(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014061280
(43)【国際公開日】20140424
【発行日】20160905
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20160808BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20160808BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20160808BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160808BHJP
【FI】
   !H01M4/86 H
   !H01M4/86 M
   !H01M4/88 H
   !H01M8/02 E
   !H01M8/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】57
【出願番号】2014515949
(21)【国際出願番号】JP2013006187
(22)【国際出願日】20131018
(11)【特許番号】5562509
(45)【特許公報発行日】20140730
(31)【優先権主張番号】2012231325
(32)【優先日】20121019
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】2012231326
(32)【優先日】20121019
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】2012231329
(32)【優先日】20121019
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】2012231328
(32)【優先日】20121019
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡西 岳太
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】石川 潤
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵一
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】川島 勉
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】菅原 靖
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】辻 庸一郎
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】吉本 規寿
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 パナソニック株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】吉本 美由紀
【住所又は居所】大阪府門真市松葉町2番7号 パナソニックプロダクションテクノロジー株式会社内
【テーマコード(参考)】
5H018
5H026
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB08
5H018BB12
5H018CC06
5H018DD05
5H018DD06
5H018DD08
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH05
5H018HH08
5H026AA06
5H026CC03
(57)【要約】
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、主面の表面から延びる孔(12)が複数形成されている、燃料電池用ガス拡散層(100)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層であって、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、
前記燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成されている、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記孔は、前記燃料電池用ガス拡散層を貫通するように形成されている、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、前記第1層と接するように形成され、前記第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、
前記孔は、前記第1層および前記第2層を貫通するように形成されている、
請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練して均質な混練物を得て、
前記混練物を圧延および成形してシート状混練物を得て、
前記シート状混練物を、第1熱処理温度で熱処理して前記シート状混練物から前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した第1層を得て、
前記第1層に、前記第1層を貫通する孔を複数形成すること、
を含む燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項5】
さらに、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混ぜて均質な分散液を得て、
前記孔を形成する前の前記第1層上に前記分散液を塗工および乾燥して前記第1層よりも薄い分散液層を形成し、
前記分散液層が形成された前記第1層を、第1熱処理温度よりも低い第2熱処理温度で熱処理して前記分散液層から前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去して、前記第1層の上に前記第1層よりも撥水性の高い第2層を得て、
前記第1層に前記孔を形成する時に、前記孔が前記第2層をも貫通するように前記孔を形成すること、
を含む請求項4に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項6】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.1%以上1.2%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.3%以上1.1%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項8】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.5%以上1.0%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項9】
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、前記第1層と接するように形成され、前記第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、
前記孔は、前記第1層を貫通し、かつ前記第2層を貫通しないように形成されている、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項10】
電解質膜と、
前記電解質膜の主面に接する触媒層と、
前記触媒層に前記第2層が接するように配置された請求項9に記載の燃料電池用ガス拡散層とを備え、
前記孔の内部に前記触媒層および前記電解質膜のいずれもが露出しない、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法に関する。より詳細には、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料電池、電気二重層コンデンサなどの電極を構成する拡散層用部材を製造する際に用いられる拡散膜として、未焼成ポリテトラフルオロエチレン、焼成ポリテトラフルオロエチレンおよび導電性物質を含有していることを特徴とする拡散膜を開示する。
【0003】
特許文献2は、燃料電池に用いるガス拡散層であって、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、燃料電池用ガス拡散層を開示する。同文献には、かかるガス拡散層を用いた燃料電池について、ガス加湿露点を、アノードについて摂氏65度、カソードについて摂氏35度、セル温度を摂氏90度として運転することが記載されている(段落0084)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−187809号公報
【特許文献2】国際公開第2010/050219号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層を燃料電池に用いた場合において、発電性能のさらなる向上が求められていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層において、これを燃料電池に用いた場合の発電性能を更に向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池用ガス拡散層の一態様(aspect)は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成されている。
【0008】
本発明の燃料電池用ガス拡散層の製造方法の一態様(aspect)は、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練して均質な混練物を得て、前記混練物を圧延および成形してシート状混練物を得て、前記シート状混練物を、第1熱処理温度で熱処理して前記シート状混練物から前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した第1層を得て、前記第1層に、前記第1層を貫通する孔を複数形成すること、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池用ガス拡散層によれば、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層を燃料電池に用いた場合の発電性能を更に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、第1実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、第1実施例にかかる膜電極ガス拡散層接合体の概略構成を示す断面図である。
【図4】図4は、第1実施例にかかるガス拡散層の概略構成を模式的に示す平面図である。
【図5】図5は、第2実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。
【図6】図6は、第2実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、第2実施例にかかる膜電極ガス拡散層接合体の概略構成を示す断面図である。
【図8】図8は、第3実施形態における孔のピッチを説明する模式図である。
【図9】図9は、第4実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。
【図10】図10は、第4実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図11A】図11Aは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図11B】図11Bは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図11C】図11Cは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図11D】図11Dは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図11E】図11Eは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図11F】図11Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図12A】図12Aは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図12B】図12Bは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図12C】図12Cは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図12D】図12Dは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図12E】図12Eは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図12F】図12Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大平面図である。
【図13A】図13Aは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図13B】図13Bは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図13C】図13Cは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図13D】図13Dは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図13E】図13Eは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図13F】図13Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14A】図14Aは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14B】図14Bは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14C】図14Cは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14D】図14Dは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14E】図14Eは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図14F】図14Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の一例を示す拡大断面図である。
【図15】図15は、第5実施形態にかかる燃料電池の概略構成の一例を示す断面模式図である。
【図16】図16は、第5実施形態における孔の形成および孔の内部の親水化の方法の一例を示す概念図である
【図17A】図17Aは、UVレーザを用いて孔を形成した場合におけるガス拡散層断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図17B】図17Bは、ニードルを用いて孔を形成した場合におけるガス拡散層断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、第6実施例(Laser)と第7実施例(Needle)と第3比較例(Ref.)とにおける、表面のフッ素濃度プロファイルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0012】
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層は、カーボンペーパなどの基材を用いたガス拡散層に比べ、透気度(air permeance)が低い。このため、触媒層(電極)で発生する水分が、ガス拡散層を通って拡散しにくく、電解質膜および触媒層は乾燥しにくくなる。このことから、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層は、電極に供給されるガスの露点を燃料電池の温度よりも低くして運転する、いわゆる低加湿運転に適していることが分かった。低加湿運転は、加湿器を不要にし、あるいは、加湿器を小型化できる点で好ましい。
【0013】
このように、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層は、透気度が低く、電解質膜が乾燥しにくいことから、もっぱら低加湿運転を前提として開発されてきた。しかしながら本発明者らは、かかるガス拡散層を用いた燃料電池について起動停止等の過酷な条件で運転を繰り返すと、ガス拡散層が変形する場合があることに気づいた。その原因について検討した結果、例えば、燃料電池の温度が室温程度と低い状態から起動させる際に、特にガス拡散層が変形しやすいことが判明した。その理由は、以下の通りと考えられる。
【0014】
すなわち、燃料電池のカソード側の触媒層において、アノード側から高分子電解質膜を通過して到達したプロトンと、カソード側のガス拡散層を通じて供給される酸素との間で化学反応が起こる。この反応により、水分子が複数個結合した微粒子、いわゆるミストが生成される。ミストは、拡散によって触媒層からガス拡散層に移動する。燃料電池の温度が低い場合には、ミストの運動エネルギーは低い。このため、ミストの一部は、触媒層とガス拡散層との境界において、ガス拡散層に付着する。該付着したミストを核として、次々にミストが凝集し、その結果、触媒層とガス拡散層との境界に、局所的に液体の水が溜まる領域が生じる。水の溜まった領域は水圧を発生し、該水圧によりガス拡散層が押し上げられ、ガス拡散層が触媒層から剥離し変形する。かかる変形が進むと、ガス拡散層が破れて触媒層がガス流路に露出し、電解質膜の乾燥と劣化が加速する場合もある。
【0015】
すなわち、従来より、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層を燃料電池に用いた場合には、低加湿運転が行われるため、燃料電池内部での水過剰は発生せず、触媒層とガス拡散層との境界で発生した水の排出を考慮する必要もないと考えられてきた。しかしながら、本発明者らの検討により、低加湿運転が行われる場合であっても、例えば、起動時に燃料電池の温度が室温程度と低い場合には、触媒層とガス拡散層との境界で発生した水がガス拡散層の変形等の問題を引き起こすことが判明した。かかる知見は、従来にない新規なものである。
