(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2016056114
(43)【国際公開日】20160414
【発行日】20170427
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20170407BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20170407BHJP
【FI】
   !F16H48/40
   !F16H48/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
【出願番号】2016552778
(21)【国際出願番号】JP2014077149
(22)【国際出願日】20141010
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000225050
【氏名又は名称】GKNドライブラインジャパン株式会社
【住所又は居所】栃木県栃木市大宮町2388番地
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】廣田 功
【住所又は居所】栃木県栃木市大宮町2388番地 GKN ドライブライン ジャパン株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】朝日 雅彦
【住所又は居所】栃木県栃木市大宮町2388番地 GKN ドライブライン ジャパン株式会社内
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB02
3J027HA01
3J027HA03
3J027HA05
3J027HB07
3J027HC05
3J027HC07
(57)【要約】
軸の方向に延びる一対の車軸にトルクを分配するデファレンシャル装置は、前記軸を囲み、前記軸に対して径方向に内方に開口した複数の凹所(15)を備え、前記トルクを受容するリングフレーム(10)と、それぞれ前記軸の周りに回転可能であって、前記車軸に駆動的に結合する構造を備えた一対のサイドギア(40)と、ギア部(51)を有する頭部とシャフト(53)とをそれぞれ備えた複数のピニオンギア(50)であって、前記トルクを前記リングフレーム(10)から受容して前記一対のサイドギア(40)に伝達するべく、前記シャフト(53)が前記凹所(15)に回転可能に嵌入して前記頭部を前記径方向に内方に向け、前記ギア部(51)が前記一対のサイドギア(40)の両方と噛み合った複数のピニオンギア(50)と、前記リングフレーム(10)に結合し、脱落を防止するべく前記一対のサイドギア(40)および前記複数のピニオンギア(50)を覆う一対のサイドカバー(20)と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の方向に延びる一対の車軸にトルクを分配するデファレンシャル装置であって、
前記軸を囲み、前記軸に対して径方向に内方に開口した複数の凹所を備え、前記トルクを受容するリングフレームと、
それぞれ前記軸の周りに回転可能であって、前記車軸に駆動的に結合する構造を備えた一対のサイドギアと、
ギア部を有する頭部とシャフトとをそれぞれ備えた複数のピニオンギアであって、前記トルクを前記リングフレームから受容して前記一対のサイドギアに伝達するべく、前記シャフトが前記凹所に回転可能に嵌入して前記頭部を前記径方向に内方に向け、前記ギア部が前記一対のサイドギアの両方と噛み合った複数のピニオンギアと、
前記リングフレームに結合し、脱落を防止するべく前記一対のサイドギアおよび前記複数のピニオンギアを覆う一対のサイドカバーと、
を備えたデファレンシャル装置。
【請求項2】
請求項1のデファレンシャル装置であって、前記ピニオンギアの前記頭部は前記サイドギア以外の部材に拘束されない、デファレンシャル装置。
【請求項3】
請求項1のデファレンシャル装置であって、前記シャフトは、それぞれ、前記凹所により前記軸に対して周方向および前記径方向に外方に移動が制限され、前記軸の方向に両方向に移動しうる、デファレンシャル装置。
【請求項4】
請求項3のデファレンシャル装置であって、前記凹所は、前記シャフトが前記軸の方向に通過することを許容するべく、前記軸の方向にも開口している、デファレンシャル装置。
【請求項5】
請求項3のデファレンシャル装置であって、
