(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】2021516545
(43)【公表日】20210708
(54)【発明の名称】網膜始原細胞の効率的増幅のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20210611BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20210611BHJP
【FI】
   !C12N1/00 G
   !C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】32
(21)【出願番号】2020545540
(86)(22)【出願日】20190306
(85)【翻訳文提出日】20201027
(86)【国際出願番号】EP2019055599
(87)【国際公開番号】WO2019170766
(87)【国際公開日】20190912
(31)【優先権主張番号】18305243.0
(32)【優先日】20180307
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518079208
【氏名又は名称】ソルボンヌ、ユニベルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
【住所又は居所】フランス国パリ、リュ、ド、レコール、ド、メドゥシンヌ、21
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
【住所又は居所】フランス国 75016 パリ リュ ミケランジュ 3
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
【住所又は居所】フランス国、エフ−75013 パリ、リュ・ドゥ・トルビアック 101
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】レイシュマン, サシャ
【住所又は居所】フランス、エフ−75003 パリ、リュ エルズヴィール、4
(72)【発明者】
【氏名】グーロー, オリヴィエ
【住所又は居所】フランス、エフ−75012 パリ、リュ ジュール セザール、9
(72)【発明者】
【氏名】サヘル,ホセ−アラン
【住所又は居所】フランス、エフ−75013 パリ、リュ デュラフォワ、4
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065BB02
4B065BB06
4B065BB14
4B065BB19
4B065BB20
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、栄養培地とSHH-経路アクチベーターとGSK3インヒビターを含んでなるか又は前記のものからなるヒト網膜始原細胞の拡大用の規定された細胞培養培地、網膜始原細胞拡大用の規定された細胞培養培地の使用、並びに(i)請求項1〜8のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地中にヒト網膜始原細胞の培養物を置くこと;及び(ii)前記細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養することを含んでなる、網膜始原細胞を拡大するためのインビトロ方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養培地とSHH-経路アクチベーターとGSK3インヒビターとを含んでなり、DAPT(CAS番号208255-80-5)を含まない、ヒト網膜始原細胞の拡大用の規定された細胞培養培地。
【請求項2】
FGF2及び/又はEGF及び/又はATPを更に含んでなる請求項1に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項3】
インスリンとトランスフェリンとの混合物を含む前神経サプリメントを更に含んでなる請求項1又は2に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項4】
前記前神経サプリメントが:
- BSA、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ビオチン、l-カルニチン、コルチゾン若しくはヒドロコルチゾン、エタノールアミン、d(+)ガラクトース、グルタチオン(還元型)、リノレン酸、リノール酸、酢酸レチニル、セレン、T3(トリヨード-1-サイロニン)、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの混合物;
- トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムの混合物;
- BSA、トランスフェリン及びインスリンの混合物;又は
- トランスフェリン、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、FGF2及びEGFの混合物
からなる前神経サプリメントより選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項5】
前記SHH-経路アクチベーターがパルモルファミン、SHH、SAG(Smoアゴニスト)、Hh-Ag 1.5又はジンクフィンガータンパク質Gli-2からなるリストより選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項6】
前記SHH-経路アクチベーターが1nM〜3μMの間の濃度のパルモルファミンである、請求項5に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項7】
前記GSK3インヒビターがSB-216763、SB-415286、CHIR-98023、CHIR99021、AR-A014418、L803ペプチド若しくはそのミリストイル化形態L803-mts又はLiClからなるリストより選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項8】
前記GSK3インヒビターが2〜10μMの間の濃度のCHIR99021である、請求項7に記載の規定された細胞培養培地。
【請求項9】
SHH-経路アクチベーター、GSK3インヒビター及びATPを少なくとも含んでなる培地サプリメント。
【請求項10】
EGF及びFGF2から選択される少なくとも1つの化合物、好ましくは両化合物EGF及びFGF2を更に含んでなる請求項9に記載の培地サプリメント。
【請求項11】
栄養培地と請求項9又は10に記載のサプリメント培地とを含んでなるキット。
【請求項12】
網膜始原細胞の多能性を維持するための、請求項9若しくは10に記載の培地サプリメント又は請求項11に記載のキットの使用。
【請求項13】
DMSO(ジメチルスルホキシド)を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞培養培地中の、好ましくは1×106細胞/250μL DMSO含有細胞培養培地の濃度の、凍結保存された網膜始原細胞(RPC)。
【請求項14】
f請求項1〜8のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地の、網膜始原細胞の拡大のための使用。
【請求項15】
(i)請求項1〜8のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地中にヒト網膜始原細胞の培養物を置くこと;及び
(ii)前記細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養すること
を含んでなる、網膜始原細胞を拡大するためのインビトロ方法。
【請求項16】
工程(i)及び(ii)の培養物が接着性である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記網膜始原細胞が少なくとも1回継代される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
工程(ii)で得られる細胞が網膜多能性を保持する、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
(i)ヒト網膜始原細胞の培養物を、請求項1〜8のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地中に置く工程;
(ii)前記細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養する工程;及び
(iiiPR)工程(ii)で取得される細胞を、DAPTを含んでいてもよい前神経培地中で培養する工程
を含んでなる、光受容体又はその前駆体を取得する方法。
【請求項20】
(i)ヒト網膜始原細胞の培養物を請求項1〜8のいずれか1項に記載の規定された細胞培養培地中に置く工程;
(ii)前記細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養する工程;
(iiiRG)工程(ii)で取得される細胞を前神経培地中で培養する工程;及び
(ivRG)工程(iiiRG)で取得される細胞を、DAPTを更に含む前神経培地中で培養する工程
を含んでなる、網膜神経節細胞を取得する方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
失明に至る網膜変性疾患、例えば加齢性黄斑変性症(AMD)又は緑内障は、それぞれ光受容体(PR)又は網膜神経節細胞(RGC)の喪失によって特徴づけられる。今日、幹細胞により、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)の細胞誘導物を用いる治療ストラテジは、変性網膜の回復治療について非常に有望である。
事実、マウスにおける概念研究の実証により、光受容体前駆体が成体哺乳動物網膜に組み込まれ、成熟機能的光受容体を形成することが可能であることが証明された。
ヒト多能性幹細胞に由来する網膜細胞治療の最近の進歩は、現在、十分な量の適切な細胞を創出するための容易で標準化されたプロトコルの開発が必要であるという技術的難関に直面している。
