(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2013100208
(43)【国際公開日】20130704
【発行日】20150511
(54)【発明の名称】角膜内皮細胞の培養正常化
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20150414BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20150414BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20150414BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20150414BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20150414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150414BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20150414BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150414BHJP
【FI】
   !C12N5/00 202A
   !A61L27/00 DZNA
   !A61K35/12
   !A61P27/02
   !A61K9/70
   !A61P43/00 105
   !A61K31/4418
   !C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】108
【出願番号】2013551879
(21)【国際出願番号】JP2012084320
(22)【国際出願日】20121227
(31)【優先権主張番号】2011289666
(32)【優先日】20111228
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】2012030969
(32)【優先日】20120215
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】2012151340
(32)【優先日】20120705
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
【住所又は居所】京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
【住所又は居所】京都府京都市上京区今出川通烏丸東入玄武町601番地
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町2丁目5番8号
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
【住所又は居所】京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465 京都府公立大学法人内
(72)【発明者】
【氏名】小泉 範子
【住所又は居所】京都府京田辺市多々羅都谷1−3 同志社大学内
(72)【発明者】
【氏名】奥村 直毅
【住所又は居所】京都府京田辺市多々羅都谷1−3 同志社大学内
【テーマコード(参考)】
4B024
4B065
4C076
4C081
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B024AA01
4B024CA04
4B024CA09
4B024CA20
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4B065AA90X
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4C076FF68
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4C087BB64
4C087MA02
4C087MA58
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、角膜内皮細胞の正常化培養方法を提供する。より詳細には、本発明は、線維化抑制剤を含む角膜内皮細胞の培養正常化剤を提供する。詳細には、本発明はトランスフォーミング増殖因子(TGF)βシグナル阻害剤を含む培養正常化剤を提供する。本発明はまた、本発明の培養正常化剤と角膜内皮の培養成分とを含む、角膜内皮細胞を正常に培養するための培地も提供する。本発明はさらに、本発明の培養正常化剤、または本発明の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維化抑制剤を含む角膜内皮細胞の培養正常化剤。
【請求項2】
前記線維化抑制剤はトランスフォーミング増殖因子(TGF)βシグナル阻害剤を含む、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項3】
前記培養正常化は、ZO−1およびNa/K−ATPaseからなる群より選択される細胞機能が正常であることを含む、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項4】
前記培養正常化は角膜移植に適応する移植用細胞を製造するためのものである、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項5】
前記移植用細胞は霊長類の細胞である、請求項4に記載の培養正常化剤。
【請求項6】
前記移植用細胞はヒトの細胞である、請求項4に記載の培養正常化剤。
【請求項7】
前記TGF−βシグナル阻害剤は、TGF−βのアンタゴニスト、TGF−βのレセプターのアンタゴニスト、またはSmad3の阻害剤である、請求項2に記載の培養正常化剤。
【請求項8】
前記TGF−βシグナル阻害剤は、4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)]−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド、BMP−7、抗TGF−β抗体、抗TGF−β レセプター抗体、TGF−βのsiRNA、TGF−βレセプターのsiRNA、TGF−βのアンチセンスオリゴヌクレオチド、6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン、3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド、2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン、6−(4−(ピペリジン−1−イル)エトキシ)フェニル)−3−(ピリジン−4−イル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン、2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)−4−[(4−ピリジニル)アミノ]プテリジン、4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む、請求項2に記載の培養正常化剤。
【請求項9】
前記TGF−βシグナル阻害剤は、4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項2に記載の培養正常化剤。
【請求項10】
前記線維化抑制剤はさらにMAPキナーゼ阻害剤を含む、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項11】
前記MAPキナーゼ阻害剤は4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項10に記載の培養正常化剤。
【請求項12】
老化抑制剤をさらに含む、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項13】
前記老化抑制剤は、p38 MAPキナーゼ阻害剤を含む、請求項12に記載の培養正常化剤。
【請求項14】
前記老化抑制剤は4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジンまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項13に記載の培養正常化剤。
【請求項15】
4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミドまたはその薬学的に許容可能な塩と、4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項1に記載の培養正常化剤。
【請求項16】
細胞接着促進剤をさらに含む、請求項1のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
【請求項17】
前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、請求項16に記載の培養正常化剤。
【請求項18】
前記線維化抑制剤は、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させ、他方、前記接着促進剤は、一定期間存在させた後、いったん該接着促進剤を欠損させ、再度該細胞接着促進剤は、一定期間存在させることを特徴とする、請求項16に記載の培養正常化剤。
【請求項19】
前記線維化抑制剤および前記細胞接着促進剤の両方を、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させることを特徴とする、請求項16に記載の培養正常化剤。
【請求項20】
前記移植用細胞は、角膜内皮障害の予防または治療のためのものである、請求項4に記載の培養正常化剤。
【請求項21】
請求項1に記載の培養正常化剤と角膜内皮の培養成分とを含む、角膜内皮細胞を正常に培養するための培地。
【請求項22】
請求項1に記載の培養正常化剤を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法で培養される角膜内皮細胞。
【請求項24】
請求項1に記載の培養正常化剤を含む、角膜内皮細胞の保存液。
【請求項25】
請求項1に記載の培養正常化剤を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を含む、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬。
【請求項26】
前記処置または予防は、霊長類の角膜内皮のためのものである、請求項25に記載の医薬。
【請求項27】
前記処置または予防は、ヒトの角膜内皮のためのものである、請求項25に記載の医薬。
【請求項28】
前記角膜内皮細胞は霊長類由来である、請求項25に記載の医薬。
【請求項29】
前記角膜内皮細胞はヒト由来である、請求項25に記載の医薬。
【請求項30】
前記角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症または角膜内皮炎である、請求項25に記載の医薬。
【請求項31】
前記医薬は、シート状または懸濁物である、請求項25に記載の医薬。
【請求項32】
細胞接着促進剤をさらに含む、請求項25に記載の医薬。
【請求項33】
前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩である、請求項32に記載の医薬。
【請求項34】
請求項1に記載の培養正常化剤を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を用いる工程を包含する、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法。
【請求項35】
細胞接着促進剤を含む、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬。
【請求項36】
前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸1水和物である、請求項35に記載の医薬。
【請求項37】
前記医薬は、請求項1に記載の培養正常化剤を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞と共に用いられる、細胞接着促進剤を含む、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬。
【請求項38】
前記角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症または角膜内皮炎である、請求項35に記載の医薬。
【請求項39】
細胞接着促進剤を処置または予防が必要な被験体に投与する工程を包含する、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜内皮細胞を正常な状態で培養するための技術、方法、ならびにそのための薬剤および培地に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚情報は、眼球の最前面の透明な組織である角膜から取り入れられた光が、網膜に達して網膜の神経細胞を興奮させ、発生した電気信号が視神経を経由して大脳の視覚野に伝達することで認識される。良好な視力を得るためには、角膜が透明であることが必要である。角膜の透明性は、角膜内皮細胞のポンプ機能とバリア機能により、含水率が一定に保たれることにより保持される。
【0003】
ヒトの角膜内皮細胞は、出生時には1平方ミリメートル当たり約3000個の密度で存在しているが、一度障害を受けると再生する能力を持たない。角膜内皮変性症や種々の原因による角膜内皮の機能不全によって生じる水疱性角膜症では、角膜が浮腫と混濁を生じ、著しい視力低下をきたす。現在、水疱性角膜症に対しては、角膜の上皮、実質および内皮の3層構造のすべてを移植する全層角膜移植術が行われている。しかし、日本での角膜提供は不足しており、角膜移植の待機患者約2600人に対し、年間に国内で行われている角膜移植件数は1700件程度である。
【0004】
近年、拒絶反応や術後合併症のリスクを軽減し、よりよい視機能を得る目的から、障害を受けた組織のみを移植する「パーツ移植」の考えが注目されている。角膜移植の中でも、実質組織の移植である深層表層角膜移植術、角膜内皮組織の移植であるデスメ膜角膜内皮移植術(Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty)などが行われるようになっている。また、生体外で培養した角膜上皮や口腔粘膜を角膜上皮の代わりに移植する培養粘膜上皮移植術は既に臨床応用されており、同様に生体外で培養した角膜内皮を移植する方法も検討されている。角膜内皮の移植用として、コラーゲン層上に培養された角膜内皮層からなる角膜内皮様シートが知られている(特許文献1を参照)。しかし、角膜内皮細胞、特にヒト由来の角膜内皮細胞は、角膜の提供者が限られているとともに、試験管内での培養が難しく、移植に必要な数の培養細胞を得るには時間と費用を要するものである。
【0005】
ヒト胚性幹(ES)細胞は、高い自己複製能と多分化能を併せもち、医学応用の観点から注目されているが、培養過程で細胞を分散する操作によって容易に細胞死を起こすため、細胞数が著しく損なわれてしまうという実用面での問題点を抱えていた。近年、ヒトES細胞を培養した際に起こる細胞死はRhoキナーゼ(ROCK)の活性化により引き起こされていること、およびROCKの阻害により細胞死が大きく抑制されることが見出され、ROCK阻害剤であるY−27632等を用いたヒトES細胞の大量培養や大脳細胞の産生が可能となることが報告された(非特許文献1)。そこで、本発明者らは、Y−27632等を用いた角膜内皮細胞の大量培養の方法を開示した(特許文献2)。
【0006】
このほか、特許文献3は、角膜内皮前駆細胞を用いたニューロスフェア法を開示する。
【0007】
特許文献4は、上皮細胞の培養のために、TGF−βキナーゼ阻害剤およびp38 MAPK阻害剤を用いることを開示する。
【0008】
また、非特許文献2および4は、特異な重症角膜内皮疾患におけるTGF−β、p38 MAPK、Smadの関与を記載する。非特許文献3は、ROCK阻害剤を用いたヒト角膜内皮細胞の増殖に対する展望を記載する。非特許文献5は、角膜の重度な障害時の線維化がIL−1βにより、途中p38 MAPKの活性化によるということを示す。非特許文献6は、ウサギでの過剰な冷凍外傷時にみられる線維化がp38 MAPKの活性化により、阻害剤で線維化が抑制できることをウサギを用いて示す。非特許文献7は、従来の角膜内皮細胞培養培地では、継代すると正常な状態を維持しつつ増殖させることができないことが記載されている。非特許文献8は、角膜内皮細胞用の培地を開示する。この培地は、FBS、EGFおよびNGFを含むものであるが、この培地では、培養すべき細胞は若年の生物由来のものでないと良好に培養できないことが記載されている。非特許文献9は、塩基性FGFを用いた角膜内皮細胞用培地を開示する。非特許文献10は、コラゲナーゼを用いた角膜内皮細胞溶培地を開示する。非特許文献11は、馴化培地を用いた角膜内皮細胞溶培地を開示する。非特許文献8〜11のように種々培地は開発されているが、非特許文献7に示されるように、従来の角膜内皮細胞培養培地では、継代すると正常な状態を維持しつつ増殖させることができないことが知られている。非特許文献12〜14もまた、培養角膜内皮シートの製造を記載する。非特許文献9〜12および15は、ヒト眼組織由来幹細胞および自家角膜内皮移植術を開示する。非特許文献16および17もまた、培養角膜内皮シートの製造を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−229869号公報
【特許文献2】国際公開2009/28631号
【特許文献3】特開2006−187281号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0234911号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Watanabe K.,et al.,Nat Biotechnol.2007,25,pp 681
【非特許文献2】雑賀、第324回関西眼疾患研究会特別講演「上皮−間葉系移行と眼疾患」2010年06月23日 http://ohpth.kpu−m.ac.jp/wp−content/uploads/2010/07/title20100623.doc
【非特許文献3】小泉、最先端・次世代研究開発支援プログラムhttp://www.jsps.go.jp/j−jisedai/data/life/LS117_outline.pdf
【非特許文献4】Sumioka T.,et al.,Molecular Vision 2008;14:2272−2281
【非特許文献5】Lee JG.,et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2009;50:2067−2076
【非特許文献6】Song SK.,et al,Invest Ophthalmol Vis Sci.2010;51:822−829)
【非特許文献7】Peh GS.,et al.,ARVO 2011,561 Corenal Endothelium:Health and Diseases 6595(May 1−5,2011)
【非特許文献8】Nancy C.Joyce,et al.,Cornea 2004;23(Suppl.1):S8−S19)
【非特許文献9】MiyataK.,et al.,Cornea 20(1):59−63,2001
【非特許文献10】Wei Li,et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2007;48:614−620
【非特許文献11】Xiaoyan Lu,et al.,Molecular Vision 2010;16:611−622
【非特許文献12】Mimura T.,et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2004 Sep;45(9):2992−2997
【非特許文献13】Mimura T.,et al.,Exp Eye Res.2003 Jun;76(6):745−751
【非特許文献14】Yokoo S.,et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2005 May;46(5):1626−1631
【非特許文献15】Amano S et al.,Curr Eye Res.2003 Jun;26(6):313−318
【非特許文献16】Ide T et al.,Biomaterials.2006 Feb;27(4):607−14.Epub 2005 Aug 15.
【非特許文献17】Sumide T et al.,FASEB J.2006 Feb;20(2):392−4.Epub 2005 Dec 9.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、腫瘍壊死因子β(TGF−β)経路を阻害することにより、正常な機能を保ったまま角膜内皮細胞を増殖させることができる技術を見出した。これにより、正常な機能を有する角膜内皮細胞を比較的多量に増殖させることができるようになった。すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)線維化抑制剤を含む角膜内皮細胞の培養正常化剤。
(2)前記線維化抑制剤はトランスフォーミング増殖因子(TGF)βシグナル阻害剤を含む、項目1に記載の培養正常化剤。
(3)前記培養正常化は、ZO−1およびNa/K−ATPaseからなる群より選択される細胞機能が正常であることを含む、項目1または2に記載の培養正常化剤。
(4)前記培養正常化は角膜移植に適応する移植用細胞を製造するためのものである、項目1〜3のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(5)前記移植用細胞は霊長類の細胞である、項目4に記載の培養正常化剤。
(6)前記移植用細胞はヒトの細胞である、項目4または5に記載の培養正常化剤。
(7)前記TGF−βシグナル阻害剤は、TGF−βのアンタゴニスト、TGF−βのレセプターのアンタゴニスト、またはSmad3の阻害剤である、項目2〜6のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(8)前記TGF−βシグナル阻害剤は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)]−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、BMP−7、抗TGF−β抗体、抗TGF−βレセプター抗体、TGF−βのsiRNA、TGF−βレセプターのsiRNA、TGF−βのアンチセンスオリゴヌクレオチド、6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン、A83−01(3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド)、ステモレキュールTM TLK インヒビター(2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン)、ステモレキュールTM BMPインヒビターLDN−193189(6−(4−(ピペリジン−1−イル)エトキシ)フェニル)−3−(ピリジン−4−イル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)、SD−208(2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)−4−[(4−ピリジニル)アミノ]プテリジン)、LY364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン)、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む、項目2〜7のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(8A)前記TGF−βシグナル阻害剤は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)]−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、BMP−7、抗TGF−β抗体、抗TGF−βレセプター抗体、TGF−βのsiRNA、TGF−βレセプターのsiRNA、TGF−βのアンチセンスオリゴヌクレオチド、A83−01(3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド)、ステモレキュールTM TLK インヒビター(2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン)、ステモレキュールTM BMPインヒビターLDN−193189(6−(4−(ピペリジン−1−イル)エトキシ)フェニル)−3−(ピリジン−4−イル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)、SD−208(2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)−4−[(4−ピリジニル)アミノ]プテリジン)、LY364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン)、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む、項目2〜8のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(9)前記TGF−βシグナル阻害剤は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、項目2〜8または8Aのいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(9A)前記SB431542は、使用時に約0.1μM〜約10μMの濃度で存在するように含まれる、項目8、8Aまたは9に記載の培養正常化剤。
(9B)前記TGF−βシグナル阻害剤は、BMP−7を含む、項目2〜8または8Aのいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(9C)前記BMP−7は、使用時に約10ng/ml〜約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれる、項目8、8Aまたは9Bに記載の培養正常化剤。
(9D)前記BMP−7は、使用時に約100ng/ml〜約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれる、項目8、8Aまたは9Bに記載の培養正常化剤。
(9E)前記BMP−7は、使用時に約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれる、項目8、8Aまたは9Bに記載の培養正常化剤。
(10)前記線維化抑制剤はさらにMAPキナーゼ阻害剤を含む、項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9Dまたは9Eのいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(11)前記MAPキナーゼ阻害剤はSB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)またはその薬学的に許容可能な塩を含む、項目10に記載の培養正常化剤。
(12)老化抑制剤をさらに含む、項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(13)前記老化抑制剤は、p38 MAPキナーゼ阻害剤を含む、項目12に記載の培養正常化剤。
(14)前記老化抑制剤はSB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)を含む、項目13に記載の培養正常化剤。
(15)SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)と、SB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)またはその薬学的に許容可能な塩とを含む、項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜14のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(16)細胞接着促進剤をさらに含む、項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜15のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(17)前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩(たとえば、Y−27632(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸1水和物)を含む、項目16に記載の培養正常化剤。
(18)前記線維化抑制剤は、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させ、他方、前記接着促進剤は、一定期間存在させた後、いったん該接着促進剤を欠損させ、再度該細胞接着促進剤は、一定期間存在させることを特徴とする、項目16または17に記載の培養正常化剤。
(19)前記線維化抑制剤および前記細胞接着促進剤の両方を、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させることを特徴とする、項目16または17に記載の培養正常化剤。
(20)前記移植用細胞は、角膜内皮障害の予防または治療のためのものである、項目4〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜19のいずれか1項に記載の培養正常化剤。
(21)項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤と角膜内皮の培養成分とを含む、角膜内皮細胞を正常に培養するための培地。
(22)項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤、または項目21に記載の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法。
(23)項目22に記載の方法で培養される角膜内皮細胞。
(24)項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤を含む、角膜内皮細胞の保存液。
(25)項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤、または項目21に記載の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を含む、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬。
(26)前記処置または予防は、霊長類の角膜内皮のためのものである、項目25に記載の医薬。
(27)前記処置または予防は、ヒトの角膜内皮のためのものである、項目25または26に記載の医薬。
(28)前記角膜内皮細胞は霊長類由来である、項目25〜27のいずれか1項に記載の医薬。
(29)前記角膜内皮細胞はヒト由来である、項目25〜28のいずれか1項に記載の医薬。
