(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO2021039554
(43)【国際公開日】20210304
【発行日】20210913
(54)【発明の名称】がん化学療法支持剤、食品及び医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/739 20060101AFI20210816BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20210816BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210816BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20210816BHJP
【FI】
   !A61K31/739
   !A61K35/74 B
   !A61P35/00
   !A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
【出願番号】2020560497
(21)【国際出願番号】JP2020031357
(22)【国際出願日】20200819
(11)【特許番号】6912154
(45)【特許公報発行日】20210728
(31)【優先権主張番号】2019156220
(32)【優先日】20190829
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,IT,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
【住所又は居所】東京都世田谷区東玉川1−10−21
(71)【出願人】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
【住所又は居所】東京都世田谷区東玉川1−10−21
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 悠代
【住所又は居所】香川県高松市林町2217番地6 自然免疫制御技術研究組合内
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
【住所又は居所】香川県高松市室新町973−5 イーストテラス1211号
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
【住所又は居所】香川県高松市多肥下町1560−14−904
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
【住所又は居所】東京都世田谷区東玉川1−10−21
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD18
4B018MD27
4B018ME08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA21
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA06
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC54
4C087CA15
4C087MA52
4C087NA06
4C087ZB26
(57)【要約】
がん化学療法剤の副作用を低減する安全な食品由来の成分を提供すること、特に化学療法剤の致死毒性を低減する食品や食品成分(サプリメント)、医薬品を提供することのために、本発明のがん化学療法支持剤、食品及び医薬品は、ストレプトゾトシンなどを投与するがん化学療法に対する支持剤であって、パントエア菌LPSなどからなるリポ多糖を有効成分とし、経口投与するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん化学療法に対する支持剤であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とするがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項2】
前記がん化学療法は、アルキル化剤を投与するものであることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項3】
前記アルキル化剤は、ストレプトゾトシン又はシクロフォスファミドであることを特徴とする請求項2記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項4】
前記がん化学療法は、白金製剤を投与するものであることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項5】
前記白金製剤は、シスプラチンであることを特徴とする請求項4記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項6】
前記がん化学療法は、代謝拮抗剤を投与するものであることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項7】
前記代謝拮抗剤は、5-フルオロウラシルであることを特徴とする請求項6記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項8】
前記支持剤は、経口投与するものであることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項9】
前記リポ多糖は、腸内細菌科細菌由来であることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【請求項10】
前記リポ多糖は、パントエア属細菌由来又はエンテロバクター属細菌由来であることを特徴とする請求項1記載のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん化学療法剤の副作用を低減するための、がん化学療法支持剤、食品及び医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
<がんに関する統計>
厚生労働省の統計によると、2017年の日本における死因の第1位はがんで、全死因の27.9%になっている(非特許文献1)。国立がん研究センターがまとめている統計によれば、生涯でがんに罹患するリスクは男性62%、女性47%であり、生涯がん死亡リスクは男性が25%、女性が15%で日本人の死因のトップである(非特許文献2)。
【0003】
<がん治療の選択肢>
がんの治療法は、部位や種類によって異なるが、大きく手術療法、化学療法、放射線療法、免疫療法の選択肢があり、これらを組み合わせる場合も多い。このうち、最も標準的に使われ、他の療法とも併用されるのが化学療法(抗がん剤治療)である。
