(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】2019523768
(43)【公表日】20190829
(54)【発明の名称】移植に伴う虚血/再灌流傷害から臓器を保護するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7034 20060101AFI20190802BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20190802BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190802BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190802BHJP
   A61L 27/36 20060101ALN20190802BHJP
【FI】
   !A61K31/7034
   !A61K9/12
   !A61K9/08
   !A61K47/02
   !A61L27/36 410
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】2018564727
(86)(22)【出願日】20170605
(85)【翻訳文提出日】20190121
(86)【国際出願番号】US2017035960
(87)【国際公開番号】WO2017214039
(87)【国際公開日】20171214
(31)【優先権主張番号】62/347,038
(32)【優先日】20160607
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】503278795
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ペンシルベニア
【住所又は居所】アメリカ合衆国 ペンシルベニア州 19104−6283 フィラデルフィア スイート 200 チェスナット ストリート 3160
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クリストフィドウ−ソロミドウ,メルポ
【住所又は居所】アメリカ合衆国,ペンシルベニア州 19403,イーグルビル,7017 ウィンズウェプト レーン
(72)【発明者】
【氏名】カントゥ,エドワード
【住所又は居所】アメリカ合衆国,ペンシルベニア州 19003,アードモア,186 レイクサイド ロード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA24
4C076BB13
4C076BB27
4C076CC50
4C076DD23
4C076FF70
4C081AB11
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4C081CE11
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA55
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA59
(57)【要約】
本発明は、移植に伴う傷害から肺などの臓器を保護するための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、移植に伴う虚血/再灌流傷害などの傷害から肺を保護するための、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子に関する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植用の肺を保護または保存する方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を前記肺に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物を体外肺灌流(EVLP)中に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SDGが(S,S)−SDGである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記SDGが(R,R)−SDGである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記SDGが合成SDG(LGM2605)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物を噴霧器で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物をエアロゾルの形態で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物を静脈内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記SDGを生理食塩水として投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記SDGをナノモル(nM)〜ミリモル(mM)の範囲の濃度で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記肺がヒト肺である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象に対する移植のために前記肺を判断するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
移植用の肺を調製する方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を前記肺に投与することを含む、方法。
【請求項14】
