(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA
コイル導体と前記コイル導体の外周に配置された絶縁層とを有し、前記絶縁層はマイカと樹脂成分の硬化物とを含み、前記樹脂成分はメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む、回転電機用コイル。
前記メソゲン構造を有するエポキシ化合物が、メソゲン構造を2つ以上有し、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量が600〜2500であるエポキシ化合物を含む、請求項4に記載のマイカテープ。
コイル導体の外周に請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載のマイカテープを配置する工程と、前記コイル導体の外周に配置された前記マイカテープから絶縁層を形成する工程と、を有する回転電機用コイルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0023】
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本明細書において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本明細書において「エポキシ化合物」とは、分子中にエポキシ基を有する化合物を意味する。「エポキシ樹脂」とは、複数のエポキシ化合物を集合体として捉える概念である。「樹脂成分」とは、エポキシ樹脂と、必要に応じて硬化剤として用いられる成分とを含む概念である。
【0024】
<回転電機用コイル>
本実施形態の回転電機用コイルは、コイル導体と前記コイル導体の外周に配置された絶縁層とを有し、前記絶縁層はマイカと樹脂成分の硬化物とを含み、前記樹脂成分はメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む。
【0025】
本実施形態の回転電機用コイルでは、絶縁層がメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分の硬化物を含む。この絶縁層は、メソゲン構造を有しないエポキシ化合物を含む樹脂成分を用いて形成される従来の絶縁層よりも熱伝導性に優れている。
【0026】
絶縁層の熱伝導性の観点からは、絶縁層に含まれる樹脂成分の硬化物中にスメクチック構造が形成されていることが好ましい。スメクチック構造の詳細については、後述する。
【0027】
本実施形態の回転電機用コイルの絶縁層は、例えば、後述する本実施形態のマイカテープを用いて形成される。本実施形態のコイルに用いられるコイル導体の材質、形状、大きさ等は特に制限されず、コイルの用途等に応じて選択できる。
【0028】
<回転電機用コイルの製造方法>
本実施形態の回転電機用コイルの製造方法は、コイル導体の外周にマイカと樹脂成分とを含むマイカテープを配置する工程と、前記コイル導体の外周に配置された前記マイカテープから絶縁層を形成する工程と、を有し、前記樹脂成分はメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む。
【0029】
本実施形態の回転電機用コイルの製造方法に用いるマイカテープとしては、例えば、後述する本実施形態のマイカテープを用いることができる。
コイル導体の外周にマイカテープを配置する方法は特に制限されず、通常行われる方法を採用することができる。例えば、マイカテープをコイル導体の外周に、マイカテープの一部が重なり合うように螺旋状に巻きつける方法が挙げられる。この場合、マイカテープを巻きつける回数によって、得られる絶縁層の厚みを調節することができる。
【0030】
コイル導体の外周に配置されたマイカテープから絶縁層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、コイル導体の外周に配置されたマイカテープを加圧しながら加熱(ヒートプレス)して、マイカテープに含まれている樹脂成分をマイカテープの外に流出させて重なり合うマイカテープ間を埋めるようにし、これを硬化させて絶縁層を形成する方法が挙げられる。
【0031】
<マイカテープ>
本実施形態のマイカテープは、マイカを含むマイカ層と、裏打ち材を含む裏打ち層と、を有し、かつメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分を含む。
【0032】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分は、メソゲン構造を有しないエポキシ化合物を含む樹脂成分に比べ、硬化した状態での熱伝導率が高い傾向にある。このため、本実施形態のマイカテープを用いることで、熱伝導性に優れる絶縁層を形成することができる。
【0033】
本実施形態のマイカテープは、例えば、コイル導体等の被絶縁体(外周に絶縁層を形成される対象となる物体)に配置された状態でマイカテープに含まれている樹脂成分を硬化させて被絶縁体の外周に絶縁層を形成するために用いる帯状の物体(プリプレグマイカテープ、RR(Resin Rich)テープ等とも称される)として使用される。
【0034】
樹脂成分は、マイカ層及び裏打ち層の内部の空隙(マイカ及び裏打ち材が存在しない部分)の少なくとも一部を埋めるようにしてマイカテープ中に存在している(含浸している)。樹脂成分はさらに、マイカ層及び裏打ち層の外部に存在していてもよい。
【0035】
(樹脂成分)
樹脂成分は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含むものであれば特に制限されない。例えば、メソゲン構造を有するエポキシ化合物のみを含んでいても、メソゲン構造を有するエポキシ化合物に該当しないエポキシ化合物をさらに含んでいてもよい。
【0036】
絶縁層の熱伝導性を高める観点からは、エポキシ化合物全体(エポキシ樹脂)に占めるメソゲン構造を有するエポキシ化合物の割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物は、1種のみでも2種以上であってもよい。エポキシ化合物が有するメソゲン構造としては、例えば、ビフェニル構造、フェニルベンゾエート構造、アゾベンゼン構造、スチルベン構造、ターフェニル構造、アントラセン構造、これらの誘導体、及びこれらのメソゲン構造の2つ以上が結合基を介して結合した構造が挙げられる。
【0038】
絶縁層の熱伝導率を高める観点からは、メソゲン構造を有するエポキシ化合物は、硬化した状態で高次構造を示すものであることが好ましい。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡によって判断することができる。すなわち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。この高次構造体は、通常は硬化物中に島状に存在してドメイン構造を形成しており、その島の一つが一つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は、一般には共有結合により形成されている。
