(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2019163012
(43)【国際公開日】20190829
【発行日】20200227
(54)【発明の名称】液体塞栓剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/14 20060101AFI20200131BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20200131BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20200131BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20200131BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20200131BHJP
【FI】
   !A61L31/14 300
   !A61L31/14
   !A61L31/04 120
   !A61L31/06
   !A61L31/04 110
   !A61L31/02
   !A61L31/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
【出願番号】2018528812
(21)【国際出願番号】JP2018006147
(22)【国際出願日】20180221
(11)【特許番号】6383133
(45)【特許公報発行日】20180829
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【住所又は居所】長野県松本市旭三丁目1番1号
(71)【出願人】
【識別番号】515083778
【氏名又は名称】結城 一郎
【住所又は居所】東京都港区六本木6−12−2−B1308
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】結城 一郎
【住所又は居所】東京都港区六本木6−12−2−B401
(72)【発明者】
【氏名】大川 浩作
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
(72)【発明者】
【氏名】野村 隆臣
【住所又は居所】長野県上田市常田三丁目15番1号 国立大学法人信州大学繊維学部内
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC10
4C081CA102
4C081CD012
4C081CD022
4C081CD042
4C081CD092
4C081CD112
4C081CD25
4C081CD33
4C081CF132
4C081CF25
4C081DA12
4C081DA15
(57)【要約】
従来の塞栓剤が有する課題を解決し、脳動脈瘤などの血管疾患の治療に用いることが可能な液体塞栓剤組成物を提供する。
カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、抗生分解性成分と、を含むことを特徴とする液体塞栓剤組成物により解決される。カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分が、アルギン酸塩、ジェランガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース塩を含む群より選択される一種以上の酸性多糖であり、抗生分解性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリ−N−ビニルアセトアミド、酢酸セルロースを含む群より選択される一種以上である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、
抗生分解性成分と、を含むことを特徴とする液体塞栓剤組成物。
【請求項2】
前記カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分が、酸性多糖であることを特徴とする請求項1に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項3】
前記酸性多糖が、アルギン酸塩、ジェランガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース塩を含む群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項4】
前記酸性多糖が、アルギン酸ナトリウム及びジェランガムであることを特徴とする請求項2に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項5】
前記抗生分解性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリ−N−ビニルアセトアミド、酢酸セルロースを含む群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項6】
さらに、凝集促進成分を含み、
前記凝集促進成分が、コロイダルシリカ、ポリ(N,N−ジメチル)アクリルアミド、食品加工用酵素製剤、ポリ−L−リジン、臭化水素塩、ポリ−L−グルタミン酸ナトリウム塩、キトサン、シルクフィブロインを含む群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項7】
生体外において液体であり、生体内においてゲル化して生体接着性を示すことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項8】
脳動脈瘤の治療に用いられることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項9】
さらに、ヨード系血管造影剤を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体塞栓剤組成物に係り、脳動脈瘤などの血管疾患の治療に用いることが可能な液体塞栓剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管疾患治療におけるマイクロカテーテル塞栓術では、コイルや血管内液体塞栓物質など、塞栓材として種々の素材が用いられている(特許文献1)。各種塞栓材の特徴、および、市販製品が抱える諸問題については、特許文献2に記載されている。特許文献2には、有効成分として水生昆虫由来のタンパク質を用い、当該タンパク質性組成物すなわちE2Pが含有する2種のタンパク質分子種由来の性質を利用し、市販製品の諸問題を解決する手段を提供することが記載されている。
【0003】
特許文献2に記載の技術においては、以下の項目(1)〜(5)が、有効成分であるE2Pの性質に由来する課題として残っていた。(1)動物実験において、血管内に注入されたE2Pが凝固するとき、粉末状の物質を与える可能性があること、(2)E2Pの入手性が原料生物の生活環に基づく季節依存性を持つこと、(3)E2Pは純粋なタンパク質組成物であるため、年単位にわたる脳血管内長期留置過程において分解吸収され、その結果、塞栓効果を保てなくなる可能性があること、(4)E2Pそのものが新規化合物であるため、特にFDAなどの認証時には無害性証明の必要性があること、(5)E2Pの有効成分としての機能安定性について知見がないこと、すなわち、E2Pを血管内留置可能な血圧上限値が不明であり、それを知るための測定装置が存在しないこと。
【0004】
項目(1)の性質は、脳内血管留置時にE2P粉末が他の血流系に拡散してしまい、注入量に対する塞栓効果を低下させることが課題となる。項目(2)は、項目(5)とも関連するものであるが、E2Pを得るための資源生物は、その幼虫期の初夏から初秋にかけてのみにE2Pの有効成分タンパク質を活発に合成するが、冬季において河川水温の低下に伴い、E2Pの有効成分タンパク質合成が低下または停止することが、本願発明者らのその後の研究において判明している(非特許文献1および2)。項目(5)は、E2Pの凝固性能を示す指標である規格化リン酸化度が、資源生物生活環における季節変動の影響を受ける可能性があり、この可能性はまだ科学的な証拠がなく残っていることに起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−103802号公報
【特許文献2】特許第6047689号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bai, X., et al., Molecular cloning, gene expression analysis, and recombinant protein expression of novel silk proteins from larvae of a retreat-maker caddisfly, Stenopsyche marmorata. Biochemical and Biophysical Research Communications, 2015. 464(3): p. 814-819.
