(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014050272
(43)【国際公開日】20140403
【発行日】20160822
(54)【発明の名称】有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/30 20060101AFI20160725BHJP
   C07C 255/03 20060101ALI20160725BHJP
   C07C 255/50 20060101ALI20160725BHJP
   C07D 213/84 20060101ALI20160725BHJP
   C07F 1/08 20060101ALN20160725BHJP
【FI】
   !C07C253/30
   !C07C255/03
   !C07C255/50
   !C07D213/84 Z
   !C07F1/08 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
【出願番号】2014538241
(21)【国際出願番号】JP2013069762
(22)【国際出願日】20130722
(31)【優先権主張番号】2012217769
(32)【優先日】20120928
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
【住所又は居所】兵庫県加古郡播磨町宮西346番地の1
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】坂上 茂樹
【住所又は居所】兵庫県加古郡播磨町宮西346番地の1 住友精化株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健志
【住所又は居所】兵庫県加古郡播磨町宮西346番地の1 住友精化株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】松尾 奈美
【住所又は居所】兵庫県加古郡播磨町宮西346番地の1 住友精化株式会社内
【テーマコード(参考)】
4C055
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA59
4C055CA01
4C055DA01
4C055GA02
4H006AA02
4H006AC90
4H048AA02
4H048AC90
4H048BB31
4H048BB42
4H048BC10
4H048BC31
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、反応槽の腐食性が低く、高い収率で、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を製造する方法を提供することを主な課題とする。
銅(I)塩と、フルオロオキソ酸塩と、有機窒素化合物とを反応させることによって、反応槽の腐食性が低く、高い収率で上記錯体を製造できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる銅(I)塩と、
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子、オキソ酸基、シアノ基、チオ酸基又はチオラート基を示し、aはXの価数に相当する正の整数を示す]
下記一般式(2)で表わされるフルオロオキソ酸塩と、
【化2】
[式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムを示し、Zはフルオロオキソ酸基を示し、b及びcは式中の正電荷数と負電荷数を一致させるために必要な個数を示す]
下記一般式(3)で表わされる有機窒素化合物と、
【化3】
[式中、Lは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6の脂肪族シアノ化合物、置換若しくは非置換の芳香族シアノ化合物、又は置換若しくは非置換の含窒素複素環化合物を示す]
を反応させる工程を含む、有機窒素化合物及び銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体の製造方法。
【請求項2】
前記銅(I)塩が塩化銅(I)及び/又は臭化銅(I)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フルオロオキソ酸塩が、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム及びヘキサフルオロリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機窒素化合物がアセトニトリルである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応が−20〜40℃で行われる、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記銅(I)塩に対して、前記フルオロオキソ酸塩が0.5〜10当量の割合で使用される、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記銅(I)塩に対して、前記有機窒素化合物が1〜50当量の割合で使用される、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応に使用される反応溶媒が、水、極性溶媒、又はこれらの混合溶媒である、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前有機窒素化合物及び銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体が、下記一般式(4)
で表わされる、請求項1〜5のいずれかに記載される製造方法。
【化4】
