(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2014061675
(43)【国際公開日】20140424
【発行日】20160905
(54)【発明の名称】希少細胞の回収方法および検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20160808BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160808BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20160808BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20160808BHJP
【FI】
   !C12N1/02
   !C12Q1/02
   !C12M1/34 A
   !C12N5/00 202A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
【出願番号】2014542150
(21)【国際出願番号】JP2013078006
(22)【国際出願日】20131015
(31)【優先権主張番号】2012229770
(32)【優先日】20121017
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番2号
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】荒木 淳吾
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番2号 コニカミノルタ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】星 久美子
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内二丁目7番2号 コニカミノルタ株式会社内
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA04
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QR66
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA46
(57)【要約】
細胞懸濁液をマイクロチャンバーチップ上の流路に展開したとき、細胞の回収率を向上することによって、希少細胞のロスを低減する希少細胞の検出方法を提供することを目的とし、マイクロチャンバーチップ1と流路形成枠体2と入口部3と出口部4とを有する細胞展開用デバイス10を用いて、細胞懸濁液から希少細胞を検出する方法であって、入口部3から細胞懸濁液を流路5に導入し、細胞をマイクロチャンバーチップ1上の流路5に展開する工程(X);および、間欠送液等により、マイクロチャンバーチップ1上の流路5に展開された細胞をマイクロチャンバー6内に収容する工程(Y)を含む希少細胞の回収方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を収容、保持することができるマイクロチャンバーを表面に有するマイクロチャンバーチップ上に流路が形成された細胞展開用デバイスに細胞懸濁液を流入させ、該細胞懸濁液中の希少細胞を前記マイクロチャンバー内に回収する方法であって、
工程(X):細胞展開用デバイスの流路に細胞懸濁液を流入させて、細胞をマイクロチャンバーチップ上に展開する工程;および、
工程(Y):前記マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与する工程を含む希少細胞の回収方法。
【請求項2】
前記移動力は、前記マイクロチャンバー外に位置する細胞を移動させる力である、請求項1に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項3】
工程(W):前記工程(X)の前に、水よりも表面張力の低い水溶液を送液することによって、前記マイクロチャンバーチップの表面を濡らす工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項4】
前記工程(X)において、前記流路へ導入する細胞懸濁液の流速を調節することにより、前記マイクロチャンバーチップの上の流路に均一に細胞を展開させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項5】
前記工程(Y)において、前記マイクロチャンバー外に位置する細胞が往復移動するように前記移動力を間欠的に付与する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項6】
前記工程(Y)において、前記流路に対する送液と送液の停止とを繰り返す間欠送液を行うことで前記移動力を間欠的に付与する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項7】
工程(Z):前記工程(Y)の後に、前記間欠送液の最大流速と同じ流速か、またはそれより大きい流速で連続送液することによって、前記マイクロチャンバー内に重層して収容された細胞の一部を、前記マイクロチャンバー外に出す工程をさらに含む、請求項6に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項8】
上記希少細胞が、循環腫瘍細胞〔CTC〕、循環血管内皮細胞〔CEC〕および循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕のいずれか一種以上の細胞である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項9】
前記マイクロチャンバーチップに対して流路形成枠体を一体的に設けることで前記流路が形成されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項10】
前記流路形成枠体に前記流路に連通する入口部と出口部が設けられている、請求項9に記載の希少細胞の回収方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の希少細胞の回収方法により、希少細胞を回収した後に前記マイクロチャンバーの流路に細胞染色液を送液して、細胞染色と希少細胞の検出を行う、希少細胞の検出方法。
【請求項12】
細胞を収容、保持することができるマイクロチャンバーを表面に有するマイクロチャンバーチップ上に流路が形成された細胞展開用デバイスと、該細胞展開用デバイスの流路に細胞懸濁液を送液する送液装置と、前記マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与する手段とを備え、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法を行う、希少細胞回収システム。