前記組成物を体外肺灌流(EVLP)中に投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記SDGが(S,S)−SDGである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記SDGが(R,R)−SDGである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記SDGが合成SDG(LGM2605)である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物を噴霧器で投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物をエアロゾルの形態で投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物を静脈内投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記SDGを生理食塩水として投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記SDGをナノモル(nM)〜ミリモル(mM)の範囲の濃度で投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記肺がヒト肺である、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
対象に対する移植のために前記肺を判断するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
対象に対する移植前のドナー臓器を延命する方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を前記ドナー臓器に投与することを含む、方法。
【請求項26】
前記組成物を体外肺灌流(EVLP)中に投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記SDGが(S,S)−SDGである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記SDGが(R,R)−SDGである、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記SDGが合成SDG(LGM2605)である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物を噴霧器で投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物をエアロゾルの形態で投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物を静脈内投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記SDGを生理食塩水として投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記SDGをナノモル(nM)〜ミリモル(mM)の範囲の濃度で投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記対象がヒトである、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
対象に対する移植のために前記ドナー臓器を判断するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
ヒト患者の移植用ドナー肺の移植片拒絶の尤度を低下させる方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を前記肺に投与することを含む、方法。
【請求項38】
ヒト患者の肺移植に伴う原発性移植片機能不全(PGD)の尤度を低下させる方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を前記患者に移植する前の前記肺に投与することを含む、方法。
【請求項39】
ヒト患者の肺移植の合併症の尤度を低下させる方法であって、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を移植前の前記肺に投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記合併症が閉塞性細気管支炎である、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植に伴う傷害から肺などの臓器を保護するための組成物および方法に関する。特に、本発明は、移植に伴う虚血/再灌流傷害などの傷害から肺を保護するための、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子に関する。
【背景技術】
【0002】
肺移植は確立された外科的選択肢であり、進行した慢性疾患に罹患した肺を健常ドナー肺に取り換えることを意味し、肺保存および再灌流の際の血流の停止に伴う虚血エピソードを含む。虚血再灌流(IR)傷害は原発性移植片機能不全(PGD)として臨床的に知られており、移植手術の転帰不良の主な原因である。IR傷害またはPGDを生じさせる機序として、炎症および免疫傷害修復反応が考えられる。炎症反応の一部において、被移植者の血行から多形核好中球(PMN)を動員し、それを移植した(ドナー)肺に接着し移行する形をとる。肺血管の内皮層から発せられるシグナルが、PMNの動員および血管壁への接着を生じさせると思われるが、これらのシグナルがどのようにいつ誘導されるかは不明である。肺虚血(すなわち、肺内の血流の停止)により、内皮細胞シグナル伝達カスケードの活性化が引き起こされ、これが活性酸素種(ROS)の生成につながる。これらの観察に基づいて、保管に伴う肺虚血がおそらくROSを介して炎症部分の誘導を引き起こすと差し支えなく結論づけることができる。
【0003】
炎症とは、損傷関連分子パターン(DAMP)やその受容体(パターン認識受容体[PRR])などの多くの前炎症性メディエータにより調節される複雑なプロセスである。high−mobility group box 1(HMGB1)のDAMPタンパク質の増加およびそのPRRの発現の増加、終末糖化産物受容体(RAGE)は、炎症の発症および増幅において重要であり、IRおよび内毒血症などの多くの炎症病理に関係があるとされている。このHMGB1−RAGE軸は、インフラマソームの活性化によって炎症カスケードを誘発するために細胞が用いる協調反応の一部である。インフラマソーム(感染または組織損傷に応答して形成される多量体タンパク質複合体)により、臓器全体の統合的で簡潔な炎症状態が分かる。インフラマソームは、サイトカインおよびケモカインの産生を誘発し、それにより接着分子の発現を増加させ、内皮に対するさらなるPMNおよび他の免疫細胞の接着を引き起こすため、炎症の増幅において極めて重要である。