【0004】
がん化学療法剤には
・代謝拮抗剤(生成する代謝物質の利用を阻害する物質で分裂細胞のDNA合成阻害作用を有する、薬剤例:5-フルオロウラシル(5-FU)、シタラビン、クラドリビン等)、
・アルキル化剤(DNAをアルキル化して二重鎖のグアニン塩基同士を架橋し分裂停止作用を有する、薬剤例:シクロフォスファミド、メルファラン、イホスファミド、ブスルファン、ストレプトゾトシン等)、
【0005】
・微小管作用薬(微小管を形成するチュブリンに結合して重合阻害作用を有する、薬剤例:パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン等)、
・トポイソメラーゼ阻害剤(がん細胞のDNAを合成するトポイソメラーゼに作用してDNAの再結合を阻害作用を有する、薬剤例:イリノテカン、エトポシド等)、
【0006】
・抗がん性抗菌薬(作用機序は薬剤によって異なる、薬剤例:ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC等)、
・白金製剤(DNA挿入とポリメラーゼ阻害作用を有する、薬剤例、シスプラチン、エピルビシン、カルボプラチン等)
などがある(非特許文献3)。いずれもがん細胞が正常細胞よりも増殖性が高いことに基づくことが選択性の根拠とされている。
【0007】
<化学療法剤における副作用>
しかしながら、化学療法剤は正常な細胞でも分裂速度が速い血液(骨髄)細胞、粘膜組織細胞、毛根細胞などはがん細胞と同様に障害作用を受ける。その結果、感染感受性増加、貧血、出血、吐き気、口内炎、下痢、味覚の変化、脱毛、皮膚の障害、爪の変化、死亡などの症状が副作用として起こる(非特許文献4)。副作用の頻度の高い吐き気が出現しやすい化学療法剤の例は、AC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)、EC療法(エピルビシン+シクロホスファミド)、シクロホスファミド、シスプラチン、ストレプトゾシン、ダカルバジン等があり、90%を超える催吐頻度がある。また、アクチノマイシンD、アザシチジン、アムルビシン、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、エノシタビン、エピルビシン、オキサリプラチン、カルボプラチン、クロファラビン、三酸化ヒ素、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、テモゾロミド、ドキソルビシン、ネダプラチン、ピラルビシン、ブスルファン、ベンダムスチン、ミリプラチン、メトトレキサート、メルファランなども30〜90%で催吐頻度があるとされている。催吐性への制吐材としては、アプレピタント、セロトニン受容体拮抗薬、デキサメタゾンが主に使用されている。さらに、抗がん剤の副作用として腸管粘膜障害性の遅発性下痢が多発する。下痢が多く観察される癌化学療法剤は、イリノテカン、メトトレキセート、ドセタキセル、5-FU、カペシタビン、シタラビン、ドキソルビシン等が知られている。アドリアマイシン、エピルビシン、ドセタキセル、パクリタキセルでは頭の髪の毛はほとんどの患者で抜ける。これらの副作用のため、化学療法を途中で断念する患者も少なくない。また、抗がん剤の副作用死で最も多いのが白血球減少時の感染とされている(非特許文献5)
【0008】
<副作用低減のための従来技術>
殆どの化学療法剤治療において副作用が発生し、場合によっては効果よりも副作用のほうが強く現れる(非特許文献3)。このような背景から、近年、がんに伴う症状や治療による副作用に対して症状を軽減させるための対症療法(支持療法)という考え方が生まれている。具体的には、吐き気を抑える薬(セロトニン遮断薬、デキサメタゾン)、下痢には下痢止めや整腸剤、便秘には下剤、口内炎には抗炎症剤や鎮痛剤、感染症には抗生物質、貧血を補う輸血、微小管作用薬でおこるしびれ感に対してビタミン剤などが使用されている(非特許文献6)。しかしながら、ある程度の症状緩和が認められる患者もいるが、十分な効果が得られていないことも少なくはなく、未だに有効な支持療法が確立されているとはいえない(非特許文献7)。
【0009】
現状の支持療法は化学療法剤による副作用としての症状が発現してから症状に合わせて患者に投与する対症療法剤である。食品で化学療法剤の副作用を低減することができれば、安全で優れた支持療法となりえる。これまでがん化学療法剤の副作用を低減する漢方薬は報告されているが(非特許文献7)、患者が自由に摂取できる安全な食品や食品成分は確立されていない。そこで、化学療法剤の副作用を予防できる安全な食品や食品成分(サプリメント)、医薬品が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合”、[online]、平成30年9月7日、厚生労働省、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/dl/10_h6.pdf〉
【非特許文献2】“最新がん統計”、[online]、平成31年1月21日、国立がん研究センター、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html〉
【非特許文献3】“細胞障害性抗がん剤 予防薬・治療薬を併用して副作用をコントロール”、[online]、平成23年6月28日、非営利型一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://www.akiramenai-gan.com/medical_contents/disease/1927/2/〉
【非特許文献4】“化学療法の副作用”、[online]、平成28年2月2日、国立がん研究センター、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://ganjoho.jp/child/dia_tre/treatment/side_effect01.html〉
【非特許文献5】“抗がん剤と副作用の誤解 〜抗がん剤治療中は生ものを食べてもよいのでしょうか?〜”、[online]、平成27年12月14日、読売新聞、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20151214-OYTEW55388/〉
【非特許文献6】“薬物療法(化学療法)”、[online]、令和1年7月22日、国立がん研究センター、[令和1年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy.html〉
【非特許文献7】吉田直久、外2名、「<特集「漢方療法の最新情報」> がん化学療法に伴う副作用に対する漢方薬の有用性」、京府医大誌 125(2),115−125,2016.
