(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2013099235
(43)【国際公開日】20130704
【発行日】20150430
(54)【発明の名称】高強度薄鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150403BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20150403BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150403BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20150403BHJP
【FI】
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/06
   !C22C38/58
   !C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
【出願番号】2013539057
(21)【国際出願番号】JP2012008307
(22)【国際出願日】20121226
(11)【特許番号】5413546
(45)【特許公報発行日】20140212
(31)【優先権主張番号】2011284524
(32)【優先日】20111226
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】金子 真次郎
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
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4K037EA17
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4K037EA19
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4K037EA26
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4K037EB09
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4K037FA02
4K037FA03
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4K037FE01
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4K037FM04
4K037GA05
4K037JA01
4K037JA07
(57)【要約】
本発明に従い、所定の鋼板成分組成からなり、鋼板組織中、フェライト相の平均結晶粒径を10μm以下、フェライト相の体積率を30%以上70%以下とし、かつマルテンサイト相と残留オーステナイト相の体積率を合計で10%以下含有させ、さらに、隣接する各異相間のナノ硬さの差が4GPa以内である隣接相の割合を90%以上とすることによって、引張強度(TS)が980MPa以上の高い値を有し、かつ鋼板全体にわたって安定して曲げ性に優れる高強度薄鋼板を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:1.0〜3.5%、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Al:0.001〜1%およびN:0.0060%以下を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の成分組成からなり、鋼板組織中、フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、フェライト相の体積率が30%以上70%以下で、かつマルテンサイト相と残留オーステナイト相の体積率が合計で10%以下であり、さらに、隣接する各異相間のナノ硬さの差が4GPa以内である隣接相の割合が90%以上である高強度薄鋼板。
【請求項2】
前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:2.0%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下およびB:0.02%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項1に記載の高強度薄鋼板。
【請求項3】
前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Ti: 0.10%以下、Nb: 0.10%以下およびV:0.10%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項1または2に記載の高強度薄鋼板。
【請求項4】
前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Ca: 0.01%以下およびREM:0.01%以下のうちから選んだ1種または2種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高強度薄鋼板。
【請求項5】
鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有する請求項1〜4のいずれかに記載の高強度薄鋼板。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の成分からなる鋼スラブを、熱間圧延後、コイルに巻き取り、ついで冷間圧延後、焼鈍を施す一連の工程からなる薄鋼板の製造方法であって、
