臓cDNAをBioneer PCR premix(Bioneer)に加え、10ピコモル量に調整したセンスプライマー(ラット肝臓:tct aga aag aca tgg cct gga aac ag配列番号1)及びアンチセンスプライマー(ccc aac atg gat cag gaa ct配列番号2)を加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ラットFR−βを増幅した。増幅したFR−β遺伝子のPCR産物をpTAC−1(バイオダイナミックラボラトリー社)にライゲーションを行った。すなわちPCR産物2.5μlにNaCl溶液を1μl、滅菌蒸留水1.5μl、ベクタープラスミド(PCR2.1−TOPO)1μlを加えて室温で5分間インキュベートし、その内の2μlを大腸菌(TOP10F’)に加えて氷中で30分反応後、42℃30秒の熱処理をし、氷中で2分間静置し、250μlのSOC培地を加えた後、37℃、1時間シェーカー内で培養した。培養終了後、LB培地に捲き、37℃で一晩培養した。
大腸菌培養のため、プレート上より採取した白いコロニーをアンピシリン(0.1mg/mlを含むLB液体培地に加えて37℃一晩培養した。プラスミドの精製はQiagenプラスミド精製キット(Qiagen)にて行った。組み込まれたFR−β遺伝子は、制限酵素EcoRIによる処理後、アガロース電気泳動に展開し、約0.8kb(782bp)のFR−β遺伝子産物を確認後、その部位を切り出し、遺伝子産物の抽出をQuiagen PCR purification kit(Quiagen)にて精製した。次にあらかじめEcoRI処理を行った哺乳細胞発現用ベクターpEF−BOS(Mizushima et al.pEF−BOS,a powerful mammalian expression vector.Nucleic Acid Res.1990;18(17):5322)と混和し、T4 ligase(Roche)を用いてライゲーションを行った。ライゲーション産物の大腸菌(TOP10F’)への遺伝子導入ならびに、FR−β遺伝子の確認は前記と同様の手法で行った。
pEF−BOSに組み込まれたFR−β遺伝子を確認後、マウスB300−19細胞にそれぞれ遺伝子導入を行った。すなわち、あらかじめ1x10個に調整した各細胞に、20μlのリポフェクタミン(GibcoBRL)と混和したFR−βベクター1μgを加えて遺伝子導入を行った。遺伝子導入されたB300−19マウス細胞及びラットRBL2H3細胞は抗生物質G418耐性を獲得するため、1mg/mlの濃度のG418を含む培地にて遺伝子導入された細胞を選択培養した。遺伝子導入された細胞のFR−β遺伝子導入の確認はPCR法にて行った。すなわち、1x10個に調整した各細胞をcDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成し、10ピコモル量に調整したセンスプライマー(ラット肝臓:tct aga aag aca tgg cct gga aac ag配列番号1)及びアンチセンスプライマー(ccc aac atg gat cag gaa ct配列番号2)に加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ラットFR−βを増幅した。増幅後アガロース電気泳動を行い、FR−βが示すバンド0.8kbを確認した。
[マウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体の作製]
ラットFR−β発現マウスB300−19細胞を1x10個に調整し、フロインド完全アジュバンドと混合し、Balb/Cマウスの尾部に3ヵ所、腹腔内に免疫した。この免疫を2〜4回繰り返した。
モノクローナル抗体の作成はKohlerの方法(Kohler & Milstein,Nature(1975)256:495−96)に従って行った。すなわち、脾臓あるいは腸骨リンパ節を取りだし、単一細胞に解離させた。解離した細胞を骨髄腫由来の細胞(NS−1)と細胞融合させてハイブリドーマを作製し、HAT選択培地にて培養し、培養上清中に分泌された抗体を、先のラットFR−β発現細胞との反応性で選別を行った。
得られたハイブリドーマのクローン化は、96穴プレートの各穴あたり1細胞となるように調整した限界希釈培養にて行った。クローン化細胞の選別は、FR−β発現細胞との反応性で行った。マウスモノクローナル抗体のアイソタイプは、マウス免疫グロブリンアイソタイピングELISAキット(Pharmingen)を用いて決定した。その結果、マウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体はIgMタイプのクローン4A67が得られた。これら各抗体の抗原に対する反応性はフローサイトメトリーにて解析した。フローサイトメトリーの結果を図1に示す。
図1の上段は、1x10に調整したB300−19細胞(左)及びFR−β発現B300−19(右)に、4A67抗体、あるいは陰性対照抗体を反応させ、更にAPCでラベルした抗マウスIgM抗体で更に反応させた。反応終了後の染色性をフローサイトメーターで測定した。下段は、Lewisラットに3%チオグリコレートを腹腔内投与し、4日後に腹腔マクロファージを採取した。1x10に調整したマクロファージに陰性対照抗体あるいは4A67抗体を添加して前記と同じ反応を行った後、更にフィコエリスリンでラベルした抗CD11b/c抗体あるいはフィコエリスリンでラベルした陰性対照抗体を添加して反応させた。反応後の染色性をフローサイトメーターで測定した。左は陰性対照群を、右は4A67と抗CD11b/cによる染色性を示す。
