(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
前記置換基が、ビニルベンジル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する置換基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
プリント配線板等の配線板は、上述したように、信号の伝送速度を高めるために、信号伝送時の損失を低減させることがより求められている。よって、配線板における信号伝送時の損失を低減させるために、基板材料として、誘電率及び誘電正接のより低い材料を用いることが求められる。
【0013】
また、本発明者等は、熱伝導率をより高め、熱膨張率をより低くするために、配線板を構成する絶縁層を製造するための基板材料に含有させるシリカの含有量を増やすことに着目した。
【0014】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、シリカの含有量を増やすことによって、求められる熱伝導率及び低熱膨張率を実現しようとすると、シリカを含有することによる不具合が発生する傾向があることを見出した。具体的には、金属張積層板における、絶縁層と絶縁層との層間接着力が低下したり、金属層と絶縁層との接着力が低下すること等が挙げられる。このことにより、加熱時に、層間剥離が発生することがあり、金属張積層板の耐熱信頼性が不充分になる傾向があることを見出した。また、シリカの含有量が多い樹脂組成物は、樹脂流れ性及び回路充填性等の成形性が低下する傾向があることも見出した。
【0015】
本発明者等は、種々検討した結果、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物を提供するといった上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る樹脂組成物は、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物と、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する架橋型硬化剤と、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤と、シリカとを含有する。
【0018】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物は、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性されたポリフェニレンエーテルであれば、特に限定されない。
【0019】
前記炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、特に限定されない。前記置換基としては、例えば、下記式(1)で表される置換基等が挙げられる。
【0021】
式(1)中、nは、0〜10を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R
1〜R
3は、それぞれ独立している。すなわち、R
1〜R
3は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
1〜R
3は、水素原子またはアルキル基を示す。
【0022】
なお、式(1)において、nが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテルの末端に直接結合しているものを示す。
【0023】
このアリーレン基は、特に限定されない。このアリーレン基としては、具体的には、フェニレン基等の単環芳香族基や、芳香族が単環ではなく、ナフタレン環等の多環芳香族である多環芳香族基等が挙げられる。また、このアリーレン基には、芳香族環に結合する水素原子がアルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換された誘導体も含む。また、前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
【0024】
前記置換基としては、より具体的には、p−エテニルベンジル基やm−エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基等が挙げられる。
【0025】
上記式(1)に示す置換基の好ましい具体例としては、ビニルベンジル基を含む官能基が挙げられる。具体的には、下記式(2)又は式(3)から選択される少なくとも1つの置換基等が挙げられる。
【0028】
本実施形態で用いる変性ポリフェニレンエーテルにおいて末端変性される、炭素−炭素不飽和二重結合を有する他の置換基としては、(メタ)アクリレート基が挙げられ、例えば、下記式(4)で示される。
【0030】
式(4)中、R
8は、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及び、デシル基等が挙げられる。
【0031】
前記変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有しており、例えば、下記式(5)で表される繰り返し単位を分子中に有していることが好ましい。
【0033】
式(5)において、mは、1〜50を示す。また、R
4〜R
7は、それぞれ独立している。すなわち、R
4〜R
7は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
4〜R
7は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0034】
R
4〜R
7において、挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
【0035】
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及び、デシル基等が挙げられる。
【0036】
アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2〜18のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3−ブテニル基等が挙げられる。
【0037】
アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2〜18のアルキニル基が好ましく、炭素数2〜10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ−2−イン−1−イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
【0038】
アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2〜18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2〜10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
【0039】
アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3〜10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0040】
アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3〜10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
【0041】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。具体的には、500〜5000であることが好ましく、800〜4000であることがより好ましく、1000〜3000であることがさらに好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物が、式(5)で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、mは、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、mは、1〜50であることが好ましい。
【0042】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルでは、その重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物は、末端に不飽和二重結合を有するので、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、変性ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
【0043】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル化合物1分子当たりの、分子末端に有する、前記置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1〜5個であることが好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1.5〜3個であることがさらに好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高い配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
【0044】
なお、変性ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、変性ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0045】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03〜0.12dl/gであることが好ましく、0.04〜0.11dl/gであることがより好ましく、0.06〜0.095dl/gであることがさらに好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、変性ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
【0046】
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0047】
本実施形態において用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できれば、特に限定されない。具体的には、ポリフェニレンエーテルに、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0048】
炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物とは、例えば、式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0050】
式(6)中、n、Z、R
1〜R
3は、式(1)でのn、Z、R
1〜R
3と同じものを示す。具体的には、nは、0〜10を示す。また、Zは、アリーレン基を示す。また、R
1〜R
3は、それぞれ独立している。すなわち、R
1〜R
3は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R
1〜R
3は、水素原子またはアルキル基を示す。また、Xは、ハロゲン原子を示し、具体的には、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子等が挙げられる。この中でも、塩素原子が好ましい。
【0051】
式(6)で表される化合物は、上記例示したものを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基とハロゲン原子とが結合された化合物としては、例えば、p−クロロメチルスチレンやm−クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0053】
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6−ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。このようなポリフェニレンエーテルは、より具体的には、例えば、下記式(7)、下記式(9)、又は下記式(10)に示す構造を有するポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0055】
式(7)中、s,tは、例えば、sとtとの合計値が、1〜30となるものであることが好ましい。また、sが、0〜20であることが好ましく、tが、0〜20であることが好ましい。すなわち、sは、0〜20を示し、tは、0〜20を示し、sとtとの合計は、1〜30を示すことが好ましい。また、Yは、直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基を示す。また、Yとしては、例えば、下記式(8)で表される基を示す。
【0057】
式(8)中、R
9、R
10は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(8)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられる。
【0060】
式(9)及び式(10)中、s,tは、式(7)のs,tと同様である。
【0061】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、式(7)、式(9)、又は式(10)に示す構造を有するポリフェニレンエーテルを、上述したような、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性されたものが好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、前記式(7)、式(9)、又は式(10)で表されるポリフェニレンエーテルの末端に、前記式(1)又は前記式(4)で表される基を有するものが挙げられ、より具体的には、下記式(10)〜下記式(16)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物が挙げられる。
【0063】
式(10)中、s,tは、式(7)のs,tと同様であり、Yは、式(7)のYと同様である。また、式(10)中、R
1〜R
3は、上記式(1)のR
1〜R
3と同様であり、Zは、上記式(1)のZと同様であり、nは、上記式(1)のnと同様である。
【0066】
式(12)及び式(13)中、s,tは、式(7)のs,tと同様である。また、式(12)及び式(13)中、R
1〜R
3は、上記式(1)のR
1〜R
3と同様であり、Zは、上記式(1)のZと同様であり、nは、上記式(1)のnと同様である。
【0068】
式(14)中、s,tは、式(7)のs,tと同様であり、Yは、式(7)のYと同様である。また、式(14)中、R
8は、上記式(4)のR
8と同様である。
【0071】
式(15)及び式(16)中、s,tは、式(7)のs,tと同様である。また、式(15)及び式(16)中、R
8は、上記式(4)のR
8と同様である。
【0072】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述した方法が挙げられる。具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、式(6)で表される化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。そうすることによって、ポリフェニレンエーテルと、式(6)で表される化合物とが反応し、本実施形態で用いられる変性ポリフェニレンエーテル化合物が得られる。
【0073】
前記反応の際、アルカリ金属水酸化物の存在下で行うことが好ましい。そうすることによって、この反応が好適に進行すると考えられる。このことは、アルカリ金属水酸化物が、脱ハロゲン化水素剤、具体的には、脱塩酸剤として機能するためと考えられる。すなわち、アルカリ金属水酸化物が、ポリフェニレンエーテルのフェノール基と式(6)で表される化合物とから、ハロゲン化水素を脱離させ、そうすることによって、ポリフェニレンエーテルのフェノール基の水素原子の代わりに、式(1)で表される置換基が、フェノール基の酸素原子に結合すると考えられる。
【0074】
アルカリ金属水酸化物は、脱ハロゲン化剤として働きうるものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物は、通常、水溶液の状態で用いられ、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液として用いられる。
【0075】
反応時間や反応温度等の反応条件は、式(6)で表される化合物等によっても異なり、上記のような反応が好適に進行する条件であれば、特に限定されない。具体的には、反応温度は、室温〜100℃であることが好ましく、30〜100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.5〜20時間であることが好ましく、0.5〜10時間であることがより好ましい。
【0076】
反応時に用いる溶媒は、ポリフェニレンエーテルと、式(6)で表される化合物とを溶解させることができ、ポリフェニレンエーテルと、式(6)で表される化合物との反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、トルエン等が挙げられる。
【0077】
上記の反応は、アルカリ金属水酸化物だけではなく、相間移動触媒も存在した状態で反応させることが好ましい。すなわち、上記の反応は、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させることが好ましい。そうすることによって、上記反応がより好適に進行すると考えられる。このことは、以下のことによると考えられる。相間移動触媒は、アルカリ金属水酸化物を取り込む機能を有し、水のような極性溶剤の相と、有機溶剤のような非極性溶剤の相との両方の相に可溶で、これらの相間を移動することができる触媒であることによると考えられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液を用い、溶媒として、水に相溶しない、トルエン等の有機溶剤を用いた場合、水酸化ナトリウム水溶液を、反応に供されている溶媒に滴下しても、溶媒と水酸化ナトリウム水溶液とが分離し、水酸化ナトリウムが、溶媒に移行しにくいと考えられる。そうなると、アルカリ金属水酸化物として添加した水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しにくくなると考えられる。これに対して、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、アルカリ金属水酸化物が相間移動触媒に取り込まれた状態で、溶媒に移行し、水酸化ナトリウム水溶液が、反応促進に寄与しやすくなると考えられる。このため、アルカリ金属水酸化物及び相間移動触媒の存在下で反応させると、上記反応がより好適に進行すると考えられる。
【0078】
相間移動触媒は、特に限定されないが、例えば、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0079】
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、変性ポリフェニレンエーテル化合物として、上記のようにして得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましい。
【0080】
本実施形態で用いられる架橋型硬化剤は、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有するものであれば、特に限定されない。すなわち、架橋型硬化剤は、変性ポリフェニレンエーテル化合物と反応させることによって、樹脂組成物内に架橋を形成させて、樹脂組成物を硬化させることができるものであればよい。前記架橋型硬化剤は、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
【0081】
また、本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、重量平均分子量が100〜5000であることが好ましく、100〜4000であることがより好ましく、100〜3000であることがさらに好ましい。架橋型硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、架橋型硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、架橋型硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、架橋型硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
【0082】
本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、架橋型硬化剤1分子当たりの、炭素−炭素不飽和二重結合の平均個数(末端二重結合数)は、架橋型硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1〜20個であることが好ましく、2〜18個であることがより好ましい。この末端二重結合数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端二重結合数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
