(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2016052683
(43)【国際公開日】20160407
【発行日】20180208
(54)【発明の名称】着座補助具
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/11 20060101AFI20180112BHJP
   A47C 7/42 20060101ALI20180112BHJP
   A61G 5/10 20060101ALI20180112BHJP
【FI】
   !A47C31/11 F
   !A47C7/42
   !A61G5/10 707
   !A61G5/10 710
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
【出願番号】2016552154
(21)【国際出願番号】JP2015077884
(22)【国際出願日】20150930
(31)【優先権主張番号】2014202644
(32)【優先日】20140930
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512036487
【氏名又は名称】村上 潤
【住所又は居所】大阪府河内長野市加賀田2649番地
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】村上 潤
【住所又は居所】東京都大田区羽田4−10−2
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084EC03
3B084FA03
3B084HA07
(57)【要約】
着座時に骨盤が傾斜した位置にありながら長期に安楽に維持させるのに適した、着座動作がしやすく、身障者の姿勢保持にも適した着座補助具を提供する。
背面部と座面部からなる外装体とその座面部にクッションを備えた、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするクッションと、座面上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高した傾斜面を備え、榻背部上方から吊り下げらることで着座者の背面と座面を支持するものであって、さらに伸縮性の弾性紐体の一端を座面部裏面側後端部に固定して、他端を椅子の座面前方に係止可能としたことを特徴とする着座補助具である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面部と座面部からなる外装体とその座面部にクッションを備えた、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、該クッションは、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面を備えており、該外装体はその背面部を椅子又は車椅子の榻背部上方から吊り下げられることで着座者の背面と座面を支持するものであって、さらに伸縮性の弾性紐体の一端を座面部裏面側後端部に固定して、他端を椅子の座面前方に係止可能としたことを特徴とする、着座補助具。
【請求項2】
前記の弾性紐体は左右1対からなるものであって、それぞれの弾性紐体は、その一端を座面部底面側の後端部にそれぞれ固定しており、他端を椅子の座面前方の脚部にそれぞれ係止可能としたことを特徴とする、請求項1に記載の着座補助具。
【請求項3】
非伸縮の紐体を座面部前方より露出させて持ち手とする座面引出具を備えていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の着座補助具。
【請求項4】
前記背面部の着座者当接面から突出する帯状の脇部支持体を設け、その一端を椅子の座面前方の脚部に設けた着脱器具と着脱自在に係止可能としたことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の着座補助具。
【請求項5】
前記背面部の着座者当接面から突出する帯状の脇部支持体は、背面部の左右端よりも中央寄りの位置から突出している左右1対の脇部支持体であって、その一端を椅子の座面前方の脚部に設けた着脱器具と着脱自在に係止可能としたことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の着座補助具。
【請求項6】
前記の脇部支持体の一端を係止するための着脱器具は、左側の脇部支持体を係止する着脱器具を椅子の座面前方の右脚部側に設け、右側の脇部支持体を係止する着脱器具を椅子の座面前方の左脚部側に設けていることを特徴とする、請求項5に記載の着座補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子もしくは車椅子等への着座補助具に関するものであり、健常者及び身障者のいずれへも適切に着座時の身体負荷を低減させ、着座姿勢を快適なままに長期に保持しうる着座補助器具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前提となる本発明にいう適切な着座姿勢について以下に記載する。人の体幹と下肢とは、骨盤を介して連結されており、骨盤の上方は仙骨底により第5腰椎と、下方は寛骨臼により大腿骨頭と関節で連結している。そして、骨盤をつくっている骨は仙骨、尾骨および左右の寛骨である。寛骨はさらに腸骨、恥骨、坐骨の3部から成っている。
【0003】
そして、人が真っ直ぐに直立した姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)のときには、骨盤は坐骨が一番下側に位置する状態で垂直に安定した形になる。そして、耳の穴、肩(肩峰)、大転子(股関節の付け根の骨)、膝のやや前方、外果(外くるぶし)が一直線になった状態が、背筋の伸びた美しい姿勢(側面から見て脊柱がダブルS字状を描いた姿勢)とされている。
【0004】
従来、着座時も直立時のように背筋の伸びた姿勢が理想的な美しい姿として指向されてきた。それゆえに座面や背もたれの位置、角度を工夫することで着座時にも直立姿勢のような背筋の伸びた状態を維持する椅子が製作されてきた。
【0005】
しかしながら、この姿勢のまま着座すれば、坐骨に大きな荷重がかかり、座面に接する臀部の一部に偏った荷重がかかることとなる。また長時間同じ姿勢を保持するには、無理な姿勢ゆえに余計な筋力を要するものであった。
【0006】
そこで、快適な着座姿勢を保持できるようにするために、着座面のクッションに工夫をして、体圧分散に適するようにするべく、たとえば、低反発ウレタン樹脂を用いたり(たとえば特許文献1、段落0024参照。)した椅子の上に載せ置くクッション材が知られている。