【0039】
硬化した状態で形成される高次構造としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造とスメクチック構造はそれぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみをもつ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。
【0040】
絶縁層の熱伝導性を高める観点からは、メソゲン構造を有するエポキシ化合物は、硬化した状態でスメクチック構造を示すものであることがより好ましい。
硬化した状態でスメクチック構造が形成されているか否かは、硬化物のX線回折測定により判断できる。CuKα1線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、2θ=0.5〜30°の範囲で測定すると、スメクチック構造を有している硬化物であれば、2θ=2〜10°の範囲に回折ピークが現れる。X線回折測定は、例えば、株式会社リガク製のX線回折装置を用いて行うことができる。
【0041】
樹脂成分のマイカ層及び裏打ち層への含浸性の観点からは、メソゲン構造を有するエポキシ化合物は、メソゲン構造を2つ以上有し、かつゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量が600〜2500であるエポキシ化合物(以下、特定エポキシ化合物とも称する)を含むことが好ましい。
【0042】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物が特定エポキシ化合物を含む場合は、メソゲン構造を有するエポキシ化合物が特定エポキシ化合物を含まない場合に比べ、樹脂成分の結晶化が抑えられ、マイカ層及び裏打ち層への含浸性により優れる傾向にある。その結果、マイカテープを用いて形成される絶縁層中のボイドの発生が抑えられて熱伝導性がより向上する傾向にある。
【0043】
特定エポキシ化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量は、800〜2000であることが好ましく、1000〜1800であることがより好ましい。特定エポキシ化合物の数平均分子量が800以上であると、樹脂成分の含浸性がより向上する傾向にあり、特定エポキシ化合物の数平均分子量が2000以下であると、硬化のための架橋点密度が充分確保され、熱伝導性が良好に維持される傾向にある。
【0044】
なお、特定エポキシ化合物を含むエポキシ化合物全体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量は300〜1500であることが好ましく、450〜1000であることがより好ましい。
【0045】
本明細書において、エポキシ化合物の数平均分子量は、以下の測定条件で測定するものとする。
ポンプ:L−6000(株式会社日立製作所)
カラム:TSKgel(登録商標) G4000H
HR+G3000H
HR+G2000H
XL(東ソー株式会社)
カラム温度:40℃
溶出溶媒:テトラヒドロフラン(クロマトグラフィー用安定剤不含、和光純薬工業株式会社)
試料濃度:5g/L(テトラヒドロフラン可溶分)
注入量:100μL
流速:1.0mL/分
検出器:示差屈折率計RI−8020(東ソー株式会社)
分子量較正標準物質:標準ポリスチレン
データ処理装置:GPC−8020(東ソー株式会社)
【0046】
特定エポキシ化合物は、特定エポキシ化合物に含まれるメソゲン構造と同じメソゲン構造を1つ有するエポキシ化合物(以下、エポキシモノマーとも称する)の2つ以上を反応させて得られる化合物(以下、多量体とも称する)であってもよい。この場合、特定エポキシ化合物は、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と反応させて得られるものであっても、エポキシモノマーの自己重合により得られるものであってもよい。
【0047】
特定エポキシ化合物が、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物との反応により得られる多量体である場合、特定エポキシ化合物としては、下記一般式(A)又は(B)で表される構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0049】
一般式(A)及び(B)において、*は隣接する原子との結合位置を表す。隣接する原子としては酸素原子及び窒素原子が挙げられる。R
1〜R
3はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表す。n、m及びlはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。n、m及びlはそれぞれ独立に、0〜2の整数であることが好ましく、0〜1の整数であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0050】
一般式(A)又は(B)で表される構造の中でも、下記一般式(a)又は(b)で表される構造が好ましい。このような構造を有する特定エポキシ化合物は、分子構造が直線的になりやすい。このため、分子のスタッキング性が高く、高次構造をより形成し易いと考えられる。
【0052】
一般式(a)及び(b)における*、R
1〜R
3、n、m及びlの定義及び好ましい例は、一般式(A)及び(B)における*、R
1〜R
3、n、m及びlの定義及び好ましい例と同様である。
【0053】
特定エポキシ化合物が、一般式(A)又は(B)で表される構造を有するエポキシ化合物である場合、特定エポキシ化合物としては、下記一般式(C)又は(D)で表されるエポキシ化合物が挙げられる。
【0055】
一般式(C)及び(D)におけるR
1〜R
3、n、m及びlの定義及び好ましい例は、一般式(A)及び(B)におけるR
1〜R
3、n、m及びlの定義及び好ましい例と同様である。Msはそれぞれ独立に、メソゲン構造を有する2価の基を表す。Xはそれぞれ独立に、−O−又は−NH−を表す。
【0056】
メソゲン構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(I)で表される構造を有するエポキシ化合物であってもよい。
一般式(I)で表される構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分は、他のメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分に比べ、得られる硬化物のガラス転移温度が高く、耐熱性に優れる傾向にある。