【非特許文献8】H. Inagawa, et al., “Primed Activation of Macrophages by Oral Administration of Lipopolysaccharide Derived from Pantoea agglomerans”, in vivo 30: 205-211 (2016).
【非特許文献9】Y. Kobayashi, et al., “Oral administration of Pantoea agglomerans-derived lipopolysaccharide prevents metabolic dysfunction and Alzheimer's disease-related memory loss in senescence-accelerated prone 8 (SAMP8) mice fed a high-fat diet”, PLoS ONE (2018) 13(6): e0198493.
【非特許文献10】ウィキペディア「ストレプトゾトシン」、[令和1年8月21日検索]、インターネット
【非特許文献11】T. Hebishima, et al., “Oral Administration of Immunopotentiator from Pantoea agglomerans 1 (IP-PA1) Improves the Survival of B16 Melanoma-Inoculated Model Mice”, Exp. Anim., 60(2), 101-109, (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、がん化学療法剤の副作用を低減する安全な食品由来の成分を提供することを課題とする。特に化学療法剤の致死毒性を低減する食品や食品成分(サプリメント)、医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品は、がん化学療法に対する支持剤であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、アルキル化剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記アルキル化剤は、ストレプトゾトシン又はシクロフォスファミドであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、白金製剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記白金製剤は、シスプラチンであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、代謝拮抗剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記代謝拮抗剤は、5-フルオロウラシルであることを特徴とする。
また、前記支持剤は、経口投与するものであることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、腸内細菌科細菌由来であることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、パントエア属細菌由来又はエンテロバクター属細菌由来であることを特徴とする。
【0013】
上述した目的を達成するため、本発明者らは、これまでの研究結果から治癒力を高める機能があるグラム陰性細菌由来のリポ多糖(リポポリサッカライド;LPS)を経口摂取させることで、化学療法剤の副作用を低減する安全な食品や食品成分(サプリメント)、医薬品摂取による新規な支持療法が構築できることを見出した。
【0014】
生体は、細胞障害や組織障害を受けると、食細胞(マクロファージなど)や上皮細胞から線維芽細胞成長因子(FGF)、血管成長因子(VEGF)、表皮細胞成長因子(KGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、腫瘍壊死因子等(TNF)、インターロイキン-6(IL-6)等の細胞増殖や組織修復に係るサイトカインが誘導されることによって治癒される。LPSは細胞試験や注射投与により、食細胞や上皮細胞に発現しているトル様受容体4(TLR4)に結合してこれらのサイトカインを誘導することも知られている。しかしながら、LPS経口投与は細胞刺激試験とは全く効果が異なり、LPSの経口投与で生体の損傷を回復促進させるこれらのサイトカインの誘導効果は知られていなかった(非特許文献8)。
そこで、細胞死抑制作用が知られているグリア細胞株由来神経栄養因子(GNDF)のLPS経口投与による影響を調べたところ、LPS経口投与で有意にグリア細胞株由来神経栄養因子(GNDF)の遺伝子発現が高まることが見出された。このことは、LPS経口投与が何らかの原因で引き起こされる生体の細胞障害や組織障害を回避する作用があるとの可能性を示唆するものである。