しかしながら、体圧を分散させるといっても、単に低反発なクッションを用いただけでは、着座者の身体の凹凸に合わせてゆっくり沈み込むものの、沈み込むだけであれば追従するのみであるから、望ましい姿勢を保持するというには十分とはいえない。また沈み込んでしまった状態での局所的にかかる荷重が軽減されるわけではないので、長時間着座すると姿勢保持に筋力を要したり、臀部や腰部が疲労するようになるといった点の解消には十分ではなかった。
【0007】
たとえば、姿勢に合わせるものとして、人の脊柱の腰部のS字状の湾曲や、頸椎部のS字状の湾曲に沿わせるように、背もたれ部の形状を湾曲させた椅子がある(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、直立姿勢の脊柱を座った状態でも保持させるための椅子であるため、骨盤が直立時と同じく坐骨を真下に位置せしめ垂直に保持された状態で座ることとなるので、坐骨に荷重が集中し、臀部が局所的に疲労する点では、いまだ十分なものではなかった。
【0008】
そこで、本発明者は、さらに人間工学的に直立時と着座時の姿勢の違いについて、骨格と筋肉の張力バランスを考察することで、以下のように、着座時には弛緩した状態では、背中が丸くなるのが自然であることを見出している。
【0009】
まず、人は立位の直立姿勢をとっているとき、図12(a)に示すように、下腹部側の「腸腰筋群」27と臀部側の「殿筋群」28の二つの筋肉が拮抗筋として作用することから、股関節という不安定な関節を跨いでお互いに引っ張り合う張力によって骨盤22は坐骨を真下に位置させた「立った位置」でしっかりと安定保持されている。すなわち、真っ直ぐ立っているときには、前後の拮抗筋の張力でバランスがはかられるので、さほど筋力を使うことなくとも、そのまま楽に姿勢を維持することができる。
【0010】
ところで、人が座位の姿勢をとり、股関節が90度近く曲がることとなると、図12(b)に示すように、一方では下腹部側の「腸腰筋群」27は筋の付着部である腰椎と大腿骨の位置が近くなり、伸びていた筋肉が緩むので張力が弱まることとなる。他方、臀部側の「殿筋群」28は骨盤22から股関節を中心に大腿骨まで、外側を回り込むようにして引き延ばされるので、張力が強くかかることとなる。
【0011】
そこで、座位姿勢時に、骨盤22を支えているこれらの腸腰筋群と殿筋群といった拮抗筋が張力のバランスをとろうとすると、立位では坐骨を下に位置させて垂直に「立った位置」にあった骨盤22が、坐骨を前方に押し出すように傾倒し、「傾斜した位置」となる。すなわち、骨盤を垂直に立った位置で安定させていた立位姿勢での筋肉の張力が、座位姿勢では、股関節を中心に骨盤を傾倒させる筋肉の張力として作用するのである。
【0012】
すると、土台となる骨盤が傾倒しているので、その上方に位置する腰椎をはじめとする脊柱が、S字状に真っ直ぐ伸びた姿勢を維持するには、かえって余計な筋力を要することとなる。すなわち、図9(a)に示すように、骨盤22や腰椎の位置が坐骨23を下にして坐骨底面の向き17が直立時のような水平の向きになると、かえって余計な筋力を要するのである。
【0013】
そこで、健常者でも身障者でも、あえて弛緩して座ったときには、骨盤が自然と傾倒し、それに応じて背中も丸くなる。以上のことから、着座姿勢は直立時の姿勢に近いものを理想とうするべきではなく、むしろ、図9(b)のように、骨盤22が坐骨23を少し前に倒したようにして坐骨底面の向き17が「傾斜した位置」をとることのほうが安楽なのである。ずっこけたような、背中が丸く湾曲した姿勢のままに安楽に着座できるほうが余計な力が入っておらず、自然で楽だから長時間の着座でも疲れないのである。
【0014】
そして、本願発明者は、こうした着想に基づいて、背筋の湾曲に沿うようにして背面を支える種々の椅子を発明してきた(たとえば特許文献3参照。)。こうした椅子を提供することができれば、姿勢を保持しやすく筋力を要しないものとなるものの、しかしながら、自然座位姿勢を誘導するために、個々人に最適な着座姿勢となる椅子の位置形状を具体的には模索しなければならず、各人が使用するに際して、適用なものを直ちに得ることが必ずしも容易ではなかった。また、本願発明者が考案しているような椅子を当初から入手するのでなければならず、市販の車椅子など、現在使用している着座具を使用するときには、対応できないものであった。
【0015】
また、着座者が腰部から腹部にかけて装着するコルセットを添設した金属プレートの上部を折り曲げてフックとして背もれに掛止めるとともに、膝裏付近に着座者を支持するクッションを設けた、腰痛予防軽減用の補助具がある(たとえば特許文献4参照。)。これは、臀部の直下は空洞であって座骨等を支えるものがなく、吊り下げられたコルセットによって体重の70%を支え、膝裏のクッションで残りの30%を支持するというものである。コルセットを巻いた腰部と腹部が共に拘束されるものであること、腰痛予防・軽減目的であって背骨がS字状に伸びるなどしており、着座姿勢に対するアプローチの方向性を大きく異にしている。また、臀部の直下が空洞であるといった特殊な椅子であることから、補助具ではなく、実質的には、専用の椅子に等しい構造であった。
【0016】
また、車椅子の座面に載せて、使用者が車椅子からずり落ちるのを防ぐ補助具として、使用者の背面側の骨盤部に当接しうるよう骨盤サポートを背もたれ下部と骨盤との間の隙間の間を傾動可能とするべく、骨盤サポートを下方で支持する左右のスライド杆を左右の側部フレームの後端部上を前後にスライド移動せしめるものとし、また、座面の前端からはみ出す膝裏側の大腿部を大腿部サポートにより支持し、臀部のあたりを窪ませて前方へずれるのを防止するとともに、車椅子の座面の後端側に係止される係止片もしくは係止バーで補助具全体が前方へ移動しないようにした車椅子用補助具である(たとえば特許文献5参照。)。
【0017】
上記の車椅子用補助具は、膝裏を高くして臀部をくぼませたクッションを用いており、膝裏を高めたことで使用者が前方へずり落ちるのを防止するものであって、かつ背面側に生じる隙間を背面側の角度調整によってサポートしようとしている。もっとも、補助具自身が側部に湾曲したフレームを備えており、車椅子の座面のフレームの上にさらに屋上屋を重ねたような二重構造となるものであるから、骨組みの分だけ補助具自身の荷重も増して、重く複雑なものとなっている。さらに、フレームは、予め湾曲させた角度をもたせたうえで、骨盤サポートなる傾動部は、下方の付け根が前後に移動することで角度を可変とするものであることからすると、傾動角度と前後にスライド移動させる動きはリンクしており、両者を切り離して角度と前後位置を個別に調整する余地はない。そこで、椅子の背面と腰部との隙間を埋めるといっても、必ずしもジャストフィットするわけではなく、その効果には限界があった。
