(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014057681
(43)【国際公開日】20140417
【発行日】20160905
(54)【発明の名称】車両用前照灯装置
(51)【国際特許分類】
   B62J 6/02 20060101AFI20160808BHJP
【FI】
   !B62J6/02 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
【出願番号】2014540750
(21)【国際出願番号】JP2013006045
(22)【国際出願日】20131010
(11)【特許番号】5920480
(45)【特許公報発行日】20160518
(31)【優先権主張番号】2012226230
(32)【優先日】20121011
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号
(74)【代理人】
【識別番号】100112210
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108431
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 加奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100153176
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 重明
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 勝重
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号 三菱電機株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 律也
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号 三菱電機株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】桑田 宗晴
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号 三菱電機株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】道盛 厚司
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号 三菱電機株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】小島 邦子
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番3号 三菱電機株式会社内
(57)【要約】
本発明に係る車両用前照灯装置100は、光源211、光学系21、回転機構50及び制御回路60を有する第一の灯火器92を備えている。光学系21は、光源211からの光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム30及び第二のウェッジプリズム40を含んでいる。回転機構50は、第一のウェッジプリズム30を、回転軸を中心として回転させる。制御回路60は、第一のウェッジプリズム30を、車両のバンク角dに応じてバンク方向と逆の方向に回転させるよう回転機構50を制御する。第一のウェッジプリズム30及び第二のウェッジプリズム40は、回転軸に垂直な面が対向するように配置されている。第一のウェッジプリズム30は、ウェッジ角a1が路面の方向を向くように配置されている。また、第一のウェッジプリズム30は、回転軸を中心として回動可能に配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の光源と、
前記第一の光源からの光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムを含む光学系と、
前記第一のウェッジプリズムを、回転軸を中心として回転させる回転機構と、
前記第一のウェッジプリズムを、車両のバンク角に応じてバンク方向と逆の方向に回転させるよう前記回転機構を制御する制御回路と
を有する第一の灯火器を備え、
前記第一のウェッジプリズム及び前記第二のウェッジプリズムは、前記回転軸に垂直な面が対向するように配置され、
前記第一のウェッジプリズムは、ウェッジ角が路面の方向を向くように配置されるとともに前記回転軸を中心として回転可能に配置されることを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
第一の光源から出射された光を平行光化する光学素子をさらに有し、前記光学素子から出射された平行光が前記光学系に入射することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
第一のウェッジプリズムは、回転軸に対して垂直な面が曲面で形成され、前記曲面を透過した光の偏向方向の発散角は、前記偏向方向に直交する方向の発散角よりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
制御回路は、
車両の前方でかつ車両から予め定められた距離に位置し、車両の進行方向に対して垂直な平面上で、第一の光源の中心から出射された主光線が到達する位置を原点とし、前記原点を通り地平線と平行な直線をx軸とし、前記原点を通りx軸に直交する直線をy軸とすると、
前記x軸および前記y軸を含むx−y平面上において、
光学系によって偏向された光によって照明される照射位置の座標を座標(X,Y)とし、前記座標(X,Y)と前記原点とを結ぶ直線が前記x軸となす角を角kとするとき、
前記車両のバンク角dと前記角kとの関係が、|d|≦|k|となるように、前記第一のウェッジプリズムの回転角fを制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
制御回路は、
車両の前方でかつ車両から予め定められた距離に位置し、車両の進行方向に対して垂直な平面上で、第一の光源の中心から出射された主光線が到達する位置を原点とし、前記原点を通り地平線と平行な直線をx軸とし、前記原点を通りx軸に直交する直線をy軸とすると、
前記x軸および前記y軸を含むx−y平面上において、
光学系によって偏向された光によって照明される照射位置の座標を座標(X,Y)とし、前記座標(X,Y)と前記原点とを結ぶ直線が前記x軸となす角を角kとするとき、
前記車両の最大バンク角dmaxと前記角kとの関係が、|k|=|dmax|となるときの前記第一のウェッジプリズムの回転量fmaxを求め、前記第一のウェッジプリズムの単位バンク角当たり回転量fをfu=fmax/dmaxとして求め、前記第一のウェッジプリズムを車両のバンク方向とは逆方向に、前記単位バンク角当たり回転量fに前記車両が傾斜したバンク角dを乗算した値で制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項6】
第二の光源と、前記第二の光源の光の配光を調整する光学素子とを有した第二の灯火器をさらに備え、第一の灯火器から出射された光の配光と前記第二の灯火器から出射された光の配光とを合成して車両の前方を照らすことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項7】
第一の灯火器は、第二の灯火器よりも高照度で配光領域を照射するものであることを特徴とする請求項6に記載の車両用前照灯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者に適切な配光を提供する車両用前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の夜間の走行時のコーナリングでも広い視野を確保できるように、車体のバンク方向とは逆方向に配光領域を回転させる手段を備えた、自動二輪車用ヘッドランプが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。本明細書において、「配光」とは、光源から出る光の空間的分布である。
【0003】
また、複数の灯火器を有し、車体のバンク角に伴い、灯火器を順次点灯させることによって、視野を確保する二輪車用ヘッドランプが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−347977号公報(第2−3頁、第8図)
【特許文献2】特開2009−120057号公報(第3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された従来技術では、車両が旋回する際に、配光領域が運転者の視線の向く方向を含むように配光領域を回転させている。しかし、運転者の視線が向く領域は、配光領域の中央部から離れている領域によって照射されている。または、配光領域は、運転者の視線の向く方向の一部しか照射していない。これらのため、特許文献1に示されたヘッドランプは、運転者の視線が向く領域を明るく照射することが難しいという問題があった。後述する車両の「旋回」とは、車両等が曲線を描いて向きを変えることである。
【0006】