【0016】
かかる新規な課題の発見を端緒として、本発明者らは更に検討を加えた。その結果、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層においても、ガス拡散層の主面から延びる孔(hole)を複数形成することにより、ガス拡散層が変形する可能性を低減できることを見出した。
【0017】
孔は、ガス拡散層の厚み方向に延びる孔であってもよい。孔は、ガス拡散層の主面に垂直に延びる孔でもよい。孔は、該主面に対して斜め方向に延びる孔であってもよい。孔は、ガス拡散層を貫通してもよい。孔は、ガス拡散層を貫通していなくてもよい。孔によって、ガス拡散層と触媒層との境界からの水の排出が促進される。よって、例えば、ガス拡散層と触媒層との境界で液水の溜まる部分が形成されにくくなり、ガスが均一に拡散しやすくなって、燃料電池の発電性能が向上する。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成されている。
【0020】
「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材とすることなく、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を製造する場合、例えば、後述するように界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれてもよいことも意味する。
【0021】
燃料電池用ガス拡散層には、流路が形成されていてもよい。すなわち、燃料電池用ガス拡散層の2つの主面のうち、触媒層側と反対側の面には、流路等の凹凸が形成されていてもよい。
【0022】
「多孔質部材」とは、当該部材が、ガス拡散層を燃料電池に用いることができる程度に、ガス(燃料ガス、酸化剤ガス等)を透過させる能力を有することを意味する。
【0023】
燃料電池用ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とが面方向に均質に分散されてなる母体(基質:matrix)で構成され(comprise)てもよい。「面方向」とは、ガス拡散層が延在(extend)する方向をいう。「面方向に均質に分散されてなる」とは、例えば、導電性粒子と高分子樹脂とが面方向に実質的に均質に分布した状態をいう。厚み方向には均質であってもなくてもよい。すなわち、厚み方向に積層された複数の層が形成され、それぞれの層の内部では導電性粒子と高分子樹脂とが面方向に実質的に均質に分布しており、それぞれの層の間では密度および組成等が異なっていてもよい。例えば、導電性粒子と高分子樹脂とが混練された上で成形される場合等を指すが、製法は特に限定されない。より具体的には、例えば、炭素繊維を基材として含まないことをいう。あるいは例えば、炭素繊維を基材として含まず、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分として構成されることをいう。あるいは例えば、炭素繊維を基材として含まず、導電性粒子と高分子樹脂とで支持される構造を持つことをいう。以上の点は、他の実施形態においても同様である。
【0024】
上記燃料電池用ガス拡散層において、孔は、燃料電池用ガス拡散層を貫通するように形成されていてもよい。
【0025】
第1実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練して均質な混練物を得て、混練物を圧延および成形してシート状混練物を得て、シート状混練物を、第1熱処理温度で熱処理してシート状混練物から界面活性剤と分散溶媒とを除去した第1層を得て、第1層に、第1層を貫通する孔を複数形成すること、を含む。
【0026】
[装置構成]
図1は、第1実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。以下、図1を参照しつつ、第1実施形態のガス拡散層100について説明する。
【0027】
図1に例示するように、ガス拡散層100は、第1層10を備える。第1実施形態は、ガス拡散層が単一の層で形成されている場合を説明する。
【0028】
第1層10は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される。第1層10には、燃料電池用ガス拡散層100の主面から延びる孔12が複数形成されている。孔12は、第1層10を貫通するように形成されている。
【0029】
第1層10は、導電性粒子と高分子樹脂とがガス拡散層100の面方向に均質に分散されてなる母体で構成されてもよい。
【0030】
ガス拡散層100は、例えば、基材として炭素繊維等を用いないガス拡散層(いわゆる、基材レスGDL)として形成されうる。
【0031】
孔12の形状、数、大きさ、および配置等は特に限定されない。孔12は、例えば、略直線状の形状(直径が一定の筒状)を有していてもよい。孔12は、第1層10を貫通するように形成されている。すなわち本実施形態では、孔12は、第1層10を貫通する貫通孔である。
【0032】
孔12は、開口部の形状が円形、楕円形、三角形、および四角形等であっておよい。孔12は、例えば、第1層10を斜めに貫通していてもよい。孔12は、例えば、第1層10の一方の面における開口部が、第1層10の他方の面における開口部よりも大きくてもよい。孔12は、例えば、テーパ形状であってもよい。
【0033】
孔12の開口部の最も長い部分は、例えば30μm以上500μm以下でもよいし、50μm以上250μm以下でもよいし、100μm以上230μm以下でもよい。
【0034】
孔12の開口部が略円形の場合、直径は、例えば30μm以上500μm以下でもよいし、50μm以上250μm以下でもよいし、100μm以上230μm以下でもよい。
【0035】
孔12の開口部の合計面積を第1層10の面積の5%以下とすることで、ガス拡散層100の保湿性および強度を好適なものとすることができる。孔12の開口部の合計面積を第1層10の面積の1%以下とすることで、ガス拡散層100の保湿性および強度をさらに好適なものとすることができる。第1層10の面積とは、第1層10の主面の面積をいう。
【0036】
孔12は、例えば、隣接する列の周期が一致する格子状(grid alignment)に分布してもよいし、隣接する列の周期が半分ずれている千鳥状(zig−zag alignment)に分布してもよい。孔12は、必ずしも第1層10の全面に形成されている必要はなく、第1層10の主面の一部にのみ形成されていてもよい。孔12の配列方向は、必ずしもガス流路と平行または垂直でなくてもよい。孔12は、例えば、隣接する孔12同士の距離(孔12の中心同士の距離)が0.3mm以上10mm以下であってもよい。同距離は、0.5mm以上5mm以下であってもよい。同距離は、1mm以上3mm以下であってもよい。
【0037】
孔12の形成方法は特に限定されない。具体的には例えば、金属等からなるニードルを突き刺すことで孔12が形成されてもよい。あるいは例えば、UVレーザやCOレーザ等のレーザを用いて孔12が形成されてもよい。あるいは例えば、第1層10を成形する際に用いられる型枠に貫通部材が設けられており、かかる型枠に材料を流し込むことで孔12が形成されてもよい。すなわち、孔12は、第1層10の形成と同時に形成されてもよいし、第1層10が形成された後に形成されてもよい。
【0038】
第1層10の厚みは、例えば、100μm以上1000μm以下とすることができる。第1層10の厚みが100μm以上であれば、第1層10の機械強度が大きくなる。第1層10の厚みが1000μm以下であれば、第1層10の電気抵抗が小さくなる。
【0039】
導電性粒子としては、例えば、炭素微粉末を用いることができる。炭素微粉末としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維微粉末等のカーボン材料が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカン等が挙げられる。炭素繊維微粉末としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーなどが挙げられる。導電性粒子として、これらの材料を単独で使用してもよく、また、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。カーボン材料の原料形態としては、粉末状、繊維状、粒状等のいずれの形状でもよい。
【0040】
カーボンブラックと炭素繊維を混合すると、ガス拡散層の製造コスト、電気伝導性、および強度を向上させることができる。さらに、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用いると、不純物含有量を低減し、電気伝導性をさらに向上させることができる。
【0041】
高分子樹脂としては、例えば、フッ素樹脂を用いることができる。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等が挙げられる。
【0042】
フッ素樹脂としてPTFEを用いると、耐熱性、撥水性、および、耐薬品性を向上させることができる。PTFEの原料としては、ディスパージョンおよび粉末状の形状があげられる。ディスパージョンを用いると、作業性を向上させることができる。
【0043】
高分子樹脂は、導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有しうる。第1層10における高分子樹脂の含有量が5重量%以上であると、高分子樹脂がバインダーとしての機能を効果的に奏する。第1層10を均一な厚さにするために圧延プロセスが採用される場合がある。第1層10における高分子樹脂の含有量が50重量%以下であると、該圧延プロセス時の条件を簡易にすることができる。第1層10における高分子樹脂の含有量が30重量%以下であると、該圧延プロセス時の条件をさらに簡易にすることができる。
【0044】
第1層10は、孔12が形成されていない状態における透気抵抗度(air resistance)が100秒以上であってもよい。透気抵抗度とは、単位面積および単位圧力差当たり、規定された体積(100mL)の空気が透過するのに要する時間である。本明細書における透気抵抗度はJIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)により求める。JIS−P8177:2009は、適用可能な透気抵抗度の範囲に制限がない他は、ISO5636−5:2003と同一である。なお、上記規格のうち、B型の装置を用いることとし、最初の50mlの標線を通過したときに測定を開始するものとする。
【0045】
第1層10は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材であってもよい。第1層10は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が導電性粒子として添加された多孔質部材で構成されていてもよい。多孔質部材は、炭素繊維を2.0重量%以上7.5重量%以下含んでいてもよい。多孔質部材は、高分子樹脂を10重量%以上17重量%以下含んでいてもよい。第1層10は、基材を含まない構成とすることができる。
【0046】
本明細書において、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材とすることなく、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を製造する場合、例えば、後述するように界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれてもよいことも意味する。
【0047】
第1層10の多孔度は、42%以上60%以下であってもよい。
【0048】
以下、本明細書におけるガス拡散層の多孔度の測定方法(算出方法)について説明する。まず、ガス拡散層を構成する各材料の真密度と組成比率から、製造したガス拡散層の見かけ真密度を算出する。次いで、製造したガス拡散層の重量、厚さ、縦横寸法を測定して、製造したガス拡散層の密度を算出する。次いで、多孔度=(ガス拡散層の密度)/(見かけ真密度)×100の式に、前記算出したガス拡散層の密度及び見かけ真密度を代入し、多孔度を算出する。以上のようにして、製造したガス拡散層の多孔度を測定することができる。
【0049】
第1層10には、高分子樹脂および導電性粒子以外に、分散溶媒および界面活性剤等が含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール、およびエタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤、アルキルアミンオキシド等の両性イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
第1層10における分散溶媒および界面活性剤の含有量は、第1層10を構成する導電性粒子および高分子樹脂の種類、高分子樹脂と導電性粒子の配合比等により適宜選択可能である。一般的には、分散溶媒および界面活性剤の含有量が多いほど、高分子樹脂と導電性粒子とが均一に分散しやすい。分散溶媒および界面活性剤の含有量を一定以下にすると、流動性が高くなり過ぎず、シート化を容易にすることができる。
【0051】
第1層10には、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が含まれていてもよい。
【0052】
ガス拡散層100は、第1層10以外の層を含んでいてもよい。
【0053】
ガス拡散層100は、カソード側のガス拡散層として用いてもよいし、アノード側のガス拡散層として用いてもよいし、カソード側およびアノード側の両方のガス拡散層として用いてもよい。発電反応によって生じる水は、主としてカソード側で発生するが、水は電解質膜を通過する。よって、流路の構成およびガスの露点等を適宜に選択することで、カソードおよびアノードのいずれの側においても、孔12を通じた排水を実現しうる。
【0054】
本実施形態は、電解質膜と、電解質膜の一方の主面に接するアノード触媒層と、電解質膜の他方の主面に接するカソード触媒層と、アノード触媒層の主面のうち、電解質膜側と異なる側の主面に接するアノード側ガス拡散層と、カソード触媒層の主面のうち、電解質膜側と異なる側の主面に接するカソード側ガス拡散層と、を備え、アノード側ガス拡散層およびカソード側ガス拡散層の少なくとも一方が、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成され、該孔がガス拡散層を貫通するように形成されている、膜電極ガス拡散層接合体として実施されてもよい。
【0055】
本実施形態は、電解質膜と、電解質膜の一方の主面に接するアノード触媒層と、電解質膜の他方の主面に接するカソード触媒層と、アノード触媒層の主面のうち、電解質膜側と異なる側の主面に接するアノード側ガス拡散層と、カソード触媒層の主面のうち、電解質膜側と異なる側の主面に接するカソード側ガス拡散層と、を備え、アノード側ガス拡散層およびカソード側ガス拡散層の少なくとも一方が、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成され、該孔がガス拡散層を貫通するように形成されている、燃料電池として実施されてもよい。
【0056】
高分子電解質膜は、水素イオン伝導性を有する高分子膜であってもよい。高分子電解質膜の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形状とすることができる。高分子電解質膜の材料は、水素イオンを選択的に移動させるものであってもよい。
【0057】
高分子電解質膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)など)や各種炭化水素系電解質膜を使用できる。
【0058】
触媒層は、水素または酸素の酸化還元反応に対する触媒を含む層であってもよい。触媒層は、導電性を有し、かつ水素および酸素の酸化還元反応に対する触媒能を有するものであってもよい。触媒層の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形状とすることができる。
【0059】
触媒層は、例えば、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料とを主成分とした多孔質な部材から構成される。触媒層に用いるプロトン導電性高分子材料は、上記高分子電解質膜と同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0060】
ガス拡散層100は、低加湿運転に好適に用いられるが、高加湿運転に用いてもよい。すなわち、ガス拡散層100が用いられる燃料電池システムには、燃料電池に供給されるガスを加湿する加湿器が設けられていてもいなくてもよい。
【0061】
第1層10は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されることから、孔12以外の部分における第1層10の透気抵抗度は低い。燃料電池のカソード側の触媒層中に存在するミストを含むガスは、孔12が存在しない場合と同様に、ガス拡散層100を通過することが困難となる。そのため、燃料電池に供給されるガスに含まれる水蒸気の露点が燃料電池の温度に比して低い場合であっても、ガス拡散層100を備える燃料電池は高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することができる。
【0062】
一方、過剰な水分は、孔12を通じて適宜に排出されることから、触媒層とガス拡散層10との境界において、局所的に液体の水が溜まる領域が生じる可能性が低減される。よって、水の溜まった領域が発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられる可能性が低減され、ガス拡散層が触媒層から剥離し変形する可能性が低減する。
【0063】
[製造方法]
図2は、第1実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下、図2を参照しつつ、第1実施形態のガス拡散層100の製造方法について説明する。
【0064】
第1層10は、高分子樹脂と導電性粒子とを含む混合物を混練して、押出し、圧延してから、焼成することにより製造することができる。
【0065】
具体的には例えば、まず、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練することで、混練物が得られる(ステップS101)。混練物における導電性粒子の含有量は、例えば、10重量%以上、かつ50重量%以下とすることができる。混練物における高分子樹脂の含有量は、例えば、1重量%以上、かつ、20重量%以下とすることができる。
【0066】