【非特許文献2】Nomura, T., et al., Characterization of silk gland ribosomes from a bivoltine caddisfly, Stenopsyche marmorata: translational suppression of a silk protein in cold conditions, Biochemical and Biophysical Research Communications, 2016. 469(2): p. 210-215.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記(1)〜(5)の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、上記(1)〜(5)の課題を解決する新規な液体塞栓剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の液体塞栓剤組成物によれば、カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、抗生分解性成分と、を含むこと、により解決される。
【0009】
このとき、前記カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分が、酸性多糖であると好適である。
【0010】
このとき、前記酸性多糖が、アルギン酸塩、ジェランガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース塩を含む群より選択される一種以上であると好適である。
【0011】
このとき、前記酸性多糖が、アルギン酸ナトリウム及びジェランガムであると好適である。
【0012】
このとき、前記抗生分解性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリ−N−ビニルアセトアミド、酢酸セルロースを含む群より選択される一種以上であると好適である。
【0013】
このとき、さらに、凝集促進成分を含み、前記凝集促進成分が、コロイダルシリカ、ポリ(N,N−ジメチル)アクリルアミド、食品加工用酵素製剤、ポリ−L−リジン、臭化水素塩、ポリ−L−グルタミン酸ナトリウム塩、キトサン、シルクフィブロインを含む群より選択される一種以上であると好適である。
【0014】
このとき、生体外において液体であり、生体内においてゲル化して生体接着性を示すと好適である。
【0015】
このとき、脳動脈瘤の治療に用いられると好適である。
【0016】
このとき、さらに、ヨード系血管造影剤を含むと好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液体塞栓剤組成物は、生体に優しく、血液と反応してゲル化・凝固して、血管の異常部位を塞栓する機能を有しており、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍の栄養血管の塞栓術、鼻出血の親血管閉塞にも使用可能である。また、本発明の液体塞栓剤組成物は、子宮筋腫の治療、肝臓がんの治療(塞栓療法)、多発外傷の際の血管閉塞等についても効率的、かつ、広範囲に応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管モデルとしてのゲルチューブの製造装置及び留置上限血圧評価装置を示す模式図である。
【図2】留置上限血圧評価試験における典型的な漏圧状態の試験結果を示すグラフである。
【図3】留置上限血圧評価試験において血管モデルが破裂した際の圧力変化を記録したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る液体塞栓剤組成物について説明する。
【0020】
先行技術における、課題(1)〜(4)は、物質的側面の改良により解決可能である。すなわち、血中成分に対し素早く反応し、かつ、含水ゲル状の物質に変わる複合成分を塞栓物質に包含させることである。そのような成分は、生分解速度が遅いか、又は全く分解を受けないものであり、かつ、市販入手性があり、かつ、既に食品添加物などの利用について政府当局機関により認可されているものであることが好ましい。また、そのような成分は、課題(1)〜(4)を解決できるのであれば、単一の化合物、又は複数の化合物の組み合わせでもよい。さらに、液体塞栓剤組成物は、マイクロカテーテルの先端から血管内に押し出されるので、マイクロカテーテル先端の内径およそ0.6mmの管を、操作者たる医師の違和感なく、通過できるものが好ましい。さらに、マイクロカテーテルから押し出された液体塞栓剤組成物が血管造影剤共存下においても望みの性能を発揮し、より好ましくは、造影剤が凝固体内部にとどまり、血中への拡散が防止されるような機能をもつ成分であることが好適である。
【0021】
上記課題(1)〜(4)の改善要求を満たす物質には、なんらかの血中成分と反応する性質を持っていることが求められる。E2Pの場合、その組成物タンパク質に含まれるホホスホセリンが、血中カルシウムイオンと反応し、瞬時の凝固を引き起こしていた。したがって、血中成分であるカルシウムイオンと反応するものが好適である。その理由は、かような物質がカルシウムイオン以外の血中成分(以下、Mとする)と反応するような性質をもっていると、例えば、人体の生理状態においてMの濃度がゼロになるような場合があると想定すると、このような生理状態においてはE2Pのみが凝固することとなり、課題の解決または低減に至らないからである。一般に、手術中は血中成分をリアルタイムモニターすることはなく、心拍および血圧状態をもとに、医師が何らかの処置を判断するので、手術中にMの濃度、あるいは、血液pH値などを含む化学成分を対象とした濃度等の経時的変化を把握することはない。一方、カルシウムイオンであれば、その血中濃度は、ほぼ常に2〜5mMの間に保たれ、E2Pおよび、本発明における液体塞栓剤組成物は、ともに協調して凝固、すなわち、塞栓性能を発揮することができる。
【0022】