さらに、一般式(I)で表される構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分は、他のメソゲン構造を有するエポキシ化合物を含む樹脂成分に比べ、優れた分子配向性を示し、かつそのような化合物としては比較的融点が低く含浸性に優れる傾向にある。
【0058】
[一般式(I)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。また、R
1〜R
4のうちの2個〜4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個すべてが水素原子であることがさらに好ましい。R
1〜R
4のいずれかが炭素数1〜3のアルキル基である場合、R
1及びR
4の少なくとも一方が炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。
【0059】
一般式(I)で表される構造を有するエポキシ化合物は、下記一般式(II−A)〜(II−D)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つを有するエポキシ化合物であってもよい。
【0061】
一般式(II−A)〜(II−D)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基を示す。n及びmはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示す。Xはそれぞれ独立に、−O−又は−NH−を表す。
【0062】
一般式(II−A)〜(II−D)におけるR
1〜R
4の具体例は、一般式(I)におけるR
1〜R
4の具体例と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0063】
一般式(II−A)〜(II−D)中、R
5及びR
6はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表し、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0064】
一般式(II−A)〜(II−D)中、n及びmはそれぞれ独立に、0〜4の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0〜1の整数であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。つまり、一般式(II−A)〜(II−D)においてR
5又はR
6を付されたベンゼン環は、2個〜4個の水素原子を有することが好ましく、3個又は4個の水素原子を有することがより好ましく、4個の水素原子を有することがさらに好ましい。
【0065】
硬化した状態で高次構造を形成する観点からは、一般式(II−A)〜(II−D)で表される構造の中でも下記一般式(II−a)〜(II−d)で表される構造を有するエポキシ化合物が好ましい。
【0067】
一般式(II−a)〜(II−d)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義及び好ましい例は、一般式(II−A)〜(II−D)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義及び好ましい例と同様である。
【0068】
一般式(I)で表される構造を有するエポキシ化合物が、一般式(I)で表される構造単位を2つ含むエポキシ化合物(二量体)である場合の構造としては、下記一般式(III−A)〜(III〜F)で表されるエポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0070】
一般式(III−A)〜(III〜F)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義は、一般式(II−A)〜(II−D)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0071】
高次構造形成の観点からは、一般式(III−A)〜(III〜F)で表されるエポキシ化合物の中でも下記一般式(III−a)〜(III〜f)で表されるエポキシ化合物が好ましい。
【0073】
一般式(III−a)〜(III〜f)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義は、一般式(III−A)〜(III−F)におけるR
1〜R
6、n、m及びXの定義と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0074】
(多量体の合成方法)
エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物とを反応させて多量体を合成する方法は、特に制限されない。具体的には、例えば、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを溶媒中に溶解し、加熱しながら撹拌することで、多量体を合成することができる。
あるいは、例えば、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物を、必要に応じて用いる反応触媒と溶媒を用いずに混合し、加熱しながら撹拌することで、多量体を合成することができる。
【0075】
エポキシモノマーとしては、下記一般式(M)で表されるメソゲン構造を有するエポキシ化合物が挙げられる。一般式(M)で表されるエポキシ化合物を含む樹脂成分は、硬化物中にスメクチック液晶構造を形成する。エポキシモノマーが一般式(M)で表されるエポキシ化合物を含む場合、一般式(M)で表されるエポキシ化合物は1種のみでも2種以上であってもよい。
【0077】
一般式(M)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。また、R
1〜R
4のうちの2個〜4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個すべてが水素原子であることがさらに好ましい。R
1〜R
4のいずれかが炭素数1〜3のアルキル基である場合、R
1及びR
4の少なくとも一方が炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。
【0078】
一般式(M)で表されるエポキシ化合物としては、特開2011−74366号公報に記載されている化合物が挙げられる。具体的には、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート及び4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0079】
