(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2018052011
(43)【国際公開日】20180322
【発行日】20190624
(54)【発明の名称】セルフリーDNAの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20190603BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20190603BHJP
【FI】
   !C12N15/00 AZNA
   !C12Q1/68 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
【出願番号】2017553271
(21)【国際出願番号】JP2017033011
(22)【国際出願日】20170913
(31)【優先権主張番号】2016179451
(32)【優先日】20160914
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
(72)【発明者】
【氏名】中川 舞
【住所又は居所】神奈川県鎌倉市手広6丁目10番1号 東レ株式会社 基礎研究センター内
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔太
【住所又は居所】神奈川県鎌倉市手広6丁目10番1号 東レ株式会社 基礎研究センター内
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕子
【住所又は居所】神奈川県鎌倉市手広6丁目10番1号 東レ株式会社 基礎研究センター内
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ03
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4B063QX02
(57)【要約】
水溶性の中性ポリマーを表面に吸着させた酸化アルミニウムを担体として使用することで、少量の体液試料からセルフリーDNAを効率よく回収することを可能とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液試料からセルフリーDNAを回収する方法であって、以下の工程:
工程a)水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体と前記体液試料を混合し、前記担体にセルフリーDNAを吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した混合物から、前記セルフリーDNAが吸着した担体を分離する工程、および
工程c)工程b)において分離した前記セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えてセルフリーDNAを回収する工程、
を含むセルフリーDNAの回収方法。
【請求項2】
前記体液試料が、全血、血清、血しょう、尿または唾液である請求項1に記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項3】
前記水溶性の中性ポリマーが、pH7の溶液中で−10mV以上+10mV以下のゼータ電位を有するポリマーである請求項1または2に記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1から3に記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項5】
前記溶出液が緩衝液である請求項1から4のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項6】
前記体液試料を、タンパク質変性剤で処理する請求項1から5のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項7】
前記タンパク質変性剤が、カオトロピック塩またはタンパク質変性酵素である請求項6に記載のセルフリーDNAの回収方法。
【請求項8】
セルフリーDNAの遺伝子配列を解析し、がんに特異的な遺伝子変異を検出する方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者の体液試料からセルフリーDNAを回収する工程、および当該回収したセルフリーDNAからがんに特異的な遺伝子変異を検出する工程、を含む遺伝子変異の検出方法。
【請求項9】
被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較することによってがんを検出方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者およびがんに罹患していない検体の体液試料からセルフリーDNAを回収する工程、および当該回収した被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較してがんを検出する工程、を含むがんの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルフリーDNAを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を用いた実験技術の発展により新規遺伝子探索やその解析が可能となった。がんなどの疾患を特定するためにヒトのゲノムが解析され、病原体の感染を特定するためにそれらのゲノムが解析されるなど、医療現場においても遺伝子解析を利用したスクリーニング検査や臨床検査などが行われている。
【0003】
近年では核酸の中でも特にセルフリーDNAが注目され、腫瘍由来のセルフリーDNAに存在するがん特有の遺伝子変異を解析することで治療薬に対する効果の有無を判定するなどの、臨床に直結する研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、EGFR遺伝子変異が検出された肺がん患者にはエルロチニブ、BRAF遺伝子変異が検出された皮膚がん患者にはベムラフェニブ、BRCA遺伝子変異が検出された卵巣がん患者にはルカパリブ、といった治療薬が承認されている。また、これらの遺伝子変異に対する標的治療薬効果はがんの種類を超えて共通であることが知られており、例えば、BRAF遺伝子のV600変異に対する治療薬ダラフェニブは皮膚がん及び非小細胞肺がんの患者の両方に推奨される。
【0005】
しかしながら、これまでがん特有の遺伝子を得るためには、手術切除したがん組織から遺伝子を回収することが一般的であった。切除組織の入手は患者への侵襲性が高く、多様ながん組織のどの部位を採取するかにより結果が異なってしまう問題があること、また手術前の治療には適さないこと、などの問題があった。近年、体液中に存在するセルフリーDNAにもがん特異的な遺伝子変異が存在しうることが報告され、がん組織を切除せずに遺伝子変異を検出することが切望されている。
【0006】
また、がんに罹患すると、がん細胞からセルフリーDNAが血中へ放出されるため、がん患者はがんに罹患していない者と比較し血中により多量なセルフリーDNAを含有するとされる(特許文献7)。従って、セルフリーDNAの量を正確に測定することができれば、体液試料を用いて低侵襲的に簡便にがんの検出が可能になる。特許文献7には、シリカゲルメンブランで回収したセルフリーDNAの量を基にがんを検出する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、体液中に存在するセルフリーDNAは少量であるうえ、セルフリーDNA配列上に存在するがん特有の変異点を解析するためには、セルフリーDNAの中でも、血中の総DNAにおけるアレル頻度が0.1%〜数%程度しかない腫瘍細胞由来のcell−free tumor DNA(ctDNA)と呼ばれるセルフリーDNAを検出する必要があり、高い収率でセルフリーDNAを回収する技術が必要となる。
【0008】
現在、一般的に行われている核酸の回収方法としては、フェノール・クロロホルム抽出法、エタノール沈殿法及びシリカへの核酸吸着法などが代表的な方法として挙げられる。中でも最も汎用的な方法は、特許文献1に記載されている、シリカを含む金属酸化物へ核酸を吸着、溶出させて回収するBoom法である。この方法は、遠心操作により核酸の吸着したシリカから核酸を回収すると同時に核酸の濃縮ができる特徴がある。
【0009】
特許文献2にはBoom法をもとに、シリカに対してセルフリーDNAを吸着させる技術が記載されている。これによると、フェノール・クロロホルム抽出を酸性条件化で行えば、RNAは水相に、DNAはクロロホルム相に分離され、中性条件で行えば、水相にRNAとDNAが分配される。つまり、抽出溶液の条件を変えることで取得したい核酸を選択的に抽出できるとしている。
【0010】
しかしながら、これら特許文献1、特許文献2に記載の方法では、核酸の吸着過程においてアルコールなどの有機溶媒の使用が不可欠であるため、溶媒廃棄の問題があり、回収操作も煩雑である。加えて、単離した核酸にこれら有機溶媒が混入し、その後の検出反応へ影響する問題もある。
【0011】
また、特許文献3には、300塩基対以上1000塩基対以下の塩基長を持つ核酸のシリカに対する吸着性は、それより短い塩基長を有する核酸の吸着性に劣ることが記載されており、さらに短いセルフリーDNAを回収するにあたって、シリカを用いた方法は不向きであることも予想される。
【0012】