[式中、Z及びLは前記と同じであり、nは2〜6の整数であり、dはZの価数に相当する正の整数を示す]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応槽の腐食性が低く、高い収率で、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩のような有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体は、電子材料の製造等において有用であり、商業的な製造のために高収率で合成する方法が必要とされている。
【0003】
従来、このような錯体を得る方法として、例えば、酸化銅(I)を用いて、テトラフルオロホウ酸とアセトニトリルと共に70℃で反応させる方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、この方法では酸化銅(I)に対する収率が74%と低く、工業的に製造するためには更に収率を高める必要があった。また、テトラフルオロホウ酸のようなフリーの強酸を用い、且つ70℃で反応させることから、反応槽に対する腐食性が高く、従来工業的に広く使用されているグラスライニング製のような反応槽は使用できないという問題があった。
【0004】
また他にも、酸化銅(I)を用いて、ヘキサフルオロリン酸及びアセトニトリルと共に還流下で反応させる方法(例えば非特許文献1を参照)が知られている。しかしながら、このような方法は、フリーの強酸であるヘキサフルオロリン酸を用い、更に還流下で反応させるため反応槽に対する腐食性が高く、また収率が低いという問題もあった(例えば、酸化銅(I)に対する収率が60%)。その他、フリーの強酸に代えてテトラフルオロホウ酸銅(II)を用い、銅及びアセトニトリルと共に還流下で反応させて有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩から成る錯体を製造する技術(例えば非特許文献2を参照)も知られているが、反応を還流下で行うために反応槽に対する腐食性が高く、収率が低いことから、依然として効率的に前記錯体を得ることは困難であった。
【0005】
また、強酸や高温での反応による反応槽の腐食の問題は、例えばハステロイ機器のような耐腐食性の高い反応槽を用いることにより解消され得るものではあるが、このような設備を製造ラインに導入するためには莫大な資金を必要とし、工業規模での実施は容易ではなかった。
【0006】
このような背景から、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を高い収率で得ることができ、更には反応槽に対して腐食性が低く、工業的な見地から実用性の高い製造方法の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ国特許番号第DE1230025号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Inorg.Synth.,19,90(1979)
【非特許文献2】J.Org.Chem.,49,608(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、反応槽に対する腐食性が低く、高い収率で、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を製造する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、銅(I)塩と、フルオロオキソ酸塩と、有機窒素化合物とを反応させることにより、高い収率で有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体が得られることを見出した。更に、本発明者らは、このような方法によって前記錯体を製造した場合、反応槽の腐食が抑制されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は下記製造方法を提供する。
項1. 下記一般式(1)で表わされる銅(I)塩と、
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子、オキソ酸基、シアノ基、チオ酸基又はチオラート基を示し、aはXの価数に相当する正の整数を示す]
下記一般式(2)で表わされるフルオロオキソ酸塩と、
【化2】
[式中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムを示し、Zはフルオロオキソ酸基を示し、b及びcは式中の正電荷数と負電荷数を一致させるために必要な個数を示す]
下記一般式(3)で表わされる有機窒素化合物と、
【化3】
[式中、Lは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6の脂肪族シアノ化合物、置換若しくは非置換の芳香族シアノ化合物、又は置換若しくは非置換の含窒素複素環化合物を示す]
を反応させる工程を含む、有機窒素化合物及び銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体の製造方法。
項2. 前記銅(I)塩が塩化銅(I)及び/又は臭化銅(I)である、項1に記載の製造方法。
項3. 前記フルオロオキソ酸塩が、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム及びヘキサフルオロリン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記有機窒素化合物がアセトニトリルである、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記反応が−20〜40℃で行われる、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記銅(I)塩に対して、前記フルオロオキソ酸塩が0.5〜10当量の割合で使用される、項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 前記銅(I)塩に対して、前記有機窒素化合物が1〜50当量の割合で使用される、項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 前記反応に使用される反応溶媒が、水、極性溶媒、又はこれらの混合溶媒である、項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