【0004】
したがって、移植に伴う傷害から肺などのドナー臓器を保護するための方法および組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書の一態様において、有効量のセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)、その類似体、その立体異性体、その代謝産物、またはそれらの組み合わせを含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、対象に対する移植前のドナー臓器を延命する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0006】
本明細書の別の態様において、有効量のセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)、その類似体、その立体異性体、その代謝産物、またはそれらの組み合わせを含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、移植用ドナー臓器を保護または保存する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0007】
本明細書の別の態様において、有効量のセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)、その類似体、その立体異性体、その代謝産物、またはそれらの組み合わせを含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、移植用ドナー臓器を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0008】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を肺に投与することを含む、ヒト患者の移植用ドナー肺の移植片拒絶の尤度を低下させる方法を提供する。
【0009】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を患者に移植する前の肺に投与することを含む、ヒト患者の肺移植に伴う原発性移植片機能不全(PGD)の尤度を低下させる方法を提供する。
【0010】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を移植前の肺に投与することを含む、ヒト患者の閉塞性細気管支炎などの肺移植合併症の尤度を低下させる方法を提供する。
【0011】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、肺などの移植用ドナー臓器に有効量を対象に対する移植前に投与してドナー臓器を延命するために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、肺などの移植用ドナー臓器に有効量を投与して移植用ドナー臓器を保護、調製、または保存するために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、移植用ドナー肺に有効量を投与してヒト患者のドナー肺に対する移植片拒絶または原発性移植片機能不全(PGD)の尤度を低下させるために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、移植用ドナー肺に有効量を投与してヒト患者の閉塞性細気管支炎などの肺移植合併症の尤度を低下させるために、組成物を製剤する。
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、実施例、および図面から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正が、詳細な説明により当業者には明らかになるであろうことから、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい実施形態を示すものの、単に例示にすぎないことを理解されたい。
【0013】
本発明は、図面と併せて以下の詳細な説明を読むことにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】ヒトドナー肺(B)の体外肺灌流(EVLP)モデルシステム(A)を示す図である。
【図1B】ヒトドナー肺(B)の体外肺灌流(EVLP)モデルシステム(A)を示す図である。
【図2】EVLPシステムにおいて噴霧器を介してヒトドナー肺に投与したLGM2605を、LC/MS/MSを用いてBALF、灌流液および肺組織中で数時間にわたって検出することができることを示す図である。
【図3A】EVLPヒト肺の血行動態計測値を示す図である。EVLPシステムにおいて噴霧器を介してヒトドナー肺に投与したLGM2605により、酸素化(P/F比)(図3A)、静的コンプライアンス(図3B)および動的コンプライアンス(図3C)が向上する。
【図3B】EVLPヒト肺の血行動態計測値を示す図である。EVLPシステムにおいて噴霧器を介してヒトドナー肺に投与したLGM2605により、酸素化(P/F比)(図3A)、静的コンプライアンス(図3B)および動的コンプライアンス(図3C)が向上する。
【図3C】EVLPヒト肺の血行動態計測値を示す図である。EVLPシステムにおいて噴霧器を介してヒトドナー肺に投与したLGM2605により、酸素化(P/F比)(図3A)、静的コンプライアンス(図3B)および動的コンプライアンス(図3C)が向上する。
【図4】エアロゾル化LGM2605(SDG):試験デザインを用いたEVLPヒト肺の血行動態計測値を示す図である。
【図5】エアロゾル化LGM2605で処置したヒト肺(EVLP)組織において、NRF2により調節されるストレス応答酵素であるHO−1の遺伝子発現レベルが低下することを示す図である。時間「0」は、LGM2605のエアロゾルを投与した時間である。