特許文献4及び5には、セルフリーDNAに関する記載はないが、有機溶媒を利用しない核酸の回収方法が記載されている。特許文献4には、アルファ酸化アルミニウム粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子などに、核酸を吸着させ、効率的に回収する方法が記載されている。また、特許文献5には、イオン交換クロマトグラフィーの原理を用いて、核酸を吸着させ、回収する方法が記載されており、陰イオン交換材料として酸化アルミニウムが利用できると示されている。
【0013】
特許文献6には、核酸を溶解させる溶液に依存して、アルファ酸化アルミニウム、及びガンマ酸化アルミニウムに核酸を強固に結合させたり、逆に結合を阻止させたりすることができると記載されている。また、結合した核酸は、繰り返し洗浄しても、ほとんど溶出されないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5234809号明細書
【特許文献2】国際公開第2016/007755号
【特許文献3】特表2011−522529号公報
【特許文献4】国際公開第92/18514号
【特許文献5】特表2013−505719号公報
【特許文献6】特表2005−505269号公報
【特許文献7】国際公開第2015/114641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、セルフリーDNAを高い収率で回収するために、酸化アルミニウムを用いたセルフリーDNAの回収方法を検討した。回収方法の検討にあたって、上記の特許文献4、5に記載の酸化アルミニウムを用いた核酸の回収方法によって、セルフリーDNAの回収が可能であるかを検討した。しかし、後述する比較例1のとおり、これらの方法では、セルフリーDNAを回収することができなかった。
【0016】
本発明は、酸化アルミニウムを用いてセルフリーDNAを高い収率で回収する方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、酸化アルミニウムの表面に水溶性の中性ポリマーを吸着させることで、セルフリーDNAを効率的に回収できることを見出した。
【0018】
本発明の構成は、以下(1)〜(9)である。
(1)体液試料からセルフリーDNAを回収する方法であって、以下の工程:
工程a)水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体と前記体液試料を混合し、前記担体にセルフリーDNAを吸着させる工程、
工程b)工程a)において混合した混合物から、前記セルフリーDNAが吸着した担体を分離する工程、および
工程c)工程b)において分離した前記セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えてセルフリーDNAを回収する工程、
を含むセルフリーDNAの回収方法。
(2)前記体液試料が、全血、血清、血しょう、尿、または唾液である(1)に記載のセルフリーDNAの回収方法。
(3)前記水溶性の中性ポリマーが、pH7の溶液中で−10mV以上+10mV以下のゼータ電位を有するポリマーである(1)または(2)に記載のセルフリーDNAの回収方法。
(4)前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである(1)から(3)のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法。
(5)前記溶出液が、緩衝液である(1)から(4)のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法。
(6)前記体液試料を、タンパク質変性剤で処理する(1)から(5)のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法。
(7)前記タンパク質変性剤が、カオトロピック塩またはタンパク質変性酵素である(6)に記載のセルフリーDNAの回収方法。
(8)セルフリーDNAの遺伝子配列を解析し、がんに特異的な遺伝子変異を検出する方法であって、(1)〜(7)のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者の体液試料からセルフリーDNAを回収する工程、および当該回収したセルフリーDNAからがんに特異的な遺伝子変異を検出する工程、を含む遺伝子変異の検出方法。
(9)被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較することによってがんを検出方法であって、(1)〜(7)のいずれかに記載のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者およびがんに罹患していない検体の体液試料からセルフリーDNAを回収する工程、および当該回収した被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較してがんを検出する工程、を含むがんの検出方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセルフリーDNAの回収方法により、少量の試料から、簡便な方法でセルフリーDNAを高収率に回収することが可能になる。また、本発明の回収方法によれば、セルフリーDNAを高い収率で回収できるので、がんに特異的な遺伝子変異の検出感度や、がんの検出感度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のセルフリーDNA回収方法によって回収したセルフリーDNAと市販セルフリーDNA回収キットで回収したセルフリーDNAの電気泳動図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のセルフリーDNAの回収方法で回収するセルフリーDNAは、体液中に漏出した正常細胞由来のcell−free normal DNAおよび腫瘍細胞由来のcell−free tumor DNA(ctDNA)の総称であり、本明細書ではセルフリーDNAと記載する。
【0022】
セルフリーDNAの塩基長は、一般的にヒストン1単位に相当する166bp程度であるが、がんや、寄生虫に寄生された患者では、特徴的な塩基長のセルフリーDNAが検出される場合がある。例えば、がん患者の検体には、ヒストン1単位まで分解が進まず、166bpの単位が数個つながった332bp(166bp×2)、498bp(166bp×3)、664bp(166bp×4)などの塩基長のセルフリーDNAも含まれている。また、熱帯熱マラリア原虫に寄生された患者の場合、血清中の205bpなどの塩基長のセルフリーDNAが、リューシュマニアに寄生された患者の場合は尿中に70bpなどの塩基長のセルフリーDNAを漏出することが知られている(Trends in Parasitology、May 2016,Vo.32,No.5)。
【0023】
本発明で回収するセルフリーDNAの塩基長は特に限定されないが、本発明の方法を用いると500bp以下のセルフリーDNAを効率よく回収することができる。
【0024】
本発明で用いる体液試料は、セルフリーDNAを含む任意の体液試料であれば特に限定されないが、例えば、全血、血しょう、血清、尿、唾液などを利用することができ、好ましくは、血しょうまたは血清である。
【0025】
体液試料は、未処理のまま用いることもできるが、より収率よくセルフリーDNAを回収するために、タンパク質変性剤を用いて処理したものを用いることもできる。
【0026】
本発明で用いるタンパク質変性剤は特に限定されないが、例えば、SDS、サルコシル、CTABなどの界面活性剤、セリンプロテアーゼの一種であり広い切断特異性をもつProteinaseKなどのタンパク質変性酵素、塩化グアニジニウム、グアニジンチオシアン酸塩、及び尿素などのカオトロピック塩、その他メルカプトエタノールなどを好ましく用いることができる。また、タンパク質変性剤が含まれる市販の緩衝液も好ましく用いることができ、例えば、グアジニンチオシアン酸塩などを含むRLTバッファー(キアゲン株式会社製)は、カオトロピック塩のタンパク質変性剤として好ましく用いることができる。これらのタンパク質変性剤の中でも、特にカオトロピック塩もしくはタンパク質変性酵素が好ましい。
【0027】
また、タンパク質変性剤は、1種類だけ用いてもよいし、複数種類組み合わせて用いてもよい。タンパク質変性剤の組み合わせとしては、以下のような処理が挙げられる。例えば、体液試料に対して、1%のSDSを添加した後、ProteinaseKを加え60℃20min加温することができる。また、体液試料に対して、4M以上の塩化グアニジニウム、グアニジンチオシアン酸塩、または尿素を添加した後、サルコシルを終濃度0.5%以上になるように、またはメルカプトエタノールを終濃度50mM以上の濃度になるよう加えることができる。
【0028】
また、上記の操作において、体液試料に含まれるセルフリーDNAの分解を抑制するために、核酸を分解する酵素の阻害剤を添加してもよい。酵素の阻害剤は、例えばEDTAを体液試料に対し、終濃度1mM以下の濃度で添加することができる。また、RNA分解酵素の阻害剤として市販されている“RNasin”(登録商標) Plus Ribonuclease Inhibitor(プロメガ株式会社)、Ribonuclease Inhibitor(タカラバイオ株式会社)、RNase inhibitor(東洋紡株式会社)などを使用することができる。
【0029】