上記熱間圧延を、スラブ加熱温度:1000〜1300℃、熱間仕上げ圧延温度:850〜950℃の条件で行い、ついで熱間仕上げ圧延温度から(熱間仕上げ圧延温度−100℃)までの温度域を平均冷却速度:5〜200℃/秒で冷却し、400〜650℃の温度でコイルに巻取ったのち、冷間圧延を施し、ついで730〜900℃まで加熱し、この焼鈍温度域に10〜500秒保持したのち、500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、さらに300℃以下まで冷却した後、600℃以下に再加熱し、下記式(1)で定義される焼き戻しパラメータλが13000以上となる条件で焼き戻しを施す高強度薄鋼板の製造方法。

λ=(T+273) × (log(t) + 20) ・・・・・・(1)
ただし、T : 再加熱温度(℃)、 t : 再加熱温度での保持時間(秒)
【請求項7】
請求項6に記載の高強度薄鋼板の製造方法において、前記500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、さらに300℃以下まで冷却することに代えて、500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施したのち、300℃以下まで冷却する高強度薄鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品などに成形する際に好適な、曲げ性に優れ、かつ引張強度(TS)が980MPa以上である高強度薄鋼板およびその製造方法に関するものである。
なお、本発明における高強度薄鋼板には、溶融亜鉛めっき鋼板などのめっきを施した鋼板を含む。また、溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっき後に合金化熱処理を施した、いわゆる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を含むものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品などに用いられる高強度薄鋼板は、その用途の特徴上、高強度に加えて、加工性に優れていることが要求されている。さらに、最近では、車体軽量化による燃費向上および衝突安全性確保の観点から、高強度の鋼板が自動車車体に求められ、その適用が拡大している。
【0003】
しかしながら、一般に、鋼板が高強度化するに伴い、加工性は低下する傾向にある。そのため、高強度鋼板を自動車部品などに適用する際の一番の課題としては、プレス成形時に鋼板が割れてしまうことである。特に、980MPa以上の高強度鋼では、曲げ成形で加工される部品が多いため、曲げ成形性が特に重要になる。
【0004】
上記した要求に応えるべく、例えば、特許文献1〜4には、鋼板表層部から10μmの範囲を軟質化することによって、鋼板の曲げ特性を向上させる技術が開示されている。
また、特許文献5には、フェライト分率を60%以上とした条件で、フェライト相のナノ硬さHnfと低温変態相のナノ硬さHnmの硬度比Hnm/Hnfを3.0以上、またフェライト分率が20〜50%の場合は、上記の硬度比を2.0以下にすることによって、鋼板の曲げ性を改善する技術が開示されている。なお、ナノ硬さをこれ以降ナノ硬度と称することもある。
さらに、特許文献6には、加工性および溶接性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−175839号公報
【特許文献2】特開平5−195149号公報
【特許文献3】特開平10−130782号公報
【特許文献4】特開2005−273002号公報
【特許文献5】特開2009−167467号公報
【特許文献6】特開2008−280608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の技術は、鋼板の疲労特性の低下が予想されるだけでなく、軟質相の安定的な生成にも問題があると考えられる。また、特許文献5に記載の技術では、製造時の成分および焼鈍条件に応じて、フェライト分率が変化するため、製造中にフェライト分率を把握することが必要になってくる。また、そのフェライト分率に応じて、鋼板組織の硬質相と軟質相の硬度比を鋼板全体にわたって所定値にコントロールすることは極めて困難である。従って、特許文献5に記載の技術は、製造歩留まりが低下するおそれが高く、コスト高になる可能性が高い。さらに、特許文献6に記載の技術では、高強度鋼の自動車車体への適用をさらに進めて薄鋼板とした時に、その曲げ特性が十分とは言えなかった。
【0007】
ここに、従来の曲げ性の評価は、試験片のn数を3個程度として、割れが発生しない最小の曲げ半径を求め、限界曲げ半径と規定していた。しかし、n数を増加させると、限界曲げ半径以上であっても割れが発生することがあった。また、プレス成形部品は数十cm以上の長さで成形をするため、鋼板全体が曲げ性に優れている必要がある。
従って、鋼板全体の曲げ性評価のためには、従来よりも多数の試験片で評価した限界曲げ半径を測定する必要がある。
【0008】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、引張強度(TS)が980MPa以上の高い値を有し、かつ鋼板全体にわたって安定した曲げ性に優れる高強度薄鋼板を、その製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
さて、発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、隣接する相のナノ硬度差を規定した組織とすることで、鋼板全体にわたって安定して良好な曲げ性が得られるとの知見を得た。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:1.0〜3.5%、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Al:0.001〜1%およびN:0.0060%以下を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の成分組成からなり、鋼板組織中、フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下であり、フェライト相の体積率が30%以上70%以下で、かつマルテンサイト相と残留オーステナイト相の体積率が合計で10%以下であり、さらに、隣接する各異相間のナノ硬さの差が4GPa以内である隣接相の割合が90%以上である高強度薄鋼板。