【請求項13】
細胞染色液で染色された希少細胞を検出可能な光学検出系をさらに備えており、請求項11の検出方法を行う、請求項12に記載の希少細胞回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチャンバーチップを有する細胞展開用デバイスを用い、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞懸濁液に含有される細胞から希少細胞を回収および検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環腫瘍細胞〔CTC〕、循環血管内皮細胞〔CEC〕、循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕、各種幹細胞等(本明細書において、まとめて「希少細胞」という。)は病態に応じて全血中に極めて稀に存在する細胞である。希少細胞の検出は臨床的な有用性が明らかであるにもかかわらず、その検出は極めて難しい。近年様々な細胞分離手法を応用してその検出が試みられ製品化がなされているが、いずれにおいても対象の希少性が故、検出結果の有効性を評価(希少細胞のロスや不要細胞の混入の有無)することが重要である。
【0003】
例えば採血した血液などの検体中に目的とする希少細胞が存在するか否かを検査する際、血液由来検体などの細胞懸濁液を平面状に展開した後、展開された全細胞を解析することによって、細胞懸濁液中に目的細胞が存在するか否かがわかる。
【0004】
例えば、特許文献1には細胞組織体マイクロデバイスが開示されている。細胞組織体マイクロデバイス表面には「細胞保持チャンバー」が形成されており、細胞保持チャンバーに収容された細胞(例えば、初代肝細胞など)を、流路に培養液を灌流しながら培養し、細胞組織体を形成することができる。
【0005】
この細胞組織体マイクロデバイスを使用して、細胞懸濁液を平面状に展開する際、細胞懸濁液を単純に添加する方法では、細胞保持チャンバー内に充分に細胞を回収することができず、多くの細胞が細胞保持チャンバー外に残存してしまうと予測される。また灌流培養を開始した直後に、細胞保持チャンバー外に残存している細胞は、細胞組織体マイクロデバイスから排出されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−122012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば血液などのような様々な種類の細胞を大量に含む細胞懸濁液を、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開したとき、細胞懸濁液に含まれる全細胞数に対する、各マイクロチャンバーに保持することができる細胞数合計の割合(以下「細胞の回収率」ともいう。)を向上することによって、希少細胞のロスを低減することができる希少細胞の回収方法および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1に開示されている細胞組織体マイクロデバイスに細胞懸濁液を添加し、所定時間静置した後、連続的に一様な送液をすると、低流量では、細胞保持チャンバー外に付着した細胞が移動せず、一方、高流量では、細胞保持チャンバー内に細胞が収容されづらく、また細胞保持チャンバー内に一旦収容された細胞が細胞保持チャンバー外に出易くなる。
【0009】
本発明者らは、送液について鋭意検討した結果、細胞展開用デバイスを用いて細胞懸濁液に含有される細胞を展開した後、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与することによって細胞の回収率が著しく向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、上述した目的のうちの一つを実現するために、本発明の一側面を反映した希少細胞の回収方法は、細胞を収容、保持することができるマイクロチャンバーを表面に有するマイクロチャンバーチップ上に流路が形成された細胞展開用デバイスに細胞懸濁液を流入させ、該細胞懸濁液中の希少細胞をマイクロチャンバー内に回収する方法であって、
工程(X):細胞展開用デバイスの流路に細胞懸濁液を流入させて、細胞をマイクロチャンバーチップ上の流路に展開する工程;および、
工程(Y):前記マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与する工程を含む希少細胞の回収方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば血液などの細胞懸濁液に含有される様々な種類の細胞であっても、マイクロチャンバー内への細胞の回収率が極めて高い、すなわち、マイクロチャンバー上に流路が形成された細胞展開用デバイスに展開されたほぼすべての細胞をマイクロチャンバー内に収容して保持することができ、細胞懸濁液中に存在し得る希少細胞のロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、工程(Y)で細胞展開用デバイスの流路へ「間欠送液」を行った際の送液圧と流路内での流速の経時的なグラフを示す。
【図2】図2は、細胞展開用デバイスの流路へ連続送液したときの流路内の流速をプロットした経時的なグラフを示す。
【図3】図3は、細胞展開用デバイスをその流路方向に沿って切断した断面図を模式的に示したものである。破線の矢印は、流路の液流方向を示す。図3(A)は、マイクロチャンバーチップ1により流路の底面を形成した細胞展開用デバイスを示す。図3(B)は、マイクロチャンバーチップ1と流路形成枠体2とにより流路の底面を形成した細胞展開用デバイスを示す。
【図4】図4は、細胞展開用デバイスの具体例を模式的に示した図である。図4(A)は、細胞展開用デバイスの上面図を示し、図4(B)は、図4(A)の細胞展開用デバイスをA'−A'線に沿って切断した断面図を示す。
【図5】図5(A)は、実施例1の工程(X)後のマイクロチャンバーチップ表面の拡大画像を示す。図5(B)は、実施例1の工程(Y)後のマイクロチャンバーチップ表面の拡大画像を示す。
【図6】図6(A)は、実施例1の工程(Y)後のマイクロチャンバーの中で、重層化された状態で細胞を収容しているマイクロチャンバーの拡大画像を示す。図6(B)は、実施例2の工程(Z)後の単層化されたマイクロチャンバーの拡大画像を示す。
【図7】図7は、実施例3の染色後のマイクロチャンバーの拡大画像を示す。