【0018】
また、補助具全体が前方に移動することを係止具で座面後端に係止固定することで防止している点で、補助具の座面を椅子や車椅子の座面とはフリーで直接固定していない本発明とでは、自由度が異なっており、着座者の体勢への適応させやすさの点では必ずしも十分とはいえなかった。着座者が使用中に体勢を修正することが容易にできないからである。さらに、弧状に曲がったフレームが角度可変となっても、体型が異なると骨盤のサポートとしては十分なフィット感やサポートを提供するには必ずしも十分とはいいがたかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−329812号公報
【特許文献2】特開2006−075257号公報
【特許文献3】特開2007−307347号公報
【特許文献4】特開2010−158282号公報
【特許文献5】特開2010−099453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
着座時に弛緩しうるよう筋力のバランスを考慮して骨盤が傾斜するように座ろうとするときには、臀部が前方へと移動する、いわばずっこけた姿勢となることが望ましい。ところが、椅子の手前側に着座するようになるので、通常の榻背部(背もたれ部)を有する椅子にそのまま着座すると、かえって背面側の荷重までが座面側に大きくかかってしまうこととなる。そして、座面の一部に大きな荷重がかかることとなることは、長時間の使用に耐えない着座姿勢となることから、弛緩させた姿勢で長時間着座すること自体がそもそも困難であった。
【0021】
しかし、専用の椅子を予め用意しているとは限らないので、こうした姿勢をとったときに十分に姿勢を保持しうるよう補助的な器具が要請されている。そして、骨盤が傾斜した状態では、脊柱がS字状だった直立時とは異なる姿勢となるので、直立時とは変化したことによる荷重のかかり方となるので、その違いにみあった背面のサポートを付与することが要請されている。
【0022】
そこで、着座時に骨盤が傾斜した位置にありながら長期に安楽に維持させることができる、健常者にも身障者にも適した着座補助具を提供することを志向して、本願発明者は、PCT/JP2014/69480に記載の着座補助具を新規に発明するに至った。これは、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、該クッションは、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面を備えており、該外装体はその背面部を椅子又は車椅子の榻背部上方から吊り下げられることで着座者の背面と座面を支持することを特徴とする、着座補助具である。
【0023】
たしかに上記の発明によって、臀部がやや前方に移動した位置で腰掛けて、体を背面に持たせかかったときに、背面側を全体的に支承することで偏りなく体圧を分散せしめ、坐骨近辺にかかる荷重も分散して局所的に集中しにくいものとすることで、着用者が弛緩した姿勢のままに長時間安楽に着座可能となる着座補助具が提供されることとなった。また、椅子(たとえば、自動車の前席シート等も含む。)や車椅子といった種々の背面を有する着座具上に載置しうる簡易な構造の着座補助具であるから、種々の椅子に適用しやすい着座補助具である。
【0024】
もっとも、上記発明の着座補助具を用いても、一回の着座動作で適切な位置に深く腰掛けることができるとは限らず、着座後に再度座り直したり、介助者に適切に補助してもらうことが必要となっていた。すなわち、一般的に、椅子に着座する場合、一旦腰を降ろして座面に荷重をかけたあとで、再度腰を浮かせるようにして身体を適切な位置へと移動させる、座り直しの動作をすることが多い。座り直す理由は、着座する際には椅子を注視するのではなく、前方を向いていることが多いこともあって、適切な着座位置を視認できず、また感覚的にも確認しづらいからである。前方を向いたままに腰掛けるときには、膝裏などに座面の先端が触る感覚をもって、後ろに荷重を移動させていくものの、どこに座面があるのか、荷重をかけ始めるきっかけが把握しにくいので、なかなか思い切って深く腰掛ける動作をしにくいものである。
【0025】
そこで、本発明が解決する課題のひとつは、使用中に骨盤が傾斜した位置にありながら長期に安楽に維持させることができる健常者にも身障者にも適した着座補助具を提供することであって、かつ、着座動作に深く腰掛ける動作をとりやすくする機構を提供することである。すなわち、椅子を使用中に、臀部がやや前方に移動した位置で腰掛けて、体を背面に持たせかかったときに、背面側を全体的に支承することで偏りなく体圧を分散せしめ、坐骨近辺にかかる荷重も分散して局所的に集中しにくいものとすることで、着用者が弛緩した姿勢のままに長時間安楽に着座可能となる着座補助具であって、かつ、椅子(たとえば、自動車の前席シート等も含む。)や車椅子といった種々の背面を有する着座具上に載置しうる簡易な構造の着座補助具であること、そして、さらに、着座補助具の使用に際して適切な姿勢がとれるように、着座補助具への着座動作が適切に行えるようにする機構を提供することである。
【0026】
適切な位置に座りやすくすれば、一人で腰掛け動作をする場合でも、座り直しを少なくできるなど、使用中に効果的な適切な姿勢をとることが容易となるし、介助者が着座動作を手伝う場合であっても、身障者が着座位置を把握して荷重移動を適切にしうることになれば、それだけ介助しやすくなる。そこで、着座動作時に深く適切な位置に導くようにすることが望まれている。
【0027】
また、身障者は健常者のように真っ直ぐ着座すること自体が容易とは限らず、左右に傾いたりして、バランスのよい位置取りが維持できないこともある。そこで、さらなる課題としては、椅子からずり落ちずに長時間腰掛けられるように、安定した姿勢状態を簡易に実現しうる着座補助具が望まれていることから、上記の着座補助具において、さらに使用中の姿勢保持にも適して適切な着座が容易となる機構を備えた着座補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の課題を解決するための手段は、第1の手段では、背面部と座面部からなる外装体とその座面部にクッションを備えた、榻背部を有する椅子又は車椅子に該外装体の座面部を載置して使用する着座補助具であって、該クッションは、座面部後方から座面部中央方向に向かって徐々にその肉厚を厚くするものであって、その座面の上平面を座面部後方から中央に向かって徐々に高くした傾斜面を備えており、該外装体はその背面部を椅子又は車椅子の榻背部上方から吊り下げられることで着座者の背面と座面を支持するものであって、さらに伸縮性の弾性紐体の一端を座面部底面側後端部に固定して、他端を椅子の座面前方に係止可能としたことを特徴とする、着座補助具である。
