(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014054351
(43)【国際公開日】20140410
【発行日】20160825
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長用基板及びその製造方法、並びに超電導線材用基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20160729BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160729BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20160729BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20160729BHJP
   C22C 9/04 20060101ALN20160729BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160729BHJP
   H01B 12/06 20060101ALN20160729BHJP
【FI】
   !C30B29/22 501Z
   !C22F1/08 A
   !C22C9/00
   !C22C9/02
   !C22C9/04
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 622
   !H01B12/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
【出願番号】2014539638
(21)【国際出願番号】JP2013072520
(22)【国際出願日】20130823
(31)【優先権主張番号】2012223187
(32)【優先日】20121005
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区四番町2番地12
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区北浜四丁目5番33号
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】神代 貴史
【住所又は居所】山口県下松市東豊井1296番地の1 東洋鋼鈑株式会社 技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】岡山 浩直
【住所又は居所】山口県下松市東豊井1296番地の1 東洋鋼鈑株式会社 技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】黒川 哲平
【住所又は居所】山口県下松市東豊井1296番地の1 東洋鋼鈑株式会社 技術研究所内
(72)【発明者】
【氏名】南部 光司
【住所又は居所】山口県下松市東豊井1296番地の1 東洋鋼鈑株式会社 技術研究所内
【テーマコード(参考)】
4G077
5G321
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC53
4G077DA03
4G077ED06
4G077EE06
4G077HA08
4G077HA12
5G321AA02
5G321AA04
5G321CA04
5G321CA18
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA41
5G321CA52
5G321DB38
(57)【要約】
より高度な2軸結晶配向性を有するエピタキシャル成長用銅基板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明のエピタキシャル成長用基板は、2軸結晶配向した銅層を含み、前記銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが5°以内であり、且つ極点図に基づくピークの裾野幅Δβが15°以内であることを特徴とする。このようなエピタキシャル成長用基板は、ΔΦが6°以内、且つ裾野幅Δβが25°以内となるように銅層の熱処理を行う第一工程と、前記第一工程の後に、第一工程における熱処理温度よりも高温で、ΔΦが5°以内、且つ裾野幅Δβが15°以内となるように銅層の熱処理を行う第二工程とにより製造される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸結晶配向した銅層を含み、前記銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが5°以内であり、且つ極点図に基づくピークの裾野幅Δβが15°以内であるエピタキシャル成長用基板。
【請求項2】
銅層上に、さらにニッケル又はニッケル合金を含む保護層を備え、前記保護層の厚さが1μm以上5μm以下であり、前記保護層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが6°以内であり、且つ表面粗度Raが20nm以下である請求項1に記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項3】
