(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014057875
(43)【国際公開日】20140417
【発行日】20160905
(54)【発明の名称】被削性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼及びそれからなる排気系部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160808BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20160808BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20160808BHJP
【FI】
   !C22C38/00 302Z
   !C22C38/60
   !B22D27/20 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
【出願番号】2014540828
(21)【国際出願番号】JP2013077048
(22)【国際出願日】20131004
(31)【優先権主張番号】2012224740
(32)【優先日】20121010
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
【住所又は居所】東京都港区港南一丁目2番70号
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】桂木 進
【住所又は居所】栃木県真岡市鬼怒ケ丘11番地 日立金属株式会社素材研究所内
(72)【発明者】
【氏名】川畑 將秀
【住所又は居所】栃木県真岡市鬼怒ケ丘11番地 日立金属株式会社素材研究所内
(72)【発明者】
【氏名】作田 智則
【住所又は居所】福岡県京都郡苅田町長浜町35番地 日立金属株式会社九州工場内
(72)【発明者】
【氏名】森下 佳奈
【住所又は居所】島根県松江市北陵町22番地 日立ツール株式会社基盤技術研究センター内
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙一
【住所又は居所】島根県松江市北陵町22番地 日立ツール株式会社基盤技術研究センター内
(57)【要約】
質量基準で、C:0.32〜0.48%、Si:0.85%以下、Mn:0.1〜2%、Ni:1.5%以下、Cr:16〜23%、Nb:3.2〜5%、Nb/C:9〜11.5、N:0.15%以下、S:0.05〜0.2%、及びAl:0.01〜0.08%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる被削性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼、及びそれからなる排気系部品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準で、
C:0.32〜0.48%、
Si:0.85%以下、
Mn:0.1〜2%、
Ni:1.5%以下、
Cr:16〜23%、
Nb:3.2〜5%、
Nb/C:9〜11.5、
N:0.15%以下、
S:0.05〜0.2%、及び
Al:0.01〜0.08%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする被削性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト系耐熱鋳鋼において、さらに質量基準で、W及び/又はMoを合計で0.8〜3.2%含有することを特徴とする被削性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト系耐熱鋳鋼において、さらにNb及びAlが下記式:
0.35≦0.1Nb+Al≦0.53・・・(1)
[ただし、各元素記号はその含有量(質量%)を示す。]
を満たすことを特徴とするフェライト系耐熱鋳鋼。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト系耐熱鋳鋼において、硫化物粒子が視野面積14000μm2当たり20個以上の組織を有することを特徴とするフェライト系耐熱鋳鋼。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト系耐熱鋳鋼からなることを特徴とする排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ガソリンエンジン及びディーゼルエンジンの排気系部品等に適する耐熱鋳鋼に関し、特に被削性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼、及びそれからなる排気系部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境負荷の低減や環境保全が叫ばれ、自動車に対して、大気汚染物質の排出量を削減するための排ガスの浄化と、地球温暖化の一因であるCO2の排出量抑制のための燃費性能の向上(低燃費化)とが強く求められている。自動車の排ガス浄化及び燃費改善の対策のために、車体の軽量化及び空気抵抗低減、エンジンの高性能化及び低燃費化、エンジンから駆動系への動力伝達の効率化、排ガスの浄化等の様々な技術が採用されてきた。
【0003】
なかでも、エンジンの高性能化及び低燃費化の技術として、燃料の直噴化、燃料噴射の高圧化、圧縮比の増大、ターボチャージャー(過給機)の採用によるエンジン排気量の低減、エンジンの小型軽量化(ダウンサイジング)等が挙げられ、高級車に限らず大衆車にも導入されてきている。その結果、燃料をより高温高圧で燃焼させる傾向にあり、これに伴ってエンジンから排気系部品に排出される排ガスの温度も上昇傾向にある。例えば、大衆車でも排ガス温度は1000℃近くまで上昇し、排気系部品の表面温度も900℃に達することがある。このように高温の排ガスに曝される排気系部品は、従来にも増して耐酸化性、高温強度、耐熱変形性、耐熱亀裂性等の耐熱特性の向上が求められる。
【0004】
従来、自動車のガソリンエンジン及びディーゼルエンジンに用いるエキゾーストマニホルド、タービンハウジング等の複雑形状の排気系部品は、形状自由度の高い鋳物により製造されており、しかも使用条件が高温で過酷であるので、高Si球状黒鉛鋳鉄、ニレジスト鋳鉄(Ni-Cr系オーステナイト鋳鉄)等の耐熱鋳鉄、フェライト系耐熱鋳鋼、オーステナイト系耐熱鋳鋼等が用いられている。
【0005】
フェライト系の高Si球状黒鉛鋳鉄は、800℃付近まで比較的良好な耐熱特性を示すが、それを超える温度では耐久性に劣る。Ni、Cr、Co等の希少金属(レアメタル)を多く含有するニレジスト鋳鉄等の耐熱鋳鉄やオーステナイト系耐熱鋳鋼は800℃以上での耐酸化性及び耐熱亀裂性を同時に満足させる。しかし、ニレジスト鋳鉄はNi含有量が多いので高価であるだけでなく、オーステナイト系基地組織のために線膨張率が大きく、かつミクロ組織に破壊の起点となる黒鉛が存在しているため、耐熱亀裂性に劣る。またオーステナイト系耐熱鋳鋼は、破壊の起点となる黒鉛はないが、線膨張率が大きいため900℃付近での耐熱亀裂性が不十分である。加えて、希少金属を多く含有するため高価であり、世界経済情勢の影響を受けやすく、原料の安定供給に不安がある。
【0006】