【0029】
本発明の着座補助具は、着座して使用するときには、あくまで背面上方から吊り下げられるようにして支持されるものであって、着座使用中には、伸縮性の弾性紐体は吊り下げ支持に積極的な寄与をするものではないが、着座していないとき、座面部底面の弾性紐体が縮むことで着座補助具が椅子や車椅子の座面や背面から浮き上がり、座面を前方に斜めに傾斜させるようにして押し出すことになる。すると、着座者が臀部を着座補助具に当接させて深く座りこむことが容易となるので、深く適切な位置に腰掛けるきっかけを得やすいものとなっている。
【0030】
本発明の課題を解決するための第2の手段は、前記の弾性紐体が左右1対からなるものであって、それぞれの弾性紐体は、その一端を座面部底面側の後端部にそれぞれ固定しており、他端を椅子の座面前方の脚部にそれぞれ係止可能としたことを特徴とする、第1の手段に記載の着座補助具である。
【0031】
本発明の課題を解決するための第3の手段は、非伸縮の紐体を座面部前方より露出させて持ち手とする座面引出具を備えていることを特徴とする、第1又は第2の手段に記載の着座補助具である。
【0032】
この座面引出具は、持ち手を着座後に引き出すことで座面が前方に移動することが容易にできる。すると、背面や腰部側の隙間が減り、使用中、適切な姿勢を形成保持しやすくなる。
【0033】
本発明の課題を解決するための第4の手段は、前記背面部の着座者当接面から突出する帯状の脇部支持体を設け、その一端を椅子の座面前方の脚部に設けた着脱器具と着脱自在に係止可能としたことを特徴とする、第1から第3のいずれか1の手段に記載の着座補助具である。
【0034】
本発明の課題を解決するための第5の手段は、前記背面部の着座者当接面から突出する帯状の脇部支持体は、背面部の左右端よりも中央寄りの位置から突出している左右1対の脇部支持体であって、その一端を椅子の座面前方の脚部に設けた着脱器具と着脱自在に係止可能としたことを特徴とする、第1から第3のいずれか1の手段に記載の着座補助具である。
【0035】
本発明の課題を解決するための第6の手段は、前記の脇部支持体の一端を係止するための着脱器具は、左側の脇部支持体を係止する着脱器具を椅子の座面前方の右脚部側に設け、右側の脇部支持体を係止する着脱器具を椅子の座面前方の左脚部側に設けていることを特徴とする、第5の手段に記載の着座補助具である。
【0036】
この脇部支持体は、背面部の左右端ではなく、中心に近い場所から突出して、胴体の片方の脇腹を巻きながら、反対側の前方の脚に着脱自在に係止されるので、左右両方の脇部支持体は、胴体の手前でクロスするようにたすき掛けされる。左右に傾いた姿勢の身障者の姿勢を真っ直ぐに保持しうるのに適したものとなっているが、使用時にはいずれか一方に傾く場合は、そちらの脇腹側を支えるようにすればいいので、左右双方の脇部支持体を同時に用いることが必然となる手段ではない。なお、着脱器具は、たとえば、プラスチック製のバックルなどが好適である。この取り付け位置となる椅子の座面前方の脚部とは、四本ある脚部の前方の立支柱のことであって、肘置きのために座面より高い位置まで延伸されている支柱もここにいう脚部に含まれる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の着座補助具を椅子もしくは車椅子に設置すると、使用する健常者もしくは身障者は、骨盤を坐骨を前方に押し出すように傾倒させて坐る安楽な弛緩した姿勢をとることが簡易にできるので、着座姿勢を長期に維持できることとなる。そして、背面部から座面後方にかけて外装体が着座者の背中から腰部にかけてを包み込むように当接するので、着座者の荷重を広く分散でき、局所に荷重が集中することを避けることができるので、長時間着座をしても疲れにくいものとなる。
【0038】
骨盤を坐骨を前方に傾倒させた状態(弛緩した姿勢)で着座するとき、本発明の着座補助具の座面部上平面の傾斜面が傾倒させた坐骨を下から正対するように受けとめる。すると、座面のクッションは、傾斜面が斜めになった坐骨(坐骨底面の向き)に対応して正体するように当接して支持することができるので、ずっこけたような楽な姿勢のままで坐骨の下から適切に十分に荷重を支承することができる。その際、背面側を包むように伸縮性の素材がサポートするので、坐骨の下で受けとめるクッション材の一点に荷重が集中することはなく、さらに体圧が適度に分散されることになる。そして、座面の傾斜面を坐骨部を支えることで機能を十分に果すので、座面を膝下まで長く延長する必要はなく、コンパクトなものとすることができる。
【0039】
そして、本発明の着座補助具の座面部底面側の後端に固定(たとえば縫着した)伸縮性の弾性紐体は、その他端を椅子や車椅子の前方の脚部に締結されるので、着座前には、上方の吊り下げ部と前方脚部の締結部との間を横からみて斜めに座面が傾斜した待機状態となる。この待機状態は、座面が前方に斜めに押し出されるようになるので、着座しようとする人の臀部が早めに座面と当接することから、荷重をかけだすきっかけがつかみやすく、また、臀部をはじめから座面の深くに位置させることができるので、より適切な位置に最初から座ることが容易となり、座り直す動作を回避・低減できる。
【0040】
着座して使用する際には、あくまで前記のように背面上方から吊り下げられて使用する着座補助具であり、これらの弾性紐体は使用中には積極的な寄与はしないが、着座者が立ち上がると、座面を斜め前方に傾けて押し出して着座待機状態へと復帰することとなる。そこで、繰り返して使用することができ、着座するきっかけを把握しやすく、前方を向きながらでも深く適切な位置に腰かけることができる。また、身障者を介助する場合には、何度も座り直すことは簡単ではないので、深く適切な位置に腰掛けやすいので、便宜である。
【0041】
また、座面前方中央に座面引出具となる紐を設けたことで、着座後に着座者自身又は介助者が座面を引き出すことが容易であり、これにより背面側と背中との接触がより密接となり、体圧分散がより適切なものとなる。
【0042】