混練物の原料となる分散溶媒としては、例えば、水、メタノールおよびエタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。これらの中でも水を用いると、コストを低減でき、環境負荷も低減できる。
【0067】
混練物における分散溶媒の含有量は、例えば、30重量%以上、かつ、88重量%以下とすることができる。
【0068】
混練物の原料となる界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。具体的には例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系、アルキルアミンオキシド等の両性イオン系が挙げられる。界面活性剤の除去および金属イオンによる触媒被毒防止という観点からは、界面活性剤として非イオン系界面活性剤を用いてもよい。非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0069】
混練物における界面活性剤の含有量は、例えば、0.1重量%以上、かつ、5重量%以下とすることができる。
【0070】
混練物における分散溶媒および界面活性剤の含有量は、導電性粒子および高分子樹脂の種類、高分子樹脂と導電性粒子の配合比等により適宜選択可能である。一般的には、分散溶媒および界面活性剤の含有量が多いほど、高分子樹脂と導電性粒子とが均一に分散しやすい。分散溶媒および界面活性剤の含有量を一定以下にすると、流動性が高くなり過ぎず、シート化を容易にすることができる。
【0071】
より詳細には、導電性粒子と分散溶媒と界面活性剤とを攪拌混錬機に投入後、混錬し、粉砕および造粒して、導電性粒子を分散溶媒中に分散させる。ついで、高分子樹脂をさらに攪拌混錬機に投下して、攪拌および混錬して、導電性粒子と高分子樹脂とを分散溶媒中に分散させる。かかる方法により、混練物が得られる。
【0072】
次に、得られた混錬物を圧延して成形してシート状混錬物が得られる(ステップS102)。シート状混練物とは、シート状の形状を有するように圧延および成形された混練物をいう。圧延および成形には、例えば、ロールプレス機又は平板プレス機などを用いることができる。シート状混練物の厚みは、第1層の厚みが所望の値となるように、適宜に調整されうる。
【0073】
次に、得られたシート状混練物を熱処理して、分散溶媒と界面活性剤とを除去することで、第1層10が得られる(ステップS103)。シート状混錬物の熱処理は、例えば、焼成炉、電気炉、およびガス炉等で行うことができる。以下、シート状混錬物の熱処理における加熱温度を、第1熱処理温度と呼ぶ。
【0074】
第1熱処理温度は摂氏260度以上とすることができる。第1熱処理温度を摂氏260度以上とすることで、量産性を確保できる速さでシート状混練物中から界面活性剤を除去することが容易になる。
【0075】
第1熱処理温度は、混練物の原料となる高分子樹脂の融点以下とすることができる。第1熱処理温度を混練物の原料となる高分子樹脂の融点以下とすることで、高分子樹脂が融解しにくくなり、構造体としての強度が低下しにくくなり、シート形状が崩れにくくなる。
【0076】
高分子樹脂としてPTFEを用いる場合、高分子樹脂の融点は摂氏330度以上摂氏350度以下であり、第1熱処理温度での熱処理における温度を摂氏260度以上摂氏330度以下としてもよい。
【0077】
熱処理における加熱温度と加熱時間は、界面活性剤と分散溶媒とがシート状混練物から十分に除去され、かつ、高分子樹脂の結晶化が進行する温度および時間に設定してもよい。界面活性剤および分散溶媒の残存量は、例えば、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)等の分析結果により測定可能である。残存量は、第1層10の全重量に対して1重量%以下としてもよい。残存量は、第1層10の厚みと熱処理温度と時間とを調整することで、適宜制御できる。
【0078】
次に、第1層10に、第1層10を貫通する孔12を複数形成する(ステップS104)。孔12の形成方法は特に限定されない。具体的には例えば、金属等からなるニードルを突き刺すことで孔12が形成されてもよい。あるいは例えば、UVレーザやCOレーザ等のレーザを用いて孔12が形成されてもよい。あるいは例えば、第1層10を成形する際に用いられる型枠に貫通部材が設けられており、かかる型枠に材料を流し込むことで孔12が形成されてもよい。すなわち、孔12は、第1層の形成と同時に形成されてもよいし、第1層が形成された後に形成されてもよい。換言すれば、ステップS104は、ステップS102およびステップS103と同時進行的に実行されてもよい。
【0079】
[第1実施例]
第1実施例では、第1実施形態のガス拡散層を用いた膜電極ガス拡散層接合体を作製し、発電試験を行った。
【0080】
図3は、第1実施例にかかる膜電極ガス拡散層接合体の概略構成を示す断面図である。図3に示すように、第1実施例の膜電極ガス拡散層接合体は、高分子電解質膜20のカソード側の主面上にカソード触媒層18が設けられ、高分子電解質膜20のアノード側の主面上にアノード触媒層22が設けられ、カソード触媒層18の高分子電解質膜20とは反対側の主面上にガス拡散層100が設けられ、アノード触媒層22の高分子電解質膜20とは反対側の主面上にガス拡散層24が設けられている。
【0081】
ガス拡散層100は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層10を有し、第1層10に、第1層10を貫通する孔12が複数形成されている。ガス拡散層24は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、ガス拡散層24に孔は形成されていない。
【0082】
第1実施例では、以下の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0083】
すなわち、電極触媒である白金粒子をカーボン粉末上に担持させてなる触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製のTEC10E50E、50質量%がPt)と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(ソルベイソレクシス(株)製のアクイヴィオン、D79−20BS)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてカソード触媒層形成用インクを調製した。高分子電解質は、塗布形成後の触媒層中の高分子電解質の質量が、触媒担持カーボンの質量の0.4倍となるように添加した。
【0084】
得られたカソード触媒層形成用インクを、高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス(株)製のGSII、150mm×150mm)の一方の面に、スプレー法によって塗布し、白金担持量が0.3mg/cmとなるようにカソード触媒層を形成した。
【0085】
上記触媒層塗布時には、140mm×140mmに打ち抜かれた基材(PET)をマスクとして利用した。
【0086】
つぎに、電極触媒である白金ルテニウム合金(白金:ルテニウム=1:1.5モル比(物質量比))粒子をカーボン粉末上に担持させてなる触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製のTEC61E54、50質量%がPt−Ru合金)と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(ソルベイソレクシス(株)製のアクイヴィオン、D79−20BS)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてアノード触媒層形成用インクを調製した。高分子電解質は、塗布形成後の触媒層中の高分子電解質の質量が、触媒担持カーボンの質量の0.4倍となるように添加した。
【0087】
得られたアノード触媒層形成用インクを、高分子電解質膜のカソード触媒層が形成された面とは反対側の他方の面に、スプレー法によって塗布し、単層構造を有しかつ白金担持量が0.2mg/cmとなるようにアノード触媒層を形成した。
【0088】
マスクの形状および使用方法は、上記カソード触媒層作製時と同様とした。
【0089】
第1実施例では、以下の方法で、ガス拡散層を作製した。
【0090】
アセチレンブラック(電気化学工業製、デンカブラック)50gと、グラファイト(和光純薬工業製)80gと、VGCF(昭和電工製、繊維径0.15μm)3gと、界面活性剤(トライトンX)4gと、水200gとを、ミキサーに投入し、混練した。続いて、ミキサーにPTFEディスパージョン(旭硝子製、AD911、固形分比60重量%)25gを投入し、さらに5分間攪拌して混練物を得た。得られた混練物をミキサーの中から20g取り出し、延伸ロール機(ギャップ600μm)にて、厚み600μmのシート状混練物を得た。この後、シート状混練物を焼成炉にて300℃で2時間熱処理し、混練物中の界面活性剤と水とを除去した。界面活性剤と水とを除去したシート状混練物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機(ギャップ400μm)にて圧延して厚さ調整および厚さバラつきの低減を行ったのち、14cm角に裁断した。このようにして厚さ400μmのゴム状の第1層が作製された。
【0091】
第1層の透気抵抗度を、JIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)のB型装置により測定した結果、850秒であった。
【0092】
カソード用ガス拡散層については、上記方法で得られた第1層に対し、カンタル線(鉄、クロム、アルミニウム合金)からなるニードルを完全に突き刺すことで、直径230μmの貫通孔を形成した。
【0093】
図4は、第1実施例にかかるガス拡散層の概略構成を模式的に示す平面図である。図4に示すように、第1実施例のガス拡散層は、第1層10に、孔12が千鳥状(zig−zag alignment)に配置されるように形成された。
【0094】
貫通孔のピッチは約3mmとし、隣接する貫通孔までの距離がいずれも約3mmとなるように配置した。貫通孔の密度は、1cmあたり11個であった。貫通孔の開口面積は、第1層の面積1cmあたり、0.0046cmであった。貫通孔の開口部の合計面積は、第1層の面積の0.46%であった。
【0095】
アノード用ガス拡散層については、貫通孔を形成せずに、第1層をそのまま利用した。
【0096】
以上のように作製した、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層を、上記方法で作製した膜電極接合体に当接させ、120℃、6kgf/cmで5分間ホットプレスを行い、触媒層とガス拡散層とを接合させることにより、第1実施例の膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0097】
[第1比較例]
第1比較例では、カーボンクロスを備えるガス拡散層を用いた膜電極ガス拡散層接合体を作製し、発電試験を行った。
【0098】
第1比較例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0099】
第1比較例では、以下の方法で、ガス拡散層を作製した。
【0100】
厚みが270μmのカーボンクロス(三菱化学(株)製のSK−1)を、フッ素樹脂含有の水性ディスパージョン(ダイキン工業(株)製のND−1)に含浸した後、乾燥することで上記カーボンクロスに撥水性を付与した(撥水処理)。続いて、撥水処理後のカーボンクロスの一方の面(全面)に撥水カーボン層を形成した。導電性カーボン粉末(電気化学工業(株)製のデンカブラック(商品名))と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粉末を分散させた水溶液(ダイキン工業(株)製のD−1)とを混合し、撥水カーボン層形成用インクを調製した。この撥水カーボン層形成用インクを、ドクターブレード法(Doctor Blade Technique)によって、上記撥水処理後のカーボンクロスの一方の面に塗布し、撥水カーボン層を形成した。その後、撥水処理および撥水カーボン層形成後のカーボンクロスを、350℃で30分間焼成することで、カーボンクロスを備えるガス拡散層を得た。
【0101】
カーボンクロスを備えるガス拡散層の透気抵抗度を、JIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)のB型装置により測定した結果、0.4秒であった。
【0102】
第1比較例では、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層は、同一の方法で作製した。
【0103】
以上のように作製した、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層を、上記方法で作製した膜電極接合体に当接させ、120℃、6kgf/cmで5分間ホットプレスを行い、触媒層とガス拡散層とを接合させることにより、第1比較例の膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0104】
[第2比較例]
第2比較例では、第1実施例と同様の方法で得られた第1層に貫通孔を形成せずにガス拡散層を作製し、これを用いて膜電極ガス拡散層接合体を作製し、発電試験を行った。
【0105】
第2比較例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0106】
第2比較例では、第1実施例と同様の方法で、第1層を作製した。
【0107】
第1層の透気抵抗度を、JIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)のB型装置により測定した結果、777秒であった。
【0108】
第2比較例では、カソード用ガス拡散層およびアノード用ガス拡散層の両方とも、上記第1層を、貫通孔を形成せずにそのまま利用した。
【0109】
以上のように作製した、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層を、上記方法で作製した膜電極接合体に当接させ、120℃、6kgf/cmで5分間ホットプレスを行い、触媒層とガス拡散層とを接合させることにより、第2実施例の膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0110】
[発電試験]
第1実施例と第1比較例と第2比較例のそれぞれで得られた膜電極ガス拡散層接合体を用いて燃料電池を作製した。膜電極ガス拡散層接合体を、燃料ガス供給用のガス流路および冷却水流路を有するセパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するセパレータとで挟持し、両セパレータ間でカソードおよびアノードの周囲にフッ素ゴム製のガスケットを配置し、有効電極(アノードまたはカソード)面積が196cmである単電池を得た。
【0111】
第1実施例と第1比較例と第2比較例とのそれぞれについて得られた単電池の温度を摂氏65度に維持し、アノード側のガス流路に燃料ガスとして水素ガスと二酸化炭素との混合ガス(水素ガス75%、二酸化炭素25%)を供給し、カソード側のガス流路に空気を供給した。水素ガス利用率は70%、空気利用率は40%とした。燃料ガスおよび空気は、いずれも露点が摂氏約65度となるように加湿してから単電池に供給した。
【0112】
まず、それぞれの単電池を電流密度0.2A/cmで12時間発電させることで、単電池のエージング(活性化処理)を行った。
【0113】
その後、以下のように室温起動を行った。まず、各単電池について、発電を停止させ、単電池の温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点を摂氏約65度としてアノードに供給し、空気は加湿せずに乾燥した状態の空気(露点=摂氏零下[マイナス]45度)をカソードに供給し、各単電池について、電流密度0.25A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後に単電池の温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時の単電池の温度が室温であるため、室温起動と呼ぶ。
【0114】
初回の室温起動後、発電を4時間継続させ、その後で電圧を測定した。また、該室温起動を100回繰り返した後、発電試験を終了し、燃料電池を解体し、カソード側のガス拡散層が触媒層から剥離している箇所の数を確認した。なお、剥離している箇所とは、ガス拡散層が触媒層から若干浮いた状態になっている部分を指す。いずれのサンプルについても、アノード側では、ガス拡散層が剥離している箇所は見つからなかった。
【0115】
発電試験の結果を、表1に示す。
【0116】
【表1】
表1に示すように、第1実施例と第1比較例と第2比較例とで、単電池の電圧はそれぞれ、748mV、720mV、749mVであり、第1実施例と第2比較例とはほぼ等しく、第1比較例よりも電圧は高かった。これは、カーボンクロスを用いた第1比較例よりも、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層を有する第1実施例および第2比較例の方が、電解質膜の乾燥をより効果的に防ぐことができ、発電効率が向上したためと考えられる。
【0117】
表1に示すように、第1実施例と第1比較例と第2比較例とで、剥離箇所の数はそれぞれ、8、0、67であり、第1実施例と第1比較例とはほぼ等しく、第2比較例よりも剥離箇所の数は大幅に少なかった。これは、透気抵抗度の高い第1層からなり貫通孔を有しない第2比較例よりも、透気抵抗度の高い第1層からなり貫通孔を有する第1実施例および透気抵抗度の低い第1比較例の方が、触媒層とガス拡散層との境界において、局所的に液体の水が溜まる領域が生じにくくなり、水の溜まった領域が発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられにくくなったためと考えられる。
【0118】
以上まとめると、第1実施例では、電圧については第2比較例と同程度の良好な結果を示し、剥離箇所の数については第1比較例と同程度の良好な結果を示した。すなわち、第1実施例のガス拡散層は、低加湿運転と室温起動との組合せにおいて、高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することと、ガス拡散層が触媒層から剥離し変形する可能性を低減することという、相反する課題を同時に解決できることが分かった。
【0119】
(第2実施形態)