請求項1に記載のエピタキシャル成長用基板の製造方法であって、ΔΦが6°以内、且つ裾野幅Δβが25°以内となるように銅層の熱処理を行う第一工程と、前記第一工程の後に、第一工程における熱処理温度よりも高温で、ΔΦが5°以内、且つ裾野幅Δβが15°以内となるように銅層の熱処理を行う第二工程とを含む前記製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエピタキシャル成長用基板が、非磁性の金属板上に積層されてなる超電導線材用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長用基板及びその製造方法に関する。また、エピタキシャル成長用基板を用いた超電導線材用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、優れた高温酸化物超電導線材は、金属基板上に、中間層として酸化セリウム(CeO)、ジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ)、酸化イットリウム(Y)等の酸化物層をスパッタリング法等によってエピタキシャル成長させ、さらにその上に、超電導化合物層(RE123膜、RE:Y、Gd、Ho等)をレーザーアブレーション法等によりエピタキシャル成長させて製造している。
【0003】
結晶配向した超電導化合物層を得るための技術として、ハステロイ等の無配向金属基板の上に配向中間層を成膜することで、超電導化合物層に結晶配向を引き継がせるイオン・アシスト・ビーム成膜法(IBAD法)や、2軸結晶配向した金属基板を用いることで、中間層、超電導化合物層と結晶配向を引き継がせて成膜する方法(RABiTS法等)が知られている。成膜速度等、将来の生産効率を考慮した場合、後者の方法が有利であるが、超電導特性を向上させるには、金属基板を高度に2軸結晶配向させることが必要となる。
【0004】
このような金属基板(超電導線材用基板)として、ステンレス基板上に結晶配向した銅を積層させ、その上にさらにニッケルを積層させた基板が知られている。例えば、(特許文献1)には、金属層と、前記金属層の少なくとも一方の面に接合された銅層とからなり、前記銅層は、結晶軸のずれ角ΔφがΔφ≦6°である{100}<001>立方体集合組織を有する、エピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板が開示されている。
【0005】
さらに、2軸結晶配向した金属基板の製造方法として、(特許文献2)には、ステンレス等からなる非磁性の金属板と、高圧下率で冷間圧延されたCuもしくはCu合金からなる金属箔とを表面活性化接合にて積層し、積層後、熱処理により前記金属箔を2軸結晶配向させた後、前記金属箔側表面にNiもしくはNi合金のエピタキシャル成長膜を付与させる酸化物超電導線材用金属積層基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266686号公報
【特許文献2】特開2010−118246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のエピタキシャル成長用基板の製造においては高圧下で冷間圧延された銅に熱処理を施すことで結晶配向させており、特に高温で熱処理を行うことによって、銅を高度に結晶配向させる方法が知られていた。しかしながら、製造効率を高めるべく連続熱処理炉を用いた場合には、結晶配向性が十分に向上しないという問題があった。また、温度及び均熱時間を増加させると銅表面の表面粗度が劣化したり、その一方で銅層が平滑となる熱処理条件を採用すると、銅層上にニッケル層を設けた際にニッケル層の表面粗度が劣化する等の問題があった。
【0008】
そこで本発明は、より高度な2軸結晶配向性を有するエピタキシャル成長用銅基板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、銅層のX線回折により得られる極点図に基づくピーク形状を所定の範囲内に制御することにより銅層の最適な2軸結晶配向性が得られることを見出し、さらに銅層上に設けられるニッケル等の保護層において最適な2軸結晶配向性及び表面平滑性を得ることが可能となることを見出し、発明を完成した。また、基板を製造する際に、銅層に対し2段階からなる熱処理を施すことによって、前記の最適な2軸結晶配向性を有する銅層が得られることを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)2軸結晶配向した銅層を含み、前記銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが5°以内であり、且つ極点図に基づくピークの裾野幅Δβが15°以内であるエピタキシャル成長用基板。
【0011】