【0015】
がん化学療法剤は正常な分裂細胞に障害を与えるため、副作用が顕在化していない組織でも障害が生じている可能性がある。細胞障害が組織で集中して起こる組織では副作用の症状として観察される。最も深刻な副作用は個体の死亡である。そこで、がん化学療法で誘導される個体の死を回避する動物モデルを用いれば、支持療法としてのLPSの経口摂取で有用性を評価できると考えられる。本発明ではマウスでのがん化学療法剤による死亡モデルを用いてLPSの経口投与による死亡の回避効果を明らかにした。
【0016】
支持療法剤として使用するLPSは、環境中に存在している物質で日常的にもある程度摂取しているほか、食品や化粧品に配合されている実績のある物質である。LPSは経口摂取で腹腔や脳内の食細胞(マクロファージ)の機能性を高める(非特許文献8、9)。また、活性化した食細胞は生体内の損傷組織を修復する機能を有している。LPSは食経験のある植物共生細菌であるパントエア属細菌、エンテロバクター属細菌、キサントモナス属細菌、酢酸菌科細菌、ザイモモナス属細菌由来のLPSが挙げられるが、LPSであれば特に菌株は特定される必要はない。
【0017】
がん化学療法剤は一般に用いられている代謝拮抗剤(生成する代謝物質の利用を阻害する物質で分裂細胞のDNA生産を阻害:5-フルオロウラシル(5-FU)、シタラビン、クラドリビン等)、アルキル化剤(DNAをアルキル化して二重鎖のグアニン塩基同士を架橋し分裂停止:シクロフォスファミド、メルファラン、イホスファミド、ブスルファン、ストレプトゾトシン等)、微小管作用薬(微小管を形成するチュブリンに結合して重合を阻害:パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン等)、トポイソメラーゼ阻害剤(がん細胞のDNAを合成するトポイソメラーゼに作用してDNAの再結合を阻害:イリノテカン、エトポシド等)、抗がん性抗菌薬(作用機序は薬剤によって異なる:ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC等)、白金製剤(DNA挿入とポリメラーゼ阻害、シスプラチン、エピルビシン、カルボプラチン等)などの細胞障害作用を有するものを対象とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のLPSの経口摂取によりがん化学療法剤による副作用(感染感受性増加、貧血、出血、吐き気、口内炎、下痢、味覚の変化、脱毛、皮膚の障害、爪の変化、死亡など)が低減することにより、がん治療患者は生活の質(QOL)を落とすことなく通常生活を送ることができるようになる。また、化学療法剤の投与量を高めることが可能となることにより、がん治療効果を高めることも期待できる。
【0019】
LPSは食品成分であり、健常な個体が摂取しても全く副作用がないために、食品や食品成分(サプリメント)は誰もが摂取可能である。そのため、がん治療のあらゆる選択肢と併用でき、また治療前、治療中、治療後にも継続して差支えないことに利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1の実験の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例2の実験の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例5の実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
LPS経口投与による、化学療法剤ストレプトゾトシンの毒性の低減
(1)方法
1)試薬
・腸内細菌科パントエア属に属するパントエア・アグロメランス由来LPS(LPSp)(自然免疫応用技研株式会社・mac0001)
・ストレプトゾトシン(STZ)(シグマ アルドリッチ・SAJ-S0130)
【0023】
2)マウスと飼育
6週齢の雄C57BLマウスを使用した。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂食、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。エサとしてはリサーチダイエット社 D12450B飼料を与えた。1週間予備飼育後、6匹ずつ3群に分けた。
【0024】
3)試験
PBS投与群(PBS i.p.):マウス腹腔内に0.5 mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注射した。