本発明において体液試料は必要に応じて希釈してもよい。希釈する溶液は特に限定されないが、水やTris−塩酸緩衝液などの核酸を含む溶液に汎用される溶液を使用することが好ましい。また、上記に挙げたタンパク質変性剤を含む溶液を用いてもよい。タンパク質変性剤を含む溶液で希釈する場合には、例えば、4M以上の塩化グアニジニウム、グアニジンチオシアン酸塩または尿素で希釈することができる。
【0030】
本発明は、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体を用いることで、高収率なセルフリーDNAの回収が達成される。本発明において、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体とは、水溶性の中性ポリマーが、粒状の酸化アルミニウムの周りに吸着した担体である。以後、本発明の担体と記載する。
【0031】
本発明において、担体にセルフリーDNAを吸着させるとは、可逆的に脱離可能となる吸着を指す。
【0032】
セルフリーDNAを定量する際の核酸量の定量の方法としては、吸光度測定、蛍光測定、発光測定、電気泳動、PCR、リアルタイムPCR、デジタルPCR、マイクロアレイを使用した解析、シーケンサーを使った解析などが挙げられる。具体的には、吸光度測定による定量方法は、非修飾の核酸であれば、260nmにおける吸光度を測定することで核酸量を定量することができる。蛍光測定による定量方法は、核酸に蛍光色素で修飾し、その蛍光色素に由来する蛍光強度を、濃度既知の溶液における蛍光強度と比較することで核酸量を定量できる。電気泳動による定量方法は、濃度既知のサンプルと同時に回収操作を行ったサンプルを泳動し、ゲルを染色してバンドの濃度を画像解析により比較することで決定することができる。
【0033】
PCRは、polymerase chain reactionの略でDNAサンプルの中から、特定の配列を選択的に増幅させることができる。PCRでは核酸の増幅反応終了後、その産物量から核酸の初期濃度を求めることができる。
【0034】
リアルタイムPCRは、定量的リアルタイムPCRとも呼ばれ、PCRによる増幅を継時的に測定することで増幅率に基づいて鋳型となるDNAの相対定量を行うことができる。また、標準サンプルを用いて、増幅率の検量線を作成すれば、絶対量を定量することもできる。増幅率は、増幅サイクル数(Cq値)として算出され、値が小さいほど、核酸量が多いことを示している。
【0035】
デジタルPCRでは、DNAサンプルを微細な仕切りの中に分配しPCR反応を行い、各分画ごとのPCR反応後のシグナル量から、核酸量を定量することができる。
【0036】
また、リアルタイムPCRでは、適切にプライマーを設計することで、回収したセルフリーDNAの塩基長も検出することができる。例えば、ハウスキーピング遺伝子として知られるアクチン−βの任意の配列を増幅することでセルフリーDNAの塩基長を検出することができる。たとえば、166bpのセルフリーDNAを回収したことを確認するためには、アクチン−β遺伝子のうち100bp前後を増幅させるプライマーを使用することができる(W.SUNら、Therole of plasma cell−freeDNA detection in predicting operative chemoradiotherapy response in rectal cancer patients.ONCOLOGY REPORTS 31:1466−1472,2014)。具体的には、アクチン−β遺伝子のうち93bpの塩基長を増幅させることができる配列番号1および2のプライマーを用いて、回収したセルフリーDNAを検出することができる。
【0037】
リアルタイムPCRでは、一般的に、増幅サイクル数(Cq値)が40以上は、検出限界以下とされている。
【0038】
本発明で用いるポリマーは、基本単位である単量体やモノマーと呼ばれる繰り返し単位が多数繋がった化合物の総称である。上記ポリマーには、1種類の単量体からなるホモポリマーと2種類以上の単量体からなるコポリマーのいずれもが含まれ、任意の重合度のポリマーを用いることができる。また、上記ポリマーには、天然ポリマーと合成ポリマーのいずれもが含まれる。
【0039】
本発明で用いる水溶性の中性ポリマーは、水に対して溶解可能な性質を有し、水に対する溶解度が、少なくとも0.0001wt%以上のポリマーであり、好ましくは、0.001wt%以上、より好ましくは0.01wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上である。
【0040】
本発明で用いる水溶性の中性ポリマーは、好ましくは、pH7の溶液中でゼータ電位が−10mV以上+10mV以下のポリマーである。より好ましくは−8mV以上+8mV以下であり、さらに好ましくは−6mV以上+6mV以下、特に好ましくは−4.0mV以上+1.1mV以下のポリマーである。
【0041】
ゼータ電位とは、溶液中におけるコロイドの界面の電気的性質を表す値の1つである。荷電したコロイドが溶液に分散していると、コロイドの表面ではコロイドの表面荷電に対する対イオンにより電気二重層が形成されている。このときのコロイド表面の電位を表面電位と呼ぶ。電気二重層は、コロイドの表面電荷の静電相互作用により形成されているため、コロイド側ほどイオンが強く固定されている。電気二重層の中でも静電相互作用により対イオンがコロイド表面に強く固定されている層を固定層、固定層の電位を固定電位と呼ぶ。溶液に対してコロイドを移動させると固定層はコロイドと共に移動する。このとき、コロイドから見て固定層よりも外側に、溶液が持つ粘性のためにコロイドと共に移動する境界面がある。これを、すべり面、または、ずり面と呼ぶ。コロイドから充分に離れた地点の電位をゼロ点としたときの、このすべり面の電位はゼータ電位と定義されている。このように、ゼータ電位はコロイドの表面電荷に依存して変化し、表面電荷はpHに依存するプロトンの着脱によって変化するため、本発明ではpH7の溶液中での値を基準とする。また、一般にコロイドのサイズと比べてすべり面までの距離は小さいので、コロイドの表面をすべり面と近似的に表現することもできる。本発明で用いる水溶性の中性ポリマーの場合も同様に、溶液中に分散したコロイドの表面電位をゼータ電位とみなすことができる。
【0042】
本発明において、ゼータ電位の測定は大塚電子株式会社のELS−Zを用いたレーザー・ドップラー電気泳動法を用いて測定する。レーザー・ドップラー電気泳動法は、光や音波が電気泳動により運動している物体に当たり、散乱あるいは反射するとその周波数が変化するドップラー効果を利用した測定方法である。
【0043】
ポリマーのゼータ電位を測定する場合には、コロイド分散溶液としてポリマー溶液を調製し、ゼータ電位を測定することができる。ポリマーを例えば、リン酸緩衝液や、塩化ナトリウム溶液、クエン酸緩衝液などの電解質に溶解させてポリマー溶液を調製し、溶液中に分散したポリマーの散乱光や、反射光を検出して測定を行う。コロイドのサイズが大きいほど、低い濃度で散乱光や反射光を検出することが可能となる。
【0044】
ポリマーのゼータ電位をレーザー・ドップラー法で測定する具体的な条件は特に限定されないが、例えば、ポリマーの濃度を1wt%以上10wt%以下となるようにリン酸緩衝液(10mM, pH7)に溶解し、この溶液を測定用セルに入れて、レーザー・ドップラー電気泳動法を原理とするゼータ電位測定装置に設置して室温で測定することができる。
【0045】
本発明で用いる水溶性の中性ポリマーとしては、具体的には、以下のものが挙げられる。例えば、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンなどのポリビニル系ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)又はポリ(N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミドなどのポリアクリルアミド系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコール系のポリマー、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、(ヒドロキシプロピル)メチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースなどを用いることができる。また、上記のポリマーが含まれる共重合体も用いることができる。
【0046】
また、フィコール、アガロース、キチン及びデキストランなどのポリサッカライド又はポリサッカライド類縁体並びにアルブミンなどのタンパク質やペプチドも本発明の水溶性の中性ポリマーに含まれる。
【0047】
水溶性の中性ポリマーの官能基の一部をイオン化させたり、陽性や陰性を示す官能基に置換したり、側鎖にアセチル基など水溶性を発現する官能基を導入してもよい。
【0048】
本発明において、水溶性の中性ポリマーの分子量としては、例えば、0.4kD以上のポリマーを好ましく用いることができ、より好ましくは6kD以上である。
【0049】
本発明で用いる酸化アルミニウムは、Alの組成式で表される両性酸化物であり、アルミナとも呼ばれる。
【0050】
酸化アルミニウムは、天然に産出するものを用いてもよいし、工業的に作製したものを用いてもよい。酸化アルミニウムを作製する方法としては、例えば、ギブサイトを出発原料とするバイヤー法、アルコキシド法、中和法若しくはオイルドロップレット法等のベーマイト形態の水酸化物を経由する方法(ゾルーゲル法とも呼ばれる)、アルミニウム塩熱分解法または陽極酸化法などが挙げられる。