【図8】図8は、本発明に係る好ましい一例としての希少細胞回収システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る希少細胞の回収方法および検出方法について、図1〜図7を参照しながら、詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る希少細胞の回収方法は、細胞展開用デバイスを用いて、細胞懸濁液から、細胞懸濁液に含有されている可能性のある希少細胞を回収する方法であって、工程(X)および(Y)を含み、好ましくはさらに工程(W)および/または(Z)を含む。
【0015】
前記移動力は、前記マイクロチャンバー外に位置する細胞を移動させる力であることが好ましい。
【0016】
前記工程(X)の前に、水よりも表面張力の低い水溶液を送液することによって、前記マイクロチャンバーチップの表面を濡らす工程(W)をさらに含むことが好ましい。
【0017】
前記工程(X)において、前記流路へ導入する細胞懸濁液の流速を調節することにより、前記マイクロチャンバーチップの上の流路に均一に細胞を展開させることが好ましい。
【0018】
前記工程(Y)において、前記マイクロチャンバー外に位置する細胞が往復移動するように前記移動力を間欠的に付与することが好ましい。
【0019】
前記工程(Y)において、前記流路に対する送液と送液の停止とを繰り返す間欠送液を行うことで前記移動力を間欠的に付与することが好ましい。
【0020】
前記工程(Y)の後に、前記間欠送液の最大流速と同じ流速か、またはそれより大きい流速で連続送液することによって、前記マイクロチャンバー内に重層して収容された細胞の一部を、前記マイクロチャンバー外に出す工程をさらに含むことが好ましい。
【0021】
上記希少細胞が、循環腫瘍細胞〔CTC〕、循環血管内皮細胞〔CEC〕および循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕のいずれか一種以上の細胞であることが好ましい。
【0022】
前記マイクロチャンバーチップに対して流路形成枠体を一体的に設けることで前記流路が形成されていることが好ましい。
【0023】
前記流路形成枠体に前記流路に連通する入口部と出口部が設けられていることが好ましい。
【0024】
上述した目的のうちの一つを実現するために、本発明の一側面を反映した希少細胞の検出方法は、前記の希少細胞の回収方法により、希少細胞を回収した後に前記マイクロチャンバーの流路に細胞染色液を送液して、細胞染色と希少細胞の検出を行う。なお、「送液」には連続送液と間欠送液とが含まれる。
【0025】
細胞を収容、保持することができるマイクロチャンバーを表面に有するマイクロチャンバーチップ上に流路が形成された細胞展開用デバイスと、該細胞展開用デバイスの流路に細胞懸濁液を送液する送液装置と、 前記マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与する手段 とを備え、請求項1〜11のいずれかの方法を行う、希少細胞回収システム。
細胞染色液で染色された希少細胞を検出可能な光学検出系をさらに備えており、請求項11の検出方法を行う、上記希少細胞回収システム。
【0026】
<細胞展開用デバイス>
図3(A)に、本発明に係る希少細胞の回収方法に使用可能な細胞展開用デバイスの一例を示す。
【0027】
この細胞展開用デバイス10は、図3(A)に示すように、マイクロチャンバー6が形成されたマイクロチャンバーチップ1と、マイクロチャンバー6上に流路5が形成されるようにマイクロチャンバーチップ1と一体に設けられた流路形成枠体2と、流路形成枠体2に設けられた入口部3と、入口部3から流路5に流入された細胞懸濁液を流路5から流出させるために流路形成枠体2に設けられた出口部4等とを有する。
【0028】
《マイクロチャンバーチップ》
マイクロチャンバーチップ1は、マイクロチャンバーアレイ〔MCA〕ともいい、その表面にマイクロチャンバー6を一個以上有する。
【0029】
マイクロチャンバーとは、一個以上の細胞を「収容」し、「保持」することができる凹状の微細穴(マイクロウェル)をいい、有底である(すなわち貫通した穴ではない)ことが好ましい。
【0030】
ここで、「保持」とは、マイクロチャンバーに収容された細胞が、細胞展開用のマイクロチャンバーチップの流路に対する染色液や洗浄液の送液等によってマイクロチャンバー外に出難いことをいう。
【0031】
また、マイクロチャンバー6の開口上部の直径は、20μm〜500μmであることが好ましい。該直径が20μm〜500μmの範囲内であると、マイクロチャンバー6内に好適に細胞を収容、保持することができる。
【0032】
マイクロチャンバー6の深さは、マイクロチャンバー6の直径によって変動させることが好ましく、マイクロチャンバー1つあたりに収容したい細胞数などに応じて、該チャンバーの深さを適宜決定することができる。具体的には、細胞を10〜15個程度収容できるようにチャンバーの深さを適宜決定することが好ましく、典型的には、マイクロチャンバー6の深さは、20μm〜500μmである。
【0033】
マイクロチャンバー6の形状は、図3では、底部が平坦な逆円錐形である(縦断面が台形を示している。)が、これに限定されず、例えば、円筒形、逆半球形、逆角錐形(逆四角形錐や逆六角形錐等の逆多角形錐)、直方体などでもよい。マイクロチャンバー6の底部は、典型的には平坦であるが、曲面であってもよい。
ここで、マイクロチャンバー6の底部と細胞との接着力を高めることで、マイクロチャンバー6内に細胞を確実に保持できる割合が高くなる。そのため、マイクロチャンバー6内の底部の細胞接着力を高める方法として、例えば、マイクロチャンバー6内の底部に対して、大気雰囲気下でUVを照射するUVオゾン処理や酸素雰囲気下でプラズマを照射する酸素プラズマ処理、あるいは目的細胞と特異的に結合するリガンド(抗体)を塗布することなどを行うことがより好ましい。
【0034】
マイクロチャンバーチップ1の材料としては、従来公知のマイクロプレート等と同じ材料を使用でき、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン〔PDMS〕、ポリメチルメタクリレート〔PMMA〕、環状オレフィンコポリマー〔COC〕などのポリマーが挙げられる。マイクロチャンバーチップ1は、成形されたポリマーに、金属、ガラス、石英ガラスなどからなる基板を貼り合わせたような複数の材料を組み合わせたものであってもよい。
【0035】
マイクロチャンバーチップ1の製造方法は、金型基材表面にマイクロチャンバー6の形状に対応する凸部を有する金型を用いて成形する方法であってもよく、上記ポリマーや金属、ガラスなどからなる基板に直接加工(例えばリソグラフィーによる微細加工、掘削加工、LIGAプロセスなど)を施しマイクロチャンバーを形成する方法であってもよいが、生産性の観点から、金型を用いて成形する製造方法が好ましい。
【0036】
《表面処理》
