(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014051148
(43)【国際公開日】20140403
【発行日】20160825
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20160729BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160729BHJP
【FI】
   !H01M4/525
   !H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】17
【出願番号】2014538674
(21)【国際出願番号】JP2013076598
(22)【国際出願日】20130930
(11)【特許番号】5916876
(45)【特許公報発行日】20160511
(31)【優先権主張番号】2012218887
(32)【優先日】20120928
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区大手町一丁目1番2号
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
【住所又は居所】茨城県北茨城市華川町臼場187番地4 JX日鉱日石金属株式会社磯原工場内
(72)【発明者】
【氏名】田村 友哉
【住所又は居所】茨城県北茨城市華川町臼場187番地4 JX日鉱日石金属株式会社磯原工場内
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050FA19
5H050HA13
(57)【要約】
サイクル特性が良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供する。リチウムイオン電池用正極活物質は、組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、MはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å3以下である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、MはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、
XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å3以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが930Å以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが930〜1100Åである請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質には、一般にリチウム含有遷移金属酸化物が用いられている。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等であり、特性改善(高容量化、サイクル特性、保存特性、内部抵抗低減、レート特性)や安全性を高めるためにこれらを複合化することが進められている。車載用やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン電池には、これまでの携帯電話用やパソコン用とは異なった特性が求められている。
【0003】
電池のサイクル特性は、それが良好であれば、リチウムイオン電池の充放電によって減少する電池容量が少なく、電池寿命が長くなる点で有益である。近年、このサイクル特性は、電池の充放電に伴う正極材粒子の割れ(クラック)の発生と密接な関係を有することが知られている(非特許文献1)。正極材粒子にクラックが生じることにより、電極内の抵抗増加や、比表面積増加に伴うLiの副反応による消費が、放電時の容量低下を引き起こす。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、正極活物質として、一般式LiXMYOZ-δ(式中、Mは遷移金属元素であるCo又はNiを示し、(X/Y)=0.98〜1.02、(δ/Z)≦0.03の関係を満たす)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むとともに、前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素(M)に対して、((V+B)/M)=0.001〜0.05(モル比)のバナジウム(V)及び/又はボロン(B)を含有する、その一次粒子径が1μm以上、結晶子サイズが450Å以上、かつ格子歪が0.05%以下である物質を用いてなることを特徴とするリチウム二次電池が開示されている。そして、これによれば、低内部抵抗、高出力、高容量であるとともに、高温条件下においても優れた充放電サイクル特性を示すリチウム二次電池を提供することができると記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、六方晶系のLiCoO2を正極活物質とする非水溶媒二次電池であって、上記LiCoO2の結晶のc軸の格子定数が14.05〜14.15Åであり、かつ結晶子の大きさが、(110)面方向が350〜400Å、(003)面方向が260〜300Åであることを特徴とする非水溶媒二次電池が開示されている。そして、これによれば、充放電サイクルによる容量の劣化の少ない非水溶媒二次電池を提供することができると記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、(110)ベクトル方向の結晶子サイズが950Å以下である、可溶性のフッ素原子の量が2000ppm以下であり、F/Coの原子比が0.01以下であることを特徴とするフッ素含有リチウムコバルト系複合酸化物が開示されている。そして、これによれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−253169号公報
【特許文献2】特許第3276183号公報