【0083】
架橋型硬化剤の末端二重結合数としては、架橋型硬化剤の重量平均分子量をより考慮すると、架橋型硬化剤の重量平均分子量が500未満(例えば、100以上500未満)の場合、1〜4個であることが好ましい。また、架橋型硬化剤の末端二重結合数としては、架橋型硬化剤の重量平均分子量が500以上(例えば、500以上5000以下)の場合、3〜20個であることが好ましい。それぞれの場合で、末端二重結合数が、上記範囲の下限値より少ないと、架橋型硬化剤の反応性が低下して、樹脂組成物の硬化物の架橋密度が低下し、耐熱性やTgを充分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、末端二重結合数が、上記範囲の上限値より多いと、樹脂組成物がゲル化しやすくなるおそれがある。
【0084】
なお、ここでの末端二重結合数は、使用する架橋型硬化剤の製品の規格値からわかる。ここでの末端二重結合数としては、具体的には、例えば、架橋型硬化剤1モル中に存在する全ての架橋型硬化剤の1分子あたりの二重結合数の平均値を表した数値等が挙げられる。
【0085】
本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル化合物(多官能ビニル化合物)、及び分子中にビニルベンジル基を有するスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等が挙げられる。この中でも、炭素−炭素二重結合を分子中に2個以上有するものが好ましい。具体的には、トリアルケニルイソシアヌレート化合物、多官能アクリレート化合物、多官能メタクリレート化合物、多官能ビニル化合物、及びジビニルベンゼン化合物等が挙げられる。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、本実施形態で用いられる樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。また、架橋型硬化剤は、例示した架橋型硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋型硬化剤としては、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物と、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物とを併用してもよい。炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物としては、具体的には、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
【0086】
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との合計100質量部に対して、30〜90質量部であることが好ましく、50〜90質量部であることがより好ましい。また、前記架橋型硬化剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との合計100質量部に対して、10〜70質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましい。すなわち、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との含有比が、質量比で90:10〜30:70であることが好ましく、90:10〜50:50であることが好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の各含有量が、上記比を満たすような含有量であれば、硬化物の耐熱性及び難燃性により優れた樹脂組成物になる。このことは、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
【0087】
前記樹脂組成物には、上述したように、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤に加え、前記シランカップリング剤及び前記シリカを含有する。
【0088】
本実施形態において用いられるシランカップリング剤は、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤であれば、特に限定されない。このシランカップリング剤としては、例えば、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0089】
本実施形態において用いられるシリカは、特に限定されない。前記シリカとしては、例えば、破砕状シリカ及びシリカ粒子等が挙げられる。また、前記シリカは、表面処理されたシリカであってもよいし、表面処理されていないシリカであってもよい。また、前記表面処理としては、例えば、シランカップリング剤による処理等が挙げられる。
【0090】
また、前記シリカの含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、60〜250質量部であり、100〜250質量部であることが好ましく、120〜230質量部であることがより好ましく、150〜200質量%であることがさらに好ましい。前記シリカの含有量が少なすぎると、熱伝導率が充分に高まらなかったり、熱膨張率が充分に低下しない傾向がある。また、前記シリカの含有量が多すぎると、シリカを含有することによる不具合が発生しやすくなる傾向がある。具体的には、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性等が低下する傾向がある。よって、前記シリカの含有量を上記範囲内にすることによって、優れた誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、熱伝導率を高め、熱膨張率を下げることができる。
【0091】
また、前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して、0.3〜5質量部であることが好ましく、0.5〜4.5質量部であることがより好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。前記シランカップリング剤の含有量が少なすぎると、耐熱信頼性が低下する傾向がある。具体的には、層間接着力が低下し、加熱時に、層間剥離等が発生する傾向がある。また、前記シランカップリング剤の含有量が多すぎると、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性が低下する傾向がある。よって、前記シランカップリング剤の含有量を上記範囲内にすることによって、シリカ粒子の含有により熱伝導率を高め、熱膨張率を下げても、優れた誘電特性、成形性及び耐熱信頼性を維持することができる。
【0092】
また、前記樹脂組成物を製造する際に、前記シランカップリング剤で前記シリカを予め表面処理したものを添加してもよいし、前記シリカ及び前記シランカップリング剤をインテグラルブレンド法で添加してもよい。
【0093】
また、前記樹脂組成物は、分散剤を含有してもよい。前記分散剤は、特に限定されず、湿潤分散剤等が挙げられる。前記分散剤としては、例えば、酸性基と塩基性基とを有する分散剤、すなわち、両性分散剤等が挙げられる。この分散剤は、酸性基と塩基性とを、それぞれ1つの分子に有する分散剤であってもよいし、酸性基を有する分子と、塩基性基とを有する分子とが共存している分散剤であってもよい。また、この分散剤は、酸性基と塩基性基とを有していればよく、例えば、その他の官能基を有していてもよい。その他の官能基としては、例えば、水酸基等の親水性官能基等が挙げられる。
【0094】
前記酸性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基(スルホ基)、チオール基、リン酸基、酸性リン酸エステル基、ヒドロキシ基、及びホスホン酸基等が挙げられる。前記酸性基としては、この中でも、リン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、及びスルホ基が好ましく、リン酸基やカルボキシル基がより好ましい。
【0095】
前記塩基性基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アルキロールアンモニウム塩基等のアンモニウム塩基、イミダゾリン基、ピロール基、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基、ピラゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、ピロリジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、インドール基、インドリン基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、キヌクリジン基、及びトリアジン基等が挙げられる。前記塩基性基としては、この中でも、アミノ基、イミダゾリン基、アンモニウム塩基、ピロール基、イミダゾール基、ベンゾイミダゾール基、ピラゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、ピロリジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、インドール基、インドリン基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、キヌクリジン基、及びトリアジン基が好ましく、アミノ基やイミダゾリン基がより好ましい。
【0096】
前記分散剤は、前記酸性基として、上記例示の酸性基を1種有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。また、前記分散剤は、前記塩基性基として、上記例示の塩基性基を1種有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0097】
前記分散剤は、具体的には、リン酸基とイミダゾリン基とを有する分散剤、及びカルボキシル基とアミノ基とを有する分散剤が好ましく用いられる。また、リン酸基とイミダゾリン基とを有する分散剤としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK−W969(リン酸エステル系分散剤)等が挙げられる。また、カルボキシル基とアミノ基とを有する分散剤としては、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK−W966(高級脂肪酸エステル系分散剤)等が挙げられる。
【0098】
