(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014054130
(43)【国際公開日】20140410
【発行日】20160825
(54)【発明の名称】ピストンリング用線
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160729BHJP
   C22C 38/24 20060101ALI20160729BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20160729BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20160729BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20160729BHJP
【FI】
   !C22C38/00 302Z
   !C22C38/24
   !C22C38/22
   !C21D8/06 B
   !F16J9/26 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
【出願番号】2014539522
(21)【国際出願番号】JP2012075643
(22)【国際出願日】20121003
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
【住所又は居所】兵庫県小野市住吉町南山1081番地
(71)【出願人】
【識別番号】000231165
【氏名又は名称】日本高周波鋼業株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区岩本町1丁目10番5号
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】加門 良一
【住所又は居所】兵庫県小野市住吉町南山1081番地 トクセン工業株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】水野 幸隆
【住所又は居所】東京都千代田区岩本町1丁目10番5号 日本高周波鋼業株式会社内
【テーマコード(参考)】
3J044
4K032
【Fターム(参考)】
3J044AA18
3J044BA03
3J044CB24
3J044DA09
3J044DA16
3J044DA17
3J044EA03
3J044EA04
4K032AA06
4K032AA13
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA36
4K032BA02
4K032CL03
(57)【要約】
ピストンリングの合口の幅がばらつきにくく、コイリング時の加工性に優れ、低コストで製造できるピストンリング用線を提供する。本発明のピストンリング用線は、0.50質量%以上0.80質量%以下のCと、1.00質量%以下のSiと、1.00質量%以下のMnと、11.0質量%以上14.0質量%以下のCrと、0.20質量%以上2.0質量%以下のMoと、不可避的不純物とを含む鋼からなり、横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の面積率が10%以下であり、ビッカース硬さが350以上450以下である。この線は、焼入及び焼戻を経て製造され、その焼戻温度は645℃以上である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.50質量%以上0.80質量%以下のCと、1.00質量%以下のSiと、1.00質量%以下のMnと、11.0質量%以上14.0質量%以下のCrと、0.20質量%以上2.0質量%以下のMoと、不可避的不純物とを含む鋼からなり、
横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の面積率が、10%以下であり、
ビッカース硬さが350以上450以下であるピストンリング用線。
【請求項2】
上記鋼におけるMoの量が0.80質量%以上1.20質量%以下である請求項1に記載の線。
【請求項3】
上記鋼が0.03質量%以上0.15質量%以下のVをさらに含む請求項1に記載の線。
【請求項4】
上記横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の密度が、250個/1000μm以下である請求項1に記載の線。
【請求項5】