得られた抗体4A67はラットFR−β発現B300−19及びチオグリコレートで誘発させた腹腔マクロファージに反応することが明らかとなった。
[マウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体の重鎖遺伝子可変領域(VH)及び軽鎖遺伝子可変領域(VL)遺伝子の決定]
ハイブリドーマクローン4A67を1x10個にそれぞれ調整し、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成した4A67はIg−Prime Kitを用いてVH及びVLの遺伝子をPCRにて決定した。PCR条件は添付の説明書に従って行った。すなわち、94℃60秒、50℃60秒、72℃120秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させ、VH及びVLの遺伝子を増幅した。増幅したVH及びVLのPCR産物をプラスミドPCR2.1−TOPO(Invitrogen)にライゲーションし、大腸菌(TOP10F’)に遺伝子導入した。遺伝子導入した大腸菌よりプラスミドを精製し、4A67のVH及びVLの塩基配列を決定した。塩基配列はBigDye Terminaor V3.1 cycle sequencing kit(ABI)を用いてPCRを行い、PCR産物をABI 310 DNA sequencerにて解析した。
図2に、マウス抗ラットFR−β抗体4A67のVL遺伝子及び推定アミノ酸配列を示す。システインに変異させたJK部分の3番目のアミノ酸を囲み線で示す。図3に、マウス抗ラットFR−β抗体4A67のVH遺伝子及び推定アミノ酸配列を示す。変異させたFWR2部分の9番目のアミノ酸を囲み線で示す。
図2及び3において、FWRはフレームワーク領域、CDRは超可変領域(相補性決定領域)、JKはジャンクション領域を表す。
(実施例2)リコンビナントイムノトキシンの作製
[免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(VH)にシステインの変異を導入]
マウス抗ラットFR−βモノクローナル抗体4A67の免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(VH)の63番目のアミノ酸グリシン(塩基配列ggc)をシステイン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製し(センス:gtgaagcaggctccaggaaagTGTttaaagtggatgggctggata配列番号3;アンチセンス:tatccagcccatccactttaaACActttcctggagcctgcttcac配列番号4)、Quick change site−directed mutagenesis kit(Stratagene)を用いて実施例1で得た4A67のVHを含むプラスミドpCR2.1−TOPO 4A67VHに変異誘発処理を行った。このPCR反応は、反応液を95℃30秒、55℃60秒、68℃4分のサイクルを12回連続して行った。
次に、反応後のDNAを大腸菌XL1−Blueに遺伝子導入し、0.1mg/mlのアンピシリンを含むLB培地で選択培養した。選択した形質転換体のプラスミドをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。更に塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、システイン(塩基配列tgt)に変異したことを確認した。
[pRSETPE38ベクターに変異を導入したVHを挿入]
次に、PE38遺伝子を含むpRSETベクターpRSETPE38に4A67VHの変異を導入したVHの挿入を以下の方法にて行った。
変異を導入した4A67の5’末端部と3’末端部のアニーリングプライマーとしてGGATCCcagatccagttggtgcagtctgga配列番号5とtccggAAGCTTttgaggagacggtgactgaggttcc配列番号6をそれぞれデザインした。アニーリングプライマーにはそれぞれ制限酵素であるBamHIが、もう片方のアニーリングプライマーにはHindIII部位が挿入されており、この部位でのクローニングにより、VHとPE遺伝子が結合した融合タンパク質の発現が可能である。
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使って変異を導入したpCR2.1−TOPO−4A67VHプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素BamHI(New England Biolabs)とHindIII(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VHと同様の制限酵素で処理したpRSETPE38を添加し、更にLigation High(Toyobo)を用いてVHとpRSETPE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了後、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRSET−VHPEをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。更に塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、変異導入VHの塩基配列がpRSETベクターのPE38塩基配列と連結していることを確認した。