第2実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、第1実施形態およびその変形例の燃料電池用ガス拡散層であって、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層と接するように形成され、第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、孔は、第1層および第2層を貫通するように形成されている。
【0120】
第2実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、第1実施形態およびその変形例の燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、さらに、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混ぜて均質な分散液を得て、孔を形成する前の第1層上に分散液を塗工および乾燥して第1層よりも薄い分散液層を形成し、分散液層が形成された第1層を、第1熱処理温度よりも低い第2熱処理温度で熱処理して分散液層から界面活性剤と分散溶媒とを除去して、第1層の上に第1層よりも撥水性の高い第2層を得て、第1層に孔を形成する時に、孔が第2層をも貫通するように孔を形成すること、を含む。
【0121】
第2層は第1層に比して撥水性が高い。発電反応により生成されたミストは、第2層に付着しにくい。このため、第2層の中のミストは、第1層の中よりもスムーズに移動することができる。かかる第2層が触媒層と第1層との間に存在することにより、第2層内において、高分子電解質膜の主面と平行な方向(面方向)のミストの移動が促進され、また、触媒層から第1層と第2層との境界、もしくは第1層に移動するミストの量が少なくなる。
【0122】
起動時等、燃料電池の温度が低い場合には、ミストの運動エネルギーが低い。そのため、第2層内を移動するミストの一部が、第1層と第2層との境界において、第1層に付着しやすくなる。第1層と第2層との境界付近に存在するミストは、第1層に付着しているミストを核として次々に凝集し、その結果、第1層と第2層との境界に局部的に水が溜まる領域が形成される。第2実施形態のガス拡散層は、第1層および第2層を貫く孔を有している。上記領域に存在する水を、孔を通じてガス拡散層の外部に排出することができるため、水圧によりガス拡散層が変形する可能性をさらに低減できる。
【0123】
[装置構成]
図5は、第2実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。以下、図5を参照しつつ、第2実施形態のガス拡散層200について説明する。
【0124】
図5に例示するように、ガス拡散層100は、第1層10と第2層14とを備える。すなわち、第2実施形態は、ガス拡散層が2つの層で形成されている場合を説明する。
【0125】
ガス拡散層200は、例えば、基材として炭素繊維等を用いないガス拡散層(いわゆる、基材レスGDL)として形成されうる。
【0126】
第1層10は、これを貫通する孔の符号が12から16に変更されている点を除き、第1実施形態と同様とすることができる。よって、詳細な説明を省略する。
【0127】
第2層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層10と接するように形成され、第1層10よりも撥水性が高い。
【0128】
第2層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材であってもよい。第2層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とし、高分子樹脂よりも少ない重量の炭素繊維が導電性粒子として添加された多孔質部材で構成されていてもよい。多孔質部材は、炭素繊維を2.0重量%以上7.5重量%以下含んでいてもよい。多孔質部材は、高分子樹脂を10重量%以上17重量%以下含んでいてもよい。第2層14は、基材を含まない構成とすることができる。
【0129】
第2層14の多孔度は、42%以上75%以下であってもよい。
【0130】
ガス拡散層200を燃料電池に使用する場合には、第2層14は、触媒層と接するように配置されうる。第1層は、セパレータと接するように配置されうる。
【0131】
導電性粒子および高分子樹脂については、第1実施形態と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0132】
撥水性は、表面に液水を滴下した際の水滴の接触角に基づいて評価することができる。すなわち、接触角が大きいほど、撥水性は高い。接触角=180°のとき、全く濡れず、撥水性は最大となる。接触角=0°のとき、完全に濡れ、撥水性は最小となる。撥水性に影響する要素としては、層を構成する材料の疎水性−親水性と、層を構成する材料の多孔度(表面積)とが考えられる。層を構成する材料が疎水性であれば、撥水性は大きくなると考えられる。層を形成する材料の多孔度が大きければ、撥水性は大きくなると考えられる。よって撥水性は、層の内部を通じてミストが移動しやすいか否かの指標となる。
【0133】
撥水性は、各層に含まれる高分子樹脂の含有量や、各層を構成する材料の多孔度(表面積)を変化させることで調整できる。例えば、第2層14における高分子樹脂の含有量を、第1層10におけるよりも大きくすること、および第2層14を第1層10よりも多孔度(表面積)の大きな材料で構成すること等により、第2層14の撥水性を、第1層10よりも高くすることができる。
【0134】
第2層14は第1層10より薄くてもよい。第2層14の厚みは、例えば、10μm以上100μm以下とすることができる。第2層14の厚みが10μm以上であれば、触媒層との接着強度をより確保しやすくなる。第2層14の厚みが100μm以下であれば、低い熱処理温度であっても、量産性を確保できる速さで界面活性剤を除去することができる。
【0135】
第2層14を構成する導電性粒子および高分子樹脂の組成は、第1層10を構成する導電性粒子および高分子樹脂の組成と異なっていてもよい。
【0136】
第2層14の高分子樹脂含有量は、第1層10の高分子樹脂量よりも高くてもよい。第2層14の高分子樹脂量含有量を高めることで、第2層14の撥水性が高まり、発電反応により生成されたミストが、第2層14により付着しにくくなる。よって、第2層14において、第1層10の中よりもミストがスムーズに移動できるようになる。
【0137】
第2層14には、高分子樹脂および導電性粒子以外に、分散溶媒および界面活性剤等が含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノールやエタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤、アルキルアミンオキシド等の両性イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0138】
第2層14における分散溶媒および界面活性剤の含有量は、第2層14を構成する導電性粒子および高分子樹脂の種類、高分子樹脂と導電性粒子の配合比等により適宜選択可能である。一般的には、分散溶媒および界面活性剤の含有量が多いほど、高分子樹脂と導電性粒子とが均一に分散しやすい。ただし、分散溶媒および界面活性剤の含有量を一定以下にすると、流動性が高くなり過ぎず、シート化を容易にすることができる。
【0139】
第2層14には、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒以外の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が含まれていてもよい。
【0140】
孔16は、第1層10および第2層14を貫通するように形成されている。すなわち本実施形態では、孔16は、第1層10および第2層14を貫通する貫通孔である。その他の点、例えば、形状、数、大きさ、配置、および形成方法等は、第1実施形態の孔12と同様とすることができる。よって、詳細な説明を省略する。
【0141】
[製造方法]
図6は、第2実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下、図6を参照しつつ、第2実施形態のガス拡散層200の製造方法について説明する。
【0142】
ステップS201〜S203については、第1実施形態のステップS101〜S103と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0143】
ステップS203で第1層10が得られると、以下の方法で、第2層14が形成される。
【0144】
まず、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混合することで、分散液が得られる(ステップS204)。より具体的には、例えば、界面活性剤と分散溶媒とを混合したものに、分散処理を加えた後、炭素微粉末とフッ素樹脂を添加してさらに分散処理を加える。なお、予め界面活性剤の分散処理は行わずに、界面活性剤を含む全ての材料を同時に分散処理しても良い。
【0145】
分散液の原料となる導電性粒子の材料としては、第1層10の原料となる導電性粒子の材料として上記に例示したものと同様のものを用いることができる。なお、混練物の原料となる導電性粒子と、分散液の原料となる導電性粒子の材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。分散液における導電性粒子の含有量は、例えば、1重量%以上、かつ30重量%以下とすることができる。
【0146】
分散液の原料となる高分子樹脂の材料としては、第1層10の原料となる高分子樹脂の材料として上記に例示したものと同様のものを用いることができる。なお、混練物の原料となる高分子樹脂と、分散液の原料となる高分子樹脂の材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。分散液における高分子樹脂の含有量は、例えば、0.1重量%以上、かつ10重量%以下とすることができる。
【0147】
分散液の原料となる界面活性剤の材料としては、第1層10の混練物の原料となる界面活性剤の材料として上記に例示したものと同様のものを用いることができる。尚、混練物の原料となる界面活性剤と、分散液の原料となる界面活性剤の材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。分散液における界面活性剤の含有量は、例えば、0.1重量%以上、かつ5重量%以下であることが望ましい。
【0148】
分散液の原料となる分散溶媒の材料としては、第1層10の原料となる分散溶媒の材料として上記に例示したものと同様のものを用いることができる。尚、混練物の原料となる分散溶媒と、分散液の原料となる分散溶媒の材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。分散液における分散溶媒の含有量は、例えば、55重量%以上、かつ98重量%以下であることが望ましい。
【0149】
次に、第1層10の上に分散液を塗工および乾燥して第1層よりも薄い分散液層を形成する(ステップS205)。分散液の塗工には、例えば、スプレー塗工法、スクリーン印刷法、およびダイ塗工法等、公知の印刷および塗布技術を用いることができる。乾燥方法としては、例えば、ホットプレートによる乾燥および乾燥炉による乾燥等を適用できる。
【0150】
次に、第1層10と分散液層とを熱処理して、界面活性剤と分散溶媒とを除去し、第1層10と第2層14との積層構造が得られる(ステップS206)。
【0151】
第1層10の上に形成された分散液層の熱処理は、例えば、電気炉、ガス炉、および遠赤外線加熱炉等で行うことができる。以下、分散液層の熱処理における加熱温度を、第2熱処理温度と呼ぶ。
【0152】
第2熱処理温度は、分散液の原料となる界面活性剤の分解温度以上とすることができる。例えば、第2熱処理温度は、摂氏220度以上とすることができる。第2熱処理温度を摂氏220度以上とすることで、量産性を確保できる速さで分散液層中から界面活性剤を除去することが容易になる。
【0153】
第2熱処理温度は、摂氏240度以上とすることができる。第2熱処理温度を摂氏240度以上とすることで、界面活性剤をカーボン層の1重量%以下まで除去することが容易になる。
【0154】
第2熱処理温度は、摂氏260度未満とすることができる。第2熱処理温度を摂氏260度未満とすることで、カーボン層表面の接着性の低下が抑えられ、触媒層との接着において、高い接着力が得られる。
【0155】
該熱処理は、空気中で行われてもよい。分散液層の熱処理では、例えば、界面活性剤を除去させるには十分であり、かつ、高分子樹脂の結晶化によって触媒層との接着性が低下しないように、材料、厚み、温度、時間などを設定してもよい。該熱処理により第2層14が形成される。
【0156】
なお、第2層14を形成する際の熱処理における加熱温度および加熱時間は、第1層10を作製する際の熱処理温度より低温とし、界面活性剤と分散溶媒とが分散液層から十分に除去され、かつ、高分子樹脂の結晶化が進行しにくい温度および時間としてもよい。すなわち、第2熱処理温度は第1熱処理温度より低くすることができる。界面活性剤および分散溶媒の残存量は、例えば、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)等の分析結果により測定可能である。残存量は、第2層14の全重量に対して1重量%以下としてもよい。残存量は、第2層14の厚みと熱処理温度と時間とを調整することで、適宜制御できる。
【0157】
このように作製することで、第2層14の多孔度(表面積)を、第1層10の多孔度(表面積)よりも高くすることができる。第2層の多孔度(表面積)を大きくすることで、第2層14における水の濡れ性が低下し、発電反応により生成されたミストが、第2層14に付着しにくくなる。よって、第2層14において、第1層10の中よりもミストがスムーズに移動できるようになる。このように、第2層14の多孔度(表面積)を大きくすることは、第2層14の高分子樹脂量を高めることと同様の効果を奏するといえる。
【0158】
次に、第1層10および第2層14を貫通する孔16を複数形成し、ガス拡散層が得られる(ステップS207)。孔16の形成方法は特に限定されない。具体的には例えば、金属等からなるニードルを突き刺すことで孔16が形成されてもよい。あるいは例えば、UVレーザやCOレーザ等のレーザを用いて孔16が形成されてもよい。あるいは例えば、第1層10および第2層14を成形する際に用いられる型枠に貫通部材が設けられており、かかる型枠に材料を流し込むことで孔16が形成されてもよい。すなわち、孔16は、第1層10および第2層14の形成と同時に形成されてもよいし、第2層14が形成された後に形成されてもよい。換言すれば、ステップS207は、ステップS102ないしステップS206と同時進行的に実行されてもよい。
【0159】
[第2実施例]
第2実施例では、第2実施形態のガス拡散層を用いた膜電極ガス拡散層接合体を作製し、発電試験を行った。
【0160】
図7は、第2実施例にかかる膜電極ガス拡散層接合体の概略構成を示す断面図である。図7に示すように、第2実施例の膜電極ガス拡散層接合体は、高分子電解質膜20のカソード側の主面上にカソード触媒層18が設けられ、高分子電解質膜20のアノード側の主面上にアノード触媒層22が設けられ、カソード触媒層18の高分子電解質膜20とは反対側の主面上にガス拡散層200が設けられ、アノード触媒層22の高分子電解質膜20とは反対側の主面上にガス拡散層250が設けられている。
【0161】
ガス拡散層200は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層10と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層10と接するように形成され、第1層10よりも撥水性の高い第2層14とを備え、第1層10および第2層14を貫通するように孔16が形成されている。第2層14は、カソード触媒層18と接触する。
【0162】
ガス拡散層250は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される層24と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、層24と接するように形成され、層24よりも撥水性の高い層26とを備え、層24および層26に孔は形成されていない。層26は、アノード触媒層22と接触する。
【0163】
第2実施例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0164】
第2実施例では、第1実施例と同様の方法で、第1層を作製した。
【0165】
次に、以下の方法で、第2層を作製した。
【0166】
水151gと、界面活性剤(トライトンX)1gを容器に投入し、自公転攪拌脱泡器にて界面活性剤の分散処理を行った。続いて、アセチレンブラック(電気化学工業製、デンカブラック)10gと、PTFEディスパージョン(旭硝子製、AD911、固形分比60重量%)5.5gとを容器に投入し、自公転攪拌脱泡器にてアセチレンブラックとPTFEの分散処理を行った。さらに、フィルター(SUS製、200メッシュ)を用いて粗大粒子を取り除いた後、自公転攪拌脱泡器を用いて脱泡処理を行うことで、分散液を得た。得られた分散液を、ホットプレート上に置かれた第1層の一方の面に、スプレー法によって塗布した。ホットプレート(60℃)により分散液のほぼ全量を乾燥により除去することで、分散液層を作製した。より具体的には、乾燥後の分散液層の重量が2.0mg/cmとなるように調整した。この後、分散液層が形成されたカーボンシートを、焼成炉にて240℃で2時間熱処理し、分散液層中の界面活性剤の除去を行うことにより、第2層を形成し、第1層の上に第2層が積層された積層体を得た。
【0167】
得られた積層体の透気抵抗度を、JIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)のB型装置により測定した結果、853秒であった。
【0168】
カソード用ガス拡散層については、上記方法で得られた積層体に対し、カンタル線(鉄、クロム、アルミニウム合金)からなるニードルを完全に突き刺すことで、直径230μmの貫通孔を形成した。
【0169】
第2実施例のガス拡散層は、第1実施例と同様、積層体に、貫通孔が千鳥状(zig−zag alignment)に配置されるように形成された。
【0170】
貫通孔のピッチは約3mmとし、隣接する貫通孔までの距離がいずれも約3mmとなるように配置した。貫通孔の密度は、1cmあたり11個であった。貫通孔の開口面積は、第1層の面積1cmあたり、0.0046cmであった。貫通孔の開口部の合計面積は、第1層の面積の0.46%であった。
【0171】
アノード用ガス拡散層については、貫通孔を形成せずに、積層体をそのまま利用した。
【0172】