特許文献2に示された従来技術では、灯火器が固定されているので、車体のバンク角の変化に伴い、照射領域を連続して変化させることができないといった問題があった。
【0007】
この発明に係る車両用前照灯装置は、上記のような課題を解決するためになされたもので、車体が旋回する際に、運転者の視線の向く領域を明るく照射することができる。また、この発明に係る車両用前照灯装置は、車体のバンク角の変化に伴い、照射領域を連続的に変化させることができる。なお、前照灯装置は、ヘッドランプ及び灯火器と同じ意味である。ただし、複数のランプを用いて前照灯装置を構成する場合には、各ランプを「灯火器」とよんでいる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用前照灯装置は、第一の光源と、第一の光源からの光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムを含む光学系と、第一のウェッジプリズムを、回転軸を中心として回転させる回転機構と、第一のウェッジプリズムを、車両のバンク角に応じてバンク方向と逆の方向に回転させるよう回転機構を制御する制御回路とを有する第一の灯火器を備え、第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムは、回転軸に垂直な面が対向するように配置され、第一のウェッジプリズムは、ウェッジ角が路面の方向を向くように配置されるとともに回転軸を中心として回転可能に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用前照灯装置によれば、車両のバンク角に基づいて照明領域を移動させることができるので、車両が旋回する際に、運転者の視線の向く方向を明るく照明することができる。また、車体のバンク角の変化に伴い、照射領域を連続的に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】車両のバンク角dについての説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の高照度領域2003の移動を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置による偏向についての説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の光線の照射位置を示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の光線の照射位置を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の光線の照射位置を示す説明図である。
【図13】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【図14】本発明の実施の形態1に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置の構成を概略的に示す図である。
【図16】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置のウェッジプリズムの説明図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【図18】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図19】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置の配光形状を示す説明図である。
【図20】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【図21】本発明の実施の形態2に係る前照灯装置のウェッジプリズムの構成を示す説明図である。
【図22】前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【図23】前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【図24】前照灯装置の配光領域を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
車両用(例えば、自動二輪車)の前照灯装置の配光領域について、照度分布を含めて説明する。図22、図23及び図24は、前照灯装置の配光領域を示す説明図である。図22、図23及び図24は、紙面に対して手前側で、垂線Vの位置に運転者が位置した場合に地平線2006を見た場合の図である。また、図22、図23及び図24上で、地面に垂直な直線2007は、車両がコーナーに入る前の、車両が直進する方向に一致している。図22、図23及び図24において、直線2006に対応する直線をH、直線2007に対応する直線をVとする。図22に示すように、前照灯装置が照らす広範囲の領域を主配光領域2002とする。また、路面の左側の端部及び路面の右側の端部を端部2001とする。端部2001は例えば、路面に描かれた路側帯を示してもよい。地平線2006は、地面と空との境界をなす線である。図22に示す配光領域の中央部分2003は、主配光領域2002の中でも照度が所定の照度よりも高い部分である。この照度の高い部分を高照度領域2003とする。ただし、主配光領域2002および高照度領域2003は、各領域の中央部になるほど照度が高くなるような照度分布を示していてもよい。
【0012】
従来の技術では、車両の前照灯装置による高照度領域2003の形成は、前照灯装置を構成しているレンズのレンズ形状の工夫、又は複数の灯火器を利用すること等で実現されている。本発明の実施の形態は、複数の灯火器で主配光領域2002と高照度領域2003とを形成する車両用前照灯装置に基づき説明する。
【0013】
図22で示すように、車両が直進する場合には、運転手の視線の向く領域は、車両の前方となるため、車両の前方が高照度領域2003で照射されることになる。図22では、地平線2006と地面に垂直な直線2007との交点の下側が、高照度領域2003で照射される。
【0014】
一方、図23に示すように、車両の進路が左方向となるコーナーを走行する場合には、車両が左に傾倒するので、主配光領域2002は右側が上がり、左側が下がるように傾く。「傾倒」とは、傾き倒れることである。このとき、図23に示すように、運転者の視線が向く領域はコーナーの前方であり、旋回時運転者視線領域2005である。図23では、旋回時運転者視線領域2005を破線で示している。
【0015】
しかし、旋回して走行をする場合には、旋回時運転者視線領域2005は、配光の届かない領域となる。このため、運転者の視線が向く領域の視認性は、直進して運転する際よりも低下する。
【0016】
図24は、特許文献1のように、図23に示した主配光領域2002を時計回りに回転させた場合の照度分布を示す図である。主配光領域2002を時計回りに回転させることで、左旋回の走行時においても、主配光領域2002が旋回時運転者視線領域2005を包含する配光となっている。この場合には、旋回時運転者視線領域2005を照明することは可能である。しかし、車両の直進時のように、運転者の視線の向く領域(旋回時運転者視線領域2005)を高照度領域2003で照射できていない。このため、車両の直進時に比べて視認性は低下する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における車両用前照灯装置100を示す図である。以下の図において、説明を容易にするためにxyz座標を用いる。x軸は、車両の進行方向を見て、左右方向である。+x軸方向は、車両の進行方向を見て、左側であり、−x軸方向は、右側である。y軸は。車両の上下方向である。このため、車両が傾いた場合には、y軸も傾斜する。+y軸方向は上側である。−y軸方向は下側である。ここで、「上側」とは、空の方向で、「下側」とは地面の方向である。z軸は、車両の前後方向である。+z軸方向は前方向で、−z軸方向は後方向である。
【0018】
図1において車両用前照灯装置100は、図22に示した配光領域の、主配光領域2002の照射を担う灯火器91(第二の灯火器)と、高照度領域2003の照射を担う灯火器92(第一の灯火器)との2つの灯火器を有している。車両用前照灯100において、灯火器91および灯火器92は近くに配置されている。灯火器92(第一の灯火器)は、火器91(第二の灯火器)よりも高照度かつ火器91(第二の灯火器)よりも狭い範囲を照射するものである。また、火器91(第二の灯火器)は、灯火器92(第一の灯火器)よりも低照度でかつ灯火器92(第一の灯火器)よりも広範囲を照射するものである。
【0019】
灯火器91は、光源111及び光学素子80を有する。灯火器91は、遮光板70を有することができる。遮光板70は、光源111から出射された光を所望の形状に形成する。遮光板70は、対向車の運転手に眩しさを与えない配光とするために開口部を有している。光学素子80は、遮光板70を通過した光を所望の位置に照射し配光を調整する。
【0020】
光源111としては、光源111から光学素子80への光の損失を低減させることを目的とした面発光光源を用いてもよい。面発光源としては、例えば、LED、エレクトロルミネッセンス素子又は半導体レーザ等である。光学素子80としては、光源111からの光を、路面に照射させることを目的としたプロジェクションレンズ又はリフレクター等である。ただし、図1では、光学素子80をレンズとして表している。