排気系部品用耐熱鋳鋼は、経済性及び原料の安定供給のみならず資源の有効活用の観点から、希少金属の含有量を極力抑えて必要な耐熱特性を確保するのが望ましい。これにより安価で高性能な排気系部品が得られ、低燃費化の技術を安価な大衆車にも適用することができ、CO2ガスの排出量の削減に貢献できる。希少金属の含有量を極力抑えるためには、合金の基地組織をオーステナイトよりフェライトにした方が有利である。加えてフェライト系耐熱鋳鋼はオーステナイト系耐熱鋳鋼より線膨張率が小さいので、エンジンの始動及び発進にともない発生する熱応力が小さく、耐熱亀裂性に優れている。
【0007】
また、排気系部品は、鋳造後にエンジン及び周辺部品との取付け面、取付け孔等の連結部位や、高い寸法精度を要する部位等に切削等の機械加工を施した後、自動車に組み付けられるので、高い被削性を有する必要がある。ところが、排気系部品に用いられる耐熱鋳鋼は一般的に被削性の悪い難削材料であり、特にフェライト系耐熱鋳鋼は、Crを多く含有して高強度を有するので、被削性に劣る。このため、フェライト系耐熱鋳鋼からなる排気系部品を切削する場合、高い硬度及び強度を有する比較的高価な切削工具を必要とし、工具寿命も短いために工具交換の頻度が多く、加工コストが上昇し、さらに低速での切削を余儀なくされ、切削に長時間を要するため加工能率が低い。このようにフェライト系耐熱鋳鋼からなる排気系部品の機械加工には、生産性及び経済性が低いという問題点がある。
【0008】
鋳造性の改善のために、特開平7-197209号は、重量比率で、C:0.15〜1.20%、C−Nb/8:0.05〜0.45%、Si:2%以下、Mn:2%以下、Cr:16.0〜25.0%、W及び/又はMo:1.0〜5.0%、Nb:0.40〜6.0%、Ni:0.1〜2.0%、及びN:0.01〜0.15%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成を有し、通常のα相(αフェライト相)のほかにγ相(オーステナイト相)からα+炭化物に変態した相(以下「α’相」という)を有し、α’相の面積率[α’/(α+α’)]が20〜70%で、鋳造性に優れたフェライト系耐熱鋳鋼を提案している。このフェライト系耐熱鋳鋼はNbCの形成に必要な量以上のC (オーステナイト化元素)を含有するので、基地組織に固溶したCにより凝固時にγ相が生成し、冷却過程でγ相はα’相に変態し、もって延性及び耐酸化性が向上している。そのため、このフェライト系耐熱鋳鋼は900℃以上で使用される排気系部品に適する。
【0009】
しかし、鋳放しのままではγ相からα’相への変態が十分に進行せず、γ相からマルテンサイト相に変態する。マルテンサイト相は高硬度であるため、常温での靭性及び被削性を著しく悪化させる。十分な靭性及び被削性を確保するためには、昇温によりマルテンサイト相を消滅させてα’相を析出させる熱処理が必要なことがある。しかし、熱処理は一般に製造コストを上昇させるので、希少金属の含有量が少ないというフェライト系耐熱鋳鋼の経済的利点を損なう。
【0010】
被削性の改善のために、WO 2012/043860は、重量比率で、C:0.32〜0.45%、Si:0.85%以下、Mn:0.15〜2%、Ni:1.5%以下、Cr:16〜23%、Nb:3.2〜4.5%、Nb/C:9〜11.5、N:0.15%以下、S:(Nb/20−0.1)〜0.2%、W及び/又はMo:合計3.2%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、δフェライトとNb炭化物(NbC)との共晶(δ+NbC)相の面積率が60〜80%で、マンガンクロム硫化物(MnCr)Sの面積率が0.2〜1.2%である組織を有し、優れた湯流れ性、耐ガス欠陥性、靭性及び被削性を有するフェライト系耐熱鋳鋼を提案している。
【0011】
WO 2012/043860のフェライト系耐熱鋳鋼は、C及びNbの含有量を増加するとともに両者の含有量のバランスを最適化することにより、凝固開始温度が低下して湯流れ性が改善され、かつ初晶δ相と共晶(δ+NbC)相の結晶粒の微細化により靭性が大幅に向上している。さらに適量のSを含有することによりマンガンクロム硫化物(MnCr)Sが晶出し、凝固終了温度が低下するとともに凝固温度範囲が拡大し、耐ガス欠陥性が改善している。しかし、WO 2012/043860のフェライト系耐熱鋳鋼は、専ら湯流れ性、耐ガス欠陥性及び靭性を改善することを狙ったもので、被削性を改善する見地からの検討は十分でない。即ち、WO 2012/043860は、マルテンサイトに変態するγ相の晶出、炭化物の析出量の増加、及び基地組織への固溶量の増加等の作用により被削性を悪化させる合金元素の含有量を規制することにより被削性の低下を抑制することを提案しているが、積極的に被削性を改善する手段を開示している訳ではない。
【0012】
上記の通り特開平7-197209号及びWO 2012/043860のフェライト系耐熱鋳鋼には被削性を改善する余地があるので、より高い被削性を有するフェライト系耐熱鋳鋼が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、900℃付近での優れた耐熱特性を確保しつつ、優れた被削性を有するフェライト系耐熱鋳鋼、及びかかるフェライト系耐熱鋳鋼からなる排気系部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、特開平7-197209号及びWO 2012/043860のフェライト系耐熱鋳鋼に所定量のAl及びSを添加するとともに、C、Mn、Ni、Cr、Nb及びNの含有量を適正範囲に限定すると、900℃付近での優れた耐熱特性を確保しつつ被削性を改善できることを発見し、本発明に想到した。
【0015】
すなわち、被削性に優れた本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は質量基準で、
C:0.32〜0.48%、
Si:0.85%以下、
Mn:0.1〜2%、
Ni:1.5%以下、
Cr:16〜23%、
Nb:3.2〜5%、
Nb/C:9〜11.5、
N:0.15%以下、
S:0.05〜0.2%、及び
Al:0.01〜0.08%を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0016】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼はさらにW及び/又はMoを合計で0.8〜3.2質量%含有してもよい。
【0017】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼はさらにNb及びAlが下記式(1):
0.35≦0.1Nb+Al≦0.53・・・(1)
(ただし、元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。)を満たすのが好ましい。
【0018】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼の組織は、視野面積14000μm2当たり20個以上の硫化物粒子を含有するのが好ましい。
【0019】