溶媒は、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物とを溶解でき、かつ両化合物が反応するのに必要な温度にまで加温できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0080】
溶媒の量は、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを反応温度において溶解できる量であれば特に制限されない。反応前の原料の種類、溶媒の種類等によって溶解性が異なるものの、例えば、仕込み固形分濃度が20質量%〜60質量%となる量であれば、反応後の溶液の粘度が好ましい範囲となる傾向にある。
【0081】
エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物は、特に制限されない。硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物は、2つの水酸基が1つのベンゼン環に結合した構造を有するジヒドロキシベンゼン化合物、2つのアミノ基が1つのベンゼン環に結合した構造を有するジアミノベンゼン化合物、ビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つの水酸基が結合した構造を有するジヒドロキシビフェニル化合物及びビフェニル構造を形成する2つのベンゼン環にそれぞれ1つのアミノ基が結合した構造を有するジアミノビフェニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定芳香族化合物とも称する)であることが好ましい。
【0082】
エポキシモノマーのエポキシ基と特定芳香族化合物の水酸基又はアミノ基とを反応させることで、一般式(IA)〜(ID)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1つを有する多量体を合成することができる。
【0083】
ジヒドロキシベンゼン化合物としては、1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノベンゼン化合物としては、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、これらの誘導体等が挙げられる。
ジヒドロキシビフェニル化合物としては、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
ジアミノビフェニル化合物としては、3,3’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノビフェニル、これらの誘導体等が挙げられる。
特定芳香族化合物の誘導体としては、特定芳香族化合物のベンゼン環に炭素数1〜8のアルキル基等の置換基が結合した化合物が挙げられる。特定芳香族化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
樹脂成分の硬化物中におけるスメクチック構造の形成し易さの観点からは、特定芳香族化合物としては1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル及び4,4’−ジアミノビフェニルが好ましい。これらの化合物は、ベンゼン環上の2つの水酸基又はアミノ基がパラ位の位置関係となっているため、これをエポキシモノマーと反応させて得られる多量体は直線構造となり易い。このため、分子のスタッキング性が高く、硬化物中にスメクチック構造を形成し易いと考えられる。
【0085】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択できる。具体的には、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
硬化物の耐熱性の観点からは、反応触媒としては有機リン化合物が好ましい。
有機リン化合物の好ましい例としては、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体などが挙げられる。
【0087】
有機ホスフィン化合物として具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0088】
キノン化合物として具体的には、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等が挙げられる。
【0089】
有機ボロン化合物として具体的には、テトラフェニルボレート、テトラ−p−トリルボレート、テトラ−n−ブチルボレート等が挙げられる。
【0090】
反応触媒の量は特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点からは、エポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物との合計質量100質量部に対し、0.1質量部〜1.5質量部であることが好ましく、0.2質量部〜1質量部であることがより好ましい。
【0091】
エポキシモノマーを用いて多量体を合成する場合、エポキシモノマーのすべてが反応して多量体の状態になっていても、エポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存していてもよい。
【0092】
多量体の合成は、少量スケールであればフラスコ、大量スケールであれば合成釜等の反応容器を使用して行うことができる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。
まず、エポキシモノマーを反応容器に投入し、必要に応じて溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、エポキシモノマーを溶解する。そこにエポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物を投入し、次いで必要に応じて反応触媒を投入し、反応を開始させる。次いで、必要に応じて減圧下で溶媒を留去することで、多量体が得られる。
【0093】
反応温度は、エポキシモノマーのエポキシ基と、エポキシ基と反応しうる官能基との反応が進行する温度であれば特に制限されず、例えば100℃〜180℃の範囲であることが好ましく、100℃〜150℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化する可能性を低減できる傾向にある。
【0094】
多量体の合成に用いるエポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物の配合比は、特に制限されない。例えば、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比(A:B)が100:100〜100:1の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靭性及び耐熱性の観点からは、A:Bが100:50〜100:1の範囲となる配合比が好ましい。