上記課題(1)〜(4)の改善要求を満たす物質を探索し、試行錯誤と工夫の末に、表1に示す複数の物質を特定した(なお、表1において、配合量範囲は、液体塞栓剤組成物全体の重量を100wt%(質量%)としたときの各成分の配合量(wt%)を示している)。表1における「低減・解消する課題」の列に記載した番号(1)〜(4)は、上記課題(1)〜(4)に対応している。また、各「組成物成分」の列に記載の物質は、カルシウムイオン捕捉、含水ゲル形成、抗生分解性、および凝集促進機能を一つまたは複数有するものである。表1に記載の組成物成分は、全て、水および体液と等張緩衝液を溶媒として用いることができ、全ての組み合わせを水系溶媒中に溶解しても、直ちに凝集沈殿することはない。このため、マイクロカテーテルから血中に注入される液体塞栓物質に求められる性能を満たしている。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に記載されている組成物成分は、いずれも、一般的な試薬や食品添加物等であり、製品等級において市販入手性がある。個別の組成物成分は、全て、それらの純度および分子量分布等においてバリエーションをもつものであるが、血中のカルシウムイオン濃度において、凝固する性質を持っていれば、本発明に記載する性能を発揮することが可能である。表1に記載の高分子化合物のうち、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、カラギーナン及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、酸性多糖に分類される。カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ヒドロキシプロピルセルロース及びメチルセルロースは、難水溶性天然多糖であるセルロースの化学修飾体であり、生体内代謝機構により分解または吸収されることはないため、塞栓剤に対して抗生分解性を付与するための成分である。
【0025】
酸性多糖は、いずれも、カルシウムイオン存在下において、含水ゲル状に凝固するため、食品添加物、特に増粘多糖類として用いられる生体に安全な物質である。これらの酸性多糖類を適切な比率により混合した組成物は、模擬血清の中に注入すると、多様な凝固挙動を示すようになる。なお、表1中にあるポリビニルアルコール(PVA)およびヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、カルシウムイオンと反応して凝固する成分ではないが、いずれも、食品添加可能な高分子であり、人体内の代謝経路に入らないため、血中留置の間に生分解作用を受けることはない。したがって、液体塞栓剤組成物の血管内における経時的耐久性を保証する成分として用いて機能する。表1に記載の成分を配合した液体塞栓剤組成物は、いずれも脳血管塞栓物質として利用するために理想的な性質を有している。実施例において、液体塞栓剤組成物を調製し、本願発明の奏する効果について述べる。
【0026】
表1に記載されているカゼイン乳製、および、カゼインナトリウムは、ともに、カルシウムイオン捕捉能を有するが、凝集形態として、粉末および不定形小粒子を与えやすいため、上記課題(1)の解決のためには、カゼイン類のような酸性タンパク質よりも、酸性多糖を用いる方がより好適である。酸性多糖を有効成分とする液体塞栓剤組成物の成分として、正電荷を有する塩基性高分子化合物、すなわち、表1中のキトサン、ポリアリルアミン、ポリ−L−リジン臭化水素塩が共存する場合、塩基性高分子化合物と酸性多糖との間にはたらく静電相互作用により、酸性多糖と塩基性高分子化合物が複合体を形成する。複合体形成はカルシウムイオンの非共存下でも起こるため、酸性多糖がカルシウムイオンを捕捉し含水ゲルを生じる時、適切な量の塩基性高分子化合物は、酸性多糖分子間凝集力を強めるように作用する。
【0027】
しかし、液体塞栓剤組成物において、塩基性高分子化合物の配合量が高すぎる場合、静電相互作用により、カルシウムイオンを添加しなくとも、凝集沈殿を生じてしまう。この現象は、本発明における液体塞栓剤組成物の構成成分としての酸性多糖の機能、すなわち、カルシウムイオンと反応し、塞栓剤として好適な含水ゲル形成にいたる機能を弱めてしまう。したがって、本発明における液体塞栓剤組成物の構成成分としての酸性多糖と凝集促進機能を提供する塩基性高分子化合物との間の配合量比は重要であり、試行錯誤の結果、表1記載の配合量範囲が見出された。
【0028】
<液体塞栓剤組成物>
本実施形態に係る「液体塞栓剤組成物」とは、生体外において液体であり、生体内においてゲル化して生体接着性を示す塞栓剤となる組成物を意味し、液体塞栓性組成物、液体塞栓組成物、液体塞栓形成組成物と同義である。
【0029】
本実施形態に係る液体塞栓剤組成物は、カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、抗生分解性成分を含み、凝集促進成分や、その他成分も含むものである。
【0030】
(含水ゲル形成性成分)
含水ゲル形成性成分は、カルシウムイオン捕捉能を有しており、表1に示す成分、例えば、酸性多糖を用いることが可能である。酸性多糖としては、アルギン酸塩、ジェランガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース塩を含む群より選択される一種以上を用いることが可能である。酸性多糖として、アルギン酸ナトリウム及びジェランガムの組み合わせを用いることが好適である。液体塞栓剤組成物における含水ゲル形成性成分の配合量は、特に制限されるものではないが、一般に、ヒト、ウマ、および、ブタ等の恒温動物の血中カルシウムイオン濃度は2.5〜4.0mMの間で変化するため、このカルシウム濃度に応じて各成分を上記表1に記載の配合量範囲で用いればよい。
【0031】
(抗生分解性成分)
抗生分解性成分としては、表1に示す成分、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、ポリ−N−ビニルアセトアミド、酢酸セルロースを含む群より選択される一種以上を組み合わせて用いることが可能である。液体塞栓剤組成物における抗生分解性成分の配合量は、液体塞栓剤組成物として要求される性能を満たすのであれば、特に制限されるものではないが、上記表1に記載の配合量範囲で用いればよい。
【0032】
(凝集促進成分)
凝集促進成分としては、表1に示す成分、例えば、コロイダルシリカ、ポリ(N,N−ジメチル)アクリルアミド、食品加工用酵素製剤、ポリ−L−リジン、臭化水素塩、ポリ−L−グルタミン酸ナトリウム塩、キトサン、シルクフィブロインを含む群より選択される一種以上を組み合わせて用いることが可能である。液体塞栓剤組成物における凝集促進成分の配合量は、液体塞栓剤組成物として要求される性能を満たすのであれば、特に制限されるものではないが、上記表1に記載の配合量範囲で用いればよい。