(30)前記角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症または角膜内皮炎である、項目25〜29のいずれか1項に記載の医薬。
(31)前記医薬は、シート状または懸濁物である、項目25〜30のいずれか1項に記載の医薬。
(32)細胞接着促進剤をさらに含む、項目24〜31のいずれか1項に記載の医薬。
(32A)前記細胞接着促進剤はRhoキナーゼ阻害剤を含む、項目32に記載の医薬。
(33)前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩(たとえば、Y−27632(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸1水和物))である、項目32または32Aに記載の医薬。
(34)項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤、または項目21に記載の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を用いる工程を包含する、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法。
(34A)さらに、項目26〜32、32Aおよび33のいずれか1項に記載の特徴を少なくとも1つ有する、項目34に記載の方法。
(35)細胞接着促進剤を含む、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬。
(35A)前記細胞接着促進剤はRhoキナーゼ阻害剤を含む、項目35に記載の医薬。
(36)前記細胞接着促進剤は(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミドまたはその薬学的に許容可能な塩(たとえば、Y−27632(R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸1水和物))である、項目35または35Aに記載の医薬。
(37)前記医薬は、項目1〜8、8A、9、9A、9B、9C、9D、9E、10または11〜20のいずれかに記載の培養正常化剤、または項目21に記載の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞と共に用いられる、項目35、35Aまたは36に記載の医薬。
(38)前記角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症または角膜内皮炎である、項目35、35A、および36〜37のいずれか1項に記載の医薬。
(39)細胞接着促進剤を処置または予防が必要な被験体に投与する工程を包含する、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法。
(39A)項目35A、および36〜38のいずれか1項に記載の特徴を少なくとも1つ有する、項目39に記載の方法。
【0012】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来では達成が困難であった正常な機能を保ったまま角膜内皮細胞を増殖させることができる技術を提供する。正常な機能には、ZO−1およびNa/K−ATPase等の角膜内皮細胞の生化学的機能、霊長類への移植能などが含まれ、角膜移植を実現するための機能を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、従来法でのカニクイザルおよびヒトの細胞を培養した場合の、形態変化を示す。上側はカニクイザルのものを示し、下側はヒトのものを示す。カニクイザルはDMEM+10%FBS+2ng/ml 塩基性FGF、ヒトはOpti−MEM I Reduced−Serum Medium、Liquid+8%FBS+200mg/ml CaCl・2HO+0.08% コンドロイチン硫酸+20μg/ml アスコルビン酸+50μg/ml ゲンタマイシン+5ng/ml EGFという条件での培養結果である。左は正常角膜内皮の形態を示しているが、長期培養または継代培養により、右の様に容易に形態変化を生じる。
【図2】図2は、従来技術で培養した場合に、正常機能を消失することを示す。左パネルは、免疫染色の結果を示す。左側は、正常の形態に培養できたサル角膜内皮細胞(MCEC)を示し、右側は長期培養により線維芽細胞様に形態変化したMCECを示す。左パネルの上側にはZO−1での染色を示し、下側には、Na/K−ATPaseでの染色を示す。右上パネルは、ウェスタンブロットの結果を示す。右下パネルはリアルタイムPCRの分析結果を示す。右上パネルおよび右下パネルとも、左側は正常の形態に培養できたMCECを示し、右側は従来の長期培養により線維芽細胞様に形態変化したMCECを示す。上からNa/K−ATPase、ZO−1およびGAPDHに対する抗体またはプローブでの染色を示す。
【図2A】図2Aは、線維芽霊長類角膜内皮細胞(CEC)は、異常な細胞外マトリックスを生成することを示し、すなわち、従来技術で培養した場合に、正常機能を消失することを示す。(A)フィブロネクチンおよびコラーゲン1型の線維芽細胞表現型および正常な細胞の表現型における発現を示す。上段はフィブロネクチン、下段はコラーゲン1型を示す。左側は正常な細胞の表現型を示し、右側は、線維芽細胞表現型を示す。線維芽細胞表現型は、フィブロネクチンおよびコラーゲン1型などの過剰の細胞外マトリクスを示した。他方、正常な細胞の表現型は、染色能を完全に喪失した。(B)フィブロネクチンの線維芽細胞表現型および正常な細胞の表現型におけるタンパク質の発現のウェスタンブロットを示す。GAPDHはコントロールである。フィブロネクチンのタンパク質発現レベルは、正常の表現型よりも線維芽細胞の表現型において強くアップレギュレートされていた。(C)コラーゲン1型、4型、8型フィブロネクチン、インテグリンα5、およびインテグリンβ1(上から順に列挙した。)の線維芽細胞表現型(右)および正常な細胞の表現型(左)における半定量PCRの結果を示す。GAPDHはコントロールである。半定量PCR分析によって、1型コラーゲン転写物(α1(I)mRNA)は線維芽細胞表現型において豊富に発現されていたが、他方、正常な表現型においては、α1(I)mRNAの発現は減少していた。基底膜コラーゲン表現型である、α1(IV)mRNAおよびα1(VIII)mRNAは、正常表現型および線維芽細胞表現型の表現型の両方で発現されていたが、正常表現型では発現の程度は線維芽細胞表現型よりも少なかった。フィブロネクチンおよびインテグリンα5のmRNAは線維芽細胞表現型で観察されたが、正常表現型ではこれらの2種のmRNAは発現されなかった。β1インテグリンのmRNAは、両方の表現型で同様のレベルで発現がみられた。
【図3】図3は、従来法での線維化を示す。3T3フィーダー細胞用の馴化培地(Conditioned medium)は線維芽細変化(形質転換)を抑制する(中央)が、しかし継代培養をするとやはり形質転換にいたること(右)を示す。左はヒト角膜内皮細胞をOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid+8%FBS+200mg/ml CaCl・2HO+0.08% コンドロイチン硫酸+20μg/ml アスコルビン酸+50μg/ml ゲンタマイシン+5ng/ml 上皮増殖因子(EGF)という条件で培養したところ線維芽細胞様に形質転換したことを示し、中央は同様の培地をマウス由来線維芽細胞である3T3を用いた馴化培地としたものでの結果を示す。右は、ヒト角膜内皮細胞を3T3を用いた馴化培地にて培養して継代培養を行った7日後の位相差顕微鏡写真である。細胞は線維芽細胞様に形質転換して重層化した細胞を拡大したものである。このように従来の培地で継代培養をすると、線維化が生じることが分かる。
【図4】図4は、サル角膜内皮細胞の線維化した細胞では、Smad経路、p38 MAPK経路およびJNK経路が活性化されていることを示す図である。各パネルにおいて左は、正常形態のサル角膜内皮細胞(MCEC)を示し、右は、線維芽細胞様に形態変化したMCECを示す。左側に上からpSmad2、Smad2、pERK1/2、ERK1/2に対する抗体でのウェスタンブロットの結果を示し、右側に上からpp38、p38、pJNK、JNKに対する抗体でのウェスタンブロットの結果を示す。なお、ERKのリン酸化は細胞の線維化による変化のみではなく、細胞増殖による影響があるために、細胞の増殖の状態によっては異なる結果となることがありうることを確認している。
【図5】図5は、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することでサル角膜内皮の形質転換を抑制することができたことを示す図である。左はカニクイザルの角膜内皮をDMEM+10%FBS+2ng/ml 塩基性FGF(本明細書において通常培地ともいう)で培養したところ線維芽細胞様に形態変化したことを示し、右には同じ個体からの角膜内を培地にTGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤であるSB431542を加えてで培養した結果を示す。大小不動が少なく、一層の多角形細胞が認められ、線維芽細胞様に形態変化が抑制されていることが理解される。
【図6】図6は、TGF−βシグナル阻害によりサル角膜内皮細胞の線維化による機能関連タンパク質の喪失が抑制されることを示す。左側は、カニクイザルの角膜内皮をDMEM+10%FBS+2ng/ml 塩基性FGF(通常培地)で培養したところ線維芽細胞様に形態変化したMCEC、右側はSB431542で処理して正常な形態に培養できたMCECの機能関連マーカーであるZO−1(上側)およびNa/K−ATPase(下側)による免疫染色像を示す。右上パネルは、ウェスタンブロットの結果を示す。右下パネルはリアルタイムPCRの分析結果を示す。右上パネルおよび右下パネルとも、左側はSB431542で処理して正常な形態に培養できたMCECを示し、右側は線維芽細胞様に形態変化したMCECを示す。上からNa/K−ATPase、ZO−1およびGAPDHに対する抗体またはプローブでの染色を示す。
【図7】図7は、TGF−βシグナルがサル角膜内皮の形質転換に関与することを確認するために、TGF−βを添加して形質転換を誘導し機能関連タンパクが喪失することを示した図である。上側はコントロールのMCECを示し、下側はTGF−βで処理した細胞での結果を示す。左には位相差顕微鏡写真による細胞形態を示し、中央には、Na/K−ATPaseに対する抗体での染色結果を示し、右にはZO−1に対する抗体での染色結果を示す。
【図8】図8は、TGF−βによりサル角膜内皮細胞が線維化し形態変化して機能関連タンパク質を喪失することを示す図である。TGF−βの投与量による変化を示す(左側のパネルでは左から0ng/ml、1ng/ml、3ng/ml、10ng/ml、30ng/mlを示す。右側のパネルでは、左から0ng/ml、1ng/ml、10ng/mlを示す。)。左側上からNa/K−ATPase、ZO−1、およびGAPDHに対する抗体でのウェスタンブロットの結果を示し、右側には上からpSmad2、Smad2に対する抗体での染色結果を示す。
【図9】図9は、ヒト角膜内皮においても、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することで形質転換を抑制し、正常な内皮を培養することが可能であることを示す図である。左はコントロール(通常培地)であり、右はSB431542での染色結果を示す。
【図9A】図9Aは、SB431542が、ヒト角膜内皮細胞(HCEC)の機能を維持し、ヒト角膜内皮細胞の線維芽細胞様の変化を抑制することを示す(A、B)。(A)では左は通常の培地にて培養したヒト角膜内皮細胞を示し、右は通常培地にSB431542を1μMの濃度で添加した培地で培養したものを示す。角膜内皮細胞の機能関連マーカーとしてNa/K−ATPase(ポンプ機能)、ZO−1(バリア機能)をマーカーとして免疫染色したところ、通常の培地では一部の細胞でのみこれらのマーカーの発現が認められた一方で、SB431542を加えた培地ではすべての細胞で発現が認められた。(B)では、SB431542を3種類の濃度(右から10μM、1μMおよび0.1μM)で行ったウェスタンブロットの実験結果を示す。コントロールは何も添加していない培地を示す。上からNa/K−ATPase、ZO−1およびGAPDH(コントロール)の発現を示す。SB431542によるTGFレセプターシグナル伝達をブロックすることによって、Na/K−ATPaseおよびZO−1が細胞膜での細胞内局在が可能になり、それらのタンパク質発現の維持が可能になった。スケールバーは100μmを示す。(C)ELISAアッセイを示す。SB431542を加えたときと加えないときのコラーゲン1型の分泌量を細胞上清における濃度を示す。ELISAアッセイによって、SB431542が、コラーゲン1型の細胞上清への分泌を顕著にダウンレギュレートしたことをが示された。**P<0.05。(D,E)定量PCRを示す。コントロールとして、SB431542(1μM)を加えたときの、コラーゲン1型の発現量の変化(D)およびフィブロネクチンの発現量の変化(E)を、GAPDHの発現のSB431542による発現量の変化を用いて正規化(すなわち、GAPDHを100%にする)したグラフである。SB431542がコラーゲン1型およびフィブロネクチンの発現をmRNAレベルで有意に減少させることを示す。*P<0.01、**P<0.05。
【図10】図10は、SB431542以外の方法でもTGF−βシグナルを拮抗させヒト角膜内皮の形質転換を抑制することができたことを示す図である。上側の結果は位相差顕微鏡での結果を示す。下側はファロイジン染色の結果を示す(緑色の染色(細胞の周囲状に網目状となっているものがファロイジンであり、赤色の染色(粒子状)はPIである。)。左側はOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid+8%FBS+200mg/ml CaCl・2HO+0.08% コンドロイチン硫酸+20μg/ml アスコルビン酸+50μg/ml ゲンタマイシン+5ng/ml EGFを培地(図中では通常培地と表示する)として培養したヒト角膜内皮細胞であり、右側は培地に100ng/mLのBMP−7を添加して培養した結果を示す。
【図10A】図10Aは、図10で一部強拡大で示したものをBMP−7の濃度別に効果を検討したものを示す。ここでは、BMP7がヒト角膜内皮細胞の線維芽細胞様への変化を抑制し、その機能を維持することを示す。(A)位相差顕微鏡の写真である。左上はBMP−7無添加のコントロール(Controlと表示する。)である。左上が10ng/mL、右下が100ng/mL、左下1000ng/mLのBMP−7を示す。線維芽細胞の表現型の細長い細胞形は、濃度依存性の様式でBMP−7の存在下で応答して多角形細胞形態に変換された。スケールバーは100μmである。(B)ファロイジン染色の写真である。左上はBMP−7無添加のコントロールである。左上が10ng/mL、右下が100ng/mL、左下1000ng/mLのBMP−7を示す。BMP−7は、通常の六角形の細胞形態を可能にし、アクチンの細胞表層における細胞骨格分布を可能にした。スケールバーは100μmである。(C)(D)それぞれNa/K−ATPase、ZO−1染色の写真である。左上はBMP−7無添加のコントロールである。左上が10ng/mL、右下が100ng/mL、左下1000ng/mLのBMP−7を示す。BMP−7は、細胞膜におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の細胞内局在を維持した。スケールバーは100μmである。(E)(F)コントロールおよびBMP−7の濃度を3種類使用して培養したときのNa/K−ATPase陽性細胞(E)およびZO−1陽性細胞(F)の割合を示すグラフである。コントロールは無添加である。Na/K−ATPase陽性細胞およびZO−1陽性細胞の両方とも、BMP−7で処理した場合に、コントロールに比べて割合が有意に増加していた。*P<0.01、**P<0.05。
【図11】図11は、p38 MAPKの阻害剤をSB431542に加えて用いたところp38 MAPK阻害+TGF−βシグナル阻害によりヒト角膜内皮細胞が、継代を繰り返しても高密度で形態保持して培養が可能になることを示す図である。左上は、コントロール(図中では通常培地と表示する)であり、右上はSB431542のみでの結果である。左下はSB203580のみでの結果であり、右下はSB431542およびSB203580の両方での結果を示す図である。
【図12】図12は、本発明で確立されたヒト角膜内皮細胞の標準的な培養法の一例である。上パネルには継代培養の模式図を示し、実施例8において実施した培養法1〜3の模式図を示す。いずれに方法でも、SB203580およびSB431432を存在させている。培養法1は、Y−27632は48時間存在させた後、いったん欠失させ、その後再度加える方法である。培養法2では、Y−27632を常に共存させている。培養法3では、Y−27632は存在させない。
【図13】最終的に確立されたヒト角膜内皮細胞培養での結果を示す。左側の写真で示すように、線維化が抑えられ、増殖も順調であることが理解される。右の写真にあるように上側に示すZO−1および下側に示すNa/K−ATPaseでの染色から明らかなように、正常機能が保持されていたことが理解される。
【図14】実施例9において、正常な形態に機能を維持して培養したヒト角膜内皮細胞をコラーゲンシート上に培養してカニクイザル水疱性角膜症モデルに移植することで角膜の透明治癒が得られることを示す。左側は、本発明の培養法で培養した細胞のみを移植した結果であり、右側は本発明の培養法で培養した細胞の移植時にROCK阻害剤であるY−27632を注入した場合の結果を示す。
【図15】実施例9において、2.5カ月後に安楽死させ、角膜を摘出して組織を固定した後に、実施例2と同様にファロイジンおよびNa/K−ATPaseおよびZO−1に対して免疫染色を行い、蛍光顕微鏡にて撮影した結果を示す。上段は、細胞+ROCK阻害剤の結果を示し、下段は細胞のみの結果を示す。左側は、ファロイジン(原色は緑色、グレイスケールでは上側では網目状となっており下側では拡散して見える)およびDAPI(原色は青色。グレイスケールでは上側では細胞内部が粒子状に染色され、下側でも粒子状であるが、その数は上側と比べて減少しておりファロイジン染色と重複して見える)の染色を示し、中央はZO−1(原色は緑色。グレイスケールでは上側では網目状となっており下側では左上と右下に一部残存して見える。)およびDAPI(原色は青色。グレイスケールでは上側では細胞内部が粒子状に染色され、下側では粒子状の染色は消え薄く全体に染色されている。)の染色を示し、右側はNa/K−ATPase(原色は緑色。グレイスケールでは上側では網目状となっており下側では中央に一部残存して見える。)およびDAPI(原色は青色。グレイスケールでは上側では細胞内部が粒子状に染色され、下側でも粒子状であるが、その数は上側と比べて減少しておりファロイジン染色と重複して見える)の染色を示す。
【図16】図16は実施例10で行った抗TGF−β中和抗体を用いた場合での培養正常化を示す。左は通常培地での結果を示し、右は抗TGF−β中和抗体での結果を示す。
【図17】図17は実施例11で行ったSmad3阻害剤であるCalbiochem社から販売される6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン(カタログ番号:566405)を用いた場合での培養正常化を示す。左は通常培地での結果を示し、右は抗TGF−β中和抗体での結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
(定義)
本明細書において「線維化抑制剤」とは、線維化を抑制する任意の薬剤を言う。本発明で使用される線維化抑制剤は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−βシグナル阻害剤、分裂促進因子(マイトージェン)活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)38抑制剤、インターロイキン(IL)−12、IL−10、インターフェロン(IFN)−γ、またはBMP−7(OP−1)などの、抗線維化作用を有することが知られているサイトカイン等を挙げることができる。このようなサイトカイン類等の情報は、公的データベース、例えばGenBank、雑誌刊行物などから入手することができる。理論に束縛されることを望まないが、本発明では、線維化を抑制することによって、従来は、正常な機能を有する細胞の増殖が困難であった角膜内皮細胞の顕著な増加を達成することができた。したがって、本発明に用いられる線維化抑制剤は、正常な機能を有する細胞の増殖をもたらすものである限り、どのような薬剤でも用いられることが理解される。
【0017】
例えば、様々な哺乳動物IFN−γポリペプチドがヒト疾患の治療に使用されうるが、一般に、ヒトの角膜内皮細胞のためには、ヒトタンパク質が使用される。ヒトIFN−γコード配列は、GenBankアクセッション番号P01579およびCAA00375において見出されうる。対応するゲノム配列は、GenBankアクセッション番号J00219、M37265、およびV00536において見出されうる。例えばGray et al.(1982)Nature295:501(GenBank X13274);およびRinderknecht et al.(1984)J.Biol.Chem.259:6790を参照。
【0018】
あるいは、線維化抑制剤として、ベラパミルなどのカルシウムチャネル遮断薬を用いることができる。そのような線維化抑制剤は、コラーゲンI型の合成を減らす能力のみならず、コラーゲンI型線維の分解の刺激による抗線維化作用を有し得る。線維芽細胞についてのin vitro試験は、コラーゲンの細胞外輸送が、カルシウムの存在に依存することを示す。カルシウムチャネル遮断薬であるベラパミルは、細胞内カルシウム濃度を低下させて、コラゲナーゼ活性を増加させる。それはまた、線維芽細胞の増殖を阻害する。
【0019】
本明細書において「トランスフォーミング増殖因子−β(トランスフォーミング成長因子−β;略称TGF−βとも表示される)」とは、当該分野で用いられるものと同様の意味で用いられ、様々な硬化性疾患や、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症の病態形成を担い、脱毛に深く関与し、免疫担当細胞の働きを抑制する一方、プロテアーゼの過剰産生を抑制することによって肺組織が分解され肺気腫に陥るのを防ぎ、癌細胞の増殖を抑制するなど、多彩な生物活性を示す分子量25kDのホモダイマー多機能性サイトカインである。ヒトでは、TGF−β1〜β3までの3つのアイソフォームが存在する。TGF−βはレセプターに結合できない分子量約300kDの不活性な潜在型として産生され、標的細胞表面やその周囲において活性化されてレセプターに結合できる活性型となり、その作用を発揮する。
【0020】
理論に束縛されることを望まないが、標的細胞におけるTGF−βの作用はSmadという情報伝達を担う一連のタンパク質のリン酸化経路によって伝達されるとされている。まず、活性型TGF−βが標的細胞表面に存在するII型TGF−βレセプターに結合すると、II型レセプター2分子とI型TGF−βレセプター2分子からなるレセプター複合体が形成され、II型レセプターがI型レセプターをリン酸化する。次に、リン酸化I型レセプターは、Smad2またはSmad3をリン酸化すると、リン酸化されたSmad2およびSmad3はSmad4と複合体を形成して核に移行し、標的遺伝子プロモーター領域に存在するCAGA boxと呼ばれる標的配列に結合し、コアクチベーターとともに標的遺伝子の転写発現を誘導するとされている。
【0021】
形質転換増殖因子−β(TGF−β)シグナル伝達経路は、その標的遺伝子の調節によって、細胞増殖および分化、増殖停止、アポトーシス、ならびに上皮間充織分化転換(EMT)といったような、多くの細胞活性を調節することができる。TGF−β自体(例えば、TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3)、アクチビンおよび骨形成タンパク質(BMP)が含まれる、TGF−βファミリーのメンバーは、細胞増殖、分化、移動およびアポトーシス等の強力な調節剤である。
【0022】
TGF−βは、Bリンパ球、Tリンパ球および活性化マクロファージを含め、多くの細胞により、および多くの他の細胞型により産生される、約24Kdのタンパク質である。免疫系に対するTGF−βの効果の中には、IL−2レセプター誘導、IL−1誘発性胸腺細胞増殖の阻害、およびIFN−γ誘発性マクロファージ活性化の遮断がある。TGF−βは、様々な病的状態に関与すると考えられており(Border et al.(1992)J.Clin.Invest.90:1)、そして腫瘍抑制物質または腫瘍プロモーターのいずれかとして機能することが十分裏付けられている。
【0023】
TGF−βは、2つのセリン/スレオニンキナーゼ細胞表面レセプターであるTGF−βRIIおよびALK5によって、そのシグナル伝達を媒介する。TGF−βシグナル伝達は、TGF−βRIIがALK5レセプターをリン酸化するのを可能とする、リガンド誘発性レセプター二量体化で開始される。そのリン酸化は、ALK5キナーゼ活性を活性化して、活性化ALK5は次に、下流エフェクターSmadタンパク質(MADの脊椎動物相同体、または「Mothers against DPP(デカペンタプレジック)」タンパク質)、Smad2または3をリン酸化する。Smad4とのp−Smad2/3複合体は、核に入って、標的遺伝子の転写を活性化する。
【0024】
Smad3は、SmadのR−Smad(レセプター−活性化Smad)サブグループのメンバーであって、TGF−βレセプターによる転写活性化の直接メディエーターである。TGF−β刺激は、Smad2およびSmad3のリン酸化および活性化をもたらし、これらは、Smad4(脊椎動物における「共通(common)Smad」または「co−Smad」)と複合体を形成し、これが核と共に蓄積して、標的遺伝子の転写を調節する。R−Smadは、細胞質に局在し、そしてTGF−βレセプターによるリガンド誘発性リン酸化で、co−Smadと複合体を形成して、核へと移動し、ここで、それらは、クロマチンおよび協同転写因子と関連のある遺伝子発現を調節する。Smad6およびSmad7は阻害性Smad(「I−Smad」)であり、すなわち、TGF−βにより転写的に誘発されて、TGF−βシグナル伝達の阻害剤として機能する(Feng et al.(2005)Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.21:659)。Smad6/7は、R−Smadのレセプター媒介活性化を妨げることにより、それらの阻害効果を発揮する;それらは、R−Smadの動員およびリン酸化を競合的に妨げる、I型レセプターと関連する。Smad6およびSmad7は、Smad6/7相互作用タンパク質のユビキチン化および分解をもたらす、E3ユビキチンリガーゼを補充することが知られている。
【0025】
TGF−βシグナル伝達経路は、このほか、BMP−7などによって伝達される経路も存在し、これは、ALK−1/2/3/6を経由し、Smad1/5/8を介して機能が発現されるとされている。TGF−βシグナル伝達経路については、J.Massagu’e,Annu.Rev.Biochem.1998.67:753−91;Vilar JMG,Jansen R,Sander C(2006)PLoS Comput Biol 2(1):e3;Leask,A.,Abraham,D.J.FASEB J.18,816−827(2004);Coert Margadant & Arnoud Sonnenberg EMBO reports(2010)11,97−105;Joel Rosenbloom et al.,Ann Intern Med.2010;152:159−166等を参照のこと。
【0026】
本明細書において「トランスフォーミング増殖因子(TGF)−βシグナル阻害剤」とは、TGFシグナル伝達を阻害する任意の因子をいう。TGF−βについて拮抗する場合はアンタゴニストという場合もあるが、本発明についていう場合TGF−βアンタゴニストはTGF−βシグナル阻害剤に包含される。
【0027】
したがって、代表的には、本発明において用いられるTGF−βシグナル阻害剤としては、TGF−βのアンタゴニスト、TGF−βのレセプターのアンタゴニスト、またはSmad3の阻害剤が挙げられるがそれらに限定されない。
【0028】
本発明で用いられうる例示的なTGF−βシグナル阻害剤としては、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)]−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、BMP−7、抗TGF−β抗体、抗TGF−βレセプター抗体、TGF−βのsiRNA、TGF−βレセプターのsiRNA、TGF−βのアンチセンスオリゴヌクレオチド、6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン、A83−01(3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド)、ステモレキュールTM TLKインヒビター(2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン)、ステモレキュールTM BMPインヒビターLDN−193189(6−(4−(ピペリジン−1−イル)エトキシ)フェニル)−3−(ピリジン−4−イル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)、SD−208(2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)−4−[(4−ピリジニル)アミノ]プテリジン)、LY364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン)、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0029】