[免疫グロブリン軽鎖遺伝子可変領域にシステイン変異を導入]
マウス抗ラットFR−βモノクローナル4A67の免疫グロブリン軽鎖遺伝子可変領域(VL)の125番目のアミノ酸をシステイン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製した。
センス:taa gaa gga gat ata cat atg CAA ATT GTT CTC ACC CAG TCT配列番号7(このプライマーは制限酵素NdeI切断可能な塩基catatgを含むため、この部位でクローニングすることにより、atgを開始コドンとしたタンパク質の発現が可能である)
アンチセンス:gct ttg tta gca gcc gaa ttc cta TTT TAT TTC CAA CTT TGT CCC ACA GCC GAA CGT配列番号8(このプライマーは125番目のアミノ酸をシステイン(tgt)に変異させ、終始コドンtagに続いて制限酵素EcoRI切断可能な塩基gaa ttcが来るようにデザインしてある)
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使ってpCR2.1−TOPO−4A67VLプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素NdeI(New England Biolabs)とEcoRI(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VLと同様の制限酵素で処理したpRSETPE38を添加し、更にLigation High(Toyobo)を用いてVHとpRSETPE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了後、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRSET−VL4A67をQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。更に塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、変異導入VLのアミノ酸がシステインに変異していることや、終始コドンtagが配置されていることを確認した。
[リコンビナントタンパク質封入体の調製]
前記の変異導入VHを組み込んだプラスミドpRSET−4A67VHPE、変異導入VLを組み込んだプラスミドpRSET−VL4A67を50ng調製し、タンパク質発現用大腸菌BL21(DE3)に遺伝子導入した。遺伝子が導入された大腸菌の選抜は0.1mg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて37℃15〜18時間の培養で行った。
選択終了後の大腸菌は1000mlのスーパーブロス培地で37℃の条件で培養し、可視吸光度600nmで1.0−1.5に到達するまで培養した。培養後、IPTG(isopropy1−beta−D−thio−galactopyranoside)を終濃度1mMになるように培地に添加し、更に90分間37℃で培養した。培養終了後、遠心分離にて大腸菌を回収後、50mMトリス緩衝液(pH7.4、20mM EDTAを含む)を用いて200mlとなるまで懸濁した。懸濁終了後、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mlとなるように加え、室温で1時間反応させて大腸菌の破壊を行った。破壊後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿物を回収した。沈殿物は更に50mMトリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX−100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mlとなるまで懸濁し、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mlとなるように加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿物を回収した。沈殿物は更に50mMトリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX−100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mlとなるまで懸濁し、十分混和させた後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿物を回収した。この操作を5回繰り返した後の沈殿物をリコンビナントイムノトキシン封入体とし、更に0.1Mトリス緩衝液(pH8.0、6Mグアニジン塩酸塩、1mM EDTAを含む)で溶解させ、最終濃度10mg/mlとなるように調節した。
[リコンビナント二重鎖Fv抗FR−βイムノトキシンの作製]