【0002】
本発明者らは、以前に、接着性ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を基に、胚様体形成及び外因性分子、コーティング又は基体の使用を回避する簡単な網膜分化法を開発した[1]。2017年に、この方法は、将来の臨床使用に必要な現行医薬品適正製造基準(cGMP)下でのその転位について最適化された[2]。よって、この方法を用いて、網膜始原細胞(RPC)を含有する網膜オルガノイド(網膜様組織)は4週間で作製することが可能である。更に、本発明者らは、単離された構造体の浮遊培養によりRPCの全ての網膜細胞タイプへの分化が可能となり、100日以下で移植適合性CD73+光受容体前駆体を作製できることを示した[2]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このプロトコルの臨床開発への移行に関する1つの制限は、潜在能を有する治療細胞の製造規模を拡大することが困難なことである。
この問題を克服するため、本発明者らは、増殖特性及び網膜多能性を保持しながら、cGMPに適合してヒトiPS-由来RPC(本発明においてhiRPC又はRPC)の効率的増幅を可能にする新たな培養環境を考案した。事実、本発明者らは、これら増幅したhiRPCが、将来の幹細胞ベースの移植又は高スループットな薬剤スクリーニングに有用である網膜細胞、例えば光受容体前駆体及び網膜神経節細胞(RGC)に分化可能であることを更に証明した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
規定された細胞培養培地
本発明の第1の目的は、栄養培地、SHH-経路アクチベーター及びGSK3インヒビターを含んでなるか又は前記のものからなる、ヒト網膜始原細胞の拡大のための規定された細胞培養培地である。
好ましくは、規定された細胞培養培地は、網膜始原細胞の有糸分裂能及び/又は網膜多能性を少なくとも2継代、好ましくは5継代、より好ましくは10継代の間維持するためのものである。
【0005】
本明細書中で意図されるように、表現「網膜始原細胞」又は「網膜始原細胞」(RPC)は、(i)網膜多能性、(ii)種々の網膜始原細胞マーカーの発現、及び(iii)有糸分裂能のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを示す細胞に関する。
本明細書で用いる場合、用語「増殖する」、「拡大する」又は「増幅する」は、細胞数の増加をもたらすプロセスを指称する。
本明細書で用いる場合、「網膜多能性」は、規定された細胞培養条件下で網膜前駆体細胞又は成熟網膜細胞に分化する網膜始原細胞の能力を指称する。用語「網膜細胞」は、神経網膜及び網膜色素上皮(RPE)の全ての細胞タイプを指称する。「神経網膜細胞」は、本明細書において、RGC、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、桿状及び錐体状光受容体細胞、ミュラーグリア細胞を含む。
【0006】
本明細書で用いる場合、「網膜始原細胞マーカー」は、発現、又はもはや発現されない事実及び/若しくは発現レベルが量的に測定されない事実を検証することによって、網膜始原細胞の同定を助けることを目的とする分子マーカーに関する。遺伝子マーカーは、当該分野において公地の種々の方法により確証することができる。例えば、分子マーカーの発現は、マーカー遺伝子のmRNAを、例えばqPCR法を用いて定量することにより定量してもよい。或いは、分子マーカーの発現は、マーカー遺伝子翻訳産物を、例えばイムノアッセイ、例えば免疫細胞化学及びイムノブロットアッセイにより、定量することによって評価してもよい。網膜始原細胞マーカーは、網膜形成初期の間の眼領域指定に関係する転写因子(網膜アイデンティティー遺伝子)、例えばPAX6、VSX2、RAX、LHX2又はSIX3であり、最初の2つが好ましい。幹細胞性マーカー(例えばSOX2)、神経原性マーカー(例えばSIX6又はASCL1)又は増殖マーカー(例えばKi67)の発現は、RPCの同一性を確証するために網膜アイデンティティー遺伝子との組合せで用いられてもよい。
【0007】
用語「有糸分裂能」は、増殖する細胞の能力を指称する。Ki67は増殖細胞のマーカーである。なぜならば、Ki67は、細胞サイクルの全ての活性期(G1、S、G2、有糸分裂期)の間存在するが、静止細胞(G0)には存在しないからである。
本発明に関して、用語「フィーダー-フリー」とは、フィーダー細胞を含まない培養物をいう。本明細書中で用いる場合、用語「フィーダー細胞」は、ヒト胚性及び人工多能性幹細胞の非分化増殖を支持する、分裂できない細胞(「成長が停止した細胞」)、例えば成長停止フィブロブラスト、特にヒト包皮フィブロブラスト、成体真皮フィブロブラスト及び初代マウス胚性フィブロブラスト(MEF)を含む。
【0008】
「栄養培地」とは、培養物中の動物細胞、特に体細胞又は多能性幹細胞の成長を支持することができる、塩、栄養物及びビタミンの水溶液をいう。栄養培地は当該分野において周知であり、最少栄養培地(細胞の成長を可能とする最少の栄養物、すなわち、代表的にはアミノ酸、グルコース、塩及びビタミンの混合物を含有するもの)及び特異栄養培地(特定の細胞タイプについて開発されたものであり、代表的には上記最少栄養を含み、更に目的の細胞タイプの成長及び/又は維持に有益である化合物を含むもの)に分類され得る。本発明に関して、最少栄養培地はタンパク質を含有しないと理解すべきである。本発明に関して、用語「タンパク質」とは、少なくとも50アミノ酸のポリペプチドをいう。
有利には、栄養培地は最少栄養培地である。最少栄養培地は、とりわけ、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Neurobasal培地(Gibco(登録商標))から選択することができる。DMEMはまたDMEM/F12又はDMEM-高グルコースであり得る。DMEM/F-12は、ダルベッコ改変イーグル培地及びハムF-12培地の1:1又は1:3混合物であり得る。栄養培地はまた、「幹細胞特異的栄養培地」、例えばThermo Fischer Scientific社によりEssential 6TM(E6)、Essential 7TM(E7)若しくはEssential 8TM(E8)培地として市販されているもの又はProB27のような前神経培地(proneural medium)であり得る。ProB27は、DMEM/F12、L-グルタミン、1%のMEM非必須アミノ酸、2%のB27サプリメント、10単位/mLのペニシリン及び10μg/mLのストレプトマイシンから本質的になる(Thermo Fischer Scientific)。E8培地は、DMEM/F12中のインスリン、セレン、トランスフェリン、L-アスコルビン酸、FGF2及びTGFβ(又はNODAL)から本質的になり、pHがNaHCO3でされている。より正確には、本培地は、Chenら[21]において次の通り規定されている:E8培地は、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム(64mg/l)、亜セレン酸ナトリウム(14μg/l)、FGF2(100μg/l)、インスリン(19.4mg/l)、NaHCO3(543mg/l)及びトランスフェリン(10.7mg/l)、TGFβ1(2μg/l)又はNODAL(100μg/l)を含有し、培地のオスモル濃度はpH7.4で340mOsmに調整される。
【0009】
E8/Essential 8TM培地に由来する幹細胞特異的栄養培地、例えばEssential 7TM(Thermo Fischer Scientific)として市販されているE7培地又はEssential 6TM(Thermo Fischer Scientific)として市販されているE6培地もまた使用し得る。E7培地は、E8培地の組成に類似する組成を有するが、TGFβを含有しない(すなわち、TGFβがない)。E7培地は、DMEM/F12中のインスリン、セレン、トランスフェリン、L-アスコルビン酸、FGF2から本質的になり、pHがNaHCO3で調整されている。E6培地は、E8培地の組成に類似する組成を有するが、TGFβ及びFGF2を含まない。E6培地は、DMEM/F12中のインスリン、セレン、トランスフェリン、L-アスコルビン酸から本質的になり、pHがNaHCO3で調整されている。E6N2培地は、1%のN2サプリメント(Thermo Fischer Scientific)、10単位/mLのペニシリン及び10μg/mLのストレプトマイシン(Thermo Fischer Scientific)を含むEssential 6からなる。好ましくは、幹細胞特異的栄養培地は、DMEM/F12中のインスリン、セレン、トランスフェリン、L-アスコルビン酸から本質的になり、pHがNaHCO3で調整され、TGFβ及び/又はFGF2を更に含んでいてもよい。ProB27、E6及びE6N2培地中に存在する成分を表1にまとめる。
【0010】
【表1】
【0011】
市販の幹細胞特異的栄養培地、例えばTeSRTM-E8(STEMCELL Technologies)、TeSRTM-E7(STEMCELL Technologies)、TeSRTM-E6(STEMCELL Technologies)、NutriStem(STEMGENT)及びiPS-Brew(Miltyeni)もまた使用し得る。
有利には、栄養培地は、DMEM若しくは幹細胞特異的栄養培地を含んでなるか又はDMEM若しくは幹細胞特異的栄養培地から本質的になる。
「ヘッジホッグシグナル伝達経路」又は「SHH経路」は当該分野において周知であり、例えばChoudhryら[4]により記載されている。ヘッジホッグリガンドは、例えばSonic Hedgehog、Indian Hedgehog及び/又はDesert Hedgehogを含み、(下流のシグナル伝達カスケードを誘導する)レセプター(例えば、パッチド又はパッチド-スムーズンドレセプター複合体(Patched or the patched-smoothened receptor complex)を含む)に結合する。SHHシグナル伝達の下流標的遺伝子としては、GLI1、GLI2及び/又はGLI3が挙げられる。
【0012】