本発明の排気系部品は、上記フェライト系耐熱鋳鋼からなることを特徴とする。このような排気系部品の好ましい例として、エキゾーストマニホルド、タービンハウジング、タービンハウジング一体化エキゾーストマニホルド、触媒ケース、触媒ケース一体化エキゾーストマニホルド、及びエキゾーストアウトレットが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、900℃付近での優れた耐熱特性を確保しつつ、良好な被削性を有するので、切削工具に用いたときに長寿命にできるだけでなく切削速度を高めることもでき、切削加工の生産性及び経済性を向上できる。その上、希少金属の含有量を抑制しているので、原料コストの抑制のみならず、資源の有効活用や安定供給にも貢献する。さらに被削性を改善するための熱処理が不要なので製造コストの上昇を招くことなく、省エネルギーにも寄与する。このような特徴を有する本発明のフェライト系耐熱鋳鋼を用いると、自動車用の排気系部品を低コストで効率よく製造することができるので、低燃費化技術の適用範囲を拡大させ、自動車等のCO2ガスの排出量の削減に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例67のフェライト系耐熱鋳鋼のミクロ組織を示す顕微鏡写真である。
【図2】比較例47の鋳鋼のミクロ組織を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1] フェライト系耐熱鋳鋼
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼の組成及び組織を以下詳細に説明する。なお、各元素の含有量は特に断りのない限り質量%で示す。
【0023】
[A] 組成
(1) C(炭素):0.32〜0.48%
Cはフェライト系耐熱鋳鋼用溶湯の凝固開始温度を降下させて流動性(湯流れ性、鋳造性)を高める。また、Cは初晶δ相の形成に寄与するが、初晶δ相によりさらに凝固開始温度が低下し、湯流れ性が向上する。その上、CはNbと結合してδ相とNb炭化物(NbC)との共晶(δ+NbC)相を形成し、フェライト系耐熱鋳鋼の高温強度を高める。このような作用を有効に発揮するために、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、0.32%以上のCを含有する必要がある。しかし、C含有量が0.48%を超えると、共晶(δ+NbC)相が多くなり過ぎて、フェライト系耐熱鋳鋼は脆化し、常温靭性が低下するとともに、被削性が劣化する。このため、C含有量は0.32〜0.48%とする。C含有量の上限は好ましくは0.45%であり、より好ましくは0.44%であり、最も好ましくは0.42%である。
【0024】
(2) Si(ケイ素):0.85%以下
Siは溶湯の脱酸剤として作用するとともに耐酸化性を改善する。しかし、0.85%を超えると、Siは基地組織のフェライトに固溶して、基地組織を著しく脆化させる。このため、Siの含有量は0.85%以下(0%を含まず)とする。Si含有量の下限は好ましくは0.2%であり、より好ましくは0.3%である。また、Si含有量の上限は好ましくは0.6%である。
【0025】
(3) Mn(マンガン):0.1〜2%
MnはSiと同様に溶湯の脱酸剤として作用する。その上、MnはCr及びSと結合して、マンガン硫化物(MnS)やマンガンクロム硫化物(MnCr)S等の硫化物を形成し、耐熱鋳鋼の被削性を改善する。特にマンガンクロム硫化物(MnCr)Sはフェライト系耐熱鋳鋼の凝固温度範囲を拡大し、水素を材料の外部へ逃散させる経路として作用するので、耐ガス欠陥性の向上に寄与する。これらの効果を有効に発揮させるために、Mnの含有量は0.1%以上必要である。しかし、2%を超えるMnはフェライト系耐熱鋳鋼の耐酸化性及び靭性を劣化させる。このため、Mnの含有量は0.1〜2%とする。Mn含有量の下限は好ましくは0.15%であり、より好ましくは0.2%である。また、Mn含有量の上限は好ましくは1.85%であり、より好ましくは1.5%である。
【0026】
(4) Ni(ニッケル):1.5%以下
Niは、オーステナイト安定化元素でγ相を形成する。オーステナイトは、常温まで冷却される間に靭性及び被削性を著しく悪化させるマルテンサイトに変態する。従って、Ni含有量は極力少ないのが望ましいが、Niは通常原料となるステンレス系鋼屑のスクラップ材に含有されているため、不可避的にフェライト系耐熱鋳鋼に混入する可能性が高い。靭性及び被削性への悪影響が実質的にないNi含有量の上限は1.5%である。そのため、Ni含有量は1.5%以下(0%を含む)とする。Ni含有量は好ましくは0〜1.25%であり、より好ましくは0〜1.0%であり、最も好ましくは0〜0.9%である。
【0027】
(5) Cr(クロム):16〜23%
Crはフェライト組織を安定化して耐酸化性を高めるだけでなく、Mn及びSとの結合により(MnCr)Sを形成して被削性及び耐ガス欠陥性を向上させる。特に900℃付近での耐酸化性を向上させ、かつ被削性を改善するためには、Crは16%以上含有する必要がある。一方、フェライト基地においてCrが23%超えると、シグマ脆性が発生しやすくなり、靭性及び被削性が著しく悪化する。そのため、Cr含有量は16〜23%とする。Cr含有量の下限は好ましくは17%であり、より好ましくは17.5%である。また、Cr含有量の上限は好ましくは22.5%であり、より好ましくは22%である。
【0028】
(6) Nb(ニオブ):3.2〜5%
強い炭化物形成能を有するNbは、凝固時にCを炭化物(NbC)に固定するので、強力なオーステナイト安定化元素であるCが基地組織のフェライトに固溶してγ相を晶出するのを抑制するだけでなく、初晶δ相の結晶粒及び共晶(δ+NbC)相の結晶粒を微細化して靭性を著しく向上させる。またNbは、共晶(δ+NbC)相の形成により高温強度を向上させるとともに、凝固開始温度を低下させて良好な湯流れ性を確保する。さらに後述するように、NbCの形成により切削時の切削温度が上昇し、もって構成刃先の抑制により被削性が向上し、工具寿命が改善する。上記効果を十分に発揮するために、Nbは3.2%以上必要である。しかし、Nbが5%を超えると、硬質炭化物(NbC)を含む共晶(δ+NbC)相が多くなりすぎ、被削性がかえって悪化するだけでなく、脆化により靭性が著しく低下する。またNbが5%を超えると、凝固開始温度が低下して湯流れ性は改善するが、凝固温度範囲が縮小して短時間に凝固が終了するため、ガス欠陥の発生傾向が著しく高まる。従って、Nb含有量は3.2〜5%とする。Nb含有量の下限は好ましくは3.4%である。また、Nb含有量の上限は好ましくは4.5%であり、より好ましくは4.2%であり、最も好ましくは3.8%である。
【0029】
(7) Nb/C:9〜11.5
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼が必要な特性をバランス良く兼備するためには、CとNbの含有量のバランスが重要である。具体的には、NbとCの含有量の比(Nb/C)を所定の範囲に規制することにより、初晶δ相と共晶(δ+NbC)相の結晶粒を微細化するとともに、余剰のCをNb炭化物(NbC)として晶出させる。その結果、C及びNbはフェライト基地にほとんど固溶せず、靭性に有害なγ相の晶出を阻止し、δ相へのNbの固溶を抑制し、もって靭性及び被削性の劣化を抑制する。
【0030】
Nb/Cが小さすぎる場合、Nbに結合しない余剰のCは基地組織に固溶し、δ相を不安定化してγ相を晶出させる。γ相は常温に達するまでに靭性及び被削性を低下させるマルテンサイト相に変態する。また、Nb/Cが小さいと初晶δ相の晶出量が多くなりすぎ、その成長が促進されるので、初晶δ相の結晶粒が微細でなくなり、靭性が向上しない。γ相の晶出を抑制するとともに、初晶δ相の結晶粒及び共晶(δ+NbC)相の結晶粒を微細化するには、Nb/Cは9以上である必要がある。
【0031】