項9. 前有機窒素化合物及び銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体が、下記一般式(4)
で表わされる、項1〜5のいずれかに記載される製造方法。
【化4】
[式中、Z及びLは前記と同じであり、nは2〜6の整数であり、dはZの価数に相当する正の整数を示す]
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、高い収率で、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を製造する方法を提供することができる。また、本発明の製造方法は反応槽に対する腐食性が低く、更に従来よりも格段に低い温度で反応を進行させることができるため、耐腐食性及び耐熱性の高い反応槽を使用する必要がなく、製造設備への投資コスト削減の観点でも有用性の高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を製造する方法であって、特定の銅(I)塩と、特定のフルオロオキソ酸塩と、特定の有機窒素化合物とを反応させることを特徴とする。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0014】
本発明の製造方法において使用される銅(I)塩は下記一般式(1)で表わされる。
【化5】
【0015】
一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子、オキソ酸基、シアノ基(CN)、チオ酸基、又はチオラート基を示す。ハロゲン原子としては、例えば、塩素、臭素等が挙げられる。オキソ酸基としては、例えば、硫酸基(SO4)、硝酸基(NO3)、ホウ酸基(BO3)、リン酸基(PO4)、カルボン酸基(RCOO;例えば酢酸基(CH3COO)等)等が挙げられる。チオ酸基としては、例えば、チオシアノ基(SCN)等が挙げられる。チオラート基としては、例えばフェニルチオラート基(C65S)、トリフルオロメチルチオラート基(CF3S)等が挙げられる。これらの中でも、経済面や収率の観点から、Xとして、好ましくはハロゲン原子、更に好ましくは塩素が挙げられる。
【0016】
一般式(1)中、aは、Xの価数に相当する正の整数を示す。
【0017】
本発明の製造方法において使用されるフルオロオキソ酸塩は、下記一般式(2)で表わされる。
【化6】
【0018】
一般式(2)中、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムを示す。アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、経済面や収率の観点から、Mとして、好ましくはアルカリ金属、更に好ましくはナトリウム、カリウムが挙げられる。
【0019】
一般式(2)中、Zは、フルオロオキソ酸基を示す。フルオロオキソ酸基としては、例えば、テトラフルオロホウ酸基(BF4)、ヘキサフルオロケイ酸基(SiF6)、ヘキサフルオロリン酸基(PF6)、ヘキサフルオロチタン酸基(TiF6)、ヘキサフルオロジルコニウム酸基(ZrF6)、ヘキサフルオロヒ酸(AsF6)基、ヘキサフルオロスズ酸基(SnF6)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはテトラフルオロホウ酸基、ヘキサフルオロリン酸基が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中、b及びcは、式中の正電荷数と負電荷数を一致させるために必要な個数を示す。
【0021】
一般式(2)で表わされるフルオロオキソ酸塩の中でも、好ましくはテトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、テトラフルオロホウ酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、更に好ましくはテトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム、ヘキサフルオロケイ酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウムが挙げられる。
【0022】
一般式(2)で表わされるフルオロオキソ酸塩の使用割合については、特に制限されないが、例えば、一般式(1)で表される銅(I)塩に対して0.5〜10当量、好ましくは1〜3当量が挙げられる。フルオロオキソ酸塩の使用割合を前記範囲内とすることにより、反応槽に対する腐食性が更に低減される。また、フルオロオキソ酸塩の使用割合が銅(I)塩に対して0.5当量以上であれば反応を効率的に進行させることができ、10当量以下であれば使用割合に見合う効果が得られるために経済的な観点から好ましい。
【0023】
反応に際し、フルオロオキソ酸塩はそのまま添加してもよく、水若しくは極性溶媒、又はこれらの混合溶媒に溶解させて添加してもよい。このような極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコ−ル、ポリエチレングリコール等のグリコール類;N,N'−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。なかでも、経済的な観点から、水を単独で用いることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法において使用される有機窒素化合物は、下記一般式(3)で表わされる。