このほかのTGF−βシグナル阻害剤としては、TGF−βの1つまたは複数のアイソフォームに対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体(米国特許第5,571,714号;国際公開第97/13844号および国際公開第00/66631号もまた参照)、TGF−βレセプター、そのようなレセプターの可溶性形態(例えば、可溶性TGF−βIII型レセプター)、またはTGF−βレセプターに対して向けられる抗体(米国特許第5,693,607号、米国特許第6,001,969号、米国特許第6,010,872号、米国特許第6,086,867号、米国特許第6,201,108号;国際公開第98/48024号;国際公開第95/10610号;国際公開第93/09228号;国際公開第92/00330号)、潜在性関連ペプチド(国際公開第91/08291号)、大きな潜在型TGF−β(国際公開第94/09812号)、フェチュイン(米国特許第5,821,227号)、デコリンならびにバイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン、およびエンドグリンなどの他のプロテオグリカン(国際公開第91/10727号;米国特許第5,654,270号、米国特許第5,705,609号、米国特許第5,726,149号;米国特許第5,824,655号;国際公開第91/04748号;米国特許第5,830,847号、米国特許第6,015,693号;国際公開第91/10727号;国際公開第93/09800号;および国際公開第94/10187号)、ソマトスタチン(国際公開第98/08529号)、マンノース−6−リン酸またはマンノース−1−リン酸(米国特許第5,520,926号)、プロラクチン(国際公開第97/40848号)、インスリン様成長因子II(国際公開第98/17304号)、IP−10(国際公開第97/00691号)、Arg−Gly−Asp含有ペプチド(Pfeffer、米国特許第5,958,411号;国際公開第93/10808号)、植物、菌類、および細菌の抽出物(EP−A−813875;特開平8−119984号;およびMatsunaga et al.,米国特許第5,693,610号)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(米国特許第5,683,988号;米国特許第5,772,995号;米国特許第5,821,234号、米国特許第5,869,462号;および国際公開第94/25588号)、SmadおよびMADを含む、TGF−βシグナル伝達に関与するタンパク質(EP−A−874046;国際公開第97/31020号;国際公開第97/38729号;国際公開第98/03663号;国際公開第98/07735号;国際公開第98/07849号;国際公開第98/45467号;国際公開第98/53068号;国際公開第98/55512号;国際公開第98/56913号;国際公開第98/53830号;国際公開第99/50296号;米国特許第5,834,248号;米国特許第5,807,708号;および米国特許第5,948,639号)、SkiおよびSno(Vogel、1999、Science、286:665;およびStroschein et al.,1999、Science、286:771〜774)、その同起源のレセプターへのTGF−βの結合を阻害するまたはそれに干渉するのに適している、1つまたは複数の一本鎖オリゴヌクレオチドアプタマーまたはそれをコードする発現プラスミド、ならびにTGF−βの活性を阻害する能力を保持する、上記に同定される分子の任意の変異体、断片、または誘導体を含むが、これらに限定されない。TGF−β阻害剤は、TGF−βアンタゴニストであり得、そのレセプターへのTGF−β結合を遮断するヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体(またはF(ab)断片、Fv断片、単鎖抗体、およびTGF−βに結合する能力を保持する抗体の他の形態もしくは断片などのその断片)であり得る。TGF−βレセプターおよびTGF−βレセプターのTGF−β結合断片、とりわけ、可溶性断片は、本発明の方法における有用なTGF−βアンタゴニストである。ある実施形態において、TGF−β機能の好ましい阻害剤は、可溶性TGF−βレセプター、とりわけ、例えば、TGFBIIRまたはTGFBIIIRの細胞外ドメイン、好ましくは組換え可溶性TGF−βレセプター(rsTGFBIIRまたはrsTGFBIIIR)を含む、TGF−βII型レセプター(TGFBIIR)またはTGF−βIII型レセプター(TGFBIIIRもしくはベータグリカン)である。TGF−βレセプターおよびTGF−βレセプターのTGF−β結合断片、とりわけ、可溶性断片は、本発明の方法における有用なTGF−βアンタゴニストである。TGF−βレセプターおよびそれらをコードする核酸は、当技術分野において十分に知られている。TGF−β1型レセプターをコードする核酸配列は、GenBankアクセッション番号L15436および米国特許第5,538,892号(Donahoe et al.)において開示される。TGF−β2型レセプターの核酸配列は、GenBankアクセッション番号AW236001、AI35790、AI279872、AI074706、およびAA808255の下で公的に入手可能である。TGF−β3型レセプターの核酸配列もまた、GenBankアクセッション番号NM003243、AI887852、AI817295、およびAI681599の下で公的に入手可能である。
【0030】
またさらなる他のTGF−βシグナル阻害剤またはアンタゴニストおよびそれらの製造方法は、現在開発中のより多くのものと共に、当該分野で十分知られている。有効なTGF−βアンタゴニストはいずれも、本発明の方法において有用であり得ることから、使用する特異的TGF−βシグナル阻害剤またはアンタゴニストは、限定的な特徴のものではない。そのようなアンタゴニストの例には、1つまたはそれより多いアイソタイプのTGF−βに対するモノクローナルおよびポリクローナル抗体(米国特許第5,571,714号および国際公開97/13844)、TGF−βレセプター、そのフラグメント、その誘導体、およびTGF−βレセプターに対する抗体(米国特許第5,693,607号、同第6,008,011号、同第6,001,969号および同第6,010,872号、ならびに国際公開92/00330、国際公開93/09228、国際公開95/10610および国際公開98/48024);潜伏関連ペプチド(latency associated peptide;国際公開91/08291)、large lacent TGF−β(国際公開94/09812)、フェチュイン(米国特許第5,821,227号)、デコリン、ならびにバイグリカン、フィブロモジュリン、ルミカンおよびエンドグリンといったような他のプロテオグリカン(米国特許第5,583,103号、同第5,654,270号、同第5,705,609号、同第5,726,149号、同第5,824,655号、同第5,830,847号、同第6,015,693号、ならびに国際公開91/04748、国際公開91/10727、国際公開93/09800および国際公開94/10187)が含まれる。
【0031】
そのようなアンタゴニストのさらなる例には、ソマトスタチン(国際公開98/08529)、マンノース−6−リン酸またはマンノース−1−リン酸(米国特許第5,520,926号)、プロラクチン(国際公開97/40848)、インスリン様増殖因子II(国際公開98/17304)、IP−10(国際公開97/00691)、アルギニン(arg)−グリシン(gly)−アスパラギン酸(asp)含有ペプチド(米国特許第5,958,411号および国際公開93/10808)、植物、真菌類および細菌類の抽出物(欧州特許出願第813875号、特開平8−119984号および米国特許第5,693,610号)、アンチセンスオレゴヌクレオチド(米国特許第5,683,988号、同第5,772,995号、同第5,821,234号および同第5,869,462号、ならびに国際公開94/25588)、ならびにSmadおよびMAD(欧州特許出願EP874046、国際公開97/31020、国際公開97/38729、国際公開98/03663、国際公開98/07735、国際公開98/07849、国際公開98/45467、国際公開98/53068、国際公開98/55512、国際公開98/56913、国際公開98/53830および国際公開99/50296、ならびに米国特許第5,834,248号、同第5,807,708号および同第5,948,639号)、ならびにSkiおよびSno(G.Vogel,Science,286:665(1999)およびStroschein et al.,Science,286:771−74(1999))、ならびにTGF−βの活性を阻害する能力を保持する上記分子のいずれかのフラグメントおよび誘導体を含め、TGF−βシグナル伝達に関与する他のタンパク質の宿主が含まれる。
【0032】
本発明における使用のための適したTGF−βアンタゴニストはまた、TGF−βの量または活性を阻害するそれらの能力が保持される限り、前述のTGF−βアンタゴニストの機能的変異体、変異体、誘導体、および類似体をも含む。本明細書において使用される「変異体」、「誘導体」、および「類似体」は、親化合物に対して同様の形または構造を有し、TGF−βアンタゴニストとして作用する能力を保持する分子を指す。例えば、本明細書において開示されるTGF−βアンタゴニストのいずれも、結晶化されてもよく、有用な類似体は、(1つまたは複数の)活性部位の形のための担う座標に基づいて合理的に設計され得る。その代わりに、当業者は、不必要な実験を伴うことなく、知られているアンタゴニストの官能基を改変し得、あるいは活性、半減期、生物学的利用能、または他の望ましい特徴の増加についてそのような改変分子をスクリーニングし得る。TGF−βアンタゴニストがポリペプチドである場合、ポリペプチドの断片および改変体は、送達の容易さ、活性、半減期などを増加させるために産生され得る(例えば、上記に議論されるようなヒト化抗体または機能的抗体断片)。合成および組換えポリペプチドの産生の当技術分野における技術のレベルを考慮すれば、そのような改変体は、不必要な実験を伴うことなく、達成される可能性がある。当業者らはまた、本明細書において記載されるTGF−β阻害剤の結晶構造および/または活性部位についての知識に基づいて新規な阻害剤を設計してもよい。可溶性TGF−βレセプターなどのポリペプチド阻害剤はまた、遺伝子移入を介して有効に導入され得る。したがって、本発明の方法のある実施形態は、TGF−βレセプターまたは結合パートナー、好ましくは可溶性レセプターまたは可溶性結合パートナーの発現のための適したベクターの使用を含む。ある好ましい実施形態において、可溶性TGF−βアンタゴニストの投与は、可溶性アンタゴニストをコードするcDNA、あるいは、TGF−βII型レセプター(rsTGFBIIR)またはTGF−βIII型レセプター(rsTGFBIIIR)の細胞外ドメインをコードするcDNAを含むベクターを使用する遺伝子移入によって達成することができ、このベクターは、ベクターを用いて形質移入される細胞中で可溶性TGF−βアンタゴニストのin situ発現を引き起こし、TGF−βの活性を阻害し、TGF−β媒介性の線維形成を抑制する。任意の適したベクターを使用することができる。好ましいベクターは、遺伝子移入の目的で開発されたアデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、エプスタインバーウイルス(EBV)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、およびレトロウイルスベクターを含む。遺伝子移入の他の非ベクター方法、例えば脂質/DNA複合体、タンパク質/DNA抱合体、裸のDNAの移入方法などもまた使用することができる。アデノウイルス遺伝子移入を介しての送達のために開発されたさらなる適したTGF−βアンタゴニストは、Ig Fcドメインに融合された、TGF−βII型レセプターの細胞外ドメインをコードするキメラcDNA(Isaka et al.,1999、Kidney Int.、55:pp.465〜475)、TGF−βII型レセプターのドミナントネガティブ変異体のアデノウイルス遺伝子移入ベクター(Zhao et al.,1998、Mech.Dev.、72:pp.89〜100)、およびTGF−β結合プロテオグリカンであるデコリンのアデノウイルス遺伝子移入ベクター(Zhao et al.,1999、Am.J.Physiol.、277:pp.L412〜L422)を含むが、これらに限定されない。アデノウイルス媒介性の遺伝子移入は、他の遺伝子送達様式と比較して、効率が非常に高い。
【0033】
TGF−βレセプターおよびTGF−βレセプターのTGF−β結合フラグメント、可溶性フラグメント等は、本発明において有用なTGF−βアンタゴニストである。TGF−βレセプターおよびそれらをコードする核酸は、当該分野で十分知られている。TGF−β1型レセプターをコードする核酸配列は、GenBankのアクセッション番号L15436およびDonahoeらの米国特許第5,538,892号に開示されている。TGF−β2型レセプターの核酸配列は、GenBankのアクセッション番号AW236001;AI35790;AI279872;AI074706;およびAA808255の下、公的に入手可能である。TGF−β3型レセプターの核酸配列もまた、GenBankのアクセッション番号NM003243;AI887852;AI817295;およびAI681599の下、公的に入手可能である。1つの例示的な実施形態において、TGF−βアンタゴニストは、そのレセプター、またはF(ab)フラグメント、Fvフラグメント、単鎖抗体、およびTGF−βに結合する能力を保持する他の「抗体」型といったようなそのフラグメントへのTGF−β結合を遮断する抗体である。その抗体は、キメラ化またはヒト化され得る。本明細書中、キメラ化抗体は、ヒト抗体の定常領域、およびマウス抗体といったような非ヒト抗体の可変領域を含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体の定常領域およびフレームワーク可変領域(すなわち、超可変領域以外の可変領域)、ならびにマウス抗体といったような非ヒト抗体の超可変領域を含む。勿論、その抗体は、ファージ提示システムから選択されるもしくは選抜されるか、またはゼノマウスから産生されるヒト抗体といったような、いずれかの他の種類の抗体誘導体であり得る。
【0034】
Smad関連の知見も増大している。TGF−βシグナル伝達経路は、この分子がタイプI(TbRI)およびタイプII(TbRII)のセリン/スレオニンキナーゼ受容体からなるヘテロ二量体細胞表面複合体に結合し、そしてこのヘテロ二量体細胞表面複合体を誘起するときに開始される。ついでこのヘテロ二量体受容体は、前記のシグナルを下流の標的Smadプロテインのリン酸化を通じて前記のシグナルを伝播する。上述のように、Smadタンパク質には三つの機能クラスがあり、それらは、例えばSmad2及びSmad3のような、レセプターにより制御されるSmad(R−Smad)、Smad4とも呼ばれるコメディエーター(Co−Smad)および阻害Smad(I−Smad)である。このヘテロ二量体受容体複合体によるリン酸化に続いて、このR−SmadがこのCo−Smadと複合体を形成し、そして前記の核に移り、他の各タンパク質と連携して、それらは標的遺伝子の転写を調節する(Derynck,R.,et al.(1998)Cell 95:737−740);Massague,J.and Wotton,D.(2000)EMBO J.19:1745)。ヒトSmad3のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えばGenBank Accession No.gi:42476202に開示されている。ネズミSmad3のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、例えばGenBank Accession No.gi:31543221に開示されている。上述のように、TGF−β刺激は、Smad2およびSmad3のリン酸化および活性化をもたらし、これらは、Smad4(「common Smad」または「co−Smad」とも称する)と複合体を形成し、これが核と共に蓄積して、標的遺伝子の転写を調節する。したがって、TGF−βシグナル阻害は、Smad2、3またはco−Smad(Smad4)の阻害によっても達成されうる。R−Smadは、細胞質に局在し、そしてTGF−βレセプターによるリガンド誘発性リン酸化で、co−Smadと複合体を形成して、核へと移動し、ここで、それらは、クロマチンおよび協同転写因子と関連のある遺伝子発現を調節する。したがって、R−Smadを直接または間接に阻害することによってもTGF−βシグナル阻害が達成されうる。Smad6およびSmad7は阻害性Smad(I−Smad)であり、すなわち、TGF−βにより転写的に誘発されて、TGF−βシグナル伝達の阻害剤として機能する(Fengら(2005)Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.21:659)。Smad6/7は、R−Smadの受容体媒介活性化を妨げることにより、それらの阻害効果を発揮する。それらは、R−Smadの動員およびリン酸化を競合的に妨げる、I型受容体と関連する。Smad6およびSmad7は、Smad6/7相互作用タンパク質のユビキチン化および分解をもたらす、E3ユビキチンリガーゼを補充することが知られている。したがって、Smad6および7は、本発明においてTGF−βシグナル阻害剤として機能しうる。
【0035】
本発明において使用されうるSmad3の阻害剤としては、アンチセンスヌクレオチド、siRNA、抗体等のほか、低分子化合物として、Calbiochemから販売される6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロンなどを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0036】
本明細書において角膜内皮細胞の「培養正常化」とは、角膜内皮細胞が本来有している機能(本明細書では「正常(な)機能」ともいう。)等の特徴を少なくとも1つは維持しながら培養をすることをいう。そのような機能としては、ZO−1およびNa/K−ATPase、角膜移植への適応能(MatsubaraM,Tanishima T:Wound−healing of the corneal endotheliumin the monkey:a morphometric study,Jpn J Ophthalmol 1982,26:264−273;MatsubaraM,Tanishima T:Wound−healing of corneal endothelium in monkey:anautoradiographic study,Jpn J Ophthalmol 1983,27:444−450;Van Horn DL,Hyndiuk RA:Endothelial wound repair in primate cornea,Exp Eye Res 1975,21:113−124およびVanHorn DL,Sendele DD,Seideman S,Buco PJ:Regenerative capacity of the cornealendothelium in rabbit and cat,Invest Ophthalmol Vis Sci 1977,16:597−613)等が挙げられるがそれらに限定されない。すなわち、「正常な機能」は、角膜移植を実現するのに必要な機能または十分であることを示す指標でありうることが理解される。
【0037】
角膜移植への適応能は、通常ウサギ等の実験動物においても水疱性角膜症モデルとして角膜内皮を機械的に掻爬して、培養細胞の移植試験を行うことができる。しかしながら、ウサギの角膜内皮細胞は生体内で増殖するため、ホストの角膜内皮細胞の増殖による自然治癒の可能性を否定できない(Matsubara M,et al.,Jpn J Ophthalmol 1982,26:264−273;Matsubara M,et al.,Jpn J Ophthalmol 1983,27:444−450;Van Horn DL,et al.,Exp Eye Res1975,21:113−124およびVan Horn DL,et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci 1977,16:597−613)。したがって、より正確な移植適応能を評価するためには、霊長類への生着を評価することが好ましい。ヒトへの移植適応能を評価する場合は、霊長類であるカニクイザルなどにおいて、例えば、少なくとも1ヶ月、好ましくは少なくとも2ヶ月、より好ましくは少なくとも3ヶ月、さらに好ましくは少なくとも6ヶ月、さらにより好ましくは少なくとも12ヶ月経過させた後の適応性を評価する。サル等の霊長類での移植適応能を確認することは特にヒトへの適用において重要である。
【0038】
本明細書において「培養正常化剤」とは、培養中に生じうる、角膜内皮細胞等の正常な機能等の特徴の喪失を防止するための薬剤をいう。培養正常化剤がその機能を発揮したというためには、本明細書に記載されるような角膜内皮細胞の正常な機能が維持されているか、あるいは低下幅が減少していることを1つでも試験することによって確認することができる。例えば、正常化の判断方法としては、ZO−1およびNa/K−ATPaseのような角膜内皮細胞における機能タンパク質を指標としてその発現の変化を見たり、あるいはサル等への移植によって生着し、機能するかどうかを調べることによって実行することができる。移植による判断方法は以下のとおりに行なうことができる。すなわち、I型コラーゲン上に角膜内皮培養して培養角膜内皮シートを作製する。全身麻酔下でカニクイザルの角膜輪部を1.5mm切開してシリコン製の手術器具を前房内に挿入して角膜内皮細胞を機械的に掻爬して水疱性角膜症モデルを作製する。続いて角膜輪部を5−6mm切開して培養角膜内皮シートを前房内に挿入し、前房を空気で置換することでシートを角膜内皮面に接着させる。培養角膜内皮シートの移植による水疱性角膜症の治療効果は細隙灯顕微鏡による角膜透明性の評価にて行う。
【0039】
本明細書において「細胞分裂因子(マイトージェン)活性化タンパク質(MAP)キナーゼ阻害剤」とは、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を直接または間接に阻害する任意の阻害剤をいう。したがって、MAPキナーゼ阻害剤は、マイトージェン活性化タンパク質を標的とし、低下させる、または阻害する化合物に関する。MAPキナーゼは、様々な 細胞外刺激に応答して活性化され、細胞表面から核へのシグナル伝達を仲介するタンパク質セリン/スレオニンキナーゼ群である。それらは、炎症、アポトーシスによる細胞死、発癌性形質転換、腫瘍細胞侵襲、および転移を含む、いくつかの生理的および病理学的細胞現象を制御する。
【0040】
本発明による有用なMAPキナーゼ阻害剤は、いずれのMAPキナーゼ因子、例えば、限定されるものでないが、MAPK、ERK、MEK、MEKK、ERK1、ERK2、Raf、MOS、p21ras、GRB2、SOS、JNK、c−jun、SAPK、JNKK、PAK、RAC、およびp38を阻害するものであり得る。MAPキナーゼ阻害剤の例は、限定されるものでないが、PD184352、VX−745、SB202190、アニソマイシン、PD98059、SB203580、U0126、AG126、アピゲニン、HSP25キナーゼ阻害剤、5−ヨードツベルシジン、MAPキナーゼアンチセンスオリゴヌクレオチド、コントロールMAPキナーゼオリゴヌクレオチド、MAPキナーゼカスケード阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤セット1、MAPキナーゼ阻害剤セット2、MEK阻害剤セット、オロモウシン(Olomoucine)、イソオロモウシン、Nイソプロピルオロモウシン、p38 MAPキナーゼ阻害剤、PD169316、SB202474、SB202190塩酸塩、SB202474二塩酸塩、SB203580スルホン、Ioto−SB203580、SB220025、SC68376、SKF−86002、チルホスチン(Tyrphostin)AG 126、U0124、U0125、およびZM336372を含む。CalBioChemカタログのページixxviii;http://www.tocris.com/;およびhttp://www.vpharm.com/frame09.htmlを参照。
【0041】
MAPキナーゼはセリン/トレオニンキナーゼのファミリーを記載するために使われる一般名である。MAPキナーゼはまた、細胞外シグナル調節性プロテインキナーゼ(extracellular signal−regulated protein kinases)またはERKとも呼ばれ、3キナーゼカスケードの末端酵素である。関係するが区切られたシグナル伝達経路に対する3キナーゼカスケードの反復が、一経路内で逐次的に作用するモジュール多機能シグナル伝達要素としてのMAPK経路の概念を生み、この経路ではそれぞれの酵素がリン酸化してそれによりシーケンスの次のメンバーを活性化することが特徴である。このようにして、標準的MAPKモジュールは3つのプロテインキナーゼからなる。すなわち、あるMAPKキナーゼ(またはMEKK)があるMAPKキナーゼ(またはMEK)を活性化し、これが、順に、あるMAPK/ERK酵素を活性化する。MAPK/ERK、JNK(c−junアミノ末端プロテインキナーゼ(またはSAPK)))、およびp38カスケードは、それぞれMEKK、MEKおよびERK、またはMAPKスーパーファミリーメンバーを含む3つの酵素モジュールからなる。様々な細胞外シグナルはそれらのそれぞれの細胞表面レセプターと連合すると初期事象をトリガーし、次いでこのシグナルが細胞内部に伝達され、そこで適切なカスケードを活性化する。
【0042】
MAPKはマイトージェン活性化プロテインキナーゼ(またはERK)スーパーファミリーであって、TXYコンセンサス配列を触媒コアに有する。ERK1/2、p38HOG、およびJNK/SAPKは、平行経路における関係するが別個の末端酵素である。
【0043】
例えば、MAPキナーゼの構成的活性化は多数の癌細胞系統(膵臓、大腸、肺、卵巣、および腎臓)および様々なヒト器官(腎臓、大腸、および肺)由来の原発 腫瘍と関連している(Hoshino et al.,Oncogene,18(3):813−22(Jan.1999))。さらに、p38 MAPキナーゼは、炎症の発症および進行と関連する2つのサイトカイン、TNFαおよびIL−1の産生を調節する。p38 MAPキナーゼ阻害剤はまた、関節リューマチなどの炎症性疾患に加えて、心不全、脳卒中、神経性疾患、およびその他の疾患の治療において将来にある役割を果たしうる。このように、MAPキナーゼ阻害剤は、癌から炎症まで、多様な病状を治療するのに有用である。
【0044】
さらに、ERKはMEK1に関する限り唯一の基質であるので、この緊密な選択性は、MAPキナーゼ経路の中心的役割および腫瘍細胞におけるその本質的成分の発現の増強と合体して、この経路の阻害が腫瘍細胞の放射線および化学感作の両方に対する重要なルートでありかつ増殖性疾患における薬理学的介入の可能性のある標的であることを示す。
【0045】
Sebolt−Leopold et al.,Nat.Med.,5(7):810−6(Jul,1999)は、MAPキナーゼ(MAPK)経路の小分子阻害剤を同定するためのin vitroカスケードアッセイシステムを記載している。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−MEK1およびGST−MAPK融合タンパク質を細菌細胞から調製して、これらをこのアッセイシステムにおいてMEK1のMAPKへ、MBP(myelin basic protein(ミエリン塩基性タンパク質))への逐次リン酸化に使用した。MEK1を直接阻害するPD184352[2−(2−クロロ−4−ヨード−フェニルアミノ)−N−シクロプロピルメトキシ−3,4−ジフルオロ−ベンズアミド]も見出されている。
【0046】
MAPキナーゼ阻害剤の例は、MAPキナーゼ阻害剤:AG126、アピゲニン(Apigenin)、HSP25キナーゼ阻害剤、5−ヨードツベルシジン、MAPキナーゼアンチセンスオリゴヌクレオチド、コントロールMAPキナーゼオリゴヌクレオチド、MAPキナーゼカスケード阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤セット1、MAPキナーゼ阻害剤セット2、MEK阻害剤セット、オロモウシン(Olomoucine)、イソオロモウシン、Nイソプロピルオロモウシン、p38 MAPキナーゼ阻害剤、PD98059(2’−アミノ−3’−メトキシフラボン)、PD98059溶液、PD169316(Calbiochem)、SB202474、SB202190(4−[4−(4−フルオロフェニル)−5−(4−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]フェノール;BIOMOL Research Labs.,Inc.)、SB202190溶液、SB 202190塩酸塩、SB202474二塩酸塩、SB203580(4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルホニルフェニル)−5(4−ピリジル)イミダゾール<4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン>;JournalofBiologicalChemistry 272(18)12116−12121,1997)、SB203580溶液、SB203580塩酸塩、SB203580スルホン、Ioto−SB203580、SB220025、SP600125(1,9−ピラゾロアントロン,アントラピラゾロン)、SB239063(トランス−4−[4−(4−フルオロフェニル)−5−(2−メトキシ−4−ピリミジニル)−1H−イミダゾール−1−イル]シクロヘキサノール)、SC68376、FR167653(Nikken Chemical Co.,Ltd.)、BIRB796BS(あるいはBIRB−796;1−(5−tert−ブチル−2−p−トリル−2H−ピラゾール−3−イル)−3(4−(2−モルホリン−4−イル−エトキシ)ナフ−タリン−1−イル)尿素、Blood101,4446−4448,2003)、SKF−86002、チルホスチン(Tyrphostin)AG126、U0124、U0125、U0126(1,4−ジアミノ−2,3−ジシアノ−1,4−ビス[2−アミノフェニルチオ]ブタジエン)、4−アザインドール、3−(4−フルオロフェニル)−2−(ピリジン−4−イル)−1H−ピロロ[3,2−b]ピリジン、ZM336372、CalBio506126(2−(4−クロロフェニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5−ピリジン−4−イル−1,2−ジヒドロピラゾール−3−オン)、RO3201195、R1487等を含む。CalBioChemカタログのページixxviiiも参照しうる。このほかの、本発明で用いることができるMAPキナーゼ阻害剤としては、例えば、MAPキナーゼに対する中和抗体、MAPキナーゼの活性を阻害する化合物、MAPキナーゼをコードする遺伝子の転写を阻害する化合物(例えば、アンチセンス核酸、RNAi、リボザイム)、ペプチド、および植物成分(例えば、ポリフェノール、フラボノイド、配糖体)等の化合物が挙げられる。使用される濃度として、SB203580、SB202190、PD169316、FR167653、BIRB796BS等であれば約50nmol/l〜100μmol/lが例示され、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lであるがこれらに限定されない。
【0047】
本明細書において、角膜内皮細胞の「老化抑制剤」または「老化防止剤」とは、細胞老化を抑制することができる任意の薬剤をいう。ヒト正常細胞は、一定回数以上の分裂を繰り返すことで分裂能力を失い、老化する(replicative senescence)。老化細胞は特定の形態学上および生理学的な変化を経て、特定の遺伝子を誘導する。また、正常細胞は様々な処理によって上と同様な現象を示す(premature senescence)。このように本明細書では細胞の「老化を抑制する」とは、細胞の密度を上昇させる効果を有することをいう。したがって、より詳細に説明すると、「老化抑制剤」または「老化防止剤」は、細胞の密度を上昇させる任意の薬剤をいう。細胞の老化の程度は、細胞の形態観察(細胞は老化すると扁平化、肥大化が起きる)および老化マーカーとして知られるβ−ガラクトシダーゼの染色像(老化が進むとβ−ガラクトシダーゼの染色像が大きくなる)を観察することにより調べることができる。したがって、本発明において用いられる老化抑制剤としては、上記老化抑制作用を有する限りどのような薬剤であっても使用することができる。老化を抑制する作用としては、老化に伴って引き起こされる正常細胞の機能低下を抑える作用であり、例えば、細胞周期の停止を抑える作用、正常細胞の分裂寿命の短縮を抑える作用、正常細胞の生存率の低下を抑える作用、老化に伴う正常細胞の形態学的変化を抑える作用等が挙げられる。理論に束縛されることを望まないが、Funayama R and Ishikawa F(Chromosoma(2007)116:431−440)によれば、角膜内皮細胞ではないものの、線維芽細胞などにおいて種々の細胞ストレスによる老化がp38 MAPKの活性化によることを示している。さらにはp38 MAPK阻害剤であるSB203580により細胞ストレスによる細胞老化を阻害できることを報告している。本発明者らの実施例において例示した実験結果においては、SB203580により線維化抑制効果のみならず、細胞密度の低下を抑制して高密度の角膜内皮細胞の培養が可能になることを示した。したがって、本発明において用いられる場合、老化抑制剤であれば、どのようなものでも細胞密度の低下を抑制して高密度の角膜内皮細胞の培養を改善することができることが理解される。