【0051】
工業的に作製した酸化アルミニウムは、試薬メーカーや、触媒化学メーカー、一般社団法人触媒学会の参照触媒部会などから入手することができる。
【0052】
酸化アルミニウムは、それらが持つ結晶構造によって、アルファ酸化アルミニウム、ロー酸化アルミニウム、カイ酸化アルミニウム、カッパ酸化アルミニウム、イータ酸化アルミニウム、ガンマ酸化アルミニウム、デルタ酸化アルミニウム、シータ酸化アルミニウムなどに分類される。本発明では、高比表面積を持つガンマ酸化アルミニウムが好ましい。
【0053】
さらに酸化アルミニウムは、作製時の焼成温度に応じて、酸点(Al、Al−OH)と塩基点(Al−O)が変化する。酸化アルミニウムはこの酸点と塩基点の数に応じて、酸点が多ければ酸性アルミナ、塩基点が多ければ塩基性アルミナ、酸点と塩基点が同程度の中性アルミナとなる。この特性の違いは、pH指示薬であるBTB溶液を添加することで確認できる。BTB溶液を加えて、酸化アルミニウムが黄色に呈色すれば酸性アルミナ、緑色に呈色すれば中性アルミナ、青色に呈色すれば塩基性アルミナであることが確認できる。このような特性上の違いがあるが、本発明においては、いずれの酸化アルミニウムも使用することができる。
【0054】
本発明で用いる酸化アルミニウムは、粒状のものがよい。粒径はそろっていても、異なる粒径を混合して利用してもよい。粒径は、例えば、212μm未満の酸化アルミニウムを好ましく用いることができ、より好ましくは100μm未満の酸化アルミニウムを用いることができる。
【0055】
粒径は、本発明では日本工業規格に規格するJIS Z−8801−1:2006に基づいたふるい目開きの寸法で定義する。例えば、上記JIS標準による目開きにして40μmのふるいを通過し、32μmのふるいを通過できない粒子は、32μm以上40μm未満の粒径となる。
【0056】
本発明で用いる溶出液は、本発明の担体に吸着したセルフリーDNAを溶出させることができれば、特に限定されないが、緩衝液が好ましく、緩衝液にはキレート剤が含まれていてもよい。具体的には、クエン酸とクエン酸ナトリウムを含むクエン酸緩衝液、リン酸とリン酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液や、トリスヒドロキシアミノメタンと塩酸を含むTris−塩酸緩衝液にEDTAを添加したTris−EDTA緩衝液などが挙げられる。
【0057】
緩衝液のpHは、pH4以上pH9以下が好ましく、より好ましくは、pH5以上pH8以下である。
【0058】
本発明で用いる緩衝液は、以下のように調製できる。例えば、0.5Mのリン酸緩衝液(pH7)の調製は、以下のとおりである。0.5Mのリン酸水素二ナトリウム水溶液と0.5Mのリン酸二水素ナトリウムを調製する。0.5Mのリン酸水素二ナトリウム水溶液に対し、pHを測定しながらリン酸二水素ナトリウム溶液を添加し、pH7となったところで添加を止める。同様の方法で、他のpHの緩衝液も調製することができる。
【0059】
緩衝液に含まれるキレート剤は、複数の配位座を持つ配位子を持っており、金属イオンへ結合し、錯体を形成する物質を用いることができる。
【0060】
具体的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、ポリリン酸、メタリン酸及び/又は及びそれらの塩などが挙げられる。キレート剤の終濃度は特に限定されないが、50mM以上であればよく、好ましくは100mM以上、さらに好ましくは500mM以上である。
【0061】
また、上記以外のキレート剤となる化合物として、陰イオン性のポリマーを挙げることができる。カルボン酸を側鎖に持つポリマーは金属イオンを配位するため、これらが緩衝液に含まれていてもよい。このような機能を有するポリマーとして、ポリビニルスルホン酸及び/又はそれらの塩が挙げられる。その終濃度は特に限定されないが、1wt%以上であればよく、好ましくは10wt%以上である。
【0062】
本発明は、体液試料からセルフリーDNAを回収する方法であって、工程a)水溶性の中性ポリマーが表面に吸着した酸化アルミニウムの担体と体液試料を混合し、担体にセルフリーDNAを吸着させる工程、工程b)工程a)において混合した混合物から、前記セルフリーDNAが吸着した担体を分離する工程、工程c)工程b)において前記セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えてセルフリーDNAを回収する工程を含む。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0063】
本発明で用いる担体は、酸化アルミニウムの表面に水溶性の中性ポリマーを吸着させることにより作製する。ポリマーによる表面の被覆率は、7%以上であればよく、40%以上であることが好ましい。また、水溶性の中性ポリマーは均一の厚さで吸着していなくてもよい。
【0064】
本発明において、ポリマーによる酸化アルミニウムの被覆率は、表面電位顕微鏡(別名ケルビンプローブフォース顕微鏡;KFM)によって取得した電位分布図を解析することで算出する。表面電位顕微鏡は例えば、Bruker AXS社のDigital Instruments製のNanoScope Iva AFM Dimension 3100 ステージAFMシステムなどが利用できる。
【0065】
表面電位顕微鏡から表面被覆率を算出するにあたり、測定の視野スケールは、0.5μm×1μmの範囲で行う。表面被覆率の算出方法は、まず酸化アルミニウムの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。次に水溶性の中性ポリマーの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。そして、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面電位画像を取得し視野内の平均電位を求める。酸化アルミニウムのみの被覆率を0%、水溶性の中性ポリマーのみの被覆率を100%とし、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの平均電位と水溶性の中性ポリマーの平均電位の比をとることで、水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面被覆率を算出する。表面被覆率を求めるにあたり、使用する視野内の平均電位は、本発明の単体の粒子をランダムに3つ選んで、それぞれの測定値の平均値を使用する。
【0066】
また、表面被覆率を算出する際の画像解析ソフトとして、Adobe社のPhotoshopなどを使用することができる。この場合、画像解析にあたって、酸化アルミニウムの表面電位の平均値をスケール下端、水溶性の中性ポリマーの表面電位の平均値をスケール上端とし、下端の色を黒(8bit、RGB値0)、上端の色を赤(R値255)、または緑(G値255)、または青(B値255)などに設定する。設定したスケールで水溶性の中性ポリマーが吸着した酸化アルミニウムの表面電位画像を表示し、R値、またはG値、またはB値のいずれかの値を255で割り、その比を表面被覆率とする。
【0067】
水溶性の中性ポリマーを表面に吸着させる前段階として、予め酸化アルミニウムを水やエタノールなどの溶液で洗浄し、表面に吸着している不純物を除いておいてもよく、本洗浄操作を省略してもよい。
【0068】
水溶性の中性ポリマーを酸化アルミニウムに吸着させる方法は、例えば、水溶性の中性ポリマーを溶解させてポリマー溶液を調製し、酸化アルミニウムに接触させる方法が挙げられる。具体的には、ポリマー溶液に酸化アルミニウムを浸漬させたり、ポリマー溶液を酸化アルミニウムに滴下したり、ポリマー溶液を酸化アルミニウムに塗布したり、ポリマー溶液を霧状にして酸化アルミニウムに吹き付けたりすることができる。
【0069】
ポリマー溶液に、酸化アルミニウムを浸漬させる方法は特に限定されない。例えば、ピペッティング、転倒混合、スターラー、ミキサー、ボルテックス、ミルなどの分散機や超音波処理装置などで撹拌してもよい。
【0070】
水溶性の中性ポリマー濃度は特に限定されないが、0.01wt%以上が好ましく、より好ましくは、0.1wt%以上である。
【0071】
攪拌する際の混合時間は、ポリマーと酸化アルミニウムが均一に混合されれば、特に混合時間は限定されないが、ボルテックスの場合1分以上、好ましくは5分以上撹拌することが好ましい。
【0072】
また、ふるいや、ざるなどを用いてディップコートすることもできる。溶液に浸す際の混合時間は、0.1wt%以上のポリマー濃度であれば5分以上であればよく、30分以上であることが好ましい。
【0073】
ポリマー溶液を滴下する場合には、スポイト、滴下漏斗、などを用いることができる。ポリマー溶液を滴下する際には、酸化アルミニウムを振動させたり、回転させたりしてもよく、スピンコーターなどを用いてもよい。
【0074】
ポリマー溶液を塗布する場合には、刷毛、ローラー、ワイヤーバーを用いることができる。
【0075】
ポリマー溶液を霧状にして吹き付ける場合には、エアースプレーやエアブラシなどを用いることができる。
【0076】
上記に例示した方法で、酸化アルミニウムに水溶性の中性ポリマーを吸着させた後は、余分なポリマー溶液を遠心分離などによって取り除いてもよいし、取り除かずにそのままセルフリーDNAの回収に用いてもよい。また、ポリマー溶液を溶媒に溶解させている場合、酸化アルミニウムに水溶性の中性ポリマーを吸着させた後、乾燥させて溶媒を取り除いてもよいし、乾燥させずに、セルフリーDNAの回収に用いてもよい。