それぞれ前記シャフトと前記凹所との間に介在し、前記シャフトを回転可能に前記径方向に向けて支持するジャケットをさらに備え、
前記凹所は、前記周方向に前記ジャケットに当接し、前記軸の方向に前記ジャケットに当接しないように寸法づけられている、デファレンシャル装置。
【請求項6】
請求項5のデファレンシャル装置であって、前記ジャケットは、前記凹所の中において前記サイドカバーとの間に前記軸の方向に遊びを有するべく寸法づけられている、デファレンシャル装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項のデファレンシャル装置であって、前記リングフレームは、前記凹所を画定し前記一対のサイドカバーにそれぞれ当接する複数のベース部と、前記複数のベース部を互いに結合し前記ベース部より前記軸の方向に狭い或いは前記径方向に薄い複数のブリッジ部と、を備えた、デファレンシャル装置。
【請求項8】
請求項1のデファレンシャル装置であって、前記リングフレームは、前記一対のサイドカバーより選択された何れか一と一体である、デファレンシャル装置。
【請求項9】
請求項1のデファレンシャル装置であって、
前記リングフレームと一体であるリングギアをさらに備えた、デファレンシャル装置。
【請求項10】
請求項1のデファレンシャル装置であって、前記リングフレームは軸方向にその中央面に対して面対称である、デファレンシャル装置。
【請求項11】
請求項1のデファレンシャル装置であって、前記一対のサイドカバーは軸方向に前記リングフレームの中央面に対して面対称である、デファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車において、その駆動力源からトルクを一対の車軸に分配するためのデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば転舵された自動車が進行するとき、左右の車輪に回転速度の差異が生じる必要がある。すなわち自動車は、一対の車軸の間で差動を許容しながら両車軸にトルクを伝えることを要する。かかる目的のために、従来からデファレンシャル装置が利用されている。
【0003】
車軸用のデファレンシャル装置には歴史的に確立された形態がある。すなわち、デファレンシャル装置は、通常、軸方向に延びる円筒状のケーシングを備え、かかるケーシングがリングギアよりトルクを受容し、ケーシング内に収容されたデファレンシャルギア組が各車軸にこのトルクを差動的に分配する。デファレンシャルギア組としては、ベベルギア式、フェースギア式、遊星ギア式等が実用的に利用されている。
【0004】
特許文献1,2は関連する技術を開示しており、特許文献1はベベルギア式に、特許文献2はフェースギア式に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国公開特許公報2013−100072号
【特許文献2】国際公開公報WO2005/040642A1
【発明の概要】
【0006】
デファレンシャルギア組を構成する各ギアは、大きなトルクに耐えねばならないので、一定の大きさを必要とする。ケーシングはかかるデファレンシャルギア組の全てを収容するので、デファレンシャル装置の全体は大きくなりがちである。ケーシングはデファレンシャルギア組を強固に支持する必要があり、またケーシングに入力されたトルクはケーシングを捻る方向の応力を発生するので、十分な強度を有するべくケーシングは十分な厚さを持たねばならない。これらの要因のために、従来のデファレンシャル装置は、大きく、重くならざるを得なかった。特に、外周に位置するケーシングが厚く重いために、慣性モーメントが著しく増大し、これは自動車のレスポンスと燃費とを損なう要因だった。
【0007】
本発明は、デファレンシャル装置をその基本構造から見直し、上述の問題を解決することを目的とする。
【0008】
本発明の一局面によれば、軸の方向に延びる一対の車軸にトルクを分配するデファレンシャル装置は、前記軸を囲み、前記軸に対して径方向に内方に開口した複数の凹所を備え、前記トルクを受容するリングフレームと、それぞれ前記軸の周りに回転可能であって、前記車軸に駆動的に結合する構造を備えた一対のサイドギアと、ギア部を有する頭部とシャフトとをそれぞれ備えた複数のピニオンギアであって、前記トルクを前記リングフレームから受容して前記一対のサイドギアに伝達するべく、前記シャフトが前記凹所に回転可能に嵌入して前記頭部を前記径方向に内方に向け、前記ギア部が前記一対のサイドギアの両方と噛み合った複数のピニオンギアと、前記リングフレームに結合し、脱落を防止するべく前記一対のサイドギアおよび前記複数のピニオンギアを覆う一対のサイドカバーと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態によるデファレンシャル装置であって、リングギアを除いた部分の斜視図である。