【0021】
灯火器92(第一の灯火器)は、光源211、光学系21、回転機構50及び制御回路60を有する。また、灯火器92(第一の灯火器)は、光学素子20を有することができる。光学素子20は、光源211から出射された光を平行化する。光学系21は、光学素子20によって平行光化された光を所望の位置へ偏向する。「偏向」とは、光の進行方向を曲げたり変えたりする事である。回転機構50は光学系21を駆動する。回転機構50が光学系21を駆動することで、光源211から出射した光の偏向方向が変化する。制御回路60は回転機構を制御する。
【0022】
光源211としては、光源211から光学素子20への光の損失を低減させることを目的とした面発光光源を用いてもよい。面発光源としては、例えば、LED、エレクトロルミネッセンス素子又は半導体レーザ等である。光学素子20には、正のパワーをもつコリメートレンズ又はリフレクター等である。ただし、図1では、光学素子20をレンズとして表している。
【0023】
光学系21は、ウェッジプリズム30及びウェッジプリズム40を有する。また、光学系21には、歯車503によって駆動に係る動力が伝達される。「ウェッジプリズム」とは、頂角の小さなプリズムである。「頂角」とは、プリズムの2つの屈折面のなす角のことである。つまり、ウェッジプリズムは傾斜した光学面を有し、通常1面がもう片面に対し非常に小さい角度で傾斜している。入射した光はプリズムの厚みの厚い方向へ屈折する。以下において、頂角をウェッジ角aとよんで説明する。ウェッジプリズムの2つの屈折面は、一般的に平面であるが、以下に示す「ウェッジプリズム」は、屈折面が曲面の場合も含まれる。また、ウェッジプリズムは、1つの屈折面を光軸に対して垂直に配置して使用する。また、ウェッジプリズムは、光軸又は光軸に平行な軸を回転軸として回転させて使用される。屈折面が曲面の場合には、「光軸に垂直な面」とは、回転軸が屈折面と交わる点での接平面が光軸に対して垂直であることを意味する。
【0024】
ウェッジプリズム30は、入射面301と出射面302とを有する。入射面301は、光軸Cに垂直な面に対してウェッジ角a1だけ傾斜した面である。出射面302は、光軸Cに垂直な面である。ウェッジプリズム40は、入射面401と出射面402とを有する。入射面401は、ウェッジプリズム30の出射面302から出射された光を入射する。入射面401は、光軸Cに垂直な面である。出射面402は、光軸Cに垂直な面に対してウェッジ角a2だけ傾斜した面である。ウェッジ角a1とウェッジ角a2とは同じ角度である場合を示している。しかし、これらのウェッジ角a1、a2が異なる場合には、後述する式において、ウェッジ角a1、a2の値をそれぞれ代入して計算すればよい。光軸Cは、光源211の発光面の中心における法線である。
【0025】
ウェッジプリズム30のウェッジ角a1の大きさは、ウェッジプリズム40のウェッジ角a2の大きさはと等しい。ウェッジプリズム30の入射面301は、ウェッジプリズム40の出射面402と平行である。ウェッジプリズム30のウェッジ角a1は−y軸方向に向くように配置される。−y軸方向は、路面の方向であるので、ウェッジ角a1は路面を向くように配置されている。つまり、入射面301は、−x軸方向から見て、光軸Cに垂直な面から時計回りにウェッジ角a1だけ回転した面となっている。ウェッジプリズム40のウェッジ角a2は+y軸方向に向くように配置される。つまり、出射面402は、−x軸方向から見て、光軸Cに垂直な面から時計回りにウェッジ角a2だけ回転した面となっている。「ウェッジ角が路面を向く」とは、2つの屈折面(入射面及び出射面)の交わる位置が、光軸Cに対して路面と反対側にあることである。
【0026】
また、ウェッジプリズム30は、光軸Cを中心に回転可能に設置されている。また。ウェッジプリズム30には、回転機構50からの回転運動を伝達するための歯車503が設けられている。歯車503は、回転機構50からの駆動力を伝えられる。なお、回転機構50によりウェッジプリズム30を回転させる方法は、回転機構50の駆動力をウェッジプリズム30に伝えるものであれば良い。このため、歯車503に限らず、例えば、ベルトなどを用いてもよい。
【0027】
図2は、車両が旋回走行する際のバンク角dを示した説明図である。「バンク角d」とは、図2に示すように、地面に垂直な直線2007(y軸)に対する車体の傾斜の角度dのことである。車両が旋回走行するコーナーの曲率が大きくなれば大きくなるほど、車体のバンク角dは大きくなる。
【0028】
図1に示す回転機構50は、駆動源501、回転軸51及び歯車502を有する。駆動源501は、例えば、ステッピングモーターなどである。回転軸51は、駆動源501の回転を歯車502に伝える軸である。歯車502は、回転軸51の回転運動を受けて回転し、歯車503を駆動する。歯車502は、歯車503とかみ合っている。
【0029】
回転機構50は、図2で示した車体のバンク角dに応じて、車両がバンクした方向とは逆の方向に、ウェッジプリズム30を光軸C周りに回転させる機能を有する。「バンクする」とは、車体がコーナー等を曲がる際に傾斜することである。「バンクした方向」とは、車体が右側(−x軸方向)又は左側(+x軸方向)に傾斜した方向である。以下において、「バンク方向」ともよぶ。なお、回転機構50は、ウェッジプリズム30を光軸Cに平行な軸周りに回転させることができればよく、上記構成に限定されない。
【0030】
制御回路60は、車体のバンク角dを検出する車体傾斜検出部65からの検出信号を受け取る。車体傾斜検出部65は、例えば、ジャイロ等のセンサーである。制御回路60は、この検出信号に基づき、ウェッジプリズム30の回転角fを演算して駆動源501を制御する。回転角fは、旋回時運転者視線領域2005(図22を参照)を灯火器92によって照射するのに必要なウェッジプリズム30の回転角である。
【0031】
ここで、バンク角dにおけるウェッジプリズム30の必要な回転角fを求めるために、光軸Cに対して平行な光線が一対のウェッジプリズムによってどのように偏向されるかを説明する。
【0032】
図3は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズムの説明図である。図3にウェッジ角aを有するウェッジプリズム1による光線の偏向の様子を示す。光軸Cに対して垂直なウェッジプリズム1の入射面11に、光軸Cに対して平行な平行光線が入射している。出射面12は、入射面11に対してウェッジ角aだけ傾いている。入射した光線は、入射面11で屈折することなく、ウェッジプリズム1の内部を進行する。入射した光線は、出射面12から出射する際に、入射面11と出射面12とが交わる位置Eと反対方向に屈折して進行する。
【0033】
光軸Cに対して垂直なウェッジプリズム1の入射面11に、光軸Cに対して平行な平行光線が入射した場合には、その偏向角rw1は、ウェッジプリズム1の屈折率nを用いて以下に示す式(1)で近似的に求められることが知られている。この式(1)は、ウェッジ角aが小さい場合の近似式である。「偏向角」とは、入射した光に対する光の折れ曲がる角度である。
【0034】
【数1】
【0035】
図4は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズム2、3の説明図である。図4に、一対のウェッジプリズム2、3による光線の偏向を示す。一対のウェッジプリズム2、3は、光軸Cに対して垂直な面が互いに対向するように配置されている。図4には、xyz座標が示されている。z軸は、車両の進行方向を示している。車両が進行する方向が+z方向である。x軸は、車両に対して左右方向を示している。車両が進行する方向を見て、左側が+x軸方向である。y軸は、車両の上下方向を示している。車両に対して上側(空の方向)が+y軸方向である。x軸及びy軸は、後述するように車両が旋回する際に傾いた場合には、z軸を中心として車両が傾く方向に回転する。
【0036】
ウェッジプリズム2の入射面21は、光軸Cに対して傾斜している。ウェッジプリズム2の出射面22は、光軸Cに対して垂直である。ウェッジプリズム3の入射面31は、光軸Cに対して垂直である。ウェッジプリズム3の出射面32は、光軸Cに対して傾斜している。ウェッジプリズム2の出射面22は、ウェッジプリズム3の入射面31と対向して配置されている。
【0037】
光軸Cに対して平行な光線は、入射面21からウェッジプリズム2に入射し、出射面22から出射する。出射面22から出射した光線は、入射面31からウェッジプリズム3に入射し、出射面32から出射する。図4は、入射面21に光軸C上の光線が入射した場合の、出射面32から出射する光線の偏向を示している。図4に示すように、ウェッジプリズム2及びウェッジプリズム3を光軸C中心に互いに独立に回転させることで、最大偏向角rw23は次式(2)のように表わされる。図4では、ウェッジプリズム2及びウェッジプリズム3の回転方向を太い矢印で示している。
【0038】
【数2】
【0039】
最大偏向角rw23は、式(1)で求められる偏向角rw1の2倍となる。従って、ウェッジプリズム2及びウェッジプリズム3は、図4に示すように円錐角CA=2×r23の円錐内の任意の位置に光線を偏向させることができる。
【0040】