マイクロチャンバーチップ1は、必要に応じて、表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えばプラズマ処理(酸素プラズマ処理など)やコロナ放電処理、または親水性ポリマーやタンパク質、脂質等でコーティングする処理などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
表面処理をする場合、細胞展開用のマイクロチャンバーチップ1を、マイクロチャンバー6の内壁面まで細胞非接着性にするための表面処理が施される。この表面処理には、ブロッキング剤が用いられる。ブロッキング剤とは、マイクロチャンバーチップ1や流路形成枠体2の内表面の流路5を被覆することで、細胞がそこに非特異的に吸着するのを抑制する物質を指す。
【0038】
表面処理により、細胞がマイクロチャンバー6の内壁に吸着することなく底面に集積しやすくなるため、顕微鏡下の明視野による細胞観察が容易となる。
【0039】
ブロッキング剤としては、例えば、カゼイン、スキムミルク、アルブミン(ウシ血清アルブミン〔BSA〕含む。)、ポリエチレングリコール等の親水性高分子、リン脂質などの他に、エチレンジアミンやアセトニトリルなどの低分子化合物も挙げられ、一種単独で用いても二種以上併用してもよい。
【0040】
ブロッキング処理用液は、ブロッキング剤を適当な溶媒で希釈することにより調製される。この溶媒は、ブロッキング剤に応じて選択されるが、例えば、ブロッキング剤としてBSAを用いる場合は、展開するための細胞が懸濁している溶媒と同様の、生体関連物質に適合する溶媒が好ましく、具体的には、リン酸緩衝生理食塩水〔PBS〕、HEPES、MEM、RPMI、リン酸緩衝液等が用いられる。
【0041】
《流路》
細胞展開用デバイスのマイクロチャンバーチップ上には、主として細胞懸濁液を流すための流路が形成されている。
【0042】
例えば図3(A)に流路の一例を示すが、細胞懸濁液をマイクロチャンバーチップ1上で流通させることが可能なものであれば、この例に限られない。
【0043】
図3(A)に示す例では、マイクロチャンバー6部分を除くマイクロチャンバーチップ1の表面を底面とするとともに、マイクロチャンバーチップ1と一体化して設けられた流路形成枠体2の内表面を側面部および天井部として流路5が形成されている。
【0044】
この流路5は、流路形成枠体2の入口部3と出口部4とに連通しており、入口部3から流入した細胞懸濁液が破線の矢印で示す方向に流路5を流れて、出口部4から流出するようになっている。
【0045】
また流路の別の例として、例えば図3(B)に示すように、流路の底面を、マイクロチャンバー6部分を除くマイクロチャンバーチップ1の表面部分と流路形成枠体2の内表面の一部とから形成してもよい。
【0046】
ただしこの場合、入口部3や出口部4の下方の細胞懸濁液が流下する部分に、マイクロチャンバー6を有しない底面部分があると、この部分に細胞が滞留や付着する等してマイクロチャンバー6に収容されず、細胞の損失につながる場合がある。
【0047】
これを防ぐために、問題となる底面部分をマイクロチャンバーチップ1の一部で置き換えたり、逆に、問題となる底面部分に細胞懸濁液が流下しないように入口部3等を形成したりして、流路がマイクロチャンバーチップ1以外の部材で形成しないようにすることが望ましい。
【0048】
マイクロチャンバーチップ1と流路形成枠体2とは、観察やメンテナンスのしやすさの観点から、係合や螺子固定、粘着等の手段で互いに取り付け・取り外し可能に構成されていることが好ましい(不図示)。
【0049】
さらに、この取り付け等により流路5を形成した後、流路形成枠体2から側面部のみを残し、天井部(流路天板)だけ取り外すこともできるように構成することが好ましい。
流路5の高さ7(図3(A)や図3(B)参照)、すなわち、マイクロチャンバーチップ1のマイクロチャンバー6以外の表面部分から天井部までの距離(以下「天井の高さ」ともいう。)は、50μm〜500μmであることが好ましい。
【0050】
天井の高さが50μm〜500μmの範囲内であると、マイクロチャンバーチップ1のマイクロチャンバー6以外の表面部分に付着した細胞を液流の力で容易に動かすことが可能となる。また、細胞がマイクロチャンバーチップ1の表面に沈降するまでの時間を短縮することができる。さらに、流路内の細胞の目詰まり等が発生しにくくなり、細胞が円滑に展開することができることから好ましい。
【0051】
流路形成枠体2の材料としては、例えばマイクロチャンバーチップ1と同じ材料を用いることが好ましい。
【0052】
ここで、上記のようなマイクロチャンバーチップ1と同様の表面処理(プラズマ処理やコロナ放電処理の電気的処理や、目的の希少細胞以外の夾雑物と好適に結合するような親水性ポリマー、タンパク質、脂質等によるコーティング処理等)を流路形成枠体2に施してもよい。
【0053】
また、例えば図4(B)に示すように、流路形成枠体2を、流路天板2aと、両面に粘着性を有するシリコンシートすなわち流路シール2bとにより構成し、流路シール2bによる粘着により、流路天板2aとマイクロチャンバーチップ1との間に流路シール2bを挟持させることによって、流路5を形成することもできる。なお、符号2cは、補助枠を示す。
【0054】
固定手段により弾性のシリコンシートを挟持する構成とすれば、挟持する強さを調節することで、天井の高さや流路容積等の流路の寸法を調整して、流路内への送圧、流速、ひいては細胞の展開のしやすさや等を調整することができる。
【0055】
また、図4(B)に示すように、流路5の出口部4に接続するようにリザーバー10Aを設けてもよい。このリザーバー10Aの容量は例えば500μL程度であり、入口部3から流入された細胞懸濁液が出口部4から排出されてリザーバー10Aに一時的に貯留されるようになっている。
【0056】
<細胞懸濁液>
細胞懸濁液は、希少細胞を含んでいる可能性がある、例えばヒトなどの血液、リンパ液、組織液、体腔液などであり、希釈液などで適宜希釈されていてもよい。また、細胞懸濁液は、生体由来のものに限定されず、試験・研究等のために人工的に細胞を懸濁させて調製した細胞の分散液であってもよい。特に、血液から赤血球を分離した後の細胞懸濁液を適用することがCTC等の希少細胞の回収・検出には好適である。
【0057】
希少細胞としては、例えば癌細胞などが挙げられる。特に、細胞懸濁液が血液または血液由来検体である場合、希少細胞は、CTC〔循環腫瘍細胞または循環癌細胞〕、CEC〔循環血管内皮細胞〕およびCEP〔循環血管内皮前駆細胞〕のいずれか一種以上の細胞であってもよい。
【0058】
このような細胞懸濁液に含まれる種々の細胞の直径は、10〜100μmであることが好ましいが、少なくともマイクロチャンバーの直径より小さいことが必要である。
【0059】
<工程(W)>
工程(W)とは、下記の工程(X)および工程(Y)の前に、水よりも表面張力の低い水溶液を送液することによって、マイクロチャンバーチップの表面を濡らす工程である。
【0060】
水よりも表面張力の低い水溶液としては、表面張力が水より低いものであれば特に限定されない。