【特許文献3】特開2005−225734号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Itou et. al., Journal of Power Sources 146, 39-44 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、正極活物質中にバナジウム及び/又はボロンを含有させることで発明の効果を得ているが、特許文献1の明細書の段落0051に「本発明では、前述したリチウム遷移金属複合酸化物を構成する各元素の塩及び/又は酸化物(即ち、原料化合物)にバナジウムを含むバナジウム化合物及び/又はボロンを含むボロン化合物を添加して焼成するのではなく、原料化合物のみで一旦焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得た後、これにバナジウム化合物及び/又はボロン化合物を添加し、焼成する。これにより、リチウム遷移金属複合酸化物の構造中にバナジウム及び/又はボロンが取り込まれることがなく、正極活物質として十分な容量が確保された正極活物質を製造することができる」と記載されているように、バナジウム及び/又はボロンは結晶構造中に取り込まれていない。このため、正極活物質が単相の化合物で構成されておらず、2回以上の焼成を必要としており、製造効率の点で不利である。また、このような構成であるため、ある比率以上のバナジウムやボロンの添加を行わないと、結晶子サイズが十分に大きくならないという制約もある。特許文献2に記載の正極活物質は、結晶子の大きさが小さく、本発明者の検討によれば、結晶粒子内で割れが生じた際のクラック面積が大きくなり、種々の問題が生じることが明らかとなっている。また、特許文献3に記載の発明の思想についても、結晶子の大きさを小さくしようとするものであり、特許文献2と同様の問題が生じる。
本発明は、電池の充放電に伴う正極材粒子の割れ(クラック)の発生が抑制された、サイクル特性が良好な電池特性を有する新規なリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、リチウムイオン電池用正極活物質を所定の組成で構成し、且つ、XRDパターンの解析から得られる結晶子サイズを所定範囲に制御することで、電池の充放電に伴う正極材粒子の割れ(クラック)の発生を減少することができ、それによってサイクル特性が良好となることを見出した。
【0011】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、
組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、MはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、
XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å3以下である。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが930Å以上である。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが930〜1100Åである。
【0014】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である。
【0015】
本発明は、別の側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極である。
【0016】
本発明は、更に別の側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サイクル特性が良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リチウムイオン電池用正極活物質の粉末X線回折等により得られたパターンである。
【図2】実施例及び比較例に係る10サイクル充放電時の電池の容量維持率と、リチウムイオン電池用正極活物質の結晶子サイズとの関係である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。このような材料を用いて作製される本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、MはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表される。
また、Mは、好ましくはMn及びCoから選択される1種以上である。
【0020】
本発明者は、充放電サイクルを繰り返した際のリチウムイオン電池の電極の様子を断面SEMで観察したところ、サイクル前に比べて、50サイクル後(充電電圧4.25V)では、結晶粒子間および結晶粒子内でのクラックの発生が確認された。これらが、電池内部の抵抗増加や、粒子表面での電解液とLiの反応を引き起こすため、放電時の容量を低下させ、サイクル特性の劣化につながるものと考えられる。
これに対し、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが870Å以上に制御されている。
結晶子は回折に寄与する最小単位で、結晶粒の中で単結晶としてみなせる部分のことであり、結晶子サイズは結晶中の単結晶ドメインサイズを表す。結晶子サイズを算出する方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察とX線回折データ(XRDパターン)の解析が用いられる。TEMでは結晶子を直接観察できるものの、その観察領域は微小であり、平均的な情報が得られない。一方でX線回折法ではX線照射領域の平均的な情報を得ることができるため、とても有用である。
結晶子サイズは、Williamson-hall法を用いて算出される。Williamson-hall法とは粉末X線回折等により得られたパターン(図1)のピーク角から、結晶子サイズを算出する方法である。回折線の広がりは、装置由来のものを除くと、主に結晶子サイズと格子歪みに由来する。結晶子サイズは、結晶子サイズに由来する広がりを1/cosθ、歪みによる広がりをtanθに比例するものと仮定して、以下に示す関係式:
β=Kλ/(Dcosθ)+2εtanθ
(β;ピーク幅、D;結晶子サイズ、K;シェラー定数、λ;波長、ε;歪み)
により求める。
【0021】
充放電サイクル時の正極活物質の割れは、結晶の膨張収縮によって生じる結晶子間粒界での応力により引き起こされると考えられる。仮に、同量の正極活物質が存在した場合、結晶子サイズが大きくなることにより、結晶子サイズが小さいものと比較して、結晶子間の粒界の存在割合が相対的に減少する。本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズが870Å以上に制御されているため、正極活物質の割れが減少する。これにより、サイクル特性に悪影響を及ぼすと考えられる割れの影響が減少し、サイクル特性の低下を防ぐことが可能となる。
【0022】