【0077】
得られた本発明の担体は、作製して保存しておいたものを使用してもよく、用時調製して使用してもよい。
【0078】
ポリマー溶液は、入手したポリマーが固体であれば水や有機溶媒に溶解することで調製でき、溶液であれば希釈することで調製できる。ポリマーが溶解しにくい場合や、溶液の粘度が高く混合しにくい場合、加熱処理や超音波処理を行ってもよい。有機溶媒は、例えば、エタノール、アセトニトリル、メタノール、プロパノール、tert-ブタノール、DMF、DMSO、アセトン、エチレングリコール、グリセロールなど、水と双溶性のあるものを使用することが好ましい。また、水に溶解しにくい場合には、上記の有機溶媒を添加してもよい。
【0079】
酸化アルミニウムと水溶性の中性ポリマーを、リンカー分子などによって共有結合させて作製した担体は、本発明の担体に該当しない。具体的なリンカー分子には、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0080】
以降、本発明を工程毎に説明する。
【0081】
工程a)は、上記の作製方法によって作製した酸化アルミニウムの表面に水溶性の中性ポリマーが吸着した担体(本明細書中では、本発明の担体と記載する。)と、体液試料を混合し、本発明の担体にセルフリーDNAを吸着させる工程である。本発明の担体と体液試料との混合方法は特に限定されないが、例えば、ピペッティングや転倒混合により行ってもよく、ミキサー、ボルテックスなどの装置を使用してもよい。混合時間は、特に限定されないが、5分程度であればよく、それ以上の時間混合してもよい。また、本発明の担体をカラムに充填し、体液試料を通過させてもよい。さらに、本発明の担体と体液試料を混合する際に、タンパク質変性剤を添加してもよい。タンパク質変性剤は、工程a)の前段階として、あらかじめ体液試料に添加しておくこともできる。
【0082】
工程b)は、工程a)において混合した混合物から、前記セルフリーDNAが吸着した担体を分離する工程である。分離の方法としては、工程a)で得られる混合物を遠心分離し、セルフリーDNAが吸着した担体を沈殿させ、上清を除く方法が挙げられる。セルフリーDNAが吸着した担体の比重は水より大きいため、遠心操作により容易に沈殿させることができる。遠心分離の条件は、6000Gで1分間処理すればよく、10000Gで1分間処理することがより好ましい。他の分離方法としては、限外ろ過膜を用いる方法が挙げられる。セルフリーDNAが吸着した担体の粒径より小さな孔径を持つ限外ろ過膜に対し、工程a)で得られた混合物を通過させ、担体を分離する。このような限外ろ過膜はキット化されており、メルク株式会社のウルトラフリー(登録商標)やPall Corporationのナノセップ(登録商標)に代表される遠心ろ過キットを入手して利用することができる。
【0083】
また、工程b)の操作の後に、必要に応じて以下のような処理をしてもよい。これは、本発明の担体の表面に目的となるセルフリーDNA以外の生物学的試料由来物が吸着している可能性があるためである。例えば、より高純度にセルフリーDNAを単離するため、洗浄や分解の処理を行うことができる。具体的には、非特異的に吸着した化合物を除去するために水で洗浄する、非特異的に吸着したタンパク質を除去するために界面活性剤で洗浄する、イオンや低分子化合物を除去するために界面活性剤を含む溶液で洗浄する、非特異的に吸着した疎水性化合物を除去するために有機溶媒で洗浄する、非特異的に吸着したタンパク質を分解するためにタンパク質分解酵素を添加する、DNAのみを単離するためにRNA分解酵素を添加する及びRNAのみを単離するためにDNA分解酵素を添加する、などの様々な処理をすることができる。
【0084】
工程c)は、工程b)において分離した前記セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えてセルフリーDNAを回収する工程である。セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えて、吸着しているセルフリーDNAを溶出液中に溶出させ、セルフリーDNAを回収する工程である。
【0085】
工程c)において、本発明の担体と、セルフリーDNAを溶出させた溶液を分離する方法としては、工程c)において、セルフリーDNAが吸着した担体に溶出液を加えて得られた混合物を遠心分離し、本発明の担体を沈殿させ、セルフリーDNAが溶出している上清を取得する方法が挙げられる。本発明の担体の比重は水より大きいため、遠心操作により容易に沈殿させることができる。遠心分離の条件は、6000Gで1分間処理すればよく、10000Gで1分間処理することが好ましい。
【0086】
他の分離方法としては、限外ろ過膜を用いる方法が挙げられる。本発明の担体の粒径より小さな孔径を持つ限外ろ過膜に対し、工程c)において得られた混合物を通過させ、本発明の担体を分離する。このような限外ろ過膜はキット化されており、メルク株式会社のウルトラフリー(登録商標)やPall Corporationのナノセップ(登録商標)に代表される遠心ろ過キットを入手して利用することができる。
【0087】
回収されたセルフリーDNAは、必要に応じて、化学修飾を行うことができる。化学修飾には、セルフリーDNAの末端に対する蛍光色素修飾、消光剤修飾、ビオチン修飾、アミノ化、カルボキシル化、マレインイミド化、スクシンイミド化、リン酸化及び脱リン酸化などが挙げられ、他にはインターカレーターによる染色が挙げられる。これらの修飾は化学反応により導入されてもよく、酵素反応により導入されてもよい。上記定量の前にこれらの修飾基を導入し、回収されたセルフリーDNA自身を定量するのではなく、化学修飾を経て導入された修飾基を定量することで、間接的にセルフリーDNAを定量することができる。
【0088】
本発明のセルフリーDNAの回収方法を用いて回収したセルフリーDNAを用いて、がんに特異的な遺伝子変異を検出したり、がんを検出したりすることができる。以降、これらの検出について説明する。
【0089】
本発明のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者の体液試料からセルフリーDNAを回収し、セルフリーDNAの遺伝子配列を解析して、がんに特異的な遺伝子変異を検出することができる。検出対象となるがんと、そのがんで変異が認められる遺伝子配列は、例えば“Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer”などのデータベース(http://cancer.sanger.ac.uk/cosmic)に報告されているがんと、配列から選択することができる。具体的には、以下の遺伝子を例に挙げることができる。
【0090】
肺がんで変異が認められる遺伝子として、AKT1、ALK、APC、ATM、BAI3、BAP1、BRAF、CDKN2A、EGFR、EPHA5、ERBB2、ERBB4、FBXW7、FGFR1、FGFR2、GRM8、KDR、KEAP1、KIT、KMT2D、KRAS、LRP1B、MDM2、MET、MLH1、MUC16、MYC、NF1、NFE2L2、NOTCH1、PDGFRA、PIK3CA、PIK3CG、PKHD1、PTEN、RARB、RB1、RET、ROS1、RUNX1T1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TP53などの遺伝子が挙げられる。
【0091】
乳がんで変異が認められる遺伝子として、ACVR1B、AKT1、ATM、BAP1、BRCA1、BRCA2、CBFB、CDH1、CDKN2A、EGFR、EP300、ERBB2、ERBB3、ESR1、EXOC2、EXT2、FBXO32、FGFR1、FGFR2、GATA3、IRAK4、ITCH、KMT2C、MAP2K4、MAP3K1、MDM2、MUC16、MYC、NCOR1、NEK2、PBRM1、PCGF2、PIK3CA、PIK3R1、PPM1L、PTEN、PTGFR、RB1、RET、SEPT9、TP53、TRAF5、WEE1、ZBED4などの遺伝子が挙げられる。
【0092】
大腸がんで変異が認められる遺伝子として、ACVR1B、AKT1、APC、ATM、ATP6V0D2、BAX、BRAF、CASP8、CDC27、CTNNB1、DCC、DMD、EP300、ERBB2、FBXW7、FZD3、GPC6、KRAS、MAP2K4、MAP7、MIER3、MLH1、MSH2、MSH3、MSH6、MYO1B、NRAS、PIK3CA、PIK3R1、PTPN12、SLC9A9、SMAD2、SMAD4、TCERG1、TCF7L2、TGFBR2、TP53、WBSCR17などの遺伝子が挙げられる。
【0093】
骨髄増殖性腫瘍で変異が認められる遺伝子として、ABL1、ASXL1、ATRX、BCOR、BCORL1、CBL、CBLB、DAXX、DNMT3A、EED、ETV6、EZH2、FLT3、GATA1、GNAS、IDH1、IDH2、IKZF1、JAK1、JAK2、JAK3、KAT6A、KIT、KMT2A、KRAS、MPL、NF1、NPM1、NRAS、PHF6、PRPF40B、PTPN11、RAD21、RB1、RUNX1、SETBP1、SF1、SF3A1、SF3B1、SH2B3、SMC1A、SMC3、STAG2、SUZ12、TET2、TP53、U2AF1、U2AF2、WT1、ZRSR2などの遺伝子が挙げられる。
【0094】