【0095】
多量体の構造は、例えば、合成に使用したエポキシモノマーと、エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物との反応より得られると推定される多量体の分子量と、UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施される液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量とを照合させることで決定することができる。
【0096】
液体クロマトグラフィーは、例えば、株式会社日立製作所製の「LaChrom II C18」を分析用カラムとして使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行う。また、流速を1.0ml/minとして行う。UVスペクトル検出器では280nmの波長における吸光度を検出し、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出する。
【0097】
含浸性の観点からは、エポキシ化合物全体に占める多量体の割合は、エポキシ化合物全体の10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。耐熱性の観点からは、エポキシ化合物全体の80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0098】
エポキシ化合物が、多量体として二量体を含む場合、エポキシ化合物全体に占める二量体の割合は特に制限されない。含浸性の観点からは、二量体の含有率は、エポキシ化合物全体の10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。耐熱性の観点からは、二量体の含有率は、エポキシ化合物全体の60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0099】
エポキシ化合物がエポキシモノマーを含む場合、エポキシ化合物全体に占めるエポキシモノマーの割合は特に制限されない。耐熱性の観点からは、エポキシモノマーの含有率は、エポキシ化合物全体の30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。含浸性の観点からは、エポキシモノマーの含有率は、エポキシ化合物全体の90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0100】
エポキシ化合物が、メソゲン構造を有するエポキシ化合物(エポキシモノマー)と、そのエポキシモノマーのメソゲン構造と同じ構造のメソゲン構造を2つ以上有するエポキシ化合物(多量体)とを含む場合、含浸性の観点からは、液体クロマトグラフィーにより得られるエポキシモノマーの割合がエポキシ化合物全体の50%以下であることが好ましい。
【0101】
液体クロマトグラフィーにより得られるエポキシモノマーの割合がエポキシ化合物全体の50%以下である樹脂成分は、エポキシモノマーの割合がエポキシ樹脂全体の50%を超える樹脂成分に比べ、含浸性に優れる傾向にある。その理由は明らかではないが、エポキシモノマーの割合がエポキシ化合物全体の50%以下である場合、分子の運動性が高く、比較的配向性が低い多量体が樹脂成分中に占める割合が大きく、流動性がより高いためと推測される。
【0102】
液体クロマトグラフィーにより得られるエポキシモノマーの割合は、液体クロマトグラフにより得られるチャートにおける、全てのエポキシ化合物に由来するピークの合計面積に占めるエポキシモノマーに由来するピークの面積の割合(%)である。具体的には、測定対象のエポキシ樹脂の280nmの波長における吸光度を検出し、検出された全てのピークの合計面積と、エポキシモノマーに相当するピークの面積とから、下記式により算出する。
エポキシモノマーに由来するピークの面積の割合(%)=(エポキシモノマーに由来するピークの面積/全てのエポキシ化合物に由来するピークの合計面積)×100
【0103】
液体クロマトグラフィーは、試料濃度を0.5質量%とし、移動相にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0ml/minとして行う。測定は、例えば、株式会社日立製作所製の高速液体クロマトグラフ「L6000」と、株式会社島津製作所製のデータ解析装置「C−R4A」を用いて行うことができる。カラムとしては、例えば、東ソー株式会社製のGPCカラムである「G2000HXL」及び「G3000HXL」を用いることができる。
【0104】
含浸性向上の観点からは、液体クロマトグラフィーにより得られるエポキシモノマーの割合は、エポキシ化合物全体の50%以下であることが好ましく、49%以下であることがより好ましく、48%以下であることがさらに好ましい。
【0105】
固有粘度(溶融時の粘度)の観点からは、液体クロマトグラフィーにより得られるエポキシモノマーの割合は、エポキシ化合物全体の35%以上であることが好ましく、37%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。
【0106】
(マイカ)
マイカ層に含まれるマイカの種類は、特に制限されない。例えば、未焼成硬質マイカ、焼成硬質マイカ、未焼成軟質マイカ、焼成軟質マイカ、合成マイカ及びフレークマイカが挙げられる。これらの中でも、価格及び入手しやすさの観点からは、未焼成硬質マイカが好ましい。
【0107】
マイカの粒子径は、特に制限されない。例えば、絶縁性の観点からは、JIS標準篩を用いて篩い分けしたときに、粒子径が2.8mm以上であるマイカ片の割合が、マイカ片全体の45質量%未満であることが好ましく、マイカ片全体の30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0108】
充分な絶縁破壊電界強度を確保する観点からは、JIS標準篩を用いて篩い分けしたときの粒子径が0.5mm以上であるマイカ片の割合が、マイカ片全体の40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0109】
前記JIS標準篩はJIS−Z−8801−1:2006に準拠し、ISO3310−1:2000に対応する。尚、ISO3310−1:2000を用いる場合には、JIS−Z−8801−1:2006と同様に篩い目の形状が正方形であるものを適用することが好ましい。
【0110】
マイカテープに含まれるマイカにおけるJIS標準篩を用いて篩い分けしたときの粒子径が2.8mm以上であるマイカ片の割合、及び粒子径が0.5mm以上であるマイカ片の割合は、例えば、以下のようにして確認することができる。