【0011】
2.前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:2.0%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下およびB:0.02%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する前記1に記載の超高強度薄鋼板。
【0012】
3.前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.10%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する前記1または2に記載の高強度薄鋼板。
【0013】
4.前記成分組成に加えて、さらに、質量%で、Ca:0.01%以下およびREM:0.01%以下のうちから選んだ1種または2種を含有する前記1〜3のいずれかに記載の高強度薄鋼板。
【0014】
5.鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有する前記1〜4のいずれかに記載の高強度薄鋼板。
【0015】
6.前記1〜4のいずれかに記載の成分からなる鋼スラブを、熱間圧延後、コイルに巻き取り、ついで冷間圧延後、焼鈍を施す一連の工程からなる薄鋼板の製造方法であって、
上記熱間圧延を、スラブ加熱温度:1000〜1300℃、熱間仕上げ圧延温度:850〜950℃の条件で行い、ついで熱間仕上げ圧延温度から(熱間仕上げ圧延温度−100℃)までの温度域を平均冷却速度:5〜200℃/秒で冷却し、400〜650℃の温度でコイルに巻取ったのち、冷間圧延を施し、ついで730〜900℃まで加熱し、この焼鈍温度域に10〜500秒保持したのち、500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、さらに300℃以下まで冷却した後、600℃以下に再加熱し、下記式(1)で定義される焼き戻しパラメータλが13000以上となる条件で焼き戻しを施す高強度薄鋼板の製造方法。

λ=(T+273) × (log(t) + 20) ・・・・・・(1)
ただし、T : 再加熱温度(℃)、 t : 再加熱温度での保持時間(秒)
【0016】
7.前記6に記載の高強度薄鋼板の製造方法において、前記500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、さらに300℃以下まで冷却することに代えて、500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施したのち、300℃以下まで冷却する高強度薄鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、曲げ性に優れる高強度薄鋼板を製造することができるので、特に、曲げ成形性を要求される自動車部品用の鋼板として好適な高強度薄鋼板を得ることができる。
なお、本発明において、高強度とは、引張強度(以下、TSという)が980MPa以上を意味する。また、曲げ性に優れるとは、90°V曲げでの限界曲げ半径を、鋼板の幅:900mm分に相当する試験片30個(各試験片の幅:30mm)で評価した際に、全ての試験片が限界曲げ半径≦1.5t(t:板厚)の関係を満足することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】隣接相間の硬度差を求める要領を示した模式図である。
【図2】隣接相間の硬度差を求める要領を示した他の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
隣接する各異相間のナノ硬さの差が4GPa以内となる隣接相の割合が90%以上
まず、本発明において、隣接する各異相(以下、単に隣接相という)間のナノ硬さの差を限定した理由について説明する。
任意の相とその隣接相とのナノ硬さの差が大きい場合、当該二相間における塑性変形能の差からボイド(欠陥)が発生しやすくなることは従来知見より予測可能である。しかしながら、どの程度の硬さの差でボイドが発生しやすくなるかの定量評価は行われていない。
【0020】
発明者らは、上記定量評価について鋭意検討した。その結果、当該二相間のナノ硬さの差が4GPa超となった場合に、当該二相間でボイドが発生する確率が極めて高いことが明らかとなった。しかしながら、試験片の割れ、すなわち鋼板における破断は、上記のボイドが連結して初めて発生するために、単に隣接相とのナノ硬さの差を4GPa超が不可と規定しただけでは、その制御は現実的ではない。
【0021】
そこで、発明者らは、隣接相間のナノ硬さの差が4GPa超である相の存在割合が幾つの場合に、上記したボイドの連結が生じるのかをさらに鋭意検討した。その結果、隣接相間のナノ硬さの差が4GPa超である相の割合が、任意の相に対する隣接相中の境界長さの比率で10%を超えた場合に、相間に亀裂が発生することが明らかとなった。ここでいう境界長さの導出方法は以下のとおりである。
まず、ナノインデンテーション試験により、表層から50〜500μmの間の所定範囲のナノ硬さを測定する。測定間隔としては、2〜3μm間隔とすることが好ましく、測定点は50点以上必要であるが、300点以上測定することが好ましい。例えば、鋼板表面から50〜500μmの間で、板厚方向に2〜3μm間隔で20点分、これと直交する方向に20点分の領域内で、升目状に測定し、400点測定する。
次に、隣接する測定点での硬度差を計算し、隣接相間の硬度差が4GPa以内である部分の境界長さを求め、測定部の境界長さに対する割合を計算する。相間の境界はここでは、測定点間の中央に直線状に存在すると考える。なお、同一組織の粒内に複数点測定した場合は、平均値を求めてその相のナノ硬度と定義する。