図5は、車両用前照灯装置100が照射する高照度領域2003の中心部の移動を示す説明図である。なお、図5は、走行する車両から進行方向を見た図である。図5は、車両が左側に旋回している例を示している。位置Q1は、地平線2006と車体を通り地平線2006に垂直な直線2007との交点である。つまり、位置Q1は、車両が直進する際に運転者の視線が向く位置である。位置Q2は、車両がバンク角dで左旋回の走行をする際に運転者の視線が向く位置である。図5では、位置Q1及び位置Q2を白丸で示している。
【0041】
図5において、バンク角dで傾いた車両から見た座標系をxy座標で示す。x軸は、位置Q1を通り、水平な直線2006に対してバンク角dだけ傾いている。図5では、x軸は、水平な直線2006に対して反時計回りに傾いている。y軸は、位置Q1を通り、垂直な直線2007に対してバンク角dだけ傾いている。図5では、y軸は、垂直な直線2007に対して反時計回りに傾いている。図5において、直線2006に対応する直線をH、直線2007に対応する直線をVとする。以降の図におけるHおよびVについても同様である。
【0042】
このとき、車両が直進する際には、運転者の視線の向く位置Q1が高照度領域2003で照射されている。図22に示すように、車両が直進する際には、高照度領域2003は、図5で示す位置Q1に位置している。同様に、車両が旋回する際には、運転者の視線の向く位置Q2が高照度領域2003で照射される。つまり、高照度領域2003は、位置Q1から位置Q2に移動する。このとき、高照度領域2003を車両から見たxy座標のx軸に対して角度dの方向に移動させる必要がある。図5では、x軸に対して時計回りに角度dだけ回転した方向である。車両が右側に旋回する場合においても同様に考える。つまり、高照度領域2003は、車両のxy座標の第一象限と第二象限との中を移動する。従って、高照度領域2003が照射する範囲は、図4に示した偏向領域の上半分の領域となる。偏向領域は、立体角2×rw23で表わされる円錐内の底面で表されている。ここで、「上」とは、図4で示されたy軸方向である。
【0043】
図6は、車両前照灯装置100に含まれる光学系21による偏向についての説明図である。図6は、車両の前方から車両側を見た図である。つまり、+z軸方向から−z軸方向を見た図である。図6を用いた説明では、図1に示す光学系21のウェッジプリズム30は、−z軸方向から+z軸方向を見た場合に、時計回りに回転角fだけ回転している。図6では、ウェッジプリズム30は、反時計回りに回転角fだけ回転している。一方、ウェッジプリズム40は、図4に示すように、ウェッジ角aが+y軸方向(地面とは反対方向)を向いた向きに固定されている。つまり、出射面402は、入射面401に対して、+y軸方向が広がるように傾斜している。
【0044】
ベクトルD30は、ウェッジプリズム30の偏向ベクトルである。ベクトルD30は、ウェッジプリズム30を回転角fだけ回転させたときの偏向ベクトルである。ベクトルD30は、x軸とy軸との交点を中心にして、−y軸方向から反時計回りに回転角fだけ回転させた方向を向いている。ベクトルD40は、ウェッジプリズム40の偏向ベクトルである。ベクトルD40は、ウェッジプリズム40による+y軸方向の偏向ベクトルである。
【0045】
図6は、実施の形態1に係る光学系21を構成しているウェッジプリズム30、40によって、光学系21に入射する光が偏向される様子を示している。このとき、ウェッジプリズム30に入射する光線は、偏向ベクトルD30と、偏向ベクトルD40との合成偏向ベクトルD50の方向に偏向される。すなわち、ウェッジプリズム40の向きを固定することで、プリズム部(ウェッジプリズム30、40)に入射した光の偏向の向きを容易に変えることができる。
【0046】
そこで、本実施の形態1で示す車両用前照灯装置100は、ウェッジプリズム40を+y軸方向に光線を偏向するように固定する。そして、車両用前照灯装置100は、ウェッジプリズム30を車両のバンク角dに応じて、光軸Cを中心に回転させる。これらにより、車両用前照灯装置100は、任意の位置に高照度領域2003を移動させることができる。すなわち、本実施の形態1に示す車両用前照灯装置100は、これらを利用して、車両の任意のバンク角dに応じて任意の位置に高照度領域2003を移動させることができる。
【0047】
しかし、ウェッジプリズム30を回転させたときの高照度領域2003の照射位置を求めることは、ウェッジプリズム40にスキュー光線が入射するため容易ではない。「スキュー光線」とは、光軸と物点との両方を含む平面内に無い光線のことである。ここでは、図4を例として説明する。図4では、物点mは、ウェッジプリズム2の−z軸方向の光軸C上以外の位置に配置されている。主光線CRは、入射面21及び光軸Cの交点と物点mとを通る光線である。このため、上述の光軸Cと物点mとの両方を含む平面は、主光線CRと光軸Cとを含む平面(斜線で図示)となる。スキュー光線SRは、この平面内に含まれない光線である。式(1)を用いて簡略的に求める手法もあるが、式(1)では、ウェッジ角aが小さい場合という仮定がある。バンク角dに応じて正確に所望の位置を照明しなければならない灯火器92に対しては不向きな手法である。
【0048】
そこで、スネルの法則を3次元に拡張した光線屈折式を用いて、車両が旋回する際の高照度領域2003の照射位置を旋回時運転者視線領域2005へ正確に移動させる方法について考える。
【0049】
図7は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズム30及びウェッジプリズム40の構成を示す説明図である。図7は、−x軸方向から見た図である。図7に直線道路を走行する際の灯火器92のウェッジプリズム30、40の配置を示す。図7では、ウェッジプリズム30の入射面301と出射面302との交わる位置Eは、光軸Cに対して+y軸方向に位置する。また、ウェッジプリズム40の入射面401と出射面402との交わる位置Eは、光軸Cに対して−y軸方向に位置する。出射面302と入射面401とは、光軸Cに垂直な平面である。また、出射面302と入射面401とが対向するように、ウェッジプリズム30、40は配置されている。光線は、入射面301からウェッジプリズム30に入射して出射面302から出射する。出射面302から出射した光線は、入射面401からウェッジプリズム40に入射して出射面402から出射する。
【0050】
図7に示す状態を基準の状態とする。このとき、ウェッジプリズム30の出射面302とウェッジプリズム40の入射面401との間の空隙は、光線の偏向に影響を与えるものではなく無視することができる。「空隙」とは、隙間のことである。そのため、図7の1対のウェッジプリズム30、40は、図8に示すような一塊のプリズム34として考えることができる。「一塊」とは、1つのかたまりのことである。つまり、2つのウェッジプリズム30、40は、1つのプリズム34で示すことができる。ウェッジプリズム30がz軸の周方向に回転した場合には、図8のプリズム34の入射面301のみをz軸の周方向に回転させた形状にすればよい。
【0051】
図8は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズム30、40の構成を示す説明図である。プリズム34は、ウェッジプリズム30、40を一体としたプリズムである。プリズム34は、入射面301及び出射面402を有する。入射面301及び出射面402は、光軸Cに垂直な面に対してウェッジ角aだけ傾いている。入射面301及び出射面402は、−x軸方向から見て、光軸Cに垂直な面に対して時計回りにウェッジ角aだけ回転した面である。そのため、入射面301は、出射面402に対して平行な面である。
【0052】
光源211から出射されて、光学素子20で平行化された光が、図8のプリズム34に入射する場合について光線屈折式を適用する。そして、プリズム34の出射面402から任意の距離における高照度領域2003の中心の位置を以下のようにして求める。
【0053】
図9は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズム30、40の構成を示す説明図である。図9では、図8で示したプリズム34を用いて高照度領域2003の中心の位置の求め方を説明する。
【0054】
図9に示すように、以下のように符号を決める。プリズム34の入射面301に入射する入射光線の単位方向ベクトル(方向余弦)をベクトルsとし、入射面301の法線ベクトルをベクトルNとし、入射面301の透過光線の単位方向ベクトルをベクトルs1hとする。また、出射面402に入射する光線の単位方向ベクトルをベクトルsとし、出射面402の法線ベクトルをベクトルNとし、出射面402の出射光線(透過光線)の単位方向ベクトルをベクトルs2hとする。また、空気の屈折率を1及びプリズム34の媒質の屈折率をnとすれば、光線屈折式より次式(3)及び式(4)の関係が成り立つ。
【0055】
【数3】
【0056】
【数4】
【0057】
式(3)及び式(4)を、ベクトルの公式を用いて変形すると以下の式(3a)及び式(4a)のように表わされる。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
更に、内積g及び内積g1hを以下の式のように定義すると、式(3a)は、式(3b)のように表わされる。
【0061】
【数7】
【0062】
【数8】
【0063】
【数9】
【0064】
また、内積g及び内積g2hを以下の式のように定義して、さらにs=s1hであるとして、式(4a)を変形すると、式(4a)は、以下の式(4b)にように表わされる。
