(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2019030815
(43)【国際公開日】20190214
【発行日】20200416
(54)【発明の名称】超音波検査方法および超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/52 20060101AFI20200319BHJP
【FI】
   !G01N29/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
【出願番号】2019535468
(21)【国際出願番号】JP2017028718
(22)【国際出願日】20170808
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
【住所又は居所】愛媛県松山市道後樋又10番13号
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
【住所又は居所】日本国東京都千代田区丸の内一丁目6番6号 株式会社日立製作所内
(72)【発明者】
【氏名】永島 良昭
【住所又は居所】日本国東京都千代田区丸の内一丁目6番6号 株式会社日立製作所内
(72)【発明者】
【氏名】中畑 和之
【住所又は居所】日本国愛媛県松山市文京町3番 国立大学法人愛媛大学大学院理工学研究科内
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BB02
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC09
2G047CA01
2G047DB10
2G047GG28
2G047GG30
2G047GG35
2G047GG36
(57)【要約】
超音波検査の方法・装置において、従来の逆伝搬解析での利点を活かしながら従来の弱点を克服して、1枚の静止画像の中に位置の異なる複数のきずを同時に表示可能にする超音波検査方法およびその装置を提供することを目的とする。本発明に係る超音波検査方法は、超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査方法であって、前記被検査体のモデルを用意するステップと、前記超音波の計測条件を設定・入力するステップと、前記計測条件に沿って探触子を制御して前記超音波の入射波を前記被検査体の内部に送信し該入射波の反射波を前記探触子で受信するステップと、前記反射波の波形信号を用いて前記モデル上で逆伝搬解析を行って逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成するステップと、前記入射波の波形信号を用いて前記モデル上で順伝搬解析を行って時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成するステップと、前記順伝搬静止画像群と前記逆伝搬静止画像群とを組み合わせる演算処理を行って前記きずの位置を表示した単一の静止画像を作成するステップと、を有することを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査方法であって、
前記被検査体のモデルを用意する被検査体モデル用意ステップと、
前記超音波の計測条件を設定・入力する計測条件入力ステップと、
前記計測条件に沿って探触子を制御して前記超音波の入射波を前記被検査体の内部に送信し該入射波の反射波を前記探触子で受信する超音波計測ステップと、
前記反射波の波形信号を用いて前記モデル上で逆伝搬解析を行って逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する逆伝搬解析ステップと、
前記入射波の波形信号を用いて前記モデル上で順伝搬解析を行って時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成する順伝搬解析ステップと、
前記順伝搬静止画像群と前記逆伝搬静止画像群とを組み合わせる演算処理を行って前記きずの位置を表示した単一の静止画像を作成する順伝搬/逆伝搬合体演算処理ステップと、を有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査方法において、
前記順伝搬/逆伝搬合体演算処理ステップは、
前記順伝搬静止画像群の各静止画像と前記逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群を作成する演算処理静止画像群作成サブステップと、
前記演算処理静止画像群の総和をとることによって前記単一の静止画像を作成する合体処理サブステップと、を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の超音波検査方法において、
前記逆伝搬解析ステップは、前記反射波の波形信号を時間反転して時間反転波形信号を作成する時間反転波形信号作成サブステップを含み、該時間反転波形信号に基づいて前記逆伝搬解析を行うものであり、
前記順伝搬解析ステップは、前記超音波の入射波の波形信号を作成する入射波形信号作成サブステップを含み、作成した入射波形信号に基づいて前記順伝搬解析を行うものであることを特徴とする超音波検査方法。
【請求項4】
超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査装置であって、
前記超音波の計測条件および解析条件を入力すると共に解析結果を出力する入出力部と、
前記計測条件に沿って探触子を制御して前記被検査体の内部に前記超音波の入射波を送信し該入射波の反射波を受信する計測制御部と、
前記被検査体のモデル、前記計測条件、前記解析条件、前記反射波の波形信号、前記入射波の波形信号および解析に基づく画像を記憶するデータ記憶部と、
前記入射波の波形信号および前記反射波の波形信号を前記被検査体のモデル上で前記解析条件に沿って解析処理する波形信号解析処理部と、を具備し、
前記波形信号解析処理部は、
前記反射波の波形信号を用いて逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する逆伝搬解析および前記入射波の波形信号を用いて時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成する順伝搬解析を行う伝搬解析機構と、