焼入及び焼戻を経て得られたものであり、この焼戻の温度が645℃以上である請求項1に記載の線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、圧縮機等のピントンリング用の線に関する。詳細には、本発明は、鋼製の線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン等の内燃機関には、鋳鉄製のピストンリングが用いられてきた。近年は、鋼製のピストンリングが普及している。鋼製のピストンリングは、強度に優れている。鋼製のピストンリングは、容易に製造されうる。
【0003】
鋼製のピストンリングの製造には、線が用いられる。この線の製造では、まず、所定の組成を有するインゴットが得られる。このインゴットに熱間圧延、焼なまし、冷間伸線、冷間圧延等が施され、素線が得られる。この素線に焼入及び焼戻が施され、ピストンリング用の線が得られる。
【0004】
この線に、曲げ加工が施される。この曲げ加工は、コイリングと称されている。コイリングの後に、線は切断される。切断後の線は、ほぼリング状を呈する。コイリング及び切断により、線の一端と他端とが対向する。この部分は、合口と称されている。線の一端と他端とは、離間している。換言すれば、合口にはスペースが存在する。この線に、歪取り焼鈍が施される。さらにこの線に、窒化処理が施される。これらの工程を経て、ピストンリングが得られる。
【0005】
合口の幅が不適切であるリングでは、このリングがシリンダーに装着されたときの張力が不適切である。リングの張力が不適切であるピストンでは、ブローバイ量が大きい。このピストンを備えた内燃機関では、燃焼効率が低い。
【0006】
前述の歪取り焼鈍及び窒化処理により、リングは縮径又は拡径する。この縮径及び拡径により、合口の幅が変化する。具体的には、リングが縮径することにより合口の幅が縮小し、リングが拡径することにより合口の幅が拡大する。変化後の幅が適正値となるように、変化前の幅が決定される。換言すれば、変化前の幅は、変化率が考慮されて決定される。変化率が大きい線では、この変化率がばらつきやすい。従って、変化後の合口の幅も、ばらつきやすい。変化率が大きい線では、合口の幅が不適正であるピストンリングが得られるおそれがある。
【0007】
特開2005−344134公報には、リングの縮径が生じにくい線が開示されている。この線では、合口の幅が適正であるピストンリングが得られうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−344134公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2005−344134公報に開示された線は、多量のNi及びCrを含んでいる。この線は、高価である。
【0010】
コイリングのとき、線にクラックが生じることがある。コイリングのとき、線が折れることもある。コイリング時の加工性に優れた線が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、ピストンリングの合口の幅がばらつきにくく、コイリング時の加工性に優れ、しかも低コストで得られるピストンリング用線の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、線の製造工程での焼戻温度が高く設定されることにより、ピストンリングの製造工程での熱処理における合口の幅の変化が抑制されることを見出した。一方、高い温度で焼戻された線の硬さは、低い。この線から得られたピストンリングは、強度に劣る。本発明者は、線の組成と組織との調整により、高い温度で焼戻されたにもかかわらず、適正な硬さを有する線が得られることを見出した。
【0013】
本発明に係るピストンリング用線は、0.50質量%以上0.80質量%以下のCと、1.00質量%以下のSiと、1.00質量%以下のMnと、11.0質量%以上14.0質量%以下のCrと、0.20質量%以上2.0質量%以下のMoと、不可避的不純物とを含む鋼からなる。この線の横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の面積率は、10%以下である。この線のビッカース硬さは、350以上450以下である。
【0014】
好ましくは、鋼におけるMoの量は、0.80質量%以上1.20質量%以下である。好ましくは、鋼は、0.03質量%以上0.15質量%以下のVをさらに含む。
【0015】
好ましくは、横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の密度は、250個/1000μm以下である。
【0016】
この線は、焼入及び焼戻を経て得られうる。好ましくは、この焼戻の温度は、645℃以上である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るピストンリング用線は、曲げ加工後の熱処理による合口の幅の変化が小さい。従って、この合口の幅のばらつきが小さい。この線のビッカース硬さが適正なので、この線はコイリング時の加工性に優れる。さらに、この線の鋼におけるCrの量が少ないので、この線は低コストで得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るピストンリング用線の一部が示された斜視図である。