STZ投与群(STZ i.p.):マウス腹腔内にSTZ液(250 mg/kg)を注射した。
STZ+LPS投与群(STZ i.p.+LPS):マウス腹腔内にSTZ液(250 mg/kg)を注射して、100 μg/kg体重/dayとなるように飲水にLPSpを混ぜて自由摂取させた。
【0025】
(2)結果
化学療法剤であるSTZは種々の毒性が出ることが知られている(腎障害、骨髄抑制(白血球数減少、リンパ球数減少、好中球数減少、血小板数減少、貧血等)、耐糖能異常(高血糖、血中インスリン増加、インスリンCペプチド増加、尿中ブドウ糖陽性)、肝障害等(非特許文献10)。本試験で生存率を測定したところ、5日目では、PBS投与群(PBS i.p.)では死亡マウスはいなかったが、STZ投与群(STZ i.p.)で6匹中6匹死亡し、STZ+LPS投与群(STZ i.p.+LPS)では、6匹中4匹が生存した。29日目ではSTZ+LPS投与群で6匹中1匹が生存した(カプランマイヤー検定、P<0.05)。以上のことから、LPSp投与は、STZの毒性を低減する効果があることが示された(図1、表1)。
【0026】
【表1】
【0027】
LPS経口投与によるがん化学療法剤の副作用の回避をパントエア・アグロメランス由来LPS(LPSp)で調べたが、マクロファージの活性化による組織損傷の防御作用を誘導できるLPSはすべて本効果が得られるので、パントエア属細菌由来のLPSに限定されるものではない。
【実施例2】
【0028】
LPS経口投与による、白金製剤シスプラチンの毒性の低減
(1)方法
1)試薬
・パントエア・アグロメランス由来LPS(LPSp)(自然免疫応用技研株式会社・mac0001)
・シスプラチン(CDDP)(富士フィルム和光純薬株式会社・033-20091)
【0029】
2)マウスと飼育
4週齢の雄ICRマウスを使用した。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂取、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。餌としてはクレア社のCE-12を与えた。搬入時の体重を測定後、6匹ずつ3群に分けた。
【0030】
3)試験
生理食塩水投与群(生食 i.p.):マウス腹腔内に0.5mLの生理食塩水を注射した。
シスプラチン投与群(CDDP i.p.):マウス腹腔内にシスプラチン液(17.4 mg/kg)を注射した。
シスプラチン+LPS投与群(CDDP i.p.+LPS):マウス腹腔内にシスプラチン液(17.4 mg/kg)を注射して、1mg/kg体重/dayとなるように飲水にLPSpを混ぜて自由飲水させた。
【0031】
(2)結果
化学療法剤であるシスプラチンは種々の副作用が知られている(急性腎不全、BUN値異常、血尿等)。本試験で生存率を測定したところ、抗がん剤投与から6日目までで、生理食塩水投与群(生食 i.p.)とシスプラチン+LPS投与群(CDDP i.p.+LPS)では死亡マウスはいなかったが、シスプラチン投与群(CDDP i.p.)で6匹中5匹死亡した。14日目では、シスプラチン投与群で6匹中1匹が生存し、シスプラチン+LPS投与群で6匹中5匹が生存した(カプランマイヤー検定、P<0.05)。以上のことから、LPSp投与は、シスプラチンの毒性を低減する効果があることが示された(図2、表2)
【0032】
【表2】
【実施例3】
【0033】
LPS経口投与による、アルキル化剤シクロフォスファミドの毒性の低減
(1)方法
1)試薬
・パントエア・アグロメランス由来LPS(LPSp)(自然免疫応用技研株式会社・mac0001)
・シクロフォスファミド(CY) (富士フィルム和光純薬株式会社・030-12953)
【0034】
2)マウスと飼育
4週齢の雄ICRマウスを使用した。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂取、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。餌としてはクレア社のCE-12を与えた。搬入時の体重を測定後、6匹ずつ3群に分けた。
【0035】
3)試験
生理食塩水投与群(生食i.p.):マウス腹腔内に0.5mLの生理食塩水を注射した。
シクロフォスファミド投与群(CY i.p.):マウス腹腔内にシクロフォスファミド液(440mg/kg)を注射した。
シクロフォスファミド+LPS投与群(CY i.p.+LPS):マウス腹腔内にシクロフォスファミド液(440mg/kg)を注射して、1mg/kg体重/dayとなるように飲水にLPSpを混ぜて自由飲水させた。
【0036】
(2)結果