さらに、着座時に正常に姿勢を保持できない身障者の場合、左右に傾いたり、前方に突っ伏すように体が倒れてしまい、着座補助具の提供する安楽な姿勢を体感しにくい場面がある。ところが、本発明の脇部支持体を用いると、背面の中央寄りの部分から突出する帯状の脇部支持体が上半身の片方の脇を支えるので、左右一方に傾いた体を適切に起こすことができる。さらに、前方に突っ伏しやすい筋力の弱い身障者においては、左右双方の脇部支持体を前方の脚部に設けた着脱器具にたすき掛けするようにクロスさせて係止せしめることで、左右から胴体を支持するので、上体を後方に安楽にもたせ掛ける姿勢を形成し、それを維持しやすくなる。そこで、前方に突っ伏すことなくなり、長時間の着座において安楽な姿勢を保持できることから、身障者の苦痛を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例1に記載の着座補助具の表面、上平面側である。
【図2】本発明の実施例1に記載の着座補助具の裏面、底面側である。
【図3】本発明の図2に示す弾性紐体の取り付け位置の他のバリエーションである。
【図4】本発明の実施例1に記載の着座補助具の側面図である。
【図5】本発明の実施例1に記載のクッションの構成説明図である。
【図6】本発明の着座補助具を椅子に設置して着座する様子を示した図である。
【図7】本発明の着座補助具を車椅子に設置して着座する様子を示した図である。
【図8】本発明の着座補助具を車椅子に設置して弾性紐体を前方脚部に締結して着座前の待機状態とした様子を示した図である。
【図9】従来例として、(a)通常のハイバックの椅子に背中を沿わせるように着座した場合と、(b)弛緩させた場合の人体の腰椎と骨盤の向きを示した図である。
【図10】本発明の着座補助具を車椅子にセットして(i)健常者、(ii)高齢者1、(iii)高齢者2が着座した場合の坐骨周囲5箇所にかかる荷重の分散の様子を、使用した場合と不使用の場合とで比較した測定図である。
【図11】比較例として、パンテーラ社製の車椅子に着座した場合の圧力測定結果の図である。(a)は背面、(b)は座面にかかる圧力を示す。白色部分が圧力の高い部位である。
【図12】(a)立位および(b)座位において、骨盤を坐骨を下方に位置させた状態での、腸腰筋群と殿筋群の様子を示した図である。
【図13】本発明の実施例2に記載の着座補助具を自動車の前席シートに適用した様子の説明図である。
【図14】本発明の実施例2に記載の着座補助具に関する図であって、(a)は外装体の上平面図であり、(b)は側面から表した図である。
【図15】本発明の実施例3に記載の左右の脇部支持体のバンドと着脱器具を備えた着座補助具を車椅子に装着した図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態の着座補助具を主に車椅子に適用した場合を例にとって、図を参照しながら適宜説明する。なお、椅子であっても、車椅子であっても、基本的な載置する方法は変わらないので、背もたれのある着座しうる椅子であれば、基本的に適用可能である。なお、本発明の着座補助具1は、着座者21の着座姿勢が、骨盤22を直立時のように坐骨23が真っ直ぐ下にくる位置で坐るのではなく、坐骨23が斜めになるように骨盤22がやや傾いた姿勢で着座するような弛緩した姿勢で使用しうるものである。そして、着座時には、坐骨23の傾斜(坐骨底面の向き17)と正対するように座面奥から中央に向かって前方へ高くなった座面部の傾斜面9(傾斜角20度程度)に坐骨23をのせるようにして座ることができるので、本発明の着座補助具1の背面部3全体と座面部4とでしっかりとサポートされた状態で着座者21の身体が安楽に保持され、快適に体圧分散して長時間着座しうるようになっている。そして、本発明の手段は、以下のような実施例の構成などに具現化することができる。
【実施例1】
【0045】
本発明の実施品の一形態の着座補助具1を図1、図2、図4に示す。なお、図3は、弾性紐体の配置のバリエーションである。図1は外装体の上平面側で、たとえば、背面部長さ360mmと座面部長さ380mmで、背面部3と座面部4が一体の外装体となっており、外装体2の全長740×幅400mmの長方形の表地は、伸縮性と体圧分散性と通気性に優れる経編のダブルラッセルの立体的な編目構造のポリエステル製の編地素材で構成されている。そして、図2は裏面側であり、背面部裏面も伸縮性と通気性に優れるダブルラッセルとし、座面部4の底面5には、滑り止めの機能と面ファスナーのフック面との係着に適した機能を持ち合わせるループ状に密集起毛されたB面のニット素材を用いる。上記の外装体に表した表面と裏面とは、その側面を縫製して、一体の外装体2を得るものである。そして、外装体2の座面部4の内部空間6には、座面表面に傾斜面9を設けたクッション7を差し入れるようになっている。他方、外装体2の背面部3には、クッション材を入れてもよいが、クッションを入れずともよく、クッションを入れない場合にはさらに外装体2の表面と裏面のダブルラッセル生地同士を縫製して一体としてもよい。
【0046】
外装体2の背面部3の裏面左右上端部には、椅子24や車椅子25の背面上部もしくは車椅子25の手押しハンドル26の近傍に係止することのできる係止体11の紐12をそれぞれ縫着する。たとえば係止体11の紐12は、12mm幅のポリプロピレン製のリボンを用いる。長さが調整しやすいように、金属製のハトメリングの開口を多数連接して設けて、ハンドル近傍に設けたピンに差し込んで吊り下げ位置を調整する。そして、係止体11の紐12は、外装体2の背面部3の裏面の左右上端部に縫着するものとする。椅子24や車椅子25の背面あるいは左右の手押しハンドル26にそれぞれ係止したりする際に、長さ可変に吊り下げることとなるので、着座補助具1の位置を安定させやすい。外装体2の背面部3の表面と裏面の間に挟むようにして係止体11を縫着しておいてもよいし、さらに芯地に帆布などを挟み込んで用いてもよい。また、係止体11の紐12は荷重がかかっても切れない強度と耐久性を備え、係止金具13などに通して折り曲げ可能で抜け落ちにくい素材であればよい。そこで、ポリプロピレン以外にもナイロンなどのプラスチック樹脂の紐12であれば、一般的に適用しうるものであって、紐12の形状もリボンに限定されるものではなく、さらに断面は円や楕円であってもよい。
【0047】
また、係止体11の紐12は、椅子24や車椅子25の背面上方、あるいは車椅子25の手押しハンドル26近傍のパイプに通して、ハトメ金具の開口孔をピンのついた係止金具13に差し入れることで、吊下げ長さを調整容易に固定支持することを可能とすることができる。係止金具13は、ピンの突き出た金具でなくても、コキや美錠のように長さを調整しうるものであってもよく、プラスチック樹脂でもよい。
【0048】