【0111】
マイカテープの裏打ち層とマイカ層の界面に剃刀を差し込み、裏打ち層からマイカ層を剥離する。剥離したマイカ層1gをメチルエチルケトン100gに分散させ、10分間振とう後、8000回転/分(rpm)で5分間遠心分離する。上澄み液を除去して残った固形分に対して、メチルエチルケトン100gを加え、10分間振とう後、8000回転/分(rpm)で5分間遠心分離する。さらにもう一度、上澄み液を除去して残った固形分に対して、メチルエチルケトン100gを加え、10分間振とうした後、8000回転/分(rpm)で5分間遠心分離する。上澄み液を除去して残った固形分1gにメチルエチルケトン100gを加え、ミックスローターにて30分間分散させ、さらに10分間振とうする。その後、容器を振とうさせながら、目開き2.8mmから目開き0.5mmの順にJIS標準篩(JIS−Z−8801−1:2006、ISO3310−1:2000、東京スクリーン株式会社、試験用ふるい)で篩い分けする。
上記篩い分けは、電磁式篩振動機を用い、振動数3000回/分、振幅1mm、10分間行う。
【0112】
篩い分けの結果、目開き2.8mm(又は0.5mm)の篩いの目を通過しなかったマイカ片を「粒子径が2.8mm(又は0.5mm)以上であるマイカ片」とし、篩い分けする前のマイカ片の全量中の「粒子径が2.8mm(又は0.5mm)以上であるマイカ片」の割合(質量%)を「JIS標準篩を用いて篩い分けしたときの粒子径が2.8mm(又は0.5mm)以上であるマイカ片の割合」とする。
【0113】
マイカは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。マイカを2種以上併用する場合としては、例えば、同じ成分で粒子径が異なるマイカを2種以上用いる場合、粒子径が同じで成分の異なるマイカを2種以上用いる場合、並びに平均粒子径及び成分の異なるマイカを2種以上用いる場合が挙げられる。
【0114】
マイカ層中のマイカの量は、特に制限されない。例えば、80g/m
2〜230g/m
2の範囲が好ましく、100g/m
2〜200g/m
2の範囲がより好ましい。マイカ層中のマイカの量が80g/m
2以上であれば、充分な絶縁性が確保される傾向にある。マイカ層中のマイカの量が230g/m
2以下であれば、マイカテープの厚さを薄くでき、充分な熱伝導性が確保される傾向にある。
【0115】
(裏打ち材)
マイカテープの裏打ち層に含まれる裏打ち材の種類は、特に制限されない。例えば、ガラスクロスが挙げられる。裏打ち材としてガラスクロスを用いることで、ガラスクロスを構成する繊維の間に浸透した樹脂成分によって隣接するマイカ層と良好に一体化し、絶縁層の熱伝導性がより向上する傾向にある。
【0116】
裏打ち材の平均厚さは特に限定されない。例えば、30μm〜60μmであることが好ましく、45μm〜50μmであることがより好ましい。裏打ち材の平均厚さが30μm以上であれば、マイカテープを加圧した際に裏打ち層が裏打ち材の厚さに追従して薄くなりすぎるのが抑制され、熱伝導率の低下が抑制される傾向にある。裏打ち材の厚さが60μm以下であれば、マイカテープが厚くなるのを抑制でき、マイカテープを被絶縁体に巻き付ける工程中のマイカテープの切れ、ひび等の発生が抑制される傾向にある。
【0117】
本実施形態において裏打ち材の平均厚さは、マイクロメーター(例えば、株式会社ミツトヨ製の「MDC−SB」)を用いて裏打ち材の厚さを計10箇所で測定し、得られた測定値の算術平均値とする。
【0118】
裏打ち材は、必要に応じて表面処理されたものでもよい。裏打ち材の表面処理の方法としては、例えば、シランカップリング剤による処理が挙げられる。
【0119】
(その他の成分)
マイカテープは、必要に応じてエポキシ樹脂、マイカ及び裏打ち材以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、硬化触媒、無機フィラー、硬化剤、カップリング剤、酸化防止剤、老化防止剤、安定剤、難燃剤、増粘剤等が挙げられる。マイカテープがこれらの成分を含む場合、その含有量は特に制限されない。
【0120】
硬化触媒の具体例としては、上述したエポキシ化合物の多量体の合成に使用しうる反応触媒として例示した化合物が挙げられる。
【0121】
無機フィラーの具体例としては、シリカ、窒化ホウ素及びアルミナが挙げられる。熱伝導性の観点からは、アルミナが好ましい。熱伝導性とマイカテープの巻きつけ性を両立させる観点からは、窒化ホウ素が好ましい。
【0122】
窒化ホウ素の種類は特に限定されず、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、立方晶窒化ホウ素(c−BN)、ウルツ鉱型窒化ホウ素等が挙げられる。これらの中でも、六方晶窒化ホウ素(h−BN)が好ましい。窒化ホウ素は、鱗片状に形成されている窒化ホウ素の一次粒子であっても、一次粒子が凝集して形成された二次粒子であってもよい。
【0123】
無機フィラーの平均粒子径は、特に限定されない。例えば、1μm〜40μmであることが好ましく、5μm〜20μmであることがより好ましく、5μm〜10μmであることがさらに好ましい。
【0124】
無機フィラーの平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置(マイクロトラック MT3000II、日機装株式会社)を用いることで測定可能である。具体的には、純水中に無機フィラーを投入した後に、超音波分散機で分散する。この分散液の粒子径分布を測定することで、無機フィラーの粒子径分布が測定される。この粒子径分布に基づいて、小径側からの体積累積50%に対応する粒子径(D50)を平均粒子径として求める。
【0125】
無機フィラーは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。無機フィラーを2種以上併用する場合としては、例えば、同じ成分で平均粒子径が異なる無機フィラーを2種以上用いる場合、平均粒子径が同じで成分の異なる無機フィラーを2種以上用いる場合、並びに平均粒子径及び種類の異なる無機フィラーを2種以上用いる場合が挙げられる。
【0126】
硬化剤の具体例としては、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。
【0127】
<マイカテープの全体構成>
マイカテープの平均厚さは、特に制限されない。例えば、マイカテープの平均厚さは400μm以下であってよく、350μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0128】
マイカテープの巻きつけやすさの観点からは、マイカテープの平均厚さは300μm以下であることが好ましく、290μm以下であることがより好ましい。絶縁性の観点からは、マイカテープの平均厚さは120μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、160μm以上であることがさらに好ましい。