前記順伝搬静止画像群および前記逆伝搬静止画像群を組み合わせて前記きずの位置を表示した単一の静止画像を作成する順伝搬/逆伝搬合体演算処理を行う演算処理機構と、を有することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波検査装置において、
前記順伝搬/逆伝搬合体演算処理は、前記順伝搬静止画像群の各静止画像と前記逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群を作成するアルゴリズムと、前記演算処理静止画像群の総和をとることによって前記単一の静止画像を作成するアルゴリズムと、を含むことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波検査装置において、
前記データ記憶部は、前記被検査体のモデル、前記計測条件および前記解析条件を記憶する計測解析条件記憶機構と、
前記反射波の波形信号、該反射波の波形信号を時間反転して作成した時間反転波形信号および前記入射波の波形信号を記憶する波形信号記憶機構と、
前記解析に基づく画像として、前記逆伝搬静止画像群、前記順伝搬静止画像群、前記演算処理静止画像群および前記単一の静止画像を記憶する画像データ記憶機構と、を有することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の超音波検査装置において、
前記波形信号解析処理部は、前記被検査体のモデルを作成する被検査体モデル作成機構を更に有することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の超音波検査装置において、
前記計測制御部は、前記探触子の前記超音波の送受信を制御する探触子制御機構と、受信した前記反射波を波形信号化する波形信号化機構と、前記探触子の位置検知およびスキャン操作を担う探触子駆動機構と、を有することを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査技術に関し、特に、超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査方法、および該方法を実施するための超音波検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型の構造物(例えば、橋梁、電力プラント)の健全性管理を目的として、構造物の部材の内部損傷を広範囲で精度よく検知可能な非破壊検査システムの重要性が高まっている。そのような非破壊検査システムでの探傷検査方法の一つとして、超音波検査(UT)がある。
【0003】
超音波検査は、振動子を内蔵する探触子(超音波プローブとも言う)を被検査体に当てて超音波(例えば1〜5 MHz)を入射し、その反射波(エコー)を該探触子で受信する検査方法である。このとき、被検査体の内部にきずが無い場合は入射波が入射面と反対側の被検査体表面(しばしば底面/裏面)でエコーが生じ、被検査体の内部にきずが有る場合は当該きずで先にエコーが生じるため、エコーの受信を解析処理・画像化することによってきずの有無や位置を検査することができる。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2014-062758)には、ガイド波を用いて曲がり部を有する被検査体の欠陥を検出する非破壊検査方法であって、前記被検査体の検査範囲を複数の検査領域に分割する第1のステップと、該第1のステップで分割された前記検査領域へ到達可能な歪みを補償した送信波形を算出する第2のステップと、該第2のステップで算出された前記送信波形を送信して反射波形を受信する第3のステップと、前記検査領域内に解析領域を設定して解析領域に該当する伝搬時間の空間波形を算出する第4のステップと、該第4のステップで算出された前記検査領域内の解析領域の空間波形を合成して検査画像を合成する第5のステップと、該第5のステップで得られた前記検査領域の検査画像を合成して検査画像を得る第6のステップからなる非破壊検査方法が、開示されている。
【0005】
特許文献1によると、曲がり部を有する配管を検査する場合であっても、ガイド波の歪みを補償するステップを設けることによって、直管部、曲げ内、曲げ以降の全ての範囲を一括して欠陥分布画像を得ることができ、その画像に配管周方向の感度誤差が生じにくくなる、とされている。特許文献1の技術は、1次元方向(長さ方向)におけるきずの位置標定を精度よく行うことができると考えられる。
【0006】
ただし、2次元方向や3次元方向におけるきずの位置標定を特許文献1の技術で行おうとすると極めて複雑な計算が必要になり、長大な計算時間を要するまたは解の算出が不能という問題が生じる場合が考えられる。
【0007】
一方、2次元方向や3次元方向における超音波検査の効率向上や精度向上の観点から、近年では、超音波フェーズドアレイを用いた探傷検査方法が注目されている。例えば、特許文献2(特開2010-266414)には、フェーズドアレイを用いた超音波探傷法において、前記フェーズドアレイの各受信素子で得られたAスコープ波形信号に対し、所定の数式で表される影響関数の逆数を乗じて各信号の振幅を補正し、補正後の前記Aスコープ波形信号に開口合成処理を行うことによりBスコープ画像を構築することを特徴とするフェーズドアレイ開口合成処理方法が、開示されている。
【0008】
特許文献2によると、各受信素子で得られたAスコープ波形信号に対して所定の影響関数の逆数を乗じることにより、受信したAスコープ波形信号を拡散減衰のない一定エコー強度に補正できる。そして、この補正後のAスコープ波形信号を用いて開口合成処理することにより、探触子からの距離が拡大しても超音波の減衰による検出感度の低下が抑制され、明瞭な指示がえられる、とされている。すなわち、厚肉試験体の深い位置にあるきずや欠陥であっても、浅い位置のそれらと同等の感度で検出できる、とされている。
【0009】
ここで、開口合成(AS)法とは、複数の振動子を利用してエコーの波形を受信し、受信した波形の反射源となり得る軌道を波形毎に求め、各軌道上に当該波形の波高値を重ね合わせることで、反射源を画像化する手法である。被検査領域の性状がきず以外の領域で一様である場合(言い換えると、音響的に均質な組織形態の中にきずが存在する場合)、開口合成法によって求めたきずの位置と実際のきずの位置とは良い一致を示すことが知られている。