【0048】
本明細書において「老化抑制」の判断は、角膜内皮細胞密度の低下を抑制し高密度を維持できていることによる。生体内においても老化に従って角膜内皮密度が低下することが知られており(大原國俊、水流忠彦、伊野田 繁:角膜内皮細胞形態のパラメーター.日眼会誌91:1073−1078,1987)臨床的観点からも老化判断の良い指標である。また、一般的な細胞老化の指標として核/細胞質比の低下があるが角膜内皮においても同様に用いることができると考えられる。また、他の老化抑制剤の例としては、他のp38 MAPキナーゼ阻害剤を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0049】
本明細書において「p38 MAPキナーゼ阻害剤」とは、p38に関連するMAPキナーゼのシグナル伝達を阻害する任意の薬剤をいう。したがって、p38 MAPキナーゼ阻害剤は、MAPKファミリーメンバーであるp38−MAPKを標的とし、低下させる、または阻害する化合物に関する。
【0050】
p38は哺乳類動物MAPKスーパーファミリーメンバーであって、ストレス、紫外光、および炎症性サイトカインにより活性化される。触媒コアにTGYコンセンサス配列を有する。
【0051】
異常調節されたキナーゼは多くの疾患、特に増殖性および炎症性障害における主な病因であるということが次第に認識されている。癌領域において最初に同定される発癌遺伝子の1つは、上皮増殖因子レセプターキナーゼ(EGFR)に対するものであったが、その過剰発現は肺、乳、脳、前立腺、GIおよび卵巣癌と関連している。例えば、MAPキナーゼの構成的活性化は多数の癌細胞系統(膵臓、大腸、肺、卵巣、および腎臓)および様々なヒト器官(腎臓、大腸、および肺)由来の原発腫瘍と関連している(Hoshinoら,Oncogene,18(3):813−22(Jan.1999))。さらに、p38 MAPキナーゼは、炎症の発症および進行と関連する2つのサイトカイン、TNFαおよびIL−1の産生を調節する。p38 MAPキナーゼ阻害剤はまた、関節リューマチなどの炎症性疾患に加えて、心不全、脳卒中、神経性疾患、およびその他の疾患の治療において将来にある役割を果たしうる。このように、MAPキナーゼ阻害剤は、癌から炎症まで、多様な病状を治療するのに有用である。
【0052】
本発明において使用されうるp38 MAPキナーゼ阻害剤は、VX−745(Vertex Pharmaceuticals Inc.)の他、p38 MAPキナーゼ阻害活性を有する化合物であれば特に制限されず、例えば特開2002−97189号公報、特表2000−503304号公報、特表2001−522357号公報、特表2003−535023号、特表2001−506266号公報、特表平9−508123号公報、国際公開第01/56553号公報、国際公開第93/14081号公報、国際公開第01/35959号公報、国際公開第03/68229号公報、国際公開第03/85859号公報、特表2002−534468号公報、特表2001−526222号公報、特表2001−526223号公報、米国特許第6344476号明細書、国際公開第03/99811号公報、国際公開第03/99796号公報、特表2004−506042号公報、国際公開第04/60286号公報、特表2002−363179号公報、特表2004−107358号公報、米国特許第5670527号明細書、米国特許第6096753号明細書、国際公開第01/42189号公報、国際公開第00/31063号公報などの特許公報に記載された化合物が挙げられ、好ましくは4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)−5−(4−ピリジル)−1H−イミダゾール(SB−202190)、trans−4−[4−(4−フルオロフェニル)−5−(2−メトキシ−4−ピリミジニル)−1H−イミダゾール−1−イル]シクロヘキサノール(SB−239063)、4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−5−(4−ピリジル)−1H−イミダゾール(SB−203580)、4−(4−フルオロフェニル)−5−(2−メトキシピリミジン−4−イル)−1−(ピペリジン−4−イル)イミダゾール(SB−242235)、4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−1−ブチニル)−1−(3−フェニルプロピル)−5−(4−ピリジル)イミダゾール(RWJ−67657)、4−(4−フルオロフェニル)−1−(ピペリジン−4−イル)−5−(4−ピリジル)イミダゾール(HEP−689)、(S)−2−(2−アミノ−3−フェニルプロピルアミノ)−1−メチル−5−(2−ナフチル)−4−(4−ピリジル)ピリミジン−6−オン(AMG−548)、2−クロロ−4−(4−フルオロ−2−メチルアニリノ)−2’−メチルベンゾフェノン(EO−1606)、3−(4−クロロフェニル)−5−(1−ヒドロキシアセチルピペリジン−4−イル)−4−(ピリミジン−4−イル)ピラゾール(SD−06)、5−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(2,4−ジフルオロフェニルチオ)ピリミド[3,4−b]ピリダジン−6−オン(VX−745)、4−アセチルアミノ−N−tert−ブチルベンズアミド(CPI−1189)、N−[3−tert−ブチル−1−(4−メチルフェニル)ピラゾール−5−イル)−N’−[4−(2−モルホリノエトキシ)−1−ナフチル]ウレア(ドラマピモド(Dramapimod))、2−ベンズアミド−4−[2−エチル−4−(3−メチルフェニル)チアゾール−5−イル]ピリジン(TAK−715)、SCIO−469、VX−702、GSK−681323、PS−540446、SC−80036、AVE−9940、RO−320−1195、SB−281832、SCIO−323、KC−706、:N,N’−ビス[3,5−ビス[1−(2−アミジノヒドラゾノ)エチル]フェニル]デカンジアミド、N,N’−ビス[3,5−ビス[1−[2−(アミノイミノメチル)ヒドラゾノ]エチル]フェニル]デカンジアミド(セマピモド(Semapimod))である。
【0053】
さらに、Tocris Cookson社(St Louis、USA)はhttp://www.tocris.com/に例示される様々なMAPキナーゼ阻害剤を提供する。例えば、SB202190(4−[4−(4−フルオロフェニル)−5−(4−ピリジニル)−1H−イミダゾル−2−イル]フェノール)は、高度に選択的、強力、かつ細胞浸透性のp38 MAPキナーゼ阻害剤である(SmithKline Beecham,plc)(Jiangら,J.Biol.Chem.,271:17920(1996);Frantzら,Biochemistry,37:138−46(1998);Nemotoら,J.Biol.Chem.,273:16415(1998);およびDaviesら,Biochem.J.,351:95(2000))。また、アニソマイシン((2R,3S,4S)−2−[(4−メトキシフェニル)メチル]−3,4−ピロリジンジオール−3−アセテート)は、タンパク質合成インヒビター(翻訳をブロックする)である。これは、ストレス活性化プロテインキナーゼ(JNK/SAPK)およびp38 MAPキナーゼの強力なアクチベーターであり、前初期遺伝子(c−fos、fosB、c−jun、junB、およびjunD)誘導の相同的脱感作を選択的に誘発する強力なシグナル伝達アゴニストとして作用する。PD98059(2−(2−アミノ−3−メトキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)は、マイトージェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)の特異的阻害剤である(Pfizer=Warner−Lambert Company)。SB203580(4−[5−(4−フルオロフェニル)−2−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−イミダゾル−4−イル]ピリジン)は、p38マイトージェン活性化プロテインキナーゼの高度に選択的な阻害剤(SmithKlineBeecham,plc)である。インターロイキン−2−誘導によるT細胞増殖、シクロオキシゲナーゼ−1および−2、ならびにトロンボキサンシンターゼを阻害することが示されている。SB203580塩酸塩(4−[5−(4−フルオロフェニル)−2−[4−(メチルスルホニル)フェニル]−1H−イミダゾル−4−イル]ピリジン)化合物は、高度に選択的なp38マイトージェン活性化プロテインキナーゼの阻害剤の水溶性塩である。インターロイキン−2−誘導によるT細胞増殖、シクロオキシゲナーゼ−1および−2、ならびにトロンボキサンシンターゼを阻害することが示されている。U0126(1,4−ジアミノ−2,3−ジシアノ−1,4−ビス[2−アミノフェニルチオ]ブタジエン)は、MAPキナーゼキナーゼの強力かつ選択的な非競合性の阻害剤である。
【0054】
好ましいp38 MAPK阻害剤としては、SB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)が例示されるがそれに限定されない。
【0055】
本明細書において使用される、角膜内皮細胞の「細胞接着促進剤」または「接着促進剤」は、細胞の接着性を付与または改善する薬剤をいい、そのような機能を有するものであれば、どのような薬剤を用いてもよい。例示的な角膜内皮細胞の接着促進剤としては、Rhoキナーゼ阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0056】
本発明において、「Rhoキナーゼ」とは、Rhoの活性化に伴い活性化されるセリン/スレオニンキナーゼを意味する。例えば、ROKα(ROCK−II:Leung,T.et al.,J.Biol.Chem.,270,29051−29054,1995)、p160ROCK(ROKβ、ROCK−I:Ishizaki,T.et al.,The EMBO J.,15(8),1885−1893,1996)およびその他のセリン/スレオニンキナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0057】
Rhoキナーゼ阻害剤としては、下記文献:米国特許4678783号、特許第3421217号、国際公開第95/28387、国際公開99/20620、国際公開99/61403、国際公開02/076976、国際公開02/076977、国際公開第2002/083175、国際公開02/100833、国際公開03/059913、国際公開03/062227、国際公開2004/009555、国際公開2004/022541、国際公開2004/108724、国際公開2005/003101、国際公開2005/039564、国際公開2005/034866、国際公開2005/037197、国際公開2005/037198、国際公開2005/035501、国際公開2005/035503、国際公開2005/035506、国際公開2005/080394、国際公開2005/103050、国際公開2006/057270、国際公開2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができる。具体例として、1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル(1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン))、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド)またはその塩(たとえば、Y−27632((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などがあげられ、これらの化合物は、市販品(和光純薬株式会社、旭化成ファーマ等)を好適に用いることもできる。
【0058】
(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン、1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンおよびそれらの薬学的に許容される塩等は、角膜内皮細胞の接着促進に特に優れているため、好ましく用いられる。該化合物の塩としては、薬学的に許容される酸付加塩が好ましく、それらの酸とは塩酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸、メタンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸等の有機酸があげられる。(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサン((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド)・2塩酸塩(一水和物であってもよい)、および1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン塩酸塩がより好ましい。
【0059】
本発明において、「角膜内皮細胞の接着促進」としては、例えば、角膜内皮の細胞同士の接着促進、および角膜内皮細胞と培養基材との接着促進の両方があげられる。
【0060】
本発明において使用されうる(細胞)接着促進剤は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)由来の角膜組織から分離された角膜内皮細胞または分離され継代した角膜内皮細胞に対して接着促進作用を奏する。本発明の接着促進剤は、特に培養および継代が困難とされるヒト由来の角膜内皮細胞の接着促進作用に優れていることから、ヒト由来の角膜内皮細胞を対象にすることが好ましい。
【0061】
角膜内皮細胞は角膜の透明度を維持する役割を担っている。この内皮細胞の密度がある限度を超えて少なくなると角膜にむくみが発生し、角膜の透明性が維持できなくなり、角膜内皮障害が引き起こされる。本発明において使用されうる接着促進剤は、角膜内皮細胞の接着を促進し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成の改善を可能とする。
【0062】
本明細書において、「(TGF−β等の)発現を抑制する物質(例えば、核酸)」とは、標的遺伝子のmRNAの転写を抑制する物質、転写されたmRNAを分解する物質(例えば、核酸)、またはmRNAからの蛋白質の翻訳を抑制する物質(例えば、核酸)であれば特に限定されるものでない。かかる物質として、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムまたはこれらの発現ベクター等の核酸などが例示される。その中でも、siRNAおよびその発現ベクターが好ましく、特にsiRNAが好ましい。「遺伝子の発現を抑制する物質」としては、上記のほか、タンパク質やペプチド、あるいは他の小分子も含まれる。なお、本発明において標的遺伝子は、TGF−βシグナル伝達経路に関与する任意の遺伝子である。
【0063】
本発明において標的とされるTGF−β等の特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上,新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現,日本生化学会編,東京化学同人,1993,319−347.)。
【0064】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により、上述のTGF−βのシグナル伝達経路のメンバー等をコードする遺伝子(核酸)の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの実施形態としては、上述のTGF−β等をコードする遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、上述のTGF−β等をコードする遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで所望の動物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物(細胞)が有するTGF−β等をコードする遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも12塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば、11塩基以下、100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。アンチセンス核酸は、DNAのみから構成されていてもよいが、DNA以外の核酸、例えば、ロックド核酸(LNA)を含んでいてもよい。1つの実施形態としては、本発明で用いられるアンチセンス核酸は、5’末端にLNA、3’末端にLNAを含むLNA含有アンチセンス核酸であってもよい。また、本発明において、アンチセンス核酸を用いる実施形態では、例えば平島および井上,新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現,日本生化学会編,東京化学同人,1993,319−347.に記載される方法を用いて、TGF−β等の核酸配列に基づき、アンチセンス配列を設計することができる。
【0065】
TGF−β等の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.)。
【0066】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi,M.et al.,FEBS Lett,1988,228,228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi,M.et al.,FEBS Lett,1988,239,285.、小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.、Koizumi,M.et al.,Nucl.Acids Res.,1989,17,7059.)。
【0067】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM.,Nature,1986,323,349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi,Y. & Sasaki,N.,Nucl.Acids Res,1991,19,6751.、菊池洋,化学と生物,1992,30,112.)。このように、リボザイムを用いてTGF−β等をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0068】
TGF−β等の内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNAinterference、以下「RNAi」と略称する)によっても行うことができる。RNAiは、2本鎖RNA(dsRNA)が直接細胞内に取り込まれると、このdsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑えられ現在注目を浴びている手法である。哺乳類細胞においては、短鎖dsRNA(siRNA)を用いることにより、RNAiを誘導する事が可能で、RNAiは、ノックアウトマウスと比較して、効果が安定、実験が容易、費用が安価であるなど、多くの利点を有している。siRNAについては、本明細書において他の箇所において詳述される。
【0069】
本明細書において、「siRNA」とは、15〜40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。詳細には、本発明におけるsiRNAは、TGF−β等のmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含むRNAである。かかるsiRNAおよび後述の変異体siRNAの設計および製造は当業者の技量の範囲内である。TGF−β等の配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0070】
二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、15〜40塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは15〜25塩基、更に好ましくは18〜23塩基、最も好ましくは19〜21塩基である。これらの上限および下限は、これら特定のものに限定されず、これら列挙されているものの任意の組み合わせであってもよいことが理解される。siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよく、3’端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1〜3個の塩基、さらに好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。好ましいオーバーハング配列としては、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)等を挙げることができる。例えば、好ましいsiRNAとしては、全てのsiRNAのセンス・アンチセンス鎖の、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)をつけているものが挙げられるがそれに限定されない。
【0071】
さらに、上記siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の一方または両方において1〜数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されているsiRNAも用いることができる。ここで、1〜数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜4塩基、さらに好ましくは1〜3塩基、最も好ましくは1〜2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’オーバーハング部分の塩基数を0〜3個としたもの、3’−オーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加または欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1〜3塩基異なるもの、センス鎖および/またはアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。
【0072】
さらに、siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short Hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。
【0073】
siRNAは、臨床使用の際には、いわゆるoff−target効果を示さないことが望ましい。off−target効果とは、標的遺伝子以外に、使用したsiRNAに部分的にホモロジーのある別の遺伝子の発現を抑制する作用をいう。off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めDNAマイクロアレイなどを利用して交差反応がないことを確認することが可能である。また、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などが提供する公知のデータベースを用いて、標的となる遺伝子以外に候補siRNAの配列と相同性が高い部分を含む遺伝子が存在しないかを確認する事によって、off−target効果を避けることが可能である。
【0074】
本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法および遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列をコードする発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。
【0075】
siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体またはその一部は、天然の核酸であってもよいし、修飾された核酸であってもよい。
【0076】
本発明におけるsiRNAは、必ずしも標的配列に対する一組の2本鎖RNAである必要はなく、標的配列を含んだ領域に対する複数組(この「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。)の2本鎖RNAの混合物であってもよい。ここで標的配列に対応した核酸混合物としてのsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機およびDICER酵素を用いて適宜作成することが可能であり、また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。なお、本発明のsiRNAには、所謂「カクテルsiRNA」が含まれる。また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことをいう。
【0077】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、TGF−β等のの発現を抑制し得る核酸の好ましい実施形態に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0078】
本発明において標的遺伝子の発現を抑制する核酸には、修飾された核酸を用いてもよい。修飾された核酸とは、ヌクレオシド(塩基部位、糖部位)および/またはヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド」としては、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2’−デオキシウリジン、α−デオキシリボヌクレオシド、β−L−デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノ核酸等が挙げられる。上記糖修飾を有するヌクレオシドには、2’−O−メチルリボース、2’−デオキシ−2’−フルオロリボース、3’−O−メチルリボース等の置換五単糖;1’,2’−デオキシリボース;アラビノース;置換アラビノース糖;六単糖およびアルファ−アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。これらのヌクレオシドは塩基部位が修飾された修飾塩基であってもよい。このような修飾塩基には、例えば、5−ヒドロキシシトシン、5−フルオロウラシル、4−チオウラシル等のピリミジン;6−メチルアデニン、6−チオグアノシン等のプリン;および他の複素環塩基等が挙げられる。
【0079】
修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド間結合」としては、例えば、アルキルリンカー、グリセリルリンカー、アミノリンカー、ポリ(エチレングリコール)結合、メチルホスホネートヌクレオシド間結合;メチルホスホノチオエート、ホスホトリエステル、ホスホチオトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、トリエステルプロドラッグ、スルホン、スルホンアミド、サルファメート、ホルムアセタール、N−メチルヒドロキシルアミン、カルボネート、カルバメート、モルホリノ、ボラノホスホネート、ホスホルアミデートなどの非天然ヌクレオシド間結合が挙げられる。
【0080】
本発明の二本鎖siRNAに含まれる核酸配列としては、TGF−βまたは他のTGF−βシグナルのメンバーに対するsiRNAなどを挙げることができる。
【0081】
また、本発明の核酸または薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAまたはshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入することができる。そして、得られる細胞を例えば、静脈内、動脈内等に全身投与する。眼の必要な部位等に局所的に投与することもできる。siRNAはin vitroにおいては非常に優れた特異的転写後抑制効果を示すが、in vivoにおいては血清中のヌクレアーゼ活性により速やかに分解されてしまうため持続時間が限られるためより最適で効果的なデリバリーシステム開発が求められてきた。一つの例としては、Ochiya,TらのNature Med.,5:707−710,1999、Curr.Gene Ther.,1:31−52,2001より生体親和性材料であるアテロコラーゲンが核酸と混合し複合体を形成させると、生体中の分解酵素から核酸を保護する作用がありsiRNAのキャリアーとして非常に適しているキャリアーであると報告されており、このような形態を利用することができるが、本発明の核酸または医薬の導入の方法はこれには限られない。このようにして、生体内においては血清中の核酸分解酵素の働きにより、速やかに分解されてしまうため長時間の効果の継続を達成することができる。例えば、Takeshita F.PNAS.(2003)102(34)12177−82、Minakuchi Y Nucleic Acids Reserch(2004)32(13)e109では、牛皮膚由来のアテロコラーゲンが核酸と複合体を形成し、生体内の分解酵素から核酸を保護する作用があり、siRNAのキャリアーとして非常に適していると報告されており、このような技術を用いることができる。
【0082】
本明細書において「培地」とは、角膜内皮細胞を維持または増殖することができる任意の培地を指し、必要に応じ適切な場合、液体培地(培養液)、懸濁培地、固体培地等の任意の形態をとることができる。このような角膜内皮細胞に使用される培地の成分としては、例えば、DMEM(GIBCO BRL社)、OptiMEM(Life Technologies)、血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))、増殖因子/成長因子(例えば、b−FGF)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン)等を挙げることができる。
【0083】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されている。角膜内皮細胞については、Nancy Joyceらの報告{Joyce,2004 #161}{Joyce,2003 #7}がよく知られているが、前述のごとく長期培養、継代培養により線維芽細胞様の形質転換を生じ、効率的な培養法の研究が現在も行われている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0084】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0085】
(培養正常化剤)