一方、Nb/Cが大きすぎる場合、Nbはδ相に固溶して、δ相に格子歪みを与え、δ相の靭性を低下させる。また、Nb/Cが大きすぎると、共晶(δ+NbC)相の晶出量が多くなりすぎ、その成長が促進されるので、共晶(δ+NbC)相の結晶粒の微細化が不十分となり、靭性が向上しない。Nbのδ相への固溶を抑制するとともに、初晶δ相の結晶粒及び共晶(δ+NbC)相の結晶粒を微細化するには、Nb/Cは11.5以下である必要がある。以上から、Nb/Cは9〜11.5とする。Nb/Cの下限は好ましくは9.3であり、より好ましくは9.5である。また、Nb/Cの上限は好ましくは11.3であり、より好ましくは11であり、最も好ましくは10.5である。
【0032】
(8) N(窒素):0.15%以下
Nは強力なオーステナイト安定化元素であり、γ相を形成する。γ相は常温まで冷却される間にマルテンサイト化し、靭性及び被削性を劣化させる。そのため、Nは極力少ない方が望ましいが、Nはもともと鋼屑(スクラップ)等の原料に含有しているため、不可避的不純物として混入する。靭性及び被削性を実質的に悪化させないNの上限は0.15%であるので、N含有量は0.15%以下(0%を含む)とする。N含有量の上限は好ましくは0.13%であり、より好ましくは0.11%であり、最も好ましくは0.10%である。
【0033】
(9) S(硫黄):0.05〜0.2%
Sは、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼において被削性を改善する重要な元素である。SはMn及びCrと結合してMnS、(MnCr)S等の球状又は塊状の硫化物を形成し、被削性を向上させる。球状又は塊状の硫化物粒子は切削時に潤滑作用を有し、切粉を分断することにより被削性を向上させることが知られている。しかし、SとAlとの併用により硫化物単独の場合より大きな被削性向上効果が得られることが分った。これは本発明の重要な特徴である。また、SはMn及びCrと結合してマンガンクロム硫化物(MnCr)Sを形成し、凝固温度範囲を拡大して耐ガス欠陥性を向上する。このような効果を得るには、Sは0.05%以上必要である。しかし、Sが0.2%を超えると、靭性の低下が顕著となる。そのため、Sの含有量は0.05〜0.2%とする。S含有量の下限は好ましくは0.08%であり、より好ましくは0.1%であり、最も好ましくは0.12%である。また、S含有量の上限は好ましくは0.18%である。
【0034】
(10) Al(アルミニウム):0.01〜0.08%
Alも被削性を改善する重要な元素である。Alは、通常鋼屑(スクラップ)等の原料や、溶解工程及び出湯工程で使用する脱酸剤からフェライト系耐熱鋳鋼に不可避的に混入する。本発明は、Sとの併用により顕著な被削性向上効果を得るために、Alの臨界的な含有量を規定した。例えば耐熱鋳鋼を工具により切削する場合、耐熱鋳鋼の基地中に固溶したAlは、切削加工で発生する熱により大気中の酸素と反応し、耐熱鋳鋼の表面に高融点酸化物であるAl2O3を形成する。Al2O3は保護被膜として機能し、工具への耐熱鋳鋼の焼き付きを防止する。その結果、耐熱鋳鋼の被削性は向上し、工具寿命を延長させる。被削性の向上効果は、Alの単独添加では得られず、所定量のSとの併用によりはじめて達成される。さらに、Alは硫化物粒子を均一に微細化し、構成刃先を抑制して耐熱鋳鋼の被削性を向上させる。
【0035】
Alによる被削性の向上効果を顕在化させるために、Alは臨界的な含有量として0.01%以上必要である。従って不可避的不純物として含有するAl含有量が0.01%に満たない場合には、上記効果を得るためにAlを積極的に添加しなければならない。しかし、Alが0.08%を超えると、耐熱鋳鋼を溶製する際にAl2O3等の酸化物やAlN等の窒化物からなる介在物が多量に生成する。硬くて脆い介在物になるAl2O3やAlNは、多量に生成すると被削性をかえって低下させるだけでなく、亀裂及び割れの起点となって高温強度及び延性を低下させる。また、Al2O3等の酸化物は鋳造欠陥の原因になり、また溶湯の流動性を低下させて鋳造歩留りを悪化させる。そのため、Alの含有量は0.01〜0.08%とする。Alの含有量の下限は好ましくは0.02%であり、より好ましくは0.03%であり、最も好ましくは0.035%である。またAlの含有量の上限は好ましくは0.07%であり、より好ましくは0.06%であり、最も好ましくは0.055%である。
【0036】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼における被削性の向上は、S及びAlのいずれか一方を含有するだけでは達成されず、両者をともに含有する場合に達成されることが分かった。この理由は必ずしも明確ではないが、耐熱鋳鋼中に形成されるMnS等の硫化物粒子は延性に富み、潤滑作用を有し、また切削加工時の切削温度の上昇により形成されるAl2O3は工具の保護作用を有する。相互に馴染みやすいMnS及びAl2O3は潤滑作用及び保護作用を有する良好な複合被膜を形成し、工具と被削材との直接接触による付着を緩和し、切削抵抗を低下させて工具の摩耗を抑制し、もって被削性を大幅に向上させるとともに工具の寿命を延ばすと推察される。このように、S、Al及びMnの含有量を上記範囲に限定することにより複合潤滑保護被膜が十分に形成された本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、優れた被削性を発揮する。
【0037】
(11) W(タングステン)及び/又はMo(モリブデン):好ましくは合計で0.8〜3.2%
W及びMoはいずれも炭化物を生成して被削性を低下させるが、基地組織のδ相に固溶することにより高温強度を改善する。被削性を著しく損なわない範囲でフェライト系耐熱鋳鋼の高温強度をさらに向上させる場合、W及び/又はMoを付加的に含有させても良い。鋼屑(スクラップ)等の原料から混入するW及びMoは通常フェライト系耐熱鋳鋼にそれぞれ0.5%未満程度不可避的に含まれるが、高温強度改善効果を顕在化させるためには、W及び/又はMoを合計で0.8%以上含有させるのが好ましい。W及びMoの単独添加でも複合添加でも、3.2%を超えるとフェライト系耐熱鋳鋼に粗大な炭化物が生成し、靱性及び被削性が著しく劣化する。なお、高温強度改善効果については、W及びMoの単独添加でも複合添加でも、約3%で飽和する。従って、W及び/又はMoの含有量は合計で0.8〜3.2%とする。W及び/又はMoの合計含有量の下限は好ましくは1.0%である。また、W及び/又はMoの合計含有量の上限は好ましくは3.0%であり、より好ましくは2.5%である。
【0038】
(12) 式(1):0.35≦0.1Nb+Al≦0.53
被削性をいっそう向上させるために、上記組成範囲の要件を満足した上で、式(1) を満たすのが好ましい。なお、式中の元素記号はその含有量(質量%)を示す。本発明者等は、(a) 本発明のフェライト系耐熱鋳鋼の被削性に影響を及ぼす因子として、(A) 切削加工における構成刃先の抑制、及び(B) 耐熱鋳鋼中の共晶炭化物及び介在物の制御が重要であること、及び(b) これらの因子は耐熱鋳鋼中のNb及びAlの含有量に依存し、被削性及び工具寿命に影響を与えることを発見した。より良好な被削性を本発明のフェライト系耐熱鋳鋼に付与するためには、Nb及び/又はAlの含有量だけでなく、両者の関係を式(1) に示すように規定するのが好ましい。式(1) の値を0.35以上にするのは切削加工において構成刃先を抑制するための条件(A) であり、式(1) の値を0.53以下にするのは耐熱鋳鋼中の共晶炭化物及び介在物を制御するための条件(B) である。
【0039】