【0010】
ただし、被検査領域の中に音響的に不均質な組織形態の領域を含む場合(例えば、溶接部のように組織形態が明確に他と異なる領域を含む場合)、当該音響的に不均質な領域は超音波の伝搬特性や反射特性に対する影響が大きいため、従来の開口合成法では、解析で求めたきずの位置と実際のきずの位置とがずれ易いという弱点を有する。
【0011】
また、音響的不均質領域における超音波の伝搬特性・反射特性を考慮した上で解析を行おうとすると、従来の開口合成法では、極めて複雑な計算が必要になり長大な計算時間を要する、または計算が複雑過ぎて解の算出が困難という問題が生じる。例えば、N個の振動子を含む超音波フェーズドアレイ探触子を用いて被検査領域を1000×1000のメッシュで画像化しようとした場合、伝搬経路および伝搬時間を求める計算がそれぞれN×106回必要になる。さらに、当該超音波フェーズドアレイ探触子を被検査体上でスキャンさせて探傷検査する場合、計測位置毎にその計算が必要になる。
【0012】
上記のような音響的不均質領域を含む場合の問題の対策として、例えば、特許文献3(WO 2014/167698 A1)の技術が報告されている。特許文献3には、超音波を用いて被検査体を検査する超音波検査方法において、収録した超音波波形から第一の探傷画像を作成するステップと、収録した超音波波形を時間反転した波形を入力として、前記被検査体への超音波の伝搬を解析する第一の伝搬解析モデルを作成するステップと、前記第一の伝搬解析モデル上で伝搬解析を実施した結果から第二の探傷画像を作成するステップを有することを特徴とする超音波検査方法が、開示されている。また、前記第一の探傷画像から有意な反射信号を掲出するステップと、前記有意な反射信号から各超音波送信位置までのそれぞれの超音波の伝搬時間を求める第二の伝搬解析を実施するステップと、前記伝搬時間より各超音波送信位置における遅延時間情報を求めるステップとを更に有する超音波検査方法が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014−062758号公報
【特許文献2】特開2010−266414号公報
【特許文献3】国際公開第2014/167698号
【特許文献4】国際公開第2015/092841号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献3によると、被検査体/被検査領域が音響的不均質領域を含む場合であっても、欠陥位置を高精度にかつ検査時間を短縮して実施することが可能になる、とされている。特許文献3の技術は、きずの位置標定の解析プロセスにおいて、収録した超音波波形を時間反転した波形を入力として、被検査体への超音波の伝搬を解析する第一の伝搬解析モデルを作成すること(超音波計測波形を時間反転して被検査体モデル上で数値解析すること、逆伝搬解析と称す)が重要なポイントとなっており、従来技術の問題点を解決する優れた技術の一つと考えられる。
【0015】
特許文献3の技術では、解析結果として、超音波の伝搬の様子が時系列に並んだ複数枚の静止画像(静止画像群)が得られる。そして、該静止画像群をアニメーション(動画)として再生し、きずに起因するエコーが伝搬していく様子を観察することにより、きずの位置や大きさを標定することができる。
【0016】
しかしながら、静止画像群を動画として再生・観察してきずの位置や大きさを判断する方法は、きずの位置標定にあたって必ず動画観察の時間を要するという弱点があった。言い換えると、きずの位置標定の解析結果を直接的に1枚の静止画像で表示することが困難という弱点があった。例えば、探触子からの距離が異なる複数のきずが存在する場合(すなわち、伝搬時間の異なるきずが複数ある場合)、それぞれのきずが異なるページの静止画像に表示されるため、1枚の静止画像の中に一緒に表示することが困難となる。
【0017】
加えて、動画を再生・観察してきずを判断する方法は、きずの位置標定に観察者の主観が影響し易いという不確実性の弱点があった。
【0018】
なお、解析結果として得られた静止画像群を全て重ね合わせて1枚の静止画像を合成した場合、超音波の伝搬軌跡(入射波の軌跡およびエコーの軌跡)が帯状に描画されることになるため、きずの位置が不明瞭になり易いという問題が生じる。特に、複数のきずが存在する場合、探触子に近い側の位置にあるきずは、探触子に遠い側の位置にあるきずへの伝搬軌跡に埋もれ易く判別困難になるという別の問題が生じる。
【0019】
上記のような事情から、本発明の目的は、被検査体の内部のきずの位置標定を行う超音波検査において、従来の逆伝搬解析での利点を活かしながら従来の弱点を克服して、1枚の静止画像の中に位置の異なる複数のきずを同時に表示可能にする超音波検査方法、および該方法を実施するための超音波検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(I)本発明の一態様は、超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査方法であって、
前記被検査体のモデルを用意する被検査体モデル用意ステップと、
前記超音波の計測条件を設定・入力する計測条件入力ステップと、
前記計測条件に沿って探触子を制御して前記超音波の入射波を前記被検査体の内部に送信し該入射波の反射波を前記探触子で受信する超音波計測ステップと、
前記反射波の波形信号を用いて前記モデル上で逆伝搬解析を行って逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する逆伝搬解析ステップと、
前記入射波の波形信号を用いて前記モデル上で順伝搬解析を行って時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成する順伝搬解析ステップと、
前記順伝搬静止画像群と前記逆伝搬静止画像群とを組み合わせる演算処理を行って前記きずの位置を表示した単一の静止画像を作成する順伝搬/逆伝搬合体演算処理ステップと、を有することを特徴とする超音波検査方法を提供するものである。
【0021】