【0129】
マイカ層の平均厚さは、特に制限されない。マイカテープの巻き付けやすさの観点からは、マイカ層の平均厚さは180μm以下であることが好ましく、170μm以下であることがより好ましい。電気絶縁性の観点からは、マイカ層の平均厚さは80μm以上であることが好ましく、90μm以上であることがより好ましい。
【0130】
裏打ち層の平均厚さは、特に制限されない。マイカテープの巻き付けやすさの観点からは、裏打ち層の平均厚さは60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。マイカテープの強度の観点からは、裏打ち層の平均厚さは10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
【0131】
本実施形態においてマイカテープの平均厚さは、マイクロメーター(例えば、株式会社ミツトヨ製の「MDC−SB」)を用いてマイカテープの厚さを計10箇所で測定し、得られた測定値の算術平均値とする。
【0132】
本実施形態においてマイカテープ中のマイカ層及び裏打ち層の厚さは、マイカテープの断面におけるマイカ層及び裏打ち層の厚さを実体顕微鏡(例えば、オリンパス株式会社、「BX51」)のミクロメーターにて3箇所観察し、その算術平均値とする。
【0133】
マイカテープにおける樹脂成分の含有率は特に制限されず、マイカテープの用途等に応じて選択できる。例えば、マイカテープ中の樹脂成分の含有率は、マイカテープ全体の15質量%〜40質量%であることが好ましく、25質量%〜33質量%であることがより好ましい。
【0134】
本実施形態において、マイカテープ中の樹脂成分の含有率は、例えば、下記方法によって算出される。
幅30mm及び長さ50mmの大きさに切断したマイカテープを電気炉にて600℃及び2時間の条件で加熱し、加熱前後の質量減少率(%)を下記式により求める。以上の工程を3回行い、得られた値の算術平均値として求める。
樹脂成分の含有率={(加熱前の質量−加熱後の質量)/加熱前の質量}×100
【0135】
マイカテープが無機フィラーを含む場合、マイカテープ中の無機フィラーの含有率は、特に制限されない。
【0136】
マイカテープは、必要に応じ、マイカテープの最表面に設けられる保護層(保護フィルム)等を有していてもよい。
【0137】
<マイカテープの製造方法>
本実施形態のマイカテープの製造方法は特に制限されず、公知の製造方法を適用することができる。
【0138】
マイカテープの製造方法の一例としては、裏打ち材をマイカペーパの上に配置して積層体を準備する工程と、樹脂成分及び必要に応じて含まれるその他の成分を含む組成物を、前記積層体の前記裏打ち材側に付与する工程と、を含む方法が挙げられる。マイカペーパは、マイカが集合して形成されたシート状の物体である。
【0139】
上記方法に用いられるマイカ、裏打ち材、組成物に含まれる樹脂成分及びその他の成分、並びに製造されるマイカテープの詳細及び好ましい態様は、上述したとおりである。
【0140】
必要に応じ、組成物は溶剤を含んでもよい。溶剤を含むことで組成物の粘度が低下し、含浸性が向上する傾向にある。溶剤の種類は特に制限されず、通常用いられる有機溶剤から選択できる。具体的には、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、トルエン、メタノール等が挙げられる。溶剤は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0141】
組成物の付与は、裏打ち材に付与した組成物が裏打ち材の他方の面側(マイカペーパ側)ににじみ出てマイカペーパの全体又は一部に浸透するように行うことが好ましい。この場合、フィブリット混抄のマイカペーパでなくても、マイカペーパが自立可能となりやすく、崩れにくい。フィブリットを含まないマイカペーパを用いることで、電気絶縁性と熱伝導率が向上する傾向にある。
【0142】
<マイカテープの硬化物>
本実施形態のマイカテープの硬化物は、上述したマイカテープに含まれる樹脂成分を硬化して得られる。硬化の方法は特に制限されず、通常の方法から選択できる。
【0143】
<絶縁層付き物品>
本実施形態の絶縁層付き物品は、被絶縁体と、前記被絶縁体の表面の少なくとも一部に配置される本実施形態のマイカテープの硬化物である絶縁層と、を有する。本実施形態のマイカテープを用いて絶縁層を形成する方法は特に制限されず、従来から公知の製造方法を適用することができる。例えば、被絶縁体にマイカテープを巻き付けた後にマイカテープを加圧しながら加熱(ヒートプレス)して、あらかじめマイカテープに含まれている樹脂成分をマイカテープの外に流出させて重なり合うマイカテープ間を埋めるようにし、これを硬化させて絶縁層を形成する方法が挙げられる。
【0144】
本実施形態の絶縁層付き物品に適用されうる被絶縁体は、特に限定されるものではなく、上述した回転電機用コイルのコイル導体、棒状の銅、板状の銅等が挙げられる。
【0145】
本実施形態のマイカテープを用いることで、熱伝導性に優れる絶縁層を形成することができる。従って、本実施形態の絶縁層付き物品がコイルである場合、当該コイルを冷却する際、従来では水直接冷却方式を採用されていた規模のコイルに対しても、水素冷却方式又は空冷方式を採用することができるようになり、コイルの構造を簡素化することが可能となる。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0147】
<実施例1>
(1)エポキシ樹脂の合成
500mLの三口フラスコに、下記構造で示されるエポキシ化合物(4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート)を50g(0.118mol)量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを80g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。エポキシ化合物が溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、特定芳香族化合物としてヒドロキノンを添加した。
ヒドロキノンの添加量は、エポキシ化合物のエポキシ基の当量数(A)とヒドロキノンの水酸基の当量数(B)の比(A:B)が100:13となる量とした。さらに反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。5時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、エポキシ化合物の一部が多量体を形成(プレポリマー化)した状態のエポキシ樹脂を得た。
【0148】
【化10】
【0149】