【0065】
【数10】
【0066】
【数11】
【0067】
【数12】
【0068】
従って、出射面402の出射光線の単位方向ベクトルs2hは、式(3b)及び式(4b)を用いて、以下に示す式(5)のように表される。単位方向ベクトルs2hは、式(5)を用いれば一意に求めることができる。
【0069】
【数13】
【0070】
また、本発明ではウェッジプリズム30を回転させることから、式(5)の法線ベクトルNは、その回転角fに応じて変化する。ウェッジプリズム30の回転角を角度f、ウェッジ角を角度a及び直線道路を走行する際の入射面301の法線ベクトルをベクトルN10とすると、法線ベクトルNは、回転行列Rを用いて以下の式(6)ように求まる。
【0071】
【数14】
【0072】
式(5)の単位方向ベクトルsは、光源211から出射される光軸Cに平行な主光線が入射することを考えるので、次式(7)のように表わされる。「主光線」とは、光軸外の点からレンズに対して斜めに入射し、光学系の絞りの中心を通る光線である。絞りを最小にしても存在する光線である。ここでは、光軸外の点からレンズに対して斜めに入射し、入射面301と光軸Cの交わる位置を通る光線を示す。
【0073】
【数15】
【0074】
また、出射面402の法線ベクトルNは、次式(8)で表わされる。
【0075】
【数16】
【0076】
図10は、車両用前照灯装置100の光線の照射位置を示す説明図である。図10に、プリズム34の出射面402とスクリーン面35との幾何学的関係を示す。出射面402上の光線の出射点Oを原点として、新たに座標系xを設定する。x軸は、x軸に平行である。また、+x軸方向は、+x軸方向と同じである。y軸は、y軸に平行である。また、+y軸方向は、+y軸方向と同じである。z軸は、z軸に平行である。また、+z軸方向は、+z軸方向と同じである。
【0077】
原点Oから+z軸方向に距離Zの位置にあるスクリーン面35上における光線の照射位置P(X、Y、Z)を求める。スクリーン面35は、光軸Cに垂直な面である。また、原点Oから照射位置P(X、Y、Z)までの距離を距離Rとする。原点Oと照射位置Pとを結ぶ直線は、単位方向ベクトルs2hに平行である。ここで、スクリーン面35は、照射位置を説明するための仮想面である。なお、単位方向ベクトルs2hのそれぞれの成分は以下の式(9)ように定義する。
【0078】
【数17】
【0079】
また、距離Rは式(10)のように表わされる。
【0080】
【数18】
【0081】
さらに、単位方向ベクトルs2hの成分は式(11)のように表わされる。
【0082】
【数19】
【0083】
距離Zを既知として、原点Oから出射された光線のスクリーン面35の照射位置Pの座標を求めると、次式(12)のように表わされる。
【0084】
【数20】
【0085】
ウェッジプリズム30の回転角fを変化させると、ウェッジプリズム40の出射面402の出射点Oの位置も変化する。出射点Oは、上述の原点Oと同じである。しかし、本発明では、十分に遠くを照射するため、その差異は無視することができる。従って式(12)を計算することで、任意の距離にあるスクリーン面35に到達する光線の照射位置を正確に求めることができる。
【0086】
図11は、車両用前照灯装置100の光線の照射位置を示す説明図である。図11は、ウェッジプリズム30の回転角fを変化させたときの、スクリーン面35における照射位置P(X,Y)の座標をプロットしたものの一例を示している。図11のx軸は、照射位置P(X,Y)のx座標の値である。図11のy軸は、照射位置P(X,Y)のy座標の値である。符号Pの添え字はウェッジプリズム30の回転角fを示している。また原点Oは、ウェッジプリズム30を回転させないときに、光源111の中心から出射された主光線がスクリーン面35に到達する位置である。
【0087】
図11の照射位置Pについて考える。図11に示す直線Lがx軸に対してなす角度を角度kとすると、角度kは以下の式(13)で与えられる。直線Lは、スクリーン面35上で、原点Oと照射位置Pとを結んだ直線である。また、以下において、角度kは、照射位置Pの傾き角度とよぶ。
【0088】
【数21】
【0089】
また、x−y平面において原点Oと照射位置Pとの距離Lは次式(14)で与えられる。
【0090】
【数22】
【0091】
ただし、距離Lは式(15)で表わされる。
【0092】
【数23】
【0093】
照射位置Pが描く軌跡は、ウェッジプリズム30とウェッジプリズム40とのウェッジ角a及び屈折率nに依存する。照射位置Pは、図11に示したように、ウェッジプリズム30を回転角fだけ回転させたときの光線のスクリーン面35上の照射位置である。従って、このウェッジ角aと屈折率nとを最適化することで、移動量L(図11に示す距離L)を所望の移動量となるように設計することが可能である。ここで、移動量Lは、任意のバンク角dにおける高照度領域2003の水平方向の移動量である。なぜなら、車体がバンク角dだけ傾いた場合には、xy座標も角度dだけ傾くため、直線Lは水平方向に伸びる直線となるからである。
【0094】
ここで、車両がバンク角dで旋回走行する場合について考える。式(13)から求められる照射位置Pの傾き角度kがバンク角dと逆方向で、且つその角度kの大きさがバンク角dと同じになるようにウェッジプリズム30を回転させる。この場合には、灯火器92から出射された光は、車両のxyz座標系の第一象限及び第二象限の範囲を移動する。このため、車両用前照灯装置100は、光を有効利用することができる。
【0095】
更に、図12に示すように直線道路を走行する際には、灯火器92から出射される主光線は原点Oに到達している。これに対して、旋回して走行する際には、ウェッジプリズム30を車両のバンク方向とは逆の方向に回転させる。これにより、灯火器92から出射される主光線は、コーナーの内側の水平方向に距離Lだけ移動する。つまり、灯火器92から出射される主光線は、照射位置Pから照射位置Pに移動する。「コーナーの内側」とは、道路が左に曲がるコーナーの場合には、左側で、道路が右に曲がるコーナーの場合には、右側である。
【0096】
図13(a)は、本発明の直線道路を走行する際における主配光領域2002の配光及び高照度領域2003の配光を示す図である。図13(b)は、本発明の左旋回をする際における主配光領域2002の配光及び高照度領域2003の配光を示す図である。直線道路を走行する際には、高照度領域2003は、地平線2006と地面に垂直な線2007との交点の直下を照明している。ここで、「直下」とは、−y軸方向である。なお、ここで示すy軸は、直進している車両の座標なので、バンク角dだけ傾いていない座標である。つまり、地面が水平の場合には、y軸方向は、鉛直方向となる。また、地面に垂直な線2007は、左右方向において、車両の位置にある。一方、旋回して走行をする際には、高照度領域2003は、旋回時運転者視線領域2005の付近に移動している。つまり、高照度領域2003は、車両が直進する際の位置から地平線2006に平行に左側に移動している。
【0097】
実施の形態1に係る車両用前照灯装置100は、ウェッジプリズム30のみをバンク角dに応じて回転させるだけで、高照度領域2003を所望の位置に移動させることができる。そのため、回転機構50への負荷が小さく、且つコンパクトな車両用前照灯装置100を実現できる。
【0098】
また、車両用前照灯装置100は、灯火器91と灯火器92とをともに用いることができる。灯火器91は、車両の前方を照射する主配光領域2002を照射する。灯火器92は、バンク角dに応じて、高照度領域2003を移動させる手段を備えている。これにより、車両用前照灯装置100は、車両が直進する際には、進行方向を高照度領域2003で照射することができる。また、車両用前照灯装置100は、車両が旋回する際には、バンク角dに応じて移動する運転者視線領域2005を高照度領域2003で連続的に追随して照射することができる。これにより、運転者の走行時の視認性が向上する。
【0099】
また、実施の形態1では、バンク角dに応じてウェッジプリズム30を|d|=|k|となるように回転させた。|d|は、バンク角dの絶対値である。|k|は、照射位置Pの傾き角度の絶対値である。しかし、これに限るものではなく、配光形状や車速等を考慮して|d|≦|k|となるように回転させる等、適宜変化させて良い。例えば、車速が速い場合には、車両のバンク角dよりも、ウェッジプリズムの回転角kが大きく制御される。これによって、より遠方を照射することが可能となる。
【0100】
車両が旋回する際の高照度領域2003の移動に関わるウェッジプリズム30の回転量fの回転方向は、検出された車両のバンク方向と逆方向である。また、ウェッジプリズム30の回転量fは、式(13)より得られる照射位置Pの傾き角度kの大きさをバンク角dに一致するように制御されれば良い。しかしながら、図11を見ても分かるように、ウェッジプリズム30の回転量fと照射位置Pの傾き角度kは、非線形な関係にある。また、ウェッジプリズム30の回転量fと距離Lも非線形な関係にある。このため、回転機構50の制御は、非線形制御となってしまう。
【0101】
そこで、単位バンク角当たりの回転量fを設定して、回転機構50を制御する。最大バンク角dmax(例えば、dmax=30度)をあらかじめ指定する。最大バンク角dmaxのときのウェッジプリズム30の回転量を必要回転量fmaxとする。単位バンク角当たりの回転量fは、次式(16)で表される。単位バンク角当たりの回転量fに車両が傾斜したバンク角dを乗算した値を用いて回転機構50を制御すれば、線形制御が可能であり制御を簡略化することができる。