1つの局面において、本発明は、線維化抑制剤を含む角膜内皮細胞の培養正常化剤を提供する。本発明が提供される前、角膜内皮細胞は、移植に適した形態を維持しつつ増殖させることは困難であった。特に、継代を重ねると移植が困難になるものであった。移植が困難になる指標としては、機能タンパク質の消失がある。従来、通常の培養法では形態変化が生じることが知られていたが、本発明ではこれが形態的に線維芽細胞様であることから線維性変化であると考え、それがTGF−βシグナルの活性化を伴うものであることを発見した。ここで、TGF−βシグナルの活性化は、限定を意図しないが、実施例で例示されるように、フィブロネクチンおよびコラーゲン1型、4型、8型フィブロネクチン、インテグリンα5、およびインテグリンβ1などの細胞外マトリクスまたはインテグリン等の量、レベル等を調べることによって、判定することができる。限定を意図するものではないが、フィブロネクチンのタンパク質発現レベルは、正常の表現型よりも線維芽細胞の表現型において強くアップレギュレートされる。従来、生体において先天性梅毒などの極めて稀な疾患において角膜内皮細胞の線維化が伴うことは見いだされていたが、線維化を抑制する治療法の開発はない。したがってこのような疾患や培養条件下において線維化を薬物により抑制することで正常な機能を維持することができるかどうか予想できなかった。本発明者らは、他の細胞でTGF−βシグナル阻害剤を代表例として線維化を抑えることが知られている薬剤を使用したところ、形態変化を抑制した培養が可能になり予想外に正常機能を維持しつつ継代を行なうことができ(すなわち、培養正常化が可能)、角膜内皮細胞の大幅な増殖を可能にすることを見出した。正常な機能を維持しながら角膜内皮細胞を大量培養することは従来不可能であった。したがって、本発明によって達成された効果は、まさに顕著であるというべきである。
【0086】
本発明においては、線維化抑制剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0087】
本発明で使用される線維化抑制剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0088】
本発明においては、培地等に使用される場合、培養正常化剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもでき、培養正常化剤自体に単独の有効成分を含めることもまた必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0089】
培地等において使用される本発明の培養正常化剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0090】
TGF−βシグナル伝達経路は、ALK4,5または7を経由するSmad2/3系と、ALK1,2,3または6を経由するSmad1/5/8系とに大きく分類され、いずれも線維化に関連していることがよく知られている(J.Massagu’e,Annu.Rev.Biochem.1998.67:753−91;Vilar JMG,Jansen R,Sander C(2006)PLoS Comput Biol 2(1):e3;Leask,A.,Abraham,D.J.FASEB J.18,816−827(2004);Coert Margadant & Arnoud Sonnenberg EMBO reports(2010)11,97−105;Joel Rosenbloom et al.,Ann Intern Med.2010;152:159−166.)。BMP−7はTGF−βシグナルを抑制し線維化を抑制することができることも知られている(上記文献の他、Ralf Weiskirchen,et al.,Frontiers in Bioscience 14,4992−5012,June 1,2009;Elisabeth M Zeisberg et al.,Nature Medicine 13,952−961(2007);Michael Zeisberg et al.,Nature Medicine 9,964−968(2003))。しかしながら、非特許文献2、4では、非常に特殊な疾患である梅毒製角膜実質炎または人工的に作成した重度の障害により実際にコラーゲンなどの細胞外基質からなる膜状組織を伴うような状態についてTGF−βとの関与が記載されているが、これから正常化の維持を達成しうることは困難である。また、非特許文献5では角膜の重度な障害時の線維化がIL−1βにより、途中p38 MAPKの活性化によるということを示し、非特許文献6ではウサギでの過剰な冷凍外傷により生体において重度の炎症が生じた時にみられる線維化がp38 MAPKの活性化を伴い、阻害剤で一部線維化が抑制できることをウサギを用いて示している。これらの文献は極めて強い炎症が生体に生じ細胞外基質からなる膜状組織を伴うような状況においてp38 MAPKの活性化を伴うことを示したものであり、通常の培養状態で線維化が生じることには言及しておらず、TGF−βシグナル阻害剤およびp38 MAPK阻害剤が正常化維持に有効であるということを述べたものではなく、正常状態の維持についてなんら示唆を与えるものではない。このように、角膜内皮細胞については、従前は正常機能を保ちつつ培養することは困難であると考えられており、非特許文献7〜11等で報告された培地は、結局のところ正常化能を維持できなかったことが非特許文献7および本明細書における比較例等で実証されている。ましてや、線維化抑制またはTGF−βシグナル伝達経路を抑制することにより、角膜内皮細胞の培養正常化をすることができるとは考えられていなかった。
【0091】
1つの実施形態では、本発明において用いられる線維化抑制剤はトランスフォーミング増殖因子(TGF)βシグナル阻害剤を含む。したがって、本発明には、TGF−βシグナル阻害剤を含む角膜内皮細胞の培養正常化剤を提供するという側面もある。本発明で用いられるTGF−βシグナル阻害剤は、TGF−βのシグナル経路を阻害することができる限り、どのような薬剤(agent)を用いてもよい。また、阻害されるべきTGF−βシグナル伝達経路は、周知のように、TGF−βおよびTGF−β レセプターが直接関連するもののほか、BMP−7のように最終的にTGF−βのシグナル伝達経路と同様(阻害剤・アンタゴニスト等であれば正反対)の効果を発揮するものであれば、どのようなシグナルに関連する因子であってもよい。
【0092】
本発明においては、TGF−βシグナル阻害剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0093】
本発明で使用されるTGF−βシグナル阻害剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0094】
1つの実施形態において、培養正常化は、ZO−1およびNa/K−ATPaseを発現しており、形態的に多角形であり重層化していないものからなる群より選択される細胞機能が正常であることを含む。
【0095】
1つの実施形態において、培養正常化は角膜移植に適応する移植用細胞を製造するためのものである。好ましい実施形態では、上記移植用細胞は霊長類の細胞である。1つの好ましい実施形態では、上記移植用細胞はヒトの細胞である。
【0096】
1つの実施形態では、TGF−βシグナル阻害剤は、TGF−βのアンタゴニスト、TGF−βのレセプターのアンタゴニスト、またはSmad3の阻害剤、本明細書において他に例示される成分、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む。TGF−βのアンタゴニスト、TGF−βのレセプターのアンタゴニスト、およびSmad3の阻害剤は本明細書において他の箇所で説明された任意のものを利用することができる。
【0097】
1つの実施形態では、本発明において用いられうるTGF−βシグナル阻害剤は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル]−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、BMP−7、抗TGF−β抗体、抗TGF−βレセプター抗体、TGF−βのsiRNA、TGF−βレセプターのsiRNA、TGF−βのアンチセンスオリゴヌクレオチド、6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン、A83−01(3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−1H−ピラゾール−1−カルボチオアミド)、ステモレキュールTM TLK インヒビター(2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン)、ステモレキュールTM BMPインヒビターLDN−193189(6−(4−(ピペリジン−1−イル)エトキシ)フェニル)−3−(ピリジン−4−イル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン)、SD−208(2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)−4−[(4−ピリジニル)アミノ]プテリジン)、LY364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン)、本明細書において他に例示される成分、それらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはその薬学的に受容可能な塩の溶媒和物を少なくとも1種含む。理論に束縛されることを望まないが、Smad2/3(ALK4、5および7に関連する)を介して効果を奏するSB431542、Smad1/5/8(ALK1、2、3および6に関連する)を介して効果を奏するBMP−7の両方で正常化が観察されていることから、これらのいずれの経路のTGF−βシグナル阻害剤であっても、本発明の効果を達成することができると理解される。
【0098】
好ましい実施形態では、本発明において用いられるTGF−βシグナル阻害剤は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)を含む。線維化が抑制された上に、正常機能を担うタンパク質が保持されていることが示され、また霊長類への移植にも耐えたからである。好ましい実施形態では、SB431542は、使用時に約0.1μM〜約10μMの濃度で存在するように含まれ、好ましくは、使用時に約1μM〜約10μMの濃度で存在するように含まれ、さらに好ましくは使用時に約1μMの濃度で存在するように含まれる。
【0099】
別の好ましい実施形態では、本発明において用いられるTGF−βシグナル阻害剤は、BMP−7を含む。線維化が抑制された上に、正常機能を担うタンパク質が保持されていることが示され、また霊長類への移植にも耐え得るからである。好ましい実施形態では、BMP−7は、使用時に約10ng/ml〜約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれ、より好ましくは、使用時に約100ng/ml〜約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれる。BMP−7は、使用時に約100ng/mlの濃度で存在するように含まれていても、約1000ng/mlの濃度で存在するように含まれていてもよい。
【0100】
好ましい実施形態では、本発明において用いられる線維化抑制剤はさらにMAPキナーゼ阻害剤を含む。本発明で標的とされるMAPキナーゼ阻害剤は、MAPキナーゼのシグナル経路を阻害することができる限り、どのような薬剤(agent)を用いてもよい。また、阻害されるべきMAPキナーゼシグナルは、MAPキナーゼをリン酸化することに関与し、その上流または下流へとシグナルが伝達されあるいは、傍流として他の経路から合流する経路があるが、どのようなシグナルであってもよい。
【0101】
本発明においては、1種類のMAPキナーゼ阻害剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0102】
本発明で使用されるMAPキナーゼ剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0103】
好ましいの実施形態では、本発明において用いられるMAPキナーゼ阻害剤はSB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)のほか、本明細書において他に例示される成分を含む。
【0104】
別の実施形態では、本発明の培養正常化剤は老化抑制剤をさらに含む。ここで、使用されうる老化抑制剤としては、細胞の老化を抑制することが知られている薬剤であればどのようなものでも使用されうることが理解される。
【0105】
本発明においては、1種類の老化抑制剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0106】
本発明で使用される老化抑制剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0107】
1つの実施形態では、本発明で用いられる老化抑制剤は、p38 MAPキナーゼ阻害剤を含む。
【0108】
本発明においては、1種類のp38 MAPキナーゼ阻害剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0109】
本発明で使用されるp38 MAPキナーゼ剤の濃度は、通常約0.1〜100μmol/l、好ましくは約0.1〜30μmol/l、より好ましくは約1μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0110】
1つの好ましい実施形態では、本発明で用いられる老化抑制剤はSB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)を含む。
【0111】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)と、SB203580(4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イル]ピリジン)とを含む培養正常化剤を提供する。この2つの薬剤の組合せにより、正常化を維持しつつ、増殖速度を上げ、細胞密度も十分な培養がより改善されている。
【0112】
別の実施形態では、本発明の培養正常化剤は、細胞接着促進剤をさらに含む。本発明において用いられる細胞接着促進剤は、細胞接着を促進することができる薬剤であれば、どのような薬剤を用いてもよい。
【0113】
1つの好ましい実施形態では、本発明で用いられる細胞接着促進剤としては1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル(1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン))、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩(たとえば、Y−27632((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などのRhoキナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0114】
本発明において使用されうる接着促進剤は、角膜内皮細胞を試験管内で培養する場合に、培養正常化剤または培養液等の培地に添加することもできる。Rhoキナーゼ阻害剤を当培養正常化剤または培地に添加して培養を続けることにより、Rhoキナーゼ阻害剤と角膜内皮細胞とが生体外で接触し、角膜内皮細胞の接着が促進される。
【0115】
本発明において使用されうる培地には、内皮細胞の培養に通常用いられる培地(例えば、DMEM(GIBCO BRL社)、血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS))、成長因子(例えば、塩基性(b−)FGF)、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)などを含むことができる。
【0116】
本発明の培養成分にRhoキナーゼ阻害剤を含めることにより、角膜内皮細胞の接着を亢進することによって細胞の脱落を防止し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とするため、本明細書に記載される本発明の角膜内皮製剤の製造方法に好適に用いられる。また、本発明の培養液は、角膜内皮細胞を維持するためにも用いられる。
【0117】
本発明の培養正常化剤は、Rhoキナーゼ阻害剤をさらに含有していてもよい。本発明に含まれるRhoキナーゼ阻害剤は、前記した通りである。本明細書において「角膜保存液」とは、ドナーから摘出した角膜片を、レシピエントに移植するまでの期間において保存するため、あるいは増殖前または増殖した角膜内皮細胞を保存するための液剤である。
【0118】
本発明の培養正常化剤は、角膜保存液として使用されてもよい。本発明の培養正常化剤が加えられうるそのような角膜保存液としては、角膜移植時に通常用いられる保存液(強角膜片保存液(Optisol GS:登録商標)、角膜移植用眼球保存液(EPII:登録商標))、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などがあげられる。
【0119】
本発明においては、1種類のRhoキナーゼ阻害剤を単独で含めることも、また必要に応じて数種類を併用して含めることもできる。
【0120】
本発明中のRhoキナーゼ阻害剤の濃度は、通常1〜100μmol/l、好ましくは5〜20μmol/l、より好ましくは10μmol/lであり、数種類使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.001〜100μmol/l、好ましくは、約0.01〜75μmol/l、約0.05〜50μmol/l、約1〜10μmol/l、約0.01〜10μmol/l、約0.05〜10μmol/l、約0.075〜10μmol/l、約0.1〜10μmol/l、約0.5〜10μmol/l、約0.75〜10μmol/l、約1.0〜10μmol/l、約1.25〜10μmol/l、約1.5〜10μmol/l、約1.75〜10μmol/l、約2.0〜10μmol/l、約2.5〜10μmol/l、約3.0〜10μmol/l、約4.0〜10μmol/l、約5.0〜10μmol/l、約6.0〜10μmol/l、約7.0〜10μmol/l、約8.0〜10μmol/l、約9.0〜10μmol/l、約0.01〜50μmol/l、約0.05〜5.0μmol/l、約0.075〜5.0μmol/l、約0.1〜5.0μmol/l、約0.5〜5.0μmol/l、約0.75〜5.0μmol/l、約1.0〜5.0μmol/l、約1.25〜5.0μmol/l、約1.5〜5.0μmol/l、約1.75〜5.0μmol/l、約2.0〜5.0μmol/l、約2.5〜5.0μmol/l、約3.0〜5.0μmol/l、約4.0〜5.0μmol/l、約0.01〜3.0μmol/l、約0.05〜3.0μmol/l、約0.075〜3.0μmol/l、約0.1〜3.0μmol/l、約0.5〜3.0μmol/l、約0.75〜3.0μmol/l、約1.0〜3.0μmol/l、約1.25〜3.0μmol/l、約1.5〜3.0μmol/l、約1.75〜3.0μmol/l、約2.0〜3.0μmol/l、約0.01〜1.0μmol/l、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/l、約0.09〜35μmol/l、約0.09〜3.2μmol/lであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μmol/l、約0.075〜1.0μmol/l、約0.1〜1.0μmol/l、約0.5〜1.0μmol/l、約0.75〜1.0μmol/lを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0121】
本発明は、角膜の形質転換を防止し、正常化された培養を可能とし、あるいは角膜内皮細胞の接着を亢進することによって細胞の脱落を防止し、良好な細胞形態および高い細胞密度を持った角膜内皮細胞層の形成を可能とするため、臓器移植などに用いられる角膜の保存液として用いられる。また、本発明の培養正常化剤は、角膜内皮細胞を凍結保存するための保存液またはその成分としても用いられる。凍結保存のためには、本発明の保存液にグリセロール、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、アセトアミド等をさらに添加してもよい。
【0122】
1つの実施形態では、本発明の培養正常化剤を使用する際、培養正常化剤は、複数の薬剤が別々に使用されうる。そのような実施形態では、例えば、線維化抑制剤は、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させ、他方、接着促進剤は、一定期間存在させた後、いったん該接着促進剤を欠損させ、再度該細胞接着促進剤は、一定期間存在させることができる。
【0123】
別の実施形態では、本発明の培養正常化剤を使用する際、線維化抑制剤および前記細胞接着促進剤の両方を、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させることができる。
【0124】
1つの実施形態では、本発明の培養正常化剤で培養される角膜内皮細胞は霊長類由来である。好ましい実施形態では、本発明の培養正常化剤で培養される角膜内皮細胞はヒト由来である。
【0125】
好ましい実施形態では、本発明が目的とする培養は、角膜内皮障害の予防または治療のための細胞培養である。
【0126】
(角膜内皮細胞を正常に培養するための培地)
別の局面において、本発明は、本発明の培養正常化剤と角膜内皮の培養成分とを含む、角膜内皮細胞を正常に培養するための培地を提供する。本発明の培地において用いられる培養正常化剤は、本明細書において説明される任意の形態を用いることができることが理解される。また、本発明において使用されうる培養成分は、角膜内皮の培養に用いられうる成分であればどのようなものでも用いることができ、従来販売され使用されている培地成分であってもよく、あるいは、別途角膜内皮用に開発された成分であってもよい。そのような培地成分の例としては、OptiMEM、DMEM,M199、MEM等(これらは、INVITROGEN等から入手可能)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0127】
(角膜内皮細胞を正常に培養する方法)
別の局面において、本発明は、本発明の培養正常化剤、または本発明の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法を提供する。本発明の方法において用いられる培養正常化剤は、本明細書において説明される任意の形態を用いることができることが理解される。また、本発明の方法において使用されうる培養成分は、角膜内皮の培養に用いられうる成分であればどのようなものでも用いることができ、(角膜内皮細胞を正常に培養するための培地)において説明されたものを例示することができる。
【0128】
1つの例示的な培養法は、図12に示している。例えば、1つの例示的な培養法において。本発明の培養正常化剤は、複数の薬剤が別々に使用され得、例えば、線維化抑制剤は、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させ、他方、接着促進剤は、一定期間(例えば、24時間〜72時間、あるいは48時間等)存在させた後、いったん該接着促進剤を欠損させ、再度該細胞接着促進剤は、一定期間(例えば、24時間〜72時間、あるいは48時間等、この期間は毎回変動してもよく同じであってもよい)存在させることができる。あるいは、これらの培養法において、接着促進剤を使用しないパターンもあり得る。すなわち、この例示的な培養法は、図12下に示している。例えば、この例示的な培養法において。本発明の培養正常化剤はとして線維化抑制剤は、前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させることができる。
【0129】
別の実施形態では、本発明の方法において、使用される培養正常化剤は線維化抑制剤および前記細胞接着促進剤の両方を含み、これらを前記角膜内皮細胞の培養の間常に存在させることができる。
【0130】
1つの実施形態では、本発明の培養正常化剤で培養される角膜内皮細胞は霊長類由来である。好ましい実施形態では、本発明の培養正常化剤で培養される角膜内皮細胞はヒト由来である。
【0131】
好ましい実施形態では、本発明の方法が目的とする培養は、角膜内皮障害の予防または治療のための細胞培養であり、特に移植用の細胞または組織等を生産するために用いることができる。
【0132】
(角膜内皮細胞および角膜内皮製剤)
本発明は、本発明の方法で培養される角膜内皮細胞を提供する。本発明は、通常の培養を行い継代しても、線維化せず、正常機能を喪失しないという細胞である点従来の細胞に無い性質を有するということができる。そして、最も重要な性質は、機能としては正常な角膜内皮の性質を有しているという点である。したがって、本発明が提供する角膜内皮細胞は、製剤として提供されうることから、本発明は、角膜内皮製剤を提供するということになる。
【0133】
したがって、本発明は、本発明の培養正常化剤を含む培養液を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含む、角膜内皮製剤の製造方法を提供する。
【0134】
1つの局面において、本発明の角膜内皮製剤は、基材と、その基材上の試験管内で培養した角膜内皮細胞層とを含有する。
【0135】
本発明において使用される基材とは、培養角膜内皮細胞層を担持し、移植後一定期間好ましくは少なくとも3日間は生体内でもその形状を維持しうるものであれば特に限定されるものではない。また、本発明において使用される基材は、角膜内皮細胞を試験管内で培養する場合のスキャフォールドとしての役割を有するものであってもよく、培養後の角膜内皮細胞層を担持させる役割のみを有するものであってもよい。好ましくは、本発明において使用される基材は、角膜内皮細胞の培養に用いられ、培養完了後にそのまま移植に供することが可能なスキャフォールドとしての役割を有するものである。
【0136】
本発明において使用される基材としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、セルロース等の天然物由来の高分子材料、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等の合成高分子材料、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の生分解性高分子材料、ハイドロキシアパタイト、羊膜などがあげられる。
【0137】
本発明において使用される基材の形状は、角膜内皮細胞層を担持し、移植に適する形状であれば特に限定されるものではないが、シート状であることが好ましい。本発明の製剤がシート状の場合、移植時に適用部位に合わせた大きさに切断して用いることができる。また、シートを小さく丸めた後、創口から挿入することも可能である。好ましい具体例として、障害した角膜内皮の面積の約8割を覆う円形の形状が例示される。また、適用部位に密着可能なように、この円形の周辺部に切り込みを入れることも好ましい。
【0138】
好ましい実施形態において、本発明において使用される基材の例はコラーゲンである。コラーゲンとしては、特開2004−24852号公報に記載のコラーゲンシートが好適に使用できる。かかるコラーゲンシートは、特開2004−24852号公報に記載の方法に従って、例えば、羊膜から調製することができる。
【0139】
以下に角膜内皮製剤の一例として角膜内皮細胞層の調製を記載する。
【0140】
本発明で使用される角膜内皮細胞層は、以下の特徴を少なくとも1つ備えるものであることが好ましい。より好ましくは、以下の特徴を2つ以上、さらにより好ましくは全て備えるものである。
(1)細胞層が単層構造である。これは生体の角膜内皮細胞層が備える特徴の一つである。
(2)細胞層における細胞密度は約1,000〜約4,000細胞/mmである。特に、成人をレシピエント(移植者)とする場合には約2,000〜約3,000細胞/mmであることが好ましい。
(3)細胞層を構成する細胞の平面視形状が略六角形である。これは生体における角膜内皮細胞層を構成する細胞が備える特徴の一つである。本発明の製剤は生体の角膜内皮細胞層に類似し、生来の角膜内皮細胞層と同様の機能を発揮するとともに、生体内で増殖能も発揮することができる。
(4)細胞層において細胞が規則正しく整列している。生体の角膜内皮細胞層においてはそれを構成する細胞は規則正しく整列しており、これによって角膜内皮細胞の正常な機能と高い透明性が維持され、また角膜の水分調整機能が適切に発揮されると考えられている。したがって、このような形態的な特徴を備えることにより、本発明の製剤は、生体における角膜内皮細胞層と同様の機能を発揮することが期待される。
【0141】
本発明の製造方法は、本発明の培養正常化剤または培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を含み、例えば以下の方法により実施され得る。
【0142】
<1>角膜内皮細胞の採取および試験管内での培養
角膜内皮細胞はレシピエント自身または適切なドナーの角膜から常法で採取される。本発明における移植条件を考慮すれば、同種由来の角膜内皮細胞を準備すればよい。例えば、角膜組織のデスメ膜と内皮細胞層を角膜実質から剥離した後、培養皿に移し、ディスパーゼなどで処理する。これによって角膜内皮細胞はデスメ膜より脱落する。デスメ膜に残存している角膜内皮細胞はピペッティングなどによって脱落させることができる。デスメ膜を除去した後、本発明の培養液中で角膜内皮細胞を培養する。培地または培養液としては例えば市販のDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(例えば、INVITROGEN、カタログ番号:12320等を)にFBS(ウシ胎仔血清)(例えば、BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)、b−FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)(例えば、INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)、およびペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質を適宜添加し、さらに本発明の培養正常化剤の成分を添加したものを使用することができる。培養容器(培養皿)にはその表面にI型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンまたはウシ角膜内皮細胞の細胞外マトリックスなどをコーティングしてあるものを使用することが好ましい。あるいは、通常の培養容器をFNC coating mix(登録商標)(50ml(AES−0407)、ATHENA、カタログ番号:0407)等の市販のコーティング剤で処理したものを用いてもよい。かかるコーティングと本発明の培養液とを併用することにより、角膜内皮細胞の培養容器表面への接着が促され、良好な増殖が行われるからである。
【0143】
角膜内皮細胞を培養する際の温度条件は、角膜内皮細胞が生育する限りにおいて特に限定されないが、例えば約25℃〜約45℃、増殖効率を考慮すれば好ましくは約30℃〜約40℃、さらに好ましくは約37℃である。培養方法は、通常の細胞培養用インキュベーター内で、加湿下、約5〜10%のCO濃度の環境下で行われる。
【0144】
<2>継代培養
培養に供された角膜内皮細胞が増殖した後に継代培養を行うことができる。好ましくはサブコンフルエントないしコンフルエントになった時点で継代培養を行う。継代培養は次のように行うことができる。まずトリプシン−EDTA等で処理することによって細胞を培養容器表面から剥がし、次いで細胞を回収する。回収した細胞に本発明の培養正常化剤または培地を加えて細胞浮遊液とする。細胞を回収する際、あるいは回収後に遠心処理を行うことが好ましい。かかる遠心分離処理によって細胞密度の高い細胞浮遊液を調製することができる。好ましい細胞密度は、約1〜2×10個/mLである。尚、ここでの遠心処理の条件としては、例えば、500rpm(30g)〜1000rpm(70g)、1〜10分を挙げることができる。