「アクチベーター」は、本明細書中で用いる場合、標的分子又は経路の活性を増強又は誘導する化合物/分子として定義される。したがって、用語「アクチベーター」は、特定の経路に対し直接の活性化効果を有する分子/化合物も、例えば当該経路を負方向に調節する(例えば抑制する)分子と例えば相互作用することにより、間接的に活性化する分子も両方とも包含する。アクチベーターは、活性化すべき経路のアゴニストであり得る。化合物/分子が標的分子又は経路の活性を誘導又は増強することができるかどうかを試験する方法は、当業者に公知である。アクチベーターとして用いることができる化合物/分子は、それぞれの経路を活性化することができるか又は活性化すべき経路のサプレッサーを阻害することができる任意の化合物/分子であり得る。例示のアクチベーターとしては、例えば或る経路のサプレッサーを指向する適切な結合性タンパク質を挙げることができる。アクチベーターは、活性化すべき経路を、該アクチベーターを添加しないとき又は該アクチベーターの添加前の当該経路の活性と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれ以上増強又は増加させてもよい。
【0013】
したがって、用語「SHH-経路アクチベーター」とは、このシグナル伝達経路の一部を構成する上記分子のいずれのアクチベーターをもいう。ヘッジホッグシグナル伝達(SHH)の例示のアクチベーターとしては、パルモルファミン(9-シクロヘキシル-N-[4-(モルホリニル)フェニル]-2-(1-ナフタレニルオキシ)-9H-プリン-6-アミン;CAS No.:483367-10-8)、SHH、SAG(Smoアゴニスト)(スムーズンドアゴニスト)(3-クロロ-N-[トランス-4-(メチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[[3-(4-ピリジニル)フェニル]メチル]-ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド;CAS No.:912545-86-9)及びHh-Ag 1.5(3-クロロ-4,7-ジフルオロ-N-(4-(メチルアミノ)シクロヘキシル)-N-(3-(ピリジン-4-イル)ベンジル)ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド;CAS No.:612542-14-0)並びにジンクフィンガータンパク質Gli(Gli1、2及び3を含む)が挙げられる。
【0014】
SHH-経路アクチベーターはまた、パルモルファミン、SHH、SAGアナログ及びGliタンパク質ファミリーからなる群より選択されることができる。SHH経路アクチベーターはまた、SHHの組換え形態又はSHH経路活性化機能を保持する短縮形態(例えばSHH C24II)であることができる。
パルモルファミンのようなSHH経路アクチベーターは、好ましくは1nM〜0.5μM、より好ましくは500nM〜0.5μM、更により好ましくは100nM〜0.5μM、最も好ましくは0.5〜1.5μMの濃度で用いることができる。SHHのようなSHH経路アクチベーターはまた、50〜1000ng/mlの濃度で用いることができる。SHH C24IIのようなSHHシグナル伝達経路アクチベーターはまた、10〜500ng/mlの濃度で用いることができる。SAGのようなSHHシグナル伝達経路アクチベーターはまた、1〜500nMの濃度で用いることができる。Hh-Ag1.5のようなSHHシグナル伝達経路アクチベーターはまた、1〜100nMの濃度で用いることができる。
【0015】
グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)は、2つの類似するイソフォームα及びβとして発現するセリン/スレオニンキナーゼである。或る数のバリアントが記載されている[5]。GSK3は、当初、インスリンシグナル伝達及び代謝調節に関連付けれたが、後の研究で、i胚形成、有糸分裂調節、炎症及び神経可塑性の役割が追加的に同定された。事実、GSK3は、多様なシグナル伝達経路及び細胞機能で役割を演じ、アポトーシス、細胞サイクル、細胞極性及び遺伝子発現の調節に寄与している。代表的には細胞外シグナル伝達により活性化される他の多くのタンパク質キナーゼとは異なり、GSK-3は、静止状態で構成的に活性であり、種々の刺激により迅速な阻害を受ける。GSK3の下流標的のリン酸化は、代表的には、シグナル伝達経路の減衰及び/又は基質の活性の阻害をもたらす。例えば、GSK3は、グリコーゲンシンターゼをリン酸化して阻害し、インスリンレセプター基質タンパク質IRS-1及びIRS-2のリン酸化を介してインスリンシグナル伝達を阻害する。他方で、GSK3は、正準なWntシグナル伝達経路のメディエーターとしても知られ、GSK3はWnt経路のカギとなる標的であるβ-カテニンをリン酸化することにより、プロテオソームの分解を増強し、転写活性を抑制する。
【0016】
したがって、用語「GSK3インヒビター」とは、本明細書に記載のとおり、GSK3に直接結合することによりその触媒活性に干渉することができる分子をいう。例えば、GSK3インヒビターは、マレイミド誘導体、例えば、SB-216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン、CAS番号280744-09-4)及びSB-415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン、CAS番号:264218-23-7)、アミノピリミジン、例えばCHIR-98023(N'-[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イル]-N-(5-ニトロピリジン-2-イル)エタン-1,2-ジアミン、CAS番号:252916-76-0)及びCHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル、CAS番号:252917-06-9)、又はアミノチアゾール、例えばAR-A014418(1-[(4-メトキシフェニル)メチル]-3-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ウレア、CAS番号:487021-52-3)から選択されるATP競合インヒビターであってもよい。GSK3インヒビターはまた、GSK3基質競合ペプチドインヒビター、例えばL803ペプチド(CAS番号:348089-28-1)又はそのミリストイル化形態L803-mts(CAS番号:1043881-55-5)であってもよい。GSK3インヒビターはまた、GSK3 Mg2+共基質の競合インヒビター、例えばリチウム塩、好ましくはLiClであってもよい。
【0017】
CHIR99021のようなGSK3インヒビターは、1〜10μM、好ましくは1〜8μM、より好ましくは2〜4μM、最も好ましくは3μMの濃度で用いることができる。
好ましくは、規定された細胞培養培地は、前神経サプリメント(proneural supplements)を更に含んでなる。当業者は、栄養培地及び前神経サプリメントの相対的比率を容易に規定し得る。好ましくは、前神経サプリメントの体積は、規定された細胞培養培地の最終体積の1%〜2%である。
【0018】
本明細書中で用いる場合、「前神経サプリメント」は、本質的に、インスリン及びトランスフェリンの混合物を含んでなるか又は該混合物からなる。例えば、前神経サプリメントは、BSA、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ビオチン、l-カルニチン、コルチゾン若しくはヒドロコルチゾン、エタノールアミン、d(+)ガラクトース、グルタチオン(還元型)、リノレン酸、リノール酸、酢酸レチニル、セレン、T3(トリヨード-1-サイロニン)、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの混合物;トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムの混合物;BSA、トランスフェリン及びインスリンの混合物;又はトランスフェリン、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、FGF2及びEGFの混合物であり得る。
適切な前神経サプリメントは、周知のサプリメント、例えばN2、B27、G5及びBIT9500サプリメント並びにこれらに由来する任意のサプリメントから選択されてもよい。これらサプリメント中に存在する成分を下記の表2にまとめる。
【0019】
【表2】
【0020】
好ましくは、「規定された細胞培養培地」は、動物由来製剤、例えば血清アルブミン(血液から精製)、加水分解物、成長因子、ホルモン、キャリアタンパク質及び接着因子を更に含んでなる。
好ましくは、「規定された細胞培養培地」は血清フリーである。すなわち、本発明に関しては、「規定された細胞培養培地」は、動物供給源から取得した血清、例えばウシ胎仔血清(FBS)を含まない。
【0021】
好ましくは、「規定された細胞培養培地」は異種フリー(xeno-free)である。すなわち、本発明に関しては、規定された細胞培養培地の全てのタンパク質はヒト起源に由来する。更に好ましい実施形態によれば、規定された細胞培養培地は、組換え成分又はヒト化成分のみを用いて製剤化される。本発明に関して、この定義は、両方の成分、より具体的にはヒトサンプルから単離したタンパク質及び組換えヒト成分、例えば組換えタンパク質を包含することを理解すべきである。組換えヒトタンパク質を用いる場合、当該タンパク質は、用いる核酸配列がヒト起源であるか又はヒト起源の配列に由来すれば、ヒト細胞以外の生物において産生されてもよい。
有利には、規定された細胞培養培地は、ATPを、好ましくは5〜500μM、より好ましくは50〜150μM、更により好ましくは90〜110μM、最も好ましくは100μMの濃度で含んでもよい。
【0022】