【図2】図2は、前記デファレンシャル装置からピニオンギアを支持するジャケットおよびリングフレームのみを抽出した分解斜視図である。
【図3】図3は、前記デファレンシャル装置の断面立面図であって、図4のIII−III線に対応する面から取られた断面立面図である。
【図4】図4は、前記ピニオンギアおよび前記ジャケットの断面と前記リングフレームの側面とを組み合わせて見せる部分断面側面図である。
【図5A】図5Aは、リングギアがリングフレームに結合した例による前記デファレンシャル装置の部分的な断面立面図である。
【図5B】図5Bは、リングギアがサイドカバーに結合した例による前記デファレンシャル装置の部分的な断面立面図である。
【図5C】図5Cは、一のサイドカバーが前記リングギアと一体となった例による前記デファレンシャル装置の部分的な断面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1ないし5Cを参照して以下に本発明の幾つかの例示的な実施形態を説明する。
【0011】
明細書および添付の請求の範囲を通じて、特段のことわりが無い限り、軸はデファレンシャル装置の回転軸を意味し、また周方向および径方向はかかる軸に関するものである。かかる軸は通常には車軸の回転軸とも一致する。さらに、リングの語は常識に認められた意味を越えるものではなく、従って径に対して相当程度の軸方向長さを有する円筒のごとき形状を含まない。
【0012】
本実施形態によるデファレンシャル装置は、例えば自動車において駆動力源によるトルクを左右の車軸に分配する用途に使用できるが、あるいは四輪駆動車におけるセンターデファレンシャル装置や他の用途にももちろん使用できる。また言うまでもなく、リミテッドスリップデファレンシャル装置、ロックアップデファレンシャル装置、またフリーランニングデファレンシャル装置の一部として利用することもできる。
【0013】
主に図1および図3を参照するに、本実施形態によるデファレンシャル装置は、概して、リングフレーム10および一対のサイドカバー20よりなるケージと、かかるケージに収容されたデファレンシャルギア組と、よりなり、その全体はキャリアによって軸Xの周りに回転可能に支持される。デファレンシャルギア組は、一対のサイドギア40と、複数のピニオンギア50と、よりなる。図中のフェースギア式の例によれば、サイドギア40は円盤状のクラウンギアであり、ピニオンギア50は円筒ギアである。これらの歯すじは、ピニオンギア50のシャフトに平行でもよく、あるいはこれに対して非平行なヘリカルギアを利用してもよい。フェースギア式は軸方向の寸法が小さくなる点で有利であり、また各ピニオンギアにスラスト反力が生じない利点がある。あるいはこれに代えてベベルギア式でもよい。
【0014】
リングフレーム10は、駆動力源によるトルクを受容し、複数のピニオンギア50に伝えるための部材である。図1〜4では省略されているが、トルクを受容するためのリングギアがケージの何れかに結合する。リングギアについては後に詳述する。
【0015】
図1,3に組み合わせて図2,4を参照するに、リングフレーム10は、軸Xを囲むリング状であって、それぞれピニオンギア50を支持するための複数のベース部11と、ベース部11を互いに結合する複数のブリッジ部13と、を備え、これらは一体的である。リングフレーム10は、鋳造、鋳型プレス、鍛造、あるいは他の適宜の製造方法により、一体成型することができる。製造方法に伴う強度的考慮に応じて、図に示されていないリブ等の補強または補剛構造をこれに追加することができる。
【0016】
言うまでもなくベース部11の数はピニオンギア50の数と通常には一致し、図示の例では4であるが必ずしもこれに限られない。これらの数は、多いほど各要素が負担すべき力が小さくなり、従って各要素を小さくすることができる。これはデファレンシャル装置の小型化に有利である。一方、これらの数が少ないほど部品点数が少なくなり、コストの点で有利である。これらは好ましくは軸Xに関して軸対称に、周方向に等間隔に配置される。
【0017】
