(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014051021
(43)【国際公開日】20140403
【発行日】20160822
(54)【発明の名称】1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/76 20060101AFI20160725BHJP
   C07C 67/303 20060101ALI20160725BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160725BHJP
【FI】
   !C07C69/76CSP
   !C07C69/76 A
   !C07C67/303
   !C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
【出願番号】2014538611
(21)【国際出願番号】JP2013076199
(22)【国際出願日】20130927
(31)【優先権主張番号】2012216369
(32)【優先日】20120928
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内2丁目5番2号
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 阿良加
【住所又は居所】岡山県倉敷市水島海岸通3丁目10番地 三菱瓦斯化学株式会社 水島工場内
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC11
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA25
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB15
4H006BC10
4H006BC35
4H006BE20
4H006KA31
4H039CA40
4H039CB10
(57)【要約】
式(1)で表される1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの提供。

(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びR’は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル。
【化1】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びR’は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)
【請求項2】
1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを、貴金属触媒の存在下、溶媒中で水素添加する工程を含む、1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記貴金属触媒が、ルテニウム触媒、ロジウム触媒、及びパラジウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記貴金属触媒が、ルテニウム触媒及びロジウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記水素添加は、反応温度0〜100℃の範囲で行われる、請求項2〜4のいずれか一項に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記水素添加は溶媒存在下で行われ、
前記溶媒の使用量は、前記1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルに対する質量比で0.5〜8の範囲である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラリン誘導体である1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルには、テトラリン環に対するカルボキシル基の置換位置によって、多数の構造異性体が存在する。例えば、特許文献1,2には、1,5−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル、1,8−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル、2,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルが示されている。また、非特許文献1には、5,8−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル、5,6−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルが示されている。
【0003】
テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法としては、ナフタレンジカルボン酸ジメチルの水素添加によりナフタレン環をテトラリン環へと誘導する方法が、特許文献1,2に示されている。これらの文献に示されている原料のナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルは、2個の置換基の一方がナフタレン環の1〜4位に、他方が5〜8位に結合しているものに相当し、しかも、具体的な事例として示されているのは2個の置換基がナフタレン環の1,5位、1,8位、及び2,6位に結合しているものだけである。これらのナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを水素添加した場合、ナフタレン環の1〜4位、又は5〜8位のいずれが水素添加されても、同一のテトラリンジカルボン酸ジメチル異性体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−278836号公報