実験の部で記載するように、規定された細胞培養培地はまた、上皮増殖因子(EGF)及び/又はフィブロブラスト増殖因子2(FGF2)を含んでなってもよいが、これは必須ではない。このように規定された細胞培養培地は、網膜始原細胞の拡大に更に効果的であるが、拡大された網膜始原細胞における有糸分裂能及び網膜多能性の維持も達成する。好ましい1つの実施形態において、EGFは、50〜200ng/ml、好ましくは75〜150ng/ml、更により好ましくは90〜110ng/ml、最も好ましくは100ng/mlの濃度で添加される。好ましい1つの実施形態において、FGF2は、5〜20ng/ml、好ましくは7,5〜15ng/ml、更により好ましくは9〜11ng/ml、最も好ましくは10ng/mlの濃度で添加される。
【0023】
有利には、規定された細胞培養培地は、栄養培地(好ましくはDMEM-F12)と、SSH-経路アクチベーター及びGSK3インヒビター(好ましくはパルモルファミン及びCHIR99021)と、前神経サプリメントとを含んでなるか又は前記のものからなり、ここで、前神経サプリメントは、インスリン及びトランスフェリンを含む混合物であり、前記混合物は、
- BSA、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ビオチン、l-カルニチン、コルチゾン若しくはヒドロコルチゾン、エタノールアミン、d(+)ガラクトース、グルタチオン(還元型)、リノレン酸、リノール酸、酢酸レチニル、セレン、T3(トリヨード-1-サイロニン)、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの混合物;
- トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン及び亜セレン酸ナトリウムの混合物;
- BSA、トランスフェリン及びインスリンの混合物;又は
- トランスフェリン、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、FGF2及びEGFの混合物
からなるリストから選択される。
【0024】
有利には、規定された細胞培養培地は、SHH-アクチベーター及びGSK3インヒビター以外の因子を含有しない。好ましい1つの実施形態によれば、規定された細胞培養培地は、notchシグナル伝達の分子インヒビター、例えばDAPTを含まない。有利には、規定された細胞培養培地は、TGF-β/BMPの分子インヒビター、好ましくは形質転換増殖因子-β(TGF-β)スーパーファミリータイプIアクチビンレセプター様キナーゼALK-4、ALK-5及びALK-7の分子インヒビター、例えばSB431542を含まない。有利には、規定された細胞培養培地は、Wntシグナル伝達の分子インヒビター、例えばWnt Production-2のインヒビター(IWP2)又はDkk1を含まない。有利には、規定された細胞培養培地は、ヒト白血病阻害因子を含まない。
【0025】
培地サプリメント
別の観点において、本発明は、SHH-経路アクチベーター、GSK3インヒビター及びATPを含んでなる培地サプリメントに関する。好ましくは、前記培地サプリメントは、EGF及びFGF2から選択される少なくとも1つの化合物を更に含んでなり、より好ましくは両化合物EGF及びFGF2を更に含んでなる。この培地サプリメントは、多能性及び有糸分裂能を備えるRPCの取得を可能にする。実施例に示すように、マーカー遺伝子RAX、VSX2、LHX2、PAX6及びASCL1の発現は、多能性の維持を示し、Ki67の発現は、増殖能の維持を示す。
【0026】
キット
本発明の別の1つの主題は、栄養培地と、少なくともSHH-経路アクチベーター、GSK3インヒビター及びATPを含む培地サプリメントとを含んでなるキットである。好ましくは、前記培地サプリメントは、EGF及びFGF2から選択される少なくとも1つの化合物を更に含んでなり、より好ましくは両化合物EGF及びFGF2を更に含んでなる。
別の1つの観点によれば、本発明は、網膜始原細胞の多能性及び有糸分裂能を維持するための、少なくともSHH-経路アクチベーターGSK3インヒビター及びATPを含んでなるサプリメント培地の使用に関する。好ましくは、前記培地サプリメントは、EGF及びFGF2から選択される少なくとも1つの化合物を更に含んでなり、より好ましくは両化合物EGF及びFGF2を更に含んでなる。
【0027】
本発明の好ましい1つの実施形態において、SHH-経路アクチベーターはパルモルファミンであり、及び/又はGSK3インヒビターはCHIR99021である。
本明細書中で用いる場合、用語「サプリメント5」(又は「S5」)は、5つの化合物:パルモルファミン、CHIR99021、FGF2、EGF及びATPを含んでなるサプリメントを指称する。
本発明の1つの実施形態によれば、本発明に従う規定された細胞培養培地は、栄養培地としてのProB27とS5とを含んでなる;この細胞培養培地をK+と呼ぶ。
本発明の別の1つの実施形態によれば、本発明に従う規定された細胞培養培地は、栄養培地としてのE6培地とS5とを含んでなる;この細胞培養培地をE6+S5と呼ぶ。
ProB27、E6培地、K、K+及びE6+S5中に存在する成分を表3にまとめる。
【0028】
【表3】
【0029】
本発明の細胞培養培地、例えばK、K+又はE6+S5の使用により、RPCをhiPSCから単離し、増幅し、多能性及び有糸分裂能を維持することができる。
本発明は、多数の多能性細胞の取得を可能にする。この多数の細胞は直接用いることも、将来の使用のために貯蔵することもできる。
【0030】
有利には、RPCは、例えばK、K+、ProB27+S5若しくはE6+S5培地又は他の任意の栄養培地とS5とを含んでなる培地中の、浮遊条件下で、或いは接着性条件下で、増幅させる。この接着性培養に用いることができる表面の非限定的な例は、ガラス、プラスチック(場合により表面処理したもの)、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、MatrigelTM、GeltrexTM、CellStartTM、ポリ-L-リジン、フィーダー細胞又は市販の任意の合成表面、例えばCorning SynthemaxTMである。増幅後、RPCは、DMSOを含む本発明による細胞培養培地、例えば10% DMSO(ジメチルスルホキシド)含有増幅培地E6+S5中又は特定の凍結保存培地、例えばCryoStem(登録商標)中に凍結保存させることができる。実際、解凍後、5つの化合物(パルモルファミン、CHIR99021、FGF2、EGF及びATP)はRPCの有糸分裂能を維持する(実施例3)。更に、解凍したRPCは多能性を維持する。なぜならば、それらが、RPC遺伝子RAX、PAX6、VSX2、SIX6、SOX2及びASCL1の発現を維持する一方、CRXは低レベルに維持されるからである(実施例3)。
【0031】
本発明の別の1つの観点は、本発明の細胞培養培地、好ましくはE6+S5培地の存在下の凍結保存RPCに関する。
よって、本発明の細胞培養培地を用いることにより、本発明者らは、凍結保存による保存が可能である十分な数のRPCの取得に成功した。有利には、凍結保存RPCは生存可能である。
好ましくは、凍結保存RPCの数は、250μLのDMSOを含む本発明の細胞培養培地、例えば10% DMSO(ジメチルスルホキシド)含有増幅培地E6+S5又は特定の凍結保存培地、例えばCryoStem(登録商標)あたり少なくとも1×106細胞の濃度である。
【0032】
方法
本発明はまた、ト網膜始原細胞の拡大のための、上記の規定された細胞培養培地の使用に関する。
別の1つの観点によれば、本発明は、ヒト網膜始原細胞を拡大するインビトロ方法に関し、当該方法は
(i)ヒト網膜始原細胞を含んでなる培養物を、本発明の規定された細胞培養培地中に置くこと;及び
(ii)当該細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養すること
を含んでなる。
【0033】
本発明に関して、用語「ヒト網膜始原細胞」は、上記のとおりに解釈すべきである。jこの細胞は、当業者が、当該分野で公知の方法により容易に取得し得る。実験の部に記載するように、ヒト網膜始原細胞はヒト多能性幹細胞に由来し得る。ヒト網膜始原細胞をインビトロで取得する方法は、WO 2014/174492及びReichmanら(2017)[2]に記載される。簡潔には、当該方法は、(iPS)ヒト多能性幹細胞の接着性培養物を前神経培地中に置く工程;(iiPS)この培養物を前記前神経培地中、神経上皮様構造の出現まで維持する工程を含んでなる。本発明に関して、「前神経培地」は、上記のとおり栄養培地及び前神経サプリメントを含んでなる培地を指称する。ヒト網膜始原細胞が、光受容体関連遺伝子、例えばCRXを有意に発現せず、眼領域特定(eye-field specification)に関連する転写因子を発現する(これらは任意の公知の方法、例えばqRT-PCR又は免疫染色により測定できる)細胞であることは周知である。有利には、当業者は、工程(iiPS)の終時を、培養細胞が光受容体マーカーCRXを、最大限1、2、3、4、5、6又は7倍の変化で発現し、同時に、網膜アイデンティティーマーカーVSX2を、少なくとも2若しくは3倍の変化で、及び/又は幹細胞性マーカーSOX2を、少なくとも10、11、12、13、14若しくは15倍の変化で、及び/又は神経性マーカー、例えばASCL1を、少なくとも15、16、17、18、19若しくは20倍の変化で発現する時として規定するように選択することができ、ここで、前記倍数は、ヒト多能細胞(この細胞が培養細胞に分化)又は培養物に対する倍数である。有利には、ヒト網膜始原細胞は、28日目〜49日目、より好ましくは42日目の神経上皮様構造の解離により取得される。
【0034】
「倍数変化」は、本明細書中で用いられる場合、初期値から最終値までの量的変化の大きさを記述する尺度である。例えば、初期値30及び最終値60は倍数変化2に相当し、一般的用語では2倍増に相当する。倍数変化は、初期値に対する最終値の比として単純に算出される。すなわち、初期値がAであり、最終値がBである場合、倍数変化はB/Aである。倍数変化は、マーカー(例えば本明細書に記載のもの)のmRNAレベルに関しても得ることができる。この倍数変化はRT-qPCRを用いて測定してもよい。
【0035】