本発明は、上記の超音波検査方法(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記順伝搬/逆伝搬合体演算処理ステップは、前記順伝搬静止画像群の各静止画像と前記逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群を作成する演算処理静止画像群作成サブステップと、前記演算処理静止画像群の総和をとることによって前記単一の静止画像を作成する合体処理サブステップとを有する。
(ii)前記逆伝搬解析ステップは、前記反射波の波形信号を時間反転して時間反転波形信号を作成する時間反転波形信号作成サブステップを含み、該時間反転波形信号に基づいて前記逆伝搬解析を行うものであり、
前記順伝搬解析ステップは、前記超音波の入射波の波形信号を作成する入射波形信号作成サブステップを含み、作成した入射波形信号に基づいて前記順伝搬解析を行うものである。
【0022】
(II)本発明の他の一態様は、超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する超音波検査装置であって、
前記超音波の計測条件および解析条件を入力すると共に解析結果を出力する入出力部と、
前記計測条件に沿って探触子を制御して前記被検査体の内部に前記超音波の入射波を送信し該入射波の反射波を受信する計測制御部と、
前記被検査体のモデル、前記計測条件、前記解析条件、前記反射波の波形信号、前記入射波の波形信号および解析に基づく画像を記憶するデータ記憶部と、
前記入射波の波形信号および前記反射波の波形信号を前記被検査体のモデル上で前記解析条件に沿って解析処理する波形信号解析処理部と、を具備し、
前記波形信号解析処理部は、
前記反射波の波形信号を用いて逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する逆伝搬解析および前記入射波の波形信号を用いて時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成する順伝搬解析を行う伝搬解析機構と、
前記順伝搬静止画像群および前記逆伝搬静止画像群を組み合わせて前記きずの位置を表示した単一の静止画像を作成する順伝搬/逆伝搬合体演算処理を行う演算処理機構と、を有することを特徴とする超音波検査装置を提供するものである。
【0023】
本発明は、上記の超音波検査装置(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(iii)前記順伝搬/逆伝搬合体演算処理は、前記順伝搬静止画像群の各静止画像と前記逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群を作成するアルゴリズムと、前記演算処理静止画像群の総和をとることによって前記単一の静止画像を作成するアルゴリズムとを含む。
(iv)前記データ記憶部は、前記被検査体のモデル、前記計測条件および前記解析条件を記憶する計測解析条件記憶機構と、前記反射波の波形信号、該反射波の波形信号を時間反転して作成した時間反転波形信号および前記入射波の波形信号を記憶する波形信号記憶機構と、前記解析に基づく画像として、前記逆伝搬静止画像群、前記順伝搬静止画像群、前記演算処理静止画像群および前記単一の静止画像を記憶する画像データ記憶機構とを有する。
(v)前記波形信号解析処理部は、前記被検査体のモデルを作成する被検査体モデル作成機構を更に有する。
(vi)前記計測制御部は、前記探触子の前記超音波の送受信を制御する探触子制御機構と、受信した前記反射波を波形信号化する波形信号化機構と、前記探触子の位置検知およびスキャン操作を担う探触子駆動機構とを有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被検査体の内部のきずの位置標定を行う超音波検査において、従来の逆伝搬解析での利点を活かしながら従来の弱点を克服して、1枚の静止画像の中に位置の異なる複数のきずを同時に表示可能にする超音波検査方法、および該方法を実施するための超音波検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る超音波検査装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の超音波検査におけるプロセスの一例を示すフロー図である。
【図3】被検査体モデルの一例を示す模式図である。
【図4】反射波計測ステップの一例を示す模式図である。
【図5】計測した反射波形信号とその時間反転波形信号との関係を示す模式図である。
【図6】逆伝搬解析の結果として得られる逆伝搬静止画像群の一例を示す模式図である。
【図7】作成した入射波形信号の一例を示す模式図である。
【図8】順伝搬解析の結果として得られる順伝搬静止画像群の一例を示す模式図である。
【図9】順伝搬静止画像群の各静止画像と逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちで並べた模式図である。
【図10】演算処理静止画像群作成サブステップの結果として得られる演算処理静止画像群の一例を示す模式図である。
【図11】合体処理サブステップの結果として得られる単一の静止画像の一例を示す模式図である。
【図12】互いに位置の異なる2つのきずを有する被検査体モデルに対して、本発明に係る超音波検査の波形信号解析プロセスを行った結果の一例を示す図(被検査体モデル図、解析結果出力図)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(本発明の基本思想)
本発明者等は、前述した目的を達成すべく超音波検査における計測・解析プロセスを鋭意研究した。その中で、特許文献3(WO 2014/167698 A1)で提案された逆伝搬解析に加えて、該逆伝搬解析と同じ被検査体モデル上で順伝搬解析を行い、逆伝搬解析で得られた静止画像群と順伝搬解析で得られた静止画像群とを組み合わせて演算処理することによって、被検査体内部のきず位置(エコーの発生源)以外の領域で超音波の伝搬軌跡(入射波の軌跡およびエコーの軌跡)をキャンセルできることを見出した。本発明は当該知見に基づいて完成されたものである。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0028】
(超音波検査装置)