構成刃先は、切削加工中に発生する摩擦熱により軟化した被削材の一部が工具の刃先に付着した硬い堆積物であり、二次的な刃先となって切れ刃の代わりに切削に関与し、工具寿命に大きな影響を及ぼす。生成量が僅かであれば工具の刃先を保護して工具寿命を延ばすが、構成刃先の生成量を制御することは通常容易ではない。特にフェライト系耐熱鋳鋼の基地組織を構成するδ相からなるフェライトは粘く工具に付着しやすいので、生成した構成刃先が脱落し難く、成長して粗大化する傾向にある。切削加工中に粗大な構成刃先が脱落するときに工具の刃先が大きく欠損(チッピング)するので、被削性を劣化させるだけでなく工具寿命を短くする。
【0040】
(A) 構成刃先の抑制について
構成刃先を抑制する手法としては、(A-1) 共晶炭化物(NbC)を適量形成して切削温度を上昇すること、及び(A-2) 硫化物粒子を均一かつ微細に分散することが有効である。上記手法(A-1) 及び(A-2) による構成刃先の抑制のメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下の通りであると推測される。
【0041】
(A-1) 共晶炭化物(NbC)の形成
耐熱鋳鋼中に硬質な共晶炭化物(NbC)が適量形成されると、切削加工の際に切削抵抗が増大し、切削により発生する摩擦熱の上昇にともなって、被削材、切粉及び工具刃先の温度(切削温度)が上昇する。構成刃先は切削温度の上昇により軟化又は溶融状態になり、工具刃先から容易に脱落するので、その生成及び成長が抑制される。その結果、粗大化した構成刃先の脱落による工具刃先の欠損が防止されると考えられる。上記効果を得るには、共晶炭化物(NbC)の全組織に対する面積率は20%以上であるのが好ましい。共晶炭化物(NbC)の面積率を制御するには、C及びNbの含有量及びNb/C比を上記範囲に規制する。
【0042】
(A-2) 硫化物粒子の均一微細化
耐熱鋳鋼中に均一かつ微細に形成されたMnS、(MnCr)S等の硫化物粒子による切削時の潤滑作用や切粉の分断作用により、耐熱鋳鋼の被削性は改善される。硫化物粒子が均一かつ微細に分散しているほど、工具寿命を延長する効果が大きい。硫化物粒子は、切削時に被削材の微小なクラックの生成サイト、即ち脆化の起点となり、その潤滑作用及び切粉の分断作用により被削性を向上させる。特に微小クラックによる切粉の分断作用により構成刃先は小さくかつ脱落しやすくなるので、その生成及び成長が抑えられる。
【0043】
微小クッラクの生成サイトを多数存在させるためには、硫化物粒子は均一かつ微細に分散しているのが好ましい。硫化物粒子が均一かつ微細に分散するように制御するには、Alの含有が有効である。Al含有により形成されるAl2O3等のAlの酸化物は、主にδ相の結晶粒界に沿って分散するとともに、硫化物の晶出核として作用して硫化物の生成を促進し、硫化物粒子を均一かつ微細に晶出させる。しかし、Al含有量が少ないと硫化物粒子が粗大化するとともに不均一分散となり、切粉の分断作用が発揮されず、構成刃先が粗大に成長する。硫化物粒子の粗大不均一分散の原因は、Al含有量の不足及びSiやMn等の脱酸作用による溶鋼中の酸素濃度の低下によって硫化物の晶出核となるAl2O3等の酸化物が減少するためと考えられる。なお、Al酸化物による硫化物粒子の均一微細化の作用は、切削加工における発熱により基地に固溶したAlから形成された高融点のAl2O3が工具を保護する作用とは異なる。
【0044】
硬質炭化物は被削性を低下させて工具寿命を短縮すると考えられるが、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼では逆に、(A-1) 硬質な共晶炭化物(NbC)の形成による切削温度の上昇、及び(A-2) Alによる硫化物粒子の均一微細化の相乗効果により、構成刃先が抑制されて被削性が向上し、もって工具寿命が改善される。これは、従来の技術常識からは予想されない顕著な効果である。手法(A-1) 及び(A-2) による上記相乗効果を得るためには、式(1) の値は0.35以上とするのが好ましい。
【0045】
(B) 耐熱鋳鋼中の共晶炭化物及び介在物の制御
被削性に影響を及ぼす共晶炭化物及び介在物の晶出を規制するのが重要である。共晶炭化物(NbC)については、その晶出量が多くなると構成刃先の抑制効果が飽和するだけでなく、硬質なためにその増加にともなって工具と被削材との間に発生する摩擦が大きくなり、摩耗により工具寿命を短くする。工具寿命の短縮を抑えるためには、共晶炭化物(NbC)の全組織に対する面積率は40%以下であるのが好ましい。共晶炭化物(NbC)の面積率を制御するには、C及びNbの含有量及びNb/C比を上記範囲に規制する。
【0046】
介在物の制御の観点でみた場合、硫化物粒子の均一微細分散に寄与することで構成刃先を抑制する効果のあるAl酸化物は、その晶出量が多くなると構成刃先の抑制効果は飽和する。一方で、Al含有によって生成するAl2O3やAlN等の介在物は硬質なため、その生成量の増加にともなって被削性を低下させる。またAl2O3は溶鋼中で凝集して粗大化しやすいので、その生成量が多くなると、それを核として晶出する硫化物粒子も粗大化して不均一に分散するようになり、構成刃先の抑制効果が低下する。本発明のフェライト系耐熱鋳鋼においては、共晶炭化物や介在物の晶出を規制することで、被削性の悪化が抑制されて工具寿命が改善される。上記の効果を得るためには式(1) の値を0.53以下とする必要がある。
【0047】
[B] 組織
(1) 硫化物粒子:視野面積14000μm2当たり20個以上
組織中に晶出する硫化物粒子が多いほど、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼の被削性は向上し、工具寿命は延びる傾向にある。良好な被削性を得るためには、耐熱鋳鋼組織中に晶出する硫化物粒子の数は、視野面積14000μm2当たり20個以上であるのが好ましく、30個以上であるのがより好ましく、40個以上であるのが最も好ましい。ここで、硫化物粒子の数は、倍率500倍の顕微鏡写真(視野:140μm×100μm)において1μm以上の粒径(円相当径)の硫化物粒子を画像解析によりカウントして求めたものである。
【0048】
単位面積当たりの硫化物粒子の数が多いほど、換言すれば硫化物粒子の個数密度が高いほど、硫化物粒子は小さく、均一かつ微細に分散している。硫化物粒子が微細に分散しているほど、独立して存在する硫化物粒子同士の距離が短いため、切削時に硫化物粒子を起点に発生したクラックが切粉内を効率的に伝播し、切粉の分断が促進されて構成刃先の生成及び成長を抑制する。一方、硫化物粒子が粗大で不均一に分散していると、クラックが切粉内部で効率的に伝播しないので切粉の分断に至らず、構成刃先の生成及び成長が助長される。耐熱鋳鋼中の硫化物粒子の数を上記範囲内に制御すれば、切削時の潤滑作用及び切粉の分断作用による構成刃先の抑制効果が効果的に発揮されるので、被削性はいっそう向上する。
【0049】
以上の通り、S及びAlのともに含有する本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、(a) 硫化物粒子の潤滑作用と、(b) 切削加工時に形成された高融点のAl酸化物による工具の保護作用と、(c) Nb添加により形成された共晶炭化物(NbC)による切削温度の上昇及びAl酸化物による硫化物粒子の均一微細分散による構成刃先の抑制作用により、大幅に向上した被削性を有する。
【0050】
[2] 排気系部品