以上のように作製した、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層を、上記方法で作製した膜電極接合体に当接させ、120℃、6kgf/cmで5分間ホットプレスを行い、触媒層とガス拡散層とを接合させることにより、第2実施例の膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0173】
撥水性については公知の濡れ性測定技術を用いて評価することができる。具体的には、濡れ性評価装置(DropMaster100、協和界面科学株式会社製)を用いて評価を行った。まず、第1層と第2層とを有するガス拡散層を3×5cmに切り出し、蒸留水の入ったビーカーにガス拡散層を浸漬させた状態で、真空容器に1時間放置し、ガス拡散層内に水を十分含浸させた後に、80℃にて4時間乾燥させ、濡れ状態を一定にした。次に、乾燥したガス拡散層は1cm角に切り出し、濡れ性評価装置の測定ステージにセットし、マイクロシリンジを用いて濡れ張力試験用混合液(濡れ張力27.3mN/m、和光純薬工業株式会社)を第1層および第2層ぞれぞれの表面に4μL滴下した。さらに、滴下3分後に濡れ張力試験用混合液の接触角を測定した。その結果、第1層における混合液の接触角は72度、第2層における混合液の接触角は130度となり、第1層に比べて第2層における混合液の接触角が大きく、撥水性は第1層に比べて第2層の方が高い結果となった。
【0174】
[第3比較例]
第3比較例では、第2実施例と同様の方法で得られた積層体に貫通孔を形成せずにガス拡散層を作製し、これを用いて膜電極ガス拡散層接合体を作製し、発電試験を行った。
【0175】
第3比較例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0176】
第3比較例では、第2実施例と同様の方法で、積層体を作製した。
【0177】
積層体の透気抵抗度を、JIS−P8177:2009に基づいたガーレー試験機法(Gurley method)のB型装置により測定した結果、802秒であった。
【0178】
第3比較例では、カソード用ガス拡散層およびアノード用ガス拡散層の両方とも、上記積層体を、貫通孔を形成せずにそのまま利用した。
【0179】
以上のように作製した、カソード用ガス拡散層、およびアノード用ガス拡散層を、上記方法で作製した膜電極接合体に当接させ、120℃、6kgf/cmで5分間ホットプレスを行い、触媒層とガス拡散層とを接合させることにより、第2実施例の膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0180】
[発電試験]
第2実施例と第3比較例のそれぞれで得られた膜電極ガス拡散層接合体を用いて発電試験を行った。発電試験の方法は、第1実施例と第1比較例と第2比較例と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0181】
発電試験の結果を、表2に示す。
【0182】
【表2】
表2に示すように、第2実施例と第1比較例と第3比較例とで、単電池の電圧はそれぞれ、744mV、720mV、744mVであり、第2実施例と第3比較例とは等しく、第1比較例よりも電圧は高かった。これは、カーボンクロスを用いた第1比較例よりも、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層を有する第2実施例および第3比較例の方が、電解質膜の乾燥をより効果的に防ぐことができ、発電効率が向上したためと考えられる。
【0183】
表2に示すように、第2実施例と第1比較例と第3比較例とで、剥離箇所の数はそれぞれ、0、0、39であり、第2実施例と第1比較例とは等しくゼロであり、第3比較例よりも剥離箇所の数は大幅に少なかった。これは、透気抵抗度の高い第1層を有し貫通孔を有しない第3比較例よりも、透気抵抗度の高い第1層を有し貫通孔を有する第1実施例および透気抵抗度の低い第1比較例の方が、触媒層とガス拡散層との境界において、局所的に液体の水が溜まる領域が生じにくくなり、水の溜まった領域が発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられにくくなったためと考えられる。
【0184】
また、第2実施例では、第1実施例と比較して、剥離箇所の数がさらに低減されていた。これは、撥水性の高い第2層を有しない第1実施例よりも、撥水性の高い第2層を有する第2実施例の方が、第2層内において、高分子電解質膜の主面と平行な方向のミストの移動が促進され、また、触媒層から第1層に移動するミストの量が少なくなったためと考えられる。すなわち、第2実施例では、第1実施例と比較して、触媒層とガス拡散層との境界において、局所的に液体の水が溜まる領域がさらに生じにくくなり、水の溜まった領域が発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられる可能性がさらに低減されたためと考えられる。
【0185】
以上まとめると、第2実施例では、電圧については第3比較例と同程度の良好な結果を示し、剥離箇所の数については第1比較例と同程度であり、第1実施例以上に良好な結果を示した。すなわち、第2実施例のガス拡散層は、低加湿運転と室温起動との組合せにおいて、高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することと、ガス拡散層が触媒層から剥離し変形する可能性を低減することという、相反する課題をさらに効果的に解決できることが分かった。
【0186】
(第3実施形態)
第3実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、第1実施形態および第2実施形態およびそれらの変形例の燃料電池用ガス拡散層であって、孔の開口面積が、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.1%以上1.2%以下である。
【0187】
上記燃料電池用ガス拡散層において、孔の開口面積が、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.3%以上1.1%以下であってもよい。
【0188】
上記燃料電池用ガス拡散層において、孔の開口面積が、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.5%以上1.0%以下であってもよい。
【0189】
[第3実施形態における検討]
本発明者らは、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成された燃料電池用ガス拡散層を用いた燃料電池の発電効率を向上させるべく鋭意検討した。その結果、以下の知見を得た。
【0190】
すなわち、検討対象となった燃料電池は、ガス拡散層の透気度が低いため、供給されるガスの露点が燃料電池の温度に比べて低い場合であっても、高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することができた。ところが、検討対象となった燃料電池は、燃料電池の温度が低い状態から発電を開始する場合に、ガス拡散層が変形するという問題が生じることを見出した。
【0191】
これは触媒層とガス拡散との境界に局部的に水が溜まる領域が形成され、かかる領域において発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられ、ガス拡散層が触媒層から剥離するからである。
【0192】
これに対し、ガス拡散層に孔を設けることで、滞留した水を孔から排水することを想到した。これにより孔の直下では、触媒層が外気と接しているため、圧力が大気圧に近くなるとともに、孔周辺で水圧が発生しても圧力の低い孔へ水が流れ、滞留による水圧上昇を軽減することができる。
【0193】
しかしながら、更なる検討を加えた結果、ガス拡散層に貫通孔を設ける場合において、孔の開口面積が大きすぎると、触媒層および電解質膜が乾燥し、燃料電池の寿命が短くなる可能性があることが判明した。原因としては、以下のようなメカニズムが考えられた。
【0194】
すなわち、孔が設けられると、孔の内部では、比較的乾燥した酸化剤ガスまたは燃料ガスに触媒層が直接露出することになる。このため、触媒層の乾燥が加速し、触媒上での電気化学反応が円滑に行われなくなる。その結果、ラジカルの発生量が増加すると共に、ラジカルを洗い流す生成水の量も少なくなり、電解質膜の化学的な分解が加速する。
【0195】
セパレータの流路に面した部位では、ガス拡散層がセパレータのリブによって固定されておらず、変形が起こりやすい。セパレータの流路に面した部位では、ガス濃度が高くなり、乾燥による電解質膜の化学劣化も加速しやすい。例えば、セパレータの流路に沿って、ガス拡散層に適切に孔を設けることで、ガス拡散層の変形を低減しつつ、電解質膜の化学劣化も低減することができる。
【0196】
[装置構成]
本実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、孔の開口面積を除けば、第1実施形態および第2実施形態およびそれらの変形例の燃料電池用ガス拡散層と同様の構成としうる。よって、孔の開口面積以外については、詳細な説明を省略する。
【0197】
本実施形態において、孔(孔12および孔16、以下「孔」)の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.1%以上1.2%以下である。孔の開口面積が、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.3%以上1.1%以下であってもよい。孔の開口面積が、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.5%以上1.0%以下であってもよい。
【0198】
孔が形成されると、たとえ孔の開口面積が小さくても、ガス拡散層の変形を低減する効果は得られる。よって、孔の開口面積の下限は、下記の実験例を参照しつつ、0より大きい所定の値に適宜設定されうる。
【0199】
孔の開口面積が大きくなると、電解質膜の化学劣化が進行しやすくなる。よって、孔の開口面積の上限は、下記の実験例を参照しつつ、適宜設定されうる。
【0200】
本実施形態において、孔の径は、30μm以上300μm以下であってもよい。孔の径が、50μm以上275μm以下であってもよい。孔の径が、80μm以上250μm以下であってもよい。
【0201】
本実施形態において、孔のピッチは、0.8mm以上3.2mm以下であってもよい。孔のピッチが、1mm以上3mm以下であってもよい。孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチx(孔の中心から隣接する孔の中心までの距離、以下同様)と、ガス流路と直角な方向のピッチy(ガス流路に平行に並ぶように孔を列状に形成した場合における、隣接する列についての孔の中心を通る線同士の距離、以下同様)とが異なっていてもよい。
【0202】
図8は、第3実施形態における孔のピッチを説明する模式図である。図8に示す例では、孔が千鳥状(ガス流路30に直角な方向に隣接する孔12の列が、半周期ずつずれる構成)に配置されており、ガス流路30に平行な方向のピッチxが、ガス流路30と直角な方向のピッチyよりも大きくなっている。なお、本実施形態では、ガス拡散層自体にガス流路は形成されていない。図8に示すガス流路30は、ガス拡散層を燃料電池に組み込む際に用いられるセパレータに形成されているガス流路(一部)の方向を示す。ガス流路は、例えば、流路の幅を1mm、流路のピッチを2mmとし、隣接する5本の流路を一単位としてガス拡散層の端で隙間なく折り返すように構成することができる。
【0203】
なお、本実施形態において、孔は必ずしも等間隔に形成される必要はない。例えば、孔のピッチがガス拡散層の主面の位置によって異なっていてもよい。孔がガス拡散層の主面の一部にのみ形成されてもよい。
【0204】
第3実施形態のガス拡散層においても、第1実施形態および第2実施形態と同様の変形が可能である。
【0205】
[製造方法]
本実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、第1実施形態および第2実施形態およびそれらの変形例の燃料電池用ガス拡散層の製造方法と同様としうる。よって、詳細な説明を省略する。第3実施形態のガス拡散層の製造方法においても、第1実施形態および第2実施形態と同様の変形が可能である。
【0206】
[第3比較例]
第3比較例のサンプルは、孔を形成しなかった。具体的には、第2実施形態の第3比較例と同様の方法で膜電極ガス拡散層接合体のサンプルを作製した。
【0207】
[第3実施例]
第3実施例では、孔の開口面積をガス拡散層の主面の面積の0.52%としてガス拡散層を作製した。第3実施例では、第2実施形態と同様、第1層の上に第2層を形成し、第1層および第2層の両方を貫通するように孔を形成した。
【0208】
第3実施例のサンプルは、ニードルを用いて孔を形成した。孔径はニードル径(約230μm)とほぼ等しい。孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチxが3.0mm、ガス流路に直角な方向のピッチyが2.6mmであった。孔は、千鳥状(ガス流路に直角な方向に隣接する孔の列が、半周期ずつずれる構成)に配置した。ガス拡散層の形状は、140mm×140mmの正方形とした。ガス拡散層の主面の面積が19600mmであり、孔1個の面積が0.042mmであり、孔の個数が2450個であり、孔の開口面積が102mmである。よって、第3実施例における孔の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.52%である。その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0209】
[第4実施例]
第4実施例では、孔の開口面積をガス拡散層の主面の面積の0.97%としてガス拡散層を作製した。第4実施例では、第2実施形態と同様、第1層の上に第2層を形成し、第1層および第2層の両方を貫通するように孔を形成した。
【0210】
第4実施例のサンプルは、UVレーザを用いて孔を形成した。孔径は約100μmであった。孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチxが1.8mm、ガス流路に直角な方向のピッチyが1.2mmであった。孔は、千鳥状(ガス流路に直角な方向に隣接する孔の列が、半周期ずつずれる構成)に配置した。ガス拡散層の形状は、140mm×140mmの正方形とした。ガス拡散層の主面の面積が19600mmであり、孔1個の面積が0.0079mmであり、孔の個数が24300個であり、孔の開口面積が191mmである。よって、第4実施例における孔の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.97%である。その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0211】
[第4比較例]
第4比較例では、孔の開口面積をガス拡散層の主面の面積の1.56%としてガス拡散層を作製した。第4比較例では、第2実施形態と同様、第1層の上に第2層を形成し、第1層および第2層の両方を貫通するように孔を形成した。
【0212】
第4比較例のサンプルは、UVレーザを用いて孔を形成した。孔径は約100μmであった。孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチxが1mm、ガス流路に直角な方向のピッチyが1.2mmであった。孔は、千鳥状(ガス流路に直角な方向に隣接する孔の列が、半周期ずつずれる構成)に配置した。ガス拡散層の形状は、140mm×140mmの正方形とした。ガス拡散層の主面の面積が19600mmであり、孔1個の面積が0.0079mmであり、孔の個数が39050個であり、孔の開口面積が307mmである。よって、第4比較例における孔の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の1.56%である。その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0213】
[発電試験]
第3比較例、第3実施例、第4実施例、第4比較例について、得られた膜電極ガス拡散層接合体のサンプルを用いて発電試験を行い、フッ化物イオンの溶出量を測定すると共に、ガス拡散層の変形箇所の計数を行った。試験内容は以下のとおりである。
【0214】
各サンプルについて、流路の形成されたセパレータを用いて、燃料電池を作製した。すなわち、膜電極ガス拡散層接合体を、燃料ガス供給用のガス流路および冷却水流路を有するセパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するセパレータとで挟持し、カソードおよびアノードの周囲にフッ素ゴム製のガスケットを配置することで単電池とした。有効電極(アノードまたはカソード)面積は196cmである。
【0215】
フッ化物イオンの溶出量については、まず、第3比較例、第3実施例、第4実施例、第4比較例のそれぞれについて1個ずつ作製した単電池の温度を摂氏65度に維持し、アノード側のガス流路に燃料ガスとして水素ガスと二酸化炭素との混合ガス(水素ガス75%、二酸化炭素25%)を供給し、カソード側のガス流路に空気を供給した。水素ガス利用率は70%、空気利用率は40%とした。燃料ガスおよび空気は、いずれも露点が摂氏約65度となるように加湿してから単電池に供給した。それぞれの単電池を電流密度0.2A/cmで12時間発電させることで、単電池のエージング(活性化処理)を行った。
【0216】
その後、以下のように低加湿での室温起動を行った。まず、各単電池について、発電を停止させ、単電池の温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点を摂氏65度としてアノードに供給し、空気は加湿せずに乾燥した状態の空気(露点=摂氏零下[マイナス]45度)をカソードに供給し、各単電池について、電流密度0.25A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後に単電池の温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時の単電池の温度が室温であり、かつカソードに供給される空気が加湿されていないため、室温低加湿起動と呼ぶ。
【0217】
該室温低加湿起動を約500回繰り返した後、カソード側およびアノード側のガス流路から排出される液体中のフッ化物イオン濃度を、液体クロマトグラフィーを用いて測定することで、発電中の電解質膜から排出されるフッ化物イオン溶出量を評価した。フッ化物イオン溶出量については、膜電極ガス拡散層接合体、特に電解質膜について、所定の膜厚の時に経時的に溶出されるフッ化物イオン量を用いて、膜破断に至る総溶出量に達するまでの期間を計算し、これが燃料電池に求められる所望の寿命以上となるか否かという基準により評価した。