【0145】
細胞浮遊液は上記の初期培養と同様に培養容器に播種され、培養に供される。継代時の希釈倍率は細胞の状態によっても異なるが、約1:2〜1:4、好ましくは約1:3である。継代培養は上記の初期培養と同様の培養条件で行うことができる。培養時間は使用する細胞の状態などによっても異なるが、例えば7〜30日間である。以上の継代培養は必要に応じて複数回行うことができる。本発明の培養正常化剤または培地において、細胞接着促進剤を用いれば、培養初期の細胞接着を亢進させることにより、培養期間の短縮が可能となる。
【0146】
<3>角膜内皮細胞層の調製
細胞浮遊液は、コラーゲンシート等の基材上に播種され、培養に供される。この際、最終的に製造される角膜内皮製剤において所望の細胞密度の細胞層が形成されるように播種する細胞数が調整される。具体的には細胞密度が約1,000〜約4,000細胞/mmの細胞層が形成されるように細胞を播種する。培養は上記の初期培養などと同様の条件で行うことができる。培養時間は使用する細胞の状態などによっても異なるが、例えば3〜30日間である。
【0147】
以上のようにして培養を行うことにより、基材上に試験管内で培養した角膜内皮細胞層が形成された角膜内皮製剤が得られる。
【0148】
本発明において、角膜内皮製剤は、角膜内皮細胞を維持するために、本発明の培養正常化剤またはそれを含む培地を含んでもよい。また、角膜内皮製剤は、移植に供されるまでに本発明の培養正常化剤またはそれを含む培地を含んでもよい。本発明は、角膜内皮製剤と本発明の培養正常化剤またはそれを含む培地との組合せも提供する。
【0149】
本発明の製造方法により得られた角膜内皮製剤は、角膜内皮の移植が必要な疾患、例えば水疱性角膜症、角膜浮腫、角膜白斑、特に、角膜ジストロフィ、外傷または内眼手術に起因する角膜内皮障害によって生じる水疱性角膜症の治療における移植片として用いることができる。このような水疱性角膜症、角膜内皮障害などの原因としては、手術のほかフックス角膜内皮ジストロフィ、偽落屑症候群、角膜内皮炎等を挙げることができる。
【0150】
本発明の角膜内皮製剤の投与対象は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)があげられ、好ましくは霊長類(例えば、ヒト)である。
【0151】
(角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防)
本発明は、本発明の培養正常化剤、または本発明の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を含む、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬を提供する。本発明の培地または培養正常化剤は本明細書において説明される任意の形態を用いることができることが理解され、例えば、(培養正常化剤)、(角膜内皮細胞を正常に培養するための培地)、(角膜内皮細胞を正常に培養する方法)に記載された事項を参酌することができる。また、医薬として使用される角膜内皮細胞は、本明細書において使用される任意の形態をとり得ることが理解され、例えば、(角膜内皮細胞および角膜内皮製剤)に記載された事項を参酌することができる。
【0152】
1つの実施形態では、本発明の医薬は、霊長類の角膜内皮の処置または予防を目的とする。好ましくは、この処置または予防の対象は、ヒトの角膜内皮である。
【0153】
1つの実施形態では、本発明の医薬において使用される角膜内皮細胞は霊長類由来である。好ましくは、本発明の医薬において使用される角膜内皮細胞はヒト由来である。
【0154】
1つの実施形態では、本発明の医薬が対象とする角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症、角膜内皮炎、角膜浮腫、角膜白斑等である。
【0155】
1つの実施形態では、本発明の医薬は、シート状または懸濁物で提供される。
【0156】
1つの実施形態では、本発明の医薬は、細胞接着促進剤をさらに含む。細胞接着促進剤は、角膜組織から分離された角膜内皮細胞または分離され継代した角膜内皮細胞に対して接着促進作用を奏する。この細胞接着促進剤は、医薬として提供される角膜内皮細胞と一緒にまたは別々に提供されることができる。具体的な実施形態では、本発明の医薬において使用される細胞接着促進剤としては、Rhoキナーゼ阻害剤を挙げることができる。Rhoキナーゼ阻害剤としては、下記文献:米国特許4678783号、特許第3421217号、国際公開第95/28387、国際公開99/20620、国際公開99/61403、国際公開02/076976、国際公開02/076977、国際公開第2002/083175、国際公開02/100833、国際公開03/059913、国際公開03/062227、国際公開2004/009555、国際公開2004/022541、国際公開2004/108724、国際公開2005/003101、国際公開2005/039564、国際公開2005/034866、国際公開2005/037197、国際公開2005/037198、国際公開2005/035501、国際公開2005/035503、国際公開2005/035506、国際公開2005/080394、国際公開2005/103050、国際公開2006/057270、国際公開2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができ、例えば、1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル(1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン))、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩(たとえば、Y−27632((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などを挙げることができる。
【0157】
本発明の医薬または方法の投与(移植)対象は、晴乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。霊長類での角膜内皮治療はこれまで十分な成績が達成されておらず、その意味で本発明は画期的な治療法および医薬を提供する。
【0158】
別の局面において、本発明は、本発明の培養正常化剤、または本発明の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞を用いる工程を包含する、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法を提供する。
【0159】
別の局面において、本発明は、細胞接着促進剤を含む、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬を提供する。この局面では、細胞接着促進剤のもつ、角膜組織から分離された角膜内皮細胞または分離され継代した角膜内皮細胞に対して有する接着促進作用を利用する。この局面の1つの具体的な実施形態では、本発明の医薬において使用される細胞接着促進剤はRhoキナーゼ阻害剤を挙げることができる。Rhoキナーゼ阻害剤としては、下記文献:米国特許4678783号、特許第3421217号、国際公開第95/28387、国際公開99/20620、国際公開99/61403、国際公開02/076976、国際公開02/076977、国際公開第2002/083175、国際公開02/100833、国際公開03/059913、国際公開03/062227、国際公開2004/009555、国際公開2004/022541、国際公開2004/108724、国際公開2005/003101、国際公開2005/039564、国際公開2005/034866、国際公開2005/037197、国際公開2005/037198、国際公開2005/035501、国際公開2005/035503、国際公開2005/035506、国際公開2005/080394、国際公開2005/103050、国際公開2006/057270、国際公開2007/026664などに開示された化合物があげられる。かかる化合物は、それぞれ開示された文献に記載の方法により製造することができ、例えば、1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジンまたはその塩(たとえば、ファスジル(1−(5−イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン))、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(4−ピリジルカルバモイル)シクロヘキサンカルボキサミドまたはその塩(たとえば、Y−27632((R)−(+)−トランス−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド2塩酸塩1水和物)など)などを挙げることができる。特に、霊長類モデルおよびヒト細胞を用いた症例で細胞接着促進剤を用いて良好な治療成績を上げたのは本発明が初めてである。
【0160】
本発明の細胞接着促進剤を含む医薬は、本発明の培養正常化剤、または本発明の培地を用いて角膜内皮細胞を培養する工程を包含する、角膜内皮細胞を正常に培養する方法によって生産された角膜内皮細胞と共に用いられる。ここで、本発明の細胞接着促進剤を含む医薬は、この角膜内皮細胞と一緒に投与または移植されてもよく、別々に投与または移植されてもよい。
【0161】
1つの具体的な実施形態では、本発明の細胞接着促進剤を含む医薬が標的とする角膜内皮疾患、障害または状態が水疱性角膜症、角膜内皮炎、角膜浮腫、角膜白斑等である。
【0162】
別の局面では、本発明は、細胞接着促進剤を処置または予防が必要な被験体に投与する工程を包含する、ヒトの角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための方法を提供する。
【0163】
細胞接着促進剤を含む医薬についても、本発明の医薬または方法の投与(移植)対象は、晴乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。霊長類での角膜内皮治療はこれまで十分な成績が達成されておらず、その意味で本発明は画期的な治療法および医薬を提供する。
【0164】
本発明の細胞接着促進剤を含む医薬または、本発明の方法を用いて生産された角膜内皮細胞を含む、角膜内皮疾患、障害または状態の処置または予防のための医薬において使用される細胞接着促進剤またはRhoキナーゼ阻害剤が使用される濃度は限定されないが、例えば、通常、約0.00001〜1w/v%、好ましくは、約0.00001〜0.1w/v%、より好ましくは約0.0001〜0.05w/v%、約0.001〜0.05w/v%、約0.002〜0.05w/v%、約0.003〜0.05w/v%、約0.004〜0.05w/v%、約0.005〜0.05w/v%、約0.006〜0.05w/v%、約0.007〜0.05w/v%、約0.008〜0.05w/v%、約0.009〜0.05w/v%、約0.01〜0.05w/v%、約0.02〜0.05w/v%、約0.03〜0.05w/v%、約0.04〜0.05w/v%、約0.003〜0.04w/v%、約0.004〜0.04w/v%、約0.005〜0.04w/v%、約0.006〜0.04w/v%、約0.007〜0.04w/v%、約0.008〜0.04w/v%、約0.009〜0.04w/v%、約0.01〜0.04w/v%、約0.02〜0.04w/v%、約0.03〜0.04w/v%、約0.003〜0.03w/v%、約0.004〜0.03w/v%、約0005〜0.03w/v%、約0.006〜0.03w/v%、約0.007〜0.03w/v%、約0.008〜0.03w/v%、約0.009〜0.03w/v%、約001〜0.03w/v%、約0.02〜0.03w/v%、約0.003〜0.02w/v%、約0.004〜0.02w/v%、約0.005〜0.02w/v%、約0.006〜0.02w/v%、約0.007〜0.02w/v%、約0.008〜0.02w/v%、約0.009〜0.02w/v%、約0.01〜0.02w/v%、約0.003〜0.01w/v%、約0.004〜0.01w/v%、約0.005〜0.01w/v%、約0.006〜0.01w/v%、約0.007〜0.01w/v%、約0.008〜0.01w/v%、約0.009〜0.01w/v%である。投与量、投与回数は、症状、年齢、体重、投与形態により異なるが、通常成人に対し、例えば点眼剤として使用する場合には、有効成分を約0.0001〜0.1w/v%、好ましくは約0.003〜0.03w/v%含有する製剤を、1日あたり1〜10回、好ましくは1〜6回、より好ましくは1〜3回、1回当たり約0.01〜0.1mL投与することができる。本発明の医薬を前房内に注入する場合には、上記濃度の10分の1〜1000分の1の濃度のものが使用され得る。当業者は疾患の状態によって、細胞接着促進剤の種類および濃度を適宜選択することができる。
【0165】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0166】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0167】
以下に、本発明の角膜内皮細胞の細胞を正常に培養する例を記載する。実験動物の使用にあたっては、動物を用いる生物医学研究に関する原則(International Guiding Principles for Biomedical Research involving Animals)ならびに、動物の愛護および管理に関する法律、実験動物の飼養および保管等に関する基準に従った。また、本実験はGuidelines of the Association for Research in Vision and Ophthalmology on the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って行った。組織の単離は、それぞれ、日精バイリス株式会社滋賀研究所(Shiga Laboratory,Nissei Bilis Co.,Ltd.)(滋賀県大津市)(Ohtsu,Japan)の動物実験倫理委員会および株式会社イブバイオサイエンス(Eve Bioscience,Co.,Ltd.)(和歌山県橋本市)(Hashimoto,Japan)の動物実験委員会による承認を受けた。また、該当する場合生物試料等の取り扱いは、厚生労働省、文部科学省等において規定される基準を遵守し、該当する場合はヘルシンキ宣言またはその宣言に基づき作成された倫理規定に基づいて行った。研究のための眼の寄贈については、全ての故人ドナーの近親者から同意書を得た。本研究は、SightLifeTM(Seattle,WA)アイバンクの治験審査委員会による承認を受けた。
【0168】
(実験手法:サルの角膜組織および研究グレードのヒト角膜組織)
それぞれ、日精バイリス株式会社滋賀研究所および株式会社イブバイオサイエンスで飼われた4匹のカニクイザル(3〜5歳齢;ヒト年齢では5〜20歳に等しいと推定される)からの8個の角膜を、サル角膜内皮細胞(MCEC)培養に使用した。12個のヒトドナー角膜は、SightLifeTMアイバンクから入手し、全ての角膜を、初代培養前に14日未満の期間にわたり、保存培地(Optisol;Chiron Vision Corporation,Irvine,CA)中、4℃で保存した。
【0169】
(統計解析)
2サンプルの比較の平均値における統計的有意差(P値)は、スチューデントのt検定を用いて決定した。複数のサンプルセットの比較における統計的有意差は、ダネットの多重比較検定を用いて解析した。グラフに示す値は平均±SEを表す。
【0170】
(比較例1)
本例では、従来法で培養したカニクイザルおよびヒトの角膜内皮細胞の様子を示す。以下にその詳細を示す。
【0171】
(材料および方法)
・カニクイザル角膜内皮細胞(MCEC;入手先および培養方法):MCECは、以前に記載された改良型プロトコールで培養した[Koizumi N,et al.(2007)Invest Ophthalmol Vis Sci 48:4519−4526]、[Li W,et al.(2007)Invest Ophthalmol Vis Sci 48:614−620]。簡単に述べると、別の目的で安楽死させたカニクイザルの眼球を購入して、(Nissei Bilis Co.,Ltd.,Ohtsu,JapanおよびKeari Co.,Ltd.,Wakayama,Japan)(方法は上述)、角膜内皮細胞を含むデスメ膜を剥離し、角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離して、ディスパーゼあるいはコラゲナーゼ(ROCHE カタログ番号:10 103 586 001)を用いて処理後に初代培養を行った。代表的には、1mg/mLコラゲナーゼA(Roche Applied Science,Penzberg,Germany)を用いて37℃にて2時間処理した。培地は10%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)と2ng/ml 塩基性FGF(INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)を添加したDMEM(INVITROGEN カタログ番号12320)を用いた。培養には、FNC Coating MIX(登録商標)(Athena Environmental Sciences.,Baltimore,MD)でコーティングした6ウェルプレート等を用いた。次いで、MCECを5%CO中37℃の加湿雰囲気下で培養し、2日おきに培養培地を交換した。MCECが10〜14日でコンフルエントに達すると、これらを、Ca2+およびMg2+非含有ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中でリンスし、37℃にて5分間0.05%トリプシン−EDTA(Life Technologies)でトリプシン処理し、そして、1:2〜4の比で継代した。トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)の選択的インヒビターであるSB431542(Merck Millipore,Billerica,MA)を、抗線維芽細胞様作用について調べた。
・ヒト角膜内皮細胞(HCEC、入手先および培養方法):HCECは、MCECについて用いたプロトコールの改良バージョンで培養した。簡単に述べると、シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より、角膜内皮細胞を含むデスメ膜を剥離し、角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離して、コラゲナーゼ(ROCHE カタログ番号:10 103 586 001)を用いて基底膜よりはがして(代表的には、1mg/mLコラゲナーゼA(Roche Applied Science)を用いて37℃にて2時間処理した。)回収後、初代培養を行った。培地はヒトはOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%ウシ胎仔血清(FBS)(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg/ml アスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)を3T3フィーダー細胞用に馴化させたものを用いた。具体的には、37℃での消化後、個々の角膜から得られたHCECを培養培地中に再懸濁させ、FNC Coating Mix(登録商標)でコーティングした12ウェルプレートの1ウェルにプレーティングした。培養培地は、一部の改変を加えた公開されたプロトコールに従って調製した。簡単に述べると、OptiMEM−I(Life Technologies)、8% FBS、5ng/mL 上皮増殖因子(EGF)(Sigma−Aldrich Co.,St.Louis,MO)、20μg/mL アスコルビン酸(Sigma−Aldrich)、200mg/L 塩化カルシウム(Sigma−Aldrich)、0.08% コンドロイチン硫酸(和光純薬工業株式会社、大阪市)および50μg/mLのゲンタマイシンを含有する基本培養培地を準備し、次いで、不活性化3T3線維芽細胞の培養後に馴化培地を回収した。3T3線維芽細胞の不活性化は、以前に記載されたとおりに実施した。簡単に述べると、コンフルエントな3T3線維芽細胞を4μg/mL マイトマイシンC(MMC)(協和発酵キリン株式会社、東京都)とともに、5%CO下で37℃にて2時間インキュベートし、次いでトリプシン処理し、そして、2×10細胞/cmの密度でプラスチック皿にプレーティングした。HCECは、5%CO中37℃にて加湿雰囲気下で培養し、2日おきに培養培地を交換した。HCECが14〜28日でコンフルエントに達すると、これらを、Ca2+およびMg2+非含有PBS中でリンスし、37℃にて5分間0.05%トリプシン−EDTAでトリプシン処理し、そして、1:2の比で継代した。SB431542(Merck Millipore)、TGF−βに対する中和抗体(R&D Systems,Inc.,Minneapolis,MN)、Smad3インヒビター(Merck Millipore)および骨形成タンパク質(BMP)BMP−7(R&D Systems)を、抗線維芽細胞様作用について調べた。
・染色等の細胞観察方法(組織学的試験):細胞観察は位相差顕微鏡にて行った。また、細胞を固定した後に機能関連マーカーとしてZO−1、Na/K−ATPaseを用いて免疫染色を行い蛍光顕微鏡にて観察を行った。組織染色検査のために、培養したMCECまたはHCECをLab−TekTM Chamber SlidesTM(NUNC A/S,Roskilde,Denmark)に入れ、4%ホルムアルデヒドで10分間室温(RT)で固定し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)とともに30分間インキュベートした。具体的には、Lab−TekTMChamber SlidesTM(NUNC A/S,Roskilde,Denmark)上の培養MCECまたはHCECを室温で10分間4%ホルムアルデヒド中で固定し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)とともに30分間インキュベートした。CECの表現型を調べるために、密着結合関連タンパク質であるZO−1(Zymed Laboratories,Inc.,South San Francisco,CA)、ポンプ機能に関連するタンパク質であるNa/K−ATPase(Upstate Biotec,Inc.,Lake Placid,NY)、フィブロネクチン(BD,Franklin Lakes,NJ)およびアクチンの免疫組織化学分析を行った。CECの機能に関連するマーカーとしてZO−1およびNa/K−ATPaseを使用し、線維芽細胞様の変化を評価するためにフィブロネクチンおよび1型コラーゲンを使用し、そして、細胞の形態を評価するためにアクチンの染色を使用した。ZO−1、Na/K−ATPase、1型コラーゲンおよびフィブロネクチンの染色は、それぞれ、ZO−1ポリクローナル抗体、Na/K−ATPaseモノクローナル抗体、およびフィブロネクチンモノクローナル抗体の1:200希釈を用いて実施した。二次抗体には、Alexa Fluor(登録商標)488標識、または、Alexa Fluor(登録商標)594標識ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)の1:2000希釈を使用した。アクチンの染色は、Alexa Fluor(登録商標)488標識ファロイジン(Life Technologies)の1:400希釈を用いて実施した。次いで、細胞の核をDAPI(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA)またはPI(Sigma−Aldrich)で染色した。次いで、スライドを蛍光顕微鏡(TCS SP2 AOBS;Leica Microsystems,Welzlar,Germany)で観察した。
【0172】
(結果)
図1にカニクイザルおよびヒトにおける従来の細胞培養法での培養結果を示す。培養結果から明らかなように、サル、ヒトの角膜内皮において通常の培養法では形質転換し、すなわち、いずれの細胞でも線維化が生じており、多角形の一層の細胞である正常細胞とは異なった形態であり移植には適さない状態となっていることが分かる。
【0173】
(比較例2)
本例では、従来技術で培養した場合に、正常機能を消失することを示す実験を行った。本例では、サル角膜内皮が機能関連タンパク質の発現を消失するかどうかを、免疫染色およびウェスタンブロット法ならびにリアルタイムPCR法にて実証した。以下にその詳細を示す。
【0174】
(材料および方法)
以下に使用した材料のうち比較例1と同じものは比較例1と同様に入手し培養等を行った。
・カニクイザル角膜内皮細胞:比較例1と同じである。
・ヒト角膜内皮細胞:比較例1と同じである。
・Na/K−ATPaseに対する抗体:MILLIPORE社製(MILLIPORE カタログ番号:05−369)のものを用いた。
・ZO−1に対する抗体:マウスINVITROGEN社製(INVITROGEN カタログ番号:339100)、ウサギZYMED LABORATORIES社製(ZYMED LABORATORIES カタログ番号:61−7300)のものを用いた。・フィブロネクチンに対する抗体::BDBIOSCIENCES社製(カタログ番号:610077)
・コラーゲン1型に対する抗体:(ABCAM社製)(カタログ番号:ab292)
・GAPDHに対する抗体:ABCAM社製(カタログ番号:ab36840)のものを用いた。
・二次抗体(HPR結合抗ウサギIgG二次抗体)Cell Signaling Technology社製(カタログ番号:7074)
・二次抗体(抗ウサギIgG二次抗体)Cell Signaling Technology社製(カタログ番号:7076)
・細胞画分抽出・調製法:コンフルエントに達した細胞をPBS(Dulbecco’s PBS、ニッスイ、カタログ番号:5913)で3回洗浄後、RIPAバッファー(1×PBS、1% Nonidet P−40(ナカライテスク、カタログ番号:23640−94)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク、カタログ番号:10712−12)、0.1%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム、ナカライテスク、カタログ番号:31607−65))で溶解した。前述のRIPAバッファー中には、ホスファターゼインヒビターカクテル2(Sigma−Aldrich)およびプロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク株式会社、京都市)を添加した。得られた細胞溶解液を遠心分離(15000rpm、10分間)し、その上清を回収し、タンパク質をBCA PROTEIN ASSAY KIT(PIERCE社製(カタログ番号:23227))により定量した。5mM 2−メルカプトエタノール(ナカライテスク社製(カタログ番号:21418−42))を含む100μlの溶解バッファー(レムリサンプルバッファー)で溶解した。
・免疫染色:コンフルエントに達した細胞をPBS(ニッスイ、カタログ番号:5913)洗浄後、氷冷したエタノール(ナカライテスク、カタログ番号:14713−95)と酢酸(WAKO カタログ番号:017−00256)(95:5)にて10分間固定した。
【0175】
0.1%(vol/vol)ポリエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク、カタログ番号:28353−85)(TBS−T)と10%ウシ胎仔血清を補ったTris緩衝化食塩水(10mMTris−HCl、pH7.4;100mMNaCl)で1時間インキュベートすることによりブロッキング操作を行った。ウサギ抗ヒトZO−1抗体(1:200)、マウス抗ヒトNa/K−ATPase抗体(1:200)を一次抗体として使用し、室温にて1時間反応させた。フィブロネクチンに対する抗体、コラーゲン1型に対する抗体についても、同様に使用した。希釈率は、1:200または1:1000を適宜使用した。
【0176】
次いでTBS−Tにて1000倍に希釈したALEXA FLUOR 594(INVITROGEN社(カタログ番号:A21203))とALEXA FLUOR 488(INVITROGEN社(カタログ番号:A21206))で室温で1時間反応させた。PBSで洗浄後、VECTASHIELDWITH DAPI(VECTOR LABORATORIES社(カタログ番号:94010))とともにスライドに封入し、共焦点顕微鏡(ライカ社製)で観察した。
・ウェスタンブロット法:RIPAバッファーで抽出し得られたタンパク質を7.5%ポリアクリルアミドで電気泳動した。分離されたタンパク質はPVDF膜(PALL LIFE SCIENCE社製(カタログ番号:EH−2222))に転写した。5%無脂肪乾燥乳(5%NON FAT DRY MILK、CELL SIGNALING社 カタログ番号:9999)を補った0.1%(vol/vol)ポリエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク、カタログ番号:28353−85)を含むTris緩衝化食塩水(10mMTris−HCl、pH7.4;100mM NaCl)(TBS−T)と、ブロットした膜を1時間インキュベートすることによりブロッキング操作を行った。この後、ZO−1抗体とNa/K−ATPase抗体を5%無脂肪乾燥乳を補ったTBS−Tにて1000倍に希釈したものをメンブレンに浸し、室温で1時間反応させた。TBSーTで3回洗浄後、マウス−IgG抗体HRP複合体(CELL SIGNALING社(カタログ番号:7074P2))とインキュベートし、洗浄後、ECL−ADVAVCE Western Blotting Detection Kit(GE ヘルスケア・ジャパン社(カタログ番号:RPN2135V))で発光させたバンドを検出した。フィブロネクチンに対する抗体、コラーゲン1型に対する抗体についても、同様に使用した。次いで、以下の一次抗体:Na/K−ATPase(Merck Millipore)、ZO−1、GAPDH(Abcam,Cambridge,UK)、フィブロネクチンおよびSmad2(Cell Signaling Technology)、リン酸化Smad2(Cell Signaling Technology)、ERK1/2(BD)、リン酸化ERK1/2(BD)、p38MAPK(BD)、リン酸化p38MAPK(BD)、JNK(BD)またはリン酸化JNK(BD)(1:1000希釈)、および、HRP標識抗ウサギまたは抗ウサギIgG二次抗体(Cell Signaling Technology)(1:5000希釈)とともにインキュベーションを行った。メンブレンを、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GE Healthcare,Piscataway,NJ)によって感光させ、次いで、LAS4000S画像化システム(富士フィルム株式会社、東京都)を用いて調べた。
・リアルタイムPCR(半定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)):また、以下の方法にてNa/K−ATPase、ZO−1、GAPDHに対するPCR法を行った。プライマーは、オリゴヌクレオチド合成会社であるINVITROGENから購入し、脱塩処理したものを用いた。自然に線維様形態に変化した角膜内皮細胞および正常角膜内皮細胞を試料とし、Na/K−ATPase、ZO−1のmRNA量を半定量的PCR法により調べた。細胞からの総RNAの抽出にはRNEasy(QIAGEN社、カタログ番号:74106)を用いた。抽出したRNAはReverTra Ace(TOYOBO社(カタログ番号:TRT−101))により逆転写反応(42℃、60分間)を行い、TAKARA Taq HotStart Version(タカラバイオ社、カタログ番号:RR001A)によりGAPDHを内部標準としてNa/K−ATPase、ZO−1を増幅した。同量のcDNAを、PCR機(GeneAmp 9700;Applied Biosystems)と、下記のプライマーペアによって増幅した。PCR反応には下記に示すプライマーを用いた。フィブロネクチンに対する抗体、コラーゲン1型、4型、インテグリンα5、インテグリンベータ1に対するPCR反応についても、同様に下記プライマーを使用した。