【化7】
【0025】
一般式(3)中、Lは、置換若しくは非置換の炭素数1〜6の脂肪族シアノ化合物、置換若しくは非置換の芳香族シアノ化合物又は置換若しくは非置換の含窒素複素環化合物を示す。
【0026】
上記Lの内、脂肪族シアノ化合物は、少なくとも1つのシアノ基を有する脂肪族化合物であって炭素数1〜6の範囲を充足すればよいが、その炭素数として、好ましくは1〜4、更に好ましくは1〜3が挙げられる。ここで、脂肪族シアノ化合物の炭素数は、非置換の状態での脂肪族シアノ化合物における脂肪族部分の炭素数(シアノ基の炭素原子を除いた炭素数)を示し、置換されている場合にはその置換基の炭素数は加算せずに求められる値である。
【0027】
上記脂肪族シアノ化合物として、具体的には、アセトニトリル、プロピオノニトリル、イソブチロニトリル、フェニルアセトニトリル、ジクロロアセトニトリル、スクシノニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンジニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、アクリロニトリル、アリルニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらの脂肪族シアノ化合物の中でも、好ましくはアセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリルが挙げられる。
【0028】
また、上記脂肪族シアノ化合物は、非置換のものであっても、また置換されたものであってもよい。脂肪族シアノ化合物が置換基を有する場合、その置換基の種類としては、としては、例えば、炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルキル基;炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルコキシ基;ハロゲン原子等が挙げられる。また、脂肪族シアノ化合物が置換基を有する場合、その置換基の数としては、例えば1〜4個、好ましくは1〜3個が挙げられる。
【0029】
上記Lの内、芳香族窒素化合物は、少なくとも1個の窒素原子を有する芳香族化合物であればよく、例えば、芳香族化合物にシアノ基が結合している化合物、好ましくはベンゼン環にシアノ基が1又は2個結合している化合物が挙げられる。このような芳香族窒素化合物として、具体的には、ベンゾニトリル、アニソニトリル、メチルベンゾニトリル、クロロベンゾニトリル、アミノベンゾニトリル、ジシアノベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族窒素化合物の中でも、好ましくはベンゾニトリル、ジシアノベンゼンが挙げられる。
【0030】
また、上記芳香族窒素化合物は、非置換のものであっても、また置換されたものであってもよい。芳香族窒素化合物が置換基を有する場合、その置換基の種類としては、例えば、炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルキル基;炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルコキシ基;ハロゲン原子等が挙げられる。また、芳香族窒素化合物が置換基を有する場合、その置換基の数としては、例えば1〜4個、好ましくは1〜3個が挙げられる。
【0031】
上記Lの内、含窒素複素環化合物は、少なくとも1つの窒素原子を含む複素環化合物であればよく、単環式又は複合環式のいずれであってもよい。含窒素複素環化合物としては、具体的には、ピロール骨格、ピラゾール骨格、イミダゾール骨格、ピリジン骨格、インドール骨格、キノリン骨格、イソキノリン骨格、プリン骨格、フェナントロリン骨格等の含窒素複素環骨格を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくはピリジン、ピラゾール、イミダゾール、フェナントロリン骨格を有する化合物、更に好ましくはピリジン、ピラゾール、イミダゾール骨格を有する化合物が挙げられる。このような含窒素複素環化合物として、より具体的には、ピリジン、ビピリジン、クロロピリジン、シアノピリジン等のピリジン骨格を有する化合物;イミダゾール、メチルイミダゾール等のイミダゾール骨格を有する化合物;ピラゾール、メチルピラゾール等のピラゾール骨格を有する化合物;フェナントロリン等のフェナントロリン骨格を有する化合物が挙げられる。これらの含窒素複素環化合物の中でも、好ましくはピリジン、ビピリジン、シアノピリジン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピラゾール、メチルピラゾールが挙げられる。
【0032】
また、上記含窒素複素環化合物は、非置換のものであっても、また置換されたものであってもよい。含窒素複素環化合物が置換基を有する場合、その置換基の種類としては、としては、例えば、炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルキル基;炭素数1〜4、好ましくは1〜3のアルコキシ基;ハロゲン原子等が挙げられる。また、含窒素複素環化合物が置換基を有する場合、その置換基の数としては、例えば1〜4個、好ましくは1〜3個が挙げられる。
【0033】
一般式(3)で表わされる化合物の中でも、好ましくはアセトニトリル、ベンゾニトリル、ジシアノベンゼン、ピリジン、ビピリジン、シアノピリジン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ピラゾール、メチルピラゾール、更に好ましくはアセトニトリル、ベンゾニトリル、ピリジンが挙げられる。