【0218】
上記のように室温低加湿起動を約500回繰り返した後の各サンプルについて、以下のように高加湿での室温起動を行った。まず、各単電池について、発電を停止させ、単電池の温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点は摂氏60度としてアノードに供給し、空気は露点が摂氏65度となるように加湿してカソードに供給し、各単電池について、電流密度0.25A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後に単電池の温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時の単電池の温度が室温であり、かつカソードに供給される空気が加湿されているため、室温高加湿起動と呼ぶ。
【0219】
該室温高加湿起動を約100回繰り返した後、燃料電池を解体し、カソード側のガス拡散層が膜触媒層接合体から剥離している箇所の数を計数した。なお、剥離している箇所とは、ガス拡散層が膜触媒層接合体から若干浮いた状態になっている部分を指す。いずれのサンプルについても、アノード側では、ガス拡散層が剥離している箇所は見つからなかった。
【0220】
発電試験の結果を表3に示す。
【0221】
【表3】
表3に示すように、フッ化物イオンの溶出量は、第4比較例では所望の寿命を充たし得ず、不良となったが、第3比較例、第3実施例、第4実施例では所望の寿命を満たし得る程度に小さかった。一方、剥離箇所の数は、第4実施例および第4比較例では0個であり、第3実施例では3個であり、第3比較例では76個であった。
【0222】
すなわち、第4比較例はフッ化物イオンの溶出量が多く、第3比較例では剥離箇所の数が多かった。一方、第3実施例および第4実施例は、フッ化物イオンの溶出量および剥離箇所の数のいずれも好適であった。
【0223】
以上の結果から、孔の開口面積と燃料電池用ガス拡散層の主面の面積との比率を好適な範囲内に設定することで、ガス拡散層の変形を低減しつつ、電解質膜の化学劣化も低減することができることが確認された。
【0224】
(第4実施形態)
第4実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、第1実施形態およびその変形例の燃料電池用ガス拡散層であって、孔は、燃料電池用ガス拡散層を貫通しないように形成されている。
【0225】
上記燃料電池用ガス拡散層において、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層と接するように形成され、第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、孔は、第1層を貫通するように形成されていてもよい。
【0226】
上記燃料電池用ガス拡散層において、孔は、第2層を貫通しないように形成されていてもよい。
【0227】
第4実施形態の燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の主面に接する触媒層と、触媒層に第2層が接するように配置された上記燃料電池用ガス拡散層とを備え、孔の内部に触媒層および電解質膜のいずれもが露出しない。
【0228】
第4実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、第1実施形態およびその変形例の燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、さらに、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混ぜて均質な分散液を得て、孔が形成された後の第1層上に分散液を塗工および乾燥して第1層よりも薄い分散液層を形成し、分散液層が形成された第1層を、第1熱処理温度よりも低い第2熱処理温度で熱処理して分散液層から界面活性剤と分散溶媒とを除去して、第1層の上に第1層よりも撥水性の高い第2層を得ること、を含む。
【0229】
[第4実施形態における検討]
本発明者らは、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成された燃料電池用ガス拡散層を用いた燃料電池の発電効率を向上させるべく鋭意検討した。その結果、以下の知見を得た。
【0230】
すなわち、検討対象となった燃料電池は、ガス拡散層の透気度が低いため、供給されるガスの露点が燃料電池の温度に比べて低い場合であっても、高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することができた。ところが、検討対象となった燃料電池は、燃料電池の温度が低い状態から発電を開始する場合に、ガス拡散層が変形するという問題が生じることを見出した。
【0231】
これは触媒層とガス拡散との境界に局部的に水が溜まる領域が形成され、かかる領域において発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられ、ガス拡散層が触媒層から剥離するからである。
【0232】
これに対し、ガス拡散層に孔を設けることで、滞留した水を孔から排水することを想到した。これにより孔の直下では、触媒層が外気と接しているため、圧力が大気圧に近くなるとともに、孔周辺で水圧が発生しても圧力の低い孔へ水が流れ、滞留による水圧上昇を軽減することができる。
【0233】
しかしながら、更なる検討を加えた結果、ガス拡散層に孔を設ける場合において、ガス拡散層を貫通するように孔を形成すると、電圧が低下し、あるいは触媒および電解質膜が劣化する場合があることが判明した。原因としては、以下のようなメカニズムが考えられた。
【0234】
すなわち、ガス拡散層を貫通するように孔が形成されると、ガス拡散層に比べで触媒層の撥水性は低いため、孔の内部に露出した撥水性の低い触媒層上に液水が凝集しやすくなる(フラッディング)。特に、燃料電池システムの起動時には、低温となるため、飽和蒸気圧も低くなる。よって、孔の内部およびその周囲においてさらに液水が滞留しやすくなる。孔の内部およびその周囲において、触媒層の表面に液水が滞留すると、当該部位へのガスの拡散が阻害され、電池反応が円滑に進行しにくくなり、電圧が低下する。
【0235】
また、ガス拡散層を貫通するように孔が形成されると、孔の内部にはガス拡散層が存在しないため、触媒層表面からの集電(power collection)が行なえなくなる。カソード側のガス拡散層に形成された孔の付近では、触媒層に含まれる触媒において電子が不足し、反応が円滑に進行しない状態で、かつ、高い電圧が印加された状態で、触媒が酸化剤ガスに曝されることになる。その結果、触媒の凝集劣化(sintering)が進行したり、ラジカルが発生して電解質膜の劣化が加速する可能性がある。
【0236】
かかる課題に対し、本発明者らは、ガス拡散層を貫通しないように孔を形成することで、電圧を向上でき、あるいは触媒および電解質膜の劣化を低減できることを発見した。
【0237】
特に、撥水性の高い第2層を設け、孔が第2層を貫通しないように形成すると、孔の内部およびその周囲における液水の滞留が発生しにくくなり、起動時の電圧も高くなることを見出した。第2層は、触媒において発生したミストを触媒表面(触媒層とガス拡散層との界面)で凝集させずに、第1層へと運搬する機能を有する。また、第2層は集電機能をも有する。
【0238】
[装置構成]
図9は、第4実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例を示す断面図である。以下、図9を参照しつつ、第4実施形態のガス拡散層300について説明する。
【0239】
図9に例示するように、ガス拡散層100は、第1層10と第2層15とを備える。すなわち、以下では、ガス拡散層が2つの層で形成されている場合を説明する。なお、ガス拡散層に第1層および第2層以外の層が含まれてもよい。ガス拡散層が第1層のみで構成されてもよい。
【0240】
ガス拡散層300は、例えば、基材として炭素繊維等を用いないガス拡散層(いわゆる、基材レスGDL)として形成されうる。
【0241】
第1層10は、これを貫通する孔の符号が12から17に変更されている点を除き、材料、大きさ、形状、製造方法等は、第1実施形態の第1層10と同様とすることができる。第2層15は、孔が形成されていない点を除き、材料、大きさ、形状、製造方法等は、第2実施形態の第2層14と同様とすることができる。
【0242】
すなわち、本実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、孔がガス拡散層を貫通していない点を除けば、第1実施形態および第2実施形態およびそれらの変形例の燃料電池用ガス拡散層と同様の構成としうる。よって、孔17以外の構成については、詳細な説明を省略する。
【0243】
本実施形態において、孔17は、ガス拡散層300を貫通しないように形成されている。
【0244】
図9に示す例では、孔17は第1層10を貫通すると共に、第2層15は貫通しない。図9に示す例では、孔17が第2層15には全く形成されていないが、第2層15を貫通しない範囲で、第2層15にも孔17が形成されていてもよい。第2層15を構成する材料が、第1層10を貫通する孔17の一部に入り込んでいてもよい。
【0245】
図9に示す例では、孔17が第1層10を貫通しているが、孔17が第1層10を貫通しなくてもよい。具体的には、例えば、第2層15と反対側の主面から厚み方向に延び、孔17の内部に第2層15が露出しないように形成されていてもよい。
【0246】
第1実施形態で例示したように、ガス拡散層が単一の層で構成される場合には、孔は、例えば、単一の層の一方の主面から厚み方向に延びるように、かつ、他方の主面まで達しないように、形成されうる。
【0247】
第2実施形態で例示したように、ガス拡散層が第1層と第2層とで構成される場合には、孔は、例えば、第1層を貫通するように形成されてもよい。さらに、孔は、第2層を貫通しないように形成されてもよい。すなわち、孔は、第1層の主面のうち、第2層と反対側の主面から厚み方向に延びるように、かつ、第1層を貫通しで第2層の内部に延び、かつ、第2層の主面のうち、第1層と反対側の主面まで達しないように、形成されうる。
【0248】
本実施形態において、燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の主面に接するように設けられた触媒層と、触媒層の主面に第2層が接するように設けられた上記ガス拡散層とを備え、孔の内部に触媒層および電解質膜のいずれもが露出しないように構成されうる。
【0249】
なお、本実施形態において、孔は必ずしも等間隔に形成される必要はない。例えば、孔のピッチがガス拡散層の主面の位置によって異なっていてもよい。孔がガス拡散層の主面の一部にのみ形成されてもよい。
【0250】
第4実施形態のガス拡散層においても、第1実施形態および第2実施形態および第3実施形態と同様の変形が可能である。
【0251】
[製造方法]
図10は、第4実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下、図10を参照しつつ、第4実施形態のガス拡散層の製造方法について説明する。
【0252】
ステップS301〜S303については、第1実施形態のステップS101〜S103と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0253】
ステップS303で第1層10が得られると、第1層10を貫通する孔17が複数形成される(ステップS304)。孔17の形成方法は特に限定されない。具体的には例えば、金属等からなるニードルを突き刺すことで孔17が形成されてもよい。あるいは例えば、UVレーザやCOレーザ等のレーザを用いて孔17が形成されてもよい。あるいは例えば、第1層10を成形する際に用いられる型枠に貫通部材が設けられており、かかる型枠に材料を流し込むことで孔17が形成されてもよい。すなわち、孔17は、第1層の形成と同時に形成されてもよいし、第1層が形成された後に形成されてもよい。
【0254】
次に、以下の方法で、第2層15が形成される。
【0255】
まず、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混合することで、分散液が得られる(ステップS305)。ステップS305については、第2実施形態のステップS204と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0256】
次に、第1層10の上に分散液を塗工および乾燥して第1層よりも薄い分散液層を形成する(ステップS306)。ステップS306については、第2実施形態のステップS205と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0257】
次に、第1層10と分散液層とを熱処理して、界面活性剤と分散溶媒とを除去し、第1層10と第2層15との積層構造を有する燃料電池用ガス拡散層が得られる(ステップS307)。ステップS307については、第2実施形態のステップS206と同様とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0258】
なお、第1層10を成形する際に用いられる型枠に貫通部材が設けられており、かかる型枠に材料を流し込むことで孔17が形成されてもよい。すなわち、孔17は、第1層10の形成と同時に形成されてもよいし、第1層10が形成された後に形成されてもよい。換言すれば、ステップS304は、ステップS303〜S307と同時進行的に実行されてもよい。
【0259】
第4実施形態のガス拡散層の製造方法においても、第1実施形態および第2実施形態および第3実施形態と同様の変形が可能である。
【0260】
[第2実施例]
第2実施例では、第1層と第2層とを有するガス拡散層につき、第1層および第2層の両方を貫通するように孔を形成した。具体的には、第2実施形態の第2実施例と同様の方法で膜電極ガス拡散層接合体のサンプルを作製した。第2実施例のサンプル数は2である。
【0261】
[第5実施例]
第5実施例では、第1層と第2層とを有するガス拡散層につき、第1層のみを貫通するように孔を形成した。具体的には、第5実施例のサンプルは、以下の方法で作製した。第5実施例のサンプル数は5である。
【0262】
第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0263】
第1実施例と同様の方法で、第1層を作製した。
【0264】
得られた第1層について、第1実施例と同様の方法で、孔を形成した。孔は千鳥状(zig−zag alignment)に配置されるように形成された。孔のピッチは約3mmとし、隣接する孔までの距離がいずれも約3mmとなるように配置した。孔の密度は、1cmあたり11個であった。孔の開口面積は、第1層の面積1cmあたり、0.0046cmであった。孔の開口部の合計面積は、第1層の面積の0.46%であった。
【0265】
孔が形成された第1層について、第2実施例と同様の方法で第2層を形成し、第1層の上に第2層が積層された積層体を得た。
【0266】
アノード用ガス拡散層については、孔を形成せずに、第2実施形態の第2実施例と同様の方法で得られた積層体をそのまま利用した。
【0267】
その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0268】
[第3比較例]
第5実施例では、第1層と第2層とを有するガス拡散層につき、孔を形成しないものである。具体的には、第2実施形態の第3比較例と同様の方法で膜電極ガス拡散層接合体のサンプルを作製した。なお、第3実験例については、電圧の測定は行わず、剥離箇所の数のみ測定した。
【0269】
[発電試験]
第2実施例、第5実施例、第3比較例について、得られた膜電極ガス拡散層接合体のサンプルを用いて発電試験を行い、電圧の測定と、ガス拡散層の変形箇所の計数とを行った。試験内容は以下のとおりである。
【0270】
各サンプルについて、流路の形成されたセパレータを用いて、燃料電池を作製した。すなわち、膜電極ガス拡散層接合体を、燃料ガス供給用のガス流路および冷却水流路を有するセパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するセパレータとで挟持し、カソードおよびアノードの周囲にフッ素ゴム製のガスケットを配置することで単電池とした。有効電極(アノードまたはカソード)面積は196cmである。各実施例および比較例毎に、4個の単電池を直列に接続したスタックを1個ずつ作製し、発電試験を行った。
【0271】
電圧の測定については、まず、第2実施例と第5実施例と第3比較例とのそれぞれについてスタックの温度を、摂氏65度に制御し、アノード側のガス流路に燃料ガスとして水素ガスと二酸化炭素との混合ガス(水素ガス75%、二酸化炭素25%)を供給し、カソード側のガス流路に空気を供給した。水素ガス利用率は70%、空気利用率は40%とした。燃料ガスおよび空気は、いずれも露点が摂氏約65度となるように加湿してからスタックに供給した。それぞれのスタックを電流密度0.2A/cmで12時間発電させることで、スタックのエージング(活性化処理)を行った。
【0272】
その後、以下のように低加湿での室温起動を行った。まず、各スタックについて、発電を停止させ、さらにスタックの温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点を摂氏65度としてアノードに供給し、空気は加湿せずに乾燥した状態の空気(露点=摂氏零下[マイナス]45度)をカソードに供給し、各スタックについて、電流密度0.25A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後にスタックの温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時のスタックの温度が室温であり、かつカソードに供給される空気が加湿されていないため、室温低加湿起動と呼ぶ。
【0273】
起動後約30分経過した段階で、低温下での発電により触媒表面に液水が滞留して、電圧が最も低下する。起動後4時間を経過すると、セル内部が乾燥し、触媒表面の液水もほぼ消滅する。その結果、電圧が上昇し、電圧変動の少ない安定した発電が可能となる。そこで、エージング完了後、再び室温低加湿起動を実行し、起動後30経過後の電圧と、起動後4時間経過後の電圧とを比較することにした。なお電圧は、スタックを構成する4個の単電池のそれぞれについて個別に測定した。
【0274】