有利には、網膜始原細胞を拡大する方法において、ヒト網膜始原細胞の培養物は接着性である。この培養物に用いることができる表面の非限定的例は、ガラス、プラスチック(場合により表面処理したもの)、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、MatrigelTM、GeltrexTM、CellStartTM、ポリ-L-リジン、フィーダー細胞又は市販の任意の合成表面、例えばCorning SynthemaxTMである。有利には、上記方法の接着性培養物はフィーダーフリーである。有利には、上記方法の接着性培養物は、少なくとも80%コンフルーエンスに達する単層の形態である。当業者は、接着性細胞に関するコンフルーエンスの概念を熟知しており、このコンフルーエンスを評価することができる。このコンフルーエンスは、特に培養物表面全体で均質でない場合、局所的に、すなわち或る領域のみで評価することができる。
【0036】
好ましくは、工程(ii)の培養物は、当該培養物中の細胞を拡大するに十分な時間、好ましくは少なくとも5日間〜15日間、より具体的には7〜20日間維持する。本発明による網膜始原細胞を拡大する方法の好ましい1つの実施形態において、網膜始原細胞は、少なくとも1回、より好ましくは少なくとも1回〜少なくとも30回、又は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、50、60若しくは70回継代する。細胞の継代は、当業者に周知の技術であり、とりわけ、細胞培養物から1又は2以上の細胞を採取し、該1又は2以上の細胞を新たな細胞培養培地、すなわち細胞の培養に未だ用いていない細胞培養培地に移すこととして規定され得る。2つの継代間の培養期間は、培養すべき細胞のタイプに応じて、当業者が容易に規定することができる;期間は、好ましくは、培養細胞が分化するに十分な長さである一方、細胞培養培地が培養細胞の最適な増殖若しくは複製を維持できなくなる又は培養細胞が例えば静止状態となるほど長くてはならない。好ましくは、2つの連続する継代の間の培養期間は、少なくとも5日間、より好ましくは少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15日間、最も好ましくは約7日間である。
【0037】
上記のとおり、本発明による規定された細胞培養培地は、ヒト網膜始原細胞を拡大するだけでなく、その有糸分裂能及び/又は網膜多能性を維持する。換言すれば、拡大された網膜始原細胞は網膜有糸分裂能及び/又は網膜多能性を示す。
好ましくは、本発明の方法において、工程(ii)から得られる細胞は、網膜色素上皮(RPE)並びに神経網膜細胞、例えば光受容体及び網膜神経節細胞へ分化する能力を有する。
有利には、網膜始原細胞を拡大する方法において、工程(ii)から得られる細胞は有糸分裂能及び/又は網膜多能性を保持する。
【0038】
当然のことながら、本発明による方法を実施する場合、当業者は、(その発現又はそれがもはや発現しない事実のいずれかを検証するため及び/又はその発現レベルを定量的に測定するため)対応するマーカーの発現の検査することにより、当該細胞の有糸分裂能及び/又は網膜多能性の維持を検証することができる。この目的には当該分野において公知の任意の技法、例えば定量的RT-PCR及びイムノアッセイを用いることができる。好ましくは、工程(ii)で得られる細胞の網膜多能性は、神経性マーカーASCL1及び少なくとも1つの網膜アイデンティティーマーカー(例えば、RAX、PAX6、VSX2、SIX3又はLHX2(最初の2つが好ましい))の共発現を検出することにより確証することができる。
有利には、工程(ii)後、培養物中の少なくとも60%、70%、80%又は90%の細胞が多能性であり、及び/又はRAX、PAX6、VSX2、SIX3、LHX2若しくはASCL1の1つ、2つ、3つ若しくは全てを発現する。増殖能の維持は、Ki67マーカーの発現を検出することにより検証してもよい。
【0039】
好ましくは、本発明に関して、工程(ii)から得られる細胞は、培養物中の少なくとも60%、70%、80%又は90%の細胞がKi67マーカーを発現するとき、有糸分裂能を保持しているとみなす。
好ましくは、本発明に関して、工程(ii)から得られる細胞は、細胞集団における光受容体マーカーCRX及び/又は網膜アイデンティティーマーカーVSX2の(mRNAレベルに対する)発現レベルが(拡大される前の)ヒト網膜始原細胞の初期集団におけるCRX及び/又は網膜アイデンティティーマーカーVSX2の発現レベルに類似するとき、網膜多能性を保持しているとみなす。
【0040】
本発明に関して、光受容体マーカーCRXの発現レベルは、ヒト網膜始原細胞の初期集団における光受容体マーカーCRXの発現レベルに対する工程(ii)から得られる細胞における光受容体マーカーCRXの発現レベルの比が1.6〜0.6、好ましくは1〜0.6であるとき、類似であるとみなす。本発明に関して、光受容体マーカーVSX2の発現レベルは、ヒト網膜始原細胞の初期集団における光受容体マーカーVSX2の発現レベルに対する工程(ii)から得られる細胞における光受容体マーカーVSX2の発現レベルの比が1〜8、好ましくは1〜6であるとき、類似であるとみなす。
有利には、当業者は、工程(ii)の終時を、培養細胞が光受容体マーカーCRXを、(拡大前の)ヒト網膜始原細胞に対して1〜少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5若しくは0.6の倍数変化で及び/又は網膜アイデンティティーマーカーVSX2を、(拡大前の)ヒト網膜始原細胞に対して1以上で最大限1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5の倍数変化で発現する時として規定するように選択することができる。
【0041】
有利には、本発明の方法の工程(ii)から得られるか又は本発明の使用における網膜始原細胞は、網膜アイデンティティーマーカー、例えばVSX2を、拡大前の網膜始原細胞又は培養物に対して最大限1.0、1.1、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.2、2.5、2.7、3、3.3、3.5、3.7、4、5、6又は8の倍数変化で発現する。工程(ii)から得られる網膜始原細胞は、網膜マーカー、例えばVSX2を、拡大前の網膜始原細胞又は培養物に対して1〜8、1〜7、1〜6、1〜5、1〜4、1〜3又は1〜2の倍数変化で発現することができる。
有利には、本発明の方法又は使用により得られる網膜始原細胞は、光受容体マーカー、例えばCRXを、拡大前の網膜始原細胞又は培養物に対して1以下で少なくとも0.99、0.97、0.98、0.97、0.96、0.95、0.94、0.93、0.92、0.91、0.90、0.87、0.85、0.82、0.8、0.6の倍数変化で発現する。拡大された網膜始原細胞は、光受容体マーカー、例えばCRXを、好ましくは拡大前の網膜始原細胞又は培養物に対して、1〜0.5の倍数変化で発現することができる。
【0042】
別の1つの観点によれば、本発明は、光受容体又はその前駆体を取得する方法に関し、ここで、該方法は、
(i)ヒト網膜始原細胞の培養物を本発明の規定された細胞培養培地中に置く工程;
(ii)該細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養する工程;及び
(iiiPR)工程(ii)から得られる細胞を、DAPTを更に含んでいてもよい前神経培地中で培養する工程
を含んでなる。
【0043】
この実施形態において、前神経培地は、好ましくは、栄養培地(例えばDMEM-F12)中のBSA、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ビオチン、l-カルニチン、コルチゾン若しくはヒドロコルチゾン、エタノールアミン、d(+)ガラクトース、グルタチオン(還元型)、リノレン酸、リノール酸、酢酸レチニル、セレン、T3(トリヨード-1-サイロニン)、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの混合物からなる前神経サプリメントを含むか又は該前神経サプリメンから本質的になる。より好ましくは、前神経サプリメントの体積は、前神経培地の最終体積の2%である。有利には、細胞は、工程(iiiPR)に、少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日日間維持される。好ましい1つの実施形態において、前神経培地にはDAPTが補充される。DAPT(CAS番号208255-80-5)は、γ-セクレターゼインヒビターであり、Notchの間接的なインヒビターである。光受容体又はその前駆体は、CRX及びRECOVERINを顕著に共発現する細胞である。この特徴付けは、任意の公知の技法、例えばqRT-PCR又は免疫染色により行うことができる。
【0044】
別の1つの観点によれば、本発明は、網膜神経節細胞を取得する方法に関し、ここで、該方法は、
(i)ヒト網膜始原細胞の培養物を本発明の規定された細胞培養培地中に置く工程;
(ii)該細胞を前記規定された細胞培養培地中で培養する工程;及び
(iiiRG)工程(ii)から得られる細胞を前神経培地中で培養する工程;
(ivRG)工程(iiiRG)で得られる細胞を、DAPTを更に含んでいてもよい前神経培地中で培養する工程
を含んでなる。
【0045】
本発明者らは、DAPTを補充した前神経培地中での培養前に、工程(iiiRG)において前神経培地中で網膜始原細胞を数日間培養することが網膜神経節細胞の作製に好ましいことを示した(実施例1.2及び図9)。有利には、細胞は、工程(iiiRG)に少なくとも1日間、好ましくは少なくとも3日間維持する。有利には、細胞は、工程(ivRG)に少なくとも3日間、好ましくは少なくとも7日間維持する。この実施形態において、前神経培地は、好ましくは、栄養培地(例えばDMEM-F12)中のBSA、トランスフェリン、インスリン、プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸ナトリウム、ビオチン、l-カルニチン、コルチゾン若しくはヒドロコルチゾン、エタノールアミン、d(+)ガラクトース、グルタチオン(還元型)、リノレン酸、リノール酸、酢酸レチニル、セレン、T3(トリヨード-1-サイロニン)、dl-α-トコフェロール(ビタミンE)、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼの混合物からなる前神経サプリメントを含んでなるか又は該前神経サプリメントから本質的になる。より好ましくは、前神経サプリメントの体積は、前神経培地の最終体積の2%である。有利には、細胞は、工程(iiiPR)に少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間維持する。網膜神経節細胞は、BRN3Aを顕著に発現する細胞である。この特徴付けは、任意の公知の技法、例えばqRT-PCR又は免疫染色により行うことができる。