後述の実施例及び比較例で得られた10サイクル充放電時の容量維持率と、結晶子サイズの関係を図2に示す。10サイクル時の容量維持率は、結晶子サイズが870Å以下になると急激に低下している。また、それ以上では容量維持率が増加している。これらのことは、XRDパターンから算出される結晶子サイズが、電池のサイクル特性に大きく影響を与えることを示している。結晶子サイズを大きくすることで、結晶粒子内で割れが生じた際のクラック面積を小さくし、これにより上記の抵抗増加や比表面積の増加を低減し、サイクル特性の低下を抑制しているものと考えられる。
XRDパターンを解析して得られる結晶子サイズは、好ましくは930Å以上であり、より好ましくは930〜1100Åである。
【0023】
また、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、単位格子体積が101.70Å3以下である。単位格子体積は、XRD回折パターンから求められる格子定数から算出される。格子定数はXRDパターンの代表的なピークと面間隔から、逆格子を最小二乗法により求める方法をとって精密化される。算出には解析ソフト「(株)リガク、PDXL」を用いることができる。以下に算出の原理を示す。
格子面間隔dと逆格子定数には以下の関係が成り立つ。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
これらを用いて、1/d02 (d0:格子面間隔の観測値)と、上記の式を用いて計算した1/d2との残差二乗和(下記式)を最小とするようなx1〜x6を算出し、逆格子定数を決定する。
【0027】
【数3】
【0028】
さらに、逆格子定数と格子定数の関係から変換することで格子定数が求められる。高角側の回折線を重視するために、重み関数w(sin22θなど)を用いることがあるが、計算では1とする。
本発明に係る正極活物質はR-3mの菱面体構造をとり、その格子定数計算には、XRD測定範囲(2θ = 10-80°)で、比較的強度の高い(003), (101), (012), (104), (015), (107), (018), (110), (113)の合計9つの結晶面に由来するピークのd値を用いて上記の計算により格子定数を決定する。
上記の方法から格子定数であるa、b、c軸の長さが求まり、本発明の正極活物質はR-3mの菱面体構造をとるため計算式:
V=√3/2×a×b×c (V:単位格子体積 a,b,c:各軸の格子定数)
から単位格子体積が求まる。
単位格子体積を制御することで、活物質中のLiの入り具合を調整することができ、特に101.70Å3以下とすることで、Liが格子中に良好に詰まった状態とし、電池特性を向上させることができる。単位格子体積は、好ましくは101.60Å3以下、より好ましくは101.50Å3以下である。また、下限は特に限定する必要は無いが、典型的には101.40Å3以上である。
【0029】
(リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極は、例えば、上述の構成のリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に設けた構造を有している。また、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、このような構成のリチウムイオン電池用正極を備えている。
【0030】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、金属塩溶液を作製する。当該金属は、Ni、及び、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上である。また、金属塩は硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等であり、特に硝酸塩が好ましい。これは、焼成原料中に不純物として混入してもそのまま焼成できるため洗浄工程が省けることと、硝酸塩が酸化剤として機能し、焼成原料中の金属の酸化を促進する働きがあるためである。金属塩に含まれる各金属は、所望のモル比率となるように調整しておく。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。また、金属塩溶液中のLiとその他の金属(Me)との比Li/Meを大きくすることで、正極材の結晶子サイズを大きく成長させることができる。
【0031】
次に、炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記金属の金属塩溶液を投入して金属炭酸塩スラリーを作製する。このとき、スラリー中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出する。なお、金属塩として硫酸塩や塩化物等熱処理時にそのリチウム化合物が反応しない場合は飽和炭酸リチウム溶液で洗浄した後、濾別する。硝酸塩や酢酸塩のように、そのリチウム化合物が熱処理中にリチウム原料として反応する場合は洗浄せず、そのまま濾別し、乾燥することにより焼成前駆体として用いることができる。
次に、濾別したリチウム含有炭酸塩を乾燥することにより、リチウム塩の複合体(リチウムイオン電池正極材用前駆体)の粉末を得る。
【0032】
次に、所定の大きさの容量を有する焼成容器を準備し、この焼成容器にリチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末を充填する。次に、リチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末が充填された焼成容器を、焼成炉へ移設し、焼成を行う。焼成は、酸素雰囲気下及び大気雰囲気下で所定時間加熱保持することにより行う。焼成は、室温から2〜3時間(昇温時間)で880〜1000℃(焼成温度)まで昇温させた後、3〜4時間の加熱保持を行う。続いて、2〜3時間(冷却時間)で室温まで冷却させる。この焼成条件において、上述のように、焼成温度を適切に制御することで、焼成温度から室温までの冷却時間を短くする(冷却速度を高める)ことで、さらに、室温から焼成温度までの昇温時間を短くする(昇温速度を高める)ことで、正極材の結晶子サイズを大きく成長させることができる。また、この焼成条件において、上述のように、焼成温度を適切に制御することで、さらに、焼成温度から室温までの冷却時間を短くする(冷却速度を高める)ことで、単位格子体積の制御を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1〜8)
まず、所定の投入量の炭酸リチウムを純水に懸濁させた後、表1に記載の組成比となるように金属塩溶液を投入した。