前記分散剤の酸価は、固形分換算で30〜150mgKOH/gであることが好ましく、30〜100mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が小さすぎると、シリカの分散性を充分に高めることができず、成形性が悪化する傾向がある。酸価が大きすぎると、硬化物のTg等の耐熱性の低下や、接着力の低下、電気特性が悪化する傾向がある。なお、酸価とは、分散剤固形分1gあたりの酸価を表し、DIN EN ISO 2114に準拠の、電位差滴定法により測定することができる。
【0099】
前記分散剤のアミン価が、固形分換算で30〜150mgKOH/gであることが好ましく、30〜100mgKOH/gであることがより好ましい。また、アミン価は、酸価と同程度の値であることがより好ましい。アミン価が酸価と比較して小さすぎると、酸価の影響が大きくなり、ラジカル硬化系に悪影響を及ぼして、硬化物のTg等の耐熱性が低下や接着力の低下、電気特性が悪化する傾向がある。また、アミン価が酸価と比較して大きすぎると、アミン価の影響が大きくなり、分散性が低下して成形性が悪化したり、硬化物の電気特性が悪化する傾向がある。なお、アミン価とは、分散剤固形分1gあたりのアミン価を表し、DIN16945に準拠して、0.1NのHClO
4酢酸水溶液を用いた電位差滴定法により測定することができる。
【0100】
前記分散剤の含有量は、前記シリカ100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.3〜3質量部であることがより好ましく、0.5〜2質量部であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が少なすぎると、樹脂組成物の成形性が低下する傾向がある。このことは、分散剤による、有機成分中でのシリカの分散性を高める効果が充分に発揮できないことによると考えられる。また、分散剤の含有量が多すぎると、硬化物の耐熱性を充分に高めることができなくなる傾向がある。このことは、酸性基と塩基性基とを両方有する分散剤であることから、多量に含有させると、吸湿性が高まりすぎることによると考えられる。よって、分散剤の含有量を、上記範囲内にすることによって、硬化物の、成形性及び耐熱性により優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0101】
前記樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。また、前記難燃剤は、臭素系難燃剤であっても、リン系難燃剤であってもよい。例えば、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン系難燃剤が好ましい。
【0102】
前記臭素系難燃剤としては、具体的には、エチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、及びビス(トリブロモフェノキシ)エタン等が挙げられる。この中でも、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)が、好ましい。
【0103】
前記リン系難燃剤は、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤が挙げられる。また、前記リン系難燃剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の混合物に相溶する相溶性リン化合物と、前記混合物に相溶しない非相溶性リン化合物とを含有することが好ましい。
【0104】
前記相溶性リン化合物は、難燃剤として作用し、かつ、前記混合物に相溶するリン化合物であれば、特に限定されない。また、相溶とは、この場合、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の混合物中で、例えば分子レベルで微分散する状態になることをいう。前記相溶性リン化合物としては、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、亜リン酸エステル化合物、及びホスフィン化合物等の、リンを含み塩を形成していない化合物等が挙げられる。また、ホスファゼン化合物としては、例えば、環状又は鎖状のホスファゼン化合物が挙げられる。なお、環状ホスファゼン化合物は、シクロホスファゼンとも呼ばれ、リンと窒素とを構成元素とする二重結合を分子内に有する化合物であって、環状構造を有するものである。また、リン酸エステル化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、1,3−フェニレンビス(ジ2,6−キシレニルホスフェート)、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(DOPO)、芳香族縮合リン酸エステル化合物等の縮合リン酸エステル化合物、及び環状リン酸エステル化合物等が挙げられる。また、亜リン酸エステル化合物としては、例えば、トリメチルホスファイト、及びトリエチルホスファイト等が挙げられる。また、ホスフィン化合物としては、例えば、トリス−(4−メトキシフェニル)ホスフィン、及びトリフェニルホスフィン等が挙げられる。また、前記相溶性リン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記相溶性リン化合物としては、上記例示の中でも、ホスファゼン化合物が好ましい。
【0105】
また、前記非相溶性リン化合物は、難燃剤として作用し、かつ、前記混合物に相溶しない非相溶のリン化合物であれば、特に限定されない。また、非相溶とは、この場合、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の混合物中で相溶せず、対象物(リン化合物)が混合物中に島状に分散する状態になることをいう。前記非相溶性リン化合物としては、ホスフィン酸塩化合物、ポリリン酸塩化合物、及びホスホニウム塩化合物等の、リンを含み塩形成をしている化合物、及びホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。また、ホスフィン酸塩化合物としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ビスジエチルホスフィン酸亜鉛、ビスメチルエチルホスフィン酸亜鉛、ビスジフェニルホスフィン酸亜鉛、ビスジエチルホスフィン酸チタニル、ビスメチルエチルホスフィン酸チタニル、ビスジフェニルホスフィン酸チタニル等が挙げられる。また、ポリリン酸塩化合物としては、例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム等が挙げられる。また、ホスホニウム塩化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。また、前記ホスフィンオキサイド化合物としては、例えば、ジフェニルホスフィンオキサイド基を分子中に2つ以上有するホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。また、前記非相溶性リン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記非相溶性リン化合物としては、上記例示の中でも、ホスフィン酸塩化合物が好ましい。
【0106】
本実施形態で用いられる樹脂組成物は、難燃剤として、上述したように、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とを併用することによって、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とのいずれか一方のみを用いた場合より、得られた硬化物の難燃性を高めることができる。そして、相溶性リン化合物と非相溶性リン化合物との併用は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との硬化反応の阻害を充分に抑制しつつ、得られた硬化物の難燃性を高めることができると考えられる。さらに、前記硬化反応の阻害を充分に抑制するので、硬化物の耐熱性の低下も充分に抑制できると考えられる。これらのことから、前記樹脂組成物は、硬化物の耐熱性及び難燃性により優れたものになると考えられる。また、難燃剤として、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とのいずれかを用いた場合、難燃性が不充分になる傾向がある。難燃剤として、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とのいずれかを用いた場合で、前記併用の場合と同程度の難燃性を確保しようとすると、前記相溶性リン化合物又は前記非相溶性リン化合物を多量に含有させる必要がある。このように、難燃剤として、前記併用をするのではなく、単に含有量を増やすだけでは、誘電特性や硬化物の耐熱性等が低下することが考えられる。このことから、難燃剤として、前記併用を採用すると、後述するような含有量で、誘電特性や硬化物の耐熱性等の低下を抑制しつつ、難燃性を高めることができる。
【0107】
前記相溶性リン化合物の含有量は、前記相溶性リン化合物及び前記非相溶性リン化合物の合計含有量に対して、3〜19質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましく、5〜13質量%であることがさらに好ましい。すなわち、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物との含有比は、質量比で3:97〜20:80であることが好ましく、3:97〜19:81であることがより好ましく、5:95〜15:85であることがさらに好ましく、5:95〜13:87であることがより一層好ましい。このような含有比であれば、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を維持しつつ、硬化物の、難燃性、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性により優れた樹脂組成物になる。このことは、難燃剤として、相溶性リン化合物と非相溶性リン化合物とを併用する上記効果を、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性の低下を充分に抑制しつつ、より発揮することができるためと考えられる。
【0108】
前記相溶性リン化合物の含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、1〜3.5質量部であり、1〜3質量部であることが好ましく、2〜3質量部であることがより好ましい。前記相溶性リン化合物が少なすぎると、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とを併用することによる難燃性を向上させる効果を充分に奏することができない傾向がある。また、前記相溶性リン化合物が多すぎると、層間接着性が低下する傾向がある。よって、前記相溶性リン化合物を、上記含有量となるように含有させることによって、難燃性を高めつつ、層間接着性も高めることができる。
【0109】