【0033】
(体液と等張な緩衝液)
本実施形態に係る液体塞栓剤組成物は、各成分を適宜選択して、体液と等張な緩衝液に溶解し、カテーテルを通して、その先端から、血液を凝固させたい部位(標的部位の血流)に向かって、標的血管内に注入し、患部血流を塞栓する。標的血管内に注入すると瞬時に血液が凝固し、血管を塞栓することができる。この等張な緩衝液としては、各成分の溶解に通常用いられる既知緩衝液を用いることができる。このような緩衝液は、例えば、Tris HCl、HCl−KCl、有機酸とそのナトリウムまたはカリウム塩(例えば、酢酸−酢酸ナトリウム、ホウ酸−ホウ酸ナトリウム、フタル酸−フタル酸カリウム等)、有機塩基−無機酸塩(例えば、グリシン−HCl、イミダゾール−HCl等)HEPES、およびMOPS等の緩衝能を提供することができる成分、ならびにNaCl、KClおよびCsCl等の中性無機塩を含むものである。これらは、生体適合性・安全性を加味して適宜選択し、組み合わせて用いればよい。
【0034】
以下に示す実施例では、ヒト血漿とほぼ同じ浸透圧を持つ等張緩衝性水溶液として、0.15mol/L塩化ナトリウム、20mmol/Lのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩化水素塩(pH8.0)、および、5.0mmol/L塩化カルシウムを含む水溶液を用いている。
【0035】
(その他成分)
本実施形態に係る液体塞栓剤組成物は、液体塞栓剤組成物として要求される性能を損なわない範囲でその他の医療用途で用いられる成分、例えば、診断薬や治療薬などを添加することが可能である。診断薬としては、血管造影剤を添加することが可能であり、水溶液の状態で市販されているヨード系血管造影剤を用いると、液体塞栓剤組成物に含まれる各成分の溶解状態を保つことができるため好適である。
【0036】
(用途)
本実施形態に係る液体塞栓剤組成物は、生体外において液体であり、生体内において血液と反応してゲル化・凝固して生体接着性を示すため、血管の異常部位を塞栓するために用いられる。液体塞栓剤組成物は、脳動脈瘤の治療に用いることが可能であるが、その用途はこれに限定されるものではない。例えば、頭蓋内では、脳動静脈奇形のほかに、硬膜動静脈瘻、また、動脈瘤にも使用でき、ならびに、脳腫瘍の栄養血管の塞栓術、鼻出血の親血管閉塞にも使用可能である。本実施形態に係る液体塞栓剤組成物は、医療分野における先端的な治療あるいは予防に加えて、頭蓋分野以外では、子宮筋腫の治療、肝臓がんの治療(塞栓療法)、多発外傷の際の血管閉塞等についても効率的、かつ、広範囲に応用が可能である。
【0037】
本実施形態では、主として本発明に係る液体塞栓剤組成物について説明した。ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の液体塞栓剤組成物の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
アルギン酸ナトリウム(Alg)、ジェランガム(Geln)、および、HPCを表1に記載の各重量パーセント濃度の範囲において混合し、液体塞栓剤組成物を調製した。調製した液体塞栓剤組成物を、マイクロカテーテルに接続したシリンジに装填した。2mM 塩化カルシウム、150mM 塩化ナトリウム、および20mM トリス緩衝液(pH8.0)を含む模擬血清中に、液体塞栓剤組成物をマイクロカテーテル先端から押し出し注入すると、AlgおよびGelnが、模擬血清中のカルシウムイオンと反応し、直ちに、糸状含水ゲルとして凝固した。この糸状含水ゲルは、シリンジ内の溶液が尽きるまで注入しつづけた場合であっても、切断させることはないが、注入圧力、すなわち、押し出す力を解くと、糸状含水ゲルがカテーテル先端から自然に離れた。
【0040】
<実施例2>
実施例1におけるAlg、Gelnの比率に対し、Algの含量を2.0wt%よりも高くした液体塞栓剤組成物を調製し、同様の操作を実施したところ、カルシウムイオンと反応して形成される含水ゲルの形状が、糸状ではなく、ほぼ球状となった。シリンジから液体塞栓剤組成物の注入を継続すると、カテーテル先端から、あたかもバルーンが膨らむように、球状含水ゲルのサイズが大きくなった。注入圧力を解き、マイクロカテーテル先端を引くだけで、球状含水ゲルがマイクロカテーテル先端から離れた。糸状含水ゲルから球状含水ゲルへの形状の変化は、Alg含量を上昇されるだけではなく、当該組成物をおよそ2倍に水希釈することによっても、同様な効果が発揮されることがわかった。
【0041】
表1に記載された物質を含有する液体塞栓剤組成物が、カルシウムイオン共存下において凝集するときの形態、すなわち、含水ゲルが糸状の場合には、脳動脈瘤内に留置されるコイルのように振る舞い、また、含水ゲルが球状の場合には、特許文献2に記載したその他の液体塞栓剤のような挙動となる。表1に記載の物質を含有する液体塞栓剤組成物が凝固して形成される糸状含水ゲルおよび球状含水ゲルは、両方とも、マイクロカテーテル先端からの血管内注入、塞栓操作、塞栓物質留置、および、カテーテル抜去の操作に適合していた。本発明に係る液体塞栓剤組成物が備えている、これらの物質性状は医師にとって非常に有効かつ有益であり、特許文献2記載の諸問題に加え、E2Pのもつ改善課題を満たすものである。
【0042】
<実施例3>
実施例3では、マイクロカテーテル法を習得するためのトレーニング機材、すなわち、脳動脈瘤とそれに連絡する血管の物理形状を模倣したシリコンモデルを用い、本発明に係る液体塞栓剤組成物の機能有効性を検討した。
【0043】
マイクロカテーテル法による脳動脈瘤治療のためのシリコンモデル(以下、脳動脈瘤モデルと呼ぶ)に、実施例1と同じ模擬血清を、人体の脳血管内部血流と同じ速度にてポンプによって循環させた。実施例1記載の液体塞栓剤組成物を、市販のヨード系血管造影剤を用いて希釈した。ヨード系血管造影剤は水溶液であるため、液体塞栓剤組成物に含まれる各成分はいずれも溶解状態を保ったままであった。造影剤を添加した液体塞栓剤組成物をシリンジに装填し、マイクロカテーテルを接続した。マイクロカテーテルを操作し、脳動脈瘤モデル内流路の瘤状部中央壁側付近にマイクロカテーテルの先端を留置した。この状態において、マイクロカテーテルの先端から液体塞栓剤組成物を瘤状部に注入すると、造影剤による希釈作用により、含水ゲルは球状となり膨らみ、瘤状部内部の物理形状に対し完全にフィットし、瘤状部の内部が液体塞栓剤組成物により充填された。