【図2】図2は、図1の線の曲げ加工後の状態が示された斜視図である。
【図3】図3は、図2の線が示された平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施例1に係る線が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1に示されたピストンリング用線1は、鋼からなる。この線1の製造では、まず溶製により、インゴットが得られる。このインゴットに熱間圧延、焼鈍、冷間伸線及び冷間圧延が施され、素線が得られる。この素線に焼入及び焼戻が施される。
【0021】
この線1に、コイリングが施される。この線1はさらに、切断される。図2及び3に示されるように、切断後の線1は、ほぼリング状を呈する。コイリング及び切断により、線1の一端2と他端3とが対向する。一端2と他端3との間は、合口4と称されている。一端2と他端3とは、離間している。図3において矢印Wで示されているのは、合口4の幅である。
【0022】
切断後、線1に熱処理が施される。典型的には、歪取り焼鈍及び窒化処理が、線1に施される。これらの熱処理を経て、ピストンリングが得られる。熱処理により、合口4の幅Wが変化する。変化率P1(絶対値)は、下記数式によって算出される。
【0023】
【数1】
【0024】
上記数式において、W1は熱処理前の合口4の幅を表し、W2は熱処理後の合口4の幅を表す。適正な幅W2が達成されるように、幅W1が設定される。
【0025】
変化率P1が小さいほど、幅W2のばらつきが小さい。前述の通り、線1は、素線に焼入及び焼戻が施されて得られる。本発明者が得た知見によれば、この焼戻の温度が高いほど、後の熱処理における変化率P1が小さい。焼戻の温度が高くても、線1の組成と組織とが適正とされることにより、この線1が十分な硬さを有する。
【0026】
変化率P1が小さな線1が得られるとの観点から、焼戻温度は645℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、660℃以上が特に好ましい。ピストンリングの強度の観点から、焼戻温度は700℃以下が好ましい。
【0027】
この線1の鋼の組成は、以下の通りである。
C:0.50質量%以上0.80質量%以下
Si:1.00質量%以下
Mn:1.00質量%以下
Cr:11.0質量%以上14.0質量%以下
Mo:0.20質量%以上2.0質量%以下
残部:Fe及び不可避的不純物
【0028】
Cは、侵入型の固溶元素である。適量なCを含む鋼は、高い硬度を有する。Cは、鋼の強度に寄与する。さらにCは、組織に炭化物を生成させる。この炭化物は、鋼の耐摩耗性に寄与する。これらの観点から、Cの量は0.50質量%以上が好ましく、0.60質量%以上が特に好ましい。共晶炭化物の晶出の制御の観点及び線1の冷間加工性の観点から、この量は0.80質量%以下が好ましく、0.70質量%以下が特に好ましい。
【0029】
Siは、精錬時に脱酸剤として機能する。適量なSiを含む鋼は、高い硬度を有する。Siは、鋼の強度に寄与する。これらの観点から、Siの量は0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上が特に好ましい。線1の冷間加工性の観点から、この量は1.00質量%以下が好ましく、0.50質量%以下が特に好ましい。
【0030】
Mnは、インゴットの溶製時に、脱酸剤として機能する。さらにMnは、不純物であるSの悪影響を抑制する。これらの観点から、Mnの量は0.20質量%以上が好ましく、0.40質量%以上が特に好ましい。線1の熱間加工性の観点及びピストンリングの耐食性の観点から、この量は1.00質量%以下が好ましく、0.80質量%以下が特に好ましい。
【0031】
Crを含むピストンリングは、耐食性に優れる。Crが固溶した鋼からなるピストンリングは、耐熱へたり性に優れる。熱へたりとは、高温にてピストンリングが使用されたときに、クリープによってピストンリングの張力が低下する現象である。張力の低下は、ピストンリングのシール性能を阻害する。Crは、Cと結合して炭化物を形成する。Crはさらに、窒化物を形成してピストンリングの耐摩耗性を高める。これらの観点から、Crの量は11.0質量%以上が好ましく、12.0質量%以上が特に好ましい。線1の冷間加工性の観点及びピストンリングのコストの観点から、この量は14.0質量%以下が好ましく、13.0質量%以下が特に好ましい。
【0032】