(2)銅層上に、さらにニッケル又はニッケル合金を含む保護層を備え、前記保護層の厚さが1μm以上5μm以下であり、前記保護層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが6°以内であり、且つ表面粗度Raが20nm以下である前記(1)に記載のエピタキシャル成長用基板。
【0012】
(3)前記(1)に記載のエピタキシャル成長用基板の製造方法であって、ΔΦが6°以内、且つ裾野幅Δβが25°以内となるように銅層の熱処理を行う第一工程と、前記第一工程の後に、第一工程における熱処理温度よりも高温で、ΔΦが5°以内、且つ裾野幅Δβが15°以内となるように銅層の熱処理を行う第二工程とを含む前記製造方法。
【0013】
(4)前記(1)又は(2)に記載のエピタキシャル成長用基板が、非磁性の金属板上に積層されてなる超電導線材用基板。
【0014】
なお、本発明において「エピタキシャル成長用基板」とは、その基板上にさらに別の層をエピタキシャル成長させて設けるための基板を指す。また、「極点図に基づくピーク」とは、X線回折により(111)の極点図を作成し、その極点図のα=35°に現れる4本のピークの平均値としてのピークをいう。
【0015】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2012−223187号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエピタキシャル成長用基板は、銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦを5°以内、且つ裾野幅Δβを15°以内に規定したことにより、銅層及び銅層上に設けられるニッケル等の保護層において高度な2軸結晶配向性及び表面平滑性を得ることができる。また、銅層の熱処理を2段階に分けて行うことにより、上記の高度な2軸結晶配向性及び表面平滑性を有するエピタキシャル成長用基板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1におけるCu(111)極点図のα=35°におけるβ角とX線強度の展開図を示す図である。
【図2】比較例1におけるCu(111)極点図のα=35°におけるβ角とX線強度の展開図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のエピタキシャル成長用基板は、2軸結晶配向した銅層を含み、その銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが5°以内、好ましくは4.5°以内であり、且つ裾野幅Δβが15°以内であることを特徴とする。ここで、半値幅ΔΦは、図1に示すように、X線回折により得られるCu(111)極点図において、α=35°に現れる4本のピークの平均値であるピークの高さHの半分(H/2)の位置におけるピークの幅(°)をいい、裾野幅Δβは、ピークの高さHの1/50の位置におけるピークの幅(°)をいう。
【0020】
このような銅層としては、銅箔が好ましく用いられる。銅層の厚さは、銅層自体の強度を確保するとともに、後に超電導線材を加工する際の加工性を良好にするため、通常7μm以上70μm以下とすることが好ましい。
【0021】
銅層の(111)極点図から得られるΔΦ及びΔβを所定の範囲内に制御し、高度な2軸結晶配向性を得るための方法としては、例えば、90%以上の高圧下率で冷間圧延を行ない、銅層全体に均一な歪みを与えた後、熱処理により再結晶させる方法を用いることができる。圧下率が90%未満であると、後に行う熱処理によって十分な2軸結晶配向が得られない恐れがある。このような高圧下圧延銅箔は、一般的にも入手可能であり、例えば、JX日鉱日石金属(株)製の高圧下圧延銅箔(HA箔(商品名))や、日立電線(株)製の高圧下圧延銅箔(HX箔(商品名))等がある。
【0022】
そして、本発明においては、最終的に半値幅ΔΦが5°以内、裾野幅Δβが15°以内の銅層を得るため、熱処理を異なる条件で段階的に行うことが好ましい。これにより、高度な2軸結晶配向性を有する銅層を得ることができ、また、銅層の上にニッケル等からなる保護層を設ける場合に、保護層の2軸結晶配向性及び表面平滑性を高めることができる。具体的には、銅層のΔΦが6°以内、且つ裾野幅Δβが25°以内となるように熱処理を行う第一工程と、前記第一工程の後に、第一工程の熱処理温度よりも高温で、ΔΦが5°以内、且つ裾野幅Δβが15°以内となるように熱処理を行う第二工程とを含むことが好ましい。なお、第一工程及び第二工程により銅層の熱処理を行う場合、第一工程後に冷却することなく第二工程を続けて行っても良いし、第一工程後に半値幅ΔΦが6°以内、且つ裾野幅Δβが25°以内である銅層が得られていれば、第一工程後に例えば室温まで一度冷却し、その後に第二工程の熱処理を施しても良い。
【0023】