【0102】
【数24】
【0103】
また、単位バンク角当たりの回転量fでウェッジプリズム30の回転量fを制御する場合には、バンク角dが小さいと、その配光の移動量は小さくなる。
【0104】
つまり、この方法を用いることにより、バンク角dが小さいときには、高照度領域2003の配光が大きく動かない。このため、運転者に違和感を覚えさせず、運転者にとって違和感の少ない望ましい配光を提供することができる。
【0105】
なお、本実施の形態1に係る車両用前照灯装置100では、直線道路を走行する際の基準状態では、図7に示すようにウェッジプリズム30、40を配置した。しかし、ウェッジプリズム30及びウェッジプリズム40を、共にz軸周りに180度回転させた図14の状態を基準状態としても良い。
【0106】
図14は、車両用前照灯装置100のウェッジプリズム30、40の構成を示す説明図である。ただし、この場合には、回転機構50は、ウェッジプリズム30ではなくウェッジプリズム40を駆動する必要がある。その場合のウェッジプリズム40を回転させる制御手法は、ウェッジプリズム30を回転させる制御手法と変わらない。
【0107】
本発明の実施の形態1に係る車両用前照灯装置100は、光源211、光学系21、回転機構50及び制御回路60を有する第一の灯火器92を備えている。光学系21は、光源211からの光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム30及び第二のウェッジプリズム40を含んでいる。回転機構50は、第一のウェッジプリズム30を、回転軸を中心として回転させる。制御回路60は、第一のウェッジプリズム30を、車両のバンク角dに応じてバンク方向と逆の方向に回転させるよう回転機構50を制御する。第一のウェッジプリズム30及び第二のウェッジプリズム40は、回転軸に垂直な面が対向するように配置されている。第一のウェッジプリズム30は、ウェッジ角a1が路面の方向を向くように配置されている。また、第一のウェッジプリズム30は、回転軸を中心として回動可能に配置されている。以上の構成より、車両用前照灯装置100は、車両が旋回する際に、運転者の視線の向く方向を明るく照明することができる。また、車両用前照灯装置100は、車体のバンク角の変化に伴い、照射領域を連続的に変化させることができる。光は第一のウェッジプリズム30の入射面301から入射して、出射面302から出射する。出射面302から出射した光は、第二のウェッジプリズム40の入射面401から入射して、出射面402から出射する。なお、実施の形態1では、一例として、回転軸は光軸Cに平行として説明した。
【0108】
また、本発明の実施の形態1に係る車両用前照灯装置100によれば、光源211から出射された光を平行光化する光学素子20をさらに有することができる。光学素子20から出射された平行光が光学系21に入射する。これにより、車両用前照灯装置100は、正確な配光を実現できる。
【0109】
また、本発明の実施の形態1に係る車両用前照灯装置100によれば、制御回路60は、|d|≦|k|となるように、第一のウェッジプリズムの回転角fを制御している。このため、車両用前照灯装置100は、回転機構50への負荷を小さくでき、また、コンパクトな構成を実現できる。角度dは、車両のバンク角dである。また、車両の前方でかつ車両から予め定められた距離Zに位置し、車両の進行方向に対して垂直な平面上で、光源211の中心から出射された主光線が到達する位置を原点Oとし、原点Oを通り地平線2006と平行な直線をx軸とし、原点Oを通りx軸に直交する直線をy軸とする。光学系21によって偏向された光によって照明される照射位置の座標を座標(X,Y)とする。座標(X,Y)と原点Oとを結ぶ直線が、x軸となす角を角kとする。
【0110】
また、本発明の実施の形態1に係る車両用前照灯装置100によれば、制御回路60は、上述の制御方法以外に次に示す制御をすることができる。制御回路60は、車両の最大バンク角dmaxとの関係が|k|=|dmax|となるときの第一のウェッジプリズムの回転量fmaxを求める。また、制御回路60は、第一のウェッジプリズムの単位バンク角当たり回転量fを、回転量fmaxを最大バンク角dmaxで除算した値(fu=fmax/dmax)として求める。制御回路60は、第一のウェッジプリズム30を車両のバンク方向とは逆方向に、単位バンク角当たり回転量fに車両が傾斜したバンク角dを乗算した値で制御する。このため、制御回路60は、線形制御が可能であり、制御を簡略化することができる。
【0111】
また、本発明の実施の形態1に係る車両用前照灯装置100は、第二の灯火器91をさらに備えることができる。第二の灯火器91は、光源111と光源111の光の配光を調整する光学素子80とを有している。そして、車両用前照灯装置100は、第一の灯火器92から出射された光の配光と第二の灯火器91から出射された光の配光とを合成して車両の前方を照らすことができる。このため、運転者の走行時の視認性が向上する。
【0112】
第一の灯火器92は、第二の灯火器91よりも高照度で配光領域を照射するものである。第一の灯火器92は、運転者の視線の向く方向を照明する。また、第二の灯火器91は、車両の前方の広い範囲を照明する。車両用前照灯装置100が運転者の視線の向く方向を高照度で照明するため、運転者の走行時の視認性がさらに向上する。
【0113】
なお、本実施の形態1では、第一のウェッジプリズム30及び第二のウェッジプリズム40は、光軸Cに垂直な面が対向するように配置した。しかし、第一のウェッジプリズム30と第二のウェッジプリズム40との対向する面は、必ずしも光軸に対して垂直に配置される必要はない。第一のウェッジプリズム30と第二のウェッジプリズム40との対向する面は、光軸Cに対して傾けて配置することができる。光軸Cに対してウェッジプリズム30、40を傾けて配置した場合には、光軸Cに対してウェッジプリズム30、40を垂直に配置した場合に比べて、傾いた配光が照射される。したがて、車両用前照灯装置100を車両の前方方向に対して傾けて配置したい場合などには有利である。しかし、ウェッジプリズム30、40の回転軸が傾くため、回転軸が傾かない場合に比べて制御が複雑となる。また、ウェッジプリズム30、40を傾ける角度の管理等を考えると、製造性が低下する。また、この様に配光を傾けて照射したい場合には、車両用前照灯装置100自体を傾けて配置することも考えられる。こちらの方が容易に適用できる場合もある。
【0114】
実施の形態2.
図15は、本発明の実施の形態2に係る車両用前照灯装置101の構成を概略的に示す図である。図15に示されるように、実施の形態2に係る車両用前照灯装置101の構成は、灯火器91と灯火器93との2つの灯火器から構成されている。そして、ウェッジプリズム36の出射面312がシリンドリカル面となっている点で実施の形態1と異なる。すなわち、実施の形態2に係る前照灯101は、実施の形態1におけるウェッジプリズム30の出射面302をシリンドリカル面とした、ウェッジプリズム36を用いている。
【0115】
上述のように、ウェッジプリズムの2つの屈折面は、一般的に平面であるが、ここで示す「ウェッジプリズム」は、屈折面が曲面の場合を含む。また、ウェッジプリズムは、1つの屈折面を光軸に対して垂直に配置して使用する。また、ウェッジプリズムは、光軸又は光軸に平行な軸を回転軸として回転させて使用される。屈折面が曲面の場合には、「光軸に垂直な面」とは、回転軸が屈折面と交わる点での接平面が光軸に対して垂直であることを意味する。
【0116】
ウェッジプリズム36は、回転機構50によって駆動される。また、出射面312は、図1に示すウェッジプリズム30の出射面302に相当する。出射面302は、光軸Cに垂直な面である。シリンドリカル面は、トロイダル面の一種である。「トロイダル面」とは、図15で示すx軸方向の曲率とy軸方向の曲率とが異なるレンズである。「シリンドリカル面」とは、一方向に屈折力を持ち収束または発散し、直交する方向では屈折力をもたない面である。
【0117】
実施の形態1で説明した車両用前照灯装置100の構成要素と同様の構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。車両用前照灯装置100の構成要素と同様の構成要素は、灯火器91(光源111、遮光板70及び光学素子80)、光源211、光学素子20、ウェッジプリズム40、回転機構50(駆動源501、回転軸51及び歯車502)、歯車503及び制御回路60である。なお、ウェッジプリズ36の入射面311は、入射面301と異なる符号を付しているが、構成及び機能は入射面301と同じである。
【0118】
図16は、車両用前照灯装置101のウェッジプリズム36の説明図である。図16に示すように、ウェッジプリズム36の出射面312は、x軸方向にのみ負のパワーを有するシリンドリカル面である。図16(a)は、ウェッジプリズム36の側面図である。つまり、−x軸方向から見た図である。図16(b)は、ウェッジプリズム36の平面図である。つまり、+y軸方向から見た図である。
【0119】