上記フェライト系耐熱鋳鋼を用いて製造される本発明の排気系部品はいかなる鋳造排気系部品も含むが、その好ましい例は、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、タービンハウジングとエキゾーストマニホールドとを一体に鋳造したタービンハウジング一体エキゾーストマニホールド、触媒ケース、触媒ケースとエキゾーストマニホールドとを一体に鋳造した触媒ケース一体エキゾーストマニホールド、エキゾーストアウトレット等である。勿論、本発明の排気系部品はこれらに限定されず、例えば板金製又はパイプ製の部材と溶接される鋳造部品も含む。
【0051】
本発明の排気系部品は、1000℃以上の高温の排出ガスに曝され、自身の表面温度が900℃付近に達しても十分な耐酸化性、耐熱変形性、耐熱亀裂性等の耐熱特性を確保しているので、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、タービンハウジング一体エキゾーストマニホールド、触媒ケース、触媒ケース一体エキゾーストマニホールド、及びエキゾーストアウトレットとして好適であり、高い耐熱性及び耐久性を発揮する。また優れた被削性を有することから、機械加工における生産性や経済性を向上して製造できるとともに、希少金属の含有量を抑制し、熱処理が不要なので、高い製品歩留りで安価に製造できる。このため、低燃費化に寄与するとともに、高い耐熱性及び耐久性を有する安価な排気系部品を、大衆車のような低価格の自動車にも使用することが可能となり、CO2削減に貢献することが期待される。
【0052】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、勿論本発明はそれらに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例においてフェライト系耐熱鋳鋼の元素含有量を表す「%」は、特に断りがなければ「質量%」を意味する。
【0053】
実施例1〜88、及び比較例1〜55
実施例1〜42の鋳鋼の化学組成及び式(1) の値を表1-1及び1-2に、比較例1〜26の鋳鋼の化学組成及び式(1) の値を表2-1及び2-2に、実施例43〜88の鋳鋼の化学組成及び式(1) の値を表3-1及び3-2に、比較例27〜55の鋳鋼の化学組成及び式(1) の値を表4-1及び4-2にそれぞれ示す。実施例1〜88は本発明の組成範囲内のフェライト系耐熱鋳鋼であり、比較例1〜55は本発明の組成範囲外の鋳鋼である。
【0054】
比較例の鋳鋼のうち、
比較例1及び27の鋳鋼はC含有量が少なすぎ、
比較例2及び28の鋳鋼はC含有量が多すぎ、
比較例3及び29の鋳鋼はSi含有量が多すぎ、
比較例4及び30の鋳鋼はMn含有量が少なすぎ、
比較例5及び31の鋳鋼はMn含有量が多すぎ、
比較例6及び32の鋳鋼はS含有量が少なすぎ、
比較例7及び33の鋳鋼はS含有量が多すぎ、
比較例8及び34の鋳鋼はNi含有量が多すぎ、
比較例9及び35の鋳鋼はCr含有量が少なすぎ、
比較例10及び36の鋳鋼はCr含有量が多すぎ、
比較例11及び37の鋳鋼はN含有量が多すぎ、
比較例12〜14及び38〜40の鋳鋼はNb含有量が少なすぎ、
比較例15〜17及び41〜43の鋳鋼はNb含有量が多すぎ、
比較例18及び44の鋳鋼はNb/Cが小さすぎ、
比較例19及び45の鋳鋼はNb/Cが大きすぎ、
比較例20〜22及び46〜49の鋳鋼はAl含有量が少なすぎ、
比較例23〜25及び50〜52の鋳鋼はAl含有量が多すぎ、
比較例26及び53の鋳鋼はS及びAl含有量が少なすぎ、
比較例54の鋳鋼はW含有量が多すぎ、
比較例55の鋳鋼はMo含有量が多すぎる。
【0055】
実施例1〜88及び比較例1〜55の各原料を、100 kgの高周波溶解炉(塩基性ライニング)を用いて大気溶解した後、1600〜1650℃で出湯し、直ちに約1550℃で1インチYブロック用鋳型及び被削性評価に用いる円筒状試験片用鋳型に注湯し、各鋳鋼の供試材を得た。鋳放しのままの(熱処理なし)の各供試材から試験片を切り出して、以下の評価を行った。
【0056】
(1) 工具寿命
各供試材から切り出した外径96 mm、内径65 mm及び高さ120 mmの円筒状試験片の端面に対して、TiAlNをPVDコーティングした超硬インサートを用いて以下の条件でフライス切削した。
切削速度 :150 m/分
刃当り送り:0.2 mm/刃
切込み量 :1.0 mm
送り速度 :48〜152 mm/分
回転速度 :229〜763 rpm
切削液 :なし(乾式)
【0057】
各円筒状試験片のフライス切削において、超硬インサートの逃げ面の摩耗量が0.2 mmとなったときに寿命に到達したと判定し、そこに至るまでの切削時間(分)を工具寿命とした。各円筒状試験片の被削性を工具寿命により表す。言うまでもなく、工具寿命が長いほど被削性が良い。表1-3に実施例1〜42の工具寿命を示し、表2-3に比較例1〜26の工具寿命を示し、表3-3に実施例43〜88の工具寿命を示し、表4-3に比較例27〜55の工具寿命を示す。
【0058】
工具寿命はW及び/又はMoの有無に影響を受けるので、W及び/又はMoの有無に影響されない被削性改善効果の指標として「工具寿命改善率」を用いた。工具寿命改善率は、各実施例の鋳鋼の工具寿命Aを、Al含有量が本発明の下限値(0.01%)未満の比較例の鋳鋼の工具寿命のうち最も長い工具寿命Bで除した値(A/B)である。実施例1〜88及び比較例1〜55の工具寿命改善率(倍)を表1-3、2-3、3-3及び4-3に示す。
【0059】
工具寿命改善率が1.2倍以上であると、フェライト系耐熱鋳鋼は良好な被削性を有すると言える。本発明のフェライト系耐熱鋳鋼の工具寿命改善率は1.3倍以上であるのがより好ましく、1.35倍以上であるのがさらに好ましく、1.4倍以上であるのがよりいっそう好ましく、1.5倍以上であるのが最も好ましい。
【0060】
表1-3及び表2-3から明らかなように、W及び/又はMoの合計含有量が少ない(0.3%以下)鋳鋼では、Al含有量が0.01%未満で最も工具寿命の長い比較例21の鋳鋼の工具寿命(112分)に対して、実施例1〜42のいずれも工具寿命改善率が1.2倍以上であった。これに対して、比較例2、4、6、8〜18及び20〜26はいずれも工具寿命改善率が1.2倍未満であった。また表3-3及び表4-3から明らかなように、W及び/又はMoの合計含有量が多い(0.8%以上)鋳鋼では、Al含有量が0.01%未満で最も工具寿命の長い比較例47の鋳鋼の工具寿命(62分)に対して、実施例43〜88のいずれも工具寿命改善率が1.2倍以上であった。これに対して、比較例28、30、32、34〜44、及び46〜55はいずれも工具寿命改善率は1.2倍未満であった。これらの結果から、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は良好な被削性を有することが分かる。
【0061】
(2) 組織
被削性評価後の各円筒状試験片の端部から切り出した組織観察用試験片におけるMnS、(Cr/Mn)S等の硫化物粒子の個数を、各試験片を鏡面研磨し、腐食なしで任意の5視野の光学顕微鏡写真を撮り、各視野について画像解析により140μm×100μmの観察領域(視野面積:14000μm2)における1μm以上の粒径(円相当径)の硫化物粒子の個数をカウントし、それを5視野について平均することにより求めた。実施例1〜42の結果を表1-3に示し、比較例1〜26の結果を表2-3に示し、実施例43〜88の結果を表3-3に示し、比較例27〜55の結果を表4-3に示す。なお、硫化物粒子は、電界放出型走査電子顕微鏡に装着されたエネルギー分散型X線分析装置(FE-SEM EDS:株式会社日立製作所製のS-4000、EDX KEVEX DELTAシステム)を用いた分析により特定した。