図1および図2に、隣接相間の硬度差を求める要領を示した模式図を示す。なお、図1に示したデータは以下に示す実施例の試験No.1の、また図2に示したデータはNo.20の試験結果を参照したものである。
このようにして、本発明では、隣接相とのナノ硬さの差が4GPa以内となる割合を求め、その割合を90%以上と規定することで、所期した性能の薄鋼板を得ることができるのである。
【0022】
本発明におけるナノ硬さの測定方法は、従来公知の測定方法で良く、例えば、特開2006−52458号公報に記載の方法などを用いることができる。また、Hysitron社製TRIBO SCOPE等を用いることができる。
具体的には、以下に述べる測定箇所を、鋼板の幅を900mm場合で、試験片30個(各試験片の幅:30mm)を採取し、試験片毎に以下述べる測定箇所中の3箇所を、10mm×10mmの範囲で選択し、当該箇所における組織を特定する。ついで、特定された各相のナノ硬さを上記したナノ硬度計を用いて測定し、その結果を用いて隣接する各相間でのナノ硬さの差を求める。
なお、本発明の鋼板は、板厚方向で硬さの変化がなく均質なため、本発明におけるナノ硬さの測定箇所は、曲げ成形に影響しやすい鋼板表面近傍とし、表面から50〜500μmの間の領域で測定して、鋼板のナノ硬さを代表した。
【0023】
次に、本発明において、鋼板の成分組成を前述の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分組成に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.05〜0.3%
Cは、組織の硬度を上昇させるために有用な元素であり、980MPa以上のTSを得るには0.05%以上のCが必要である。一方、C量が0.3%を越えるとスポット溶接性が著しく劣化するため、0.3%以下に限定する。より好ましくは0.2%未満である。また、980MPa以上のTSを安定して確保する観点から、好ましいC量は0.08%以上である。
【0024】
Si:0.01〜2%
Siは、固溶強化および加工硬化能の増加により強度向上に寄与する元素である。その効果は0.01%以上の含有で発現する。一方、含有量が2%を超えると、鋼板表面に酸化物として濃化し、冷延鋼板の化成処理不良や亜鉛メッキ鋼板の不めっきの原因になる。それ故、Si量は0.01〜2%に限定する。また、Siは硬質相生成後の軟質化を阻害するため、低いほうが好ましく、1.5%以下が好ましい、より好ましくは0.5%以下である。
【0025】
Mn:1.0〜3.5%
Mnは、強度向上に有効に寄与し、この効果は1.0%以上含有することで認められる。一方、3.5%を超えて過度に含有すると、Mnの偏析などに起因して部分的に変態点が異なる組織となって、フェライト相とマルテンサイト相がバンド状で存在する不均一な組織となる。その結果、鋼板の曲げ性(以下、単に曲げ性という)が低下するだけでなく、鋼板表面に酸化物として濃化することで、化成処理不良や不めっきの原因にもなる。それ故、Mn量は3.5%以下に限定する。好ましくは3.0%以下である。また、強度を安定して確保する観点からは1.5%以上が好ましい。
【0026】
P:0.040%以下
Pは、強度向上に寄与する元素であるが、その反面溶接性を劣化させる元素でもある。P量が0.040%を超えると、溶接性を劣化させる影響が顕著に現れる。一方、P量の下限に特に制限はないが、過度のP低減は製鋼工程における製造コストの増加を伴う。従って、好ましくは0.001%以上である。また、好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.015%以下である。
【0027】
S:0.0050%以下
Sは、増加すると熱間赤熱脆性の原因となり、また介在物MnSを形成して、冷間圧延後に板状の介在物となることにより、材料の極限変形能を低下させ、伸びフランジ性などの成形性を低下させる。そのため、S量は極力少ないほうが好ましいが0.0050%までは許容できる。一方、過度の低減は、製鋼工程における脱硫コストの増加を伴う。それ故、0.0001%以上が好ましい。また、好ましい上限は0.0030%である。
【0028】
Al:0.001〜1%
Alは、製鋼工程において脱酸剤として有効であり、また曲げ性を低下させる非金属介在物をスラグ中に分離する点でも有用な元素である。さらに、Alは、焼鈍時に、めっき性を阻害する表層のMn、Si系酸化物の形成を抑制し、めっき表面外観を向上させる効果がある。この効果を得るには0.001%以上の添加が必要である。一方、1%を超えて添加すると、鋼成分コストの増大を招くだけでなく、溶接性を低下させる。それ故、Al量は0.001〜1%の範囲に限定する。好ましくは0.01〜0.06%の範囲である。
【0029】
N:0.0060%以下
組織強化鋼において、材料特性に及ぼすNの影響はあまり大きくはなく、0.0060%以下であれば本発明の効果を損なわない。一方、フェライトの清浄化による延性向上の観点からもN量は少ないほうが望ましいが、製鋼上のコストも増大するので、下限は0.0001%程度が望ましい。
【0030】
本発明では、上記した基本成分に加えて、以下に述べる任意成分を適宜添加することができる。
Cr:2.0%以下
Crは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、オーステナイトの焼き入れ性を向上させて、高強度を容易に得ることが可能となることに加えて、硬質相を均一微細に分散させることによる成形性の向上にも有効に寄与する。これらの効果を得るためには、0.01%以上の添加が望ましい。一方、2.0%を超えるとこれらの効果は飽和し、むしろ、表面品質を著しく劣化させる。それ故、Crを添加する場合は2.0%以下とし、0.01〜2.0%の範囲が好ましい。より好ましくは0.2〜1.0%の範囲である。
【0031】
Mo:0.50%以下