各ベース部11は、その略中央が径方向に外方に窪んで凹所15を成しており、すなわち各ベース部11は凹所15を画定している。各凹所15は、円筒面に囲まれた円柱形や、円錐面に囲まれた円錐形ないし切頭円錐形にすることができる。この場合にはピニオンギア50のシャフト53と直接に嵌合してこれを支持することができる。あるいは図示のごとく、底壁17と、一対の周壁18とにより囲まれた直方形ないし台形にすることができ、あるいはまた別の形状を採用することもできる。かかる場合には、後述のジャケット30を利用してピニオンギア50を支持することができる。
【0018】
一対の周壁18は、それぞれ周方向に対して直交する平面にすることができる。これによれば、印加されたトルクが周方向から外れた分力を生まないので、正しいトルクの伝達の点で有利である。あるいは敢えて分力を生ずるべく、直交面に対して周壁18を傾けてもよい。さらにあるいは、一対の周壁18を互いに平行にしてもよい。
【0019】
各凹所15は、少なくとも径方向に内方に開口し、また好ましくは各凹所15は軸方向に両方向にも開口し、より好ましくはピニオンギア50(および/または後述のジャケット30)が軸方向に通過しうるように寸法づけられる。軸方向に開口していれば、ピニオンギア50を、径方向でなく、軸方向にスライドして凹所15に組み付けることができるので、組み立ての容易さの点で有利である。
【0020】
ピニオンギア50を支持する便宜のために、ジャケット30を利用してもよい。ジャケット30は、ピニオンギア50のシャフト53と凹所15との間に介在する。ジャケット30は、図2に最もよく示されているように、凹所15に応じた外形であり、例えば略直方体または台形体であって、凹所15に嵌入することができる。凹所15の周壁18に対応する一対の周壁32も、対応して周方向に対して直交する平面、直交面に対して傾いた平面、互いに平行な平面の何れでもよい。ジャケット30は、径方向に内方に開口するレース31を備え、ピニオンギア50のシャフト53がこれに嵌入する。
【0021】
ジャケット30は、ピニオンギア50と共に凹所15に嵌入し、底壁17に着座し、一対の周壁18により周方向に拘束される。凹所15に嵌入したジャケット30は、シャフト53を径方向に向け、回転可能に支持する。リングフレーム10は、専らジャケット30に当接した周壁18を介して、トルクをピニオンギア50に伝える。
【0022】
各ブリッジ部13は、隣り合う一対のベース部11を一体的に結合し、以ってリングフレーム10の全体は周方向に連続した構造をとる。各ブリッジ部13は、複数のベース部11より軸方向に狭く、その両側に肉抜き部14を形成してもよい。あるいはこれに代えて、または加えて、各ブリッジ部13は、径方向により薄く、その外周に肉抜き部16を形成してもよい。さらにあるいは、これらに代えて、または加えて、内周も肉抜き部を形成してもよい。これらはリングフレーム10の重量および慣性モーメントを減らすことに役立つ。また肉抜き部14,16により、ブリッジ部13とサイドカバー20との間には隙間が保持されて径方向外周に露出するが、かかる隙間は潤滑油の通過を許容し、その循環に寄与する。
【0023】
好ましくはベース部11およびブリッジ部13の(すなわちリングフレーム10の)中央面を、シャフト53の軸中心に、軸方向に一致せしめる。すなわち、これらの中央面および中心軸は、軸Xに直交する単一の面上に並ぶ。このようにすると、リングフレーム10が受容したトルクは、かかる面にのみ伝わり、リングフレーム10を捻る方向に力が作用しないので、リングフレーム10をより薄肉にすることができる。すなわち、これもリングフレーム10の重量および慣性モーメントを減らすことに役立つ。
【0024】
各ピニオンギア50は、図3,4に最もよく示されているように、その頭部にギア部51と、その脚部にシャフト53とを備える。その頭頂部55はギア部51より僅かに突出していてもよい。ギア部51、シャフト53および頭頂部55は、一体の単一体にすることができる。既に述べた通り、シャフト53がジャケット30に嵌入して回転可能に支持され、ジャケット30と共に凹所15に嵌入すると、シャフト53が径方向に向けられ、ギア部(頭部)51が径方向に内方に向けられる。
【0025】