得られたエポキシ樹脂の数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、多量体に該当する成分の数平均分子量は1315であり、特定エポキシ化合物が生成していることが確認された。また、未反応のエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂全体の数平均分子量は531であった。なお、エポキシ樹脂の合成に用いる前のエポキシ化合物の数平均分子量は432であった。
【0150】
(2)樹脂組成物の調製
得られたエポキシ樹脂87.4質量%と、硬化触媒としての三フッ化ホウ素モノエチルアミン(和光純薬工業株式会社)2.6質量%と、溶媒としてのシクロヘキサノン(和光純薬工業株式会社)10.0質量%と、を混合して樹脂組成物を調製した。
【0151】
(3)マイカテープの作製
未焼成硬質マイカを水中に分散してマイカ粒子とし、抄紙機にて抄造して、マイカ量が180g/m
2のマイカペーパ(未焼成硬質集成マイカ)を作製した。
マイカペーパの作製に用いた未焼成硬質マイカを公称目開きが2.8mmのJIS標準篩を用いて篩い分けしたところ、篩い目を通過しないマイカの割合はマイカ全体の0質量%であった。
マイカペーパの作製に用いた未焼成硬質マイカを公称目開き0.5mmのJIS標準篩を用いて篩い分けしたところ、篩い目を通過しないマイカの割合はマイカ全体の63質量%であった。
【0152】
台上に配置したマイカペーパの上に裏打ち材としてガラスクロス(株式会社双洋、「WEA 03G 103」、厚さ0.030mm)を重ね、このガラスクロスの上面に、90℃に加熱した樹脂組成物をロールコーターを用いて塗布した。塗布は、樹脂組成物がガラスクロスの下のマイカペーパの全体にも浸透するように実施したところ、樹脂組成物のガラスクロス及びマイカペーパへの含浸性は良好であった。その後100℃で20分かけて乾燥し、樹脂成分を含有するマイカ層とガラスクロス層(裏打ち層)とからなる積層体を作製した。この積層体を幅が30mmとなるように切断して、マイカテープを作製した。
【0153】
(4)熱伝導率の測定
上述の方法によって作製したマイカテープを16枚重ねて、170℃で1時間のヒートプレスを行って樹脂成分を硬化させ、熱伝導率測定用の積層硬化物を作製した。この積層硬化物について、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社、「HC−110」)を用いて、熱伝導率(W/(m・K))を測定した。結果を表1に示す。
【0154】
(5)スメクチック構造形成の有無
上述の方法によって合成したエポキシ樹脂を用いて硬化物を作製し、硬化物のX線回折測定を行った。測定条件は、CuKα線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、測定角度を2θ=0.5〜30°とした。評価装置には、株式会社リガク製のX線回折装置を用いた。結果を表1に示す。
有…2θ=2°〜10°の範囲に回折ピークが現れ、スメクチック構造が形成されている。
無…2θ=2°〜10°の範囲に回折ピークが現れず、スメクチック構造が形成されていない。
【0155】
<実施例2>
エポキシ化合物のエポキシ基の当量数(A)とヒドロキノンの水酸基の当量数(B)の比(A:B)が100:25となるようにヒドロキノンの添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂を合成した。
【0156】
得られたエポキシ樹脂の数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、多量体に該当する成分の数平均分子量は1530であり、特定エポキシ化合物が生成していることが確認された。また、未反応のエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂全体の数平均分子量は590であった。
【0157】
合成したエポキシ樹脂97.1質量%と、硬化触媒としての三フッ化ホウ素モノエチルアミン(和光純薬工業株式会社)2.9質量%とを混合して樹脂組成物を調製した。
【0158】
調製した樹脂組成物を用いて実施例1と同様にしてマイカテープを作製し、熱伝導率を測定した。また、エポキシ樹脂の硬化物中にスメクチック構造が形成されている否かを確認した。結果を表1に示す。
【0159】
<実施例3>
エポキシ化合物のエポキシ基の当量数(A)とヒドロキノンの水酸基の当量数(B)の比(A:B)が100:30となるようにヒドロキノンの添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂を合成した。
【0160】
得られたエポキシ樹脂の数分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、多量体に該当する成分の数平均分子量は1610であり、特定エポキシ化合物が生成していることが確認された。また、未反応のエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂全体の数平均分子量は608であった。
【0161】
合成したエポキシ樹脂97.1質量%と、硬化触媒としての三フッ化ホウ素モノエチルアミン(和光純薬工業株式会社)2.9質量%とを混合して樹脂組成物を調製した。
【0162】
調製した樹脂組成物を用いて実施例1と同様にしてマイカテープを作製し、熱伝導率を測定した。また、エポキシ樹脂の硬化物中にスメクチック構造が形成されている否かを確認した。結果を表1に示す。
【0163】
<比較例1>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ダウ・ケミカル日本株式会社、「D.E.N.438」)95.4質量%と、硬化触媒として三フッ化ホウ素モノエチルアミン(和光純薬工業株式会社)2.0質量%と、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)(和光純薬工業株式会社)2.6質量%とを混合して、樹脂組成物を調製した。
【0164】
調製した樹脂組成物を用いて実施例1と同様にしてマイカテープを作製し、熱伝導率を測定した。また、エポキシ樹脂の硬化物中にスメクチック構造が形成されている否かを確認した。結果を表1に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
表1の結果に示すように、メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂を用いて作製した実施例1〜3のマイカテープは、メソゲン構造を有するエポキシ化合物を含まないエポキシ樹脂を用いて作製した比較例1のマイカテープに比べて硬化後の熱伝導率が高かった。
以上より、本実施形態のマイカテープは、熱伝導性に優れる絶縁層を形成可能であることがわかった。