有利には、上記培養方法(ヒト網膜始原細胞、光受容体前駆体又は網膜神経節細胞を取得する方法を含む)は全て接着培養であり、フィーダーフリー条件下で行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】qRT-PCRによるヒトiPSC由来網膜オルガノイドにおけるRPCの同定。(A,B)網膜オルガノイドにおける網膜始原細胞マーカーRAX、VSX2、SOX2、PAX6、ASCL1及びCRXの発現の評価。網膜始原細胞特異的マーカーの発現は42日目に観察した。
【図2】イムノアッセイによるヒトiPSC由来網膜オルガノイドにおけるRPCの同定。(A,B)RPC集団は、42日目に、PAX6及びASCL1(A)並びにASCL1及びVSX2(B)を共発現する細胞によりロゼット状に明確に同定することができる。(C)RPCの有糸分裂能は、VSX2+細胞におけるKi67の発現により確証された。
【図3】D3及びD10のhiRPCの明視野顕微鏡写真。42日齢の解離オルガノイドからの網膜細胞の、ProB27培地(A及びD)、K培地(B及びE)又はK+培地(C及びF)における培養。K培地及びK+培地は、ProB27におけるコントロール条件と比較して増殖を維持した。スケールバー = 100μm。
【図4】継代0の接着性hiRPCの増殖に対するK培地及びK+培地の効果。解離後10日目で、K培地及びK+培地は細胞数をProB27におけるコントロール条件(C)と比較してそれぞれ2倍及び3倍増加させる。(**p<0.005、***p<0.0005)
【図5】6日目のhiRPCp1及びhiRPCp2の明視野顕微鏡写真。K培地(A,C)又はK+培地(B,D)におけるhiRPCp1及びhiRPCp2の培養物。始原細胞は、2継代後、増殖を維持した。スケールバー = 100μm。
【図6】継代1のhiRPC増殖に対するK培地及びK+培地の効果。細胞数は、K培地及びK+培地を用いる10日間の培養後に、それぞれ4倍及び7倍となった。
【図7】継代0のhiRPCにおける多能性及び光受容体分化のキー遺伝子の発現プロフィール。RPCキー遺伝子、例えばRAX、PAX6、VSX2、SIX6、SOX2の発現は、K及びK+培養条件でコントロールと比較して高い。(A)培養条件を示す概略図。(B)解離後1日目及び10日目でのRPCアイデンティティーの維持及び増強。(C)10日目での、ProB27(コントロール、c)に対するK及びK+培地条件での培養におけるhiRPCp0中のCRX発現。CRXはK及びK+培地において、コントロールと比較して低レベルに維持される。このことは分化におけるhiRPCの非関与を示す。(D)ProB27(コントロール、c)、K又はK+培養条件におけるhiRPCp0中のCRX及びVSX2のqRT-PCR発現プロフィール(1日目の発現に対して規格化)
【図8】PAX6、RAX、ASCL1、VSX2、LHX2及びKi67についてのD10のhiRPCp0の免疫蛍光染色。拡大hiRPCにおける多能性維持は、K及びK+培養条件(E,F,J及びI)の両方において神経性マーカーASCL1並びに網膜始原細胞マーカーPAX6及びVSX2の共発現により確証される。網膜アイデンティティーの保持はRAX及びLHX2の発現により確証され(G,H,K及びL)、増殖能はKi67マーカーの発現により示される(H,L)。スケールバー = 100μm。
【図9】K+培地中で拡大されたhiRPCの2継代後の分化能。(A)2継代の間K+培地中でRPCを増幅させた後、ProB27培地(コントロール)中で自発分化、光受容体傾倒を加速するためのNotchインヒビターDAPTを用いる初期強制分化(Diff-1)又は後期強制分化(Diff-2)させる培養条件を示す概略図。(B)異なる培養条件における2継代目のhiRPC(hiRPCp2)中でのCRX(光受容体マーカー)及びBRN3A(RGCsマーカー)発現のqRT-PCR分析(D10)。Diff-2条件はhiRPCの光受容体前駆体への分化に好ましい一方、コントロール条件はhiRPCのRGCへの分化に好ましい。(C)コントロール(ProB27培地)、K+及びDiff-2培養条件におけるD10でのCRXのqRT-PCR発現プロフィール。(D)D10の分化hiRPCp2についての免疫組織化学。光受容体前駆体はCRX及びRECOVERIN(RCVRN)の共発現により同定することができ、RGCはBRN3Aの発現により同定することができる。スケールバー = 100μm。
【図10】網膜オルガノイドを作製しD42のオルガノイドからRPCを選択する種々の工程を示す図。
【図11】E6+S5培地を用いる培養における1日後又は8日後のRPCp0中の特異的RPC遺伝子のqRT-PCR分析。結果はD28のオルガノイドに対して規格化されている。
【図12】E6+S5培地における、D28又はD42のオルガノイド中及びD1又はD8の拡大RPCp0中のCRX発現のqRT-PCR分析。
【図13】E6+S5培地又は分化培地ProB27における7日間の培養後のRPCp0の免疫化学分析。mCherry染色はCRXの発現を表す([16]に既に記載された蛍光レポーター細胞株の使用)。スケールバー:100μm。
【図14】E6+S5中で培養したD7のRPCp0及びp2中のRAX、PAX6、VSX2、SIX6、SOX2、ASCL1及びCRXのqRT-PCR分析。結果はRPCp0に対して規格化した。
【図15】E6+S5培地において培養したRPCp0及びp2におけるVSX2、Ki67、mCherryの免疫染色分析。
【図16】RPCp1を増幅し凍結保存する工程を示す図。
【図17】7、14又は21日間の培養の間に、E6又はE6+S5培地において培養したRPCp2の増幅倍数。
【図18】E6又はE6+S5培地において培養したRPCp2中のCCND1の発現。
【図19】E6+S5培地を用いる7又は14日間の培養後のRPCp2特異的遺伝子の発現。結果はD28の網膜オルガノイドに対して規格化した。
【図20】7、14又は21日間の培養後の光受容体前駆体における遺伝子CRXの発現。結果は条件E6+S5のD7に対して規格化した。
【図21】種々の継代での増幅後のRPC特徴決定。(A)継代数の決定に用いた方法を示す概略図。(B)各継代の終時に得られた細胞数を示す細胞増殖ヒストグラム。RPCp2*:凍結RPCp1から解凍し播種したRPC。(平均 SD、n=3)。(C)D7のRPC中のRPC遺伝子及び網膜始原細胞マーカーのqRT-PCR分析。データはD28の網膜オルガノイドからのRPCに対して規格化した。
【図22】E6+S5培地における17日後のRPC中のVSX2及びPAX6転写因子の免疫染色。DAPI(核)、mCherry(CRX)。スケールバー:30μm。
【図23】E6培地又はE6+S5培地における10日後のRPCの自発分化。(A)RPCの自発分化を概説する概略図。各継代についてこの手順を行った。(B)BRN3A及びmCherry(CRX)についての、D17の分化RPCの免疫組織化学分析。スケールバー:30μm。
【実施例】
【0047】
実施例
実施例1:ヒト多能性幹細胞に由来する網膜始原細胞の効率的増幅のための培養法
1.1 材料及び方法
hiPSC由来網膜オルガノイドの作製
ヒトiPSCの分化はReichmanら,2017[2]に基づいた。簡潔には、ヒトiPSCを、rhVTN-N(Thermo Fisher Scientific)で被覆した6-cm径ディッシュにおいてEssential 8TM培地中で70〜80%コンフルーエンスまで拡大した。この時点(0日目(D0)と定義)で、hiPSCを化学的に規定されたEssential 6TM培地(Thermo Fisher Scientific)中で培養した。2日後(D2)、培地を、Essential 6TM培地、1% CTSTM(Cell Therapy Systems)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、10単位/mlペニシリン及び10μg/mlストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)から構成されるE6N2培地に切り換えた。培地は2〜3日ごとに交換した。D28に、同定された自己形成網膜オルガノイドを、ニードルを用いて単離し、6ウェルプレート(8〜12オルガノイド/ウェル)において浮遊構造体として、10ng/mlの動物フリー組換えヒトFGF2(Peprotech)を補充したProB27培地中で培養した。ProB27培地は、化学的に規定されたDMEM:栄養物混合物F-12(DMEM/F12、1:1、L-グルタミン)、1% MEM非必須アミノ酸、2% B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、10単位/mlペニシリン及び10μg/mlストレプトマイシンから構成される。D35に、FGF2を除去し、その後数週間「ProB27培地」の半分を2〜3日ごとに交換した。
【0048】
hiPSC由来網膜始原細胞の単離及び培養