前記非相溶性リン化合物の含有量は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、14〜30質量部であり、14〜25質量部であることが好ましく、14〜22質量部であることがより好ましい。前記非相溶性リン化合物が少なすぎると、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とを併用することによる難燃性を向上させる効果を充分に奏することができない傾向がある。また、前記非相溶性リン化合物が多すぎると、難燃剤の総量が多くなりすぎることになり、誘電特性、及び耐熱信頼性が低下する傾向がある。よって、前記非相溶性リン化合物を、上記含有量となるように含有させることによって、難燃性を高めつつ、優れた誘電特性を維持しつつ、耐熱信頼性等の低下を充分に抑制することができる。
【0110】
前記難燃剤としては、前記相溶性リン化合物と前記非相溶性リン化合物とからなるものであってもよいし、この2種以外の難燃剤も含有してもよい。
【0111】
前記樹脂組成物は、前記シリカ以外の充填材を含有してもよい。前記充填材としては、硬化性組成物の硬化物の、耐熱性や難燃性を高め、加熱時における寸法安定性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。すなわち、充填材を含有させることによって、耐熱性や難燃性を高め、加熱時における寸法安定性を高めることができる。前記充填材としては、具体的には、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0112】
また、本実施形態で用いる樹脂組成物には、添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、及び滑剤等が挙げられる。
【0113】
また、本実施形態に係る樹脂組成物を用いることによって、以下のように、プリプレグ、金属張積層板、配線板、及び樹脂付き金属箔を得ることができる。
【0114】
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
【0115】
本実施形態に係るプリプレグ1は、図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1としては、前記樹脂組成物又は前記半硬化物2の中に繊維質基材3が存在するものが挙げられる。すなわち、このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又は前記半硬化物2と、前記樹脂組成物又は前記半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
【0116】
なお、本実施形態において半硬化物とは、樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、前記樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0117】
本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化前の前記樹脂組成物を備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。具体的には、例えば、前記樹脂組成物の中に繊維質基材が存在するもの等が挙げられる。
【0118】
プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維質基材3に含浸するために、樹脂組成物2は、ワニス状に調製されて用いられることが多い。すなわち、樹脂組成物2は、通常、ワニス状に調製された樹脂ワニスであることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0119】
まず、変性ポリフェニレンエーテル化合物、架橋型硬化剤、及びシランカップリング剤等の、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、有機溶媒に溶解しない成分、例えば、シリカ等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、変性ポリフェニレンエーテル化合物、架橋型硬化剤、及びシランカップリング剤等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエンやメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。
【0120】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0121】
プリプレグ1を製造する際に用いられる繊維質基材3として、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。偏平処理加工として、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮する方法が挙げられる。なお、繊維質基材としては、その厚さが、例えば、0.04〜0.3mmのものが挙げられる。
【0122】
樹脂組成物2は、繊維質基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に希望とする組成及び含浸量に調整することも可能である。
【0123】
樹脂組成物2が含浸された繊維質基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上、180℃以下で1分間以上、10分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。
【0124】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物を用いて得られたプリプレグは、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果を発揮することができる。すなわち、前記プリプレグは、優れた誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、高熱伝導率及び低熱膨張率を実現することができる。そして、このプリプレグは、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果が発揮される金属張積層板や配線板を製造することができる。
【0125】
図2は、本発明の実施形態に係る金属張積層板11の一例を示す概略断面図である。
【0126】
金属張積層板11は、図2に示すように、図1に示したプリプレグ1の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12とともに積層される金属箔13とから構成されている。すなわち、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12の上に、金属箔13を有する。また、金属張積層板11は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12に接合された金属箔13とを有する。
【0127】
プリプレグ1を用いて金属張積層板11を作製する方法として、プリプレグ1を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、金属箔13およびプリプレグ1を加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層板11を作製する方法が挙げられる。すなわち、金属張積層板11は、プリプレグ1に金属箔13を積層して、加熱加圧成形して得られる。また、加熱加圧条件は、製造する金属張積層板11の厚みやプリプレグ1の組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170〜210℃、圧力を3.5〜4MPa、時間を60〜150分間とすることができる。また、金属張積層板は、プリプレグを用いずに、製造してもよい。例えば、ワニス状の樹脂組成物等を金属箔上に塗布し、金属箔上に樹脂組成物を含む層を形成した後、加熱加圧する方法等が挙げられる。
【0128】
また、金属張積層板11は、プリプレグ1を用いずに、ワニス状の樹脂組成物を金属箔13の上に形成し、加熱加圧することにより作製されてもよい。
【0129】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物を用いて得られた金属張積層板は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果を発揮することができる。すなわち、前記金属張積層板は、優れた誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、高熱伝導率及び低熱膨張率を実現することができる。そして、この金属張積層板は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果が発揮される配線板を製造することができる。
【0130】
図3は、本発明の実施形態に係る配線板21の一例を示す概略断面図である。
【0131】
本実施形態に係る配線板21は、図3に示すように、図1に示したプリプレグ1を硬化して用いられる絶縁層12と、絶縁層12ともに積層され、金属箔13を部分的に除去して形成された配線14とから構成されている。すなわち、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12の上に、配線14を有する。また、前記配線板21は、樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層12と、絶縁層12に接合された配線14とを有する。
【0132】
そして、作製された金属張積層板11の表面の金属箔13をエッチング加工等して配線形成をすることによって、絶縁層12の表面に回路として配線が設けられた配線板21が得られる。すなわち、配線板21は、金属張積層板11の表面の金属箔13を部分的に除去することにより回路形成して得られる。配線板21は、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、高熱伝導率及び低熱膨張率の絶縁層12を有する。
【0133】
このような配線板は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果が発揮される配線板である。
【0134】
図4は、本実施の形態に係る樹脂付き金属箔31の一例を示す概略断面図である。
【0135】
本実施形態に係る樹脂付き金属箔31は、図4に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と、金属箔13とを備える。この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32の表面上に金属箔13を有する。すなわち、この樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と、前記樹脂層32とともに積層される金属箔13とを備える。また、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂層32と前記金属箔13との間に、他の層を備えていてもよい。