第一工程及び第二工程における具体的な熱処理条件は、ΔΦ及びΔβを所定の範囲内に制御できれば良く、特に限定されるものではない。一例として、第一工程では、比較的低温(200〜400℃)にて熱処理を行うことが好ましく、熱処理時間は5〜240分程度とすることができる。また、第二工程では、熱処理温度は第一工程よりも高温とするが、熱処理温度が高過ぎると、銅層が2次再結晶を起こしやすくなり、結晶配向性が悪化するため、通常1000℃以下とすることが好ましい。より好ましくは800〜900℃である。また、第二工程における熱処理時間は、その他の条件によって異なるが、比較的短時間とすることが好ましく、具体的には均熱時間が10分未満、特に1〜5分とすることが好ましい。ここでいう均熱時間とは、温度が所定の温度に達している炉内で銅層を保持する時間をいう。均熱時間を10分以上とした場合には、銅層の表面粗度がやや劣化したり、あるいは2次再結晶や過度の再配列を生じたりする恐れがあり、その結果、銅層の上に設ける保護層の表面粗度の劣化につながる可能性がある。なお、上記のような熱処理は、実際には、超電導線材用基板を製造する過程において、銅層と非磁性の金属板とを表面活性化接合法等により貼り合わせた後に行うことが好ましい。上記の熱処理により、銅層と非磁性金属板との密着力が向上し、具体的には10N/cm以上、好ましくは20N/cm以上の密着力を得ることができる。
【0024】
また、銅層には、熱処理によって2軸結晶配向性をより向上させるため、1%以下程度の微量の元素を含有させても良い。このような添加元素としては、Ag、Sn、Zn、Zr、O及びN等から選択される一種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素と銅とは固溶体を形成するが、添加量が1%を超えると固溶体以外の酸化物等の不純物が増加してしまい、結晶配向性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0025】
さらに、2軸結晶配向した銅層の上に、めっきによりニッケル又はニッケル合金を含む保護層を形成することができる。ニッケルを含む保護層は銅層よりも耐酸化性に優れ、また保護層が存在することによって、その上にCeO等の中間層を形成する際に、銅の酸化膜が生成して結晶配向性が崩れることを防止することができる。ニッケル合金の含有元素としては、磁性が低減されるものが好ましく、例としてCu、Sn、W、Cr等の元素が挙げられる。また、結晶配向性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、不純物を含んでいても良い。
【0026】
ニッケル又はニッケル合金を含む保護層の厚さは、薄過ぎるとその上に中間層、超電導化合物層を積層する際にCuが保護層表面まで拡散することにより表面が酸化する可能性があり、また厚過ぎると保護層の結晶配向性が崩れ、めっき歪も増大するため、これらを考慮して適宜設定される。具体的には、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明においては、銅層の半値幅ΔΦを5°以内、且つ裾野幅Δβを15°以内に制御したことにより、銅層上に設ける保護層の結晶配向性を良好に維持し、また保護層表面の平滑性をより高めることができる。具体的には、保護層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦが6°以内であり、表面粗度Raが20nm以下の保護層を形成することができる。
【0028】
めっき処理は、保護層のめっき歪が小さくなるような条件を適宜採用して行うことができる。ここで、めっき歪とは、金属板等の下地にめっき処理を施した場合に、めっき皮膜内に生ずる歪(ひずみ)の度合いをいう。例えば、保護層としてニッケルからなる層を形成する場合は、めっき浴として従来知られたワット浴やスルファミン酸浴を用いて行うことができる。特に、スルファミン酸浴は、保護層のめっき歪を小さくしやすいため好適に用いられる。めっき浴組成の好ましい範囲は以下の通りであるが、これに限定されるものではない。
【0029】
(ワット浴)
硫酸ニッケル 200〜300g/l
塩化ニッケル 30〜60g/l
ホウ酸 30〜40g/l
pH 4〜5
浴温 40〜60℃
(スルファミン酸浴)
スルファミン酸ニッケル 200〜600g/l
塩化ニッケル 0〜15g/l
ホウ酸 30〜40g/l
添加剤 適量
pH 3.5〜4.5
浴温 40〜70℃
めっき処理を行う際の電流密度は、特に限定されるものではなく、めっき処理に要する時間とのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、例えば、保護層として2μm以上のめっき皮膜を形成する場合、低電流密度であるとめっき処理に要する時間が長くなり、その時間を確保するためにラインスピードが遅くなって、生産性が低下したり、めっきの制御が困難になる場合があるため、通常、電流密度を10A/dm以上とすることが好ましい。また、電流密度の上限は、めっき浴の種類によって異なり、特に限定されるものではないが、例えばワット浴であれば25A/dm以下、スルファミン酸浴であれば35A/dm以下とすることが好ましい。一般に、電流密度が35A/dmを超えると、所謂めっき焼けによって良好な結晶配向が得られない場合がある。
【0030】