図1は、本発明に係る超音波検査装置の概略構成を示す模式図である。図1に示したように、本発明の超音波検査装置100は、超音波を利用して被検査体の内部のきずを位置標定する装置であって、大きく分けて、超音波の計測条件および解析条件を入力すると共に解析結果を出力する入出力部40と、入力した計測条件に沿って探触子1を制御して超音波の入射波を被検査体の内部に送信し該入射波の反射波を受信する計測制御部10と、入射波の波形信号、反射波の波形信号、被検査体のモデル、解析アルゴリズムおよび解析処理の結果を記憶するデータ記憶部20と、入射波形信号および反射波形信号を被検査体モデル上で所定の解析アルゴリズムに沿って解析処理する波形信号解析処理部30と、から構成される。各部の内部構成については、次の探傷検査方法の説明の中で詳述する。
【0029】
(超音波検査方法)
前述したように、本発明の超音波検査方法は、従来の逆伝搬解析に加えて、該逆伝搬解析と同じ被検査体モデル上で入射波の順伝搬解析を行い、順伝搬解析で得られた静止画像群と逆伝搬解析で得られた静止画像群とを組み合わせる演算処理を行うところに最大の特徴がある。以下、本発明の超音波検査装置100を用いた超音波の計測・解析プロセスについて説明する。
【0030】
図2は、本発明の超音波検査におけるプロセスの一例を示すフロー図である。図2において、被検査体モデル用意ステップ(S101)〜反射波計測ステップ(S103)が超音波計測プロセスであり、解析条件入力ステップ(S201)〜解析結果出力ステップ(S205)が波形信号解析プロセスである。
【0031】
(1)超音波計測プロセス
被検査体のモデルを用意する被検査体モデル用意ステップS101を行う。本発明で用いる被検査体モデルは、超音波の伝搬現象を数値解析する際に必要な領域・条件を定義したモデルであり、例えば、被検査領域(被解析領域)の形状、音響的性状、それらに基づく境界条件、解析処理に用いる分割メッシュなどを定義したモデルである。
【0032】
本ステップS101は、例えば、入出力部40の計測解析条件入力機構41で入力した被検査領域に関するデータに基づいて、波形信号解析処理部30の被検査体モデル作成機構31でモデル作成を行うステップである。作成した被検査体モデルは、データ記憶部20の計測解析条件記憶機構21(例えば、計測解析条件記憶機構21の被検査体モデル記憶領域)に記憶される。
【0033】
被検査体モデルの作成方法や被検査体モデル作成機構は、従来の逆伝搬解析および入射波の順伝搬解析に適切な被検査体モデルが得られるかぎり特段の限定はなく、例えば、特許文献4(WO 2015/092841 A1)に記載されたモデル作成方法および装置構成を好適に利用できる。
【0034】
なお、本発明では、被検査体モデルの作成を超音波検査装置100内部で行う必然性はなく(言い換えると、波形信号解析処理部30の被検査体モデル作成機構31は必須の構成ではなく)、超音波検査装置100とは別体の被検査体モデル作成装置で作成した被検査体モデルのデータを、計測解析条件入力機構41を介して計測解析条件記憶機構21に記憶する方法および装置構成でもよい。
【0035】
また、技術の理解を容易にするために、以下では、計測条件入力ステップS102の前に被検査体モデル用意ステップS101を行うかたちで説明するが、本発明はその順番に限定されるものではない。言い換えると、被検査体モデル用意ステップS101は、波形信号解析プロセスの前であれば、どのタイミングで行ってもよい。
【0036】
次に、用意した被検査体モデルまたは被検査領域に関するデータを参照して超音波の計測条件(例えば、超音波の送受信位置、超音波の入射方向、総計測時間、サンプリング間隔、探触子のスキャン)を設定し、該計測条件を計測解析条件入力機構41で入力する計測条件入力ステップS102を行う。入力した計測条件は、計測解析条件記憶機構21(例えば、計測解析条件記憶機構21の計測条件記憶領域)に記憶される。
【0037】
例えば、ステップS101で用意した被検査体モデルに対し、超音波の送受信位置および入射方向を設定すると、検査しようとする領域(被検査領域)の最遠方部に入射波が到達するのに要する伝搬時間(入射波伝搬時間)を求めることができる。超音波検査はエコーの波形信号を計測・解析する検査方法であることから、総計測時間としては入射波伝搬時間の2倍以上を設定することが好ましい。また、サンプリング間隔Δtは、解析処理の観点から分割メッシュの大きさと合わせる(例えば、分割メッシュ上で隣のメッシュに伝搬する時間とサンプリング間隔とを合わせる)ことが好ましい。
【0038】
なお、被検査体モデル用意ステップS101をスキップして計測条件入力ステップS102を行う場合(例えば、緊急に超音波計測を行う必要があるような場合)、計測条件入力ステップS102は、被検査領域に関するデータ(例えば、形状データ)を参照して、暫定的に、超音波が被検査領域を十分往復できると思われる時間長さを総計測時間として設定し、可能な範囲で最も短いサンプリング間隔Δtを設定する方法でもよい。
【0039】
次に、設定した計測条件に沿って、計測制御部10の探触子制御機構11が探触子1を制御して超音波の入射波を被検査体の内部に送信し該入射波のエコーを探触子1で受信する反射波計測ステップS103を行う。探触子1で受信したエコーは、計測制御部10の波形信号化機構12で増幅、周波数フィルタ、A/D変換されて波形信号化される。波形信号化したエコー(反射波形信号)は、データ記憶部20の波形信号記憶機構22(例えば、波形信号記憶機構22の反射波形信号記憶領域)に記憶される。
【0040】
本発明で使用する探触子1に特段の限定はなく、単一の振動子を有する探触子であってもよいし、複数の振動子を有するフェーズドアレイ探触子(リニアアレイ探触子、マトリクスアレイ探触子)であってもよい。検査効率の観点からは、フェーズドアレイ探触子を用いる方が望ましい。フェーズドアレイ探触子は、送信する振動子と受信する振動子とを選択できるタイプであってもよいし、選択できないタイプであってもよい。
【0041】
また、計測制御部10の探触子駆動機構13は、探触子1の位置検知やスキャン操作を担う。被検査体上で探触子1をスキャンさせる場合、探触子1を移動させた後、反射波計測ステップS103を繰り返す。
【0042】
超音波計測プロセスをより具体的に説明する。図3は、被検査体モデルの一例を示す模式図であり、図4は反射波計測ステップの一例を示す模式図である。図3〜4においては、図面の簡素化および技術理解の容易化の観点から、被検査体の二次元平面内できずが1箇所のみ存在し、1パルスの入射波を送信してその反射波を受信する例を示した。