係止体11の紐12を外装体2の背面部3の裏面の内面側に縫着固定するに際しては、係止体11の縫着部位の周囲に、外装体背面部裏面の内面側を補強するための補強部材14を縫着しておいてもよい。背面部3の裏面の補強部材14は、例えば25mm程度の幅のポリプロピレン製の紐体を係止体11の縫着箇所の上下を縦方向に配して外装体2を補強する。さらに、適宜、着座者21の腰部が当接する背面部3の下方中央の裏面側にも左右の補強部材14から中央に向かってY字状の補強部材20を配してさらに補強効果を増すようにしてもよい。Y字のVの合流する部分が、仙骨、尾骨部から骨盤にかけて当接する位置に相当するものであって、この部分に図示しないがY字状の補強部材のベルトを縫い込むことで、背中の骨格が後方に倒れて行きすぎることなく、しっかり受け止めることができる。そして、係止体11を介して支持される外装体2は、これらの補強と相俟って着座者の荷重で伸縮するも適度な伸縮に留まり、ゆるやかに湾曲して着座者の湾曲にフィットするようにして支持することができる。さらに、Y字状の補強部材が骨盤近辺を後方から支えるので、着座者は、骨盤より上方の脊柱及び起立筋等を、やや後方にシフトするようにわずかに逃がすことができつつも、外装体が撓みきるまで伸びきってしまうことがないので、着用者の上部胸郭から頸部、頭部が重力に対して垂直になる位置へと維持することがより容易となる。そこで、重力に対して骨格の位置関係が整いやすく、最小限の負荷でもって、長時間安楽な姿勢を維持しやすくなる。また補強部材によって、捩じれたりブレたりしにくくなるので、背面の一部に応力が集中することなく適切に分散されることとなるので、外装体自体も破損しにくくなり耐久性が得られることとなる。
【0049】
次に、外装体の座面側には、傾斜した坐骨と正対しうるように、座面の背面側から座面中央に向かって前方が高くなる傾斜を設けたクッション材が内部に入るようになっている。そこで外装体の座面側上平面は、座面後方から座面中央に向かって高くなるように、前記のクッション材の形状にみあった空隙が設けられている。
【0050】
図5にクッション7を示す。クッション7は、座面中央に向かって座面後方から高くなるよう傾斜させた傾斜面9を有する。図5では、クッション7の座面中央から、座面前方に向かって緩やかに下る傾斜がつけられているが、座面中央から座面前方は、水平に近いものであってもよい。クッション5の座面後方から座面中央に向かって高くなる傾斜面9は着座者21の坐骨23と正対してこれを下方から支承するためである。この傾斜面9があることで、坐骨23を中心に着座者21の臀部を載せかけることができるので、着座者21は、ずっこけた姿勢のような弛緩した着座姿勢のままに安楽な姿勢を保持でき、さらに体が前方へと崩れ落ちることがないので、その弛緩した姿勢のままに椅子24もしくは車椅子25に着座してその身体を保持しうることとなる。
【0051】
クッション7は、低反発弾性フォーム8と芯材10を複層にした構造をもつ。クッション7は、着座者21に当接する位置に近い上方部に低反発弾性フォーム8を配して、体圧分散に優れたものとしたうえで、坐骨23の周辺を傾斜面9でしっかりと支承できるように、芯材10には硬めで保形力のあるポリエチレンフォームを組み合わせている。たとえば、クッション7は、横幅400mm、全長350mmのものであり、表層ウレタンフィルム、厚み20mmの低反発弾性フォーム(ウレタン)、山形の芯材となるポリエチレンフォームの3層構造を接着剤で貼り合わせて得る。芯材10は、幅400mm長さ250mmで、長さ125mmの中央部の山の高さを50mm程度としたもので、坐骨を支える傾斜面9は約21度の傾斜角となっている。そして、芯材10のポリエチレンフォームは、たとえば、密度が20〜40kg/m3で硬さが100〜130Nぐらいのものとする。
【0052】
低反発弾性フォーム8は、図3に示すように、芯材10の上平面の傾斜に沿わせて厚み20mmのポリウレタン製のフォームを貼り合わせるものとする。低反発弾性フォームは、たとえば、密度が40〜80kg/m3で、硬さが25〜50Nぐらいのもので、反発弾性が10以下のものとする。さらに、低反発弾性フォーム8の上に、表層の保護のために耐久性と平滑性の高いウレタンフィルムを貼付してもよい。これにより、外装材のダブルラッセルの内面の生地と、低反発弾性フォームとが直接触れ合って傷んだりすることが避けられる。
【0053】
次に、座面引出具について説明する。座面引出具34は、座面の底面側中央に、後方から前方に向かって配された非伸縮なポリプロピレン製の紐を外装体2に縫着したものであって、この紐の先端部を前方に突出させて折り返してループとして持ち手35と形成せしめたものである。紐の幅はたとえば25mmとする。ループの持ち手35は、指がループに入る程度の60mm程度の折り返しでよい。
【0054】
着座後に、持ち手をもって引っ張ると、着座保持具1の座面が前方に引き出され、着座したままに着座者の背面や臀部、腰部により密着することとなるので、所望の姿勢が適切に形成されやすくなる。
【0055】
次いで弾性紐体について説明する。弾性紐体36は、伸縮性の弾性のゴム紐などでできており、着座者が座ったときには、その荷重に抗することなく伸びてしまう程度の緩い張力からなるものである。図2に示すように、着座部の底面側の後端に、左右1本ずつ、あわせて2本の弾性紐体36は、底面後端中央部からやや離間してそれぞれ外装体2と縫着されている。弾性紐体36の長さは、たとえば230mmであり、その先端は、座面前方や前方の脚部支柱に結ぶことができるように、二股に分かれた細紐が付いており、これを締結して締結部37とする。
【0056】
本発明の着座補助具は、背もたれ上方の係止体11の紐12を係止金具13で保持し、吊り下げているものであって、着座者が使用するときも、この吊り下げ支持によって保持している。そこで、弾性紐体36はその張力が荷重を保持するよりも弱いものであるので、着座して使用する際には、伸びた状態であり、立ち上がったときには、弾性紐体36はそれぞれ縮み、締結部37と吊り下げられた背もたれ上方との間で、着座保持具1の外装体2を斜めに吊り下げたようになる。図7に着座している様子と、図8に立ち上がった際の着座保持具1の様子を示す。図8では、弾性紐体36が縮むことで座面部4が前方に斜めに引っ張り出され、着座待機状態となっている。
【0057】
この着座待機状態になると、着座者の座骨に接触する位置が約10cm高くなる。もっとも、ハンモックのように着座中は、着座者を上下の4点で吊り下げるのではなく、あくまで上方から吊り下げることとなる。
【0058】
なお、図8には図示しないが、座面後方裏面から椅子の背もたれの付け根あたりに向かって非伸縮な控え紐を設けておき、弾性紐体36の収縮によって勢いよく座面部4が飛び出しすぎないように引き止める役割を担わしてもよい。この控え紐はあくまで待機状態での戻り量を規制するものである。