上記のように室温低加湿起動を実行して電圧を測定した後の各サンプルについて、以下のように高加湿での室温起動を行った。まず、各スタックについて、発電を停止させ、さらにスタック温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点を摂氏60度としてアノードに供給し、空気は露点が摂氏65度となるように加湿してカソードに供給し、各スタックについて、電流密度0.25A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後にスタックの温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時のスタックの温度が室温であり、かつカソードに供給される空気が加湿されているため、室温高加湿起動と呼ぶ。
【0275】
該室温高加湿起動を約100回繰り返した後、燃料電池を解体し、カソード側のガス拡散層が膜触媒層接合体から剥離している箇所の数を計数した。なお、剥離している箇所とは、ガス拡散層が膜触媒層接合体から若干浮いた状態になっている部分を指す。いずれのサンプルについても、アノード側では、ガス拡散層が剥離している箇所は見つからなかった。
【0276】
発電試験の結果を表4に示す。
【0277】
【表4】
表4に示すように、起動後30分経過した後の電圧は、第2実施例では738±2mVであったのに対し、第5実施例では750±3mVと顕著に高かった。電圧の差は、約12mVであり、これは第2実施例の平均電圧738mVの1.6%に相当する。すなわち、孔が第2層を貫通していない場合(第5実施例)の方が、孔が第2層を貫通している場合(第2実施例)よりも、起動後30分経過した後の電圧は約1.6%高くなった。
【0278】
これに対し、起動後4時間30分経過した後の電圧は、第2実施例では756±1mVであったの対し、第5実施例では752±1mVとほとんど差がなかった。すなわち、孔が第2層を貫通していない場合(第5実施例)は、孔が第2層を貫通している場合(第2実施例)と比較して、起動後4時間30分経過した後の電圧は同程度であった。
【0279】
剥離箇所の数は、第3比較例では4個の単電池のいずれについても30個以上であったが、第2実施例および第5実施例では4個の単電池のいずれについても0個であり、いずれもガス拡散層の変形を適切に低減できていることが分かった。
【0280】
以上の結果から、ガス拡散層を貫通しないように孔を形成することで、ガス拡散層の変形を低減しつつ、起動時の電圧を向上することができることが確認された。
【0281】
(第5実施形態)
第5実施形態の燃料電池用ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成され、孔の内部が親水化されている。
【0282】
上記燃料電池用ガス拡散層において、高分子樹脂はフッ素樹脂であり、孔の周辺部のフッ素含有量が、他の部位よりも低くてもよい。
【0283】
上記燃料電池用ガス拡散層において、孔は、燃料電池用ガス拡散層を貫通するように形成され、両端において径が大きく途中がくびれた形状を有してもよい。
【0284】
上記燃料電池用ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層と接するように形成され、第1層よりも撥水性の高い第2層とを有してもよい。
【0285】
第5実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練して均質な混練物を得て、混練物を圧延および成形してシート状混練物を得て、シート状混練物を、第1熱処理温度で熱処理してシート状混練物から界面活性剤と分散溶媒とを除去した層を得て、層に、レーザを用いて、層の主面から延び、かつ、その内部が親水化された孔を複数形成すること、を含む。
【0286】
[第5実施形態における検討]
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成された燃料電池用ガス拡散層を用いた燃料電池の発電効率を向上させるべく鋭意検討した結果、以下の知見が得られた。
【0287】
すなわち、検討対象となった燃料電池は、ガス拡散層の透気度が低いため、供給されるガスの露点が燃料電池の温度に比べて低い場合であっても、高分子電解質膜の乾燥を防ぎながら適切に発電することができた。ところが、検討対象となった燃料電池は、燃料電池の温度が低い状態から発電を開始する場合に、ガス拡散層が変形するという問題が生じることが判明した。
【0288】
ガス拡散層の変形は、触媒層とガス拡散との境界に局部的に水が溜まる領域が形成され、かかる領域において発生する水圧によりガス拡散層が押し上げられ、ガス拡散層が触媒層から剥離するために生じると考えられた。
【0289】
かかる課題を解決する手段として、ガス拡散層に孔を設けることで、滞留した水を孔から排水することが考えられる。これにより孔の直下では、触媒層が外気と接しているため、圧力が大気圧に近くなるとともに、孔周辺で水圧が発生しても圧力の低い孔へ水が流れ、滞留による水圧上昇を軽減することができる。
【0290】
しかしながら、更なる検討を加えた結果、ガス拡散層に孔を設ける場合において、ニードルではなくレーザで孔を形成すると発電効率が向上することが判明した。原因としては、以下のようなメカニズムが考えられた。
【0291】
すなわち、レーザ光を用いて孔を形成すると、孔の内部は加熱され、親水化される(撥水性が低下する)。ガス拡散層がフッ素樹脂を利用して製造される場合には、フッ素が揮発することで親水化する。孔の内部が親水化されると、生成水が孔に集まりやすくなり、排水されやすくなる。その結果、ガス拡散層内部を均等にガスが拡散し、発電効率が向上しうる。
【0292】
親水性のある部分には水分が保持されやすい。燃料電池の運転中に急激に負荷が増加した場合、発熱で電解質膜が乾燥しやすくなる。この場合でも、親水性のある部分から水分が供給されることで、電解質膜の乾燥を低減できる。その結果、発電効率が向上しうる。
【0293】
また、レーザ光を用いて形成された孔は、レーザ光の入口側の孔径が大きく、レーザ光の出口側の孔径が小さい。孔径の大きい側を触媒層側に配置することで、高い排水性を維持できる。また出口側の孔径が狭いため、セパレータ側への水の移動を適度に制限でき、孔の内部に露出する触媒層の乾燥を低減できる。その結果、ガス拡散層内部を均等にガスが拡散し、発電効率が向上しうる。
【0294】
[装置構成]
第5実施形態にかかるガス拡散層の概略構成の一例は、図1または図5に示した構成と同様とすることができる。よって、図示を省略する。
【0295】
第5実施形態において、孔(孔12および孔16)の内部は親水化されている。親水化とは、撥水性が低下することとしうる。
【0296】
図11A乃至Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の拡大断面図である。図11A乃至Fに示す例では、孔16は第1層10および第2層14を貫通し、かつ、孔16の径は一定である。
【0297】
図11Aに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは一定である。
【0298】
図11Bに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0299】
図11Cに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部および第1層10側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部および第1層10側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0300】
図11Dに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に厚くなっている。
【0301】
図11Eに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に薄くなっている。
【0302】
図11Fに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部とその周辺部に親水部15が形成されている。かかる構成では、第2層14と接するように配置される触媒層および第2層14の内部から、水(ミスト)が効率的に孔16へと移動し、排水性が向上する。
【0303】
図12A乃至Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の拡大平面図である。なお、これらは代表的な例であって、孔およびその周辺部の構成はこれらに限定されるものではない。
【0304】
図12Aに示す例では、孔16の開口部は円形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁も円形である。
【0305】
図12Bに示す例では、孔16の開口部は円形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁は楕円形である。
【0306】
図12Cに示す例では、孔16の開口部は楕円形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁は円形である。
【0307】
図12Dに示す例では、孔16の開口部は円形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁は矩形である。
【0308】
図12Eに示す例では、孔16の開口部は矩形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁は矩形である。
【0309】
図12Fに示す例では、孔16の開口部は矩形であり、その周囲に形成される親水部15の外縁は円形である。
【0310】
放電加工や電子ビーム及びレーザなどの熱源を用いることで、孔の形成と同時に孔の内部を親水化する場合に、例えば、図12A乃至Cの構成を採用することができる。
【0311】
第5実施形態において、高分子樹脂はフッ素樹脂であり、孔の周辺部のフッ素含有量が、他の部位よりも低くてもよい。例えば、放電加工や電子ビーム及びレーザなどの熱源を用いて、孔の形成と同時に孔の内部を親水化すると、孔の周辺部のフッ素含有量が、他の部位よりも低くなる。
【0312】
第5実施形態において、孔は、燃料電池用ガス拡散層を貫通するように形成され、両端において径が大きく途中がくびれた形状を有してもよい。例えば、放電加工や電子ビーム及びレーザなどの熱源を用いて、孔の形成と同時に孔の内部を親水化すると、孔は、両端において径が大きく途中がくびれた形状となる。
【0313】
図13A乃至Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の拡大断面図である。図13A乃至Fに示す例では、孔16は第1層10および第2層14を貫通し、かつ、孔16の径は第2層14側の開口部の方が第1層10側の開口部よりも大きくなっている。また、孔16は、両端よりも途中で径が小さくなっている。ガス流路に面する第1層10側の開口部を第2層14側の開口部よりも小さくすることで、排水性を向上させつつ、触媒層および高分子電解質膜の乾燥をさらに低減することができる。また、途中で孔の径を小さくすることで、触媒層および高分子電解質膜の乾燥をさらに低減することができる。
【0314】
図13Aに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは一定である。
【0315】
図13Bに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0316】
図13Cに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部および第1層10側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部および第1層10側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0317】
図13Dに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に厚くなっている。
【0318】
図13Eに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に薄くなっている。
【0319】
図13Fに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部とその周辺部に親水部15が形成されている。かかる構成では、第2層14と接するように配置される触媒層および第2層14の内部から、水(ミスト)が効率的に孔16へと移動し、排水性が向上する。
【0320】
図14A乃至Fは、第5実施形態のガス拡散層の孔およびその周辺部の拡大断面図である。図14A乃至Fに示す例では、孔16は第1層10および第2層14を貫通し、かつ、孔16の径は第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に大きくなっている。ガス流路に面する第1層10側の開口部を第2層14側の開口部よりも小さくすることで、排水性を向上させつつ、触媒層および高分子電解質膜の乾燥をさらに低減することができる。
【0321】
図14Aに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは一定である。
【0322】
図14Bに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0323】
図14Cに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部および第1層10側の開口部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第2層14側の開口部および第1層10側の開口部において、他よりも厚くなっている。
【0324】
図14Dに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に厚くなっている。
【0325】
図14Eに示す例では、孔16の内部に親水部15が形成されており、親水部15の厚さは第1層10側の開口部から第2層14側の開口部にかけて次第に薄くなっている。
【0326】
図14Fに示す例では、孔16の内部および第2層14側の開口部とその周辺部に親水部15が形成されている。かかる構成では、第2層14と接するように配置される触媒層および第2層14の内部から、水(ミスト)が効率的に孔16へと移動し、排水性が向上する。
【0327】
第5実施形態にかかるガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層10と、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、第1層10と接するように形成され、第1層10よりも撥水性の高い第2層14とを有してもよい。
【0328】
第5実施形態にかかるガス拡散層は、その他の構成については、第1実施形態および第2実施形態と同様とすることができる。よって、詳細な説明を省略する。本実施形態においても、第1実施形態および第2実施形態と同様の変形が可能である。
【0329】
図15は、第5実施形態にかかる燃料電池の概略構成の一例を示す断面模式図である。
【0330】
図15に示す例では、本実施形態における燃料電池1のセル101は、膜電極ガス拡散層接合体110と、膜電極ガス拡散層接合体110の両面に配置された一対の板状の導電性のセパレータ120とを有している。
【0331】
膜電極ガス拡散層接合体110は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜111と、当該高分子電解質膜111の両面に形成された一対の電極層112とを備えている。一対の電極層112は、高分子電解質膜111の両面に形成され、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層113と、当該触媒層113上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層114とを有している。
【0332】
高分子電解質膜111は、水素イオン伝導性を有する高分子膜であってもよい。高分子電解質膜111の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形状とすることができる。高分子電解質膜111の材料は、水素イオンを選択的に移動させるものであってもよい。
【0333】
高分子電解質膜111としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)など)や各種炭化水素系電解質膜を使用できる。
【0334】
触媒層113は、水素または酸素の酸化還元反応に対する触媒を含む層であってもよい。触媒層113は、導電性を有し、かつ水素及び酸素の酸化還元反応に対する触媒能を有するものであってもよい。触媒層113の形状は特に限定されないが、例えば、略矩形状とすることができる。
【0335】
触媒層113は、例えば、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料とを主成分とした多孔質な部材から構成される。触媒層113に用いるプロトン導電性高分子材料は、上記高分子電解質膜と同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0336】
ガス拡散層114は、第5実施形態のガス拡散層である。図15では、孔の図示を省略している。ガス拡散層114は、第1層115と第2層116とを備えている。第1層115は、第1実施形態および第2実施形態の第1層10に相当する。第2層116は、第2実施形態の第2層14に相当する。第1層115は、セパレータ120に当接する。第2層116は、触媒層113に当接する。
【0337】
ガス拡散層114には、セパレータ120と当接する主面に、反応ガス流路が形成されていてもよい。ガス拡散層114は、カソード側及びアノード側において同じガス拡散層を用いても、異なるガス拡散層を用いてもよい。
【0338】
セパレータ120は、例えば、膜電極ガス拡散層接合体を機械的に固定するとともに、隣接する膜電極ガス拡散層接合体同士を互いに電気的に直列に接続するための部材である。セパレータ120は、例えば、カーボンを含む材質や金属を含む材質で構成される。セパレータ120は、導電性を有する多孔質のプレートであってもよい。
【0339】
セパレータ120がカーボンを含む材質で構成される場合、セパレータ120は、カーボン粉末と樹脂バインダとを混合した原料粉を金型に供給し、金型に供給された原料粉に圧力と熱を加えることによって形成できる。
【0340】
セパレータ120が金属を含む材質で構成される場合、セパレータ120は、金属プレートからなるものであってもよい。セパレータ120は、チタンやステンレス鋼製の板の表面に金メッキを施したものを使用することができる。
【0341】