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、表1に記載の焼成雰囲気、焼成温度、昇温時間で焼成した。続いて、表1に記載の冷却時間で室温まで冷却した後、解砕してリチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
【0035】
(比較例1〜12)
比較例1〜12として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、焼成条件を表1に示す値として、実施例1〜8と同様の処理を行った。
【0036】
(評価)
−正極材組成の評価−
各正極材中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。各金属の組成比は、表1に記載の通りであることを確認した。また、酸素含有量はLECO法で測定しαを算出した。
【0037】
−結晶子サイズの評価−
結晶子サイズの評価は、粉末X線回折装置により測定したXRDパターンをWilliamson-hall法により解析することで求めた。更に具体的には、粉末X線回折装置「(株)リガク、SmartLab」により、Cuターゲットを線源に用いて、2θ=10〜80°の範囲で測定したXRD測定データを、解析ソフト「(株)リガク、PDXL」を用いて算出した。
【0038】
−単位格子体積の評価−
単位格子体積は、XRD回折パターンから求められる格子定数から算出した。格子定数はXRDパターンの代表的なピークと面間隔から、逆格子を最小二乗法により求める方法をとって精密化した。解析ソフト「(株)リガク、PDXL」を用い、上述の計算式:
V=√3/2×a×b×c (V:単位格子体積 a,b,c:各軸の格子定数)
から単位格子体積を算出した。
【0039】
−電池特性(サイクル特性)の評価−
正極材と、導電材と、バインダーを90:5:5の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、正極材料と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M−LiPF6をEC−DMC(1:1)に溶解したものを用いて、室温で1Cの放電電流で得られた初期放電容量と10サイクル後の放電容量とを比較することによってサイクル特性(容量維持率)を測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
(評価結果)
実施例1〜8は、いずれも良好なサイクル特性が得られた。なお、実施例1〜8では、本発明の正極活物質の組成式:LixNi1-yyαにおいて、MとしてTi、Mn、Co、Al及びMgについて検討したが、MとしてCr、Fe、Sn、Cu及びZrを用いても同様の結果が得られると考えられる。
比較例1〜12は、結晶子サイズが870Å未満と小さく、単位構成体積が101.70Å3を超えており、サイクル特性が不良であった。
実施例及び比較例で得られた10サイクル充放電時の容量維持率と、結晶子サイズの関係を図2に示す。
【図1】
【図2】

【手続補正書】
【提出日】20140507
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:LiNi1−yα
(前記式において、MはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上であり、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、
XRDパターンを解析して得られ、Williamson−hall法を用いて算出される結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
XRDパターンを解析して得られ、Williamson−hall法を用いて算出される結晶子サイズが930Å以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
XRDパターンを解析して得られ、Williamson−hall法を用いて算出される結晶子サイズが930〜1100Åである請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。

【手続補正書】
【提出日】20151105
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、Mは、少なくともCoと、Ti、Cr、Mn、Fe、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上とで構成されており
0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、
XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å3以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが930Å以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが930〜1100Åである請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
請求項に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、
組成式:LixNi1-yyα
(前記式において、Mは、少なくともCoと、Ti、Cr、Mn、Fe、Cu、Al、Sn、Mg及びZrから選択される1種以上とで構成されており
0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.5であり、2.0≦α≦2.2である。)
で表され、
XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが870Å以上であり、単位格子体積が101.70Å3以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが930Å以上である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、XRDパターンを解析して得られ、Williamson-hall法を用いて算出される結晶子サイズが930〜1100Åである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】削除
【補正の内容】
【国際調査報告】