【図6】LGM2605で処置したヒト肺(EVLP)組織において、NRF2により調節される抗酸化酵素であるNQO1およびGSTM1の遺伝子発現レベルが増加することを示す図である。時間「0」は、SDGのエアロゾルを投与した時間である。
【図7】LGM2605で処置したヒト肺(EVLP)組織において、炎症性サイトカインであるIL1−βおよびIL−6の遺伝子発現レベルが低下することを示す図である。
【図8】LGM2605で処置したヒト肺(EVLP)組織において、COX−2(炎症および疼痛を促進する酵素)の遺伝子発現レベルが低下することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、移植に伴う傷害から肺などの臓器を保護するための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、移植に伴う虚血/再灌流傷害などの傷害から肺を保護するための、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子に関する。
【0016】
本出願の発明者らは、意外にも予期せずに、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのSDGならびに関連分子が強力なROSスカベンジャーであり、そのことにより肺移植に伴う虚血/再灌流(IR)傷害を予防するために使用できることを見出した。本発明者らは、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのSDGならびに関連分子が強力な抗炎症特性およびインフラマソーム阻害特性を有することを示し、その結果、IR傷害を阻止するために使用できることを見出した。本発明者らはまた、天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのSDGならびに関連分子を、肺保存期間を延長し、臓器状態を改善し、移植片拒絶の尤度を低下させ、閉塞性細気管支炎(BO)を治療するために用いることができるエビデンスを得た。
【0017】
SDGとは、アマ、ヒマワリ、ゴマ、およびカボチャの種子に存在する抗酸化物質のフィトエストロゲンである。食品では、アマニを含有する市販のパンに含まれ得る。アマニ、その生理活性成分およびその代謝産物は当該技術分野で知られており、米国特許出願公開第2010/0239696号、同第2011/0300247号、および同第2014/0308379号ならびに国際出願公開WO2014/200964号に記載されており、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0018】
アマニに含まれる主なリグナンは、植物の天然状態で共役セコイソラリシレシノールジグルコシド(SDG)として貯蔵される、2,3−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシベンジル)ブタン−1,4−ジオール(セコイソラリシレシノールまたはSECO)である。SDGはヒト腸内で代謝され、エンテロジオール(ED)とエンテロラクトン(EL)になる。エンテロジオールとエンテロラクトンの合成類似体が当該技術分野で知られている(例えば、Eklund et al.、Org.Lett.、2003、5:491を参照)。
【0019】
SDGの抽出精製手法は当該技術分野で知られており、米国特許第5,705,618号に記載されており、参照によりその全体が組み込まれる。SDG、その立体異性体および類似体の合成手法は、Mishra OP,et al.、Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters 2013、(19):5325−5328および国際出願公開WO2014/200964号に記載されており、それらは参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本明細書において、合成SDGはLGM2605とも呼ばれる。本明細書で提供する方法で使用するための生理活性成分を、当該技術分野で知られているように、哺乳動物で容易に代謝可能な形態のエンテロジオール(ED)またはエンテロラクトン(EL)に化学的に直接合成することもできる。
【0020】
本明細書で用いる用語「代謝産物」とは、代謝または代謝過程で産生される物質を指すこともある。例えば、SDGの代謝産物は、ELまたはEDである。
【0021】
当業者であれば、代謝産物が天然代謝産物の化学的合成等価物であり得ることを理解されよう。
【0022】
本明細書で用いる用語「類似体」とは、その構造が他の化合物の構造に関連する化合物を指すこともある。類似体は合成類似体であってもよい。
【0023】
本明細書で用いる用語「成分(ingredient)」または「成分(component)」とは、混合物または化合物の要素または構成要素を指すこともある。
【0024】
「医薬組成物」とは、薬学的に許容される担体または希釈剤とともに、有効量の有効成分、例えば(S,S)−SDG、(R,R)−SDG、メソSDG、SDG、SECO、EL、EDおよびそれらの類似体を指す。「有効量」とは、所与の条件および投薬レジメンに効果をもたらす量を指す。
【0025】
本明細書に記載の組成物は、「有効量」を含むことができる。「有効量」とは、所望の結果を達成するのに必要な量および期間の有効な量を指す。個体または臓器の病状、年齢、性別、および重量ならびに個体または臓器において所望の反応を引き出す組成物の能力などの要因に応じて、有効量は変動し得る。有効量とはまた、有益効果が分子の毒性効果または有害効果を上回る量である。
【0026】
本明細書の一態様において、有効量のセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)、その類似体、その立体異性体、その代謝産物、またはそれらの組み合わせを含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、対象に対する移植前のドナー臓器を延命する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0027】