【0044】
上記の操作工程を、脳血管造影装置により同時観察した結果、造影剤が共存することにより、造影効果を得た液体塞栓剤組成物は、球状形状を保ちながら、瘤状部内部を充填するまで、注入されつづけた。同時に、注入・凝固した液体塞栓剤組成物自体の物理形状を示す造影像は、模擬血清の循環流が生み出す水力学的応力により引きちぎられたり、剥離して飛ばされたりすることはなかった。液体塞栓剤組成物が示したこのような性質は、「塞栓物質が遠位血管に迷入することがない」という要求を満たすものである。さらに好ましいことに、液体塞栓剤組成物を瘤状部に装填した後、マイクロカテーテルの抜去操作において、マイクロカテーテル先端は、凝固した液体塞栓剤組成物と接着することなく、すなわち、抵抗なく引き抜くことが可能であった。
【0045】
(実施例1〜3のまとめ)
上記実施例1〜3はいずれも、本発明に係る液体塞栓剤組成物が、塞栓剤として利用するに際し、理想的な性状を有していることを示すものであった。脳血管疾患の態様には、上述の脳動脈瘤だけでなく、比較的細い直径の動脈および静脈が異常絡合して形成される脳血管奇形(AVM)がある。AVMの治療には、特にコイルでなく液体塞栓物質が有効であるが、現行の市販製品であるシアノアクリレート系塞栓物質の場合、過度に強力な接着力を有しているため、マイクロカテーテルを抜去することが困難となることがあった。また、他の市販製品であるOnyx液体塞栓物質の場合には、有機溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)、および、造影剤であるタンタル系粒子とともに注入を行う必要があり、患者脳内血管を化学物質暴露してしまうということがあった。本発明に係る液体塞栓剤組成物は、従来の塞栓物質の有する課題を解決するものである。
【0046】
<実施例4>
人間の脳内に形成されるAVMの物理形状は、適切な直径をもつ動物血管を縫い合わせて模倣することができるが、実施例3において用いたものと同様なシリコンモデルは、市販品として存在しなかった。本発明に係る液体塞栓剤組成物のAVMに対する有効性を実施例として示すため、実施例4は、小動物であるラットの脳を用い、ヒトAVMに対するサイズアナロジーとした。
【0047】
ラットの大腿部動脈から脳血管に向けてマイクロカテーテル先端を進め、左側の内頸動脈付近にマイクロカテーテル先端を留置した。この位置X1から血管造影剤を注入し、脳血管ネットワーク全体の3次元構造画像を取得した。その後、中大脳動脈付近にマイクロカテーテル先端を進め、この位置X2から、血管造影剤無添加の本発明に係る液体塞栓剤組成物を注入した。この後、カテーテル先端を位置X1に戻し、再度、血管造影剤を注入すると、液体塞栓剤組成物を注入する前のネットワーク構造と比較して、脳の左半分が造影されなくなった。このことは、造影されなかった部分の血流が、凝固した液体塞栓剤組成物により遮断されたことを示す証拠である。
【0048】
<実施例5 ゲルチューブ製造>
以上、実施例1〜4では、シリコンモデルおよびラット脳血管ネットワークともに、本発明に係る塞栓剤組成物により塞栓作用を受けるものであると結論された。本発明が解決しようとしている課題として、(5)E2Pが血管内留置可能な血圧上限値が不明であり、それを知るための測定装置が存在しないことがある。そこで、模擬血清を用いる実験系構築について検討を行った結果を、以下に詳述する。
【0049】
動物血管の入手性は良好とは言いがたく、ラットや他の実験動物由来のものを用いるしかない。しかし、同種であっても実験動物間には個体差があり、血管の長さや直径、血管の厚さをふくめ、物理形状を一定にたもつことはかなり困難であった。本発明に係る液体塞栓剤組成物について、血管内に留置可能な血圧上限値をもとめるのは、多くの実験動物が必要となってしまう。そこで、動物血管のモデル系を構築し、このモデルを用い試験を行い、その結果を基に、本発明に係る液体塞栓剤組成物の留置血圧上限血を評価した。
【0050】
動物血管の代替部材として、動物血管表面の化学的組成および力学特性に近い、血管モデル、すなわち、図1上部に示した装置により製造されるゲルチューブ、および、ゲルチューブを構成する物質組成を検討した。
【0051】
図1上部に示した装置は、二つのシリコンゴム栓1および2と、シリコンゴム栓に対し、断面同軸方向に通された太さ2mmのアクリル棒3、および、これらを同軸方向において固定した内径8mmのガラス管4から構成されている。シリコンゴム栓1は、二箇所の細孔をもち、一つはゲル溶液を流し込むための注射針差し込み口、もう一つの細孔は、ゲル溶液注入時のエアリーク用である。
【0052】
ゲル溶液の組成を表2に示す。表2に示したとおり、ゲル溶液は、モノマーとしてアクリルアミド(AA)、ジメチルアクリルアミド(DMA)および、メチレンビスアクリルアミド(MBA)を主成分としている。AA、DMA、MBAは、個別には公知化合物であるが、本発明に係る血管モデルとしてのゲルチューブ製造において、表2に記載の組成範囲が最適であると発見された。ゲル内部における適切な保水率とゲル表面の水親和性に影響する因子であるため、親水基を持つAA、および、疎水基をもつDMAの濃度比率が重要である。
【0053】
【表2】
【0054】
これらの基本成分に加え、血管内皮細胞表面に存在する種々の高分子化合物および有機化学的所性質を付与する成分が、コンドロイチン硫酸ナトリウム(SCS)とタンパク質アルブミンである。アルブミンは試薬として市販されており、卵白や血清由来のものなどを用いることができる。SCSは硫酸基を有する多糖であり、ゲル表面に水酸基も提供する。アルブミンはタンパク質であり、そのアミノ酸側鎖由来の種々の官能基を提供するだけでなく、ゲル化時の熱変性にともない、ゲルチューブに機械的な弾力を与える。アルブミンが有する当該作用により、ゲルチューブの強度向上だけでなく、血管に類似した弾力、すなわち、血圧を吸収する性質を、モデル系に付与することができる。卵白アルブミンを含まないゲルチューブは、含むものよりも弾力は低く、亀裂を生じ破損しやすかった。
【0055】
上記のゲル溶液組成に加え、本発明の実験系においては、ゲル溶液にその他の水溶性高分子化合物を添加することも可能である。一例として、SCSよりも高分子量のポリビニルアルコール(PVA)標品、又はHPCを添加することも可能である。PVAやHPCは、血管内皮細胞表面に存在するオリゴ糖などのポリオールのモデルとして、また、ゲル表面に水分子を集める効果も有している。