【特許文献2】特許第3210148号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jornal of Organic Chemistry, 1962,27,p.5−13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、テトラリン環の1,4位に置換基が結合している1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル(以下、「1,4−TDCE」という場合がある。)は、上述したいずれの文献等にも開示されていない。また、下記式(2)で表される1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステル(以下、「1,4−NDCE」という場合がある。)を水素添加して、1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを得るためには、ナフタレン環の5〜8位を選択的に水素添加することが必要になるが、このような水素添加の方法も未だ知られていない。
【化1】
【0007】
その一方で、上述した1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを効率よく製造できるならば、種々の樹脂の原料、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体等といった種々の用途への応用も十分に期待できる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂の原料;液晶組成物;高分子改質剤;医薬中間体等として有用であると考えられる新規な1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究した結果、意外にも、1,4−NDCEを、貴金属触媒の存在下、溶媒中で水素添加させることにより、1,4−TDCEを合成できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
式(1)で表される1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステル。
【化2】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びR’は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)
〔2〕
1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを、貴金属触媒の存在下、溶媒中で水素添加する工程を含む、1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔3〕
前記貴金属触媒が、ルテニウム触媒、ロジウム触媒、及びパラジウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔2〕に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔4〕
前記貴金属触媒が、ルテニウム触媒及びロジウム触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔2〕に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔5〕
前記水素添加は、反応温度0〜100℃の範囲で行われる、〔2〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
〔6〕
前記水素添加は溶媒存在下で行われ、
前記溶媒の使用量は、前記1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルに対する質量比で0.5〜8の範囲である、〔2〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なテトラリン誘導体である1,4−TDCEを提供することができる。1,4−TDCEは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂原料、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体等としての利用が考えられるため、その工業的な意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のFT−IR(KBr法)チャートである。
【図2】実施例1で原料として使用した1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチルのFT−IR(KBr法)チャートである。
【図3】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のGC−TOF/MSによる精密質量解析結果である。
【図4】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のH−NMRチャートである。
【図5】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶の13C−NMRチャートである。
【図6】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のdept135−NMRチャートである。
【図7】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶の13C−ig−NMRチャートである。
【図8】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のHMBC−NMRチャートである。
【図9】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のHMQC−NMRチャートである。
【図10】実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のINADEQUATE−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
本実施形態では、式(1)で表される1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを提供する。
【化3】