【0061】
送液する水溶液の表面張力を低くするほどマイクロチャンバー6内を濡らすことができることから、送液する水溶液の表面張力γ(mN/m)の好適な範囲としては、送液する温度環境下において、一般的に10≦γ≦60であり、より好ましくは10≦γ≦40であり、更により好ましくは、10≦γ≦35であり、更により好ましくは、10≦γ≦30であり、更により好ましくは、10≦γ≦25である。
【0062】
表面張力が水より低い水溶液としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類を含む水溶液や、TWEEN(登録商標) 20, TRITON(登録商標) X、SDS等の界面活性剤を0.01-1%(w/v)で含む水溶液が該当する。たとえば、エタノール(水溶液)の20℃における表面張力は、濃度100wt%のときは22.4、濃度70wt%のときは26.0、濃度10%のときは47.9である。
【0063】
上記水溶液を細胞展開用デバイス10の流路5に送液すると、マイクロチャンバー6外のみならず、マイクロチャンバー6内も濡らすことができる(図3(A)又は(B)参照)。
【0064】
この後、PBS〔リン酸緩衝生理食塩水〕等の生理食塩水(好ましくは、工程(X)で用いる細胞懸濁液と同じ溶媒)で流路5を満たしておくことが好ましい。
【0065】
<工程(X)>
工程(X)とは、細胞懸濁液を流路に導入し、細胞をマイクロチャンバーチップ上の流路に(好ましくは均一に)展開する工程である。
【0066】
好ましくは、入口部3から細胞懸濁液を連続的に一様に送液し、工程(W)で流路を生理食塩水で満たしていた場合には、その生理食塩水と置換するようにして、細胞懸濁液で流路5を満たす。このとき、入口部3から細胞懸濁液を導入するのと同時に、出口部4から生理食塩水が排出される(図3(A)および図3(B)参照)。
【0067】
ここで、「連続的な一様な送液(以下、連続送液ともいう)」とは、図2に示されるような、流路内が一定の流速で維持されている送液をいう。
【0068】
流路に導入する細胞懸濁液の流速については、流速に比例して細胞展開用デバイス10の入口部3近傍のマイクロチャンバー6に細胞が留まりにくくなるため、流速を高く設定するほどマイクロチャンバー6の長手方向の細胞展開が均一になり、好ましいものとなる。
【0069】
ここで、流路の寸法等との兼ね合いもあるが、上記流速を不必要に高く設定し過ぎると、逆にマイクロチャンバーチップの短手方向に細胞が広がりにくくなる。そのため、長手方向と短手方向とにバランス良く均一に細胞が展開するように、細胞展開用デバイスに見合った流速を適宜設定する必要がある。
【0070】
後述の実施例で示す細胞展開用デバイスでは、流路に導入する細胞懸濁液の流速を10mL/分より大きく設定するとマイクロチャンバーチップの短手方向に細胞が広がりにくくなって細胞展開が不均一となってしまうため、10mL/分以下となる範囲で約1mL/分程度に設定している。
【0071】
細胞懸濁液の導入後、一定時間(例えば1〜15分間)静置させることによって、細胞懸濁液に含有される細胞を沈降させることが好ましい。このとき、例えば図5(A)に示されるように、マイクロチャンバー6内に収容される細胞もあるが、マイクロチャンバーチップ1のマイクロチャンバー6以外の表面部分に付着する細胞もある。
【0072】
細胞がマイクロチャンバーチップ1上の流路に均一に展開されていると、下記の工程(Y)で行う間欠送液でマイクロチャンバー内に細胞をより多く回収することができるようになる。
【0073】
その結果、工程(Y)で所定の細胞の回収率に到達するまでの時間を短縮することができる、すなわち、より少ない回数の間欠送液によって、細胞がマイクロチャンバー6内に収容され易いことから、好適である。
【0074】
<工程(Y)>
工程(Y)とは、間欠送液等の操作により、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞に対して、細胞の位置を移動させる移動力を間欠的に付与することで、流路に存在する細胞を移動させてマイクロチャンバー内に収容する工程である。
【0075】
この移動力は、好ましくは、マイクロチャンバー外の流路に位置する細胞を主として移動させる程度の力である。
【0076】
《間欠送液》
「間欠送液」は、図1に示すように、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞、特にマイクロチャンバーチップのマイクロチャンバー以外の表面部分に存在する細胞を送液方向に移動させるための、相対的に短時間の「ワンショット送液」と、細胞が送液方向に基本的に移動せず細胞をマイクロチャンバーチップ表面に実質的に沈降させるための、相対的に長時間の「静置」とからなる。
【0077】
この「ワンショット送液」の開始から「静置」の終了、すなわち「ワンショット送液」の開始から次の「ワンショット送液」の開始までを間欠送液の1サイクルとする。
【0078】
送液を駆動する装置が、所定の送液圧を所定時間、流路内に発生させて、流路内の細胞の少なくとも一部がマイクロチャンバーの直上へ移動する送液をすると「ワンショット送液」となる。顕微鏡などで細胞の移動量を確認して送液を行うことで、ワンショット送液の送液圧や時間を設定することができる。流路内の細胞をマイクロチャンバーの直径程度移動させるワンショット送液とすることが好ましい。
【0079】
送液を駆動する装置が送液圧を発生させない(すなわち、無駆動の状態になる)と「静置」となる。静置は、その直前に発生した送液圧の慣性により流速がゼロを示さない状態を含んでいてもよい。
【0080】
このワンショット送液によって、流路内に瞬間的に圧力の高い状態、かつ、流路方向に直交する方向で流路中央部からその両側の流路周辺部までの流速が均一に近い状態となり、マイクロチャンバーチップのマイクロチャンバー以外の表面部分等に付着した細胞が移動し易くなる。その後の静置によって、移動した細胞の少なくとも一部がマイクロチャンバー内に収容される。
【0081】
ワンショット送液では、希少細胞の回収と検出に悪影響を与えない緩衝液等の溶液を送液する。好ましくは流路に対して所定量の生理食塩水(例えば、工程(X)で用いる細胞懸濁液と同じ緩衝液)を送液する。
【0082】
この送液量は、例えば、流路に導入した細胞懸濁液の体積の1/100〜1/2程度(例えば1/50)に設定するのが好ましい。
【0083】
また、単位時間当たりの送液量については、流路の断面積が1〜1000mm2である場合、1〜1000μL/秒の流量(1秒間あたりの流量が、流速1mm/秒以下となる流量)に調整することが好ましい。
【0084】
具体的には、例えば、マイクロチャンバー(直径100μm、深さ50μm)を表面に有するマイクロチャンバーチップに流路(幅15mm、高さ100μm)が形成された細胞展開用デバイスを用いる場合、流路の断面積が1.5mm2となるので、1500μL/秒以下の流量に調整することが好ましい。