形成した保護層は、めっき条件等によって表面にマイクロピットが発生する場合がある。その場合、必要に応じて、めっき後にさらに熱処理による平均化を行ない、表面を平滑にすることができる。その際の熱処理温度は、例えば700〜1000℃とすることが好ましい。
【0031】
以上のような、銅層と保護層とを有するエピタキシャル成長用基板は、さらに非磁性の金属板と積層させることにより、超電導線材用基板を得ることができる。この超電導線材用基板を製造する際には、実際には、まず高圧下率で圧延した銅層を非磁性金属板と貼り合わせ、続いて所定の熱処理を行い、銅層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦを5°以内、且つ裾野幅Δβを15°以内になるよう制御して2軸結晶配向性を向上させた後に、めっきにより銅層上に保護層を形成して製造することが好ましい。
【0032】
非磁性とは、77K以上で強磁性体ではない、すなわちキュリー点やネール点が77K以下に存在し、77K以上の温度では常磁性体又は反強磁性体となる状態をいう。非磁性の金属板としては、ニッケル合金やオーステナイト系ステンレス鋼板が、強度に優れ補強材としての役割を有することから好ましく用いられる。
【0033】
一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は、常温では非磁性の状態、すなわち金属組織が100%オーステナイト(γ)相であるが、強磁性体であるマルテンサイト(α’)相変態点(Ms点)が77K以上に位置している場合、液体窒素温度で強磁性体であるα’相が発現する可能性がある。そのため、液体窒素温度(77K)下で使用される超電導線材用基板としては、Ms点が77K以下に設計されているものが好ましく用いられる。
【0034】
使用するγ系ステンレス鋼板としては、Ms点が77Kより十分に低く設計された安定なγ相を有し、且つ一般に普及し、比較的安価に入手できるという点から、SUS316やSUS316L、SUS310やSUS305等の板材が好ましく用いられる。これらの金属板の厚さは、通常20μm以上であれば適用可能であり、超電導線材の薄肉化及び強度を考慮すると、50μm以上100μm以下であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0035】
上記非磁性の金属板と銅層とを積層させるに際しては、表面活性化接合法等の従来知られた手法を適宜用いて行うことができる。表面活性化接合法では、非磁性金属板及び銅層のそれぞれの表面を、例えば10〜1×10−2Pa程度の極低圧不活性ガス雰囲気中でスパッタエッチング処理を行なうことにより表面吸着層及び表面酸化膜を除去して活性化させ、その後、活性化した2つの面同士を例えば0.1〜5%の圧下率で冷間圧接することにより接合する。冷間圧接の際は、活性化処理された表面が再酸化されて密着性に悪影響を及ぼさないよう、1×10−2Pa以下の高真空下で行うことが好ましい。
【0036】
また、保護層の上にさらにエピタキシャル成長によって積層させる中間層及び超電導化合物層の結晶配向性を良好に維持するため、必要に応じて、非磁性金属板と銅層とを接合させた後、銅層の表面粗度Raを低減するための処理を行っても良い。具体的には、圧延ロールによる圧下、バフ研磨、電解研磨、電解砥粒研磨等の方法を用いることができ、これらの方法により、表面粗度Raを例えば20nm以下、好ましくは10nm以下にすることが望ましい。
【0037】
なお、2軸結晶配向した銅層及び保護層は、非磁性の金属板の片面のみに積層させても良く、あるいは金属板の両面に積層させても良い。
【0038】
以上のような超電導線材用基板における保護層の上に、従来の方法に従って中間層及び超電導化合物層を順次積層することにより、超電導線材を製造することができる。具体的には、めっきにより形成した保護層の上に、CeO、YSZ、SrTiO、MgO、Y等の中間層をスパッタリング法等の手段を用いてエピタキシャル成膜し、さらにその上にY123系等の超電導化合物層をレーザーアブレーション法等により成膜することによって超電導線材を得ることができる。必要に応じて、超電導化合物層の上にさらにAg、Cu等からなる保護膜を設けても良い。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1〜2及び比較例1〜5)
まず、非磁性金属板としてSUS316L(厚さ100μm)を用い、これに高圧下率(圧下率96〜99%)で冷間圧延した銅箔(厚さ18μm)を表面活性化接合法により0.05〜1PaのArガス雰囲気中でスパッタエッチング処理を行った後0.1〜1%の圧下率にて冷間圧接して積層材を作製した。この積層材の銅層表面を研磨により表面粗度Raを20nm以下とした後、積層材に、それぞれ以下の条件で熱処理を施した。
【0041】
・第一工程として、温度:250〜300℃、均熱時間:5分の熱処理を施した後に、第二工程として、温度:850〜875℃、均熱時間:5分の熱処理を施した(実施例1及び2)。なお、熱処理はいずれも連続熱処理炉にて施した。