(式(1)中、R及びR’は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R及びR’は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0015】
式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基を表す。炭素数1〜10のアルキル基としては、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、ポリエステルやポリカーボネートの原料として使用する場合の反応性の観点から、R及びR’のいずれもがメチル基であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルは、例えば、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを、貴金属触媒の存在下、溶媒中で水素添加する工程を含む、1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルの製造方法により得ることができる。
【0018】
従来では、原料である1,4−ナフタレンジカルボン酸アルキルエステルの5〜8位を選択的に水素添加することは困難であった。しかし、本発明者が鋭意研究した結果、意外にも、貴金属触媒の存在下で、溶媒中で水素添加反応を行うと、ナフタレン環の5〜8位が選択的に水素添加でき、その結果、1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルが得られることを見出した。その理由は定かではないが、通常、電子的には電子吸引性置換基であるエステル基を2つ有する環の方が水素添加されやすいと考えられるが、立体障害の観点からは置換基を有さない環の方が、反応性が高くなる。本実施形態では、立体障害の影響が顕著に現れた結果、意外にも、選択的に5〜8位が水添できたものと推定される(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない。)。
【0019】
[1.反応に用いられる触媒]
貴金属触媒としては、例えば、ルテニウム触媒(Ru)、ロジウム触媒(Rh)、パラジウム触媒(Pd)、白金触媒(Pt)、イリジウム触媒(Ir)が好ましく、ルテニウム触媒(Ru)、ロジウム触媒(Rh)、パラジウム触媒(Pd)がより好ましく、水素添加反応における選択性が高いという観点から、ルテニウム触媒、ロジウム触媒が更に好ましく、更に高収率であるという観点から、ルテニウム触媒がより更に好ましい。
【0020】
貴金属触媒としては、貴金属が担体に担持された触媒(担持触媒)であることが好ましい。担体としては、例えば、カーボン、アルミナ、シリカ、ゼオライト等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性や経済性の観点から、活性炭素等のカーボンが好ましい。担持触媒を用いることで、表面積の増大により触媒使用量が低減できるといった利点や、入手容易性や安全性の利点等もある。
【0021】
担持触媒中の貴金属の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。具体的には、例えば、上記した貴金属触媒を0.1〜50質量%含有したカーボン担持触媒等が挙げられ、パラジウム、ルテニウム、及びロジウムからなる群より選ばれるいずれかを0.1〜50質量%含有するカーボン担持触媒が更に好ましく、パラジウム、ルテニウム、及びロジウムからなる群より選ばれるいずれかを0.1〜50質量%含有するカーボン担持触媒がより更に好ましい。また、触媒は乾燥したものでもよいし、含水したものでもよい。安全性等の観点から、含水したものを使用することが好ましい。担持触媒中の含水率は、取り扱いやすさの観点から、10〜80質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。
【0022】
上述した触媒は、市販のものを用いてもよいし、含浸担持法等の公知の方法に従い調製したものを用いてもよい。例えば、エヌ・イーケムキャット社製の「5%Ruカーボン粉末Aタイプ(含水品)」、「5%Ruカーボン粉末Bタイプ(含水品)」、「5%Ruカーボン粉末Kタイプ(含水品)」、「5%Ruカーボン粉末Rタイプ(含水品)」、「Ruアルミナ粉末」、「Ruブラック」等のRuカーボン粉末やRuアルミナ粉末;「5%Rhカーボン粉末(含水品)」、「5%Rhアルミナ粉末」等のRhカーボン粉末やRhアルミナ粉末;「5%Pdカーボン粉末PEタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末STDタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末Kタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末NXAタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末Pタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末AERタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末KERタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末Eタイプ(含水品)」、「5%Pdカーボン粉末Bタイプ(含水品)」、「20%Pdカーボン粉末NXタイプ(含水品)」、「20%Pdカーボン粉末URタイプ(含水品)」「10%Pdカーボン粉末NXタイプ(含水品)」、「10%Pdカーボン粉末Kタイプ(含水品)」、「10%Pdカーボン粉末PEタイプ(含水品)」、「10%Pdカーボン粉末OHタイプ(含水品)」、「10%Pdカーボン粉末AEタイプ(含水品)」、「5%Pdアルミナ粉末」等のPdカーボン粉末やPdアルミナ粉末等が挙げられる。なお、上述したように、乾燥品を使用することも勿論可能である。
【0023】
触媒の使用量は、原料の1,4−NDCEに対する貴金属の質量比で、0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましい。触媒の使用量を上記範囲とすることで、反応時間を短時間に抑えつつ、少量の触媒使用量でありながら、反応を効率よく促進させることができる。