【0136】
また、前記樹脂層32としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化前の前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付き金属箔31は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付き金属箔であってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0137】
また、金属箔としては、樹脂付き金属箔及び金属張積層板に用いられる金属箔を限定なく用いることができる。金属箔としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
【0138】
樹脂付き金属箔31は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物を金属箔13上に塗布し、加熱することにより製造される。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、金属箔13上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上、180℃以下、1分以上、10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層32として、金属箔13上に形成される。
【0139】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物を用いて得られた樹脂付き金属箔は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果を発揮することができる。すなわち、前記樹脂付き金属箔は、優れた誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、高熱伝導率及び低熱膨張率を実現することができる。また、このような樹脂付き金属箔は、配線板を製造する際に用いることができる。よって、この樹脂付き金属箔は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果が発揮される配線板を製造することができる。
【0140】
図5は、本実施の形態に係る樹脂付きフィルム41の一例を示す概略断面図である。
【0141】
本実施形態に係る樹脂付きフィルム41は、図5に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42と、支持フィルム43とを備える。この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42の表面上に支持フィルム43を有する。すなわち、この樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と、前記樹脂層42とともに積層される支持フィルム43とを備える。また、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂層42と前記支持フィルム43との間に、他の層を備えていてもよい。
【0142】
また、前記樹脂層42としては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を含むものであってもよいし、また、硬化前の前記樹脂組成物を含むものであってもよい。すなわち、前記樹脂付きフィルム41は、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、支持フィルムとを備えるであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、支持フィルムとを備える樹脂付きフィルムであってもよい。また、前記樹脂層としては、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含んでいればよく、繊維質基材を含んでいても、含んでいなくてもよい。また、繊維質基材としては、プリプレグの繊維質基材と同様のものを用いることができる。
【0143】
また、支持フィルム43としては、樹脂付きフィルムに用いられる支持フィルムを限定なく用いることができる。支持フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、及びポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。
【0144】
樹脂付きフィルム41は、例えば、上記ワニス状の樹脂組成物を支持フィルム43上に塗布し、加熱することにより製造される。ワニス状の樹脂組成物は、例えば、バーコーターを用いることにより、支持フィルム43上に塗布される。塗布された樹脂組成物は、例えば、80℃以上、180℃以下、1分以上、10分以下の条件で加熱される。加熱された樹脂組成物は、未硬化の樹脂層42として、支持フィルム43上に形成される。
【0145】
本実施形態に係る樹脂組成物は、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物である。このため、この樹脂組成物を用いて得られた樹脂付き金属箔は、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果を発揮することができる。また、このような樹脂付きフィルムは、配線板を製造する際に用いることができる。例えば、配線板の上に積層した後に、支持フィルムを剥離したり、支持フィルムを剥離した後、配線板の上に積層することによって、多層の配線板を製造することができる。このような樹脂付きフィルムは、優れた誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、高熱伝導率及び低熱膨張率を実現することができる。このような樹脂付きフィルムを用いて得られた配線板としては、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持しつつ、シリカを比較的多く含むことにより奏する効果が発揮される配線板を製造することができる。
【0146】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0147】
本発明の一局面は、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物と、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する架橋型硬化剤と、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤と、シリカとを含有し、前記シリカの含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、60〜250質量部であることを特徴とする樹脂組成物である。
【0148】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。前記樹脂組成物を硬化して得られた硬化物は、シリカを比較的多く含有しているので、高熱伝導率及び低熱膨張率を実現できる。よって、前記樹脂組成物は、シリカを含有することにより奏する効果を充分に発揮しつつ、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた硬化物を得ることができる。
【0149】
このことは、以下のことによると考えられる。まず、前記樹脂組成物は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物を前記架橋型硬化剤で架橋することで、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を維持した硬化物が得られると考えられる。また、前記シランカップリング剤を含有させることによって、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を維持したまま、シリカの含有量が多すぎることによる不具合の発生を抑制することができると考えられる。すなわち、前記シランカップリング剤によって、前記樹脂組成物に含有されるシリカの量が多くなることによる増粘を抑制し、成形性の低下を抑制することができる。また、前記シランカップリング剤によって、前記硬化物で複数層を形成する場合等であっても、各層間での接着力、すなわち、層間接着力が高まると考えられる。よって、この硬化剤は、例えば、この硬化物を積層した金属張積層板や配線板等を加熱しても、層間剥離の発生が抑制される等の、耐熱信頼性の高い硬化物となると考えられる。
【0150】
以上のことから、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物が得られると考えられる。
【0151】
また、前記樹脂組成物において、前記シランカップリング剤の含有量が、前記シリカ100質量部に対して、0.3〜5質量部であることが好ましい。
【0152】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性により優れた硬化物が得られる。
【0153】
また、前記樹脂組成物において、難燃剤をさらに含有し、前記難燃剤は、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の混合物に相溶する相溶性リン化合物と、前記混合物に相溶しない非相溶性リン化合物とを含むことが好ましい。
【0154】
このような構成によれば、難燃剤を含有させても、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた硬化物が得られる。すなわち、難燃剤を含有させた樹脂組成物は、成形性及び層間密着力が低下する傾向があるが、前記樹脂組成物に前記難燃剤を含有した場合、これらの低下を抑制することができる。
【0155】
また、前記樹脂組成物において、前記相溶性リン化合物の含有量が、前記相溶性リン化合物及び前記非相溶性リン化合物の合計含有量に対して、3〜19質量%であることが好ましい。
【0156】
このような構成によれば、難燃剤を含有させても、成形性及び層間密着力の低下をより抑制でき、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた硬化物が得られる。
【0157】
また、前記樹脂組成物において、前記相溶性リン化合物が、ホスファゼン化合物であることが好ましい。
【0158】
このような構成によれば、難燃剤を含有させても、成形性及び層間密着力の低下をより抑制でき、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた硬化物が得られる。