Moは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、低炭素成分系で強度を確保しやすく、溶接性をも向上させる。これらの効果を得るためには、0.01%以上の添加が望ましい。一方、Mo量が0.50%を超えると、これらの効果は飽和し、コストアップの要因となる。それ故、Moを添加する場合は0.50%以下とし、0.01〜0.50%の範囲が好ましい。より好ましくは0.01〜0.35%の範囲である。
【0032】
Ni:1.0%以下
Niは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、低炭素成分系で強度を確保しやすく、また溶接性を向上させる。これらの効果を得るためには、0.01%以上の添加が望ましい。一方、Ni量が1.0%を超えると、これらの効果は飽和し、コストアップの要因となる。それ故、Niを添加する場合は1.0%以下とし、0.01〜1.0%の範囲が好ましい。より好ましくは0.01〜0.5%の範囲である。
【0033】
Cu:1.0%以下
Cuは、鋼の焼入れ強化に有効な元素であり、低炭素成分系で強度を確保しやすく、また溶接性を向上させる。これらの効果を得るためには、0.01%以上の添加が望ましい。一方、Cu量が1.0%を超えると、これらの効果は飽和し、コストアップの要因となる。それ故、Cuを添加する場合は1.0%以下とし、0.01〜1.0%の範囲が好ましい。より好ましくは0.01〜0.5%の範囲である。
【0034】
B:0.02%以下
Bは、焼入れ性を高め、焼鈍冷却過程で起こるフェライトの生成を抑制し、所望のマルテンサイト量を得るのに寄与する。この効果を得るためには、B量は0.0001%以上含有させることが好ましい。一方、B量が0.02%を超えると上記の効果は飽和する。それ故、Bを添加する場合は0.02%以下とし、0.0001〜0.02%が好ましい。より好ましくは0.0005〜0.0030%の範囲である。
【0035】
Ti:0.10%以下
Tiは、鋼中でCまたはNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、熱延板の組織および焼鈍後の鋼板組織の細粒化や析出強化に有効に作用する。特に、組織の細粒化は鋼板の曲げおよび伸びの向上に繋がる。これらの効果を得るためには、0.010%以上のTiの添加が望ましい。しかしながら、Ti量が、0.10%を超えると、上記効果が飽和するだけでなく、フェライト中に過度に、微細炭化物や微細窒化物の析出物が生成し、フェライトの延性を低下させるおそれがある。従って、Tiを添加する場合は0.10%以下とし、0.010〜0.10%の範囲が好ましい。より好ましくは0.010〜0.060%の範囲である。
【0036】
Nb:0.10%以下
Nbは、固溶強化または析出強化により強度の向上に寄与する元素である。また、フェライト粒およびベイナイト、マルテンサイト領域の粒の微細化に寄与して、曲げ性および伸びを改善させる。このような効果は、Nbの添加量を0.010%以上にするとより簡便に得られる。しかしながら、0.10%を超えて過度に含有されると、熱延板が硬質化し、熱間圧延、冷間圧延時の圧延荷重の増大を招くだけでなく、フェライトの延性を低下させて、曲げ性が劣化する。従って、Nbを添加する場合は0.10%以下とし、0.010〜0.10%の範囲が望ましい。なお、強度および加工性の観点からは、Nb量を0.030〜0.070%の範囲とするのがより好ましい。
【0037】
V:0.10%以下
Vは、鋼中でCまたはNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、熱延板組織および焼鈍後の鋼板組織の細粒化および析出強化の付与に有効に作用する。特に組織の細粒化は鋼板の曲げおよび伸びの向上に繋がる。これらの効果を得るためには、0.001%以上のVの添加が望ましい。しかしながら、V量が、0.10%を超えるとこの効果が飽和するだけでなく、フェライト中に過度に析出物が生成し、フェライトの延性を低下させる。従って、Vを添加する場合は0.10%以下とし、0.001〜0.10%の範囲が好ましい。より好ましくは0.010〜0.060%の範囲である。
【0038】
Ca:0.01%以下
Caは、MnSなど硫化物の形状制御により曲げ性を向上させる効果があり、この効果を得るためには、0.0001%以上の添加が好ましい。一方、多量に含有させてもその効果は飽和する傾向にある。よって、Caを含有させる場合、0.01%以下とし、好ましくは0.0001〜0.01%の範囲であり、より好ましくは0.0001〜0.0050%の範囲であり、さらに好ましくは0.0001〜0.0020%の範囲である。
【0039】
REM:0.01%以下
REMは、MnSなど硫化物の形状制御により曲げ性を向上させる効果があるが、多量に含有させてもその効果は飽和する傾向にある。よって、REMを含有させる場合、0.01%以下とし、0.0001%〜0.01%の範囲が好ましく、より好ましくは0.0001%〜0.0020%の範囲である。
【0040】
本発明の鋼板は、所望の曲げ性および溶接性を得る上で、上記した成分組成の他、残部はFeおよび不可避不純物の組成からなるが、必要に応じて以下の元素を適宜含有させることができる。
めっき性を大きく変化させることなく、鋼板表層の結晶を整粒する作用を有するSbを0.0001〜0.1%の範囲で含有させることができる。
また、析出物を形成するZr,Mgなどは含有量が極力少ない方が好ましく、積極的に添加する必要はないが、それぞれ0.020%未満、より好ましくは0.002%未満の範囲で含有することができる。
【0041】
次に、本発明における、鋼組織の限定範囲および限定理由について説明する。
フェライト相の平均結晶粒径が10μm以下で、かつ体積率が30%以上70%以下