【0024】
[2.反応に用いられる溶媒]
溶媒としては、水素添加反応を阻害しないものであればよく、特に限定されない。溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等が挙げられる。
【0025】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、1,4−NDCEに対する質量比で、0.5〜8の範囲であることが好ましく、0.8〜5の範囲であることがより好ましい。上記質量比を上記範囲とすることで、制御容易でありながら効率的に反応を実施できるとともに、溶媒の分離や回収が一層容易となるため好ましい。例えば、1,4−NDCEに対する溶媒の質量比を上記範囲とすることで、反応物の濃度を高濃度にすることができるため反応効率が高く、生産性に優れる。その一方で、通常であれば、高濃度の場合には反応熱の影響が大きくなるため、反応温度等の制御が難しくなる傾向にあるが、意外にも本実施形態ではそのようなこともなく、反応制御も容易である。
【0026】
[3.反応条件]
本実施形態の水素添加反応は、通常、オートクレーブ等の加圧容器中で実施されることが好ましい。水素添加反応における水素の圧力は、特に限定されないが、1〜8MPaであることが好ましく、2〜5MPaであることがより好ましい。水素の圧力を上記範囲とすることで、水素添加反応における、ナフタレン環の5〜8位への位置選択性が一層高くなり、一層効率良く1,4−TDCEを製造できる。
【0027】
水素添加反応の反応温度は、通常、0〜100℃であることが好ましく、20〜70℃であることがより好ましく、25〜45℃であることが更に好ましい。上記の温度範囲で水素添加反応を行なうことで、水素添加反応におけるナフタレン環の5〜8位への位置選択性が一層高くなり、また、適度な反応速度となるため、一層効率良く1,4−TDCEを製造できる。
【0028】
[4.精製]
反応終了後、例えば、反応混合物から触媒をろ別して、ろ液を回収する。そして、必要に応じて、触媒を、水、アセトン、メタノール、クロロホルム等の洗浄効率(抽出効率)がよい溶媒で洗浄し、その洗浄液を回収する。回収した洗浄液を、ろ液と合わせ、混合液とする。この混合液から溶媒を留去することにより、1,4−TDCEを取り出すことができる。さらに、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の手段により精製を行ってもよい。
【0029】
本実施形態の1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂原料;液晶組成物;高分子改質剤;医薬中間体等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0030】
実施例により本発明の方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない限り、組成は、ガスクロマトグラフィー分析により得られた面積百分率値に基づく。
【0031】
<実施例1>
500mLオートクレーブ(SUS316L製)に、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、「1,4−NDCM」という。;和光純薬工業社製)30g、5%Ruカーボン粉末Aタイプ(5質量%Ru/活性炭触媒;エヌ・イーケムキャット社製、含水率52質量%)5.0g、イソプロパノール30gを仕込んだ。室温で、オートクレーブ内を1MPaの圧力で2回窒素置換し、次いで1MPaの圧力で2回水素置換した。その後、常圧まで落圧した後、内温30℃に昇温させ、水素で3MPaまで加圧し、同温度、同圧力で2時間攪拌した(攪拌時の回転数500rpm)。
反応終了後、室温まで冷却し、水素を放出し、1MPaの圧力で2回窒素置換した後、触媒をろ別してろ液を得た。一方で、使用した触媒をアセトン20gで3回洗浄し、その洗浄液を回収した。回収した洗浄液をろ液に加えて、混合液とした。得られた混合液から溶媒を留去して、粗1,4−テトラリンジカルボン酸ジメチル(以下、「粗1,4−TDCM」という。)29.8gを得た。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ、組成は、1,4−NDCM:2.8質量%、1,4−TDCM:87.2質量%、5,8−テトラリンジカルボン酸ジメチル(以下、「5,8−TDCM」という。):3.6質量%であった。1,4−TDCMの収率は、85.2%であった。
そして、この粗1,4−TDCM10gに対してアセトン10g、デカン30gを加えて、リフラックスにより全溶解後、0℃に冷却して再結晶することで、精製された1,4−TDCMを単離した。
【0032】
図1に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のFT−IR(KBr法)チャートを示す。図2に、実施例1で原料として使用した1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチルのFT−IR(KBr法)チャートを示す。図3に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のGC−TOF/MSによる精密質量解析結果を示す。図4に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のH−NMRチャートを示す。図5に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶の13C−NMRチャートを示す。図6に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のdept135−NMRチャートを示す。図7に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶の13C−ig−NMRチャートを示す。図8に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のHMBC−NMRチャートを示す。図9に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のHMQC−NMRチャートを示す。図10に、実施例1の生成物を再結晶で精製して得られた結晶のINADEQUATE−NMRチャートを示す。生成物の同定は、後述する手法によって行った。