肝臓がんで変異が認められる遺伝子として、ALB、AMPH、APC、ARID1A、ARID2、ATM、AXIN1、BAZ2B、BRAF、CCDC178、CDKN2A、CSMD3、CTNNB1、DSE、ELMO1、ERBB2、ERRFI1、GXYLT1、HNF1A、IGF2R、IGSF10、KEAP1、KRAS、MET、OTOP1、PIK3CA、SAMD9L、TP53、UBR3、USP25、WWP1、ZIC3、ZNF226などの遺伝子が挙げられる。
【0095】
卵巣がんで変異が認められる遺伝子として、AKT1、ARID1A、BRAF、BRCA1、BRCA2、CBLC、CCNE1、CDK12、CDKN2A、CSMD3、CTNNB1、CUBN、EGFR、ERBB2、FAT3、GABRA6、KIT、KRAS、KREMEN1、MAS1L、MLH1、MSH2、NF1、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PPP2R1A、PTEN、RB1、TP53、USP16などの遺伝子が挙げられる。
【0096】
前立腺がんで変異が認められる遺伝子として、AKAP9、APC、AR、CDK12、CDKN1B、CDKN2A、GLI1、IKZF4、KDM4B、KLF6、KMT2D、MED12、MYC、NCOA2、NIPA2、NKX3−1、NRCAM、OR5L1、PDZRN3、PIK3CA、PTEN、RB1、SCN11A、SPOP、SYNE3、TBX20、TFG、THSD7B、TP53、ZFHX3、ZNF473、ZNF595などの遺伝子が挙げられる。
【0097】
胃がんで変異が認められる遺伝子として、APC、ATP4A、BAI3、BRCA2、CCNE1、CDH1、CTNNB1、DCC、ERBB2、FBXW7、FGFR2、GPR78、LPAR2、LRP1B、LRRK2、MET、MYC、NOTCH1、PIK3CA、PRKDC、RET、S1PR2、SPEG、SSTR1、STK11、TP53、TRIO、TRRAP、WNK2などの遺伝子が挙げられる。
【0098】
これら遺伝子変異の検出方法として、既存の核酸検出方法を用いることができる。具体的には、対象となる遺伝子変異を選択し、対象となる遺伝子の遺伝子変異を特異的に検出できるプライマーまたはプローブを用いてPCR、リアルタイムPCR、デジタルPCR、シーケンサー、マイクロアレイなどの核酸検出装置を用いて検出する。遺伝子変異の有無は、各検出法におけるネガティブコントロール測定値よりも有意に高いシグナルが測定された場合に、遺伝子変異が有ると判定することができる。より好ましくは、遺伝子変異が存在しないことが予め判明している検体と被験者の検体とについて同様の方法で遺伝子変異を測定し、遺伝子変異が存在しないことが予め判明している検体から得られた測定値と、被験者の検体から得られた測定値との間に統計学的に有意な差がある場合であって、被験者の検体から得られた測定値の方が高い場合に対象遺伝子の変異がある検出されたと判定する。
【0099】
また、本発明のセルフリーDNAの回収方法を用いて被験者およびがんに罹患していない検体の体液試料からセルフリーDNAを回収し、被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較することによってがんを検出することができる。具体的には、被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量を比較して、被験者由来のセルフリーDNA量が、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量よりも多い場合に、被験者の検体からがんが検出されたと判定することができる。望ましくは、被験者由来のセルフリーDNA量と、がんに罹患していない検体由来のセルフリーDNA量との間に統計学的に有意な差がある場合であって、被験者由来のセルフリーDNA量の方が多い場合にがんが検出されたと判定することができる。
【0100】
本発明で用いるがんに罹患していない検体とは、悪性腫瘍があることを臨床的に診断されたり、病理検査で確認されたりした既往がないヒト由来の検体である。がんに罹患していない検体の身体的条件は、被験者と同一又は近似することが好ましい。身体的条件とは、例えば、人種等が該当する。
【0101】
また、被験者とがんに罹患していない検体の体液試料の種類は、同種の体液試料を用いることが好ましい。具体的には、被験者の検体が血しょうの場合、がんに罹患していない検体も血しょうを用いることが好ましい。また、被験者の検体が血清の場合は、がんに罹患していない検体も血清を用いることが好ましい。
【0102】
また、がんに罹患していない検体は、単数でも複数でもよい。がんに罹患していない検体を複数利用する場合には、セルフリーDNA量は、平均値、外れ値を除いた平均値、または中央値、などを用いることができる。
【0103】
回収されたセルフリーDNA量を定量する方法は、核酸量の定量方法として上記に記載した方法を用いることができる。
【0104】
この場合、定量対象となるセルフリーDNAの塩基長は、特に限定されないが、100bpより長い塩基長のセルフリーDNAが好ましく、300bp以上の塩基長のセルフリーDNAがより好ましい。また、定量対象の遺伝子配列は、セルフリーDNAに含まれる配列であれば特に限定されず、たとえばACTBやGAPDHなどのハウスキーピング遺伝子でもよく、がん特徴的な遺伝子であってもよい。がんに罹患していない検体と被験者のセルフリーDNA量は、同じ方法で測定した値を利用することが好ましい。
【0105】
本明細書において、「統計学的に有意な差」とは、例えばコントロール群の95%信頼下限区間をベースラインと設定し、被験者の測定値が当該ベースラインに達するかを判定することができる。また、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05、p<0.01又はp<0.001の場合が挙げられる。ここで、危険率である「p」又は「p値」とは、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」又は「p値」が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【実施例】
【0106】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。
【0107】
<材料と方法>
ポリエチレングリコールはメルク株式会社より、塩基性のガンマ酸化アルミニウム(N613N)は日揮触媒化成株式会社より購入した。実施例中で用いたポリマー水溶液は、それぞれの濃度になるよう水で溶解させた。また、実施例中で特に断らない限り、ガンマ酸化アルミニウムは塩基性のものを用いた。酸化アルミニウムは、ふるい分けなどせずに購入したまま実験に用いた。
【0108】
変性剤としては、キアゲン株式会社よりQIAGEN PtoreinaseKおよびRLTを、尿素は和光純薬工業株式会社より購入した。
【0109】
また、電気泳動で用いた20bp DNA ladderはタカラバイオ株式会社より、アクリルアミドゲルNOVEX−TBE−Gells 8% 15wellとDNA染色剤SYBR−Gold Nucleic Acid Ge l Stainをサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社より購入した。リアルタイムPCR測定には、タカラバイオ株式会社のSYBR(登録商標) Premix Ex TaqIIを用いた。セルフリーDNAを検出するために、アクチン−βの遺伝子配列のうち93bp分の塩基長(ACTIN93)を増幅させるためのプライマーとして、配列番号1および2を用いた。また、セルフリーDNA量によるがんの検出には、アクチン−βの遺伝子配列のうち306bp分の塩基長を増幅させるためのプライマーとして、配列番号1および3を用いた。プライマーはPrimePCR Assays,Panels,and Controls Instruction Manual (バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社)の記載を元に設計し、ユーロフィンジェノミクス株式会社より購入し、特に精製することなくそのまま用いた。その他の試薬については、和光純薬株式会社、東京化成株式会社、シグマーアルドリッチジャパン合同会社から購入し、特に精製することなくそのまま用いた。
【0110】
ボルテックスは東京理化器械株式会社のCUTE MIXER CM−1000を、ゼータ電位の測定には大塚電子株式会社のELS−Zを用いた。電気泳動はミニゲルスラブ電気泳動装置(アズワン株式会社)を用いた。サーマルサイクラーはタカラバイオ株式会社のPCR ThermalCycler SP TP−400を、リアルタイムPCRはバイオラッド社のCFX96−Real Time Systemを用いた。ふるいはアズワン株式会社のMVS−1を用いた。染色したゲルはGEヘルスケア・ジャパン株式会社のTyphoonFLA9500を用いて解析した。ゲルの画像解析は、Molecular Dynamics社のImageQuant TL(登録商標)を用いた。
【0111】
また、リアルタイムPCRでセルフリーDNAを定量した際には、リアルタイムPCRの結果、増幅サイクル数(Cq値)が35以下の場合に、セルフリーDNAを回収できていると判定した。また、40以上の場合は、測定下限以下となるため、N.Dと記載する。
【0112】
体液試料としては、がんに罹患していない検体としては、Tennessee Blood Services社から購入した複数人由来の混合血しょう、CureLine社より入手したがんに罹患していない女性及び男性由来の血しょうを用いた。がんに罹患している検体としては、CureLine社より入手したがん患者の血しょうを用いた。