【0034】
一般式(3)で表わされる有機窒素化合物の使用割合については、特に制限されないが、例えば、一般式(1)で表される銅(I)塩に対して1〜50当量、好ましくは2〜20当量が挙げられる。当該有機窒素化合物の使用割合が、当該銅(I)塩に対して1当量以上であれば反応を効率的に進行させることができ、50当量以下であれば使用割合に見合う効果が得られる。
【0035】
上記一般式(1)で表される銅(I)塩、一般式(2)で表されるフルオロオキソ酸塩、及び一般式(3)で表される有機窒素化合物を反応させる際に用いる反応溶媒としては、水、極性溶媒、又はこれらの混合溶媒を用いることができ、具体的にはフルオロオキソ酸塩を溶解して添加する場合に用いられる溶媒と同じものが挙げられる。
【0036】
上記反応溶媒の使用量については、特に制限されないが、例えば、一般式(1)で表される銅(I)塩100質量部に対して、200〜5000質量部、好ましくは400〜2000質量部が挙げられる。反応溶媒の使用割合が、一般式(1)で表される銅(I)塩100質量部に対して、200質量部以上であれば撹拌に支障がなく収率の低下を引き起こすおそれもなく、また5000質量部以下であれば廃液量が大幅に増加することもない。
【0037】
本発明の製造方法では、上記一般式(1)〜(3)で表わされる化合物を反応させる。反応に際し、銅(I)塩、フルオロオキソ酸塩、及び有機窒素化合物を添加する順序について特に制約は無く、どの原料から添加してもよい。
【0038】
上記一般式(1)〜(3)で表わされる化合物を反応させる際の反応温度は、特に制限されないが、機器の腐食を抑制する観点から、好ましくは−20〜40℃、更に好ましくは0〜30℃が挙げられる。
【0039】
上記の反応における反応時間は、反応温度により異なるが、通常0.1〜30時間程度、好ましくは0.5〜10時間程度である。
【0040】
また、窒素ガス等の不活性雰囲気下で上記反応を行ってもよい。
【0041】
斯して、上記一般式(1)〜(3)で表わされる化合物を反応させことにより、有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体が生成される。本発明の製造方法によって得られる上記錯体としては、具体的には、下記一般式(4)に示される錯体が挙げられる。
【化8】
【0042】
一般式(4)において、Z及びLは前記と同じである。また、nは、銅(I)イオンに対するLの配位数であり、採用する反応条件によって異なるため一律に規定することはできないが、通常2〜6であり、好ましくは2〜4が挙げられる。また、一般式(4)において、dはZの価数に相当する正の整数を示す。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる上記一般式(4)に示される錯体の具体例としては、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩、テトラキス(プロピオノニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、テトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、テトラキス(アニソニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、ビス(アクリロニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、ビス(シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩及びビス(2,2'−ビピリジン)銅テトラフルオロホウ酸塩等が挙げられる。これらの錯体の中でも、本発明の製造方法は、とりわけ、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、テトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩、テトラキス(ピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩、又はビス(2−シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の製造に好適である。
【0044】
上記の反応終了後、従来公知の方法に従って、得られた有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体を単離すればよい。例えば、記の反応終了後に析出している結晶を濾別し、反応で使用した溶媒を用いて洗浄した後、乾燥すれば、当該錯体を高純度で回収することができる。
【0045】
本発明の製造方法によって製造された有機窒素化合物と銅(I)フルオロオキソ酸塩からなる錯体は、従来これらの錯体が使用されている技術分野(例えば電子材料の製造等)において使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0047】
[実施例1]
テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の合成
撹拌機、温度計及び冷却管を備え付けた2000mL容の四つ口フラスコに、塩化銅(I)50g(0.5モル)、アセトニトリル103g(2.5モル)及び水500gを仕込み、20〜30℃にて、30質量%のテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液366g(1.0モル)を添加した後、同温度で1時間反応させた。析出した結晶を濾過後、50質量%エタノール水で洗浄し、乾燥することで、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩149gを得た。
【0048】
得られたテトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の収率は、塩化銅(I)に対して95%であった。また、得られたテトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の元素分析値はCu;20.4%、B;3.4%、N;17.8%で、理論値(Cu;20.2%、B;3.4%、N;17.8%)と一致した。
【0049】
[実施例2]
テトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩の合成
撹拌機、温度計及び冷却管を備え付けた2000mL容の四つ口フラスコに、塩化銅(I)50g(0.5モル)、ベンゾニトリル258g(2.5モル)、及び、水500gを仕込み、20〜30℃にて20質量%のヘキサフルオロリン酸カリウム水溶液920g(1モル)を添加した後、同温度で5時間反応させた。析出した結晶を濾過後、50質量%エタノール水で洗浄し、乾燥することで、テトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩267gを得た。
【0050】
得られたテトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩の収率は、塩化銅(I)に対して86%であった。また、得られたテトラキス(ベンゾニトリル)銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩の元素分析値はCu;10.1%、B;5.0%、N;9.0%で、理論値(Cu;10.2%、P;5.0%、N;9.0%)と一致した。
【0051】
[実施例3]
ビス(2−シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の合成
撹拌機、温度計及び冷却管を備え付けた2000mL容の四つ口フラスコに、塩化銅(I)50g(0.5モル)、2−シアノピリジン156g(1.5モル)、及び、水500gを仕込み、20〜30℃にて30質量%のテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液366g(1.0モル)を添加した後、同温度で3時間反応させた。析出した結晶を濾過後、50質量%エタノール水で洗浄し、乾燥することで、ビス(2−シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩156gを得た。
【0052】
得られたビス(2−シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の収率は、塩化銅(I)に対して87%であった。また、得られたビス(2−シアノピリジン)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の元素分析値はCu;17.7%、B;3.0%、N;15.6%で、理論値(Cu;17.7%、B;3.0%、N;15.6%)と一致した。
【0053】
[実施例4]
実施例1に準じて、撹拌機、温度計、冷却管、及び反応液に浸漬するようグラスライニングのテストピースを備え付けた500mL容のテフロンコーティングされたセパラブルフラスコに、塩化銅(I)10g(0.1モル)、アセトニトリル21g(0.5モル)及び水100gを仕込み、20〜30℃にて30質量%のテトラフルオロホウ酸ナトリウム水溶液73g(0.2モル)を添加した後、同温度で100時間反応させた。テストピースの表面積、グラスライニングの比重、及び反応前後のテストピースの重量変化から腐食速度を算出した結果、グラスライニングの腐食速度は0.1mm/年未満であり、グラスライニング製反応釜の使用は何ら問題がないことを確認した。
【0054】
[比較例1]
特許文献1に記載の条件に準じ、撹拌機、温度計及び冷却管を備え付けた2000mL容の四つ口フラスコに、酸化銅(I)36g(0.25モル)、水625ml及びアセトニトリル115mlを仕込み、70℃にて31.4%のテトラフルオロホウ酸水溶液125ml(1.0モル)を添加した後、不溶物をろ過し、更に同温度で5時間反応させた。析出した結晶を濾過後、エタノール及びエチルエーテルで洗浄し、乾燥することで、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩60gを得た。得られたテトラキス(アセトニトリル)銅(I)テトラフルオロホウ酸塩の収率は、塩化銅(I)に対して76%であった。
【0055】
[比較例2]
特許文献1に記載の条件に準じ、撹拌機、温度計、冷却管及び反応液に浸漬するようグラスライニングのテストピースを備え付けた500mL容のテフロンコーティングされたセパラブルフラスコに、酸化銅(I)14g(0.1モル)、水250ml及びアセトニトリル46mlを仕込み、70℃にて31.4%のテトラフルオロホウ酸水溶液50ml(0.4モル)を添加した後、同温度で100時間反応させた。テストピースの表面積、グラスライニングの比重、及び反応前後のテストピースの重量変化から腐食速度を算出した結果、グラスライニングの腐食速度は5mm/年以上であり、グラスライニング製反応釜を特許文献1の製造方法に使用することは困難であることを確認した。
【0056】
[比較例3]
非特許文献2に記載の条件に準じ、撹拌機、温度計、冷却管及び反応液に浸漬するようグラスライニングのテストピースを備え付けた500mL容のテフロンコーティングされたセパラブルフラスコに、テトラフルオロホウ酸銅(II)24g(0.1モル)、アセトニトリル200ml、及び銅粉7g(0.1モル)を仕込んだ後、還流下で100時間反応させた。テストピースの表面積、グラスライニングの比重、及び反応前後のテストピースの重量変化から腐食速度を算出した結果、グラスライニングの腐食速度は5mm/年以上であり、グラスライニング製の反応釜を非特許文献2の製造方法に使用することは困難であることが確認された。
【国際調査報告】