【0062】
表1-3及び表3-3から明らかなように、実施例1〜88では視野面積14000μm2当たりの硫化物粒子は20個以上であった。これに対して、表2-3及び表4-3から明らかなように、Al含有量が少なすぎる比較例20〜22、26、46〜49及び53ではいずれも硫化物粒子は20個未満であった。
【0063】
図1は本発明の範囲内のAlを含有する実施例67のフェライト系耐熱鋳鋼のミクロ組織を示し、図2はAl含有量が少なすぎる比較例47の鋳鋼のミクロ組織を示す。図1及び図2において、白色部分はフェライト相1であり、灰色部分はラメラー状のNbの共晶炭化物(NbC)2であり、黒色粒子は硫化物粒子3である。
【0064】
実施例67では、図1に示すように微細な硫化物粒子が分散しており、大きな硫化物粒子が少ない。実施例67では5視野平均で視野面積14000μm2当たりの硫化物粒子は54個であり、工具寿命は102分と長く、工具寿命改善率は1.65倍と高かった。これから、実施例67のフェライト系耐熱鋳鋼は優れた被削性を有することが分かる。これに対して、比較例47では、図2に示すように硫化物粒子は凝集して粗大化し、微細な硫化物粒子が分散していない。比較例47では5視野平均で視野面積14000μm2当たりの硫化物粒子は12個であり、工具寿命は62分と短く、工具寿命改善率は1.0倍であった。
【0065】
(3) 酸化減量
エンジンから排気される1000℃近い高温の排ガス(硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸化性ガスを含有する。)に曝される排気系部品の表面には、酸化膜が形成される。酸化が進行すると酸化膜を起点に亀裂が入り、排気系部品内部まで酸化が進展し、最終的には排気系部品の表面から裏面まで亀裂が貫通して排ガスの漏洩や排気系部品の割れを招く。エンジンから排出される排ガスの温度が1000℃近くに上昇すると、排気系部品の温度も900℃に達することがあるので、900℃における耐酸化性を評価するために、以下の方法により各鋳鋼の酸化減量を求めた。すなわち、1インチYブロックの各供試材から直径10 mm及び長さ20 mmの丸棒試験片を切り出し、これを大気中900℃に200時間保持した後、ショットブラスト処理を施して酸化スケールを除去し、酸化試験前後の単位面積当たりの質量変化[酸化減量(mg/cm2)]を求めた。実施例1〜42における酸化減量を表1-4に示し、比較例1〜26における酸化減量を表2-4に示し、実施例43〜88における酸化減量を表3-4に示し、比較例27〜55における酸化減量を表4-4に示す。
【0066】
フェライト系耐熱鋳鋼が900℃付近の温度に到達する排気系部品に使用するのに十分な耐熱性を有するためには、900℃の大気雰囲気に200時間保持したときの酸化減量が20 mg/cm2以下であるのが好ましく、10 mg/cm2以下であるのがより好ましい。酸化減量が20 mg/cm2を超えると、亀裂の起点となる酸化膜の生成が多くなり、耐酸化性が不十分となる。
【0067】
表1-4及び表3-4から明らかなように、実施例1〜88の酸化減量は全て20 mg/cm2以下であった。この結果から、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は耐酸化性に優れ、900℃付近の温度に到達する排気系部品に使用した場合に十分な耐酸化性を発揮することが分かる。これは、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼が900℃付近の温度に到達する排気系部品に使用して十分な耐酸化性を有することを意味する。これに対して、表2-4及び表4-4から明らかなように、Mn含有量が多すぎる比較例5及び31の鋳鋼、及びCr含有量が少なすぎる比較例9及び35の鋳鋼はいずれも、酸化減量が20 mg/cm2超であり、耐酸化性に劣っていた。
【0068】
(4) 高温耐力
排気系部品には、エンジンの運転(加熱)と停止(冷却)の繰り返しによっても熱変形を生じにくい耐熱変形性が要求される。十分な耐熱変形性を確保するためには、高い高温強度を有するのが好ましい。高温強度は、900℃における0.2%耐力(高温耐力)により評価できる。1インチYブロックの各供試材から標点間距離50 mm及び直径10 mmの平滑丸棒つばつき試験片を切り出し、これを電気−油圧サーボ式材料試験機(株式会社島津製作所製、商品名サーボパルサーEHF-ED10T-20L)に取り付け、各試験片について大気中900℃での0.2%耐力(MPa)を測定した。実施例1〜42における高温耐力の測定結果を表1-4に示し、比較例1〜26における高温耐力の測定結果を表2-4に示し、実施例43〜88における高温耐力の測定結果を表3-4に示し、比較例27〜55における高温耐力の測定結果を表4-4に示す。
【0069】
一般に金属材料は高温になるほど強度が低下し、熱変形しやすくなる。体心立方晶(BCC)構造のフェライト系耐熱鋳鋼は、面心立方晶(FCC)構造のオーステナイト系耐熱鋳鋼より高温強度及び耐熱変形性が低い。高温強度及び耐熱変形性に影響を及ぼす主な要因に高温耐力がある。900℃付近の温度に到達する排気系部品に使用するには、900℃における0.2%耐力は20 MPa以上が好ましく、25 MPa以上がより好ましい。
【0070】
表1-4及び表3-4から明らかなように、実施例1〜88の900℃における0.2%耐力(高温耐力)は全て20 MPa以上であった。なかでも、表3-4に示すようにW及び/又はMoを0.8%以上含有する実施例43〜88は、高温耐力が25 MPa以上で、高温強度及び耐熱変形性に優れていた。これらの結果から、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は高温耐力に優れ、900℃付近の温度に到達する排気系部品に使用した場合に十分な高温強度を発揮することが分かる。一方、C及び/又はNbの含有量が少なすぎる比較例1、12〜14、27及び38〜40、Nb/C比が小さすぎる比較例18、並びにAl含有量が多すぎる比較例23〜25の高温耐力は20 MPa未満であった。なお、比較例44はNb/C比が小さいにもかかわらず、また比較例50〜52はAl含有量が多いにもかかわらず高温耐力が高かった。この理由はW及び/又はMoを多く含有するためと考えられる。ただし、比較例44及び50〜52は表4-4に示すように常温衝撃値が低かった。
【0071】
(5) 常温衝撃値
排気系部品には生産過程やエンジンへの組み付け過程等で機械的振動及び衝撃が加わるので、それに用いるフェライト系耐熱鋳鋼は、機械的振動及び衝撃でも亀裂及び割れが生じないように、十分な常温靭性を有する必要がある。靭性の評価に引張伸び(延性)を測定することもあるが、機械的振動及び衝撃に対する抵抗力(亀裂及び割れの発生しにくさ)を評価するには、引張試験より亀裂の進展が速いシャルピー衝撃試験による常温衝撃値を測定する方が実態に則している。
【0072】
1インチYブロックの各供試材から、JIS Z 2242に示す形状及び寸法のノッチなしのシャルピー衝撃試験片を切り出した。容量50 Jのシャルピー衝撃試験機を使用し、JIS Z 2242に従って3個の試験片に対して23℃で衝撃試験を行い、得られた衝撃値を平均した。実施例1〜42における衝撃試験結果を表1-3に示し、比較例1〜26における衝撃試験結果を表2-3に示し、実施例43〜88における衝撃試験結果を表3-3に示し、比較例27〜55における衝撃試験結果を表4-3に示す。
【0073】