図17は、車両用前照灯装置101の配光領域を示す説明図である。図17に実施の形態2に係る車両の直進で走行する際の配光を示す。図17に示すように、車両の直進時においては、幅方向に広い高照度領域2004が得られる。「幅方向」とは、地平線2006の方向である。つまり、「幅方向」とは、水平方向である。これは、ウェッジプリズム36に入射する光の配光が、ウェッジプリズム36の出射面312のシリンドリカル面のレンズ作用によって水平方向に広げられるからである。ここで、「レンズ作用」とは、光を曲げる作用である。
【0120】
図18は、車両用前照灯装置101のウェッジプリズム36、40の構成を示す説明図である。図18に、実施の形態2におけるウェッジプリズム36及びウェッジプリズム40の配置を示す。
【0121】
光は、−z軸方向からウェッジプリズム36の入射面311に入射する。入射面311は、光軸Cに垂直な面に対して傾斜している。図18では、−x軸方向から見て、入射面311は、光軸Cに垂直な面に対して時計回りに回転した面である。入射面311は、平面である。
【0122】
入射面311からウェッジプリズム360に入射した光は、出射面312から出射する。出射面312は、x軸方向にのみ曲率を持つシリンドリカル面である。光の発散角は、出射面312で透過する際に、x軸方向のみ広げられる。「発散角」とは、光の広がる角度である。
【0123】
ウェッジプリズム36の出射面312から出射した光は、ウェッジプリズム401の入射面401に入射する。出射面312と入射面401とは、互いに対向して配置されている。入射面401は、光軸Cに垂直な平面に平行な面である。入射面401は、平面である。
【0124】
入射面401からウェッジプリズム40に入射した光は、出射面402から出射する。出射面402は、光軸Cに垂直な面に対して傾斜している。図18では、−x軸方向から見て、光軸Cに垂直な面に対して時計回りに回転した面である。出射面402は、平面である。図18では、入射面311と出射面402とは、互いに平行な面である。つまり、光軸Cに垂直な平面に対する入射面311の傾き角と出射面402の傾き角とは、等しい。
【0125】
図19は、車両用前照灯装置101の配光の形状を示す説明図である。図19は、高照度領域3003を形成する様子を示している。車両が旋回走行をする際に、光源211から出射された光は、光学素子20によって平行化される。平行化された光は、ウェッジプリズム36及びウェッジプリズム40によって、高照度領域3003を形成する。以下に高照度領域3003を形成する様子を説明する。
【0126】
まず、図19に示すように車体が反時計回りにバンク角dだけ傾斜している場合を考える。光源211の発光面の形状が横長の矩形形状である場合には、図18に示すウェッジプリズム36の入射面311には、図19に示す配光3000の形状の光が入射する。配光3000は、車体のxyz座標系でx軸方向に幅広い横長の矩形形状をしている。図19では。配光3000は粗い破線で示されている。ここで「横長」とは、x軸方向の配光の長さが、y軸方向の長さより長いことである。
【0127】
入射面311を透過した光は、ウェッジプリズム36がバンク角dと逆方向に所望の回転角fだけ回転しているために、ウェッジプリズム36の偏向ベクトルD31の方向に偏向される。ここで、xyz座標系をz軸周り−z軸方向からみて時計回りに回転角fだけ回転させた座標系をxz座標系とする。偏向ベクトルD31の方向は、−y軸方向である。ここで、仮に、ウェッジプリズム36の出射面312がシリンドリカル面でない場合の配光の形状は、図19の配光3001となる。配光3001は、配光3000が−y軸方向に平行移動したものである。図19では、配光3001は細かい破線で示されている。
【0128】
しかしながら、ウェッジプリズム36の出射面312はシリンドリカル面である。このため、出射面312から出射される光線は、位置に応じて大きさが異なる偏向ベクトルD31Rの方向または偏向ベクトルD31Lの方向に偏向される。偏向ベクトルD31Rの方向は、−x軸方向である。偏向ベクトルD31Lの方向は、+x軸方向である。このため、出射面312を透過する光は、配光3001が配光3002のように変形されて出射される。配光3002の上辺及び下辺は、地面に水平な直線2006(地平線)に対してほぼ平行な配光形状である。配光3001のうち、y軸に近い点のx軸方向への移動量は、y軸から遠い点のx軸方向への移動量より小さい。このため、配光3002は、平行四辺形の形状をしている。
【0129】
ウェッジプリズム36の出射面312から出射された光は、ウェッジプリズム40によって偏向ベクトルD40方向へ更に偏向される。偏向ベクトルD40の方向は、+y軸方向である。そして、高照度領域3003が形成される。
【0130】
図20は、車両用前照灯装置101の配光領域を示す説明図である。図20に実施の形態2における旋回して走行する際の配光領域を示す。この場合には、実施の形態1に係る灯火器92と同様に、灯火器93のウェッジプリズム36は、バンク角dに応じて回転角fだけ回転される。
【0131】
ウェッジプリズム36の出射面312は、シリンドリカル面となっている。これにより、旋回して走行をする際には、高照度領域3003は、図17に示す高照度領域2004の形状から図20に示す高照度領域3003の形状に変化する。高照度領域2004の形状(図17)は、直進して走行する際の配光の形状である。高照度領域3003の形状(図20)は、旋回して走行する際の配光の形状である。図20に示すように、高照度領域3003は、旋回時運転者視線領域2005を効果的に照射している。
【0132】
つまり、図13(b)に示すように、実施の形態1に係る車両用前照灯装置100は、旋回時運転者視線領域2005の全てを高照度領域2003で照射することはできなかった。一方、図20に示すように、実施の形態2に係る車両用前照灯装置101は、旋回時運転者視線領域2005の全てを高照度領域3003で照射することができる。
【0133】
実施の形態2によれば、ウェッジプリズム36は、実施の形態1で示した高照度領域2003の配光の幅を広げる機能を有する。また、旋回して走行する際には、シリンドリカル面(出射面)312のレンズ作用によって実施の形態1で示した高照度領域2003の形状を最適に変化させる。そのため、車両用前照灯装置101は、効果的に旋回時運転者視線領域2005を照射することができる。つまり、車両用前照灯装置101は、旋回時運転者視線領域2005の全てを高照度領域3003で照射することができる。
【0134】
なお、本実施の形態2に係る前照灯101の直線道路を走行する際の基準状態は、図18に示すようにウェッジプリズム36及びウェッジプリズム40を配置した。しかし、図21に示すように、ウェッジプリズム36及びウェッジプリズム40を共にz軸(光軸Cに平行な軸)回りに180度回転させて基準状態としても良い。
【0135】
この場合には、ウェッジプリズム36の代わりにウェッジプリズム30を配置する。つまり、シリンドリカル面の形状の出射面312は、平面形状の出射面301となる。また、ウェッジプリズム40の代わりにウェッジプリズム41を配置する。ウェッジプリズム41の入射面411は、シリンドリカル面の形状をしている。つまり、平面形状の入射面401は、シリンドリカル面の形状の入射面411となる。ただし、このとき回転機構50は、ウェッジプリズム30ではなく、ウェッジプリズム41を駆動する必要がある。ウェッジプリズム41を駆動する回転機構50の動作及び回転機構50を制御する制御部60の動作は、図18に示すウェッジプリズム36、40の場合と変わらない。
【0136】
実施の形態2において、ウェッジプリズム36の出射面312又はウェッジプリズム41の入射面411の面形状はシリンドリカル面とした。シリンドリカル面は、トロイダル面の一種であるしかし、シリンドリカル面に限定されるものではない。出射面312又は入射面411は、車両の旋回走行時にウェッジプリズムを回転させて配光形状を適切に変形できるものであれば、トロイダル面又は非球面などの自由曲面を用いることができる。「非球面」とは、球形ではない曲面からできている面である。例えば、光軸の中心から離れるにしたがって曲率が緩くなるなどの複雑な表面形状の面で、放物面又は多項式で表される面(楕円面、双曲面又は4次曲面など)をもつものである。ここでは、トロイダル面又はシリンドリカル面の曲率を有する面の形状が非球面形状であることを示している。「自由曲面」とは、回転対称軸をもたない面の総称である。非回転対称面ともよばれる。
【0137】
実施の形態1及び実施の形態2においては、灯火器を2つ備えた装置について説明した。つまり、実施の形態1においては、灯火器91及び灯火器92の2つである。また、実施の形態2においては、灯火器91及び灯火器93の2つである。しかし、これに限らず、高照度領域2003を照射する灯火器92又は高照度領域3003を照射する灯火器93のいずれか1つを備えた単一の灯火器であっても良い。つまり、灯火器91を備えない構成である。このような構成でも、旋回時運転者視線領域2005を高照度領域2003、3003で照射することができるという効果が期待できる。
【0138】
更に、灯火器の光源については、個々の灯火器にそれぞれの光源を設けたものに限らない。単一の光源を共用して、光学系で主配光領域の光路と高照度領域の光路に配分してするようにしても良い。
【0139】