化学療法剤であるシクロフォスファミドは種々の副作用が知られている(白血球減少、嘔吐、脱毛等)。本試験で体重を測定したところ、抗がん剤投与から3日目で生理食塩水投与群(生食 i.p.)と比較し、シクロフォスファミド投与群(CY i.p.)とシクロフォスファミド+LPS投与群(CY i.p.+LPS)は有意な体重減少が認められた。投与から11日目と13日目では、生理食塩水投与群と比較し、シクロフォスファミド投与群は有意な体重減少が認められるが(Tukeyの多重比較検定、P<0.05)、シクロフォスファミド+LPS投与群は有意差が認められなかった(表3)。以上のことから、LPSp投与は、シクロフォスファミドの体重減少を抑制する効果があることが示された。
【0037】
【表3】
【実施例4】
【0038】
LPS経口投与による、代謝拮抗剤5-フルオロウラシルの毒性の低減
(1)方法
1)試薬
・パントエア・アグロメランス由来LPS(LPSp)(自然免疫応用技研株式会社・mac0001)
・5-フルオロウラシル(5-FU)(富士フィルム和光純薬株式会社・068-01401)
【0039】
2)マウスと飼育
4週齢の雄ICRマウスを使用した。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂取、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。餌としてはクレア社のCE-12を与えた。搬入時の体重を測定後、6匹ずつ3群に分けた。
【0040】
3)試験
生理食塩水投与群(生食i.p.):マウス腹腔内に0.5mLの生理食塩水を注射した。
5-フルオロウラシル投与群(5-FU i.p.):マウス腹腔内に5-フルオロウラシル液(360mg/kg)を注射した。
5-フルオロウラシル+LPS投与群(5-FU i.p.+LPS):マウス腹腔内に5-フルオロウラシル(360mg/kg)を注射して、1mg/kg体重/dayとなるように飲水にLPSpを混ぜて自由飲水させた。
【0041】
(2)結果
化学療法剤である5-フルオロウラシルは種々の副作用が知られている(白血球減少、下痢、下血、食欲不振等)。本試験で体重を測定したところ、抗がん剤投与から3日目で、生理食塩水投与群(生食i.p.)と5-フルオロウラシル投与群(5-FU i.p.)を比較すると、5-フルオロウラシル投与群(5-FU i.p.)は有意な体重減少が見られるが(Tukeyの多重比較検定、P<0.05)、生理食塩水投与群(生食i.p.)と5-フルオロウラシル+LPS投与群(5-FU i.p.+LPS)では有意差は認められなかった。
【0042】
また、6日目で5-フルオロウラシル投与群(5-FU i.p.)と5-フルオロウラシル+LPS投与群(5-FU i.p.+LPS)を比較すると、5-フルオロウラシル投与群(5-FU i.p.)は有意に低かった(Tukeyの多重比較検定、P<0.05)。以上のことから、LPSp投与は5-フルオロウラシルの毒性を低減する効果があることが示された(表4)。
【0043】
【表4】
【実施例5】
【0044】
LPS経口投与による、アルキル化剤ストレプトゾトシンの毒性の低減
(1)方法
1)試薬
・腸内細菌科エンテロバクター属に属するエンテロバクター・アズブリエ由来LPS(LPSea)(自然免疫応用技研株式会社)
・ストレプトゾトシン (STZ)(シグマ アルドリッチ・SAJ-S0130)
【0045】
2)マウスと飼育
6週齢の雄C57BLマウスを使用した。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂取、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。餌としてはリサーチダイエット社D12450B飼料を与えた。搬入時の体重を測定後、6匹ずつ3群に分けた。
【0046】
3)試験
生理食塩水投与群(生食 i.p.):マウス腹腔内に0.5mLの生理食塩水を注射した。
STZ投与群(STZ i.p.):マウス腹腔内にSTZ液(313 mg/kg)を注射した。
STZ+LPS投与群(STZ i.p.+LPSea):マウス腹腔内にシスプラチン液(313 mg/kg)を注射して、1mg/kg体重/dayとなるように飲水にLPSeaを混ぜて自由飲水させた。
【0047】
(2)結果
本試験で生存率を測定したところ、抗がん剤投与から4日目までで、生理食塩水投与群(生食 i.p.)とSTZ+LPS投与群(STZ i.p.+LPSea)では死亡マウスはいなかったが、STZ投与群(STZ i.p.)で6匹中1匹死亡した。以上のことから、LPSea投与は、ストレプトゾトシンの毒性を低減する効果があることが示された(図3、表5)
【0048】
【表5】
【0049】