排気系部品の生産過程等で亀裂や割れを発生しない靭性を有するためには、常温衝撃値は10×104 J/m2以上が望ましく、15×104 J/m2以上がより望ましい。表1-3及び表3-3から明らかなように、実施例1〜88の常温衝撃値は全て10×104J/m2以上であった。本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、所望量のC及びNbを含有し、初晶δ相と共晶(δ+NbC)相とが結晶粒の微細化効果が得られる最適な割合で共存しているので、高い常温衝撃値(優れた靭性)を有すると考えられる。
【0074】
これに対して、比較例1及び27はCが少なすぎ、比較例2及び28はCが多すぎ、比較例3及び29はSiが多すぎ、比較例5及び31はMnが多すぎ、比較例7及び33はSが多すぎ、比較例8及び34はNiが多すぎ、比較例10及び36はCrが多すぎ、比較例11及び37はNが多すぎ、比較例12〜14及び38〜40はNbが少なすぎ、比較例15〜17及び41〜43はNbが多すぎ、比較例18及び44はNb/Cが小さすぎ、比較例19及び45はNb/Cが大きすぎ、比較例23〜25及び50〜52はAlが多すぎ、比較例54及び55はW又はMoが多すぎ、いずれも常温衝撃値が低く、靭性に劣っていた。
【0075】
(6) 熱疲労寿命
排気系部品には、エンジンの運転(加熱)と停止(冷却)の繰り返しによっても熱亀裂を生じにくい耐熱亀裂性が要求される。耐熱亀裂性は熱疲労寿命により評価できる。熱疲労寿命は、1インチYブロックの各供試材から標点間距離20 mm及び直径10 mmの平滑丸棒試験片を切り出し、これを前記高温耐力の試験と同じ電気−油圧サーボ式材料試験機に拘束率0.5で取り付け、各試験片に対して大気中で、冷却下限温度150℃、加熱上限温度900℃、及び温度振幅750℃で、1サイクルを昇温時間2分、保持時間1分、及び冷却時間4分の合計7分とする加熱冷却サイクルを繰り返し、加熱冷却にともなう伸縮を機械的に拘束して熱疲労破壊を起こさせる熱疲労試験により評価した。熱疲労試験での加熱冷却の繰り返しにより生じる亀裂や変形により熱疲労破壊に至るまでのサイクル数が多いほど熱疲労寿命が長く、耐熱性(耐熱亀裂性)及び耐久性に優れていると言える。
【0076】
機械的な拘束の程度は、[(自由熱膨張伸び−機械的拘束下での伸び)/(自由熱膨張伸び)]で定義される拘束率で表す。例えば拘束率1.0とは、試験片が150℃から900℃まで加熱されたときに、全く伸びを許さない機械的拘束条件をいう。また拘束率0.5とは、自由膨張伸びが例えば2 mm伸びるところを1 mmの伸びしか許さない機械的拘束条件をいう。従って拘束率0.5では、昇温中には圧縮荷重がかかり、降温中には引張荷重がかかる。実際の自動車エンジンの排気系部品の拘束率はある程度伸びを許容する0.1〜0.5程度であるので、熱疲労寿命を拘束率0.5で評価した。
【0077】
熱疲労寿命は、加熱冷却の繰り返しにともなう荷重の変化から求まる荷重−温度線図において、2サイクル目の最大引張荷重を基準(100%)とし、各サイクルで測定される最大引張荷重が75%に低下するまでの加熱冷却サイクル数とした。実施例1〜42における熱疲労寿命を表1-4に示し、比較例1〜26における熱疲労寿命を表2-4に示し、実施例43〜88における熱疲労寿命を表3-4に示し、比較例27〜55における熱疲労寿命を表4-4に示す。
【0078】
900℃付近で十分な耐熱性を有するために、加熱上限温度900℃、温度振幅750℃以上、及び拘束率0.5の条件で加熱冷却する熱疲労試験により測定した熱疲労寿命は1000サイクル以上であるのが好ましい。熱疲労寿命が1000サイクル以上の耐熱鋳鋼からなる排気系部品は耐熱亀裂性に優れ、エンジンの加熱冷却の繰り返しにより生ずる亀裂及び変形によって熱疲労破壊に至るまでの寿命が長い。本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、上記熱疲労試験により測定した熱疲労寿命が1400サイクル以上であるのがより好ましく、1500サイクル以上であるのが最も好ましい。
【0079】
表1-4及び表3-4から明らかなように、実施例1〜88の熱疲労寿命は全て1400サイクル以上であった。この結果から、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は熱疲労寿命に優れ、900℃付近の温度までの加熱と冷却とを繰り返す排気系部品に使用した場合に十分な耐熱亀裂性を発揮することが分かる。
【0080】
上述のとおり、本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、900℃付近の温度に到達する排気系部品に要求される耐熱特性(耐酸化性、高温強度、耐熱変形性及び耐熱亀裂性)の他に、優れた被削性を有する。
【0081】
【表1-1】
【0082】
【表1-2】
【0083】
【表1-3】
【0084】
【表1-4】
注:(1) 拘束率0.5。
【0085】
【表2-1】
【0086】
【表2-2】
【0087】
【表2-3】
【0088】
【表2-4】
注:(1) 拘束率0.5。
【0089】
【表3-1】
【0090】
【表3-2】
【0091】
【表3-3】
【0092】
【表3-4】
注:(1) 拘束率0.5。
【0093】
【表4-1】
【0094】
【表4-2】
【0095】
【表4-3】
【0096】
【表4-4】
注:(1) 拘束率0.5。
【符号の説明】
【0097】
1・・・フェライト相
2・・・共晶炭化物(NbC)
3・・・硫化物粒子
【図1】
【図2】

【手続補正書】
【提出日】20150408
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
本発明のフェライト系耐熱鋳鋼は、900℃付近での優れた耐熱特性を確保しつつ、良好な被削性を有するので、切削工具用いたときに長寿命にできるだけでなく切削速度を高めることもでき、切削加工の生産性及び経済性を向上できる。その上、希少金属の含有量を抑制しているので、原料コストの抑制のみならず、資源の有効活用や安定供給にも貢献する。さらに被削性を改善するための熱処理が不要なので製造コストの上昇を招くことなく、省エネルギーにも寄与する。このような特徴を有する本発明のフェライト系耐熱鋳鋼を用いると、自動車用の排気系部品を低コストで効率よく製造することができるので、低燃費化技術の適用範囲を拡大させ、自動車等のCO2ガスの排出量の削減に貢献する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
微小クラックの生成サイトを多数存在させるためには、硫化物粒子は均一かつ微細に分散しているのが好ましい。硫化物粒子が均一かつ微細に分散するように制御するには、Alの含有が有効である。Al含有により形成されるAl2O3等のAlの酸化物は、主にδ相の結晶粒界に沿って分散するとともに、硫化物の晶出核として作用して硫化物の生成を促進し、硫化物粒子を均一かつ微細に晶出させる。しかし、Al含有量が少ないと硫化物粒子が粗大化するとともに不均一分散となり、切粉の分断作用が発揮されず、構成刃先が粗大に成長する。硫化物粒子の粗大不均一分散の原因は、Al含有量の不足及びSiやMn等の脱酸作用による溶鋼中の酸素濃度の低下によって硫化物の晶出核となるAl2O3等の酸化物が減少するためと考えられる。なお、Al酸化物による硫化物粒子の均一微細化の作用は、切削加工における発熱により基地に固溶したAlから形成された高融点のAl2O3が工具を保護する作用とは異なる。
【国際調査報告】