【実施例2】
【0059】
図13、図14(a)(b)に、自動車用の前席シート30等に好適な着座補助具1を示す。外装体2は、背面部3、座面部4いずれも、表面が通気性に配慮したダブルラッセルのメッシュ地で、裏面側がニット生地となっている。また、背面部3、座面部4とも長さはそれぞれ40cm、横幅は、座面が50cm、背面部3は座面部4寄りが幅38cm上端側が幅20cmの台形となっている。外装体2の内部に芯材10としてテントに用いる帆布のような生地が入っており、座面部4の裏面には、平面ファスナー(オス)が縦方向に2カ所配されて縫合されている。クッション7は低反発弾性フォーム8からなり、側面から見て断面三角形をしている。このクッション7は、座面部の下方の平面ファスナーと対向する位置に設けられたクッション上平面上の平面ファスナー(メス)によって脱着自在に貼着されている。また、外装体2の座面部4の傾斜面9は、クッション7の三角形の傾斜によって形成されるので、クッション7を緩やかな傾斜に交換すれば、角度が調整されることとなる。
【0060】
自動車の前席シート30の榻背部32の上端には、ヘッドレスト29があるので、座面補助具1の背面部左右上端に設けた紐体12をヘッドレストに回しかけ、係止め部となる樹脂製の留め具(係止体)11の長さを調整しつつ係止し、座面補助具1を榻背部32から吊り下げるようにして使用することとなる。座面部4の裏面中央の下端には持ち手35(フック33)があり、着座後にこれを引っ張ることで、クッションの背面から座面にかけての隙間がなくなり、フィット感が容易にに得られるようになっている。持ち手35(フック33)は、たとえばポリプロピレン製の紐体であって、座面の裏面中央を横断するように真っ直ぐに縫合されており、座面全体を前方に引き出すことができる。
【0061】
この自動車用シートも、座面の裏面に弾性紐体を配し、シート前方の裏面などに弾性紐体の先を締結しておき、斜めに座面が立ち上がるようにしておくと、深く腰掛ける動作がとりやすくなる。また、着座後に座面中央前方の持ち手35を引き出すことで、背面側の空隙がなくなり、より密着性が増して、本発明の姿勢保持効果がより十分に引き出せることとなる。
【実施例3】
【0062】
図15に、身障者用の脇部支持体38が設けられた座面補助具1を示す。身障者は、体が常時傾いてしまっているケースがあり、車椅子に長時間座ること自体が難しい場合がある。こうした場合、本発明の所望する安楽な姿勢をそもそもとることができないので、保持する段階まで至らないことがある。そこで、傾く側の身体を脇から抱えるように、脇部支持体の帯状のベルトを胴体の片半身を巻くようにして支えることで、真っ直ぐな位置に体を戻すこととすると、安楽な姿勢が形成でき、長時間疲れずに座ることが可能となる。
【0063】
図15では左右背面部上方に脇部支持体38の帯を横向きに突出させ、各帯は、車椅子の前方の脚の支柱に設けたバックルの着脱器具39に差し込んで固定する。各帯は、体を支える部分はダブルラッセル状の体圧分散に優れた素材を用いて、やや太幅な帯で面として受け止めるようにすると、着座者に痛みを与えにくい。着脱器具39に近い部分は、軽くて上部なポリプロピレンの帯紐とするとよい。
【0064】
なお、図15では左右一対の脇部支持体としたが、中央にひとつ設けて、左右いずれかから着用者の脇に巻き付けて、着脱器具と固定するようにしてもよい。また、脇部支持体は、背もたれの両端から突出するのではなく、中央寄りから突出させることで、脇部に巻きつくようにして体を包み込んでサポートするので、体がブレにくくしっかりとサポートされる。仮に背もたれの両端から突出すると、体の幅よりも大きな外側からサポートしようとすることになるので、どうしても拘束力が弱く、体を中心へと引き寄せるのに十分とはいえない。
【0065】
また、左右両方の脇部支持体をクロスするように反対側の脚部の着脱器具に係止させるので、巻き込み量が大きくサポート力が強く得られる。身障者によっては、前方に倒れ込む状態の患者もいるが、本発明の脇部支持体38を左右それぞれ用いることで、中心にしっかりと保持されて、後方に身体をもたせかけることができるようになる。実際に、3時間前方に傾いたまま着座していた老人(女性)に、実施例3の着座補助具を適用すると、身体や頭が持ち上がり前方を正視できるようになった。そして、単に長時間快適に着座しつづけることができるのみならず、身体の緊張が解放され、上肢の可動が認められるなど、身体の活動性にも効果が認められた。
【0066】
(使用方法について)
本発明の座面補助具1は、以下のように椅子24又は車椅子25に設置する。たとえば、車椅子25の背面上部の左右の手押しハンドル26の把持部の手前の鋼製パイプに、それぞれ、外装体1の上部から斜めに向けて伸びている係止体11をそれぞれ固定する。係止体11の長さは、係止金具13で適宜調整できる。着座者21を着座させた状態で着座者の背面と、座面補助具1の外装体1の背面部3の上平面とのあいだに隙間が生じない程度まで、係止体11の紐12の長さを短く調整して係止金具13で留める。係止金具13での係止体11の紐12の長さの調整は、各使用者に応じて一度調整すれば十分であり、その後は、着座するたびに同様なサポート感が得られる。もちろん、着座者21のコンディションが日々変動するようなリハビリ中の車椅子25の使用であれば、係止金具13でその都度長さを調整して密着感を高めることが容易にできる。
【0067】
着座者21の姿勢は、直立時と同様に坐骨23を下向きとした骨盤22の向きではなく、弛緩させて着座した状態で腰掛けることで、やや背中が丸まったような姿勢をとる。すなわち、腰が図7、図8のように骨盤22が坐骨23を斜め前方に傾けたものであるから、着座補助具1の座面部4の傾斜面9と正対するように座骨23を傾斜面9の上に当接さえるようにして着座する。すると、座面部4を、固定しないままでも、着座者21の荷重により座面部4の底面側のパイルの適度な摩擦が得られるので、椅子からずり落ちることなく、着座使用が十分にできる。そして、坐骨部を下から正対するように傾斜面9で支承すれば十分なので、そこから先の足先に向かっては、特段に大きくサポートせずとも身体は安定しているので、着座者の足裏を膝先まですべてサポートするといった必要はなく、足裏が地面や足置きに載せられていれば十分である。そこで、着座補助具は、格段に座面を長くする必要はなく、コンパクトにすることができる。
【0068】
そして、本発明の着座補助具1に着座したとき、着座者21の背面から腰部にかけては、いわばハンモックのように、体型の湾曲に外装体1もゆるやかに湾曲するので、全体的にすっぽりと包まれるようにして保持される。すると体が左右に傾斜しにくく、着座者21は着座補助具1の中心に自然と着座しうるものとなるので、身障者も着座姿勢を崩さずに長時間安定して姿勢を容易に保持しやすくなる。