前記で調製した4A67−VHPEと4A67−VLを混和させ、リコンビナント二重鎖Fv抗FR−βイムノトキシンを作製した。
まず、0.5mlのVHPE、0.25mlのVLを混和し、ジチオトレイトール(DTT)を最終濃度10mg/mlとなるように加え、室温で4時間の還元処理を行った。処理後、75mlの0.1Mトリス緩衝液(pH8.0、0.5Mアルギニン、0.9mM酸化型グルタチオン、2mM EDTAを含む)に溶解させた。この溶液を10℃で40時間放置することによって、VHとVLを結合させた。結合終了後、分子量10,000カットの遠心濃縮器(Centricon 10、Amicon)で5mlまで濃縮し、更に50mlのトリス緩衝液(pH7.4、0.1M尿素、1mM EDTAを含む)で希釈した。この希釈液をリコンビナントイムノトキシン精製の出発物質とした。
次に、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で平衡化したイオン交換カラムHi−Trap Q(GE)に、30ml/時間の流速で、前記出発物質を吸着させた後、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄した。洗浄後、吸着したリコンビナントタイプイムノトキシンの溶出をトリス緩衝液(pH7.4、0.3M NaCl、1mM EDTAを含む)で行った。溶出サンプルはトリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で透析した後、イオン交換カラムPOROS HQ(POROS)で更に精製した。すなわち、透析した精製物質を10ml/分の流速で吸着させ、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄後、前記緩衝液に0Mから1.0MのNaCl勾配を設定することにより、リコンビナントタイプイムノトキシンの溶出を行った。精製リコンビナントタイプイムノトキシンの最終調製はTSK300SW(Tosoh)ゲル濾過クロマトグラフィーにて行った。まず、75%の消毒用エタノールで48時間洗浄することによってTSK300SWカラム中のエンドトキシン除去を行った。次に日本薬局方注射用蒸留水で洗浄し、その後日本薬局方生理食塩水でTSK300SWカラムの平衡化を行った。平衡化終了後、リコンビナントタイプイムノトキシンを投与し、流速0.25ml/分でカラムからの溶出液を採取した。採取後、0.22μmの濾過滅菌機で処理し、純度をSDS−PAGEにて確認後、−80℃で保存した。
[SDS−PAGEによる純度検定]
SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミド電気泳動)は0.1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む12%ポリアクリルアミドの平板ゲルを用い、移動相には終濃度0.1%のSDS、130mMグリシン、25mMトリスを含む水溶液を用いた。各サンプルは終濃度0.1%のSDSを含む100mMトリス緩衝液pH6.5で調製し、5分間の煮沸処理を行った。煮沸終了後、平板ゲルにサンプルを投与し、30mAの定電流で電気泳動を展開させた。展開後、0.05%のクマシーブリリアントブルーR溶液(ナカライテスク)でリコンビナントタイプイムノトキシンの染色を行った。
[イムノトキシンにおける細胞増殖抑制の測定]
ラットFR−β発現B300−19細胞を24ウェルの細胞培養プレートに1ウェルあたり5×10個となるように添加し、更に終濃度0−1μg/mlとなるようにイムノトキシン及びVHPEを加え、37℃、COインキュベーターで培養した。培養24、48、72時間後における細胞増殖をCell Counting Kit−8(細胞毒性測定試薬、Dojindo社)を用いて測定した。測定方法は添付マニュアルに従い、マイクロプレートリーダー(Thermo社)にて測定した。
図4にマウス抗ラットFR−βイムノトキシンのラットFR−β発現B300−19細胞に対する細胞増殖抑制効果(アポトーシス誘導能)を示す。
図4において、縦軸はアポトーシス誘導能を、横軸は各培養時間におけるマウス抗ラットFRβイムノトキシン(▲,24時間;■,48時間;●,72時間)及びVHPE(×,72時間)の濃度を示す。データは5回の独立した実験結果の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。**:P<0.01
イムノトキシンは培養時間及び添加濃度依存的にラットFR−β発現B300−19細胞の増殖を抑制した。一方、対照として用いたVHPEでは同条件においても顕著な増殖抑制を示さなかった。このイムノトキシンが示した50%の細胞抑制に必要とする濃度(IC50)は24時間400ng/mlであり、48時間200ng/mlであり、72時間50ng/mlであった。
(実施例3)リコンビナントイムノトキシンによるメチル化ウシ血清アルブミン誘発ラット関節炎の軟骨・骨破壊抑制効果
[メチル化ウシ血清アルブミン(メチル化BSA)誘発アジュバンドラット関節炎モデルの作製とイムノトキシンの投与]
メチル化BSA誘発アジュバンドラット関節炎モデルはNicolau Beckmannの方法(Nicolau Beckmann、Magnetic Resonance in Medicine(2003)49:1047−1055)に従って行った。この関節炎においては、軟骨・骨破壊が生じることが知られている。まず50μlに調整したメチル化BSA(5mg/ml、50%フロインド完全アジュバンドを含む)をLewisラット(♀、6−9週齢)の腹部皮下に投与した。更に投与7日後に同操作を行った。