【0033】
<実施例2>
500mLオートクレーブ(SUS316L製)に、1,4−NDCM30g、5%Ruカーボン粉末Aタイプ(エヌ・イーケムキャット社製、含水率52質量%)5.0g、デカン45gを仕込んだ。室温で、オートクレーブ内を1MPaの圧力で2回窒素置換し、次いで1MPaの圧力で2回水素置換した。その後、常圧まで落圧した後、内温40℃に昇温させ、水素で3MPaまで加圧し、同温度、同圧力で2時間攪拌した(攪拌時の回転数500rpm)。
反応終了後、室温まで冷却し、水素を放出し、1MPaの圧力で2回窒素置換した後、触媒をろ別してろ液を得た。一方で、使用した触媒をアセトン20gで3回洗浄し、その洗浄液を回収した。回収した洗浄液をろ液に加えて、混合液とした。得られた混合液から溶媒を留去して、粗1,4−TDCM29.0gを得た。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ、組成は、1,4−NDCM:2.6質量%、1,4−TDCM:85.9質量%、5,8−TDCM:3.5質量%であった。1,4−TDCMの収率は、81.7%であった。
【0034】
<実施例3>
500mLオートクレーブ(SUS316L製)に、1,4−NDCM30g、5%Rhカーボン粉末(5質量%Rh/活性炭触媒;エヌ・イーケムキャット社製、含水率52質量%)3.0g、イソプロパノール30gを仕込んだ。室温で、オートクレーブ内を1MPaの圧力で2回窒素置換し、次いで1MPaの圧力で2回水素置換した。その後、常圧まで落圧した後、内温70℃に昇温させ、水素で3MPaまで加圧し、同温度、同圧力で2時間攪拌した(攪拌時の回転数500rpm)。
反応終了後、室温まで冷却し、水素を放出し、1MPaで2回窒素置換した後、触媒をろ別してろ液を得た。一方で、使用した触媒をアセトン20gで3回洗浄し、その洗浄液を回収した。回収した洗浄液をろ液に加えて、混合液とした。得られた混合液から溶媒を留去して、粗1,4−TDCM28.8gを得た。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ、組成は、1,4−NDCM:2.0質量%、1,4−TDCM:73.1質量%、5,8−TDCM:13.7質量%であった。1,4−TDCMの収率は、69.0%であった。
【0035】
<実施例4>
500mLオートクレーブ(SUS316L製)に、1,4−NDCM30g、5%Pdカーボン粉末PEタイプ(5質量%Pd/活性炭触媒;エヌ・イーケムキャット社製、含水率52質量%)4.0g、イソプロパノール100gを仕込んだ。室温で、オートクレーブ内を1MPaの圧力で2回窒素置換し、次いで1MPaで2回水素置換した。その後、常圧まで落圧した後、内温90℃に昇温させ、水素で3MPaまで加圧し、同温度、同圧力で2時間攪拌した(攪拌時の回転数500rpm)。
反応終了後、室温まで冷却し、水素を放出し、1MPaで2回窒素置換した後、触媒をろ別してろ液を得た。一方で、使用した触媒をアセトン20gで3回洗浄し、その洗浄液を回収した。回収した洗浄液をろ液に加えて、混合液とした。得られた混合液から溶媒を除去して、粗1,4−TDCM29.9gを得た。これをガスクロマトグラフィーで分析したところ、組成は、1,4−NDCM:0.3質量%、1,4−TDCM:49.8質量%、5,8−TDCM:47.2質量%であった。1,4−TDCMの収率は、48.8%であった。
【0036】
<生成物の同定>
各実施例で得られた反応生成物を再結晶で精製して得られた結晶について、構造同定を行った。FT−IR、NMR、及び、GC−TOF/MS等による分析を行い、その結果に基づいて構造同定を行った。
【0037】
[FT−IR測定条件]
装置:JASCO製、「FT−IR410」
測定法:透過法(KBr法)
スキャン範囲:500〜4000cm−1
積算回数:64
分解能:4cm−1
試料調製:KBrに混ぜて、錠剤成型した。
【0038】
[NMR測定条件]
装置:Bruker AvanceII 600MHz−NMR
プローブ:DCH CryoProbe
モード:H、13C、13C−ig、dept135、HSQC、HMBC、INADEQUATE(測定時間12時間)
試料調製:結晶100mgを重クロロホルム500μLに溶解させた。
【0039】
[GC−TOF/MS測定条件]
装置:Agilent7890A/WatersGCTpremier
カラム:「DB−5MS UI」30m×0.25mmI.D. 膜圧0.5μm
昇温条件:200℃(0min)−10℃/min−320℃(0min)
スプリット比:1:100
注入口温度:300℃
打ちこみ量:1.0μL
キャリアーガス:He、1.0mL/min
イオン化法:70eV、EI+測定
質量スキャン範囲:33〜800(0.2sec)
DRE:ON
Trap Current:200μA
Sourceo温度:300℃
Interface温度:320℃
Low Mass Cut OFF:47Da
内部標準物質(質量補正):Heptacosa(m/z=218.9856)
試料調製:結晶をクロロホルムに溶解したものを測定し、測定後ピーク強度が飽和しない濃度まで希釈して得たデータを精密質量解析に用いた。
【0040】
本出願は、2012年09月28日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−216369)に基づくものであり、その内容はここに参照として組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルエステルを選択的に水素添加することにより新規テトラリン誘導体である1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルを工業的に作り出すことができる。1,4−テトラリンジカルボン酸ジアルキルエステルはポリエステルやポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドとして、液晶組成物、高分子改質剤、医薬中間体等としての利用が考えられるため、その工業的な意義は大きい。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【国際調査報告】