増幅されたDNA断片は1.5%アガロースゲル(ナカライテスク、カタログ番号:01149−76)で電気泳動し、エチジウムブロマイド(ナカライテスク、カタログ番号:14603−51)での染色により検出した。
・定量PCRは、以下のTaqMan(登録商標)(Invitrogen)プライマーを用いて実施した。コラーゲン1型:Hs00164004_m1;フィブロネクチン:Hs01549976_m1;GAPDH:Hs00266705_g1。PCRは、StepOneTM(Applied Biosystems)リアルタイムPCRシステムを用いて行った。GAPDHは内部標準として用いた。
【0177】
(結果)
図2で示されるように、従来技術で培養した場合に、線維芽細胞様に形態変化したサル角膜内皮細胞においては正常機能を消失することが示された。正常の形態に培養できたサル角膜内皮細胞と比較すると、線維芽細胞様(fibroblastic)に形態変化することで、サル角膜内皮が機能関連マーカーの発現を消失することを免疫染色、ウェスタンブロット法およびリアルタイムPCR法にて示された。
【0178】
より詳細に述べると、細胞培養中の霊長類CECの2つの異なる表現型が示された。最も興味深いことに、培養中の霊長類CECは、細胞の形態および特徴的な接触阻害型の表現型によって決定した場合に、2つの異なる表現型を示した。およそ60%の細胞は、特徴的な多角形の細胞形態と接触阻害型の表現型を維持しており、これらの細胞を正常表現型と称した。他方で、40%の細胞は多層を持つ線維芽細胞様の形状を示し、これらの細胞を、線維芽細胞様表現型と称した(図1)。次に、これらの2つの表現型を、内皮細胞性の特徴について検討した;原形質膜におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の染色パターンは、正常表現型においてよく保存されていたが、線維芽細胞様表現型は、原形質膜におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の特徴的な染色プロフィールを完全に喪失した(図2左)。2つの機能的タンパク質の発現は、タンパク質レベル(図2右上)およびmRNAレベル(図2右下)の両方で、正常表現型において、線維芽細胞様表現型よりもかなり多く見られた。
【0179】
(細胞外マトリクスの挙動)
さらに、線維芽霊長類CECは、細胞外マトリックス等の状況がどうなっているかを調べた。その結果を図2Aに示す。
【0180】
図2Aは、線維芽霊長類CECは、異常な細胞外マトリックスを生成することを示し、すなわち、従来技術で培養した場合に、正常機能を消失することを示す。(A)フィブロネクチンおよびコラーゲン1型の線維芽細胞表現型および正常な細胞の表現型における発現を示す。上段はフィブロネクチン、下段はコラーゲン1型を示す。左側は正常な細胞の表現型を示し、右側は、線維芽細胞表現型を示す。線維芽細胞表現型は、フィブロネクチンおよびコラーゲン1型などの過剰の細胞外マトリクスを示した。他方、正常な細胞の表現型は、染色能を完全に喪失した。(B)フィブロネクチンの線維芽細胞表現型および正常な細胞の表現型におけるタンパク質の発現のウェスタンブロットを示す。GAPDHはコントロールである。フィブロネクチンのタンパク質発現レベルは、正常の表現型よりも線維芽細胞の表現型において強くアップレギュレートされていた。(C)コラーゲン1型、4型、8型フィブロネクチン、インテグリンα5、およびインテグリンβ1(上から順に列挙した。)の線維芽細胞表現型(右)および正常な細胞の表現型(左)における半定量PCRの結果を示す。GAPDHはコントロールである。半定量PCR分析によって、1型コラーゲン転写物(α1(I)mRNA)は線維芽細胞表現型において豊富に発現されていたが、他方、正常な表現型においては、α1(I)mRNAの発現は減少していた。基底膜コラーゲン表現型である、α1(IV)mRNAおよびα1(VIII)mRNAは、正常表現型および線維芽細胞表現型の表現型の両方で発現されていたが、正常表現型では発現の程度は線維芽細胞表現型よりも少なかった。フィブロネクチンおよびインテグリンα5のmRNAは線維芽細胞表現型で観察されたが、正常表現型ではこれらの2種のmRNAは発現されなかった。β1インテグリンのmRNAは、両方の表現型で同様のレベルで発現がみられた。
【0181】
真の線維性細胞外マトリクス(ECM)タンパク質の比較により、線維芽細胞表現型のものは、フィブロネクチンの線維性ECM染色パターンを示したが、他方、正常な表現型は、フィブロネクチンの染色能を完全に失っていた(図2AのA)。フィブロネクチンのタンパク質レベルは、正常表現型よりも線維芽細胞表現型においてより強くアップレギュレートされていた(図2AのB)。線維芽細胞表現型によって産生されるコラーゲン1型は、二重の部位での発現を示し、ECMおよび細胞質の両方で見られた。興味深いことに、コラーゲン1型の細胞質の部位は、ゴルジ複合体にあるようであり、その細胞内局在は、分泌に必須である。これらの知見は、既知のデータ(Ko MK,Kay EP.Subcellular localization of procollagen I and prolyl 4−hydroxylase in corneal endothelial cells.Experimental cell research.2001;264:363−71)に類似する。他方、正常表現型におけるコラーゲン1型染色は、明確には観察されなかった(図2A)。RT−PCR分析を用いて主要なECMタンパク質の発現を測定した。コラーゲン1型転写物(α1(I)mRNA)は、線維芽細胞表現型において豊富に発現されていることが見出された。他方、α1(I)mRNAの発現は、正常な表現型において無視しうるものであった(図2C)。コラーゲンI型の転写物とは異なり、基底膜コラーゲン表現型であるα1(IV)mRNAおよびαI(VIII)のmRNAは、正常表現型および線維芽細胞表現型の両方において発現していたが、その発現の程度は、正常表現型において、線維芽細胞表現型に比べて少なかった。フィブロネクチンおよびインテグリンα5の発現は、線維芽細胞表現型において観察された。反対に、正常表現型では、これらの2つの転写物は、発現していなかった(図2AのC)。他方、β1インテグリンのmRNAは、正常表現型および線維芽細胞表現型の両方において同様のレベルで発現していた(図2AのC)。
【0182】
(比較例3:従来法の別法での正常機能喪失)
本比較例では、従来の培養法では角膜内皮細胞の線維化が生じることを確認した(図3)。3T3フィーダー細胞由来の馴化培地は線維芽変化(fibroblastic change)を抑制する。しかし3T3フィーダー細胞由来の馴化培地のみでは継代培養を行うとやはり形質転換にいたることを示す(図3右)。
【0183】
(材料および方法)
使用した材料のうち比較例1および2と同じものは比較例1および2と同様に入手し培養等を行った。
・コントロール:コントロールのヒト角膜内皮細胞の培養に用いた培地はOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg/ml アスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)である。
・3T3フィーダー細胞用の馴化培地:NIH3T3細胞を0.1%ゼラチンコート(SIGMA社、カタログ番号:G1890−500G)した150mm ディッシュ(FALCON、カタログ番号:3025)に10%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)/DMEM(INVITROGEN、カタログ番号:12320)で播種し、サブコンフルエントまで培養しておく。続いて終濃度0.04mg/mL マイトマイシンC溶液(協和発酵キリン、カタログ番号 874231)にて37℃、5%CO2インキュベーター内で2時間インキュベートする。10%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)/DMEM培地に置換して一晩培養する。このように作成したNIH3T3細胞にOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN、カタログ番号:31985−070)+8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA、カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA、カタログ番号:C9819−5G)+20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA、カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN、カタログ番号:15710−064)+ 5ng/ml EGF(INVITROGEN、カタログ番号:PHG0311)を加えて1晩培養してヒト角膜内皮培養用馴化培地とする。
・培養方法:比較例1と同様の方法で、それぞれの培地を用いて培養した。
・染色等の細胞観察方法:位相差顕微鏡にて細胞の形態を観察した。
【0184】
(結果)
図3に示すように、従来法の別法として3T3フィーダー細胞を用いた馴化培地での培養でも、線維化が生じ移植には適しない状態になってしまったことが示された。
【0185】
比較例1および3での結果は、非特許文献7で示されたように、従来の角膜内皮細胞培養培地では、継代すると正常な状態を維持しつつ増殖させることができないことを確認するものである。
【0186】
(実施例1)
本実施例では、形質転換が線維芽細胞様の形態であることに着目して、一般的な細胞種で知られている線維化誘導の際に活性化される経路の活性化についてウエスタンブロット法にて検討した。
【0187】
(材料および方法)
使用した材料のうち比較例1〜3と同じものは比較例1〜3と同様に入手し培養等を行った。
・カニクイザル角膜内皮細胞:別の目的で安楽死させたカニクイザルの眼球を購入して、(Nissei Bilis Co.,Ltd.,Ohtsu,Japanおよび Keari Co.,Ltd.,Wakayama,Japan)角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、ディスパーゼあるいはコラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。培地は10%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)と2ng/ml 塩基性FGF(INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)を添加したDMEM(INVITROGEN、カタログ番号:12320)を用いた。この際、サル角膜内皮細胞は図1に示したように正常の形態に培養されることもあるが、同様の培養法、長期培養、継代培養により線維芽細胞様に形態変化することが多い。そこで、正常の形態に培養できた細胞と線維芽細胞様に形態変化した細胞を回収してウエスタンブロット法に用いた。
・pSmad2に対する抗体:CELL SIGNALING社から入手したもの(カタログ番号:3108P)を用いた。
・pSmadに対する抗体:CELL SIGNALING社から入手したもの(カタログ番号:5339P)を用いた。
・pp38に対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(p38a/SAPK2aと同じ。カタログ番号:612168)を用いた。
・p38に対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(カタログ番号:612280)を用いた。
・pERK1/2に対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(カタログ番号:612358)を用いた。
・ERK1/2に対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(カタログ番号:610030)を用いた。
・pJNKに対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(カタログ番号:610627)を用いた。
・JNKに対する抗体:BD TRANSDUCTIONL LABORATORIES社から入手したもの(カタログ番号:612540)を用いた。
【0188】
(実験方法)
・細胞画分抽出・調製法:コンフルエントに達した細胞をPBSで3回洗浄後、RIPAバッファー(1×PBS(ニッスイ、カタログ番号:5913)、1% Nonidet
P−40(ナカライテスク、カタログ番号:23640−94)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム(ナカライテスク、カタログ番号:10712−12)、0.1% SDS(ナカライテスク、カタログ番号:31607−65))で溶解した。得られた細胞溶解液を遠心分離(15000rpm、10分間)し、その上清を回収し、タンパク質をBCA PROTEIN ASSAY KIT(PIERCE社製、カタログ番号:23227)により定量した。5mM2−メルカプトエタノール(ナカライテスク社製、カタログ番号:21418−42)を含む100μlの溶解バッファー(レムリサンプルバッファー)で溶解した。
・ウェスタンブロット法:RIPAバッファーで抽出し得られたタンパク質を7.5%ポリアクリルアミドで電気泳動した。分離されたタンパク質はPVDF膜(PALL LIFE SCIENCE社製、カタログ番号:EH−2222)に転写した。0.1%(vol/vol)ポリエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク、カタログ番号:28353−85)(TBS−T)と5%無脂肪乾燥乳(CELL SIGNALING社、カタログ番号:9999)を補ったTris緩衝化食塩水(10mMTris−HCl、pH7.4;100mMNaCl)と、ブロットした膜を1時間インキュベートすることによりブロッキング操作を行った。この後、Smad2抗体、pSmad2抗体、p38抗体、pp38抗体、ERK抗体、pERK抗体、JNK抗体、およびpJNK抗体を5%NON FAT DRY MILK(CELL SIGNALING社、カタログ番号:9999)を補ったTBS−Tにて1000倍に希釈したものをメンブレンに浸し、室温で1時間反応させた。T−TBSで3回洗浄後、マウス−IgG抗体HRP複合体(CELL SIGNALING社、カタログ番号:7074P2)とウサギ−IgG抗体HRP複合体(GE Healthcare、カタログ番号:NA934)インキュベートし、洗浄後、ECL−ADVAVCE(GE ヘルスケア・ジャパン社、カタログ番号:RPN2135V)で発光させたバンドを検出した。
【0189】
(結果)
図4に、線維化の形質転換の原因となりうる主たる経路の活性をサル角膜内皮を用いてウェスタンブロットで検討した結果を示す。線維芽細胞においてSmad2のリン酸化(TGF−β経路の活性化)、p38 MAPKの活性化、JNK経路の活性化が認められた。一方で、ERK1/2のリン酸化は抑制されていた。Smad2、p38、ERK1/2およびJNKは報告によればすべてEMT経路に関与している[Chen KH,et al.(1999)Invest Ophthalmol Vis Sci 40:2513−2519]、[Kim TY,et al.(2001)Invest Ophthalmol Vis Sci 42:3142−3149]、[Naumann GO,et al.(2000)Ophthalmology 107:1111−1124]、[Parsons CJ,et al.(2007)J Gastroenterol Hepatol 22 Suppl 1:S79−84]、[Ma FY,et al.(2009)Front Biosci(Schol Ed)1:171−187]ので、本発明者らは、Smad2およびMAPKが、上皮細胞において観察されるEMTと同様の内皮間葉転換に関与するかどうかを検討した。Smad2のリン酸化は、正常表現型のものと比較した場合に、線維芽細胞様表現型において大いに促進されることが分かった(図4)。p38およびERK1/2のリン酸化は、線維芽細胞様表現型において大いに増強されたが、JNKの活性化は無視しうるものであった。ただし、ERKのリン酸化は細胞の線維化による変化のみではなく、細胞増殖による影響があるために、細胞の増殖の状態によっては異なる結果となることがありうることを確認している。これらの知見は、TGF−βシグナル伝達が、CECの線維芽細胞様転換にとって重要な役割を発揮し得ることを示す。
【0190】
(実施例2:角膜内皮の形質転換の抑制例)
本例では、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することでサル角膜内皮の形質転換を抑制することができた例を示す。
【0191】
(材料および方法)
使用した材料のうち比較例1〜3および実施例1と同じものは比較例1〜3および実施例1と同様に入手し培養等を行った。
・カニクイザル角膜内皮細胞:別の目的で安楽死させたカニクイザルの眼球を購入して、(Nissei Bilis Co.,Ltd.,Ohtsu,Japanおよび Keari Co.,Ltd.,Wakayama,Japan)角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。この際同一角膜を2分して、サル角膜内皮培養用基本培地(10%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)と2ng/ml 塩基性FGF(INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)を添加したDMEM(INVITROGEN、カタログ番号:12320))および基本培地に1μmol/lSB431542(TOCRIS社、カタログ番号:1614)を添加したものを用いた。
【0192】
(結果)
図5に示すように、位相差像は、SB431542の存在下で培養した霊長類CECが真の多角形細胞形状と接触阻害型の単層を示す一方で、コントロールのCECは、線維芽細胞様の形態を示すことを実証した(図4A)。コントロールの基本培地で培養したものは線維芽細胞様に形質転換して重層化を認める一方で、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することで多角形の大小不動の小さい一層の生体同様の形態を示し、サル角膜内皮の形質転換を抑制することができた。
【0193】
(実施例3:角膜内皮の正常機能の維持の実証)
本実施例では、本発明により、培養の正常化の実証として、角膜内皮の機能関連タンパク質が維持されることを実証した。以下に詳細を示す。
【0194】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。特に実施例2と同様のものを用いた。
・SB431542:TOCRIS社から得た(カタログ番号:1614)。
・Na/K−ATPaseに対する抗体:MILLIPORE社製のもの(カタログ番号:05−369)を用いた。
・ZO−1に対する抗体:マウスINVITROGEN社製(カタログ番号:339100)、ウサギZYMED LABORATORIES社製(カタログ番号:61−7300)のものを用いた。
・GAPDHに対する抗体:ABCAM社のもの(カタログ番号:ab36840)を用いた。
・免疫染色等:実施例2と同様に培養した細胞を固定してNa/K−ATPaseおよびZO−1に対して免疫染色を行い、蛍光顕微鏡にて撮影した。
・ウエスタンブロット法:実施例1と同様にNa/K−ATPase、ZO−1、GAPDHに対するウエスタンブロット法を行った。
・リアルタイムPCR法:また、以下の方法にてNa/K−ATPase、ZO−1、GAPDHに対するPCR法を行った。プライマーは、オリゴヌクレオチド合成会社であるINVITROGENから購入し、脱塩処理したものを用いた。自然に線維様形態に変化した角膜内皮細胞および正常角膜内皮細胞を試料とし、Na/K−ATPase、ZO−1のmRNA量を半定量的PCR法により調べた。細胞からの総RNAの抽出にはRNEasy(QIAGEN社、カタログ番号:74106)を用いた。抽出したRNAはRever Tra Ace(TOYOBO社、カタログ番号:TRT−101)により逆転写反応(42℃、60分間)を行い、TAKARA Taq HotStart Version(タカラバイオ社、カタログ番号:RR001A)によりGAPDHを内部標準としてNa/K−ATPase、ZO−1を増幅した。PCR反応には下記に示すプライマーを用いた。
増幅されたDNA断片は1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイド染色により検出した。
【0195】
(結果)
図6に示すように、培養により線維芽細胞様に形質転換したサル角膜内皮細胞においては機能関連マーカーであるNa/K−ATPase、ZO−1の発現が免疫染色、ウェスタンブロット、PCRにて示された。一方で、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することでサル角膜内皮の機能関連タンパク質が維持されることが示された。すなわち、SB431542処理したCECがNa/K−ATPaseおよびZO−1の特徴的な原形質膜染色を示した一方で、コントロールのCECはその染色を失っており、SB431542処理した細胞では内皮機能が維持されることが示唆された(図6左)。また、Na/K−ATPaseおよびZO−1の発現は、タンパク質(図6右上)およびmRNAレベル(図6右下)の両方で、SB431542処理した線維芽細胞様表現型において強力に亢進された。これらのデータは、TGF−βが霊長類CEC培養において観察された内皮間葉転換の直接媒介因子であり得ることをさらに確認した。
【0196】
(実施例4:TGF−βの正常化喪失能)
本実施例では、TGF−βシグナルがサル角膜内皮の形質転換に関与することを確認するために、TGF−βを添加して形質転換を誘導し機能関連タンパクが喪失することを示した(免疫染色)。また、ウェスタンブロットにより、TGF−βを添加して形質転換を誘導し機能関連タンパクが喪失することを示した。以下に詳細を示す。
【0197】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
・TGF−β:R&D SYSTEMS社のもの(カタログ番号:240−B)を用いた。
・Na/K−ATPaseに対する抗体:MILLIPORE社製のもの(カタログ番号:05−369)を用いた。
・ZO−1に対する抗体:マウスINVITROGEN社製(カタログ番号:339100)、ウサギZYMED LABORATORIES社製(カタログ番号:61−7300)のものを用いた。
・GAPDHに対する抗体:ABCAM社のもの(カタログ番号:ab36840)を用いた。
・pSmad2に対する抗体:CELL SIGNALING社のもの(カタログ番号:3108P)を用いた。
・pSmadに対する抗体:CELL SIGNALING社のもの(カタログ番号:5339P)を用いた。
・培養方法:サル角膜内皮細胞をサブコンフルエントまで培養し、培地中に終濃度0、1、10ng/mLとなるようにTGF−β1を添加し、37℃で形態に変化が現れるまで培養した。
・染色方法:上記実施例のとおりである。
・細胞画分抽出法:上記実施例のとおりである。
・ウェスタンブロット法:上記実施例のとおりである。
【0198】
(結果)
図7に示すように、TGF−βシグナルがサル角膜内皮の形質転換に関与することを確認するために免疫染色を行ったところ、TGF−βを添加して形質転換を誘導し機能関連タンパクが喪失することが示された。すなわち、図7に示すように、正常表現型が、外来性TGF−βに曝露された際に、線維芽細胞様の細胞へと転換することが示された。正常表現型の原形質膜におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の染色パターンは、TGF−βに暴露されることにより完全に消失した(図7中列、右列)。
【0199】
また、図8に示すように、TGF−βを添加して形質転換を誘導し機能関連タンパクが喪失することがウェスタンブロットにおいても示された。また、Smad2のリン酸化がTGF−βの添加により誘導されており、TGF−βの添加により下流シグナルの活性化が生じていることが確認できる。この結果から、TGF−βとその下流シグナルの活性化が正常機能の喪失の直接的な原因であり、その経路を阻害することによって正常化を維持することができることが理解される。すなわち、増殖因子もまた、タンパク質レベルにおいて、これら2つのタンパク質の発現を、濃度依存性の様式で著しく低減させたが(図8左欄)、Smad2のリン酸化は、濃度依存性の様式で大きく増大した(図8右欄)。これらのデータは、霊長類CECの正常表現型でさえ、TGF−β刺激に応答して線維芽細胞様表現型を獲得する傾向にあることを示す。
【0200】
(実施例5:ヒト細胞での実証)
本実施例では、ヒト角膜内皮においても、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することで形質転換を抑制し、正常な内皮を培養することを確認した。以下に詳細を示す。
【0201】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
【0202】
シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。培地はOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN、カタログ番号:31985−070)+8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA、カタログ番号:C7902−500G)+0.08%コンドロイチン硫酸(SIGMA、カタログ番号:C9819−5G)+20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA、カタログ番号:A4544−25G)+50μg/mlゲンタマイシン(INVITROGEN、カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN、カタログ番号:PHG0311)を3T3フィーダー細胞用の馴化させたものを基本培地として用いた。回収したヒト角膜内皮細胞は二分して、一方は基本培地で培養してコントロールとして、他方は基本培地に最終濃度1μmol/lとなるようにSB431542(TOCRIS社、カタログ番号:1614)を添加して培養した。
・酵素結合免疫吸着測定法(ELISA):HCECの培養上清中の1型コラーゲンを、ELISA kits for Collagen Type I Alpha 2(COL1a2)(Uscn Life Science Inc.,Wuhan,China)を製造元の説明書に従って使用して測定した。SB431542と共に、または、SB431542なしで培養したHCEC由来の培養上清を各群(n=5)について使用した。
(結果)
図9に示すように、SB431542を含まない基本培地で培養すると線維芽細胞様に形質転換して、重層化するのに対して、SB431542を培地に添加したものでは多角形の大小不動の少ない一層の細胞が培養される。このことより、サルのみならずヒト角膜内皮においても、TGF−βシグナルをレセプターのリン酸化阻害剤により阻害することで形質転換を抑制し、正常な内皮を培養することが確認された。すなわち、霊長類CECにおいて観察された興味深い知見から、HCECが、内皮間葉転換に至る同様の望ましくない細胞の不可避の変化に供されたかどうかをさらに検討した。最も興味深いことに、培養HCECは、特徴的な接触阻害型の単層構造と、多角形表現型を失い、そして、霊長類CECのような線維芽細胞様の細胞形態を獲得した(図9)。
【0203】
(SB431542のさらなる解析)
次に、本発明者らは、SB431542が内皮細胞の機能を維持することができるかどうか試験した。ここでは、SB431542が、HCECの機能を維持し、HCECの線維芽細胞様の変化を抑制することを種々の実験を用いて実証した。結果を図9Aに示す。
【0204】
図9AのAおよびBに示されるように、SB431542によるTGFレセプターシグナル伝達をブロックすることによって、Na/K−ATPaseおよびZO−1が細胞膜での細胞内局在が可能になり、それらのタンパク質発現の維持が可能になった。スケールバーは100μmを示す。図9AのCに示されるように、ELISAアッセイによって、SB431542が、コラーゲン1型の細胞上清への分泌を顕著にダウンレギュレートしたことをが示された。**P<0.05。図9AのDおよびEに示されるように、SB431542がコラーゲン1型およびフィブロネクチンの発現をmRNAレベルで有意に減少させることが示された。
【0205】
以上のように、図9AのAおよびBに示す知見により、TGFレセプターシグナル伝達のブロックによって、細胞膜(原形質膜)におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の細胞内局在が可能になり、そのタンパク質の発現の維持が可能になったことが実証された。非常に重要なことに、ELISAアッセイによって、SB431542は、コラーゲン1型の培養上清への分泌を顕著にダウンレギュレートしていたことが明らかになった(図9AのC)。また、SB431542は、mRNAレベルでコラーゲンI型およびフィブロネクチンの発現を顕著に減少させた(図9AのDおよびE)。
【0206】
(実施例6:別法での角膜内皮の培養正常化例)
本実施例では、上述の実施例で用いたSB431542以外の方法としてBMP−7を用いてもTGF−βシグナルを拮抗させヒト角膜内皮の形質転換を抑制することができることを実証した。以下にその詳細を示す。
【0207】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
・BMP−7:R&D SYSTEMS社のもの(カタログ番号:354−BP)を用いた。
・ファロイジン:Alexa Fluor(登録商標)488(INVITROGEN、カタログ番号:A12379)を用いた。
・培養方法:図3と同様の方法でヒト角膜内皮細胞を馴化培地にて培養した。続いてトリプシンにて継代培養を行ったが、同様の馴化培地にBMP−7(100ng/ml)を添加した培地で培養したものと、コントロールとして同様の馴化培地にて培養したものを比較した。
・位相差顕微鏡およびファロイジンによる細胞骨格の染色による形態観察において、コントールでは線維芽細胞様に形質転換して重層化する一方で、BMP−7添加培地では一層の多角形細胞の形態を維持できた。
【0208】
(結果)