1回目の皮下投与から14日後に50μlに調整したメチル化BSA(5mg/ml PBS)をラットの関節腔内に投与し、関節炎を誘発させた。メチル化BSA投与1日後に関節の腫脹を確認後、イムノトキシンと陰性対照のVHPEの関節腔内投与を行った。まず、無作為にVHPE群(8匹)と、イムノトキシン群(24匹)を選択し、50μlに調整した50μgのVHPE、あるいは50μlに調整したイムノトキシン(2,10,50μg)を左の関節内に投与した。対象として、50μlに調整した生理的食塩水を右の関節内に投与した。同投与は、メチル化BSAの関節腔内投与後3、5、7日目についても行った(合計4回)。関節の腫脹はキャリパーにて系日的に21日目まで測定した。腫脹の測定結果を図5に示す。
図5において、縦軸は関節炎誘発後の日数を示し、縦軸は正常関節に比して増加した関節幅(mm)を示す。エラーバーは標準誤差を示す。*:P<0.05
図5より、メチル化BSA投与後3日以降に10μg及び50μgのイムノトキシン投与群はVHPE群と比較して有意に腫脹を抑制した。
[病理組織学的解析と免疫染色]
投与後21日目にラットを安楽死させ、両脚を切除してアセトン固定を行った。アセトン固定後のラット関節は、0.5M EDTAを含むpH8.0の20mMトリス緩衝液にて脱灰処理を行った。脱灰処理後、純水で50%に希釈したO.T.C Compound(SAKURA社)で組織を包埋した。凍結組織切片の作製は川本らの方法に従い(Use of a new adhesive film for the preparation of multi−purpose fresh−frozen sections from hard tissues,whole−animals,insects and plants.Arch Histol Cytol.2003 May;66(2):123−43.)、粘着フィルムを用いて凍結切片を作製した。
凍結切片は風乾後、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った。染色後、軟骨・骨破壊の病理学的スコアを解析した。病理学的スコアの評価はRichards PJらの方法に従い(Liposomal clodronate eliminates synovial macrophages,reduces inflammation and ameliorates joint destruction in antigen−induced arthritis.Rheumatology(Oxford).1999 Sep;38(9):818−25)、軟骨・骨破壊の程度をそれぞれ;無変化、1;病変10%未満、2;病変50%未満、3;病変50%以上とし、評点として算出した。図6は、イムノトキシン投与群(rIT)及びVHPE投与群の病理組織染色結果を示す。
図6の上図は、切除した関節は脱灰処理後、薄切してヘマトキシリン・エオシン染色を行ったときの状態を示す。また、軟骨・骨破壊の程度を評点として算出した。値は各群(8匹)の平均値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。**:P<0.01
イムノトキシン投与群(rIT)では軟骨・骨破壊がVHPE投与群に比べて抑制された。また、軟骨・骨破壊スコアもイムノトキシン投与群において優位に抑制されていることが分かる。
抗原誘発関節炎モデルにおけるステロイド(メチルプレドニゾロン)、ヒアルロン酸製剤、及び本発明の抗FR−βイムノトキシンの関節内投与の比較を表1に示す。
【表1】
ステロイド関節内投与はむしろ軟骨細胞のアポトーシス死をおこすとの報告がある(Nakazawa F,Matsuno H,Yudoh K,Watanabe Y,Katayama R,Kimura T.Clin Exp Rheumatol.2002 Nov−Dec;20(6):773−81)。イムノトキシン投与では軟骨細胞のアポトーシス死はみられない。
重症変形性関節症モデルにおいては、ステロイド及びヒアルロン酸は組織学的改善効果がないことが報告されている(Eyigor S,Hepguler S,Sezak M,Oztop F,Capaci K.Clin Exp Rheumatol.2006 Nov−Dec;24(6):724)。イムノトキシンではより炎症の強い関節リウマチにおいて組織学的改善がみられたので、重症変形性関節症での有効性が期待できる。
(実施例4)臨床応用の可能性
(1)関節リウマチ骨破壊部位にはFR−β発現細胞が存在する(図7参照)。
骨を含む関節リウマチ滑膜をアセトン固定後、脱灰のため、1%EDTA/リン酸緩衝液(PBS)、pH7.0中で、毎日緩衝液を交換しながら、2週間置換した。その後、組織をパラフィン包埋し、免疫染色のため各5μmの切片をスライドに張り付けた。60℃で30分間処理後、脱パラフィン処理のため、切片スライドをキシレンで5分間、3回置換、脱水操作のため、エタノールで5分間、3回置換、90%エタノール、70%エタノールでそれぞれ3分間、置換した。
抗原回復のため、Diva Decloaker溶液(Biocare Medical,CA,USA)中にて10分間120℃でオートクレーブした。