非特許文献11には、抗がん剤であるドキソルビシン単独と比べて、パントエア・アグロメランス由来LPSであるIP−PA1を併用すると、がん治療に寄与するIFN-γ等が増えること、すなわち、ドキソルビシンにパントエア・アグロメランス由来LPSを併用することによってがん治療効果が高まることが記載されている。
【0050】
これに対して、本発明は抗がん剤の副作用を抑制するものであるので、療養生活の質を高めて、より多くの患者に抗がん剤による治療の機会を提供することができ、さらに、患者に、より多量の抗がん剤を投与することができる。
【0051】
明細書、特許請求の範囲及び図面を含む2019年 8月29日に出願の日本特許出願特願2019−156220の開示は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
本明細書で引用したすべての刊行物、特許及び特許出願は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
【図1】
【図2】
【図3】

【手続補正書】
【提出日】20201124
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品は、がん化学療法の副作用を低減して化学療法剤の投与量を高めることができる支持剤であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、アルキル化剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記アルキル化剤は、ストレプトゾトシン又はシクロフォスファミドであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、白金製剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記白金製剤は、シスプラチンであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、代謝拮抗剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記代謝拮抗剤は、5-フルオロウラシルであることを特徴とする。
また、前記支持剤は、経口投与するものであることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、腸内細菌科細菌由来であることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、パントエア属細菌由来又はエンテロバクター属細菌由来であることを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
がん化学療法の副作用を低減して化学療法剤の投与量を高めることができる支持剤であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とするがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。

【手続補正書】
【提出日】20210528
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明のがん化学療法支持剤、食品又は医薬品は、がん化学療法の副作用を低減して化学療法剤の投与量を高めるためのがん化学療法支持剤、食品又は医薬品であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、アルキル化剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記アルキル化剤は、ストレプトゾトシン又はシクロフォスファミドであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、白金製剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記白金製剤は、シスプラチンであることを特徴とする。
また、前記がん化学療法は、代謝拮抗剤を投与するものであることを特徴とする。
また、前記代謝拮抗剤は、5-フルオロウラシルであることを特徴とする。
また、前記支持剤は、経口投与するものであることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、腸内細菌科細菌由来であることを特徴とする。
また、前記リポ多糖は、パントエア属細菌由来又はエンテロバクター属細菌由来であることを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
がん化学療法の副作用を低減して化学療法剤の投与量を高めるためのがん化学療法支持剤、食品又は医薬品であって、リポ多糖を有効成分とすることを特徴とするがん化学療法支持剤、食品又は医薬品。
【国際調査報告】