一対のセパレータ120には、ガス拡散層114と当接する主面(以下、電極面)に、燃料ガスを流すための燃料ガス流路121と、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路122とが設けられている。また、前記一対のセパレータ120には、ガス拡散層114と当接しない主面(以下、冷却面)に、冷却水などが通る冷却水流路123が設けられている。燃料ガス流路121を通じて電極層112に燃料ガスが供給され、かつ、酸化剤ガス流路122を通じて電極層112に酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0342】
セパレータ120は導電性を有する。燃料電池11の発電中は、セル101の積層方向に沿って、セパレータ120の内部を電流が流れる。
【0343】
ガス拡散層114に反応ガス流路が形成されている場合には、セパレータ120に燃料ガス流路121及び酸化剤ガス流路122が形成されていなくてもよい。
【0344】
セル101は、1つ以上積層され、互いに隣接するセル101が電気的に直列に接続されて使用されるのが一般的である。なお、このとき、互いに積層されたセル101は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材130により所定の締結圧にて加圧締結される。従って、膜電極ガス拡散層接合体110とセパレータ120とは所定の圧力で面接触することになる。また、電気化学反応に必要なガスが外部に漏れるのを防ぐために、セパレータ120、120の間には、触媒層113とガス拡散層114の側面を覆うようにガスケット117(シール材)が配置されている。
【0345】
ガスケット117は、触媒層113及び高分子電解質膜111とセパレータ120との間、または、触媒層113とセパレータ120との間の隙間を埋める部材であってもよい。ガスケットは、適度な機械的強度と柔軟性を有している合成樹脂であってもよい。ガスケット117の形状は、特に限定されないが、例えば、環状で略矩形状とすることができる。
【0346】
[製造方法]
第5実施形態において、孔の形成手段は特に限定されない。具体的には例えば、エッチング、ドリル、ニードル、放電加工、電子ビーム、レーザまたはプレスなど公知の方法を用いて、孔を形成することができる。
【0347】
孔の内部を親水化する方法は特に限定されない。具体的には例えば、孔の内壁表面に親水性官能基を付与する方法を用いることができる。あるいは例えば、薬液酸化および電解酸化等の液相酸化法を用いてもよい。あるいは例えば、気相酸化法を用いてもよい。あるいは例えば、酸素、無水硫酸などによってガス拡散相の表面に水酸基、スルホ基、カルボキシ基などの浸水性官能基を付与してもよい。あるいは例えば、放電加工や電子ビーム及びレーザなどの熱源を用いることで、孔の形成と同時に孔の内部を親水化してもよい。この場合には、さらに製造効率を向上できる。
【0348】
図16は、第5実施形態における孔の形成および孔の内部の親水化の方法の一例を示す概念図である。
【0349】
図16に示す例では、レーザ照射装置7から第2層14の表面に向けて垂直に射出されたレーザ光は、fθレンズ6を通じて所定の距離だけずらされ、第2層14の表面に垂直に入射する。その結果、レーザ光は第2層14および第1層10を貫通し、孔16が形成される。孔16の内部は親水化され、親水部15が形成される。
【0350】
対象物を保持する固定台5は、表面の算術平均粗さ(Ra)値が小さいものとすることができる。Ra値を小さくすることで、対象物の出口から入る光線量が反射により拡散しにくくなり、孔の形状をより一定にすることができる。Ra値は、0.01μm以上100μm以下の範囲とすることができる。Ra値は、0.01μm以上10.0μm未満の範囲とすることができる。
【0351】
第5実施形態におけるガス拡散層の製造方法は、上記の点を除き、第1実施形態および第2実施形態と同様とすることができる。よって、詳細な説明を省略する。
【0352】
[断面写真]
第1実施例と同様の方法でガス拡散層(第1層)を作製し、UVレーザを用いて孔を形成した(孔径は約120μm)場合と、ニードルを用いて孔を形成した(孔径は約120μm)場合とで、断面の構造を比較した。各サンプルについては、孔を形成した後で、Arイオンを用いたブロードイオンビーム(BIB:Broad Ion Beam)により断面を加工し、その後、加速電圧3.0kVにて走査電子顕微鏡で各断面の観察を行った。ブロードイオンビーム加工によれば、断面の凹凸が約100μm程度以下となるように、広範囲の領域を熱ダメージなく平坦化することができる。
【0353】
図17Aは、UVレーザを用いて孔を形成した場合におけるガス拡散層断面の走査型電子顕微鏡写真である。図において上方がレーザ光の入口であり、下方がレーザ光の出口である。
【0354】
図17Aに示すように、レーザを用いて形成される孔は、レーザ光の入口の孔径の方がレーザ光の出口の孔径よりも大きくなっている。また、両端よりも途中で孔径が小さくなっている。すなわち、孔は途中でくびれた形状を有する。
【0355】
図17Bは、ニードルを用いて孔を形成した場合におけるガス拡散層断面の走査型電子顕微鏡写真である。図において上方がニードルの入口であり、下方がニードルの出口である。
【0356】
図17Bに示すように、ニードルを用いて形成される孔は、ニードルの入口の孔径と、ニードルの出口の孔径とが等しくなっている。
【0357】
レーザを用いて孔を形成した場合に、入口の孔径の方が出口の孔径よりも大きくなっているのは、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。レーザ光の入口近傍では、射出時のエネルギーをほぼ保持した状態でレーザ光が入射し、ガス拡散層の表面の一部は加熱されて揮発する。このため、入口の孔径はレーザ光の径よりも大きくなる。レーザ光がガス拡散層内を厚み方向に進むにつれエネルギーが奪われるため、レーザ光の出口近傍では入口よりも孔径が小さくなる。レーザ光の入口側が触媒層側となるようにガス拡散層を配置することで、排水性を向上させつつ、触媒層および高分子電解質膜の乾燥をさらに低減することができる。
【0358】
また、レーザを用いて孔を形成した場合に、孔が途中でくびれた形状となるのは、レーザ加工時のレーザ光の反射によるものと考えられる。かかる形状によれば、締結等で出入り口が閉塞されることを防ぎつつ、触媒層および高分子電解質膜の乾燥をさらに低減することができる。
【0359】
[第6実施例]
第6実施例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0360】
第6実施例では、第2実施例と同様の方法で、第1層の上に第2層が積層された積層体を作製した。
【0361】
アノード用ガス拡散層については、上記方法で得られた積層体に対し、UVレーザを用いて孔を形成した。孔径は約120μmであった。隣接する孔同士のピッチは1.8mmであった。固定台としては、耐熱性を有するSUSステンレス製の台を用いた。表面の算術平均粗さ(Ra)は、10〜20μmであった。すなわち、孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチx(孔の中心から隣接する孔の中心までの距離、以下同様)が1.8mm、ガス流路に直角な方向のピッチy(ガス流路に平行に並ぶように孔を列状に形成した場合における、隣接する列についての孔の中心を通る線同士の距離、以下同様)が1.56mmであった。孔は、千鳥状(ガス流路に直角な方向に隣接する孔の列が、半周期ずつずれる構成)に配置した。ガス拡散層の形状は、140mm×140mmの正方形とした。ガス拡散層の主面の面積が19600mmであり、孔1個の面積が0.011mmであり、孔の個数が12936個(66個/cm)であり、孔の開口面積が146mmである。よって、第3実施例における孔の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.746%である。
【0362】
カソード用ガス拡散層については、貫通孔を形成せずに、積層体をそのまま利用した。
【0363】
その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0364】
第6実施例のサンプル数は2である。
【0365】
[第7実施例]
第7実施例では、第1実施例と同様の方法で、膜電極接合体を作製した。
【0366】
第7実施例では、第2実施例と同様の方法で、第1層の上に第2層が積層された積層体を作製した。
【0367】
アノード用ガス拡散層については、上記方法で得られた積層体に対し、カンタル線(鉄、クロム、アルミニウム合金)からなるニードルを用いて孔を形成した。孔径は約120μmであった。隣接する孔同士のピッチは1.8mmであった。すなわち、孔のピッチは、ガス流路に平行な方向のピッチx(孔の中心から隣接する孔の中心までの距離、以下同様)が1.8mm、ガス流路に直角な方向のピッチy(ガス流路に平行に並ぶように孔を列状に形成した場合における、隣接する列についての孔の中心を通る線同士の距離、以下同様)が1.56mmであった。孔は、千鳥状(ガス流路に直角な方向に隣接する孔の列が、半周期ずつずれる構成)に配置した。ガス拡散層の形状は、140mm×140mmの正方形とした。ガス拡散層の主面の面積が19600mmであり、孔1個の面積が0.011mmであり、孔の個数が12936個(66個/cm)であり、孔の開口面積が146mmである。よって、第3実施例における孔の開口面積は、燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.746%である。
【0368】
カソード用ガス拡散層については、貫通孔を形成せずに、積層体をそのまま利用した。
【0369】
その他の構成については、第2実施形態の第2実施例と同様とすることで、膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0370】
第7実施例のサンプル数は2である。
【0371】
[第3比較例]
第2実施形態の第3比較例と同様の構成とした。
【0372】
第3比較例のサンプル数は2である。
【0373】
[フッ素含有量のプロファイル]
第6実施例と第7実施例と第3比較例とについて、第2層側からEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)を用いて以下の条件で表面におけるフッ素の濃度プロファイルを取得した。加速電圧は15kV、照射電流は約5.0×10−8A、走査面積は0.8mm×1.0mmとした。
【0374】
図18は、第6実施例(Laser)と第7実施例(Needle)と第3比較例(Ref.)とにおける、表面のフッ素濃度プロファイルの一例を示す図である。
【0375】
図18に示すように、第6実施例では、第7実施例と比較して、孔の周辺部のフッ素濃度が低くなっている。第6実施例では、レーザ照射時に、照射箇所の周辺部でフッ素が揮発したものと推察される。
【0376】
[発電試験]
第6実施例と第7実施例と第3比較例のそれぞれで得られた膜電極ガス拡散層接合体を用いて燃料電池を作製した。膜電極ガス拡散層接合体を、燃料ガス供給用のガス流路および冷却水流路を有するセパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するセパレータとで挟持し、両セパレータ間でカソードおよびアノードの周囲にフッ素ゴム製のガスケットを配置し、有効電極(アノードまたはカソード)面積が196cmである単電池を得た。
【0377】
第1実施例と第1比較例と第2比較例とのそれぞれについて得られた単電池の温度を摂氏65度に維持し、アノード側のガス流路に燃料ガスとして水素ガスと二酸化炭素との混合ガス(水素ガス75%、二酸化炭素25%)を供給し、カソード側のガス流路に空気を供給した。水素ガス利用率は80%、空気利用率は45%とした。燃料ガスおよび空気は、いずれも露点が摂氏約65度となるように加湿してから単電池に供給した。
【0378】
まず、それぞれの単電池を電流密度0.24A/cmで12時間発電させることで、単電池のエージング(活性化処理)を行った。
【0379】
その後、以下のように室温起動を行った。まず、各単電池について、発電を停止させ、単電池の温度を室温(摂氏約25度)まで低下させた。その後、燃料ガスの露点を摂氏約65度としてアノードに供給し、空気は加湿せずに乾燥した状態の空気(露点=摂氏零下[マイナス]45度)をカソードに供給し、各単電池について、電流密度0.24A/cmで発電を開始(起動)させた。さらに、発電開始後に単電池の温度を摂氏65度まで上昇させた。かかるプロセスは、発電開始時の単電池の温度が室温であるため、室温起動と呼ぶ。発電開始後4時間を経過した段階で、電圧(4時間後電圧)を測定した。さらに、発電を約1000時間継続し、発電試験を終了し、燃料電池を解体し、カソード側のガス拡散層が触媒層から剥離している箇所の数を確認した。なお、剥離している箇所とは、ガス拡散層が触媒層から若干浮いた状態になっている部分を指す。いずれのサンプルについても、アノード側では、ガス拡散層が剥離している箇所は見つからなかった。
【0380】
発電試験の結果を、表5に示す。
【0381】
【表5】
表4に示すように、第6実施例のいずれのサンプルについても、第7実施例に対し、4時間後電圧が4mV〜5mV高かった。レーザで孔を形成した第6実施例の方が、ニードルで孔を形成した第7実施例よりも、発電効率が高いことが確認された。なお、第3比較例の4時間後電圧は、第7実施例と同程度であった。
【0382】
剥離箇所の数は、第6実施例および第7実施例ではゼロであったのに対し、第3比較例では多数の剥離箇所が生じていることが確認された。レーザで孔を形成した第6実施例でも、ニードルで孔を形成した第7実施例でも、ガス拡散層の変形と剥離が生じる可能性を低減できることが確認された。
【0383】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0384】
本発明の燃料電池用ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されるガス拡散層を燃料電池に用いた場合の発電性能を更に向上することができる燃料電池用ガス拡散層として有用である。
【符号の説明】
【0385】
1 燃料電池
5 固定台
6 fθレンズ
7 レーザ照射装置
10 第1層
12 孔
14 第2層
16 孔
17 孔
18 カソード触媒層
20 高分子電解質膜
22 アノード触媒層
24 層
26 層
30 ガス流路
100 ガス拡散層
101 セル
110 膜電極ガス拡散層接合体
111 高分子電解質膜
112 電極層
113 触媒層
114 ガス拡散層
115 第1層
116 第2層
117 ガスケット
120 セパレータ
121 燃料ガス流路
122 酸化剤ガス流路
123 冷却水流路
200 ガス拡散層
250 ガス拡散層
300 ガス拡散層
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図14F】
【図15】
【図16】
【図18】
【図17A】
【図17B】

【手続補正書】
【提出日】20140404
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層であって、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、
前記燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成されており、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、前記第1層と接するように形成され、前記第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、
前記孔は、前記第1層および前記第2層を貫通するように形成されている、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混練して均質な混練物を得て、
前記混練物を圧延および成形してシート状混練物を得て、
前記シート状混練物を、第1熱処理温度で熱処理して前記シート状混練物から前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去した第1層を得て、
前記第1層に、前記第1層を貫通する孔を複数形成すること、
を含み、
さらに、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混ぜて均質な分散液を得て、
前記孔を形成する前の前記第1層上に前記分散液を塗工および乾燥して前記第1層よりも薄い分散液層を形成し、
前記分散液層が形成された前記第1層を、第1熱処理温度よりも低い第2熱処理温度で熱処理して前記分散液層から前記界面活性剤と前記分散溶媒とを除去して、前記第1層の上に前記第1層よりも撥水性の高い第2層を得て、
前記第1層に前記孔を形成する時に、前記孔が前記第2層をも貫通するように前記孔を形成すること、
を含む燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項3】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.1%以上1.2%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.3%以上1.1%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記孔の開口面積が、前記燃料電池用ガス拡散層の主面の面積の0.5%以上1.0%以下である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
燃料電池用ガス拡散層であって、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、
前記燃料電池用ガス拡散層の主面から延びる孔が複数形成されており、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成される第1層と、
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成され、前記第1層と接するように形成され、前記第1層よりも撥水性の高い第2層とを有し、
前記孔は、前記第1層を貫通し、かつ前記第2層を貫通しないように形成されている、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
電解質膜と、
前記電解質膜の主面に接する触媒層と、
前記触媒層に前記第2層が接するように配置された請求項に記載の燃料電池用ガス拡散層とを備え、
前記孔の内部に前記触媒層および前記電解質膜のいずれもが露出しない、
燃料電池。
【国際調査報告】