各サイドギア40は、径方向にフランジ状に展開するギア部41と、軸Xを囲む円筒状のボス部43とを一体的に備える。一のサイドギア40は複数のピニオンギア50に、軸方向に一方から噛み合い、他のサイドギア40は他方から噛み合う。また各サイドギア40は車軸に結合する構造を備え、それは例えばボス部43の内面に形成されたスプライン45である。ボス部43はピニオンギア50の頭頂部55と十分にオーバーラップするべく、軸方向に内方に延長される。スプライン45は十分な長さをもって車軸と係合できるので、ボス部43は軸方向に外方に延長される必要がない。これは、デファレンシャルギア組の全体の軸方向の寸法を制限するに有利である。
【0026】
一対のサイドカバー20は、一対のサイドギア40および複数のピニオンギア50を覆うべく寸法づけられ、また、それぞれその端部から軸方向に延長された筒部21を備える。筒部21は、キャリアのベアリングに嵌合して回転可能に支持されるための構造である。またサイドカバー20には所謂肉抜きを施すことができ、それは例えばサイドカバー20を貫通する複数の貫通孔27である。貫通孔27は、潤滑油の循環にも寄与する。
【0027】
リングフレーム10は複数のボルト穴19を有し、各サイドカバー20もこれに対応するように複数のボルト穴23を有し、これらに通されたボルト25により、一対のサイドカバー20はリングフレーム10に固定される。一対のサイドギア40および複数のピニオンギア50は、専ら一対のサイドカバー20に覆われることにより、その脱落が防止される。
【0028】
各ピニオンギア50は、各ジャケット30がサイドカバー20に制限される範囲において、軸方向に両方向に移動することができる。かかる移動を許容するべく、ジャケット30は凹所15の軸方向の長さよりも僅かに短く、従って、凹所15の中において、ジャケット30とサイドカバー20との間に軸方向に遊びが確保される。
【0029】
各ピニオンギア50が軸方向に移動することが許容されているために、各ピニオンギア50とサイドギア40との噛み合いは自動的に調心される。これは、各ピニオンギア50あるいは各サイドギア40を精密に位置的に調整する必要性を無くし、また各ギアの耐久性の向上や静粛性の向上に役立つ。
【0030】
各ピニオンギア50は、軸方向には専らサイドギア40との噛み合いにより定位置に保持される。径方向には、各ジャケット30あるいはリングフレーム10の各底壁17に着座することにより各ピニオンギア50は外方に移動が制限されるが、内方に制限する特段の手段がない。その頭頂部55がサイドギア40のボス部43上に接することにより、各ピニオンギア50は定位置に保持される。すなわち本実施形態は、ピニオンギア50を定位置に保持するために、サイドギア40以外の他の手段を要しない。
【0031】
各ピニオンギア50の脚部は各ジャケット30により、ある程度拘束されるが、頭部はいかなる部材にも拘束されなくてよい。またシャフト53は径方向に外方の側においてジャケット30に支持されるが、径方向に内方の端において何れの部材にも支持されることを要しない。言うまでもなく、各シャフト53がピン結合等によってリングフレーム10に固定されるわけではない。
【0032】
以上のごとき組み合わせにより、リングフレーム10に入力されたトルクは、その凹所15に嵌入した複数のピニオンギア50に伝達され、さらにこれに噛み合った一対のサイドギア40に伝達され、両車軸へ分配される。ピニオンギア50とサイドギア40とはデファレンシャルギア組を構成するので、両車軸の間に差動が許容される。
【0033】
リングフレーム10にトルクを入力するべく、リングギア60がケージの何れかに結合するが、図5Aないし図5Cにその幾つかの例を示すごとく、両者の関係には種々のバリエーションがありうる。何れの場合も、結合は例えば溶接によることができるし、あるいは結合する対象とリングギア60とが一体成型されていてもよい。あるいはスプライン結合やボルト結合のごとき機械的な結合を利用してもよい。各図はリングギア60が平歯車ないしヘリカルギアである例を示すが、これに代えてハイポイドギアやその他の形式のギアであってもよい。
【0034】
図5Aを参照するに、リングギア60はリングフレーム10に結合していてもよい。この場合において、特にリングギア60が平歯車である場合に、リングギア60の回転面Fと、リングフレーム10の中央面およびシャフト53の軸中心とを一致せしめてもよい。トルクTの入力と出力との間にオフセットが生じないので、捩じれ方向の応力を考慮する必要がなく、関連する全ての部品をより小さく薄く設計することができる。
【0035】
この例では、デファレンシャル装置を左右対称にすることができる。右側の部品と、対応する左側の部品とが互いに互換であってもよいので、生産コストの点で有利である。