【0159】
また、前記樹脂組成物において、前記置換基が、ビニルベンジル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する置換基であることが好ましい。
【0160】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性により優れた硬化物が得られる。
【0161】
また、前記樹脂組成物において、前記シリカが、破砕状シリカ又はシリカ粒子であることが好ましい。
【0162】
このような構成によれば、シリカを比較的多く含有しても、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた硬化物を好適に得られる樹脂組成物を提供することができる。
【0163】
また、本発明の他の一態様に係るプリプレグは、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と、繊維質基材とを備えることを特徴とする。
【0164】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れたプリプレグが得られる。
【0165】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、支持フィルムとを備えることを特徴とする樹脂付きフィルムである。
【0166】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた樹脂付きフィルムが得られる。
【0167】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と、金属箔とを備えることを特徴とする樹脂付き金属箔である。
【0168】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた樹脂付き金属箔が得られる。
【0169】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを備えることを特徴とする金属張積層板である。
【0170】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた金属張積層板が得られる。
【0171】
また、本発明の他の一局面は、前記樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、配線とを備えることを特徴とする配線板である。
【0172】
このような構成によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れた配線板が得られる。
【0173】
本発明によれば、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記樹脂組成物を用いて得られる、プリプレグ、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及び配線板が提供される。
【0174】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0175】
[実施例1〜18、及び比較例1〜10]
本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる各成分について説明する。
【0176】
(ポリフェニレンエーテル化合物:PPE成分)
変性PPE−1:ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル(式(14)に示す構造を有し、式(14)中、R
8がメチル基であり、Yがジメチルメチレン基(式(8)で表され、式(8)中のR
9及びR
10がメチル基である基)である変性ポリフェニレンエーテル化合物、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000、重量平均分子量Mw1700、末端官能基数2個)
変性PPE−2:
ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとを反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0177】
具体的には、以下のように反応させて得られた変性ポリフェニレンエーテルである。
【0178】
まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、末端水酸基数2個、重量平均分子量Mw1700)200g、p−クロロメチルスチレンとm−クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、攪拌した。そして、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、徐々に加熱し、最終的に液温が75℃になるまで加熱した。そして、その溶液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、75℃で4時間攪拌した。次に、10質量%の塩酸でフラスコの内容物を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、フラスコ内の液体に沈殿物を生じさせた。すなわち、フラスコ内の反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、この沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0179】
得られた固体を、
1H−NMR(400MHz、CDCl
3、TMS)で分析した。NMRを測定した結果、5〜7ppmにビニルベンジル基(エテニルベンジル基)に由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、前記置換基としてビニルベンジル基を分子中に有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。この得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物は、上記式(11)で表され、Yがジメチルメチレン基(式(8)で表され、式(8)中のR
9及びR
10がメチル基である基)であり、Zがフェニレン基であり、R
1〜R
3が水素原子であり、nが1である変性ポリフェニレンエーテル化合物であった。
【0180】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数を、以下のようにして測定した。
【0181】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、その溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV−1600)を用いて、318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの末端水酸基数を算出した。
【0182】
残存OH量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
6
ここで、εは、吸光係数を示し、4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、1cmである。
【0183】
そして、その算出された変性ポリフェニレンエーテルの残存OH量(末端水酸基数)は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数からの減少分は、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数であることがわかった。すなわち、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数であることがわかった。つまり、末端官能基数が、2個であった。
【0184】
また、変性ポリフェニレンエーテルの、25℃の塩化メチレン中で固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)を、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0185】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPCを用いて、測定した。そして、その得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)を算出した。その結果、Mwは、1900であった。
【0186】
(架橋型硬化剤)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製のTAIC、分子量249、末端二重結合数3個)
DVB:ジビニルベンゼン(新日鐵住金株式会社製のDVB810、分子量130、末端二重結合数2個)
(反応開始剤)
過酸化物:1,3−ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP)
(シランカップリング剤)
ビニル基:分子中にビニル基を有するシランカップリング剤(ビニルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBM−1003)
グリシドキシ基:分子中にグリシドキシ基を有するシランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBM−403)
メタクリロキシ基:分子中にメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBM−503)
アミノ基:分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBM−903)
フェニルアミノ基:分子中にフェニルアミノ基を有するシランカップリング剤(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBM−573)
ウレイド基:分子中にウレイド基を有するシランカップリング剤(3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製のKBE−585)
(難燃剤:相溶性リン化合物)
ホスファゼン化合物:環状ホスファゼン化合物(大塚化学株式会社製のSPB−100:リン濃度13質量%)
(難燃剤:非相溶性リン化合物)
ホスフィンオキサイド化合物:パラキシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイド(晋一化工有限公司製のPQ60)
ホスフィン酸塩化合物:トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアントジャパン株式会社製のエクソリットOP−935:リン濃度23質量%)