【0056】
上記の基本成分および複合成分を混合したゲル溶液に対し、過硫酸アンモニウム(APS)溶液を添加し、注射器に接続した針先端をシリコンゴム栓1の細孔に差し込み、図1上部の装置内に注入した。APSの作用により、注入された溶液に含まれるモノマー分子は重合を開始し、アクリル棒3とガラス管4の内壁が作る空間、すなわちチューブ状空間を満たすようにゲルチューブを形成する。このようにして製造されたゲルチューブを装置からとりだし、留置上限血圧評価に用いた。
【0057】
留置上限血圧評価のために、図1に示す装置を考案・作成した。図1の下側に示す留置上限血圧評価装置は、以下の部分から構成されている。上記のゲルチューブ製造装置及びゲルチューブ製造方法によって製造されるゲルチューブである、血管モデル5、血管モデル5を流路系配管に接続するためのポリプロピレン製のコネクタ6、ドレーン方向のシリコンチューブ配管7、センサ方向の短いシリコンチューブ配管8と、シリコンチューブ配管8に接続されたポリプロピレン製のT型ステー9、T型ステー9の幹方向に対し、シリコンチューブを用いてシール接続された液圧センサインプット10、液圧センサと計装アンプを含む小型電子回路基盤を格納するセンサ回路ケース11、T型ステー9のポンプ方向への接続用シリコンチューブ配管12とその先に接続された三又ポリプロピレン製のコネクタ13、コネクタ13に対し、マイクロカテーテル挿入方向への接続用シリコンチューブ配管14、小型バルブ16、マイクロカテーテル挿入用のシリコンチューブ配管17、ポンプから送液された模擬血清を装置内に潅流するためのシリコンチューブ配管18である。
【0058】
血管モデル5(ゲルチューブ5)の両端部は、コネクタ6を縦溝内部にロッキングできる左右のサイドユニット20と、サイドユニット下部との噛み合わせ形状をもつゲルチューブホルダ19との組み合わせにより構成されているため、ゲルチューブ5および6との間は物理的に固定されている。この構造のため、400mmHg以下の圧力負荷状態における模擬血清潅流中は、コネクタ6がゲルチューブ5からの離脱や、接続部からの圧力損失なく、その圧力値を液圧センサインプット10に伝搬することができる。液圧センサインプット10およびセンサ回路ケース11は、ゲルチューブホルダ19と高さ方向のギャップを調整するためのセンサステージ21の上に固定され、配管系との間のデッドスペースは最小となる。液圧センサにより計測された値は、細径同軸ケーブル22を通じて、経時記録用マイコンボードにリアルタイム送信される。
【0059】
経時記録用マイコンボードは、2.8インチTFT液晶ディスプレイとSDカードスロットを備え、液圧センサの値を、経時グラフとして表示し、その値と経過時間とともにSDカードに記録する。これらの部品およびモジュール類、および、マイコンに搭載した血圧値の経時記録用ソフトウェアは公知の部材を用いて制作した。さらに、血圧センサの値をマイコンに送信するための電子回路設計についても同様である。以下、図1の下側に示す留置上限血圧評価装置を用いた留置上限血圧測定操作について述べる。
【0060】
<実施例6>
マイクロカテーテルを、シリコンチューブ配管17からガイドを通して挿入し、表3に記載の成分および配合量で作製した血管モデル5(ゲルチューブ5)内部にカテーテル先端をアクセス(配置)した。このとき、小型バルブ16は開いたままであり、模擬血清は、ポンプより毎分2〜30mL範囲の速度において送液されていた。ゲルチューブ5の内部にアクセスしたマイクロカテーテルの先端より、本発明に係る液体塞栓剤組成物を注入し、ゲルチューブ5内部の模擬血清の流れを遮断した。ゲルチューブ5の出口方向である配管7に向かう流れが封じられると、模擬血清の流れは、マイクロカテーテル挿入口であるシリコンチューブ配管17方向に切り替わる。この状態で、マイクロカテーテルを装置より抜去した。次に、小型バルブ16を閉じると、液圧センサインプット10に模擬血清にかかる圧力が伝わり、この値がマイコンに送信・記録される。なお、カテーテル抜去から小型バルブ16を閉じるまでの時間は、評価対象となる液体塞栓剤組成物の種類や凝固・接着までにかかる時間等を考慮しつつ、操作者が自在に設定することができる。
【0061】
【表3】
【0062】
上記の状態においては、血管モデル内で凝固した液体塞栓剤組成物に対し、ポンプから送液される模擬血清の液圧が付加されている。液圧値が上昇しつづけると、ある値において、血管モデル内の液体塞栓剤組成物が留置に耐えきれなくなり、ドレーン方向配管7に向かい押し流される。このとき、液圧値は下降するので、マイコンに記録されたピーク値を留置限界液圧と定義する。ゲルチューブ自体の機械的耐性以上の圧力が印加されると、図1にあるゲルチューブ5の両端の接続部分の破断、または、ゲルチューブ5自体の破裂が観察される。この時点において、模擬血清の圧力はゼロとなる。一般に、脳血管にかかる血圧の場合、250〜300mmHgの範囲であると破裂危険領域に相当するので、液圧センサの検知最大値を400〜420mmHgに設定した。
【0063】
以下の表4に示す試験番号1〜10の液体塞栓剤組成物を調製して、試験を行った。
【0064】
【表4】
【0065】
なお、試験番号1〜10に示す10種の液体塞栓剤組成物の組み合わせを試したということではなく、表4には、代表的な10種の液体塞栓剤組成物を示している。留置源内液圧を超えた時、血管モデル5内で凝固している液体塞栓剤組成物は、次の2種の挙動を示した。ひとつは、配管7に向かい押し流される挙動であり、これを「剥離流出」と記した。もう一つは、ピークを超えて下降した液圧値が、ゼロでないある値の付近を変動する挙動である。これは、液体塞栓剤組成物の凝固部分を境に、ポンプ側とドレーン両側が、塞栓剤組成物部分に生じた細孔などの構造をとおり導通するために起こる。細孔をとおり導通するので、液圧値はゼロにはならず、塞栓剤組成物が押し流されることなく血管モデル5内に留まる。この状態を「漏圧」と記載した。典型的な漏圧状態の試験結果を図2に示す。3種の試験結果では、いずれも、液圧血がピークとなったのち、一旦、降下し、一定値付近において振動する状態が記録されていた。
【0066】