前述の通り、線1は焼入及び焼戻を経て得られる。Moを含む線1は、焼戻後において、十分な硬度を有する。この線1から得られたピストンリングは、強度に優れる。Moは、Cと結合して炭化物を形成する。この炭化物は、ピストンリングの耐摩耗性に寄与する。これらの観点から、Moの量は0.20質量%以上が好ましく、0.80質量%以上が特に好ましい。線1の冷間加工性の観点から、この量は2.0質量%以下が好ましく、1.2質量%以下が特に好ましい。
【0033】
典型的な不純物は、Pである。Pは、結晶粒界に偏析する。Pは、鋼の熱間加工性を阻害する。Pはさらに、ピストンリングの疲労強度を低下させる。これらの観点から、Pの量は少ないほど好ましい。具体的には、この量は0.05質量%以下が好ましく、0.03質量%以下が特に好ましい。
【0034】
他の典型的な不純物は、Sである。Sは、Mn等と結合して介在物を形成する。この介在物は、ピストンリングの疲労強度を低下させる。この介在物はさらに、ピストンリングの耐食性を阻害する。これらの観点から、Sの量は少ないほど好ましい。具体的には、この量は0.03質量%以下が好ましく、0.01質量%以下が特に好ましい。
【0035】
さらに他の典型的な不純物は、Nである。Nは、鋼の熱間加工性を阻害する。Nはさらに、窒化物である介在物を形成し、ピストンリングの疲労強度を低下させる。この観点から、Nの量は0.04質量%未満が好ましく、0.03質量%以下が特に好ましい。
【0036】
本発明において、鋼がVを含んでもよい。Vは、炭化物の析出温度を高温側に移行させる。Vを含む線1は、焼戻後において、十分な硬度を有する。この線1から得られたピストンリングは、強度に優れる。Vは、Cと結合して炭化物を形成する。この炭化物は、ピストンリングの耐摩耗性に寄与する。これらの観点から、Vの量は0.03質量%以上が好ましく、0.04質量%以上が特に好ましい。線1の冷間加工性の観点から、この量は0.15質量%以下が好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。
【0037】
本発明に係る線1の鋼の組成において最も特徴的な元素は、Mo及びVである。前述の通り、高温での焼戻により、変化率P1が小さな線1が得られる。一方、高温での焼戻は、炭化物の析出を助長する。Mo及びVは、この炭化物の析出温度を高温側に移行させる。Mo又はVを含む鋼からなる線1では、焼戻による軟化が抑制される。この線1は、強度に優れる。
【0038】
線1は、製鋼、熱間圧延、焼なまし、伸線、冷間圧延、焼入、焼戻等の工程を経て製造される。熱間圧延後の冷却により、素線において炭化物が析出する。この炭化物が焼なましにおいて成長し、かつ球状化する。伸線時に冷間加工及び焼なましが繰り返されることにより、炭化物はさらに成長する。この炭化物は、Fe、Cr及びMoを含む。この炭化物は、Vを含みうる。適切な温度での焼入により、一部の炭化物が固溶する。焼入により、マルテンサイトと炭化物とを含む組織が得られる。焼入温度が高温に設定されることにより、理想的な組織が得られる。好ましくは、焼入温度は、1070℃以上である。焼戻では、炭化物が成長する。焼戻しではさらに、新たな炭化物が析出する。この焼戻により、強靱な線1が得られる。
【0039】
この線1では、面積率P2は、10%以下である。この面積率P2は、線1の横断面での組織の、光学顕微鏡による観察によって測定される。横断面とは、圧延方向に垂直な平面に沿った断面である。面積率P2は、断面の画像解析によって算出される。画像の面積は、1684μmである。この画像の面積がS1とされ、この画像内に存在しかつ円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の合計面積がS2とされたとき、面積率P2は下記数式によって算出される。
P2 = (S2 / S1) * 100
【0040】
合計面積S2は、画像処理によって算出される。この処理の解像度は、0.0645μm/画素である。算出のための画像の撮影に先立ち、線1の断面には、電解腐食が施される。電解腐食の条件は、以下の通りである。
腐食液:シュウ酸水溶液(濃度:10質量%)
温度:20℃
電圧:3V
腐食時間:3秒
【0041】
円相当径とは、それぞれの炭化物粒子の面積と同一の面積を有する円が仮想されたときの、この円の直径を意味する。円相当径が0.2μm未満である炭化物粒子の面積は、極めて小さい。従って、円相当径が0.2μm未満である炭化物粒子が面積率に与える影響は、小さい。円相当径が5μmを超える炭化物粒子の出現頻度は、極めて小さい。従って、円相当径が5μmを超える炭化物粒子が面積率に与える影響は、小さい。これらの事情に鑑み、本発明では、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の合計面積S2に基づいて、面積率P2が算出される。
【0042】