【0042】
・温度:250℃、均熱時間:5分及び240分の熱処理を施した(比較例1及び2、第一工程のみの熱処理に相当する)。なお、熱処理は、均熱時間5分の比較例1では連続熱処理炉にて、均熱時間240分の比較例2では箱型熱処理炉にて施した。
【0043】
・温度:850〜950℃、均熱時間:5〜10分の熱処理を施した(比較例3、4及び5、第二工程のみの熱処理に相当する)。なお、熱処理はいずれも連続熱処理炉にて施した。
【0044】
次に、積層材をカソードとして、銅層上にニッケルめっきを施した。めっき浴の組成は以下の通りである。なお、ニッケルめっき厚は2.5μmとし、めっき浴温は70℃、めっき浴のpHはpH4に設定した。
【0045】
(スルファミン酸浴)
スルファミン酸ニッケル 450g/l
塩化ニッケル 5g/l
ホウ酸 30g/l
添加剤 5ml/l
そして、銅層の熱処理を終えた段階、及びニッケルめっきを施した段階で、X線回折装置(リガク社製RINT2000)を用い、銅層及び保護層の極点図に基づくピークの半値幅ΔΦ及び裾野幅Δβをそれぞれ測定した。実施例1及び比較例1において測定された極点図のα=35°におけるβ角とX線強度の展開図をそれぞれ図1及び図2に示す。
【0046】
また、AFM(Digital Instruments製Nano ScopeIIIaD3000)を用いて、銅層及び保護層の表面粗度Raとして10μm×10μmの面積内の算術平均粗さを測定した。さらに、SUS316L/銅層界面の密着力及びCu拡散距離を測定した。その結果を表1に示す。表1において、各測定値は「A/B」の形式で記載しており、Aは5つのサンプルの測定値の平均値、Bは前記5つのサンプルの測定値の最大値を表す。密着力及びCu拡散距離の測定サンプル数は1つである。
【0047】
なお、SUS316L/銅層界面の密着力は、引張試験器(エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機)を用いて、10mm幅の180°ピール強度を測定した。また、SUS316L/銅層界面のCu拡散距離は、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子製JEM−2010F)による観察、及びエネルギー分散型X線スペクトル分析(EDS、ノーラン製UTWSi−Li)に基づき測定した。Cu拡散距離の定義は、SUS316L/銅層界面からSUS316L側をEDSにて元素分析し、銅濃度が2at%以上検出される位置までの距離をいう。
【0048】
また、表1において、「○」、「△」及び「×」の判定基準は以下の通りである。
【0049】
(結晶配向性)
○: 保護層のΔΦ(平均値及び最大値)が5°以内
△: 保護層のΔΦ(平均値及び最大値)が5.5°以内
×: 保護層のΔΦ(平均値又は最大値)が5.5°を超える(ただし6°以内)
(表面粗度)
○: 保護層のRaが20nm以下
×: 保護層のRaが20nm超
(密着力)
○: 密着力が10N/cm以上
×: 密着力が10N/cm未満
【表1】
【0050】
比較例1及び2では、低温での熱処理(第一工程の熱処理に相当する)のみを行った。得られる銅層のΔΦは小さく、表面も平滑であるが、銅層内の配向が不十分であり、微細でランダムな結晶が存在する。このため、ニッケルからなる保護層をめっきにより形成すると、保護層の表面が粗くなることが明らかとなった。また、SUS板と銅層との密着力も不十分であった。
【0051】
比較例3では、連続熱処理炉による高温処理のみを行った。圧延集合組織から再結晶(Cu(100)配向)する過程で、Cu(100)からずれた結晶が成長し、ΔΦが小さくならなかった。熱処理温度:800℃付近から、Cu拡散距離が急激に増加することも結晶成長の阻害要因と推測される。
【0052】
比較例4及び5では、熱処理温度をより高温に設定し、また比較例5では均熱時間を増加させた。これにより、銅層において過度の結晶の再配列が起こった。この影響により、ニッケルからなる保護層をめっきで形成した際、保護層の表面が粗くなることが分かった。これらの結果から、熱処理を段階的に行う場合の第二工程の条件は、熱処理温度を800〜900℃、均熱時間を10分未満に設定すると良いことが明らかとなった。
【0053】
これらの比較例に対し、第一工程及び第二工程による段階的な熱処理を施した実施例1及び2では、第一工程により銅層の結晶を優先的にCu(100)配向させた後、第二工程によって銅層の結晶の再配列を起こすため、ニッケルからなる保護層の表面が平滑であった。このとき銅層内では、第一工程によってCu(100)配向した結晶粒の核が発生し、第二工程によって第一工程で発生した核を成長させるような再配列が生じていると考えられる。このように銅層を高度に結晶配向させることにより、その上層に設けたニッケルからなる保護層においても高度な結晶配向となり、且つ表面が平滑となった。また、SUS板と銅層との密着力も優れていた。
【0054】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【図1】
【図2】
【国際調査報告】