網膜オルガノイドを浮遊条件でProB27培地中で培養し、Reichmanら,2017[2]に記載されるようにパパイン法を用いて解離させた。簡潔には、浮遊網膜オルガノイドをD42に採集した。実態顕微鏡下で当該構造体から遠位の色素沈着RPEを除去し、網膜構造体をリンゲル液(NaCl 155mM;KCl 5mM;CaCl2 2mM;MgCl2 1mM;NaH2PO4 2mM;HEPES 10mM及びグルコース 10mM)中で3回洗浄した。RPEフリー網膜オルガノイドを、リンゲル液中で2単位の予備活性化したパパイン(Worthington)(28.7単位/mg)を用いて37℃にて25分間解離させた。ピペッティングにより細胞が均質に懸濁したとき、1mlのProB27培地を添加してパパインを不活化させた。細胞を遠心分離し、予め温めたhiRPC増幅培地であるK及びK+培地中に再懸濁させた。K培地は、CHIR99021を3μM、パルモルファミンを1μm及びATPを100μm含有するProB27培地から構成される。K+培地は、FGF2を10ng/ml及びEGFを100ng/ml含有するK培地である。約140の構造体を、Geltrex(登録商標)hESC-qualified Ready-To-Use Reduced Growth Factor Basement Membrane Matrix(Thermo Fisher Scientific)を予め被覆した1つのT-25cm2ディッシュにプレートした。解離細胞を標準的な5% CO2/95%エアーインキュベーター中37℃でインキュベートし、その後5日間2日ごとに培地を交換した後、免疫染色した。80%コンフルーエンス時に、TrypLE express(Thermo Fisher Scientific)を用いて接着性hiRPCを継代し、50 000細胞/cm2で播種した。
【0049】
RNA抽出及びTaqmanアッセイ
Nucleospin RNA IIキット(Macherey-Nagel)を製造業者のプロトコルに従って用いてトータルRNAを抽出し、NanoDropスペクトロフォトメーター(Thermo Fisher Scientific)でRNA収量及び質を検証した。QuantiTect逆転写キット(Qiagen)を製造業者の推奨に従って用いてcDNAを250ngのmRNAから合成した。次いで、合成したcDNAをDNaseフリー水中1/20に希釈した後、定量的PCRを行った。qPCR分析は、Applied BiosystemsリアルタイムPCR装置(7500 Fast System)においてカスタムTaqMan(登録商標)Array 96-Well Fastプレート及びTaqMan(登録商標)Gene Expression Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を製造業者の指示に従って用いて行った。Reichmanら,2017[2],ASCL1(アッセイID Hs04187546_g1)に記載のように、増幅のための全てのプライマー及びFAM標識MGBプローブは、Thermo Fischer Scientificから購入した。結果は18Sに対して規格化し、遺伝子発現の定量はDeltaCt法に基づいた。
【0050】
接着性網膜始原細胞での免疫染色及びイメージング
増幅又は分化した網膜細胞をPBS中4% PAFで5分間固定した後、免疫染色した。[2]に記載したように、PBSでの洗浄後、非特異結合部位を、0.2%ゼラチン及び0.25% Triton X-100を含むPBS溶液(ブロッキング緩衝液)で室温にて1時間ブロックした後、ブロッキング緩衝液に希釈した一次抗体と4℃にて一晩インキュベートした。細胞を、0.1% Tween含有PBS中で3回洗浄した後、AlexaFluor 488、594又は647(Interchim)を接合させた適切な二次抗体(ブロッキング緩衝液中1:600に希釈)と室温にて1時間インキュベートし、1:1000に希釈した4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を用いて核を対比染色した。蛍光染色シグナルを、405、488、543及び633nmレーザを備えたOlympus FV1000共焦点顕微鏡で捕捉した。1.55又は0.46μmステップサイズを用いて共焦点画像を取得し、10〜30の光学的切片の投影に対応させた。
【0051】
1.2 結果
網膜オルガノイド中の網膜始原細胞のプロフィール
ProB27培地中での浮遊培養の間、オルガノイド中の網膜細胞は、特異的転写因子、例えば始原細胞アイデンティティーを示すRAX[6]、VSX2[7]、SOX2[8]、SIX6[9]、LHX2[10]及びPAX6[11]又は神経性コンピテンスを反映するASCL1及びVSX2[12]を発現する。この培養条件で、本発明者らは、42日目(D42)でのこれら特異的マーカーの発現をqRT-PCRにより観察した(図1A及び1B)。
更に、免疫組織化学により、RPC集団は、PAX6及びASCL1の共発現(図2AC)並びにASCL1及びVSX2の共発現(図2B)によってロゼッタにおいて明確に同定することができる。RPCの有糸分裂能は、ロゼッタにおいて、VSX2陽性細胞によるKi67発現によって確証された(図2C)。よって、D42を、hiPSC由来RPC(hiRPC)を網膜オルガノイドから単離する時点として選択した。
【0052】
網膜オルガノイドからのヒトhiRPCの単離及び培養
D42に、オルガノイドを、パパインを用いて解離させた。解離細胞をGeltrex被覆ディッシュにプレートした。Geltrex hESC-qualified matrixを、幹細胞培養物の多能性を支持する能力について選択した。
網膜細胞を、2つの別個のhiRPC増幅培地であるK及びK+培地中で培養した。これら培地は、hiRPCの増殖特性及び多能性の両方を維持するように設計された。
K培地(図3B及び3E)又はK+培地(図3C及び3F)中の解離網膜細胞(42日齢のオルガノイドに由来)の培養物は、ProB27培地単独におけるコントロール条件と比較して増殖を維持した(図3A及び2D)。解離後D10で、K及びK+培地により、細胞数がそれぞれ2倍又は3倍に増加する(図4)。最初の継代から、細胞数は、10日目に、K培地で4倍又はK+培地で8倍となり得る(図6)。hiRPCを継代2まで培養したが(図5)、網膜分化能を維持した(図9)。
【0053】
hiRPCにおける網膜アイデンティティー及び多能性マーカーの分析
全ての多能性細胞は有糸分裂性であるが全ての有糸分裂性細胞は必ずしも多能性ではないので[13-15]、拡大hiRPCにおける多能性マーカーの分析を行った。qRT-PCRにより、本発明者らは、RPCキー遺伝子、例えばRAX、PAX6、VSX2、SIX6、SOX2の発現は、K及びK+培養条件において、コントロールと比較して高いことを示した。このRPCアイデンティティー強化は、qRT-PCRにより、解離後D1程度の早期にも観察され、D10に更に顕著になった(図7A及び7B)。このことは、免疫組織化学により確証される(図8)。図において、多能性は、同一細胞内での特異的転写因子の共発現により同定することができる。よって、本発明者らは、拡大hiRPCが、K及びK+培養条件の両方で、神経性マーカーASCL1及びRPCマーカーPAX6及びVSX2を共発現し(図8E、F、J及びI)、RAX及びLHX2(図8G、8H、8K及び8L)及び増殖マーカーKi67(図8H及び8L)の発現による網膜アイデンティティーを保持することを示した。
更に、D10で、転写因子CRX(最も早くに知られた光受容体マーカーの1つ)の発現は、K及びK+培地中で、コントロール条件と比較して低いレベルに維持される(図7C)。興味深いことに、K又はK+条件で培養された単離RPCは、D1とD10との間で、VSX2の発現をそれぞれ維持又は増強する一方、CRX発現を減弱させる(図7D)。
【0054】
分化能
本発明者らは、K+培地中で2継代後に拡大させたhiRPC(hiRPCp2)の網膜ニューロンに分化する能力を試験した。3つの異なる培養条件を試験した:1- ProB27培地(コントロール条件)における自発分化によるもの;2- K+培地条件の直後のD3で、以前[1]に記載したように光受容体傾倒を加速するためにDAPT(Notch経路インヒビター)を補充したProB27培地を用いる「初期強制」分化によるもの(Diff 1);及び3- D3でDAPTを補充したProB27培地を用いる「後期強制」分化によるもの(図9A及び9B)。qRT-PCRにより、本発明者らは、分化hiRPCp2が、コントロール(ProB27培地)及び「Diff 2」培養条件での10日間の培養後に光受容体前駆体マーカーCRXを発現可能である一方、CRX発現はK+培養条件で低レベルに維持されることを示した(図9C)。顕著なことには、分化hiRPCはまた、3つの分化条件で、RGCマーカーBRN3Aを発現可能であるが、自発分化を可能にするコントロール条件でよりにおいてより顕著である。本発明者らは、分化網膜細胞におけるこれらマーカーの発現を免疫組織化学により確証した(図9D)。コントロール及び「Diff 2」条件で、光受容体前駆体は、CRX及びRECOVERIN(RCVRN)の共発現により、RGCはBRN3A発現により同定することができる。
【0055】
考察
本発明者らは、本明細書において、多能性を維持しつつ接着性hiRPCを増幅することが可能であることを初めて記載した。よって、この新たな培養システムを用いれば、ヒトiPS細胞の30cm2培養物(3つの6cm2ディッシュに相当)は8週間で1000cm2のhiRPCになり、これは、300百万以上の多能性網膜細胞(継代2)に相当し、細胞のバンク化に用いられ又は下流での使用に用いられる。この革新的なアプローチにより、研究目的及び細胞療法のような治療目的の使用又は視力の維持及び回復のための新たな治療法についての高スループット薬剤スクリーニングのためのhiRPCの自動化された大量生産が可能となる。
【0056】
実施例2:ヒト多能性幹細胞に由来する網膜始原細胞の効率的増幅のための代替培養法
2.1 材料及び方法
hiPSC由来網膜オルガノイドの作製
ヒトiPSC由来網膜オルガノイドを実施例1と同じプロトコルに従って作製する。

網膜オルガノイドの解離、単離及び培養
網膜オルガノイドをD42に解離させる。この目的のため、オルガノイドを採集し、リンゲル液(NaCl 155mM;KCl 5mM;CaCl2 2mM;MgCl2 1mM;NaH2PO4 2mM;HEPES 10mM及びグルコース 10mM)中で3回洗浄した。網膜オルガノイドを、活性化溶液(1.1mM EDTA,0.067mMメルカプトエタノール及び5.5mMシステイン-HCl)中で予備活性化させた4単位のパパイン(43.2 mgP/ml)(STEMCELL TM Technologies)で30分間37℃にて解離させた。ピペッティングにより細胞が均質に懸濁したとき、25分間のインキュベーション後、25μlのDNAsesを加えた。オルガノイドが完全に解離されたとき、7mlのProB27培地を添加してパパインを不活化させた。細胞を3分間120gで遠心分離し、E6+S5培地中に再懸濁させた(図10)。
【0057】