面積率P2が10%以下である線1では、十分な量のCがFeに固溶している。この線1は、高硬度である。この線1から得られるピストンリングは、強度に優れる。強度の観点から、面積率P2は8.5%以下が特に好ましい。
【0043】
前述の通り、線1の製造工程における焼戻温度は、高い。この線1では、合口4の変化率P1は小さい。焼戻温度が高いほど、多くの炭化物が析出する。換言すれば、焼戻温度が高いほど、面積率P2が大きい傾向がある。本発明に係る線1では、小さな変化率P1と小さな面積率P2とが、両立されている。
【0044】
小さな変化率P1と小さな面積率P2との両立のための第一の手段は、鋼へのMo又はVの添加である。Mo及びVは、前述の通り、炭化物の析出温度を高温側に移行させる。
【0045】
小さな変化率P1と小さな面積率P2との両立のための第二の手段は、焼戻前の鋼の組織の調整である。微細でありかつ大きさが均一な炭化物を含む組織により、焼戻温度が高い場合でも、ピストンリングに適した硬さが達成される。
【0046】
ピストンリングの強度の観点から、線1の横断面での組織における、円相当径が0.2μm以上5μm以下である炭化物粒子の密度Dは、250個/1000μm以下が好ましく、225個/1000μm以下が特に好ましい。
【0047】
この線1のビッカース硬さHvは、350以上450以下が好ましい。硬さHvが350以上である線1から得られたピストンリングは、強度に優れる。この観点から、硬さHvは360以上が特に好ましい。硬さHvが450以下である線1は、コイリング時の加工性に優れる。この観点から、硬さHvは440以下が特に好ましい。硬さHvは、「JIS Z 2244」の規定に準拠して測定される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0049】
[実施例1]
成分を調製した溶湯から、インゴットを得た。このインゴットに熱間圧延、焼鈍、冷間伸線、冷間圧延を施し、素線を得た。この素線に焼入を施した。焼入温度は、1070℃であった。この素線に焼戻を施して、実施例1の線を得た。焼戻温度は、664℃であった。この線の横断面を観察したところ、面積率P2は8.45%であり、密度Dは221個/1000μmであった。この線のビッカース硬さHvは、421であった。この線の横断面形状が、図4に示されている。
【0050】
[実施例2−6及び比較例1−2]
焼戻温度を下記の表2及び3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−6及び比較例1−2の線を得た。
【0051】
[実施例7−10及び比較例3−4]
Moの量を下記の表4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例7−10及び比較例3−4の線を得た。
【0052】
[実施例11−14]
Vの量を下記の表5に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例11−14の線を得た。
【0053】
[変化率の測定]
線にコイリングを施し、合口の幅が約10mmであるリングを形成した。このリングに、歪取り焼鈍を施した。この歪取り焼鈍の温度は、600℃であった。さらに、このリングに窒化処理を施し、ピストンリングを得た。この窒化処理温度は、570℃であった。このピストンリングの合口の幅を測定し、変化率P1を算出した。10本のリングの測定で得られた変化率P1の平均と標準偏差とが、下記の表2−5に示されている。
【0054】
[加工性の評価]
線にコイリングを施して50本のリングを形成し、加工性を判定した。下記の基準に基づいて、格付けを行った。
A:クラックは、発生しない。コイリング後の合口の幅のばらつきは、小さい。
B:クラックは、発生しない。コイリング後の合口の幅のばらつきは、大きい。
C:クラックが発生する。
この結果が、下記の表2−5に示されている。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表2−5に示されるように、各実施例に係るピストンリング用線は、諸性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
熱処理によってリングが拡径する場合でも、本発明に係る線により、ピストンリングの合口の幅のばらつきが抑制されうる。
【0062】
スリンキーによるコイリング工程、歪取り焼鈍工程、窒化処理工程及び切断工程を経て得られるピストンリングにおいても、本発明に係る線は、その効果を奏しうる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・線
2・・・一端
3・・・他端
4・・・合口
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【国際調査報告】