【0036】
あるいは、特にリングギア60がヘリカルギアやハイポイドギアである場合に、リングギア60に生ずるスラスト力やその他の力に応じて、リングギア60に適宜のオフセットを設けたり、あるいは何れかの部材に補強あるいは補剛のためのリブ等の構造を追加してもよい。
【0037】
また図5Aの例では、トルクがサイドカバー20に印加されないので、サイドカバー20も薄く設計することができる。これらは、デファレンシャル装置の重量および慣性モーメントを減らすことに役立つ。
【0038】
あるいは図5Bを参照するに、リングギア60は一方のサイドカバー20に結合していてもよい。この例ではリングギア60の回転面Fとシャフト53の中心Cとの間にオフセットSが生じるが、これは従来技術におけるオフセットに比べればはるかに小さい。従って捩じれ方向の応力に特段の対策をする必要がなく、これはデファレンシャル装置の重量および慣性モーメントを減らすことに役立つ。
【0039】
さらにあるいは図5Cを参照するに、リングフレーム10は一対のサイドカバー20の一方に一体であってもよく、リングギア60はこれに結合されていてもよい。あるいは、リングフレーム10と一体ではない他方のサイドカバー20にリングギア60が結合されていてもよい。いずれの場合においても、リングギア60はシャフト53の中心に対してオフセットを有してもよいが、図示のごとくオフセットを持たなくてもよい。
【0040】
上述の何れの実施形態によっても、デファレンシャル装置の組み立ては著しく容易である。例えば組み立ては、一対のサイドカバー20の一方を横に倒した状態で作業台に据え置き、一対のサイドギア40の一方をワッシャと共にその中に据え置き、次いでリングフレーム10をその上に据え置き、次いでそれぞれジャケット30に挿入したピニオンギア50を凹所15に嵌入せしめ、次いで残りのサイドギア40をワッシャと共にその上に据え置き、次いで残りのサイドカバー20をその上に被せ、最後にボルトでこれらを締結することによる。何れの段階においても、組み込もうとする部品の目標箇所は上に向かって開放されており、組み込みは著しく容易である。
【0041】
従来技術においては、例えばピニオンギアを組み込む際には、狭いケーシング内の奥深くにピニオンギアを組み込みながら、そのシャフトホールをケーシングの穴と位置合わせしつつ外部からシャフトを挿入することが必要である。そのような困難な工程は本実施形態には存在しない。
【0042】
何れの実施形態も次のような効果を奏する。軸方向に円筒状に延びたケーシングによらずに、軸方向に小寸法なリングフレームがピニオンギアを支持するので、デファレンシャル装置の全体を小さくすることができる。デファレンシャル装置が小さければ、これを支持するキャリアや、これと組み合わされるトランスミッションあるいはトランスファ等の車体側の構造をも小さくすることができる。
【0043】
さらに、従来技術においてデファレンシャル装置およびキャリアに振り向けられていた車内のスペースを他の用途に振り向けることができる。すなわち、車体の設計により大きな自由度を提供する。
【0044】
リングフレームには、これを捻る方向の応力が、殆ど、あるいは全く生じないので、これを薄く小さくすることができ、またこれに多くの肉抜きを施すことができ、従ってその重量および慣性モーメントを減らすことができる。さらに伝達するトルクに基づく応力は、一対のサイドカバーには殆ど、あるいは全く印加されないので、これらも薄く小さくすることができ、従ってその重量および慣性モーメントを減らすことができる。また上述より明らかなように、デファレンシャル装置のみならずキャリアも含めた総重量が軽減される。これは車体の総重量の軽減にも寄与する。これらは自動車のレスポンスと燃費の改善に寄与する。
【0045】
またケージは貫通した多くの肉抜き孔や隙間を有することができ、潤滑油はこれらを通ってデファレンシャル装置の内外に円滑に循環することができる。すなわち本実施形態は潤滑の点でも有利である。
【0046】
好適な実施形態により本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、当該技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
小型、軽量かつ小慣性モーメントのデファレンシャル装置が提供される。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【国際調査報告】