(分散剤)
分散剤1:リン酸エステル系分散剤(リン酸基とイミダゾリン基とを有する分散剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK−W969、酸価(固形分換算)75mgKOH/g、アミン価(固形分換算)75mgKOH/g)
分散剤2:高級脂肪酸エステル系分散剤(カルボキシル基とアミノ基とを有する分散剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK−W966、酸価(固形分換算)50mgKOH/g、アミン価(固形分換算)37mgKOH/g)
(シリカ)
シリカ粒子:株式会社アドマテックス製のSC−2300SVJ
破砕状シリカ:シベルコ社製のMegasil525
【0187】
[調製方法]
まず、各成分を表1〜3に記載の配合割合(質量部)で、固形分濃度が60質量%となるように、トルエンに添加し、混合させた、その混合物を、80℃になるまで加熱し、80℃のままで60分間攪拌することによって、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
【0188】
次に得られたワニスをガラスクロスに含浸させた後、100〜170℃で約3〜6分間加熱乾燥することによりプリプレグを作製した。このガラスクロスは、具体的には、日東紡績株式会社製の#2116タイプ、Eガラスである。その際、変性ポリフェニレンエーテル化合物及び架橋型硬化剤等の、硬化反応により樹脂を構成する成分の含有量(レジンコンテント)が約50質量%となるように調整する。
【0189】
そして、得られた各プリプレグを4枚重ねて、それを厚み35mmの銅箔で挟みこんで積層し、温度200℃、2時間、圧力3MPaの条件で加熱加圧することにより、厚さ約0.8mmの評価基板(金属張積層板:銅箔張積層板)を得た。
【0190】
上記のように調製された各プリプレグ及び評価基板を、以下に示す方法により評価を行った。
【0191】
[樹脂流れ性]
各プリプレグの樹脂流れ性は、IPC法(IPC−TM−650 2.3.17.2に準拠の方法)で測定した。
【0192】
[回路充填性]
前記銅張積層板の両面の銅箔に対して、それぞれ、残銅率が20、40、50、60、80%となるように、格子状のパターンを形成して、回路を形成した。すなわち、残銅率の異なる格子状のパターン回路を積層体面内に形成した。この回路が形成された基板の両面に、プリプレグを1枚ずつ積層し、銅張積層板を製造したときと同じ条件で、加熱加圧を行った。この形成された積層体(評価用積層体)において、すべての異なる残銅率の回路間に、プリプレグ由来の樹脂等が充分に入り込み、ボイドが形成されていなければ、「○」と評価した。すなわち、回路間に、ボイドが確認できなければ、「○」と評価した。また、異なる残銅率の回路間で、一部の回路においてボイドが確認されれば、「△」と評価し、また、すべての回路間でボイドが確認されれば「×」と評価した。ボイドは目視で確認できる。
【0193】
[ガラス転移温度(Tg)]
セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性スペクトロメータ「DMS100」を用いて、プリプレグのTgを測定した。このとき、曲げモジュールで周波数を10Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から280℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。
【0194】
[層間接着性]
まず、前記プリプレグを硬化して得られた絶縁層をコア材とし、このコア材を、温度85℃、相対湿度85%の条件下で240時間放置し、コア材を吸湿させた。この吸湿後のコア材の上に、前記プリプレグを積層して得られた、多層の金属張積層板における、最上面にあるプリプレグを引き剥がした。このとき、通常の接着状態であれば、「○」と評価し、異常な接着状態であれば、「×」と評価した。また、全面的には接着されている状態であるが、部分的に異常な接着状態の箇所が存在すれば、「△」と評価した。
【0195】
なお、通常の接着状態とは、多層の金属張積層板を構成するプリプレグとプリプレグとの接着強度が高く、最上面にあるプリプレグを引き剥がそうとすると、プリプレグ同士の界面で剥離するのではなく、プリプレグの樹脂とガラスクロスとの間で剥離する、いわゆる材料破壊の状態等を言う。また、異常な接着状態とは、通常の接着状態以外の接着状態である。具体的には、例えば、最上面にあるプリプレグを引き剥がそうとすると、多層の金属張積層板を構成するプリプレグとプリプレグとの界面で剥離する、いわゆる界面破壊の状態等が挙げられる。
【0196】
[耐熱性(T−288)]
耐熱性(T−288)は、JIS C 6481に準拠の方法で測定する。具体的には、評価基板を、121℃、2気圧(0.2MPa)、6時間のプレッシャークッカーテスト(PCT)を行う。そのPCT後の評価基板を、288℃の半田槽中に浸漬した。浸漬した評価基板に、デラミネーションが発生するまでの時間を測定した。なお、120秒以上であれば、表1〜3において「↑120」と表記する。
【0197】
[誘電特性(比誘電率及び誘電正接)]
1GHzにおける評価基板の比誘電率及び誘電正接を、IPC−TM650−2.5.5.9に準拠の方法で測定した。具体的には、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製のRFインピーダンスアナライザ HP4291B)を用い、1GHzにおける評価基板の比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0198】
上記各評価における結果は、表1〜3に示す。
【0199】
【表1】
【0200】
【表2】
【0201】
【表3】
【0202】
表1〜3からわかるように、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤とを樹脂組成物において、シリカを前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、60〜250質量部と比較的多く含有しても、前記樹脂組成物に、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤を含有した場合(実施例1〜19)は、そうでない場合(比較例1〜11)と比較して、誘電特性、樹脂流れ性及び回路充填性に優れ、さらに、層間接着性及び耐熱性に優れていた。すなわち、実施例1〜19に係る樹脂組成物は、シリカを比較的多く含有していても、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れていた。
【0203】
このことは、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤を含有することによると考えられる。他のシランカップリング剤(フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤以外のシランカップリング剤)を含有させた場合(比較例1〜5)では、樹脂流れ性及び回路充填性に劣り、成形性が不充分であった。また、シリカの含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、250質量部を超える場合(比較例6)も、樹脂流れ性及び回路充填性に劣り、成形性が不充分であった。また、シランカップリング剤を含有しない場合(比較例7)も、成形性が不充分であった。フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤を含有させる代わりに、分散剤を含有させた場合(比較例8〜11)も、成形性が不充分であった。よって、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤を含有することによって、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤とを樹脂組成物において、シリカを比較的多く含有しても、優れた、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性を維持できることがわかった。
【0204】
また、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤の含有量が、前記シリカ100質量部に対して、0.3〜5質量部である場合(実施例1〜6)は、前記含有量が0.3質量部未満である場合(実施例7)と比較して、成形性により優れることがわかった。また、実施例1〜6は、前記含有量が5質量部を超える場合(実施例8、9)と比較して、誘電特性、及び耐熱信頼性により優れることがわかった。これらのことから、フェニルアミノ基を分子中に有するシランカップリング剤の含有量が、前記シリカ100質量部に対して、0.3〜5質量部であることが好ましいことがわかる。
【0205】
また、前記シリカの含有量として、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の合計100質量部に対して、60〜250質量部と、前記シリカ比較的多く含有させても、また、前記シリカとしては、シリカ粒子を用いた場合であっても(実施例1〜3等)、破砕状シリカを用いた場合であっても(実施例10〜13)、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物が得られることがわかった。
【0206】
また、変性ポリフェニレンエーテルとして、ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテルを用いた場合(実施例1等)であっても、ポリフェニレンエーテルの末端水酸基をビニルベンジル基(エテニルベンジル基)で変性した変性ポリフェニレンエーテルを用いた場合(実施例14〜16)であっても、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物が得られることがわかった。このことから、変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物であればよいことがわかる。
【0207】
また、前記相溶性リン化合物の含有量が、前記相溶性リン化合物及び前記非相溶性リン化合物の合計含有量に対して、3〜19質量%となるように、前記相溶性リン化合物及び前記非相溶性リン化合物を含有させた場合(実施例17〜19)であっても、誘電特性、成形性、及び耐熱信頼性に優れ、シリカを比較的多く含有した硬化物が得られる樹脂組成物が得られることがわかった。
【0208】
この出願は、2017年7月12日に出願された日本国特許出願特願2017−135895を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0209】
本発明を表現するために、上述において実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。