内因性ペルオキシダーゼを不活化するため、1%過酸化水素・PBS液で10分反応させた。10%ヤギ血清PBSを10分間反応させ、非特異的吸着をブロックした。マウス抗ヒトFR−β抗体(94b、IgG1)、陰性コントロール抗体(IgG1)を30分間反応させ、PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体(ニチレイバイオサイエンス、東京)を30分間反応させ、PBSで5分間洗浄を3回繰り返した後、DAB試薬(ニチレイバイオサイエンス、東京)にて10分間発色させた。PBSで3回洗浄後、30秒間ヘマトキシリン染色を行い、蒸留水で洗浄し、乾燥後鏡検した。反応はすべて室温にて行った。骨破壊部位でも、FR−β発現マクロファージが観察された。
(2)変形性関節症滑膜におけるFR−β発現細胞が存在する(Tsuneyoshi Y,Tanaka M,Nagai T,Sunahara N,Matsuda T,Sonoda T,Ijiri K,Komiya S,Matsuyama T.Scand J Rheumatol.2012;41(2):132−40;図8参照)。
変形性関節症(OA)滑膜をアセトン固定後、凍結切片を作成した。1%過酸化水素・リン酸バッファー(PBS)を10分間反応させ、内因性ペルオキシダーゼを不活化した。PBSで5分間洗浄を3回繰り返した後、10%ヤギ血清PBSを10分間反応させ、非特異的吸着をブロックした。マウス抗ヒトFR−β抗体(94b、IgG1)、マウス抗CD163抗体(R20,IgG1)、陰性コントロール抗体(IgG1)を30分間反応させ、PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体(ニチレイバイオサイエンス、東京)を30分間反応させ、PBSで5分間洗浄を3回繰り返した後、AEC試薬(ニチレイバイオサイエンス、東京)にて10分間発色させた。PBSで3回洗浄後、30秒間ヘマトキシリン染色を行い、蒸留水で洗浄し、乾燥後鏡検した。反応はすべて室温にて行った。OA滑膜でも、FR−β発現マクロファージが観察された。
(3)肝臓がんの骨転移部位には葉酸リセプターベータ発現細胞が存在する(図9参照)。
肝臓がんの骨転移部位をアセトン固定後、脱灰のため、1%EDTA/リン酸緩衝液(PBS)、pH7.0中で、毎日緩衝液を交換しながら、2週間置換した。その後、組織をパラフィン包埋し、免疫染色のため各5μmの切片をスライドに張り付けた。60℃で30分間処理後、脱パラフィン処理のため、切片スライドをキシレンで5分間、3回置換、脱水操作のため、エタノールで5分間、3回置換、90%エタノール、70%エタノールでそれぞれ3分間、置換した。
抗原回復のため、Diva Decloaker溶液(Biocare Medical,CA,USA)中にて10分間120℃でオートクレーブした。
内因性ペルオキシダーゼを不活化するため、1%過酸化水素・PBS液で10分反応させた。10%ヤギ血清PBSを10分間反応させ、非特異的吸着をブロックした。マウス抗ヒトFR−β抗体(94b、IgG1)、陰性コントロール抗体(IgG1)を30分間反応させ、PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体(ニチレイバイオサイエンス、東京)を30分間反応させ、PBSで5分間洗浄を3回繰り返した後、DAB試薬(ニチレイバイオサイエンス、東京)にて10分間発色させた。PBSで3回洗浄後、30秒間ヘマトキシリン染色を行い、蒸留水で洗浄し、乾燥後鏡検した。反応はすべて室温にて行った。骨転移部位でも、FR−β発現マクロファージが観察された。
(4)抗FR−βイムノトキシンの毒素に対するラット血清中の抗体の検出
シュードモナス・エクソトキシン(緑膿菌毒素)イムノトキシンの静脈注射では、シュードモナス・エクソトキシンに対する中和抗体が高度に出現し、効果の減弱や副作用をおこすことが報告されている(Pastan I,Onda M,Weldon J,Fitzgerald D,Kreitman R.Leuk Lymphoma.2011 Jun;52 Suppl 2:87−90)。
そこで、以下のようにして、抗FR−βイムノトキシンの毒素に対するラット血清中の抗体を検出した。
メチル化BSA誘発ラット関節炎モデルに50mgのイムノトキシンの関節腔内投与を行い、関節炎誘発後7(n=5)、14(n=5)、21(n=12)日後にラット血清を採取した(図10A)。
(方法)
(a)0.1M炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlの濃度に調整したVH−PE38を、ELISAプレート(マキシソープ)に50μl(50ng)/ウェルの条件で滴下し、10℃で一晩インキュベートした。インキュベート終了後、溶液を除去してリン酸緩衝液(PBS)で3回洗浄した。洗浄後、3%スキムミルクを溶解させたPBSを200μl(50ng)/ウェルの条件で滴下し、37℃で1時間インキュベートした。
(b)インキュベート終了後、ラット血清サンプルの2倍希釈系列を3%スキムミルクPBSにて調整し、37℃で1時間インキュベートした。尚、抗イムノトキシン抗体の陽性コントロールは抗シュードモナス・エクソトキシンウサギ血清(シグマ社製)を用いた。インキュベート終了後、0.1%Tween20を含むPBSでプレートを3回洗浄した。