【0085】
ワンショット送液後、所定時間(例えば1〜30秒間)静置させる。この静置は、具体的には、例えば3〜5秒間行う。
【0086】
このワンショット送液から静置までの間欠送液1サイクルを2回以上繰り返すことが好ましく、より好ましくは10回以上、さらに好ましくは60回以上繰り返す。1回のワンショット送液によって、通常、細胞は50μmほど移動する。
【0087】
なお、間欠送液を複数回行う場合、それぞれのサイクルにおいて、ワンショット送液の流量や静置時間の条件などは異なっていても、同じであってもよい。
また、入口部のみから間欠送液してもよいが、入口部と出口部の双方から交互に間欠送液するようにしてもよい。
【0088】
具体的には、入口部から流路に対して間欠送液を一又は複数回行った後、出口部から流路に対して間欠送液を一又は複数回を行うこととしてもよい。
【0089】
入口部と出口部の双方から交互に間欠送液を行うことで、マイクロチャンバーに収容されずに通過してしまった細胞を逆方向に往復移動させて収容することができるようになり、細胞の回収率を向上させることができる。
【0090】
ここで、間欠送液の回数については、マイクロチャンバー間のピッチの長さを1回のワンショット送液で細胞が移動する距離で除した値に近似する整数値としてもよい。
【0091】
このようにすることで、細胞懸濁液を導入した後のマイクロチャンバー表面に均一に展開した細胞の密度を極力維持しながら、マイクロチャンバー内に細胞の回収を図ることができ、マイクロチャンバー間で収容される細胞数にムラが生じにくいものとなる。この結果、一のマイクロチャンバーが細胞で飽和するおそれも低減する。
【0092】
さらに、上記交互に行う一連の間欠送液を1セットとして、これを繰り返す間欠送液を行ってもよい。このようにすることで、細胞の回収率をさらに向上させることができる。
【0093】
なお、入口部や出口部からの間欠送液に限らず、流路内の細胞を往復移動させる間欠送液であれば上述した間欠送液に限定されない。
【0094】
《間欠送液以外の方法》
流路に展開された細胞の位置が移動する移動力を付与する方法としては、マイクロチャンバーチップ上の流路に展開された細胞の位置が移動する移動力を間欠的に付与することができればよいので、上述した間欠送液に限らない。
【0095】
例えば、生理食塩水の代わりに細胞に悪影響を与えない窒素ガスや空気等のガスを間欠的に流路に圧送して流路の細胞懸濁液を移動させることにより流路に展開した細胞に移動力を付与してもよい。この圧送は、流路の細胞懸濁液が過度に移動して細胞懸濁液が部分的に流路に存在しなくなる状態となるのを防ぐために、入口部と出口部とから交互に圧送するのが好ましい。
【0096】
この構成によれば、流路に展開した細胞に対して間欠的に移動力を付与できる上に、生理食塩水等を加えないので、細胞懸濁液が不必要に希釈化されてしまうことを防止することができ、細胞の回収率の低下を防止することができる。
【0097】
これとは別に、チャンバーチップをチャンバーチップの入口部から出口部の方向に遠心力が働くように遠心回転させて流路に展開した細胞に対して間欠的に移動力を付与してもよい。このとき、チャンバーチップを180°回転させて遠心力の働く方向を逆転し細胞懸濁液の移動方向を反転させてもよい。
【0098】
遠心回転は、細胞移動しすぎない程度の低速(例えば1〜100r.p.m.程度)で行うことが好ましいが細胞の種類やデバイス形状にもよって調節する必要がある。この構成により、上述したように生理食塩水等の添加による細胞懸濁液の希釈化とこれによる回収率の低下の防止を図ることができる。
【0099】
この他、マイクロチップをシェーカー等により間欠的に傾斜させて細胞懸濁液を移動させることで流路の細胞に対して移動力を付与してもよいし、マイクロチップに間欠的に振動を加えて流路の細胞に対して移動力を付与してもよい。
【0100】
<工程(Z)>
工程(Z)とは、上記の工程(Y)の後に、上記間欠送液の最大流速と同じ流速か、またはこれより大きい流速で連続送液することによって、マイクロチャンバー内に重層して収容された細胞の一部を、マイクロチャンバー外に出す工程である。
【0101】
工程(Z)を行うことで、マイクロチャンバー内の細胞が単層化されて、細胞染色や細胞観察しやすい状態とすることができる。
【0102】
細胞を展開した後、間欠送液と連続送液とを組み合わせることによって、マイクロチャンバー内に収容、保持された細胞を単層化することができるため、細胞を観察するのに好適である。
【0103】
過剰数の細胞がマイクロチャンバー6内に収容、保持されている場合、マイクロチャンバー6の底面に付着している細胞からなる層(一層目)とその細胞層に付着している細胞からなる層(二層目)とに分けられるとすると、通常、一層目の細胞と二層目の細胞との付着力の方が、マイクロチャンバー6底面と一層目の細胞との付着力より弱いことから、上記間欠送液の最大流速と同じ流速か、またはこれより大きい流速で連続送液すると、二層目の細胞はマイクロチャンバー6外に出易くなるからである。
【0104】
本発明に係る希少細胞の検出方法は、上記希少細胞の回収方法に加えて、下記染色工程と検出工程を含む。
【0105】
《染色工程》
染色工程は、対象とする特定の希少細胞のみを染色することが可能な染色液(例えば、蛍光色素が標識された抗体の溶液)により、マイクロチャンバー内に保持されている希少細胞を染色する工程である。
【0106】
(循環腫瘍細胞〔CTC〕)
循環腫瘍細胞〔CTC〕であるか否かは、細胞の核染色が陽性であってCD45が陽性ではない(白血球ではない)ものをCTCと判別することができる。この核染色は例えば細胞を殺さないニュートラルレッド溶液による核染色、CD45の有無の判別は、例えば蛍光標識した抗CD45抗体により抗原抗体反応を行うことができる。これらの染色を、マイクロチャンバーに収容した細胞を対して行うことで、マイクロチャンバー内のどの細胞がCTCであるかを判別することができる。
【0107】
(循環血管内皮細胞〔CEC〕)
また、循環血管内皮細胞〔CEC〕の場合には、例えば内皮細胞マーカー(CD31やCD51/61)の発現を蛍光等で標識した抗CD31抗体や抗CD51/61抗体による染色により判別することができる。この場合、さらに腫瘍細胞か否かは、例えば内皮細胞が腫瘍化したときに発現するCD146に対して特異的に反応する、蛍光標識等した抗ヒトCD146によりマイクロチャンバー内に収容した細胞を染色することにより、いずれの細胞が腫瘍化した内皮細胞であるか判別することができる。
【0108】
(循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕)