【0113】
<比較例1>ポリマーコーティングしていない酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収
特許文献4(実施例4、Table2)に記載の酸化アルミニウムAと組成の近い塩基性のガンマ酸化アルミニウム(N613N:日揮触媒化成株式会社)を用いて、セルフリーDNAを効率的に回収することができるかを検討した。体液試料としては、Tennessee Blood Services社から購入した複数人由来の混合血しょうを用いた。酸化アルミニウムに吸着させたセルフリーDNAを溶出させる溶出液として、特許文献4、5に、リン酸緩衝液、又はTris−EDTA緩衝液を溶出液として利用できることが記載されおり、特許文献6には、リン酸溶液が核酸と酸化アルミニウムとの結合を阻害する旨が記載されていたことから、リン酸緩衝液(0.5M,pH7)を溶出液として、以下の実験を行った。
【0114】
1.5mLチューブに0.5mgずつガンマ酸化アルミニウムを量り取った。そこにエタノール400μL添加し、ボルテックスで撹拌し、遠心機で遠心(10000G、1min)し上清を除いた。この操作を再度繰り返し、エタノールによって、ビーズ表面のごみなどを除去した。
【0115】
洗浄を終えたガンマ酸化アルミニウムに血しょう300μLを添加し、15分間ボルテックスで撹拌した。遠心機で遠心(10000G、1min)して上清を除き、血しょうを取り除いた。次に滅菌蒸留水400μL添加し、ボルテックスで撹拌し、遠心機で遠心(10000G、1min)し上清を除いた。この操作を再度繰り返し、滅菌蒸留水によって、チューブ内の残血しょうを完全に除去した。チューブ内の滅菌蒸留水を極力取り除いた後に、溶出液としてリン酸緩衝液(0.5M,pH7.0)を50μL添加し、すぐにボルテックスで15分間撹拌した。遠心機で遠心(10000G、1min)し、セルフリーDNAが含まれた上清を回収した。
【0116】
回収したセルフリーDNA量を確認するために、リアルタイムPCRにてアクチン−βの遺伝子配列のうち93bp分の塩基長(ACTIN93)を増幅させた。増幅プライマーとして、配列番号1および2を用いた。リアルタイムPCRは以下のような手順で実施した。
【0117】
まず、氷上にてSYBR Premix Ex Taqを12.5μL、0.5μMに調製したプライマーを1.0μL、滅菌蒸留水を8.5μL、上記の方法で回収したセルフリーDNAを含むサンプルを滅菌蒸留水で10倍希釈したうちの2μLを,1.5mLチューブ内で混合した(計25μL)。25μL全量をリアルタイムPCR用プレートに添加し、プレートシートで蓋をし、装置へセットした。リアルタイムPCR測定条件は、95℃30secで2本鎖DNAを1本鎖DNAに別れさせた後→95℃5sec、56℃1minの伸長反応を40サイクル行い、Amplification Curveから、増幅サイクル数を得た。PCR反応後、反応液の温度を60℃から95℃まで徐々に上昇させ融解曲線分析を行い、得られたMeltCurveからプライマーダイマーができていないことを確認した。
【0118】
結果を表1に示した。リアルタイムPCRの増幅サイクル数(Cq値)が検出限界以下の40以上となった。
【0119】
この結果により、ポリマーが吸着していないガンマ酸化アルミニウムを担体として用いた場合、セルフリーDNAを回収できないことが分かった。従って、特許文献4および5に記載の方法ではセルフリーDNAが回収できないことがわかった。
【0120】
【表1】
【0121】
<比較例2>水溶性の中性ポリマー以外の水溶性のポリマーが吸着した酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収
1.5mlチューブに、0.5mgずつガンマ酸化アルミニウムを量り取った。これにポリマー溶液として、ポリアクリル酸(PAcA, 5.1kD, 10wt%)、デキストラン硫酸(DS, 4kD, 10wt%)、ポリビニルスルホン酸(PVSA, 10wt%)、ポリアリルアミン(PAA, 17kD, 10wt%)、ポリ−L−リシン(PLL, 150kD, 1wt%)をそれぞれ50μLずつ加えて10分間ミキサーで攪拌した。遠心機で遠心(10000G, 1min)して上清を除き、それぞれのポリマーが吸着したガンマ酸化アルミニウム得た。
【0122】
水溶性の中性ポリマー以外の水溶性のポリマーが吸着した酸化アルミニウム担体に比較例1で用いた血しょう300μLとタンパク質変性剤としてグアジニン塩酸塩を含むRLT(株式会社キアゲン、Buffer RLT)450μLを予め混合したのちにポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体に添加した。その他の操作は比較例1と同様で行った。また、回収したセルフリーDNAの検出は、比較例1と同様の方法で確認した。
【0123】
結果を表2に示した。これらの結果から、いずれの担体を用いた場合でも、リアルタイムPCRの検出下限以下の回収であったとわかる。これらの結果から、水溶性の中性ポリマー以外の水溶性のポリマーが吸着したガンマ酸化アルミニウムを担体として用いた場合、増幅サイクル数(Cq値)が35以上もしくは検出限界以下(N.D)となり、セルフリーDNAを回収できないことが分かった。
【0124】
【表2】
【0125】
<比較例3>シリカ担体を用いたセルフリーDNA回収
シリカ担体を用いたセルフリーDNA回収キット(サーモフィッシャー株式会社、MagMax cell−FreeDNA Isolation kit)を用いて血しょうセルフリーDNAを効率的に回収することができるかを検討した。
【0126】
タンパク質変性剤としては、キットプロトコルどおりのProteinaseKまたは、グアジニン塩酸塩を含むRLT(株式会社キアゲン、Buffer RLT)を用いた。体液試料は、比較例1と同様の血しょうを用いた。タンパク質変性剤として、RLTを用いた場合は、比較例1で用いた血しょう300μLとRLT450μLを予め混合したのちにシリカ担体に添加した。それ以外の回収操作はキットプロトコル通りでおこなった。
また、回収したセルフリーDNAの検出は、比較例1と同様の方法で確認した。
【0127】
結果を表3に示す。これらの結果から、シリカ担体を用いた場合はCq値が35以上となった。
【0128】
さらに、図1に回収したセルフリーDNAのゲル電気泳動の結果を示した。ゲル電気泳動の結果、回収したセルフリーDNAはバンドが確認できなかった。
【0129】
【表3】
【0130】
<実施例1>水溶性の中性ポリマーであるPEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収(タンパク質変性剤:ProteinaseK)
1.5mLチューブに0.5mgずつガンマ酸化アルミニウムを量り取った。そこにエタノール400μL添加し、ボルテックスで撹拌し、遠心機で遠心(10000G、1min)し上清を除いた。この操作を再度繰り返し、エタノールによって、ビーズ表面のごみなどを除去した。これにポリマー水溶液として、水溶性の中性ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG,10kD,10wt%)を50μL加えて10分間ミキサーで撹拌した。遠心機で遠心(10000G、1min)して上清を除き、ポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を得た。
【0131】
続いて、ポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体が含まれる溶液に、比較例3のキットプロトコルと同一の血しょう条件とするために、タンパク質変性剤としてProteinaseKで60℃20min変性処理した比較例1で用いた血しょう300μLを添加し、15分間ボルテックスで撹拌した。その後の操作は比較例1と同様に行った。回収したセルフリーDNA量は比較例1と同様に確認した。結果を表3に示す。
【0132】
<実施例2>水溶性の中性ポリマーであるPEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収(タンパク質変性剤:Buffer RLT)
実施例1で行った、血しょうのタンパク質変性処理の変性剤は、グアジニン塩酸塩を含むRLT(株式会社キアゲン、Buffer RLT)に変更した。使用方法は、比較例1で用いた血しょう300μLとRLT450μLを予め混合したのちにポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体に添加した。その他の作業は比較例1と同様である。結果を表3に示す。
【0133】
さらに、図1に回収したセルフリーDNAのゲル電気泳動の結果を示した。これらの結果から、比較例3で回収したセルフリーDNAはバンドが確認できないのに対し、実施例2で回収したセルフリーDNAは160bp付近でバンドを確認することができ、本発明の方法は、セルフリーDNAが高い純度で回収されていることがわかった。
【0134】
<実施例3>水溶性の中性ポリマーであるPEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収(タンパク質変性剤:尿素)