結晶粒径が10μmを超える粗大なフェライト相にはひずみが極度に集中するため、フェライト相の平均粒径が10μmを超えると鋼板の曲げ性が低下する。さらにフェライト相の体積率が30%未満の場合、隣接相とのナノ硬さの差が4GPa以内となる割合を90%以上にしたとしても、フェライト相部分への歪の集中が大きいため、所定の曲げ性が得られない。一方、フェライト相の体積率が70%を超えるとTSが980MPaを確保することが困難となる。従って、フェライト相の平均結晶粒径を10μm以下とし、かつフェライト相の体積率を30%以上70%以下とする。好ましくはフェライト相の平均結晶粒径が5μm以下で、他方フェライト相の体積率は40%以上が好ましい。
なお、本発明において、鋼板組織における各相の体積率とは、鋼板組織全体に対する当該相の体積比率を言う。
【0042】
マルテンサイト相と残留オーステナイト相の合計の体積率が10%以下
マルテンサイト相は極度に硬質であり、体積率の増加とともに曲げ性が低下する。また、残留オーステナイト相は、マルテンサイト相よりは軟質であるものの、曲げ変形中にマルテンサイト相に変態してしまうので、やはり曲げ性を低下させることになる。従って、本発明では、この両者の合計を体積率で10%以下とすることにより、所定の曲げ性を達成することができる。好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、0%であってもよい。なお、本発明でマルテンサイト相とは、焼き戻しされていない硬質なマルテンサイト相を意味し、SEM観察により特定できる。
【0043】
本発明において、鋼板組織におけるマルテンサイト相と残留オーステナイト相の結晶粒径は、特別に限定はされないが、微細な方が好ましく、いずれも5μm程度以下が好ましい。
【0044】
本発明において、前記したフェライト相、マルテンサイト相および残留オーステナイト相以外で含有される可能性のある相は、焼き戻しマルテンサイト相、ベイナイト相、パーライト相およびセメンタイト相等が挙げられ、これら前記したフェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の相は、合計で30〜70%含有できる。
また、本発明の高強度薄鋼板は、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層などのめっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板などのめっき鋼板としてもよい。
【0045】
次に、本発明の製造方法について説明する。
まず、前述した好適成分組成に調製した溶鋼から、連続鋳造法または造塊−分塊法でスラブを製造する。ついで、得られたスラブを、冷却後、再加熱したのち、あるいは鋳造後加熱処理を経ずにそのまま、熱間圧延を行う。その際、スラブ加熱温度を1000〜1300℃として、熱延板を均一組織化し、また伸びや伸びフランジ性などの加工性を向上させるために仕上げ圧延温度を850〜950℃として、フェライト相とパーライト相の2相からなるバンド状組織の生成を抑制することで熱延板を均一組織化する。
さらに、熱間仕上げ圧延温度〜(熱間仕上げ圧延温度−100℃)間の平均冷却速度を5〜200℃/秒の範囲とし、表面性状および冷間圧延性を向上させるために、コイルに巻取る巻取り温度を400〜650℃として、熱間圧延を終了し、酸洗後、冷間圧延により所望の板厚とする。その際の冷延圧下率は、フェライト相の再結晶促進により曲げ性を向上させるために30%以上とすることが望ましい。なお、本発明における鋼板の板厚は、0.6〜3.6mm程度の範囲とする。
【0046】
さらに、本発明に従う冷延鋼板を製造する場合には、上記した工程に続いて、730〜900℃の焼鈍温度まで加熱し、この焼鈍温度域に10〜500秒保持したのち、500℃まで1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、さらに300℃以下まで冷却した後、再加熱して600℃以下にし、以下の式(1)で定義される焼き戻しパラメータλが13000以上となる条件で焼き戻す。
λ=(T+273) × (log(t) + 20) ・・・・・・(1)
ただし、T : 再加熱温度(℃)、 t : 再加熱温度での保持時間(秒)
【0047】
本発明では、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を有する、いわゆる溶融亜鉛メッキ鋼板を含むが、この溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する場合には、前記した工程に続いて、通常公知の方法による溶融亜鉛メッキを施してもよい。
この場合、前記平均冷却速度による制御冷却を500℃まで行い、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいは必要に応じてさらに合金化処理を施したのち、300℃以下になるまで冷却し、その後、600℃以下の範囲に再加熱して、上記焼き戻しパラメータλが13000以上となる条件で焼き戻す工程にすることが最も好適である。
かようにして所望の高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られるが、焼き戻し後の鋼板にさらにスキンパス圧延を施しても良い。
【0048】
次に、上述した製造条件の限定範囲および限定理由を具体的に説明する。
スラブ加熱温度:1000〜1300℃
スラブ加熱温度が1000℃に満たないと、熱延中のスケールオフによって発生する、スラブ表層の気泡や、偏析などの欠陥、鋼板表面の亀裂、さらには表面凹凸などを低減する効果が小さくなってしまう。一方、加熱温度が1300℃を超えると、上記効果は飽和し、コスト高になる。従って、スラブ加熱温度は1000〜1300℃の範囲に限定する。
【0049】
仕上げ圧延温度:850〜950℃
熱間圧延における仕上げ圧延温度を、850℃以上とすることによって、曲げ性を向上させることができる。というのは、仕上げ圧延温度が850℃未満の場合、熱間圧延後の鋼板は、結晶が展伸された加工組織となるが、鋳片内にてオーステナイト安定化元素であるMnが偏析しやすくなり、その偏析領域のAr3変態点が低下してしまう。