例えば、マイクロチャンバー毎の細胞集団について、一般的なALDH活性測定法(細胞のALDH(酵素)+BAAA(基質、Bodipy−aminoacetaldehyde)→BAA−(Bodipy−aminoacetate、蛍光発光))を実施し、ALDH活性を指標に、よりALDH活性が高い細胞集団を循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕を含む細胞集団を特定し、さらにこの特定した細胞集団から同様にALDH活性測定法によりどの細胞が循環血管内皮前駆細胞〔CEP〕であるか特定することができる。
【0109】
染色工程は、例えば、図3(A)又は図3(B)に示すように、対象とする特定の希少細胞のみを染色することが可能な染色液(例えば、蛍光色素が標識された抗体の溶液)を入口部3から導入し、特定の条件で細胞と反応させた後、出口部4から排出し、さらに、細胞や流路5内を洗浄するために、洗浄液を入口部3から導入し出口部4から排出させるという洗浄工程を1回以上実施する。
【0110】
細胞はマイクロチャンバー6内に保持されているため、染色液や洗浄液とともに出口部4から排出されにくいのに対して、マイクロチャンバー6内に保持されずに、マイクロチャンバーチップ1のマイクロチャンバー6以外の表面部分に付着していた細胞は、染色液や洗浄液とともに出口部4から排出されやすい。
【0111】
すなわち、細胞を展開した後、希少細胞を検出するために、希少細胞を染色する工程やその後の洗浄工程などを実施する際に、マイクロチャンバーチップのマイクロチャンバー以外の表面部分に残存していた細胞は、染色液や洗浄液とともに出口部から流出するおそれがあるが、マイクロチャンバー内に収容、保持された細胞は、染色工程や洗浄工程を実施しても、マイクロチャンバー内に保持されるため、出口部からほとんど流出することがない。細胞をマイクロチャンバー内に保持する力を強化するためには、目的細胞を特異的に結合するリガンドをマイクロチャンバー内の底部に固定しておくことがより好ましい。
【0112】
《検出工程》
検出工程は、染色工程で染色されたマイクロチャンバー内の希少細胞を観察や検出機器等で検出する工程である。
【0113】
マイクロチャンバー6内に保持されて染色された希少細胞は、顕微鏡下で観察や検出等をすることができる。工程(Z)によりマイクロチャンバー内に保持された希少細胞を単層化した状態で検出することが好ましい。また、希少細胞の分離は、染色工程で染色された細胞を含むマイクロチャンバーから、細胞保持用ガラスマイクロピペット等により希少細胞のみを取り出すことで行うことができる。
<希少細胞回収システム>
本発明に係る好ましい一例としての希少細胞回収システム100は、図8に例示するように、上述した細胞展開用デバイス10と、細胞展開用デバイス10の流路5(図3参照)に送液可能なポンプを有する送液装置20と、送液装置20の送液等を含む各部材の動作を制御する制御手段17等とを備えている。より好ましくは、希少細胞回収システム100は、さらに、前記細胞展開用デバイス10のマイクロチャンバー6内に回収された希少細胞を検出するための光学検出系50を備えている。
制御手段17は、一般的なパーソナルコンピュータ等であり、図8の例では希少細胞特定部18と記憶媒体19等とを有し、記憶媒体19は送液装置20を制御して上述した工程(X)、工程(Y)、および工程(Z)をこの順で行うためのプログラムを記憶している。また、記憶媒体19は、任意に、工程(X)の前に工程(W)を行うプログラム、および/または、工程(Z)の後に染色工程および検出工程を行うためのプログラムを記憶している。
また、制御手段17は、送液装置20を制御して、送液ステーション21に保管されている各溶液(細胞懸濁液のサンプル22、洗浄液25、及び染色液(標識抗体溶液)24等)を採液させて前記流路6に送液(連続送液、間欠送液)させる。この制御手段17は、間欠送液する際には、マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる手段として機能する。
希少細胞をマイクロチャンバー6に回収した後に、希少細胞回収システム100の光学検出系50により上述した検出工程を行う場合、以下のように行われる。まず、細胞展開用デバイス10のマイクロチャンバー6内の細胞が存在する状態で、制御手段17の制御により、光源8がマイクロチャンバー6に向けて励起光27を照射し、励起光27が細胞展開用デバイス10のマイクロチャンバー6内や流路5で反射して反射光29と、場合により蛍光28とを生じる。ここで、励起波長27は前述の蛍光色素を励起可能な波長である。
所定の受光位置に配置されたチャンバー検出部16は、前記反射光29を受光して、反射光29の強弱から励起光27の照射位置がマイクロチャンバー6の位置であるか流路5であるかを特定する。一方、細胞展開用デバイス10の上方には、下から順に、集光レンズ11、エミッションフィルタ12、ピンホール部材13、集光レンズ14およびPMT(光電子増倍管)が同軸で配置されており、励起光27の照射によりマイクロチャンバー6内の希少細胞に結合している蛍光標識から発した蛍光28が、希少細胞検出部15に導かれて、希少細胞の蛍光シグナルを希少細胞検出部15で検出する。なお、この検出は上記光学検出系の代わりに蛍光顕微鏡を用いて行うこととしてもよい。制御手段17は、蛍光28の強度から、希少細胞の有無や位置の特定を行い、送液装置20のポンプを制御して希少細胞をピックアップする。
上述した希少細胞回収システム100の他の例として、希少細胞回収システム100の構成に加えて、細胞展開用デバイス10を保持しつつ傾斜させて、制御手段17の制御を受けて、マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる移動力を上述したように間欠的に付与するシェーカーを設けてもよい。これとは別に、マイクロチャンバーチップを保持可能な保持手段を備え、前記制御手段17の制御を受けて、細胞展開用デバイス10の一端部を保持して間欠的に遠心力を付与することにより、マイクロチャンバーチップ上に展開された細胞の位置を移動させる移動力を上述したように間欠的に付与する遠心装置を設けてもよい。また、細胞展開用デバイス10上のマイクロチャンバー6の位置が予め記憶されて、細胞展開デバイス10の位置制御が行われる場合や細胞展開用デバイス10に基準位置マークなどが付与されている場合など、マイクロチャンバー6の位置を特段に検出する必要なく細胞展開デバイス10の位置制御を行うなどの際には、チャンバー検出部16を省略することもできる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0115】
[実施例1]
マイクロチャンバーチップとして、直径100μm、深さ50μmのマイクロチャンバーが格子状に配置(隣接するマイクロチャンバー底面の中心間の距離であるピッチは210μm)されたものを使用した。マイクロチャンバーチップはポリスチレン製であり、マイクロチャンバーの形状は、底部が平坦な逆円錐形であった。