(c)洗浄後、3%スキムミルクPBSで2000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(抗ラットIgM−IgG、Southern Biotech社製、及び抗ウサギIgG、Southern Biotech社製)を50μl/ウェルの条件で滴下し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート終了後、0.1%Tween20を含むPBSでプレートを3回洗浄した。
(d)洗浄後、2,2’−Azino−bis発色基質溶液(シグマ社製)を50μl/ウェルの条件で滴下し、室温で15分間インキュベートした。インキュベート終了後、プレートリーダーにて波長415nmの吸光度を測定した。
(結果)
関節炎誘発7、14、21日後に採取したラット血清のVH−PEに対する反応性を図10Bに示した。値は100倍希釈時における各群の吸光度を示す。イムノトキシンを投与しない関節炎ラット(N=6)血清の値はすべて0.1以下であった。14日後に採取した群では吸光度0.1以上が1個体存在した。7日及び21日後に採取した個体が示す吸光度は全て0.1以下であった。
したがって、抗ラットFR−β抗体イムノトキシンの関節炎関節局所内投与では、シュードモナス・エクソトキシンに対する抗体の出現は稀であり、関節局所内投与の有用性が期待できる。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明によれば、副作用のリスクが低減された軟骨・骨破壊抑制剤が提供される。本発明の軟骨・骨破壊抑制剤は、FR−β発現性マクロファージの細胞死又は細胞傷害を選択的に誘導することによって、直接あるいは間接的に軟骨・骨破壊が認められる疾患に対して治療効果をもたらすことができる。
【配列表フリーテキスト】
【0012】
配列番号1−人工配列の説明:プライマー
配列番号2−人工配列の説明:プライマー
配列番号3−人工配列の説明:プライマー
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号5−人工配列の説明:プライマー
配列番号6−人工配列の説明:プライマー
配列番号7−人工配列の説明:プライマー
配列番号8−人工配列の説明:プライマー
[配列表]
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】

【手続補正書】
【提出日】20130227
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する軟骨の破壊抑制剤。
【請求項2】
葉酸リセプターβに対する抗体が一重鎖又は二重鎖である請求項1記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項3】
生物学的もしくは化学的活性物質がトキシン、酵素、サイトカイン、アイソトープ及び化学療法剤から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項4】
葉酸リセプターβ発現マクロファージが軟骨の破壊をおこす疾患を治療するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項5】
関節リウマチ、変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項6】
変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項7】
変形性関節症による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。

【手続補正書】
【提出日】20140205
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する軟骨の破壊抑制剤。
【請求項2】
葉酸リセプターβに対する抗体が一重鎖又は二重鎖である請求項1記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項3】
生物学的もしくは化学的活性物質がトキシン、酵素、サイトカイン、アイソトープ及び化学療法剤から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項4】
葉酸リセプターβ発現マクロファージが軟骨の破壊をおこす疾患を治療するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項5】
関節リウマチ、変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項6】
変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項7】
変形性関節症による軟骨の破壊を抑制するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の軟骨の破壊抑制剤。
【請求項8】
葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する関節局所投与用軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【請求項9】
葉酸リセプターβに対する抗体、又は該抗体と生物学的もしくは化学的活性物質との複合体を含有する変形性関節症又は悪性腫瘍の骨転移による軟骨又は骨の破壊抑制剤。
【国際調査報告】