継代0のRPC(RPCp0)をD42の網膜オルガノイドの解離後に取得した。これら細胞を、Geltrex(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)予め被覆した24ウェルプレート中又はT-25cm2ディッシュ中で培養した。解離後の網膜細胞の播種は、3×105細胞/cm2の密度で行った。7日間の培養後、継代を行った。この目的のため、2mlのTripLE(Thermo fisher scientific)を、T-25cm2ディッシュ中で培養した細胞に6分間室温にて適用した。4mLのProB27培地を添加して反応を停止させた。この工程後、細胞を計数した。RPCp0からp1への継代を5×105細胞/cm2の密度で行い、Geltrex(登録商標)で予め被覆したT-25cm2ディッシュに播種した。T-25cm2ディッシュに含まれるRPCp1を、E6+S5培地中で7日間培養した。環境を2日ごとに交換した。D7で、上記のように、TripLEを用いてRPCp1を継代させて、網膜始原細胞(継代2)(RPCp2)を取得した。RPCp2を、Geltrex(登録商標)で予め被覆したT-25cm2ディッシュ又は24ウェルプレートに播種した。
【0058】
RNA抽出及びqRT-PCR
実施例1と同じプロトコルに従って、トータルRNAを抽出し、cDNAを合成した。

免疫染色及びイメージング
増殖した細胞をパラホルムアルデヒド(PFA)で4℃にて10分間固定した後、PBS中で4回洗浄した。非特異結合部位を、0.2%ゼラチン及び0.25% Triton X-100を含むPBS溶液(ブロッキング緩衝液)で室温にて1時間ブロックした後、ブロッキング緩衝液に希釈した一次抗体(表4)と室温にて1時間又は4℃にて一晩インキュベートした。細胞を、0.1% Tween含有PBS中で4回洗浄した後、AlexaFluor 488、594又は647(ThermoFisher Scientific)を接合させた適切な二次抗体(ブロッキング緩衝液中1:500に希釈)と室温にて1時間インキュベートした。赤色は導入遺伝子CrxP-mCherryの発現に起因することに留意されたい。細胞を0.1% Tween含有PBS中で2回洗浄した後、0.1% Tween含有PBSで1:1000に希釈したDAPI中でインキュベートした。最後に、カバースリップをPBS 1×中でリンスした後、fluoromount-G(Southern biotech)のスライド上に置いた。蛍光染色シグナルを、488、559及び647nmレーザを備えたOlympus FV1000共焦点顕微鏡で捕捉した。
【0059】
【表4】
【0060】
2.2 結果
網膜オルガノイドの多能性維持の分析
RPC特異的遺伝子の発現は、RPCp0の拡大の間、安定であった(図11)。
D42のオルガノイドは、D28の構造体より高いCRXを発現する(図12)。にもかかわらず、解離後、RPCp0におけるCRX(光受容体前駆体マーカー)の発現は減少する。このことは、CRXを発現しない多能性細胞の該培養物中での富化を示す(図12)。
当初、D42のオルガノイドにおいて、幾らかの細胞が分化状態に入り、低レベルのCRXを発現する。細胞の解離及びプレート後、1日目(D1)には、低率の細胞しか分化状態にならないが、E6+S5培地中で8日後には、RPCは主要な細胞タイプになる。このことは、CRX発現がD1〜D8の間にRPCp0中で減少した理由を説明する。
【0061】
RPCの選択
D7に、E6+S5を用いて拡大させたRPCp0は、VSX2、PAX6及びASCL1を発現するが、CRXを発現しない(mcherry発現の欠如により示される)。Ki67発現により示されるように、RPCp0は有糸分裂状態にあった。しかし、ProB27(成熟培地)中で培養した細胞はCRXの発現を示す(図13)。

RPCの増幅
D7に、RPCp2対RPCp0の多能性維持をRT-qPCRにより分析した(図14)。E6+S5培地中での継代の間、RPCp2はRPC特異的遺伝子を発現し、多能性を維持する。CRX発現は基礎レベルに維持される。
これら観察結果は免疫染色分析により確証された(図15)。
【0062】
実施例3:RPC凍結保存
3.1 材料及び方法
RPCを、上記のとおり、hiPSC由来網膜オルガノイドから取得した。D42に、浮遊網膜オルガノイドを解離させ、E6+S5培地中で増幅させた。1週間後、継代1の細胞(RPCp1)をセルバンク用に凍結保存した。本研究に用いる細胞を解凍し、継代2(RPCp2)で、Geltrex(ThermoFisher)で予め被覆したカバーガラスを備えるT-25cm2ディッシュ又は24マルチウェルプレート(Corning Costar)において5×104細胞/cm2にてプレートした。この時点(0日目(D0)と定義する)で、RPCを化学的に規定されたE6+S5培地中で培養する(図16)。
【0063】
3.2 結果
解凍したRPCp2の増殖試験
E6+S5培地を用いると、3週間で、細胞数は25.4倍になった(図17)。E6培地を用いると、細胞はわずか3.2倍となったにすぎない(図17)。
この観察結果は、RPCの細胞サイクルに関与する([17];[18];[19])主要サイクリンCyclin D1(CCND1)の、網膜発生における発現の分析により確証された。Cyclin D1はRPC増殖を維持する([20];[21])。事実、RPCは、E6+S5培地において、CCND1の安定な発現を維持する一方、E6培養条件では、その発現は減少する(図18)。よって、この5分子の組合せは、CCND1発現を通じてRPCの有糸分裂能を維持する。
【0064】
解凍したRPCp2の多能性維持
E6+S5培地中での14日間のRPCp2(凍結保存され解凍されたRPCp1に由来)培養物は、キーRPC遺伝子RAX、PAX6、VSX2、SIX6の発現を維持し、SOX2(幹マーカー)及びASCL1(神経能マーカー)の発現も維持する。更に、E6培地中で培養したRPCにおけるCRX発現分析は、E6を用いると、CRX発現の増加により、多能性細胞が光受容体前駆体方向に傾倒することを明確に示す(図20)。同時に、E6+S5培養条件を用いると、CRXの発現は低レベルに維持される(図20)。
【0065】
実施例4:網膜始原細胞の作製及び継代限界の決定
4.1 材料及び方法
上記のようにRPCをhiPSC由来網膜オルガノイドから取得し、実施例3に記載のように細胞を作製する。

細胞継代
継代数は、各週ごとに連続継代を行って決定した(図21A)。1週間後、RPCp2を継代して、新たな細胞集団RPCp3を得る。同じ手順を後続の全継代に適用する。

RNA抽出及びqRT-PCR
実施例1と同じプロトコルに従ってトータルRNAを抽出し、cDNAを合成した。
【0066】
免疫染色及びイメージング
4%パラホルムアルデヒド(pH7.4)を添加して、増殖細胞を固定し、氷上に10分間放置する。パラホルムアルデヒド溶液を除去し、細胞を500μlのPBSで2回洗浄する。その後、300μlのブロッキング緩衝液(PBS+0,2%ゼラチン+0,25% Triton X-100)を加える。室温での60分間のインキュベーション後、ブロッキング緩衝液を廃棄する。300μlのブロッキング緩衝液中に希釈した所望濃度の一次抗体を各ウェルに加える(表5)。一次抗体溶液を加えないコントロール用に追加のウェルを用いる。室温で1時間のインキュベーション後、一次抗体溶液を除去し、細胞を500μlのPBSで5分間4回洗浄する。その後、所望濃度の蛍光染料標識二次抗体をDAPI又はHoechst(1/1000希釈)を全てのウェルに加える。細胞を、遮光下で室温にて1時間インキュベートする。二次抗体溶液を除去し、細胞を500μlの0.1% Tween含有PBSで5分間3回洗浄し、PBSで5分間2回洗浄する。1滴のSouthern biotech Fluoromount Gをスライド上に置く。ニードル及びピンセットを用いてカバースリップをウェルの底から穏やかに取り除く。ペーパータオル上でタッピングして縁を乾燥させる。その後、カバースリップを、細胞を含む側が接するようにSouthern Biotech Fluoromount Gの液滴の中心に置く。スライド/カバースリップの組立体を室温に放置して乾燥させた後、一時的には4℃で保存する。長期保存には-20℃で保存する。
【0067】
【表5】
【0068】
4.2 結果
結果は、培養し数回継代した細胞が、RPCp7ステージまで、依然として増幅可能であることを示す。1百万個の解凍細胞RPCp2を播種することより、7日間の培養後に4,26百万のRPCp2が得られる(図21B)。
次いで、多能性及び有糸分裂特性がRT-qPCR分析により確証された(図21C)。この図は、RPC特異的遺伝子(RAX、VSX2、SIX6、SOX2、ASCL1、PAX6)及び光受容体前駆体マーカー(CRX)の相対的発現を示す。ステージRPCp2からステージRPCp4まで、RAX、VSX2及びSIX6の発現は安定なままであり、以前に記載したD28のネイティブRPCに匹敵する(図21C)。これら結果は、RPC特異的遺伝子の発現が少なくとも4継代目まで安定であることを示唆する。VSX2又はSIX6のようなRPC特異的遺伝子はp4後に減少するが(図21A)、多能性細胞はp6まで継続して増殖し(図21B)、CRX陽性細胞に分化することができる(図23B)。
【0069】
この発現解析は免疫染色により確証された(図22)。
RPCは多能性状態を示すキー遺伝子を発現するが、本発明者らは、多能性を維持するカクテル分子を含まない培地(E6)中での自発分化によりPR及びRGCに分化する能力を試験した。よって、細胞拡大用E6+S5培地中での7日間後、RPCをE6培地中に10日間移して、E6+S5中で培養し続けた細胞と比較した(図23A)。
免疫染色により、本発明者らは、2継代目〜6継代目のRPCが光受容体前駆体方向(mCherry、CRX)及び網膜神経節細胞方向(BRN3A)に分化可能であることを確証した。興味深いことに、E6+S5中で培養したD17のRPCは分化しなかった(図23B)。
【0070】
参考文献
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【図1】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【国際調査報告】