【0043】
被検査体モデル(図3参照)を用意し、超音波の計測条件を設定する。ここでは、メッシュ形状として四角形を選定し、検査しようとする領域の長さ方向(図3中のx方向)を16分割し、幅方向(図3中のy方向)を4分割した被検査体モデルを用意した。
【0044】
超音波の送受信位置(探触子の設置位置)を該被検査体モデルの左端の3節点(0, 1)〜(0, 3)とし(例えば、3振動子を含むリニアアレイ探触子を用い)、超音波の入射方向をx方向とし(振動子間で発振の遅延時間なし)、メッシュの大きさとサンプリング間隔Δtとを合わせると、入射波伝搬時間として「16×Δt」が求まる。そこで、総計測時間Tとしては「T≧2×16×Δt」となるように設定する。本例では、総計測時間Tを「T=40×Δt」と設定している。
【0045】
次に、設定した計測条件に沿って超音波計測を行う。本例では、図4に示したように(5, 1)〜(5, 3)の3節点に亘るきずがあったとする。探触子制御機構11の制御に従って探触子1から被検査体の内部に超音波を入射すると、入射波は当該きずで反射されて、エコーとして探触子1で受信される。
【0046】
受信されたエコーは、波形信号化機構12で波形信号化されて、図4に示したような反射波形信号として波形信号記憶機構22に記憶される。本例では、(5, 1)〜(5, 3)の3節点に亘るきずがあることから、該きずからのエコーは「10×Δt」の時間に計測され、計測終了時間は「40×Δt」となる。
【0047】
なお、記憶する反射波形信号データは、計測に用いた振動子番号と計測時間とが判別できる形で定義することが好ましい。例えば、反射波形信号データ「φEch(n, t)」は、n番の振動子(探触子1中の振動子の数をNとすると、1≦n≦N)で時間t(総計測時間Tに対して、0≦t≦T)に計測した超音波の波高値を表す。
【0048】
(2)波形信号解析プロセス
超音波計測の後、図2に示したように、波形信号解析プロセス(S201〜S205)を行う。
【0049】
まず、逆伝搬解析、順伝搬解析、および順伝搬/逆伝搬合体演算を行うためのアルゴリズムや解析に利用する計測時間などの解析条件を設定・入力する解析条件入力ステップS201を行う。入力した解析条件は、計測解析条件記憶機構21(例えば、計測解析条件記憶機構21の解析条件記憶領域)に記憶される。なお、本ステップS201は、解析プロセスの最初に行ってもよいし、先の計測条件入力ステップS102と同時に行ってもよい。
【0050】
逆伝搬解析および順伝搬解析のアルゴリズムとしては、それらの解析を適切に行える限り特段の限定はなく、従前の解析アルゴリズム(例えば、有限要素法、有限積分法)を好適に利用できる。順伝搬/逆伝搬合体演算のアルゴリズムとしては、アダマール積(シューア積、要素毎の積とも呼ばれる)および総和を行う。また、解析に利用する計測時間としては、解析精度の向上を意図して先の計測条件入力ステップS102で設定したサンプリング間隔Δt毎の時間データ全てを利用してもよいし、解析時間の短縮を意図してサンプリング間隔Δtの整数倍毎の時間データを選択的に利用してもよい。
【0051】
(2−1)逆伝搬解析プロセス
逆伝搬解析プロセスとして、反射波形信号を用いて被検査体モデル上で逆伝搬解析を行って逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する逆伝搬解析ステップS202を行う。より詳細には、本ステップS202は、反射波形信号を時間反転して時間反転波形信号を作成する時間反転波形信号作成サブステップS202aを含み、該時間反転波形信号に基づいて前記逆伝搬解析を行うものである。
【0052】
具体的には、先の反射波計測ステップS103で記憶した反射波形信号データ「φEch(n, t)」を波形信号記憶機構22から読み出し、波形信号解析処理部30の伝搬解析機構32において時間反転波形信号を作成する。作成した時間反転波形信号は、波形信号記憶機構22(例えば、波形信号記憶機構22の時間反転波形信号記憶領域)に記憶される。例えば、時間反転波形信号データを「φInv(n, T−t)」(ただし、1≦n≦N、0≦t≦T)として記憶する。
【0053】
次に、時間反転波形信号データ「φInv(n, T−t)」、被検査体モデルおよび逆伝搬解析アルゴリズムをそれぞれ波形信号記憶機構22および計測解析条件記憶機構21から読み出し、伝搬解析機構32において逆伝搬解析を行って逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群「{ MRev(n, T−t) }」を作成する。作成した逆伝搬静止画像群は、データ記憶部20の画像データ記憶機構23(例えば、画像データ記憶機構23の逆伝搬静止画像記憶領域)に記憶される。
【0054】
なお、本発明で表現する静止画像/静止画像群とは、技術を理解し易くするために測定者/観察者の目線で表現したものであり、ディスプレイ出力や印刷出力した場合の状態を示したものである。ただし、コンピュータの内部における画像データとは、当該画像を構成する各画素の位置データと画素値データ(輝度や色のデータ、本発明では波高値に対応する)とからなる行列データとして演算処理・記憶されていることを理解しておく必要がある。
【0055】
逆伝搬解析プロセスをより具体的に説明する。図5は、計測した反射波形信号とその時間反転波形信号との関係を示す模式図である。図5に示したように、総計測時間「T=40×Δt」で「t=10×Δt」の時間にエコーを受信した反射波形信号を時間反転すると、「T−t=(40×Δt)−(10×Δt)=30×Δt」の反転時間にエコーを受信し、終了時間が「T−t=(40×Δt)−(0×Δt)=40×Δt」となる時間反転波形信号が得られる。
【0056】
次に、前述したように、作成した時間反転波形信号(図5参照)を用いて被検査体モデル(図3参照)上で逆伝搬解析を行い、逆時系列に並んだ逆伝搬静止画像群を作成する。本発明での逆伝搬解析とは、基本的に特許文献3(WO 2014/167698 A1)のそれと同様であり、作成した時間反転波形信号が得られるような超音波の伝搬軌跡を求める解析である。言い換えると、作成した時間反転波形信号が得られるようにするには、どのように超音波の波面が進行するのかを求める解析である。