【0069】
なお、着座していないときに、座面部4を椅子の座面上に安定的に保持させておくために、面ファスナーのついた紐16を座面部底面に設けて、椅子の座面周囲に通した紐16の先端の面ファスナーの突起面を座面部4の底面5のパイル面に付着させて緩やかに係止しておいてもよい。
【0070】
また、実施例2に記載の座面補助具については、図13に示すように、自動車の前席シート30に適用するのが好適である。背面部左右上端に設けた紐12を自動車用の前席シートのヘッドレスト30の支柱を跨ぐように紐12を吊り下げかけて、係止体11で係止し、紐12の長さを調整してから着座して使用する。また、持ち手35(フック33)を引っ張って、背中のサポート具合をよりぴったり沿うように調整してもよい。そして、座面の下方のクッションは、平面ファスナーで着脱自在となっているので、シートの形状によっては、適宜取り外すことができるほか、クッションの傾斜をより緩やかなものに交換したりするなどして使用することができる。
【0071】
(体圧分散の測定)
本発明品を車椅子に設置した場合としない場合について、着座者の体圧分散の様子を測定して評価した。測定には株式会社ケープ社製の携帯型接触圧力測定器「パームQ CR−490」を用いることとし、センサーパットを座骨の当接するあたりに設置して、座骨周辺のa座骨中央、b座骨左側、c前、d座骨右側、e後ろ、の5点にかかる圧力をそれぞれ測定した。
【0072】
表1および図10(i)〜(iii)に、被験者3名の測定結果を順に示す。被験者は、(i)健常者、(ii)高齢者1、(iii)高齢者2である。(ii)、(iii)の高齢者は自力で車椅子に着座姿勢を保持できるが、脳血管障害の麻痺から歩行にやや困難を伴うリハビリ中の者である。
【0073】
【表1】
【0074】
測定の結果、健常者も高齢者でも、本発明を使用しない場合には、少なくとも十字に5箇所測定したa〜eの箇所のいずれかの箇所に突出して大きな荷重のかかっている箇所が認められた。このように1点に荷重が集中していると、長時間着座することに向かなくなる。局所的な負荷によって身体の一部が緊張したままとなり、疲労が蓄積していくこととなるからである。
【0075】
他方、本発明品に着座した場合には、5箇所の測定箇所の値は、いずれも低い値を示しており、一点への偏りは認められなかった。すなわち、本発明品の場合は、着座した者の座骨周辺での体圧がまんべんなく分散されており、さらに、分散された圧力は、5箇所の値を積算した場合でも、不使用の場合と比してその値が小さいことから、体圧がより広汎に分散されていることが示唆されている。このように、体の姿勢を維持しにくい高齢者の場合は、不使用時は左右に姿勢がブレたり前後に偏りが認められていたが、本発明品への着座ではそうした者でも、体圧の局所的な集中が認められず、適度に荷重が分散されていることが確認され、良好であった。
【0076】
比較として、本発明の補助器具を用いない場合の、車椅子に着座した場合の体圧のかかる様子を示す。図11は、スウェーデンのパンテーラ社製の車椅子に着座した場合の測定結果を示すものである。パンテーラ社の車椅子は比較的快適性安楽性の高い性能の良い車椅子として知られている。比較例の測定は群馬大学保健医学部保健学科作業療法学専攻心身障害作業療法学の亀ヶ谷忠彦助教の指導のもと実施したものであって、各圧力は黒から白までの濃淡で表示している。黒色が最も圧力の低い部分であり、白色は最も圧力の高い部位を示している。シート面全体に多数の圧力センサーを配置した測定シートを座面もしくは背面に載置し、その上から人が着座する形で計測したものであり、図11(a)が背面側、(b)が座面側である。(b)の座面側の臀部後方には、左右いずれも極めて高い圧力集中を示す白色の箇所が認められた。車椅子を常用する身障者など、体が極めて不自由な者が使用する場合、姿勢を変えることができないので、そのまま長時間座面に着座することは必ずしも好適といえないことがわかる。
【0077】
以上のことから、本発明品を用いて着座すると、健常者でも、高齢者などの身体が不自由な者でも、体圧が広く分散されており、より安楽に長時間着座しうる効果を備えていることが数値的にも確認された。
【0078】
(弾性紐体による着座待機により生じる着座姿勢の変化について)
図8に示すように、弾性紐体36の先端の紐は車椅子の前脚支柱に締結部37の位置で締結されているので、紐12との間で吊りさがった状態となり、座っていない着座待機状態では、座面部4を斜め前方に押し出すことになる。
【0079】
この着座待機状態の有無によって、着座姿勢にどのような変化があるかを以下に示す。まず、弾性紐体の有無によって、着座深さに違いが生じるかを確認した。被験者は、6人の健常者の女性である。Aに弾性紐体なしの場合、Bに弾性紐体ありの場合の膝裏から背もたれの付け根までの距離を計測した。この距離が大きいと、浅く腰掛けていることとなる。計測結果を下の表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
弾性紐体があるときは、いずれの被験者でも距離が短くなっており、40〜80mm深く腰掛けることができた。これは、斜めになった座面に臀部が早く接するので、より安心して荷重をかけだすことができ、重心移動していく着座者にとって早くからホールド感が得られるので、予測したとおりに座れる。安心感から思い切りがよくなっている。また、座面が斜め前方に出てきているので、座骨に10cmほど高い位置で接することができ、予め深い位置になるはずの座面後方と臀部が接するようにして腰掛け動作がなされるので、座面の移動に応じて体が自然と荷重移動しながら深く腰掛けられることになる。
【符号の説明】
【0082】
1 着座補助具
2 外装体
3 背面部
4 座面部
5 底面
6 内部空間
7 クッション
8 低反発弾性フォーム
9 傾斜面
10 芯材
11 係止体
12 紐
13 係止金具
14 補強部材
15 金属枠体
16 面ファスナーのついた紐
17 坐骨底面の向き
18 ウレタンフィルム
19 ネオプレン
20 Y字補強部材
21 着座者
22 骨盤
23 坐骨
24 椅子
25 車椅子
26 手押しハンドル
27 腸腰筋群
28 殿筋群
29 ヘッドレスト
30 前席シート
31 折り返し部
32 榻背部(背もたれ)
33 フック
34 座面引出具
35 持ち手
36 弾性紐体
37 締結部
38 脇部支持体
39 着脱器具
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【国際調査報告】