本明細書の別の態様において、有効量のセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)、その類似体、その立体異性体、その代謝産物、またはそれらの組み合わせを含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、移植用ドナー臓器を保護または保存する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0028】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物をドナー臓器に投与することを含む、移植用ドナー臓器を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、ドナー臓器は肺である。
【0029】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を肺に投与することを含む、ヒト患者の移植用ドナー肺の移植片拒絶の尤度を低下させる方法を提供する。
【0030】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を患者に移植する前の肺に投与することを含む、ヒト患者の肺移植に伴う原発性移植片機能不全(PGD)の尤度を低下させる方法を提供する。
【0031】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を移植前の肺に投与することを含む、ヒト患者の閉塞性細気管支炎などの肺移植合併症の尤度を低下させる方法を提供する。
【0032】
本明細書の別の態様において、有効量の天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDGおよびそれらの混合物などのセコイソラリシレシノールジグルコシド(secoisolaricirecinol diglucoside:SDG)ならびに関連分子を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、肺などの移植用ドナー臓器に有効量を対象に対する移植前に投与してドナー臓器を延命するために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、肺などの移植用ドナー臓器に有効量を投与して移植用ドナー臓器を保護、調製、または保存するために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、移植用ドナー肺に有効量を投与してヒト患者のドナー肺に対する移植片拒絶または原発性移植片機能不全(PGD)の尤度を低下させるために、組成物を製剤する。いくつかの実施形態において、移植用ドナー肺に有効量を投与してヒト患者の閉塞性細気管支炎などの肺移植合併症の尤度を低下させるために、組成物を製剤する。
【0033】
一例では、有効量の範囲は約1ナノモル(nM)〜約1モル(M)である。別の例では、有効量の範囲は約1nM〜約1mMである。別の例では、有効量の範囲はナノモル〜ミリモルである。さらに別の例では、有効量の範囲は約1nM〜約1μMである。
【0034】
本明細書で用いる語句「薬学的に許容される」とは、正当な医学的判断の範疇で、妥当なベネフィット/リスク比に鑑みて、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、もしくは他の問題または合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに好適な化合物、物質、組成物、担体、および/または剤形を指す。
【0035】
「薬学的に許容される賦形剤」とは、一般的に安全で非毒性であり、生物的にもその他の点でも望ましくはないものではない医薬組成物を調製するのに有用な賦形剤を意味し、獣医用途およびヒト医薬用途で許容される賦形剤を含む。本明細書で用いる「薬学的に許容される賦形剤」には、そのような賦形剤の1種および2種類以上の両方が含まれる。
【0036】
経口、非経口、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、心室内、脳内、膣内、腫瘍内または頬側などの当業者に公知の任意の好適な方法により、医薬組成物を対象に投与することができる。有効成分を適切なポリマーに包埋し、その後、皮下、腫瘍内、頬側、皮膚パッチとして、または膣に挿入することにより、徐放することもできる。医療機器を有効成分で被覆することもできる。
【0037】
いくつかの実施形態において、液状製剤または固形製剤として、投与に好適な形態で医薬組成物を製剤する。好適な液剤として、エアロゾル、溶液、懸濁液、分散液、乳濁液、および油などが挙げられる。好適な固形剤として、錠剤、カプセル、丸剤、粒剤、およびペレットなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、医薬組成物を液状製剤の静脈注射により投与する。いくつかの実施形態において、医薬組成物を静脈内投与するため、静脈内投与に好適な形態で製剤する。
【0038】
一例では、本明細書で提供する医薬組成物は徐放性組成物、すなわち、アマニ、その生理活性成分、またはその代謝産物が投与後一定期間にわたって放出される組成物である。徐放性組成物または持効性組成物として、脂溶性デポ剤(例えば、脂肪酸、ワックス、油)の製剤が挙げられる。別の例では、組成物は速放性組成物、すなわち、アマニ、その生理活性成分、またはその代謝産物のすべてが投与直後に放出される組成物である。
【0039】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供する方法で使用するための組成物を、1日1回投与する。いくつかの実施形態において、組成物を、2日に1回、1週間に2回、1週間に1回、または2週間に1回投与する。
【0040】
天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDG、(S,R)−SDG、(R,S)−SDG、メソSDG、SECO、EL、EDまたはそれらの類似体を、0.1ng/kg〜500mg/kgの用量で投与してもよい。
【0041】
天然SDG、合成SDG(LGM2605)、(S,S)−SDG、(R,R)−SDG、(S,R)−SDG、(R,S)−SDG、メソSDG、SDG、SECO、EL、EDまたはそれらの類似体を用いた治療において、単回投与または数日、数ヶ月、数年または無期限にわたって投与する。