【0057】
図6は、逆伝搬解析の結果として得られる逆伝搬静止画像群の一例を示す模式図である。図6では、技術理解の容易化のため、伝搬する超音波の波面の位置を被検査体モデルの節点上の「●印」で示した。ただし、実際の解析においては、「●印」のデータは、波面の位置だけでなく、波面の振幅(波高値)に対応するミーゼス応力や変位量を含むものである。図5〜6を参照しながら、時間反転波形信号と逆伝搬静止画像群との関係を説明する。
【0058】
時間反転波形信号の反転時間「T−t=0×Δt 〜 29×Δt」においては、図5で示したように超音波が観測されないことから、図6の逆伝搬静止画像群においても被検査体モデルの節点上に「●印」は存在しない。
【0059】
時間反転波形信号の次の反転時間「T−t=30×Δt」においては、図5で超音波が観測されるため、図6の逆伝搬静止画像群においても被検査体モデルの節点(0, 1)〜(0, 3)上(探触子の設置位置)に「●印」が表示される。
【0060】
そして、時間反転波形信号の反転時間「T−t=31×Δt 〜 40×Δt」においては、図5で超音波が観測されないけれど(探触子の設置位置では超音波は観測されないけれど)、図6の逆伝搬静止画像群では被検査体モデルの内部に向かって(図中の右方向に)波面が進行していく様子が確認される。
【0061】
上記のように作成された逆伝搬静止画像群「{ MRev(n, T−t) }」は、前述したように、画像データ記憶機構23に記憶される。
【0062】
(2−2)順伝搬解析プロセス
被検査体モデル上で順伝搬解析を行う。なお、本発明において、順伝搬解析プロセスは逆伝搬解析プロセスの後に行うことに限定されるものではなく、前述した解析条件入力ステップS201の後で、かつ後述する順伝搬/逆伝搬合体演算プロセスS204の前であれば、どのタイミングで行ってもよい。例えば、解析条件入力ステップS201と共に計測条件入力ステップS102と同時に行ってもよい。
【0063】
順伝搬解析プロセスとして、入射波の波形信号(入射波形信号)を用いて被検査体モデル上で順伝搬解析を行って時系列に並んだ順伝搬静止画像群を作成する順伝搬解析ステップS203を行う。より詳細には、本ステップS203は、計測制御部10の波形信号化機構12を利用して入射波形信号を作成する入射波形信号作成サブステップS203aを含み、作成した入射波形信号に基づいて順伝搬解析を行うものである。
【0064】
なお、入射波形信号としては、使用する探触子1の中心周波数帯を表すような関数(例えば、メキシカンハット関数、フレンチハット関数)で定義される模擬波形の信号であってもよいし、使用する探触子1が実際に発信する超音波を別途計測して波形信号化したものであってもよい。作成した入射波形信号「φInc(n, t)」は、波形信号記憶機構22(例えば、波形信号記憶機構22の入射波形信号記憶領域)に記憶される。
【0065】
また、本発明における順伝搬解析は、被検査体の内部にきずがない状態を想定して行う。言い換えると、きずによるエコーの発生を考慮しないものとする。被検査体上で探触子1をスキャンさせる場合であっても、入射波形信号は同じなので入射波形信号作成ステップS203を繰り返す必要はない。
【0066】
具体的には、入射波形信号データ「φInc(n, t)」、被検査体モデルおよび順伝搬解析アルゴリズムをそれぞれ波形信号記憶機構22および計測解析条件記憶機構21から読み出し、伝搬解析機構32において順伝搬解析を行って時系列に並んだ順伝搬静止画像群「{ MFor(n, t) }」を作成する。作成した順伝搬静止画像群「{ MFor(n, t) }」は、画像データ記憶機構23(例えば、画像データ記憶機構23の順伝搬静止画像記憶領域)に記憶される。
【0067】
順伝搬解析プロセスをより具体的に説明する。図7は、作成した入射波形信号の一例を示す模式図であり、図8は、順伝搬解析の結果として得られる順伝搬静止画像群の一例を示す模式図である。図8では、図6と同様に、伝搬する超音波の波面の位置を被検査体モデルの節点上の「●印」で示した。図7〜8を参照しながら、入射波形信号と順伝搬静止画像群との関係を説明する。
【0068】
順伝搬解析においては、被検査領域の最遠方部に入射波が到達するのに要する伝搬時間分を解析すればよい。すなわち、ここでは「t=0×Δt 〜 16×Δt」を解析すればよい。
【0069】
まず、入射波形信号の時間「t=0×Δt」においては、探触子が超音波を発振することから、図7で超音波が観測され、かつ図8の順伝搬静止画像群においても被検査体モデルの節点(0, 1)〜(0, 3)上(探触子の設置位置)に「●印」が表示される。
【0070】
そして、入射波形信号の時間「t=1×Δt 〜 16×Δt」においては、図7で超音波が観測されないけれど(探触子の設置位置では超音波は観測されないけれど)、図8の順伝搬静止画像群では被検査体モデルの内部に向かって(図中の右方向に)波面が進行していく様子が確認される。
【0071】
上記のように作成された順伝搬静止画像群「{ MFor(n, t) }」は、前述したように、画像データ記憶機構23に記憶される。
【0072】
(2−3)順伝搬/逆伝搬合体演算プロセス
次に、順伝搬/逆伝搬合体演算プロセスとして、順伝搬静止画像群「{ MFor(n, t) }」と逆伝搬静止画像群「{ MRev(n, T−t) }」とを組み合わせる演算処理を行ってきずの位置を表示した単一の静止画像を作成する順伝搬/逆伝搬合体演算処理ステップS204を行う。より詳細には、本ステップS204は、「{ MFor(n, t) }」の各静止画像と「{ MRev(n, T−t) }」の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」を作成する演算処理静止画像群作成サブステップS204aと、作成した演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」の総和をとることによって単一の静止画像「MSum(n)」を作成する合体処理サブステップS204bとを含む。
【0073】