実施例1で行った、血しょうのタンパク質変性処理の変性剤の種類を尿素に変更した。使用方法は、比較例1で用いた血しょう300μLと尿素(終濃度6M)450μLを予め混合したのちにポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体に添加した。その他の作業は比較例1と同様である。結果を表3に示す。
【0135】
<実施例4>水溶性の中性ポリマーであるPEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収(タンパク質変性剤:なし)
実施例1で行った、血しょうのタンパク質変性処理を行わないで、血しょうをポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体に添加した。比較例1で用いた血しょう300μLに蒸留水45μLを添加した以外の作業は実施例1と同様である。結果を表3に示す。
【0136】
表3の実施例1、2、3、4の結果から、Cq値は35以下となり、水溶性の中性ポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いると、タンパク質変性剤の有無や、種類に関係なく、300μLの血しょうからセルフリーDNAを回収できることがわかった。
【0137】
<実施例5>水溶性の中性ポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収
水溶性の中性ポリマーとして、ゼータ電位が異なる以下にあげる各種ポリマーを各10wt%水溶液に調製した。PEG(ポリエチレングリコール)、PVA(ポリビニルアルコール)、PEOz(ポリ(2−エチル−2オキサゾリン))、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PVP(ポリビニルピロリドン)。調製した各ポリマー溶液とガンマ酸化アルミニウム担体を混合させ、各ポリマーが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を作製した。それ以外の作業は実施例1と同様である。
【0138】
その結果を表4に示す。リアルタイムPCRの増幅サイクル数(Cq値)が35以下であることから、ゼータ電位が±10mVの範囲である中性の水溶性ポリマーをガンマ酸化アルミニウム表面に吸着させた担体を用いれば、300μLという少量の血しょうから、セルフリーDNAを効率的に回収できることができることが分かった。
【0139】
【表4】
【0140】
<比較例4>シリカ担体を用いたセルフリーDNA回収
体液試料として、CureLine社より入手したがんに罹患していない女性及び男性由来の血しょう、並びにCureLine社より入手した乳がん患者(女性)の血しょうを用いた以外は、比較例3と同様の方法でセルフリーDNAの回収を行い、Quantus Fluorometer(登録商標)を用いてDNA濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0141】
これらの結果から、いずれの検体も測定限界以下の値である0.005ng/μLとなり、シリカ担体を用いた場合、300μLのがんに罹患していない検体由来の血しょう及びがん患者由来の血しょうからセルフリーDNAを回収できないことがわかった。
【0142】
<実施例6>水溶性の中性ポリマーであるPEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いたセルフリーDNA回収(タンパク質変性剤:尿素)
実施例1で用いた担体を使用した以外は、比較例4と同様の検体から、比較例4と同様作業でセルフリーDNAの回収を行った。回収したセルフリーDNAの濃度を比較例4と同様の方法で確認した。結果を表5に示す。
【0143】
その結果、がんに罹患していない男性由来の血しょうからは0.0149pg/μL、がんに罹患していない女性由来の血しょうからは0.0077pg/μL、乳がん患者由来の血しょうからは0.0323pg/μL得られた。
【0144】
【表5】
【0145】
<比較例5>シリカ担体を用いたがん患者由来血しょう由来セルフリーDNAからの遺伝子変異の検出
シリカ担体を用いたセルフリーDNA回収キット(サーモフィッシャー株式会社、MagMax cell−FreeDNA Isolation kit)を用いて、体液試料300μLからセルフリーDNAを回収し、がん特異的な遺伝子変異を検出した。体液試料として、CureLine社より入手したがんに罹患していない女性及び男性由来の血しょう、並びにCureLine社より入手した肺がん(男性)患者の血しょうを用いた。セルフリーDNAの回収方法は、比較例3において変性剤にRLTを用いた方法と同様に実施した。得られた溶出液の1/25の体積を20μLにして用いて、肺がん患者に特異的なEGFR exon19 deletion変異をデジタルPCRで検出した。結果を表6に示す。その結果、がんに罹患していない男性、女性の検体では遺伝子変異は検出されなかったが、肺がん患者のセルフリーDNAからは49.45%の頻度でEGFR exon19 deletion変異を検出した。
【0146】
<実施例7>PEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いて回収したセルフリーDNAからの遺伝子変異の検出
比較例3において変性剤にRLTを用いた方法と同様の方法を用いて、比較例5と同じ検体であるがんに罹患していない男性、女性、及び肺がん患者の血しょう300μLからセルフリーDNAを回収し、がん特異的な遺伝子変異を検出した。得られた溶出液の1/25の体積を20μLにして用いて、肺がん患者に特異的なEGFR exon19 deletion変異をデジタルPCRで検出した。その結果、がんに罹患していない男性、女性の検体では遺伝子変異は検出されなかったが、肺がん患者のセルフリーDNAからは55.82%の頻度でEGFR exon19 deletion変異を検出した。この数値は比較例5の方法で得られた遺伝子変異検出頻度(49.45%)よりも高いことから(表6)、本発明の方法は既存の方法よりもがん特異的な遺伝子変異を高感度に検出できることが示された。
【0147】
【表6】
【0148】
<比較例6>シリカ担体を用いて回収したセルフリーDNA量によるがんの検出
シリカ担体を用いたセルフリーDNA回収キット(サーモフィッシャー株式会社、MagMax cell−FreeDNA Isolation kit)を用いて、体液試料300μLからセルフリーDNAを回収し、リアルタイムPCRで測定されたセルフリーDNA量を用いてがんの有無を検出した。体液試料として、CureLine社より入手したがんに罹患していない女性及び男性由来の血しょう、並びに、CureLine社より入手した肺がん(男性)、乳がん(女性)、及び大腸がん(男性)の血しょうを用いた。セルフリーDNAの回収方法は、比較例3において変性剤にRLTを用いた方法と同様に実施した。DNAは50μLに溶出し、10倍希釈したうちの4μLを分取し、がん由来のセルフリーDNAをより検出し易くなるよう設計した配列1と配列3のプライマーから増幅されるアクチン配列遺伝子の断片である約306bpをリアルタイムPCRで検出した。検出対象の塩基長を300bpよりも長くすることで、非がん細胞では放出され難いが、がん細胞では放出されるセルフリーDNAを捕捉し、非がんとがんの区別を試みた。がんに罹患していない男性、およびがんに罹患してない女性由来の検体測定値の95%信頼下限区間をベースラインとし、これよりセルフリーDNA量が1.5倍以上多い(PCRサイクル数が約0.59少ない)検体はがんが検出されたとしてがん陽性、そうでない検体はがんが検出されないとして、がん陰性と判定した。
【0149】
上記の判断基準に、それぞれの検体のPCRサイクル数当てはめると、肺がん患者と大腸がん患者由来の検体は、がんに罹患していない検体のベースラインよりもセルフリーDNA量が多く検出されたため、がん陽性と判定した。一方で、乳がん患者由来の検体は、がんに罹患していない検体由来の測定値のベースラインと重なり、陰性と判定した。従って、本法では3つのがん検体のうち1つの検体についてがんと判定できなかったため、感度は66%であった。
【0150】
<実施例8>PEGが表面に吸着したガンマ酸化アルミニウム担体を用いて回収したセルフリーDNA量によるがんの検出
実施例2において変性剤にRLTを用いた方法と同様の方法を用いて、比較例6と同じ体液試料300μLからセルフリーDNAを回収し、リアルタイムPCRで測定されたセルフリーDNA量を用いてがんの有無を検出した。セルフリーDNAの回収方法は、比較例3において変性剤にRLTを用いた方法と同様に実施した。DNAは50μLに溶出し、10倍希釈したうちの4μLを分取し、がん由来のセルフリーDNAをより検出し易くなるよう設計した配列1と配列3のプライマーから増幅されるアクチン配列遺伝子の断片をリアルタイムPCRで検出した。がんの有無に関する判定については、比較例6と同様に実施した。その結果、肺がん(男性)、乳がん(女性)、大腸がん(男性)患者の血しょうは、それぞれ、がんに罹患していない検体のベースラインよりもセルフリーDNA量が多く検出され、全検体が、がん陽性と判定した。従って、本法では3つのがん検体のうち3つの検体全てが陽性であったため、感度は100%であった。この感度は、比較例6の方法で得られた感度(66%)よりも高いことから(表7)、本発明の方法は既存の方法よりも高感度にセルフリーDNAからがんを検出できることが示された。
【0151】
【表7】
【図1】
【配列表】
2018052011000001.app
【国際調査報告】