このようにAr3変態温度が低下すると、未再結晶温度域と圧延終了温度とが同じ温度域になってしまい、結果的に、熱間圧延後の組織中に未再結晶のオーステナイトが生成してしまうと考えられる。このように未再結晶のオーステナイトを含む不均一な組織になった場合には、材料を加工する際に均一な変形が阻害され、優れた曲げ性を得ることは極めて困難になる。
一方、仕上げ圧延温度が950℃を超えた場合には、酸化物(熱延スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物の界面が荒れてしまう。その結果、酸洗や冷間圧延後の表面品質が劣化することとなる。また、酸洗後に上記熱延スケールの取れ残りなどが一部に存在すると、抵抗スポット溶接性に悪影響を及ぼすことになる。さらに、結晶粒径が過度に粗大となって、プレスした際の表面荒れが生じる原因にもなる。従って、仕上げ圧延温度は850〜950℃、好ましくは880℃〜930℃の範囲とする。
【0050】
仕上げ圧延温度から(仕上げ圧延温度−100℃)までの平均冷却速度:5〜200℃/秒
仕上げ圧延直後の高温域[以下、仕上げ圧延温度〜(仕上げ圧延温度−100℃)の温度域をいう]において、その冷却速度が5℃/秒に満たないと、熱延後に、再結晶や粒成長が生じ、熱延板組織の結晶粒径が粗大化すると共に、フェライトとパーライトが層状に形成されたいわゆるバンド状組織となる。焼鈍前にこのようなバンド状組織になった場合は、成分の濃度ムラが生じた状態で熱処理されるため、焼鈍工程中の熱処理では、濃度ムラから生じる組織の不均一を解消することが困難となり、曲げ性が低下する。このため、上記高温域における平均冷却速度は5℃/秒以上とする。一方、上記高温域における平均冷却速度が200℃/秒を超えても、効果は飽和する傾向にあるので、当該温度域における平均冷却速度は5〜200℃/秒の範囲とする。
【0051】
巻取り温度:400〜650℃
巻取り温度は、650℃を超えると、熱延スケールの厚みが増加し、酸洗および冷間圧延後の表面が荒れ、凹凸が形成されるだけでなく、フェライト粒径が粗大化するために曲げ性の低下を招く。また、酸洗後に熱延スケールが残存すると抵抗スポット溶接性に悪影響を及ぼす。一方、巻取り温度が400℃未満では熱延板強度が上昇し、冷間圧延における圧延負荷が増大し、生産性が低下してしまう。従って、巻取り温度は400〜650℃の範囲とする。
【0052】
焼鈍温度:730〜900℃、保持時間:10〜500秒
焼鈍温度が730℃より低い場合、焼鈍時にオーステナイトが十分に生成しないため、鋼板の強度確保ができない。一方、焼鈍温度が900℃より高い場合、加熱中にオーステナイトが粗大化し、その後の冷却過程で生成するフェライト相の量が減少し、曲げ性が低下する、従って、焼鈍温度は730〜900℃の範囲とする。
また、当該焼鈍の保持温度域における保持時間が10秒未満の場合、焼鈍中のオーステナイト相の生成が少なくなり、鋼板の強度確保が困難となる。一方、長時間焼鈍により結晶粒は成長して粗大化する傾向にあり、上記の焼鈍温度域における保持時間が500秒を超えても効果が飽和しコスト高となる。従って、保持時間は10〜500秒の範囲とする。好ましい保持時間は20〜200秒の範囲である。
【0053】
焼鈍温度から500℃までの平均冷却速度:1〜50℃/秒 (冷延鋼板を製造する場合)
焼鈍後、500℃までの平均冷却速度は、フェライト相の体積分率制御を行い、TS:980MPa級以上の強度を確保するのに重要な役割を担っている。本発明では、焼鈍後の冷却速度を制御した冷却を制御冷却という。この制御冷却の平均冷却速度が1℃/秒より遅いと、冷却過程中に生成するフェライト相の量が多くなりパーライトも増加し、TSの確保ができない。一方、平均冷却速度が50℃/秒を超えると、鋼板全体の均一な冷却が困難となり、曲げ性のバラツキが生じやすい。よって、1〜50℃/秒とする。平均冷却速度の好ましい範囲は5〜30℃/秒である。
なお、この場合の冷却は、ガス冷却が好ましいが、炉冷、ミスト冷却、ロール冷却、水冷などを用いてあるいは組み合わせて行うことも可能である。
【0054】
焼鈍温度から500℃までの範囲を1〜50℃/秒の平均冷却速度で制御冷却し、ついで溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施す(溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する場合)
焼鈍後、500℃までの範囲の平均冷却速度は、上述した冷延鋼板を製造する場合と同じであるが、その場合の制御冷却は、メッキ性確保の観点からガス冷却が好ましい。
上記冷却を停止した後に、一般的な溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっきとする。あるいは、必要に応じて、上記の溶融亜鉛めっき処理後、誘導加熱装置などを用いて再加熱を施す合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。なお、溶融亜鉛めっき処理を行う際の処理条件は、常法に従えばよく、例えばめっき浴温は450℃〜460℃程度であり、合金化処理の温度は、例えば500℃程度である。
ここに、溶融亜鉛めっきの付着量は、片面当たり20〜150g/m2程度とすることが望ましい。というのは、めっき付着量が20g/m2未満では、耐食性の確保が困難であり、一方150g/m2を超えると、耐食効果は飽和し、むしろコストアップとなるからである。
【0055】
300℃以下まで冷却後、600℃以下に再加熱し、焼き戻しパラメータλが13000以上となる条件で焼き戻し
前記焼鈍後の制御冷却を含む冷却中、300℃を超える温度域までは、鋼板中に未変態のオーステナイトが多く残っているため、オーステナイトがフェライトとセメンタイトに分解しやすく、再加熱によりTS:980MPaの確保が困難となる。よって、前記焼鈍後は300℃以下まで冷却する。好ましくは50℃以下まで冷却し、オーステナイトを極力低減した状態から再加熱をする。
また、焼鈍後の冷却を300℃以下にした場合であっても、前述した焼き戻しパラメータλ(以下、単にλと記す。)が小さいと、冷却後に多量のマルテンサイトが残存する可能性がある。