【0042】
本明細書で用いる「治療(処置)する(treating)」とは、治療処置または防止的措置もしくは予防的措置を指すこともあり、その目的は、本明細書に記載のように、標的とする病態もしくは障害、またはその両方を予防または軽減することにある。
【0043】
さらに、本明細書で用いる用語「治療(処置)する(treat)」および「治療(処置)(treatment)」とは、治療処置および防止的措置または予防的措置を指し、その目的は、疾患または病気に伴う望まない生理的変化を予防または緩徐(軽減)することにある。検出可能であるか検出不能であるかに関わらず、有益な臨床結果または所望の臨床結果として、症状の緩和、疾患または病気の程度の減少、疾患または病気の安定化(すなわち、疾患または病気が悪化しないこと)、疾患または病気の進行の遅延または減速、疾患または病気からの回復または寛解、および疾患または病気の(部分的または全体的な)軽快が挙げられるが、限定されない。「治療(処置)(treatment)」とは、治療を受けてない場合の予測生存期間と比較して生存期間を延ばすことも意味することができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、治療ならびに本明細書に記載の方法および組成物を必要とする対象として、喘息、癌、COPD、および中皮腫などの肺疾患および肺障害に罹患した対象を挙げることができるが、限定されない。一例示的実施形態において、対象は、肺移植が必要な患者である。別の例示的実施形態において、対象は、肺移植を待っている患者である。別の例示的実施形態において、対象は、肺移植を予定している患者である。
【0045】
用語「対象」には、哺乳動物、例えばヒト、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ、およびトリなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、および家禽など)、および実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、およびトリなど)が含まれる。ヒトのほかに、対象には、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、スイギュウ、ダチョウ、モルモット、ラット、マウス、トリ(例えば、インコ)、および他の野生動物、家畜、または商業的に有用な動物(例えば、ニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、サカナ)が含まれていてもよい。用語「対象」は、あらゆる面で正常な個体を排除するものではない。用語「対象」には、病気またはその後遺症の治療を必要としているか、それに罹りやすいヒトが含まれるが、限定されない。
【0046】
用語「約」または「およそ」とは、当業者によって決定されるような特定の値に対する許容可能な誤差範囲内を意味し、値がどのように計測または決定されるかによって、すなわち、計測装置の限界に部分的に左右されよう。
【0047】
本明細書で引用する特許、特許出願および科学刊行物のすべては、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0048】
本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために、以下の実施例を提示する。しかしながら、これらは、本発明の広範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0049】
(実施例)
SDGは移植に伴う虚血/再灌流傷害から臓器を保護する
肺移植は、この20年間でかなりの進歩を遂げ、嚢胞性線維症などの特定の適応症に対する生存率が倍増した。これらの改善から、医師が患者に早期肺移植を提案することを勧奨する。腎臓や肝臓のような他の臓器とは異なり、移植候補の肺移植片に対する承認基準は非常に厳格であるため、脳死ドナーのわずか20%からしか肺が得られない。この厳しい選択は、肺移植後の高死亡率により動機づけられ、最初の5年間は約50%のままであった。利用可能な肺移植片の数を増やそうとする、いくつかの戦略が実施されている。生体ドナーからの臓器調達は、いまだ不確実なままである。あるチームは拡大した基準で肺を移植するが、これらの肺は、胸部X線異常、年齢70歳超、酸素化不良、または体外評価手順なしの吸引が原因で、最初にはねられている。多くの場合、この状況において移植後転帰に明らかな有害効果は見られなかった。しかしながら、いくつかの点でドナーの許容性の拡大が、主に初期移植片機能不全の割合を増加させ、より不良な早期転帰につながるといういくつかのエビデンスがある。
【0050】
体外肺灌流(EVLP)により体外のこれら「最低限」の肺を評価することで、これら臓器についてより客観的に再現性のある判断をすることができる。体外評価以外にも、EVLPにより肺保存期間を最大12時間延ばすことができる。有望な研究において、手順中に治療剤を送達することにより、損傷した移植片の保護または修復をEVLP中に行なうことができることが示唆された。本発明者らは、LGM2605(SDG)がそのような治療剤になり得ることで、肺保存期間を延長し、臓器状態を改善して、移植片拒絶および閉塞性細気管支炎(BO)などのさらなる慢性合併症の尤度を低下させるのに有用であり得るエビデンスを提供する。
【0051】
体外肺移植片灌流試験デザイン
地元の臓器調達機関(いのちの贈り物)を通じて、ドナー肺が本発明者らの肺移植プログラムに提供され、匿名化した。組み入れ基準を満たすドナー肺(すなわち、非移植性)を回収し、標準的な冷蔵輸送手段により低カリウムデキストラン溶液(Perfadex、Vitrolife)に入れた状態で本発明者らのセンターに送付し、EVLPシステムで3〜6時間灌流した。灌流期間中、ドナー体重1キログラムあたり7mlの一回呼吸量および1分あたり7回の呼吸速度を用いて肺に人工呼吸を施しながら、EVLP中のPO:FIO比、すなわち吸入酸素濃度(FIO)に対する体外酸素分圧(PO)が350mmHg以上であり、3つの生理計測値(肺血管抵抗、動的コンプライアンス、および最大吸気圧)のすべてのベースラインレベルからの劣化が15%未満である場合に、肺は移植に対して好適であるとみなされた(図1)。