【0116】
マイクロチャンバーが形成されているマイクロチャンバーチップの表面に、縦15mm、横26mm、高さ100μmの流路が形成されるように、ポリスチレン製の流路形成枠体を配設して、マイクロチャンバーチップと流路形成枠体を一体化した。得られた細胞展開用デバイスの流路は、1.5mm2の断面積、39mm3(=39μL)の容積を有する。なお、送液装置は、KDS 200 2本架シリンジポンプ(Kd Scientific社製)を用いた。
【0117】
なお、流路形成枠体には入口部と出口部がそれぞれ形成されており、一体化した状態で、流路を介して入口部と出口部とが連通している。
【0118】
工程(W)として、70%エタノール水溶液を流量1mL/分(=流速11. 11μm/秒)で100μL送液した後、細胞展開用デバイス10の入口部3からPBSを流量1mL/分で200μL送液することによって、マイクロチャンバー内の気泡を除去した。
【0119】
工程(X)として、0.4%ホルムアルデヒドで細胞固定したJurkat細胞をPBSで懸濁した細胞懸濁液(1×106cells/mL)を、流量0.1mL/分(=流速1. 11μm/秒)で100μL連続送液し、マイクロチャンバーチップ表面に細胞展開した。5分間静置した後のマイクロチャンバーチップ表面の拡大画像を図5(A)に示す。白い点が細胞を表わすが、細胞はマイクロチャンバー内外に分散して沈降していた。
【0120】
工程(Y)として、流量0.1mL/分でPBS0.1μLを流路に送液するワンショット送液とその後の5秒間の静置とからなる間欠送液を連続的に10回行った。このときのマイクロチャンバー表面の拡大画像を図5(B)に示す。間欠送液前にはマイクロチャンバー外に散らばっていた細胞のほとんどが、マイクロチャンバー内に収容されていることを確認することができた。
【0121】
細胞展開用デバイスの流路に導入した全細胞数を100%としたとき、マイクロチャンバー内に収容された細胞数は98%に相当した。すなわち、細胞の回収率は98%であった。
【0122】
なお、細胞回収率については、回収細胞数/細胞全体数×100(%)で算出した。この細胞全体数については、血球計算盤を用いて細胞懸濁液中の細胞濃度を算出し、流路に導入した体積から換算した。
【0123】
一方、回収細胞数については、細胞を顕微鏡下にて目視でカウントした。具体的には、流路内のいくつかのマイクロチャンバーを選択し、それに保持されている細胞のカウントを行い、マイクロチャンバー1つ当たりの平均細胞数を算出し、前記平均細胞数に流路内の全チャンバー数を乗じた数を回収した回収細胞数とした。
【0124】
[実施例2]
実施例1の工程(Y)の後に、工程(Z)を実施した。すなわち、工程(Z)として、PBSを流量0.1mL/分で200μL連続送液した。図6に示すように、実施例1の工程(Y)実施後、マイクロチャンバー内に収容され一部のマイクロチャンバー内で重層化した細胞(図6(A))が、工程(Z)を実施することによって単層化した(図6(B))。
【0125】
[実施例3]
実施例2の工程(Z)の後に、Hoechst33342染色液を0. 1mL/分で200μL連続送液した。3分後、顕微鏡で細胞を観察した。その結果を図7に示す。このHoechst33342染色液は、Molecular Probe社 「Hoechst33342 10mg/mL solution in water」を同社の手順書に従って希釈して調製した。
図7では、一つのマイクロチャンバーしか示していないが、細胞展開用デバイスに導入した全細胞のうち90%に相当する数の細胞が染色されていた。
【0126】
[実施例4〜6]
実施例1において、マイクロチャンバーチップの代わりに、マイクロチャンバーの底部に、メイワフォーシス社製のUVオゾンクリーナーにてUVオゾン処理を0秒、30秒、1分間行ったマイクロチャンバーチップを使用した以外は実施例1と同様にして工程(W)、(X)、 (Y)を実施した。その後、工程(Z)として、PBSを流量10mL/分で200μL連続送液した。
【0127】
UVオゾン処理を施したマイクロチャンバーと水の接触角(以下、接触角と略称する。
)をFTA社製の動的接触角計(FTA105)にて測定した結果、70度であった。
顕微鏡で細胞を観察したら、マイクロチャンバー内に収容された第1層目の細胞が安定して保持されていた。
【0128】
【表1】
【0129】
[実施例7]
実施例1において、実施例1で用いたPBSの代わりにBSAを3重量%含有するPBSを用いた点、工程(Y)の流量を0.1mL/分から0.05mL/分に変更した点以外は実施例1と同様に工程(W)、(X)および(Y)を実施し細胞を観察した。この結果、より低流量の間欠送液にて実施例1とほぼ同程度の細胞回収率を達成出来た。
【0130】
[実施例8]
実施例1の工程(Y)として、シェーカー(Heidolph社polyMAX1040)を20rpm1分間とその後の5秒間の静置を連続的に10回繰り返した。細胞を観察した結果、ポンプ駆動なしで実施例1とほぼ同程度の細胞回収率を達成出来た。
【0131】
[比較例1]
実施例1において、工程(Y)を実施しなかった以外は実施例1と同様に細胞観察を行った。
その結果、図5(A)と同様に、マイクロチャンバー外にも細胞が多数散らばっていた。
【0132】
以上、本発明に係る実施の形態および実施例を、図面を参照しながら説明してきたが、本発明はこれら実施の形態および実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限り、設計変更等は許容される。
【0133】
例えば、流路形成枠体2とマイクロチャンバーチップ1とにより流路5を形成しているが、この構成に限られない。すなわち、流路は、細胞懸濁液をマイクロチャンバーチップ1上で流通させることができるものであればよいことから、例えば、マイクロチャンバーチップ1に対して、流路の壁部や天井部を射出成形により一体的に連続形成して流路5を形成してもよい。
【符号の説明】
【0134】
1 ・・・マイクロチャンバーチップ
2 ・・・流路形成枠体
2a・・・流路天板
2b・・・流路シール
3 ・・・入口部
4 ・・・出口部
5 ・・・流路
6 ・・・マイクロチャンバー
7 ・・・流路5の高さ
10 ・・・細胞展開用デバイス
10A ・・・リザーバー
11 集光レンズ
12 エミッションフィルタ
13 ピンホール部材
14 集光レンズ
15 PMT
16 チャンバー検出部
17 コンピュータ
18 希少細胞特定部
19 記憶媒体
20 送液ポンプ(送液装置)
21 送液ステーション
22 サンプル
23 希釈液
24 標識抗体溶液
25 洗浄液
26 廃液容器
27 励起光
28 蛍光
29 反射光
50 光学検出系
100 希少細胞回収システム
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図5】
【図6】
【図7】
【国際調査報告】