具体的には、順伝搬解析ステップS203で記憶した「{ MFor(n, t) }」、逆伝搬解析ステップS202で記憶した「{ MRev(n, T−t) }」および演算アルゴリズムを、それぞれ画像データ記憶機構23および計測解析条件記憶機構21から読み出す。波形信号解析処理部30の演算処理機構34において「{ MFor(n, t) }」の各静止画像と「{ MRev(n, T−t) }」の各静止画像とを時間起点「t=0×Δt」を揃えたかたちでアダマール積をとることによって演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」を作成する。作成した演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」は、画像データ記憶機構23(例えば、画像データ記憶機構23の演算処理静止画像記憶領域)に記憶される。
【0074】
なお、アダマール積とは、同じサイズの行列に対して成分毎に積をとることによって定まる行列を得る演算のことである。また、前述したように、画像データは行列データであることから、「MFor(n, t)」の静止画像を表す行列と「MRev(n, T−t)」の静止画像を表す行列とのアダマール積をとることが可能であり、得られる行列は演算処理された静止画像「MOpe(n, t)」を表すことになる。数式で表すと式(1)のようになる。
【0075】
【数1】
【0076】
次に、演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」および演算アルゴリズムをそれぞれ画像データ記憶機構23および計測解析条件記憶機構21から読み出し、演算処理静止画像群「{ MOpe(n, t) }」の総和をとることによって単一の静止画像「MSum(n)」を作成する。作成した単一の静止画像「MSum(n)」は、画像データ記憶機構23(例えば、画像データ記憶機構23の解析結果画像記憶領域)に記憶される。なお、ここでの演算処理を数式で表すと式(2)のようになる。
【0077】
【数2】
【0078】
最後に、得られた単一の静止画像「MSum(n)」を入出力部40の出力機構42で出力する解析結果出力ステップS205を行う。解析結果の出力形式に特段の限定はなく、ディスプレイ出力であってもよいし、印刷出力であってもよいし、他の出力形式であってもよい。
【0079】
順伝搬/逆伝搬合体演算プロセスをより具体的に説明する。図9は、順伝搬静止画像群の各静止画像と逆伝搬静止画像群の各静止画像とを時間起点を揃えたかたちで並べた模式図である。
【0080】
ここで、時間起点について簡単に説明する。超音波検査は、図7に示したような入射波の送信で始まり、図4に示したようなエコーの受信を確認した後に終わる。総計測時間Tは、入射波伝搬時間の2倍以上が好ましいという制約があるだけなので、ある程度の任意性がある。また、時間反転波形信号は、図5に示したように、計測した反射波形信号の時間軸を反転したものである。そのため、時間反転波形信号における時間原点は、総計測時間Tである。一方、時間反転波形信号における時間終点は、超音波計測の時間始点(すなわち、入射波の発振時間「t=0×Δt」)であり、一点に定まる時間である。これらのことから、本発明では、超音波計測の時間始点(入射波の発振時間)「t=0×Δt」を順伝搬/逆伝搬合体演算プロセスの時間起点と定義する。
【0081】
図9中の左列は、時系列に並べた順伝搬静止画像群であり、右列は、時間起点を揃えるように並べた逆伝搬静止画像群である。言い換えると、同じ計測時間「t」同士が対になるように並べたものである。時間起点を揃えたことから、右列の逆伝搬静止画像群は、図6に示した逆伝搬静止画像群を逆順にしたものとなる。
【0082】
図9において、同じ計測時間「t」における(図中の左右で隣り合う)順伝搬静止画像と逆伝搬静止画像とを見比べると、「t=5×Δt」以外の「t=0×Δt 〜 4×Δt」および「t=6×Δt 〜 16×Δt」で超音波の波面位置(被検査体モデルの節点上の「●印」の位置)が互いに異なっていることが判る。波面でない位置(節点上に「●印」が無い位置)とは、当該位置での画素値データ(波高値に対応する行列の要素)がゼロであることを意味する。
【0083】
そして、左右の静止画像対の間でアダマール積をとると(順伝搬静止画像を表す行列と逆伝搬静止画像を表す行列とのアダマール積をとると)、波面位置が合致していないもの同士の演算結果(演算処理静止画像)は、全ての節点での画素値データ(波高値に対応する行列の要素)がゼロになる。すなわち、図10に示すような演算処理静止画像群が作成される。図10は、演算処理静止画像群作成サブステップの結果として得られる演算処理静止画像群の一例を示す模式図である。
【0084】
次に、得られた演算処理静止画像群の総和をとると、図11に示すような単一の静止画像が作成される。図11は、合体処理サブステップの結果として得られる単一の静止画像の一例を示す模式図である。図11の単一の静止画像は、図4に示したきずを有する被検査体モデルと同じであり、本発明の順伝搬/逆伝搬合体演算プロセスによって、きず位置以外の領域での超音波の伝搬軌跡をキャンセルできることが判る。
【0085】
(他の実施例)
図12は、互いに位置の異なる2つのきずを有する被検査体モデルに対して、本発明に係る超音波検査の波形信号解析プロセスを行った結果の一例を示す図(被検査体モデル図、解析結果出力図)である。図12に示したように、被検査体モデルにおいて探触子からの距離が異なる複数のきず(きずA、きずB)を有する場合であっても、本発明の波形信号解析プロセス(特に、順伝搬/逆伝搬合体演算プロセス)を行った結果、きず位置以外の領域での超音波の伝搬軌跡をキャンセルでき、かつ1枚の静止画像の中に当該複数のきずを同時に表示できることが確認される。
【0086】
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0087】
100…超音波検査装置、1…探触子、10…計測制御部、11…探触子制御機構、12…波形信号化機構、13…探触子駆動機構、20…データ記憶部、21…計測解析条件記憶機構、22…波形信号記憶機構、23…画像データ記憶機構、30…波形信号解析処理部、31…被検査体モデル作成機構、32…伝搬解析機構、33…演算処理機構、40…入出力部、41…計測解析条件入力機構、42…出力機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【国際調査報告】