【0052】
手法:無細胞EVLP手法の詳細については他に記載されている(Cypel et al.、N Engl J Med. 2011 Apr 14;364(15):1431−40)。3〜6時間のEVLPの後、10分間かけて肺を4℃まで冷却した。その後、灌流および人工呼吸を停止し(肺を保管するため、FIOを0.21に変更)、気管を完全吸気時にクランプし、肺を膨張状態で維持した。次いで、肺をPerfadexに入れ、移植まで4℃で保菅した。
【0053】
体外機能判断:体外機能判断のため、FIOを1.0とし、一回呼吸量をドナー体重1キログラムあたり10ml、1分あたり10回の呼吸に設定した。次の計算により、EVLP中の肺機能を1時間ごとに評価した:PO=[左心房PO−肺動脈PO(mmHg)]、および肺血管抵抗=[(肺動脈圧−左心房圧)×80]÷肺動脈流(ダイン・秒・cm−5)、動的コンプライアンス(水1センチメートルあたりミリリットル)および最大吸気圧(水センチメートル)。軟性気管支鏡検査を、EVLPのベースライン、3時間、および6時間の時点に行った。
【0054】
LGM2605(SDG)はヒト肺組織内に蓄積する:LC/MS/MS分析技法を用いて、200mgの薬物/肺のエアロゾル滴下注入30分後から360分の複数の時点にわたる左右の肺組織、気管支肺胞洗浄液(BALF)および灌流液中の合成SDG(LGM2605)レベルを決定した(図2)。ここで重要なのは、エアロゾル化SDG(LGM2605)(すなわち、気道に滴下注入される)が体循環に漏出し、灌流液中で少なくとも240分間検出できることである。重要なことに、肺組織生検中のレベルにおいて、120分までに最長240分まで持続する薬物の最大値が示される。さらに、BALF中のレベルが360分超持続する。送達経路(吸入または静脈内)に関係なく、SDG(LGM2605)は、肺に蓄積する。
【0055】
LGM2605(SDG)により肺酸素化とコンプライアンスが改善する:上記と同じ肺(EVLP#3)のエアロゾル化薬物(SDG(LGM2605))により、動的コンプライアンス(中央)と静的コンプライアンス(最後のパネル)が改善されつつ、P/F比が200から350未満まで改善した(図3、第1パネル)。したがって、SDGにより、EVLP肺滴下注入後数分内に肺血行動態計測値が改善した。
【0056】
NRF2により調節されるストレス応答酵素であるHO−1の遺伝子発現レベル:別の試験(EVLP#4)において、SDG(LGM2605)を1つの肺(右)にのみ滴下注入し、一方、溶媒対照を対側肺に滴下注入した(図4)。薬物濃度(200mg/肺)を、上記と同様に保持した。定量RT−PCR(qRT−PCR)を用いた、EVLP肺組織における遺伝子発現変化の動態の分析により、肺に滴下注入したSDG(LGM2605)に会合したその肺におけるストレス応答遺伝子であるヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)が降下することが明らかになった(図5)。左肺の降下は、灌流液を介したその肺へのSDG(LGM2605)の作用を反映している可能性がある(薬物の一部が体循環中に現われることを上記に既に示した)。
【0057】
LGM2605(SDG)で処置したヒト肺(EVLP)組織において、NRF2により調節される抗酸化酵素であるNQO1およびGSTM1の遺伝子発現レベルが増加する:Nrf2とは、NQO−1やGSTMu1などの抗酸化の細胞保護遺伝子の発現を調節する転写因子である。したがって、本発明者らは、肺組織(EVLP#4)における遺伝子発現レベルを120分のサンプリング時間にわたって評価した。qRT−PCR分析により、SDG(LGM2605)で処置した肺では両遺伝子の発現が強く増加するが、溶媒で処置した肺では増加しないことが明らかになった。本発明者らの発見は、虚血の際のヒト肺組織における内因性抗酸化防御がSDGにより高まることを裏付けるものである(図6)。
【0058】
LGM2605(SDG)で処置したヒト肺(EVLP)組織において、炎症性サイトカインであるIL1−bおよびIL−6の遺伝子発現レベルが低下する:上記と同様に、溶媒で処置したリング(ling)とは対照的に、SDG(LGM2605)で処置した右肺では、IL−1βやIL−6などの炎症性サイトカインの発現レベルが有意に減少した(図7)。本発明者らの発見は、虚血の際のヒト肺組織の炎症性パラメーターがSDGにより低下することを裏付けるものである。
【0059】
LGM2605(SDG)で処置したヒト肺(EVLP)組織において、COX−2(炎症および疼痛を促進する酵素)の遺伝子発現レベルが低下する:シクロオキシゲナーゼ−2とは、トロンボキサンやプロスタングランジン(prostanglandins)などのプロスタノイドの形成を担う酵素である。COXを薬理学的に阻害することにより、炎症および疼痛の症状を和らげることができる。SDG(LGM2605)のエアロゾル滴下注入により、滴下注入50分以内にヒトEVLP肺組織におけるCOX−2の発現が完全に阻止される。溶媒で処置した肺における降下は、灌流液を介した薬物の作用を反映している可能性がある(体循環−図8)。
【0060】
発見のまとめ:統括すると、これらの発見は、SDG(LGM2605)が、EVLP中にヒト肺組織に蓄積すること;ヒト肺血行動態(P/F比、動的コンプライアンス、および静的コンプライアンス)を改善すること;酸化ストレス(HO1)を低下させること;組織抗酸化防御(NQO−1およびGSTMu1)を高めること;炎症性マーカー(IL−1βおよびIL−6)を低下させること;COX−2発現を低下させることを示す。
【0061】
添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は、その正確な実施形態に限定されず、当業者であれば添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲または精神の範囲から逸脱することなく様々な変更および修正が実施形態内で可能であることを理解されたい。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【国際調査報告】