実施の形態1及び実施の形態2においては、光学系21、22に入射する光は平行光とした。しかしながら、必ずしも平行光である必要はなく、角度のついた光線が入射しても良い。「角度のついた光線」とは、光軸Cに垂直な平面に対して傾斜した光線である。つまり、灯火器92、93は、光学素子20を備えない構成も可能である。この場合でも、照射位置Pの移動する位置は式(12)を計算することによって正確に算出することができる。
【0140】
しかし、角度のついた光線が光学系21、22に入射することで、光学系21、22から出射された光は入射角度に応じて発散する。光学系21、22から出射された光が発散角度を持つと、地平線2006よりも上側に光が到達して、対向車を眩惑する恐れが生じる。また、光線が路面に到達する距離が近くなり、所望の領域(旋回時運転者視線領域2005)を照射する効果が低減する可能性がある。これらの弊害及び光の利用効率等を考えると、光学系21、22に入射する光は平行光である方が望ましい。
【0141】
本発明の実施の形態2に係る車両用前照灯装置101によれば、第一のウェッジプリズム36、41は、回転軸に対して垂直な面が曲面で形成されている。この曲面を透過した光の偏向方向D31の発散角は、偏向方向に直交する方向の発散角よりも小さい。このため、旋回時運転者視線領域2005の全てを高照度領域3003で効率的に照射することができる。図19において、偏向方向D31は、y軸に平行である。「偏向方向D31の発散角」は、y軸方向の発散角である。つまり、y−z平面上での発散角である。また、「偏向方向に直交する方向」は、x軸に平行である。つまり、「偏向方向に直交する方向の発散角」は、x軸方向の発散角である。つまり、z−x平面上での発散角である。
【0142】
上述した各実施の形態に係る車両用前照灯装置100、101を備える車両は、自動二輪車に限るものではない。例えば、自動三輪車に採用することができる。例えば、「ジャイロ」と呼ばれる自動三輪車である。「ジャイロと呼ばれる自動三輪車」とは、前輪が1輪で、後輪が1軸2輪の3輪でできたスクーターである。日本では原動機付自転車に該当する。車体中央付近に回転軸を持ち、前輪や運転席を含む車体のほとんどを左右方向に傾けることができる。この機構によって、自動二輪車と同様に旋回の際に内側へ重心を移動することができる。
【0143】
また、四輪の自動車にも採用することができる。四輪の自動車の場合には、例えば、コーナーを左方向に曲がる際には、車体は右方向に傾く。また、コーナーを右方向に曲がる際には、車体は左方向に傾く。これは、遠心力によるものである。この点で、二輪車とバンク方向が逆になる。しかし、四輪の自動車も、車体のバンク角を検出して、高照射領域を修正することができる。また、本発明に係る車両用前照灯装置を備えることで、四輪の自動車は、片輪側だけが障害物などに乗り上げるなどして車体が傾いた場合に、高照度領域を任意に移動させ適切な配光を得ることができる。
【0144】
本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変更又は省略したりすることができる。
【0145】
なお、上述の各実施の形態においては、「平行」や「垂直」などの部品間の位置関係もしくは部品の形状を示す用語を用いているが、これらは、製造上の公差や組立て上のばらつきなどを考慮した範囲を含むものである。
【0146】
また、以上のように本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限るものではない。
【符号の説明】
【0147】
100、101 車両用前照灯装置
111、211 光源
20、80 光学素子
1、30、36、40 ウェッジプリズム
11、21、31、301、311、401 入射面
12、22、32、302、312、402 出射面
50 回転機構
501 駆動源
503 歯車
60 制御回路
65 車体傾斜検出部
91、92、93 灯火器
a、a1、a2 ウェッジ角
d バンク角
f 回転角
k 傾き角度
C 光軸
P 交わる位置
CA 円錐角
2002 主配光領域
2003、3003 高照度領域
2005 旋回時運転者視線領域
2006 地平線
2007 地面に垂直な直線
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】

【手続補正書】
【提出日】20150312
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に用いる前照灯装置であって、
光を出射する第一の光源と、
前記第一の光源からの前記光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムを含む光学系と、
前記第一のウェッジプリズムを、回転軸を中心として回転させる回転機構と、
前記第一のウェッジプリズムを、回転させるよう前記回転機構を制御する制御回路と
を有する第一の灯火器を備え、
前記第一のウェッジプリズム及び前記第二のウェッジプリズムは、前記回転軸に垂直な面が対向するように配置され、
前記第一のウェッジプリズムは、ウェッジ角が路面の方向を向くように配置されるとともに前記回転軸を中心として回転可能に配置されることを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記車両のバンク角に応じて前記回転機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記車両のバンク方向とは逆の方向に回転させるよう前記回転機構を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記第一の光源から出射された前記光を平行光化する第一の光学素子をさらに有し、前記第一の光学素子から出射された平行光が前記光学系に入射することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記第一のウェッジプリズムは、前記回転軸に対して垂直な面が曲面で形成され、前記曲面を透過した光の偏向方向の発散角は、前記偏向方向に直交する方向の発散角よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項6】
前記制御回路は、
前記車両の前方で前記車両から予め定められた距離に位置する前記車両の進行方向に対して垂直な平面上で、前記第一の光源の中心から出射された主光線が到達する位置を原点とし、前記原点を通り地平線と平行なをx軸とし、前記原点を通りx軸に直交するをy軸とすると、
前記x軸および前記y軸を含む前記平面x−y座標において、
前記光学系によって偏向された光によって照明される照射位置の座標を座標(X,Y)とし、前記座標(X,Y)と前記原点とを結ぶ直線が前記x軸となす角を角kとするとき、
前記車両のバンク角dと前記角kとの関係が、|d|≦|k|となるように、前記第一のウェッジプリズムの回転角fを制御することを特徴とする請求項2から請求項のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項7】
前記制御回路は、
前記車両の前方で前記車両から予め定められた距離に位置する前記車両の進行方向に対して垂直な平面上で、前記第一の光源の中心から出射された主光線が到達する位置を原点とし、前記原点を通り地平線と平行なをx軸とし、前記原点を通りx軸に直交するをy軸とすると、
前記x軸および前記y軸を含む前記平面x−y座標において、
前記光学系によって偏向された光によって照明される照射位置の座標を座標(X,Y)とし、前記座標(X,Y)と前記原点とを結ぶ直線が前記x軸となす角を角kとするとき、
前記車両の最大バンク角dmaxと前記角kとの関係が、|k|=|dmax|となるときの前記第一のウェッジプリズムの回転量fmaxを求め、前記第一のウェッジプリズムの単位バンク角当たり回転量fuをfu=fmax/dmaxとして求め、前記第一のウェッジプリズムを前記車両のバンク方向とは逆方向に、前記単位バンク角当たり回転量fuに前記車両が傾斜したバンク角dを乗算した値で制御することを特徴とする請求項2から請求項のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項8】
第二の光源と、前記第二の光源の光の配光を調整する第二の光学素子とを有した第二の灯火器をさらに備え、
前記第一の灯火器から出射された光の配光と前記第二の灯火器から出射された光の配光とを合成して前記車両の前方を照らすことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項9】
前記第一の灯火器は、前記第二の灯火器よりも高照度で配光領域を照射するものであることを特徴とする請求項に記載の車両用前照灯装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係る車両用前照灯装置は、車両に用いる前照灯装置であって、光を出射する第一の光源と、第一の光源からの光を入射して偏向して出射する第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムを含む光学系と、第一のウェッジプリズムを、回転軸を中心として回転させる回転機構と、第一のウェッジプリズムを、回転させるよう回転機構を制御する制御回路とを有する第一の灯火器を備え、第一のウェッジプリズム及び第二のウェッジプリズムは、回転軸に垂直な面が対向するように配置され、第一のウェッジプリズムは、ウェッジ角が路面の方向を向くように配置されるとともに回転軸を中心として回転可能に配置されている。
【国際調査報告】