【0056】
上記冷却後の再加熱は、硬質なマルテンサイトもしくはベイナイトが所定の硬度まで軟化するように再加熱を行うが、600℃を超えて加熱しても効果が飽和しコスト高となる。また溶融亜鉛メッキ鋼板の場合は、亜鉛と鉄の合金化が過度にすすむため、プレス成形時にメッキ剥離を生じやすくなる。そのため、再加熱は600℃以下とする。再加熱の最低温度は特に規定しないが、冷却停止温度超であっても、あまりに低温の場合、保持時間が長大になって生産性を低下させる。従って、350℃程度以上とするのが好ましい。
また、前記したλが13000未満の条件では、硬質相の軟化が不十分なため、十分な曲げ特性が得られない。というのは、λが大きい条件ほど硬質相は軟化するために、曲げ性が向上するからである。好ましくは14000以上、より好ましくは15000以上である。なお、λの上限は、TS確保の観点から17000程度が好ましい。
【0057】
なお、連続焼鈍後、最終的に得られた鋼板に、形状矯正や表面粗度調整の目的から調質圧延を行ってもかまわないが、過度にスキンパス圧延を行うと過多に歪が導入され結晶粒が展伸された圧延加工組織となって、曲げ性が低下する場合があるため、スキンパス圧延の圧下率は0.1〜1.5%程度の範囲とすることが好ましい。
【実施例1】
【0058】
表1に示す成分組成になる鋼を溶製し、スラブとしたのち、表2に示す種々の条件で熱間圧延、酸洗、圧下率:50%の冷間圧延、連続焼鈍あるいはさらにめっき処理をそれぞれ施し、板厚が1.4mmの鋼板を作製した。めっき処理は、片面当たりのめっき付着量が45g/m2の溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。また、めっき浴温は460℃、合金化処理温度は500℃とした。
上記の得られた種々の鋼板について、以下に示す材料試験を行い、材料特性を調査した。
得られた結果を表3に示す。なお、表3に示すフェライト相、マルテンサイト相および残留オーステナイト相以外の相は、ベイナイトあるいは焼戻しマルテンサイトであった。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
なお、材料試験および材料特性の評価法は次のとおりである。
(1) 鋼板の組織
本発明の鋼板は、板厚方向に均質であるため、鋼板の圧延方向に、平行な断面に1000〜3000倍の範囲の倍率で、鋼板表層部のSEM写真を撮影し、鋼板表面または鋼板と亜鉛めっきとの界面から鋼板内層側に50〜200μm程度の領域で、鋼板組織の観察を行い、この観察結果から求めたフェライト、あるいは焼き戻されていないマルテンサイト(以降単にマルテンサイトと記載する)の体積率で、鋼板における体積率を代表した。すなわち、フェライトおよびマルテンサイトの体積分率は、倍率:1000倍〜3000倍の断面組織写真を用いて、フェライトおよびマルテンサイトを目視判定によって特定し、画像解析により、フェライトおよびマルテンサイトの占有面積を求め、これをフェライト相の体積分率とした。
なお、残留オーステナイト量は、鋼板表面から上記断面方向に0.1mm位置まで研削した後、化学研磨によりさらに0.1mm研磨した面について、X線回折装置でMoのKα線を用いて、fcc鉄の(200)、(220)、(311)面とbcc鉄の(200)、(211)、(220)面の積分強度を測定し、これらから残留オーステナイトの体積分率を求め、残留オーステナイトの体積分率とした。また、観察視野中のフェライト相につき、平均結晶粒径を求め表3中に結晶粒径として記載した。
【0062】
(2) 引張特性
C方向、すなわち圧延方向と90°の方向を長手方向(引張方向)とするJIS Z 2201に記載の5号試験片を用い、JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、耐力(YP)、TSおよび伸び(El)をそれぞれ評価した。
【0063】
(3) 限界曲げ半径
JIS Z2248のVブロック法に基づき測定を実施した。曲げ部の外側を目視で確認して亀裂の有無を判定し、亀裂が発生していない最小の曲げ半径を限界曲げ半径とした。試験片幅は30mmとし、1鋼種あたり30個の試験を行った。試験片は長手:100mm、幅:32mmの矩形にせん断したものを、幅:30mmまで片側1mmずつ機械研削して作製した。試験片の長手方向はC方向とし、試験片は鋼板の幅方向に連続して採取した。なお、試験片30枚をC方向に直角な方向に1列では採取できないため、数列にわたって採取した。また、30個全てで割れが発生しなかった最小の曲げ半径を限界曲げ半径と定義し、限界曲げ半径≦1.5t(t:板厚)の関係を満足する場合を曲げ特性が良好と判定した。
【0064】
(4) ナノ硬さ
ナノインデンテーション試験はHysitron社製Tribo Scopeを用い、荷重:1000μN、2〜3μm間隔で、鋼板表面から50〜500μmの間でナノ硬さを測定した。測定点は、50点〜400点とした。測定した硬度から隣接する測定点での硬度差を計算し、隣接相間の硬度差が4GPa以内である部分の境界長さを求め、測定部の境界長さに対する割合を計算した。相間の境界はここでは、測定点間の中央に直線状に存在するとした。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示したとおり、発明例に従う鋼板は、そのいずれもが、TS≧980MPaを満足するとともに、限界曲げ半径/板厚≦1.5の関係を満足する曲げ性に優れた高強度薄鋼板になっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の超高強度薄鋼板は、高い引張強度および高い曲げ性を有するため、自動車部品をはじめ、建築および家電分野など曲げ成形される部品を必要とする分野において好適に使用することができる。
【図1】
【図2】

【手続補正書】
【提出日】20130826
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
【表3】
【国際調査報告】