ポンプから塞栓剤組成物に対し印加される圧力が上昇するにつれて、漏圧が起こらずに、ある値において血管モデルが破裂する挙動も見られた。塞栓剤としては、これが最も理想的な性能を示すものであり、その理由としては、塞栓剤組成物が血管モデル内壁と強固な接着をしていること、さらに、凝固した塞栓剤組成物自体が、印加される水圧により破壊を受けないことを意味するからである。表4に示した結果では、最も高い留置限界血圧、すなわち、より良好な塞栓性能を示す液体塞栓剤組成物は、278mmHg(試験番号7)であり、このピーク液圧により血管モデルが破裂した。この様子を記録したグラフが図3であり、バルブを閉じた後、数秒以内に液圧が上昇し、血管モデル破裂に至った直後に液圧値がゼロになっている。
【0067】
(試験番号0)
特許文献1(特開平5−103802号公報)には、複数の一価アニオン性官能基を有する水溶性高分子を含む溶液を、多価カチオンを含む溶液中に析出させて得られる高分子ゲルを用いる脳動脈瘤などの血管病変塞栓材料として用いることが記載されており、実施例には、さらに、アルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液に押し出して形成した高分子ゲルを、塩化ナトリウム水溶液に浸漬した後、これを乾燥させ、すなわち、水分を除去した固体状の塞栓材料の製造法が開示されている。
【0068】
一方、本発明に係る液体塞栓剤組成物は、液体状であり、かつ、生体内において、血中カルシウムイオンとの反応により塞栓機能を発現することを特徴とするものである。ここで、本発明に係る液体塞栓剤組成物と、特許文献1に記載の血管病変塞栓材とを比較するため、表4の試験番号0の液体塞栓剤組成物を用いて試験を行った。表4に記載の全ての試験番号の液体塞栓剤組成物において、ヒト血漿とほぼ同じ浸透圧を持つ等張緩衝性水溶液、すなわち、0.15mol/L塩化ナトリウム、20mmol/Lのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩化水素塩(pH8.0)、および、5.0mmol/L塩化カルシウムを含む水溶液を用いている。試験番号0の液体塞栓剤組成物は、カルシウムイオンと反応する成分としてアルギン酸ナトリウムのみを含み、アルギン酸ナトリウムの濃度は2.0wt%であって、特許文献1の実施例に記載の2.0w/v%とほぼ同じなるようにした。
【0069】
上記の等張緩衝性水溶液を灌流しつつ、図1記載の血管モデル内に、試験番号0の液体塞栓剤組成物を、マイクロカテーテルを通じ注入したところ、等張緩衝性水溶液に含まれるカルシウムイオンとの接触により、瞬時にゲル化が起こった。しかし、ゲル化した液体塞栓剤組成物、すなわち、凝集した塞栓性組成物は、血管モデル内壁には、まったく接着せず、等張緩衝性水溶液の灌流とともに、血管モデル外に押し流されてしまった。この結果は、アルギン酸のみでは、本発明が提供する機能を得られないことを示している。本願発明者らは、この問題を解決するための試行を繰り返し、カルシウムイオンと反応しゲル化する複数の酸性多糖、ならびに、血管モデル内壁との接着力を向上する化合物を含有する液体塞栓剤組成物の有効成分を見出した。液体塞栓剤組成物の性能を示す複数の例を、表4に記載試験番号1〜10において説明する。
【0070】
(試験番号1及び2)
以下、各液体塞栓剤組成物の留置限界液圧および試験後の状態を、試験番号ごとに記載する。試験番号1及び2の液体塞栓剤組成物の留置限界液圧は、それぞれ、38±10mmHg及び52±24mmHgであり、これらの値は、拡張期血圧の至適血圧値である80mmHgよりも低い。さらに、これらのピーク値を示した後、凝固した液体塞栓剤組成物が、血管モデル内壁から剥離し、ポンプ送液方向に押し流されていることから、試験番号1および2の液体塞栓剤組成物を用いる場合、実際の血管内壁表面への凝集・接着力が比較的弱く、従って、本発明における理想的な機能を提供しているとはいい難い。
【0071】
(試験番号3)
試験番号1及び2の液体塞栓剤組成物のようなカルシウムイオン捕捉成分と抗生分解性成分のみを含む塞栓性組成物の場合であっても、試験番号3記載の液体塞栓剤組成物では、抗生分解性成分としてメチルセルロースではなくヒドロキシプロピルセルロースを用いるだけで、留置限界液圧が112±14mmHgに向上していた。この値は、収縮期血圧の正常値である120−129mmHgに近いために、試験番号1及び2の組成物よりも実用的に好ましいといえる。
【0072】
(試験番号4及び5)
試験番号3の液体塞栓剤組成物に対し、ポリアクリル酸を添加した試験番号4や、カゼインナトリウムを添加した試験番号5の液体塞栓剤組成物における留置限界液圧は、それぞれ、22±19mmHgおよび31±11mmHgとなり、試験後状態が剥離流出であった。ポリアクリル酸はカルシウムイオン捕捉可能なカルボキシル基をもち、また、カゼインナトリウムも酸性タンパク質であるカゼインを基材とし、酸性アミノ酸側鎖を中和し高い水溶性を付与した化合物であるので、カルシウムイオン捕捉は可能である。これらの性質は液体塞栓剤組成物としての機能を向上すると期待されるが、他方、カルシウムイオン捕捉とゲル化機能を同時に提供する成分である酸性多糖に対し、カルシウムイオン捕捉能が競合する結果、試験番号3のような機能向上は見られなかった。
【0073】
(試験番号6及び7)
試験番号6及び7の液体塞栓剤組成物では、試験番号3の液体塞栓剤組成物加え、食品加工用酵素製剤を異なる濃度において添加した。食品加工用酵素製剤は、タンパク質分子間を架橋できる酵素を有効成分として含み、種々の食品加工製造において、例えば肉片同士を結着するような工程に用いられる流通製剤である。食品加工用酵素製剤自身も、その濃度に依存して、水分散後にゲル形成にいたる性質を有するが、通常の食品加工工程においては、かような使われ方はされない。
【0074】
試験番号6及び7の液体塞栓剤組成物は、高い留置限界液圧を与え、それぞれ、194±45mmHgおよび278±85mmHgであった。これらの値は、収縮期血圧及び拡張期血圧のいずれにおいても、正常値を上回り、高血圧であると定義される血圧領域である。さらに、試験番号6の液体塞栓剤組成物においては、試験後状態が漏圧となり、同時に試験番号7の液体塞栓剤組成物では、塞栓剤が阻止する液圧に対し、血管モデルの強度が耐えられずに破裂に至った。当該液体塞栓剤組成物のカルシウムイオン捕捉成分の作用に加え、おそらく、食品加工用酵素製剤自身がゲルを形成することにより、塞栓剤凝固体自身の強度が向上し、さらに、アルブミン等のタンパク質成分を含む血管モデル内壁によく接着することができたため良好な塞栓機能提供に帰着したと考えられる。