図10に示すように、SB431542以外の方法としてBMP−7を用いてもTGF−βシグナルを拮抗させサル角膜内皮の形質転換を抑制することができた。BMP−7はSB431542とは他の詳細な伝達経路は異なるもののTGF−βシグナルに関連する因子としては共通することが知られている。すなわち、TGF−βシグナル伝達経路は、ALK4,5または7を経由するSmad2/3系と、ALK1,2,3または6を経由するSmad1/5/8系とに大きく分類され、いずれも線維化に関連していることがよく知られている。したがって、実質的にTGF−βシグナル全般を抑制することにより、角膜内皮の形質転換を抑制することができることが理解される。理論に束縛されることを望まないが、Smad2/3(ALK4、5および7に関連する)を介して効果を奏するSB431542、Smad1/5/8(ALK1、2、3および6に関連する)を介して効果を奏するBMP−7の両方で正常化が観察されていることから、これらのいずれの経路のTGF−βシグナル阻害剤であっても、本発明の効果を達成することができると理解される。TGF−βシグナル伝達経路は、ALK4/5/7を経由するSmad2/3系と、ALK1/2/3/6を経由するSmad1/5/8系とに大きく分類され、いずれも線維化に関連していることがよく知られている(J.Massagu’e,Annu.Rev.Biochem.1998.67:753−91;Vilar JMG,Jansen R,Sander C(2006)PLoS Comput Biol 2(1):e3;Leask,A.,Abraham,D.J.FASEB J.18,816−827(2004);Coert Margadant & Arnoud Sonnenberg EMBO reports(2010)11,97−105;Joel Rosenbloom et al.,Ann Intern Med.2010;152:159−166.)。したがって、2種類の代表的なTGF−βシグナル阻害剤のいずれによっても培養正常化が達成し得たことから、これらの結果から、Smad経路を問わず、どのようなTGF−βシグナル阻害剤であっても、培養正常化剤として機能しうることが理解される。
【0209】
(BMP−7の濃度依存性の確認)
次に、3種類の濃度を用いて、BMP7がHCEC線維芽細胞様への変化を抑制し、その機能を維持することを示した。BMP−7はMETを促進し、TGF−β媒介性の上皮間葉転換を特異的に阻害する。したがって、この分子は、EMTプロセスをアンタゴナイズするために使用されている[ZeisbergM,et al.(2003)Nat Med 9:964−968]、[Simic P,et al.(2007)EMBO Rep 8:327−331]、[BuijsJT,et al.(2007)Am J Pathol 171:1047−1057]、[Zeisberg M,et al.(2007)J BiolChem 282:23337−23347]。それゆえ、本発明者らは、BMP−7がHCECの不可避の変化をアンタゴナイズできたかどうかを検討した。線維芽細胞様HCECを、10〜1000ng/mlの範囲の濃度のBMP−7で処理した。
【0210】
結果を図10Aに示す。図10AのAに示されるように、線維芽細胞の表現型の細長い細胞形は、濃度依存性の様式でBMP−7の存在下で応答して多角形細胞形態に変換された。スケールバーは100μmである。図10AのBに示されるように、BMP−7は、正常なCECで観察されたもの[BarryPA,et al.(1995)Invest Ophthalmol Vis Sci 36:1115−1124]と同様に、通常の六角形の細胞形態を可能にし、アクチンの細胞表層における細胞骨格分布を可能にした。スケールバーは100μmである。図10AのCおよびDに示されるように、BMP−7は、細胞膜(原形質膜)におけるNa/K−ATPaseおよびZO−1の細胞内局在を維持した。スケールバーは100μmである。図10AのEおよびFに示されるように、BMP−7は、1000ng/mlの濃度において、CECを、機能関連マーカーの陽性発現をともなう、多角形の接触阻害型表現型に維持することができた。なお、コントロールは無添加である。Na/K−ATPase陽性細胞およびZO−1陽性細胞の両方とも、BMP−7で処理した場合に、コントロールに比べて割合が有意に増加していた。*P<0.01、**P<0.05。
【0211】
BMP−7を用いて繊維芽細胞様への変化を抑制し、内皮細胞機能を維持することが証明された。
【0212】
本発明者らは、骨形態形成タンパク質7(BMP−7)がHCECの先行変化を阻害することができるかどうかを調べた。線維芽細胞様HCECをBMP−7で10ng/ml〜1000ng/mlの濃度範囲で処理した。重要なことに、線維芽細胞様の表現型の細長い細胞形状は、濃度依存的にBMP−7の存在下に応答して、多角形細胞形態へと変換した(図10AのA)。BMP−7によって、六角形の細胞形態が可能となり、アクチンの細胞表層への細胞骨格分布の維持が可能になった(図10AのB)。これは、正常のCECにおいて観察されるのと同様の状態である(Barry PA,Petroll WM,Andrews PM,Cavanagh HD,Jester JV.The spatial organization of corneal endothelial cytoskeletal proteins and their relationship to the apical junctional complex.Investigative ophthalmology & visual science.1995;36:1115−24)。Na/K−ATPase陽性細胞(図10AのC)およびZO−1陽性細胞(図10AのD)の細胞膜への細胞内局在も維持されていた。したがって、BMP−7は、1000ng/mlの濃度で、CECを多角形の形態に維持し、機能関連マーカーの陽性発現を伴う接触阻害による表現型の維持を行うことができることが示された(図10AのEおよびF)。この傾向は、10ng/mlでも見られ、100ng/mlでその傾向が増大しており、1000ng/mlでより顕著であった。
【0213】
(実施例7:追加的効果の確認)
本実施例では、TGF−βシグナル伝達においてp38 MAPKの阻害剤でもあるSB203580を、SB431542に加えて用いることによって、培養正常化が強化されることを示す。以下に詳細を示す。
【0214】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
【0215】
シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。培地はヒトはOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMAカタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+ 20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/mlゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)を3T3フィーダー細胞用の馴化させたものを基本培地として用いた。また、基本培地にSB431542(1μmol/l、TOCRIS、カタログ番号:1614)を添加したもの、SB203580(1μmol/l、CALBIOCHEM、カタログ番号:559389)を添加したもの、SB431542(1μmol/l)およびSB203580(1μmol/l)を添加したもので培養した。
【0216】
回収したヒト角膜内皮細胞は二分して、一方は基本培地で培養してコントロールとして、他方は基本培地に最終濃度1μmol/lとなるようにSB431542(TOCRIS社)を添加して培養した。
【0217】
(結果)
図11に示すように、TGF−βシグナル伝達においてp38 MAPKの阻害剤でもあるSB203580を、SB431542に加えて用いることによって、培養正常化が強化されることが実証され、さらに老化により活性化することが知られているp38 MAPKの阻害剤であるSB203580を添加することで、老化することで低下することが知られている角膜内皮密度が上昇した。このことからSB203580の老化抑制(未分化維持)の効果も追加的に発揮されることにより、効果が増強されることが理解される。このように、p38 MAPK阻害に加えてTGF−βシグナル阻害によりヒト角膜内皮細胞が、継代を繰り返しても高密度で形態保持したヒト角膜内皮細胞(HCEC)の培養が可能になり、培養の正常化がより強化されることが分かった(継代を繰り返しても高密度で形態保持したHCECができることを示す)。
【0218】
非特許文献7では、従来の角膜内皮細胞培養培地では、継代すると正常な状態を維持しつつ増殖させることができないことが記載されている。また、非特許文献8〜11には、それぞれ、FBS、EGFおよびNGFを含む培地、b−FGFを用いた培地、コラゲナーゼを用いた培地、および馴化培地を用いた培地が記載されているが、非特許文献7および比較例で示されたように、いずれの従来培地も、正常な機能を維持しつつ角膜内皮細胞を増殖することはできない。この文献を参考にして、本発明の培地または培養正常化剤の効果を評価すると、従来技術の培地に比べて格段に正常化維持能があることが理解される。
【0219】
(実施例8:好ましい培養法の確立)
以上の実施例等の結果から、ヒト角膜内皮細胞の好ましい培養法の確立を試みた。以下にその詳細を示す。
【0220】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
【0221】
シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがして回収後、初代培養を行った。培地はヒトはOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08%コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/mlゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)を3T3フィーダー細胞用の馴化させたものを基本培地としてSB431542(1μmol/l)およびSB203580(1μmol/l)を添加したもので培養した。
【0222】
プロトコールは図12に例示される。詳細には以下のとおりである。
【0223】
(培養法1)
初代培養および継代培養時には接着促進作用をもつRhoキナーゼ阻害剤であるY−27632(WAKOあるいはTOCRIS)を最終濃度10μmol/lとして48時間添加した。
【0224】
(培養法2)
Rhoキナーゼ阻害剤であるY−27632(WAKO、カタログ番号:253−00513)を最終濃度10μmol/lとして培養中は常に添加した。
【0225】
(培養法3)
Y−27632を添加しないで基本培地としてSB431542(1μmol/l)およびSB203580(1μmol/l)を添加したもので培養した。
【0226】
(結果)
図13に示すのは最終的に確立されたヒト角膜内皮細胞培養の1例であり、この図および図12で示されるように、培養法1〜培養法3のいずれにおいても、ヒト角膜内皮細胞をその正常な機能を維持しつつ多角形の一層の正常の形態を示す細胞として高密度で増幅させることが確認され、標準培養法の例を確立することができた。
【0227】
(実施例9:培養ヒト角膜内皮移植例)
実施例8で確立された培養法のうち培養法3により培養したヒト角膜内皮細胞を、霊長類であるカニクイザルを用いた角膜内皮不全モデル(水疱性角膜症モデル)に移植した結果を示す。接着促進作用を有するROCK阻害剤とともに培養したヒト角膜内皮細胞を移植することにより角膜の透明治癒が得られることを示す。これは本発明において培養したヒト角膜内皮細胞が生体においても正常な機能を発現して、再生医療に応用できることを示す。
【0228】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
・カニクイザル:滋賀医科大学動物生命科学研究センターにおいて倫理審査を得たのちに、可能な限り動物愛護的に以下の検討を行った。
【0229】
全身麻酔下でカニクイザルの角膜輪部を1.5mm切開してシリコン製の手術器具を前房内に挿入して角膜内皮細胞を機械的に掻爬して水疱性角膜症モデルを作製する。続いて生体外で本発明による方法により培養したヒト角膜内皮細胞を2.0×10個を基礎培地に懸濁して、接着促進効果を有するROCK阻害剤であるY−27632を最終濃度100μmol/lとなるように添加して前房内に注入した。コントロールとしてヒト角膜内皮細胞を2.0×10個を基礎培地に懸濁したものをROCK阻害剤を併用せずに注入した。注入後、眼球が下向きになるようにうつむき姿勢で3時間維持して、角膜内皮面への細胞接着を促した。培養角膜内皮シートの移植による水疱性角膜症の治療効果は細隙灯顕微鏡による角膜透明性評価、超音波パキメーターによる角膜厚測定にて行った(図14)。図14に示すように、霊長類モデル角膜内皮不全モデルにおいて、本発明の方法で培養した細胞は、細胞のみでも良好な治療成績を示し、ROCK阻害剤を加えるとさらに治療成績が改善した。
【0230】
2.5カ月後に安楽死させ、角膜を摘出して組織を固定した後に、実施例2と同様にファロイジンおよびNa/K−ATPaseおよびZO−1に対して免疫染色を行い、蛍光顕微鏡にて撮影した(図15)。結果を図15に示す。図15でも示すように、霊長類モデル角膜内皮不全モデルにおいて、本発明の方法で培養した細胞は、細胞のみでも良好な治療成績を示し、ROCK阻害剤を加えるとさらに治療成績が改善し、特に、これまで実現できなかった、ヒト被験体において初めて、角膜内皮の正常な機能を維持する治療法が本発明によって提供された。
【0231】
(実施例10:抗TGF−β中和抗体での例)
本実施例では、抗TGF−β中和抗体でも同様に培養正常化が達成されるか確認した。薬剤を交換すること以外は、上記比較例および実施例に準じて実験をした。
【0232】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
・抗TGF−β中和抗体:R&D SYSTEMS社のもの(カタログ番号:MAB240)を用いた。
・培養方法:図3の結果を示した方法(比較例3等を参照)と同様の方法でヒト角膜内皮細胞を培養した。続いてトリプシンにて継代培養を行ったが、通常培地としてOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%ウシ胎仔血清(FBS)(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg アスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)で培養したものと、これにTGF−β中和抗体(500ng/ml)を添加した培地で培養したものを比較した。
・位相差顕微鏡による形態観察において、図16に示されるように、通常培地では形質転換して多角形細胞の形態を喪失し、大小不動の細胞が多く認められる一方で、TGF−β中和抗体添加培地では高密度の一層の多角形細胞の形態を維持できた。霊長類CECと一致して、CECを、TGF−β受容体に対する特異的インヒビター(SB431542)とともに培養した場合、このインヒビターは、細胞の形状が線維芽細胞様表現型に変化することをブロックすることができた。線維芽細胞様表現型に対するSB431542の阻害作用と同様に、TGF−βに対する中和抗体(図16B)もまた、細胞が線維芽細胞様表現型を獲得するのをブロックした。
【0233】
このように、抗TGF−β中和抗体を用いても、SB431542およびBMP−7に代えて用いて同様の実験を行い、培養正常化を確認することができた。
【0234】
本実施例においても、TGF−β自体を中和することによってTGF−βシグナル伝達をを阻害しても、線維化が抑制され、ZO−1およびNa/K−ATPaseの活性を保持することが示され、継代培養しても「正常化」活性を維持しつつ増殖させることができることが証明された。
【0235】
(実施例11:別法での角膜内皮の培養正常化例)
本実施例では、上述の実施例で用いたSB431542以外の方法としてSmad3阻害剤を用いてTGF−βシグナルを阻害させヒト角膜内皮の形質転換を抑制することができることを実証した。以下にその詳細を示す。
【0236】
(材料および方法)
使用した材料のうち上記比較例および実施例と同じものは上記比較例および実施例と同様に入手し培養等を行った。
・Smad3阻害剤:Calbiochem社の6,7−ジメトキシ−2−((2E)−3−(1−メチル−2−フェニル−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル−プロプ−2−エノイル))−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノロン(カタログ番号:566405)を用いた。Smad3阻害剤は、Merck Milliporeからも入手可能である。
・培養方法:図3の結果を示した方法(比較例3等を参照)と同様の方法でヒト角膜内皮細胞を培養した。続いてトリプシンにて継代培養を行ったが、通常培地としてOpti−MEM I Reduced−Serum Medium,Liquid(INVITROGEN カタログ番号:31985−070)+8%ウシ胎仔血清(FBS)(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)+200mg/ml CaCl・2HO(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)+0.08% コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)+20μg アスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)+50μg/ml ゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)+5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)で培養したものと、これにSmad3阻害剤(0.3mMおよび3mM)を添加した培地で培養したものを比較した。
【0237】
その結果を図17に示す。位相差顕微鏡による形態観察において、通常培地では形質転換して多角形細胞の形態を喪失し、大小不動の細胞が多く認められる一方で、Smad3阻害剤添加培地では0.3mMおよび3mMともに高密度の一層の多角形細胞の形態を維持できた。すなわち、霊長類CECと一致して、CECを、TGF−β受容体に対する特異的インヒビター(SB431542)とともに培養した場合、このインヒビターは、細胞の形状が線維芽細胞様表現型に変化することをブロックすることができた。線維芽細胞様表現型に対するSB431542の阻害作用と同様に、Smad3インヒビター(図17)もまた、細胞が線維芽細胞様表現型を獲得するのをブロックした。
【0238】
(考察)
視覚障害をともなう角膜内皮機能不全は、角膜移植手術の主要な適応症である[Darlington JK,et al.(2006)Ophthalmology 113:2171−2175]、[Price MO,et al.(2010)Clin Experiment Ophthalmol 38:128−140]。角膜移植は角膜内皮機能不全について広く行われているが、研究者らは現在、健康な角膜内皮を回復させるための代替的な方法を探究している。角膜内皮が、若いドナーから培養され、「マスター細胞」としてストックすることにより、高い機能的能力を持つ細胞の移植が可能となる。加えて、拒絶のリスクを低下させるためのHLA適合移植[Khaireddin R,et al.(2003)Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 241:1020−1028]、[Coster DJ,et al.(2005)Am J Ophthalmol 140:1112−1122]が可能となる。組織生体工学は、視力を失った患者のための治療を開発するための新たなアプローチである[Engelmann K,et al.(2004)Exp Eye Res 78:573−578]。今日までに、生体工学的アプローチを利用する2つの方法が存在する:1)生体工学コンストラクト上に接着させた培養ドナーHCECの使用[Ishino Y,et al.(2004)Invest Ophthalmol Vis Sci 45:800−806]、[Mimura T,et al.(2004)Invest Ophthalmol Vis Sci 45:2992−2997]、[Koizumi N,et al.(2007)Invest Ophthalmol Vis Sci 48:4519−4526]、[Koizumi N,et al.(2012)Exp Eye Res 95:60−67]、そして、2)前眼房内への培養HCECの移植[Okumura N,et al.(2012)Am J Pathol 181:268−277]、[Mimura T,et al.(2003)Exp Eye Res 76:745−751]、[Mimura T,et al.(2005)Invest Ophthalmol Vis Sci 46:3128−3135]、[Patel SV,et al.(2009)Invest Ophthalmol Vis Sci 50:2123−2131]。臨床の状況に対してこれら2つの方法のいずれを応用するかに関わらず、HCECのための効率的な培養技術の確立は、必須かつ不可避である[Peh GS,et al.(2011)Transplantation 91:811−819]。多くの研究者が、HCECの不変で長期の培養を確立することが非常に難しいことを認めている[Engelmann K,et al.(2004)Exp Eye Res 78:573−578]。HCECの首尾よい培養がいくつかのグループによって報告されているが、単離およびその後の培養プロトコールにともなう手順は、研究室間で非常に多様である[Peh GS,et al.(2011)Transplantation 91:811−819]。最も困難な問題の1つは、HCECが、各継代ごとに甚だしい線維芽細胞様の変化を受けやすいことである[Engelmann K,et al.(2004)Exp Eye Res 78:573−578]。それゆえ、移植の目的での後の使用のために生理学的表現型を維持するためには、CECの自発的な転換を回避する手段を見出すことが必須である。
【0239】
内皮細胞から線維芽細胞様の細胞への転換は、内皮間葉転換と呼ばれる。こうした転換は、Smad2/3経路を介してTGF−βによって誘発される[Saika S(2006)Lab Invest 86:106−115]。内皮間葉転換は、接触阻害型の単層の喪失、および、原形質膜における頂端結合タンパク質の喪失といった、特徴的な内皮表現型の喪失を引き起こす。さらに、これは、1型コラーゲンおよびフィブロネクチンといった繊維性タンパク質の誘導を引き起こす。本研究において、本発明者らは、培養CECの線維芽細胞様表現型が、内皮様の特徴を大きく失うことを実証した;Na/K−ATPaseおよびZO−1の発現は、著しく低減し、その細胞内局在化は、真の細胞膜ではなくサイトゾル内となった。さらに、線維芽細胞様表現型は、基底膜表現型(IV型およびVIII型コラーゲン)ではなく、線維性ECMタンパク質(1型コラーゲン、フィブロネクチンおよびインテグリンα5)の産生を著しく増強する。このような望ましくない細胞の存在は、臨床の状況における培養細胞の移植の成功を大きく妨げるであろう。それゆえ、何が表現型の変化を引き起こし、培養CECのこのような内皮間葉転換プロセスにおいてどのように干渉するかを決定することが重要である。Smad2/3のリン酸化が線維芽細胞様表現型において大いに増強されたという事実から、本発明者らは、線維芽細胞様表現型が、霊長類およびヒトの両方のCECにおいて、TGF−βシグナル伝達によって媒介されると結論付けるに至った。それゆえ、本発明者らは、線維芽細胞様表現型において観察される内皮間葉転換プロセスをブロックするためにTGF−β受容体に対する特異的インヒビター(SB431542)[Inman GJ,et al.(2002)Mol Pharmacol 62:65−74]を用いた。SB431542は、望ましくない細胞の変化を完全に無効にし、霊長類またはヒトのいずれかのCEC培養をSB431542で処理した場合、線維芽細胞様表現型への細胞の不可避の変化は、完全に無効にされた。同時に、ZO−1およびNa/K−ATPaseの特徴的な細胞内位置が原形質膜に戻り、そして、これら2つのタンパク質の発現はmRNAおよびタンパク質の両方のレベルにおいて大きく増大し、これらの培養におけるバリアおよびポンプの機能がインタクトであることが示唆される。さらに、本発明者らは、線維性ECMタンパク質の産生が大きく減少したことも見出した。本発明者らはさらに、周知の抗EMT因子であるBMP−7[Zeisberg M,et al.(2003)Nat Med 9:964−968]、[Zeisberg M,et al.(2007)J Biol Chem 282:23337−23347]が、HCECの線維芽細胞様表現型を逆転させる作用について検討した。BMP−7はまた、線維芽細胞様表現型を、単層の特徴的な内皮接着を持つ正常な角膜内皮細胞へと逆転させた。まとめると、SB431542およびBMP−7はともに、培養CECの正常な内皮表現型を維持するための強力なツールとなり得、したがって、その後の移植の成功につながる。
【0240】
結論として、本発明者らの知見は、TGF−β受容体に対するインヒビター(SB431542)および/または、抗EMT分子(BMP−7)の使用が、HCECを正常な生理学的機能(すなわち、バリアおよびポンプの機能)を維持したまま増殖させることを可能にすることを示した。より徹底的な将来の研究が有益であるが、本発明者らは、数回の継代の後でさえ、形態および機能に関して、連続的なSB431542またはBMP−7での処置の何らかの明白な有害作用を認めていない。本研究は、再生医療に用いるためのHCECの効率的な生体外での培養法に関するプロトコールを提供するものであることを証明し得る。加えて、培養中の線維芽細胞様の変化の阻害のこの新たな戦略は、最終的に、臨床医に対して、角膜内皮機能不全の治療のためならず、様々な病理学的疾患全般のための再生医療における新たな治療様式を提供することができる。
【0241】
(実施例12:他の阻害剤での例)
本実施例では、他のTGF−βシグナル阻害剤でも同様に培養正常化が達成されるか確認する。薬剤を交換すること以外は、上記実施例に準じて実験をすることができる。
【0242】
(材料および方法)
・A83−01(TOCRIS社またはミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec)社から入手可能):A83−01はI型TGF−b受容体ALK5、Activin/Nodal受容体ALK4、Nodal受容体ALK7の選択的阻害物質である。
・StemoleculeTM ALK5インヒビター(ミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec)社から入手可能):I型TGF−b受容体であるアクチビン受容体様キナーゼ(activin receptor−like kinase)(ALK5)の選択的なATP競合的阻害物質である。
・LDN−193189(ミルテニーバイオテク(Miltenyi Biotec)社から入手可能):BMP Type I受容体ALK2およびALK3を阻害する。
・SmadのsiRNA(標準的な方法で合成する。)
これらを上記実施例で使用されたSB431542またはBMP−7に代えて用いて同様の実験を行い、培養正常化を確認する。
【0243】
本実施例においても、いずれのTGF−βシグナル阻害剤であっても、線維化が抑制され、ZO−1およびNa/K−ATPaseの活性を保持することが示され、継代培養しても「正常化」活性を維持しつつ増殖させることができることが証明される。
【0244】
(実施例12:製剤例:角膜内皮シート調製用培養液)
本実施例では、製剤例として、本発明の培養正常化剤を含有する角膜内皮シート調製用培養液を以下のようにして製造する。
【0245】
常法により下に示す培養液を調製する。
SB431542 3.8439mg
SB203580 3.7743mg
FBS 10mL
ペニシリン−ストレプトマイシン溶液 1mL
FGF basic 200ng
DMEM 適量
全量 100mL
FBSは例えば、BIOWEST(カタログ番号:S1820−500)またはインビトロジェン製、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液はナカライテスク製(ペニシリン 5000u/mL,ストレプトマイシン 5000μg/mL含有)、FGF basicは例えば、インビトロジェン製(INVITROGEN、カタログ番号:13256−029)、SB431542はTOCRIS社製、SB203580はCALBIOCHEM社製、DMEMはインビトロジェン製を用いることができる。
【0246】
(実施例13:製剤例:培養正常化剤を含有する角膜保存液)
本実施例では、製剤例として、本発明の培養正常化剤を含有する角膜保存液を以下のように製造する。
【0247】
常法により下に示す保存液を調製する。
SB431542 3.8439mg
SB203580 3.7743mg
Optisol−GS(Bausch−Lomb)適量
全量100mL
各成分は、実施例12と同様に入手することができる。
【0248】
(実施例14:移植用培養角膜内皮細胞シートの作製)
本実施例では、実施例8で確立した手法または同等の方法により調製したウサギ角膜内皮細胞を使用する。また、本実施例では、実施例9と同様の方法により調製した細胞接着促進剤としてのRhoキナーゼ阻害剤または対照物質を使用する。
【0249】
移植用培養角膜内皮細胞シートの作製時にRhoキナーゼ阻害剤、例えば、Y−27632を添加し、上述の実施例と同様の手法を用いて、角膜内皮細胞の機能タンパクであるZO−lおよびNa/KATPaseの蛍光免疫細胞染色を行い、発現を確認する。
【0250】
角膜内皮シートを、95%エタノール(−30℃)で10分間固定する。PBS洗浄の後、0.5% TritonX−100/PBSで5分間処理する。その後、l%BSA/PBSを1時間処理する。その後、抗ZO−l抗体または抗Na/KATPase抗体を一晩処理する。PBS洗浄後、Alexa−488標識2次抗体を1時間処理する。PBS洗浄後、DAPI含有の封入剤を滴下し、カバーガラスで封入する。蛍光顕微鏡で写真を撮影し、ZO一1および、Na+/K+ ATPaseの発現を確認する。
【0251】
(実施例15:注入剤の調製例)
点眼剤の調製例
各濃度の被験物質の組成を以下に示す。
【0252】
Y−27632(WAKO、カタログ番号:253−00513)または他のRhoキナーゼ阻害剤 0.003g、0.01g、0.03g、0.05gまたは0.1g(脱塩酸体としての用量)
塩化ナトリウム 0.85g
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.1g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
全量100mg(pH7.0)。
【0253】
点眼剤は、基剤で希釈することも出来る。
【0254】
基材の組成は以下のとおり。
【0255】
塩化ナトリウム 0.85g
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.1g
ベンザルコニウム塩化物 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
全量100mg(pH7.0)。
【0256】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0257】
角膜内皮細胞の正常化培養方法が提供され、角膜移植に関連する技術に関与する産業(細胞培養産業、製薬等)において利用可能な技術が提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0258】
[配列表]
【図1】
【図2】
【図2A】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図9A】
【図10】
【図10A】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際調査報告】