【0075】
(試験番号8)
食品加工用酵素製剤と同様に、それ自身がゲル化する性質ももつゼラチンを加えた試験番号8の液体塞栓剤組成物についても比較的高い留置限界液圧152±31mmHgが得られていることから、カルシウムイオン捕捉のための成分に加え、何らかの刺激により含水ゲル形成可能な共存成分を添加することが、より好適な機能を提供する要因であることが示された。
【0076】
(試験番号9及び10)
試験番号9及び10の液体塞栓剤組成物では、試験番号3の液体塞栓剤組成物に加え、コロイダルシリカ粒子およびポリ(N,N−ジメチル)アクリルアミドを添加した(Se'verine Rose, Alexandre Prevoteau, Paul Elzie`re1, Dominique Hourdet1, Alba Marcellan, and Ludwik Leibler, Nanoparticle solutions as adhesives for gels and biological tissues, Nature 505, 382-385, 2014.)。Se'verine Roseらの報告では、コロイダルシリカ粒子は、(N,N−ジメチル)アクリルアミドを含む含水ゲルを接着可能であると記載されている。当該公知の知見のみでは、本発明が提供する塞栓機能を満たさないことを試験した。
【0077】
その結果、試験番号9及び10の液体塞栓剤組成物は、留置限界液圧が、それぞれ、41±26mmHg及び84±17mmHgであった。これらの結果は、試験番号3の液体塞栓剤組成物における留置限界液圧を下回っており、本発明が提供する機能が、公知の知見の組み合わせによって成り立つものではなく、本願発明者らの特許文献2が提供する機能と仕組み、すなわち、有効成分がもつカルシウムイオン捕捉能、かつ、含水ゲル形成能を基盤とし、これらに加え、なんらかの凝集促進および抗生分解性を組み合わせた場合においてのみ、より好適な塞栓機能が発揮されることを示すものである。
【0078】
なお、試験後状態「漏圧」に至る場合において、その原因となる塞栓性組成物凝集体の細孔を塞ぐような処理、例えば、試験番号6の液体塞栓剤組成物が示す漏圧状態に対し、試験番号3の液体塞栓剤組成物をカテーテルから注入することにより、漏圧状態を解消することができる。その結果、試験番号7の留置限界液圧に匹敵する高い性能を得ることも可能であり、本発明の液体塞栓剤組成物を構成する成分は、自在に組み合わせて使用することで、その性能を高めることもできることがわかった。
【0079】
(まとめ)
本発明によれば、以上に述べたように、表1に示した有効成分を組み合わせて液体塞栓剤組成物を製造し、表2に示した血管モデルを用いることにより実験動物を用いることなく、化学的性質の安定した血管モデルを製造し、かつ、表4に示すように、極めて強力な血管内壁接着力を持つ液体塞栓剤組成物を、図1の留置上限血圧評価装置を用いて試験することができるのである。液体塞栓剤組成物の性能は、図2および図3のように記録され、留置限界液圧をも知ることができる。このようにして、本願発明が解決しようとする課題(1)〜(5)は解決され、より実用的な液体塞栓剤組成物が提供された。
【符号の説明】
【0080】
1 シリコンゴム栓
2 シリコンゴム栓
3 アクリル棒
4 ガラス管
5 血管モデル
6 コネクタ
7 シリコンチューブ配管
8 シリコンチューブ配管
9 T型ステー
10 液圧センサインプット
11 センサ回路ケース
12 シリコンチューブ配管
13 コネクタ
14 シリコンチューブ配管
16 小型バルブ
17 シリコンチューブ配管
18 シリコンチューブ配管
19 ゲルチューブホルダ
20 サイドユニット
21 センサステージ
22 細径同軸ケーブル
【図1】
【図2】
【図3】

【手続補正書】
【提出日】20180601
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、
抗生分解性成分と、を含み、
前記カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分が、アルギン酸ナトリウム及びジェランガムであり、
前記抗生分解性成分がヒドロキシプロピルセルロースであり、
生体外において液体であり、生体内において血中カルシウムイオンとの反応によりゲル化して生体接着性を示すことを特徴とする液体塞栓剤組成物。
【請求項2】
さらに、凝集促進成分を含み、
前記凝集促進成分が、コロイダルシリカ、ポリ(N,N−ジメチル)アクリルアミド、食品加工用酵素製剤、ポリ−L−リジン、臭化水素塩、ポリ−L−グルタミン酸ナトリウム塩、キトサン、シルクフィブロインを含む群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項3】
脳動脈瘤の治療に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項4】
さらに、ヨード系血管造影剤を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【請求項5】
前記生体内における前記血中カルシウムイオンの濃度は、2.5〜4.0mMであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体塞栓剤組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
前記課題は、本発明の液体塞栓剤組成物によれば、カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分と、抗生分解性成分と、を含み、前記カルシウムイオン捕捉能を有する含水ゲル形成性成分が、アルギン酸ナトリウム及びジェランガムであり、前記抗生分解性成分がヒドロキシプロピルセルロースであり、生体外において液体であり、生体内において血中カルシウムイオンとの反応によりゲル化して生体接着性を示すこと、により解決される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
このとき、生体外において液体であり、生体内においてゲル化して生体接着性を示し、前記生体内における前記血中カルシウムイオンの濃度は、2.5〜4.0mMであると好適である。
【国際調査報告】